【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
(実施例1)
約10%塩蔵梅から種を除いて5mm角にダイスカットした。次に、酢酸、酵母エキス、アルコール、色素を含む調味液(pH2.9)を用意した。さらに、調味液に対して、乳酸カルシウムが3%となるように添加した。続いて、ダイスカットした梅100gを、調味液55mlに浸漬し、24時間浸漬を行った。浸漬後、笊にあけ、自然落下で2時間静置して液切りを行った。
得られた梅干し5gをご飯100gと混ぜ合わせ、押し型で三角形状に成型した。成形したおにぎり(105g)を急速凍結機で50分間かけて凍結させ、冷凍おにぎりを得た。
【0023】
(実施例2)
乳酸カルシウム濃度を5%にした以外は、実施例1と同じである。
【0024】
(比較例1)
市販のカリカリ梅を模して梅干しを製造した。調味液は製造メーカーの開示データに基づき調整を行い、乳酸カルシウム濃度は2.1%とした。それ以外については、実施例1と同じである。
【0025】
(実施例3)
クエン酸3ナトリウムを用いて、調味液をpH4.4に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0026】
(実施例4)
クエン酸3ナトリウムを用いて、調味液をpH4.7に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0027】
(実施例5)
クエン酸3ナトリウムを用いて、調味液をpH5.3に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0028】
(比較例2)
市販のカリカリ梅を模して梅干しを製造した。調味液のpHは、製造メーカーの開示データに基づきクエン酸3ナトリウムを用いて調整し、pH3.3とした。それ以外については、実施例1と同じである。
【0029】
(実施例6)
乳酸ナトリウムを用いて、調味液をpH4.0に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0030】
(実施例7)
乳酸ナトリウムを用いて、調味液をpH4.8に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0031】
(実施例8)
乳酸ナトリウムを用いて、調味液をpH5.3に調製してから梅を浸漬させた以外は、実施例1と同じである。
【0032】
(比較例3)
市販のカリカリ梅を模して梅干しを製造した。調味液のpHは、製造メーカーの開示データに基づき乳酸ナトリウムを用いて調整し、pH3.3とした。それ以外については、実施例1と同じである。
【0033】
<圧縮強度試験>
各実施例および比較例にかかるおにぎり3個を、電子レンジで500w、5分30秒加熱した。解凍した各おにぎりから梅干しを回収し、小型卓上試験機(EZ−S)(島津製作所製)を用いて、圧縮強度を測定した。このとき、φ2、円柱押し治具を用いて、降下速度は30mm/minで行った。また、液切り直後の梅干しに付いても圧縮強度を測定した。
【0034】
<官能評価>
各実施例および比較例にかかるおにぎり3個を、電子レンジで500w、5分30秒加熱した。解凍した各おにぎりから梅干しを回収し、得られた梅干しをベテランパネラー5名で喫食し、官能評価を行った。官能評価は、下記評価に従い行った。得られた評価のうち、最も多い評価を当該サンプルの評価とした。
【0035】
<評価>
3:凍結前の梅干しと同じ、歯ごたえがある
2:凍結前の梅干しよりもやや柔らかいが、歯ごたえがある
1:凍結前の梅干しよりも柔らかく、歯ごたえがない
【0036】
圧縮強度試験と官能評価の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、乳酸カルシウムの添加濃度を3.0〜5.0%にすると、加熱調理前後の圧縮強度が、比較例1(乳酸カルシウム添加濃度2.1%)に比べてそれぞれ増加していることがわかる。特に、加熱調理後の圧縮強度においては、比較例1に比べて実施例1では2倍に、実施例2では3倍もの値に増加している。また、加熱調理前後の圧縮強度差は、比較例1に比べて減少していることがわかる。これらの値による効果は、官能評価においても現れている。実施例1,2においては、凍結前の梅干と同じく歯ごたえが確認された。これらの結果は、次のような作用機序によるものと考えられる。上述したように、乳酸カルシウムを添加すると、多価金属イオンであるカルシウムを介してペクチン同士の架橋構造が形成されると考えられる。架橋構造が形成されると、エステル化度が低下し、β離脱が抑制される。その結果、加熱調理をしても梅が軟化せず、歯ごたえが維持される。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、調味液のpHをクエン酸3ナトリウムで弱酸性寄り(pH4.4〜5.3)にすると、加熱調理前後の圧縮強度が、比較例2(pH3.3)に比べてそれぞれ増加していることがわかる。特に、実施例4,5においては、加熱調理後の圧縮強度が比較例2に比べて2倍以上に増加していることがわかる。また、加熱調理前後の圧縮強度差は、比較例2に比べて減少しており、pHが中性に近づくほど圧縮強度差は減少していることが見て取れる。さらに、実施例5では、圧縮強度差が比較例2の約1/4程度まで減少していることがわかる。これらの値による効果は、官能評価においても如実に現れている。実施例3〜5においては、凍結前の梅干と同じく歯ごたえが確認された。これらの結果は、次のような作用機序によるものと考えられる。上述したように、軟化には酸による加水分解が考えられる。しかしながら、調味液のpHを弱酸性寄りにすることにより酸加水分解が抑制され、結果、加熱調理をしても梅が軟化せず、歯ごたえが維持されたものと考えられる。
【0041】
【表3】
【0042】
表3から明らかなように、調味液のpHを乳酸ナトリウムで弱酸性寄り(pH4.0〜5.3)にすると、加熱調理前後の圧縮強度が、比較例3(pH3.3)に比べてそれぞれ増加していることがわかる。特に、実施例7,8においては、加熱調理後の圧縮強度が比較例3に比べて2倍以上に増加していることがわかる。また、加熱調理前後の圧縮強度差は、比較例3に比べて減少しており、pHが中性に近づくほど圧縮強度差は減少していることが見て取れる。さらに、実施例8では、圧縮強度差が比較例3の約1/3程度まで減少していることがわかる。これらの値による効果は、官能評価においても如実に現れている。実施例6〜8においては、凍結前の梅干と同じく歯ごたえが確認された。
以上の結果から、pH調整剤の種類に関わらず、pHによって酸加水分解による軟化を防げることが示唆された。
【0043】
また、表1〜3に示すように、加熱調理前後の圧縮強度差が1.5N/mm
2未満であれば、電子レンジ調理加熱後においても歯ごたえが維持されることが示唆された。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、多価金属イオンでエステル化度を低下させるかpH調整を行うことにより、電子レンジによる加熱調理前の段階でのペクチンのβ離脱や酸による加水分解を極力抑えることができる。これにより、電子レンジ加熱によって促進されるペクチンのβ離脱や酸による加水分解が減るため、結果として電子レンジによる加熱調理後も歯ごたえを維持することができる。そして、従来であれば一旦冷凍してしまうと歯ごたえを失いやすい食材であっても、加熱調理後も歯ごたえを維持することができるという、極めて優れた効果を奏する。
【0045】
なお、上記実施例では500W、5分30秒で加熱した場合を例に説明したが、熱量が同じであればワット数や時間を変更してもよい。また、食材の容量等に応じて、ワット数や時間は当然変更可能である。