特許第6983206号(P6983206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983206
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】基板搬送装置、および、基板搬送方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20211206BHJP
   B25J 9/10 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   H01L21/68 A
   B25J9/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-188732(P2019-188732)
(22)【出願日】2019年10月15日
(65)【公開番号】特開2021-64712(P2021-64712A)
(43)【公開日】2021年4月22日
【審査請求日】2020年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】武者 和博
(72)【発明者】
【氏名】南 展史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 傑之
【審査官】 湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−165439(JP,A)
【文献】 特開2000−223549(JP,A)
【文献】 特開2014−203890(JP,A)
【文献】 特開2014−150227(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/061145(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/104648(WO,A1)
【文献】 特開2014−148040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームと、
前記アームに連結されたエンドエフェクターと、
前記アームを上昇させて前記エンドエフェクターに基板を受け取らせる駆動部と、
前記駆動部の出力を制御して前記アームの上昇速度を設定する制御部と、を備え、
前記エンドエフェクターと前記アームとの高さの差が位置差分であり、
前記エンドエフェクターが前記基板に当たるときから前記エンドエフェクターが前記基板を受け取り終わるまでの期間が過渡期間であり、
前記制御部は、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅を前記過渡期間前よりも前記過渡期間で小さくする前記上昇速度の上限値を、前記過渡期間における上昇速度の上限値とする
基板搬送装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記過渡期間における前記振幅を前記過渡期間前よりも小さくするように、前記過渡期間における上昇速度を前記過渡期間前から低める
請求項1に記載の基板搬送装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅が前記過渡期間よりも前記過渡期間後で大きくなるように、前記上限値以下のなかから、前記過渡期間における上昇速度を設定する
請求項1または2に記載の基板搬送装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記過渡期間後での前記振幅を前記過渡期間よりも大きくするように、前記過渡期間後での上昇速度を前記過渡期間後から高める
請求項1から3のいずれか一項に記載の基板搬送装置。
【請求項5】
前記振幅を検出する第1振幅検出部を備え、
前記制御部は、互いに異なる前記上昇速度で前記エンドエフェクターの上昇を繰り返し、前記第1振幅検出部の検出結果が前記過渡期間で小さくなる上昇速度を前記上限値とする教示処理を行う
請求項1から4のいずれか一項に記載の基板搬送装置。
【請求項6】
前記振幅を検出する第2振幅検出部を備え、
前記制御部は、互いに異なる前記上昇速度で前記エンドエフェクターの上昇を繰り返し、前記第2振幅検出部の検出結果が前記過渡期間よりも前記過渡期間後で大きくなる前記上限値以下の上昇速度を前記過渡期間における上昇速度とする教示処理を行う
請求項1から5のいずれか一項に記載の基板搬送装置。
【請求項7】
エンドエフェクターに連結されたアームの上昇速度を設定すること、および、
設定された上昇速度で前記アームを上昇させることによって前記エンドエフェクターを基板に向けて上昇させて、前記エンドエフェクターに前記基板を受け取らせること、を含み、
前記エンドエフェクターと前記アームとの高さの差が位置差分であり、
前記エンドエフェクターが前記基板に当たるときから前記エンドエフェクターが前記基板を受け取り終わるまでの期間が過渡期間であり、
前記上昇速度を設定することでは、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅を前記過渡期間前よりも前記過渡期間で小さくする前記上昇速度の上限値を、前記過渡期間における上昇速度の上限値とする
基板搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板搬送装置、および、基板搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や発光素子などの各種のデバイスを製造する装置は、素子を形成するための基板を搬送する基板搬送装置を搭載する。基板搬送装置は、アームに支持されたエンドエフェクターを備える。エンドエフェクターは、アームの上昇と共に上昇して、載置台などに載置された基板を載置台から受け取る。エンドエフェクターは、アームの下降と共に下降して、エンドエフェクターに載置された基板を載置台に受け渡す。基板搬送装置は、基板の載置状態を光学的に検出する検出部を備える。アームの駆動を制御する制御部は、検出部の検出した結果に基づいて、後続の処理を実行する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−119070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンドエフェクターの移動速度を高めることは、搬送に要する時間を短縮できる一方で、搬送途中での基板の位置を不安定にしてしまう。反対に、エンドエフェクターの移動速度を低めることは、搬送途中での基板の位置を安定させられる一方で、搬送に要する時間の長期化を招来させてしまう。そのため、上述した基板搬送装置では、好適な基板の位置精度と、好適な基板の搬送効率とを実現するうえで、より適切な搬送速度で基板を搬送することが望まれている。特に、エンドエフェクターが基板に当たるときからエンドエフェクターが基板を受け取り終わるまでの期間は、基板を支持する構造が載置台からエンドエフェクターに変わる過渡期間である。こうした過渡期間では、エンドエフェクターと基板とが恰も一体となって移動するときと比べて、エンドエフェクターと基板との相対位置のずれが生じやすく、より適切な搬送速度を得ることが強く望まれている。
本発明の目的は、搬送効率の低下を抑制しつつ、基板の位置精度を向上可能にした基板搬送装置、および、基板搬送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための基板搬送装置は、アームと、前記アームに連結されたエンドエフェクターと、前記アームを上昇させて前記エンドエフェクターに基板を受け取らせる駆動部と、前記駆動部の出力を制御して前記アームの上昇速度を設定する制御部と、を備え、前記エンドエフェクターと前記アームとの高さの差が位置差分であり、前記エンドエフェクターが前記基板に当たるときから前記エンドエフェクターが前記基板を受け取り終わるまでの期間が過渡期間であり、前記制御部は、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅を前記過渡期間前よりも前記過渡期間で小さくする前記上昇速度の上限値を、前記過渡期間における上昇速度の上限値とする。
【0006】
上記課題を解決する基板搬送方法は、エンドエフェクターに連結されたアームの上昇速度を設定すること、および、設定された上昇速度で前記アームを上昇させることによって前記エンドエフェクターを基板に向けて上昇させて、前記エンドエフェクターに前記基板を受け取らせること、を含み、前記エンドエフェクターと前記アームとの高さの差が位置差分であり、前記エンドエフェクターが前記基板に当たるときから前記エンドエフェクターが前記基板を受け取り終わるまでの期間が過渡期間であり、前記上昇速度を設定することでは、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅を前記過渡期間前よりも前記過渡期間で小さくする前記上昇速度の上限値を、前記過渡期間における上昇速度の上限値とする。
【0007】
上昇するエンドエフェクターは、エンドエフェクターとアームとを含む構造体のなかで、固有の微振動を続ける。そして、上昇するエンドエフェクターが基板に当たるとき、基板の重さがエンドエフェクターに作用し、エンドエフェクターの剛性やアームの剛性に応じて、エンドエフェクターやアームが反る。この際、エンドエフェクターの上昇速度が高すぎると、エンドエフェクターなどの反りが大きくなったり、基板の跳ね上がりが大きくなったりして、エンドエフェクターと基板とが大きく離れる。結果として、エンドエフェクターと基板とが複数回にわたり強く当接することを繰り返してしまう。こうした複数回にわたるエンドエフェクターと基板との当接は、基板の位置精度を大きく低下させる要因となる。
【0008】
一方、上述したような、エンドエフェクターなどの反りが大きくなったり、基板の跳ね上がりが大きくなったりしないような上昇速度でエンドエフェクターが基板に当たるとき、基板の重さがエンドエフェクターに作用して、エンドエフェクターでの微振動が一旦収束する。すなわち、エンドエフェクターでの微振動が、アームでの微振動と比べて一旦収束する。こうしたエンドエフェクターでの微振動の抑制は、エンドエフェクターとアームとの高さの差である位置差分の加速度、あるいは、加加速度の抑制として現れる。
【0009】
この点、上記各構成によれば、エンドエフェクターと基板とが当接してからエンドエフェクターが基板を受け取るまでの期間を過渡期間として、過渡期間における位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅が過渡期間前よりも小さくなるように、上昇速度の上限値が定められる。そのため、エンドエフェクターなどの反りが大きくなったり、基板の跳ね上がりが大きくなったりすることが過渡期間では抑えられる。ひいては、エンドエフェクターなどの反りが大きくなったり、基板の跳ね上がりが大きくなったりすることに起因して基板の位置精度が低下してしまうことが抑えられる。
【0010】
結果として、過渡期間における上昇速度を上限値以下の範囲のなかで高めることで基板の搬送効率が低下することを抑えつつ、過渡期間における上昇速度を上限値以下に制限することで基板の位置精度を向上することが可能となる。
【0011】
上記基板搬送装置において、前記制御部は、前記過渡期間における前記振幅を前記過渡期間前よりも小さくするように、前記過渡期間における上昇速度を前記過渡期間前から低めてもよい。
【0012】
上記基板搬送装置によれば、過渡期間における上昇速度を上限値以下に制限しつつも、過渡期間前の上昇速度を過渡期間よりも高めることが可能となる。そのため、搬送効率の低下を抑えることについて、より実効性を高めることが可能ともなる。
【0013】
上記基板搬送装置において、前記制御部は、前記位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅が前記過渡期間よりも前記過渡期間後で大きくなるように、前記上限値以下のなかから、前記過渡期間における上昇速度を設定してもよい。
【0014】
アームによるエンドエフェクターの上昇は、エンドエフェクターを上下方向に微振動させる。エンドエフェクターと基板との当接によって一旦収束した微振動は、エンドエフェクターに対して基板が静止するときに、エンドエフェクタと基板とを振動子とする微振動として再び生じはじめる。すなわち、エンドエフェクターと基板とが恰も一体となって、エンドエフェクターが再び微振動をはじめる。
【0015】
ここで、上記基板搬送装置によれば、位置差分の加速度、および、加加速度のいずれか一方の振幅が、過渡期間よりも過渡期間後で大きくなるように、過渡期間における上昇速度が設定される。そのため、エンドエフェクターに対して基板が静止しないような上昇速度で基板の受け取りが行われることが抑えられる。ひいては、受け取られた基板がエンドエフェクターに対して静止しにくいことに起因して基板の位置精度が低下することが抑えられる。結果として、基板の位置精度を向上させる実効性をさらに高めることが可能となる。
【0016】
上記基板搬送装置において、前記制御部は、前記過渡期間後での前記振幅を前記過渡期間よりも大きくするように、前記過渡期間後での上昇速度を前記過渡期間後から高めてもよい。
【0017】
上記基板搬送装置によれば、過渡期間における上昇速度を上限値以下に制限しつつも、過渡期間後の上昇速度を過渡期間中の上昇速度よりも高めることが可能となる。そのため、搬送効率の低下を抑えることについて、より実効性を高めることが可能ともなる。
【0018】
上記基板搬送装置において、前記振幅を検出する第1振幅検出部を備え、前記制御部は、互いに異なる前記上昇速度で前記エンドエフェクターの上昇を繰り返し、前記第1振幅検出部の検出結果が前記過渡期間で小さくなる上昇速度を前記上限値とする教示処理を行ってもよい。
【0019】
上記基板搬送装置によれば、第1振幅検出部の検出結果に基づいて上昇速度の上限値が定められるため、基板搬送装置の個体差に起因した微振動などのばらつきを上限値に反映させることが可能となる。そのため、上昇速度の上限値を備えることによる位置精度の向上の実効性をさらに高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】基板搬送装置の一実施形態における装置構成を示す構成図。
図2】昇降速度および高さ位置の推移を示すグラフ。
図3】教示処理でのアームおよびエンドエフェクターの位置推移を示すグラフ。
図4】教示処理での位置差分の推移を示すグラフ。
図5】教示処理での位置差分の加加速度推移の一例を示すグラフ。
図6】教示処理での位置差分の加加速度推移の他の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1から図6を参照して、基板搬送装置、および、基板搬送方法の一実施形態を説明する。
【0022】
図1が示すように、基板搬送装置は、アーム11、エンドエフェクター12、エフェクターセンサー13E、アームセンサー13A、駆動部20、および、制御装置30を備える。
【0023】
アーム11は、アーム11を搭載した本体に対して昇降自在、かつ、水平方向に旋回、伸縮自在に支持される。エンドエフェクター12は、搬送対象物である基板Sを載置可能に構成されている。基板Sは、例えば、ステージやフープなどの載置部に載置される。基板搬送装置は、アーム11を下降させることによって、エンドエフェクター12から載置部に基板Sを受け渡す。また、基板搬送装置は、アーム11を上昇させることによって、載置部からエンドエフェクター12に基板Sを受け取らせる。
【0024】
エフェクターセンサー13Eは、エンドエフェクター12の高さ位置を光学的に検出する。エフェクターセンサー13Eは、検出されたエンドエフェクター12の高さ位置を制御装置30に入力する。アームセンサー13Aは、アーム11の高さ位置を光学的に検出する。アームセンサー13Aは、検出されたアームの高さ位置を制御装置30に入力する。
【0025】
制御装置30は、駆動部20の出力制御を通じて、アーム11の昇降や旋回、伸縮を制御する。制御装置30は、予め記憶している教示データに基づいてアーム11の動作を制御する。駆動部20は、制御装置30の指示に従って、アーム11に昇降や旋回、伸縮を行わせて、載置部に載置されている基板Sをエンドエフェクター12に受け取らせたり、エンドエフェクター12に載置されている基板Sを載置部に受け渡したりする。
【0026】
制御装置30は、制御部31、記憶部32、搬送処理部33、および、教示処理部34を備える。制御部31は、例えば、CPU、RAM、ROMなどのコンピュータに用いられるハードウェア要素、および、ソフトウェアによって構成される。制御部31は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。例えば、制御部31は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアである特定用途向け集積回路(ASIC)を備えてもよい。制御部31は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムであるソフトウェアに従って動作する1つ以上のプロセッサであるマイクロコンピュータ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路として構成してもよい。
【0027】
記憶部32は、搬送プログラム、および、教示データを含む各種データを記憶する。制御部31は、記憶部32が記憶する搬送プログラム、および、データを読み出し、搬送プログラムを実行することによって、搬送処理や教示処理などの各種処理を、搬送処理部33や教示処理部34に実行させる。
【0028】
搬送処理部33は、教示データに基づいて、昇降動作や旋回、伸縮動作をアーム11に実行させるための駆動信号を生成して、生成された駆動信号を駆動部20に出力する。昇降動作に用いられる教示データは、アーム11の高さ位置と、アーム11の上昇速度とを対応付ける。
【0029】
図2が示すように、教示データは、アーム11の高さ位置が上昇前の基準位置H0であるときから所定の加速度で上昇速度を第1速度VD1まで高めるための制御パラメーターを含む。また、教示データは、アーム11の高さ位置が第1対象位置H1に到達するときに上昇速度を第2速度VD2まで低めるためのデータを含む。また、教示データは、アーム11の高さ位置が第2対象位置H2に到達するときに上昇速度を第2速度VD2から第1速度VD1に向けて高めるための制御パラメーターを含む。
【0030】
第1対象位置H1は、エンドエフェクター12が基板Sに当たるときのアーム11の高さ位置である。第2対象位置H2は、第1対象位置H1よりも高い位置であって、エンドエフェクター12が基板Sを受け取り終わるときのアーム11の高さ位置である。第2対象位置H2は、例えば、エンドエフェクター12での振動が変わるときのアーム11の高さ位置である。すなわち、第2対象位置H2は、例えば、エンドエフェクター12のみを振動子とする振動から、エンドエフェクター12と基板Sとを振動子とする振動に変わるときのアーム11の高さ位置である。
【0031】
搬送処理部33は、教示データに基づいて駆動部20を駆動し、アーム11の位置が第1対象位置H1に到達するときに、アーム11の上昇速度を第1速度VD1から第2速度VD2に下げる。すなわち、搬送処理部33は、アーム11を第1速度VD1で上昇させることによってエンドエフェクター12を基板Sに向けて上昇させながら、エンドエフェクター12が基板Sに当たるときに、上昇速度を第1速度VD1よりも低い第2速度VD2に変える。
【0032】
搬送処理部33は、教示データに基づいて駆動部20を駆動し、アーム11の位置が第2対象位置H2に到達するときに、上昇速度を第2速度VD2から第1速度VD1に切り替え、速度を高める。例えば、搬送処理部33は、上昇速度を第2速度VD2に変えてから、エンドエフェクター12での振動が変わるときに、上昇速度を第2速度VD2から第1速度VD1に切り替え、速度を高める。
【0033】
教示処理部34は、エンドエフェクター12が基板Sに当たるときのアーム11の高さ位置を第1対象位置H1とする教示を行う。教示処理部34は、例えば、エンドエフェクター12での振動が変わるときのアーム11の高さ位置を第2対象位置H2とする教示を行う。さらに、教示処理部34は、第2速度VD2の上限値を定めるための教示処理を実行する。教示処理は、第1対象位置H1から第2対象位置H2までアーム11が上昇するときのアーム11の上昇速度の上限値、すなわち、第2速度VD2の上限値を教示する処理である。アーム11が第1対象位置H1から第2対象位置H2まで移動する期間は、過渡期間の一例である。
【0034】
教示処理部34は、教示処理において、エンドエフェクター12の高さ位置を検出するエフェクターセンサー13Eと、アーム11の高さ位置を検出するアームセンサー13Aとを用いる。エンドエフェクター12の高さ位置と、アーム11の高さ位置との差は、位置差分である。教示処理部34は、エフェクターセンサー13Eの検出値と、アームセンサー13Aの検出値とを用いて、位置差分を算出する。エフェクターセンサー13Eとアームセンサー13Aは、第1振幅検出部、および、第2振幅検出部の一例である。
【0035】
教示処理部34は、教示処理において、エンドエフェクター12を基板Sに向けて上昇させることを、複数の上昇速度で実行する。教示処理部34は、各上昇速度において、位置差分の加加速度における振幅を、過渡期間Ttの前、過渡期間Tt、および、過渡期間Ttの後の各期間について算出する。
【0036】
図3は、教示処理部34が実行する教示処理でのアーム11の高さ位置とエンドエフェクター12の高さ位置との推移の例を示す。
図3が示すように、教示処理において、教示処理部34がタイミングTE0にアーム11を上昇させると、アーム11と共にエンドエフェクター12が上昇しはじめる。次いで、教示処理部34がアーム11の上昇を続けると、エンドエフェクター12がタイミングTE1に基板Sに当たる。すなわち、過渡期間TtがタイミングTE1にはじまる。この際、基板Sの重さがエンドエフェクター12に作用し、エンドエフェクター12の剛性などに応じて、エンドエフェクター12が反る。この作用は、図3に示すタイミングTE1からタイミングTE2までの区間における高さ位置に現れている。この間、エンドエフェクター12の高さ位置は殆ど上昇せず、アーム11の高さ位置とエンドエフェクター12の高さ位置との間に乖離が生じる。そして、エンドエフェクター12の反りが収まると、過渡期間TtがタイミングTE2に終わり、エンドエフェクター12が再び上昇しはじめる。これは、基板Sの重さが全てエンドエフェクター12に作用した結果であると言える。また、図3における上昇速度は、非常に低速であり、図3には、振幅がほぼ確認されない静的な動特性が示されている。
【0037】
図4は、教示処理部34が実行する教示処理での位置差分の推移の例を示す。タイミングTE1以前は、当初振動波形とも表記し、タイミングTE2以降は、残留振動波形とも表記する。
図4が示すように、教示処理において、教示処理部34がタイミングTE0、あるいはそれ以前にアーム11を上昇させると、エンドエフェクター12とアーム11とを含む構造体のなかで、エンドエフェクター12は、その上昇速度に応じた固有の微振動を続ける。そして、エンドエフェクター12の微振動とアーム11の微振動とは互いに異なるため、位置差分もまた、微振動として観察される(当初振動波形)。すなわち、過渡期間Ttの前での位置差分は、微振動を続ける。
【0038】
次いで、教示処理部34がタイミングTE1までアーム11を上昇させると、エンドエフェクター12が基板Sに当たり、基板Sの重さがエンドエフェクター12に作用しはじめる。この基板Sの重さは、図4の位置差分において、オフセットされる表現で認識される。言い換えれば、過渡期間Ttの前後での位置差分におけるオフセット量として、基板Sの重さに起因するエンドエフェクター12のコンプライアンスが認識される。このオフセットが生じる際、エンドエフェクター12の上昇速度が高すぎると、基板Sのイナーシャが起因となりエンドエフェクター12の反りが大きくなったり、エンドエフェクター12に蓄えられた弾性エネルギーが起因となり基板Sの跳ね上がりが大きくなったりして、エンドエフェクター12と基板Sとが大きく離れる。そして、エンドエフェクター12と基板Sとが複数回にわたり強く当接することを繰り返す。この当接は、主にエンドエフェクター12に対して衝撃として入力され、また後述するような振幅として観察される。つまり、複数の上昇速度のなかで、衝撃が観察されない範囲での上限値を採用することが好ましいと言える。
【0039】
これに対して、エンドエフェクター12の反りが大きくなったり、基板Sの跳ね上がりが大きくなったりしないような上昇速度でエンドエフェクター12が基板Sに当たるとき、基板Sの重さは衝撃とはなりえない入力としてエンドエフェクター12に作用すると共に、エンドエフェクター12での微振動が一旦収束する状況が観察される。この収束は、基板Sを介して載置部にエンドエフェクター12が接続され、それにより、エンドエフェクター12の先端部が自由端から固定端へと変化した結果であると言える。つまり、振動しにくいモデル構成へと変化した結果、すなわち、減衰しやすい構成へと変化した結果であると言える。
すなわち、タイミングTE1からタイミングTE2までの過渡期間Ttでは、アーム11の上昇速度に応じて位置差分の振動が異なる。アーム11の上昇速度が高い場合、位置差分の振動は大きくなる一方で、アーム11の上昇速度が低い場合、位置差分の振動が一旦収束する傾向が観察される。つまり、複数の上昇速度のなかで、収束傾向となる速度範囲の上限値を採用することが好ましいと言える。
【0040】
次いで、教示処理部34がタイミングTE2までアーム11を上昇させると、エンドエフェクター12に対して基板Sが静止し、エンドエフェクター12と基板Sとを振動子とする微振動をエンドエフェクター12が再び生じはじめる。すなわち、エンドエフェクター12と基板Sとが恰も一体となって、エンドエフェクター12が再びその上昇速度に応じた微振動をはじめる。位置差分もまた、微振動として観察される(残留振動波形)。すなわち、過渡期間Ttの後での位置差分は、微振動を続ける。なお、当初振動波形、および、残留振動波形における振幅は、搬送工程において支障が生じない範囲に収めることが必要となるため、上昇速度は、この範囲を実現できる速度とする。好ましい形態として、その範囲が実現できる上限近傍の速度を設定すればよい。
【0041】
図5は、教示処理部34が実行する教示処理での位置差分の加加速度の推移であって、上昇速度が低い例であり適切な状態である例を示す。図6は、教示処理部34が実行する教示処理での位置差分の加加速度の推移であって、上昇速度が高い例であり不適切な状態である例を示す。
【0042】
図5が示すように、互いに異なる上昇速度のなかで、適切な上昇速度の例では、位置差分の加加速度における振幅PWは、過渡期間Ttの前後よりも過渡期間Ttで小さくなる。この際、エンドエフェクター12などの反りが大きくなったり、基板Sの跳ね上がりが大きくなったりすることが抑えられていることが観察されている。また、位置差分の加加速度における振幅PWは、過渡期間Ttよりも過渡期間Ttの前後で大きくなる。過渡期間Ttの前、あるいは、過渡期間Ttの後に認めらえる振幅は、過渡期間Ttでの振幅PWより大きい。エンドエフェクター12と基板Sとの当接によって一旦収束した微振動は、エンドエフェクター12に対して基板Sが静止するときに、エンドエフェクター12と基板Sとが一体の振動子として微振動の振幅の増大を再び生じはじめる。
【0043】
一方、図6が示すように、互いに異なる上昇速度のなかで、不適切な上昇速度の例では、位置差分の加加速度における振幅PWは、過渡期間Ttの前よりも、あるいは、前後よりも過渡期間Tt内で大きくなる。この際、エンドエフェクター12の反りが大きくなったり、基板Sの跳ね上がりが大きくなったりして、エンドエフェクター12と基板Sとが大きく離れる。そして、エンドエフェクター12と基板Sとが複数回にわたり強く当接することを繰り返してしまうことが観察されると言える。なお、図6が示す振幅PWは、その前後の振幅から見て、衝撃的な入力があったと推察できる状況であり、かつ、図5が示す振幅PWの最大値をなす一周期波形前後における振幅の減衰波形が観察できないことが特徴的である。すなわち、不明瞭な周期を示す波形が観察できず、過渡期間Ttの前、あるいは、後と同様な周期を示す波形しか観察できないことが特徴的である。つまり、安定的にエンドエフェクター12の上に基板Sを載置部から受け取るには、周囲に減衰波形が存在していることが望ましい。
【0044】
教示処理部34は、互いに異なる複数の上昇速度のなかから、加加速度における振幅PWを過渡期間Ttの前よりも過渡期間Ttで小さくする範囲の上昇速度を抽出する。そして、教示処理部34は、抽出された上昇速度のなかの上限値を、第2速度VD2の上限値として教示する。なお、教示処理部34は、位置差分の加加速度における振幅PWを過渡期間Ttの前よりも過渡期間Ttで小さくするように、抽出された上限値以下のなかから第2速度VD2を設定してもよい。これは、過渡期間Ttの後における動特性が、基板Sの種類により変化することから、調整指標として不適切であるためである。当然だが、位置差分の加加速度における振幅PWは、過渡期間Ttよりも過渡期間Ttの後で大きくなってもよい。また、上記の抽出、および、設定に至る一連の工程は、各別の処理とすれば、制御装置30に教示処理部34を含まない構成とすることもできる。
【0045】
[作用]
搬送処理部33は、教示データに基づいて、アーム11とエンドエフェクター12とを上昇させる。上昇するエンドエフェクター12が基板Sに当たるとき、基板Sの重さがエンドエフェクター12に作用し、エンドエフェクター12の剛性やアーム11の剛性に応じて、エンドエフェクター12やアーム11が反る。
【0046】
この際、過渡期間Ttにおける位置差分の加加速度における振幅PWが過渡期間Ttの前後、あるいは、前よりも小さくなるように、第2速度VD2の上限値が定められている。すなわち、エンドエフェクター12の上昇速度が高すぎることに起因してエンドエフェクター12と基板Sとが複数回にわたり当接しないように、アーム11とエンドエフェクター12とは上昇を続ける。
【0047】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)過渡期間Ttにおける位置差分の加加速度における振幅PWが過渡期間Ttの前後、あるいは、前よりも小さくなるように、第2速度VD2が定められるため、エンドエフェクター12などの反りが大きくなったり、基板Sの跳ね上がりが大きくなったりすることが、過渡期間Ttでは抑えられ、かつ効果的な振動減衰が得られる。そのため、エンドエフェクター12の反りが大きくなったり、基板Sの跳ね上がりが大きくなったりすることに起因して基板Sの位置精度が低下してしまうことが抑えられる。また、同時に跳ね上がり等の現象に伴うコンタミネーションも抑えられる。
【0048】
(2)過渡期間Ttにおける上昇速度を上限値以下の範囲のなかで高めることで基板Sの搬送効率が低下することを抑えつつ、過渡期間Ttにおける上昇速度を上限値以下に制限することで基板Sの位置精度を向上することが可能となる。
【0049】
(3)過渡期間Ttにおける上昇速度を上限値以下に制限しつつも、過渡期間Ttの前の上昇速度である第1速度VD1を過渡期間Ttの上昇速度である第2速度VD2よりも過渡期間Ttの直前まで高めることが可能となる。そのため、搬送効率の低下を抑えることについて、より実効性を高めることが可能ともなる。
【0050】
(4)位置差分の加加速度における振幅が、過渡期間Ttよりも過渡期間Ttの後で大きくなるように、第2速度VD2が設定されてもよい。第2対象位置H2に到達するときに、上昇速度を第2速度VD2から第1速度VD1に切り替え、速度を高めているため、エンドエフェクター12に対して基板Sが静止しないような第2速度VD2で基板Sの受け取りが行われることが抑えられる。これにより、受け取られた基板Sがエンドエフェクター12に対して静止しにくいことに起因して基板Sの位置精度が低下することが抑えられる。結果として、基板Sの位置精度を向上させる実効性をさらに高めることが可能となる。
【0051】
(5)第2速度VD2を上限値以下に制限しつつも、過渡期間Ttの後の第1速度VD1を第2速度VD2よりも高めることが可能となる。そのため、搬送効率の低下を抑えることについて、より実効性を高めることが可能ともなる。
【0052】
(6)エフェクターセンサー13Eとアームセンサー13Aとに基づいて第2速度VD2の上限値が定められるため、基板搬送装置の個体差に起因した微振動などのばらつきを上限値に反映させることが可能となる。そのため、第2速度VD2の上限値を備えることによる位置精度の向上の実効性をさらに高めることが可能となる。
【0053】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
・教示処理部34は、位置差分の加速度における振幅PWが過渡期間Ttの前よりも過渡期間Ttで小さいことに基づいて、第2速度VD2の上限値の候補を抽出してもよい。そして、教示処理部34は、複数の上限値の候補のなかの最大値を第2速度VD2の上限値としてもよい。
・教示処理部34は、位置差分の加速度における振幅PWが過渡期間Ttよりも過渡期間Ttの後で大きいこと、かつ、上限値以下の範囲のなかであることを満たす上昇速度を第2速度VD2として教示してもよい。
【符号の説明】
【0054】
H0…基準位置、H1…第1対象位置、H2…第2対象位置、PW…振幅、S…基板、TE0,TE1,TE2…タイミング、Tt…過渡期間、VD1…第1速度、VD2…第2速度、11…アーム、12…エンドエフェクター、13A…アームセンサー、13E…エフェクターセンサー、20…駆動部、30…制御装置、31…制御部、32…記憶部、33…搬送処理部、34…教示処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6