(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
<1.光学膜形成装置>
先ず、本実施の形態に係る光学膜形成装置の構成について説明する。本実施の形態では、OLEDに用いられる円偏光板を作製する場合において、光学膜として、直線偏光膜(直線偏光板)とλ/4波長膜(λ/4波長板)をガラス基板に形成する場合を例にとって説明する。なお、直線偏光膜とλ/4波長膜が形成される前のガラス基板上には、例えば複数の有機膜(図示せず)などが積層して形成されている。
【0022】
光学膜形成装置は、塗布処理装置、減圧乾燥装置、加熱処理装置、膜定着装置、及び膜除去装置を有している。以下、これらの装置の構成について説明する。なお、以下に示す図面においては、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0023】
<1−1.塗布処理装置>
図1は、塗布処理装置の構成の概略を示す横断面図である。
図2は、塗布処理装置の構成の概略を示す縦断面図である。塗布処理装置10では、ガラス基板Gの全面に塗布液を塗布する。
【0024】
塗布処理装置10は、処理容器11を有している。処理容器11の側面にはガラス基板Gの搬入出口(図示せず)が形成され、当該搬入出口には開閉シャッタ(図示せず)が設けられている。
【0025】
処理容器11の内部には、ガラス基板Gを保持する保持部としてのステージ20が設けられている。ステージ20は、ガラス基板Gに塗布液が塗布される表面が上方を向くように、その裏面を吸着保持する。また、ステージ20は、平面視においてガラス基板Gよりも小さい形状を有している。
【0026】
ステージ20は、当該ステージ20の下面側に設けられ、X軸方向に延伸する一対のレール21、21に取り付けられている。そして、ステージ20は、レール21に沿って移動自在に構成されている。また、レール21は、少なくともガラス基板Gの2枚の長さ以上でX軸方向に延伸している。これにより、ステージ20がX軸方向負方向の端部に位置している場合のガラス基板G(図中の実線、基板位置A1)と、ステージ20がX軸方向正方向の端部に位置している場合のガラス基板G(図中の点線、基板位置A2)とが、平面視において重ならない。本実施の形態では、これらステージ20とレール21が本発明の移動機構を構成している。なお、移動機構の構成は本実施の形態に限定されず、例えばステージ20を自走式にするなど、移動機構は任意の構成を取り得る。
【0027】
ステージ20の上方には、当該ステージ20に保持されたガラス基板Gに塗布液を塗布する塗布ノズル30が設けられている。塗布ノズル30は、ステージ20に保持されたガラス基板Gの移動方向(X軸方向)と同じ方向に延伸する長尺状のスリットノズルである。
図3に示すように塗布ノズル30の下端面には、ガラス基板Gに塗布液を吐出する吐出口31が形成されている。
図1及び
図2に示すように吐出口31は、塗布ノズル30の長手方向(X軸方向)に沿って、ガラス基板Gの移動範囲より長い範囲、すなわち基板位置A1と基板位置A2の間より長い範囲で延伸するスリット状の吐出口である。
【0028】
塗布ノズル30には、移動機構32が設けられている。移動機構32は、ステージ20に保持されたガラス基板Gの移動方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に、塗布ノズル30を移動させる。塗布ノズル30は、ガラス基板GのY軸方向負方向側(図中の実線、ノズル位置B1)と、ガラス基板GのY軸方向正方向側(図中の点線、ノズル位置B2)との間を移動する。また、塗布ノズル30は、移動機構32によって鉛直方向にも移動自在に構成されている。なお、移動機構32の構成は本実施の形態に限定されず、移動機構は任意の構成を取り得る。
【0029】
このようにステージ20と塗布ノズル30は直交方向に移動する。そして、塗布ノズル30は、ステージ20に保持されたガラス基板Gに塗布液を塗布することができる。また、ステージ20の移動速度と塗布ノズル30の移動速度を制御することで、ガラス基板Gに塗布される塗布液の塗布方向を任意に制御することができる。
【0030】
なお、塗布ノズル30から吐出される塗布液は、光学材料を含む塗布液である。具体的には、直線偏光膜を形成するための偏光膜用塗布液と、λ/4波長膜を形成するための波長膜用塗布液であり、それぞれ例えば光学材料としてリオトロピック液晶化合物やサーモトロピック液晶化合物など、任意の液晶化合物が含まれる。
【0031】
ステージ20及び塗布ノズル30の下方には、塗布液の回収部40が設けられている。回収部40は上面が開口し、塗布液を一時的に貯留できるようになっている。回収部40のX軸方向の長さは、塗布ノズル30の吐出口31より長い。また、回収部40のY軸方向の長さは、塗布ノズル30の移動範囲より長く、すなわちノズル位置B1とノズル位置B2の間より長い。また、回収部40の下面には、回収した塗布液を排出する排出管41が設けられている。そして、塗布ノズル30から吐出され、ガラス基板Gに塗布されずに下方に落下する塗布液は、回収部40に回収され、排出管41から排出される。回収された塗布液は、次以降に処理されるガラス基板Gに再利用される。
【0032】
以上の塗布処理装置10には、制御部50が設けられている。制御部50は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、塗布処理装置10における塗布処理を制御するプログラムが格納されている。このプログラムは、例えばコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、メモリーカードなどのコンピュータに読み取り可能な記憶媒体Hに記録されていたものであって、その記憶媒体Hから制御部50にインストールされたものであってもよい。なお、制御部50は、光学膜形成装置の他の装置における所定の処理も制御する。
【0033】
<1−2.減圧乾燥装置>
図4は、減圧乾燥装置の構成の概略を示す縦断面図である。減圧乾燥装置100では、ガラス基板Gに形成された光学膜(直線偏光膜とλ/4波長膜)を減圧乾燥する。
【0034】
減圧乾燥装置100は、処理容器101を有している。処理容器101は、蓋体102と本体103を有している。蓋体102は、昇降機構(図示せず)によって昇降自在に構成されている。処理容器101にガラス基板Gを搬入出する際には、蓋体102は本体103から上方に分離し、処理容器101の内部で減圧乾燥処理を行う際には、蓋体102と本体103が一体となって、密閉された空間を形成する。
【0035】
処理容器101の内部には、ガラス基板Gを載置する載置台110が設けられている。載置台110は、光学膜が形成された表面が上方を向くように、ガラス基板Gを載置する。また、処理容器101の底部には、ガス供給部120と排気部121が設けられている。ガス供給部120と排気部121は、載置台110を挟んで対向して配置されている。ガス供給部120から不活性ガスを供給して、ガラス基板G上でガラス基板Gと平行な気流通過方向(X軸方向)に不活性ガスの気流を通過させることができる。また、排気部121から排気することで、処理容器101の内部を減圧雰囲気とすることができる。
【0036】
なお、減圧乾燥装置の構成は本実施の形態の減圧乾燥装置100の構成に限定されず、公知の減圧乾燥装置の構成を任意に取り得る。
【0037】
<1−3.搬送領域>
図5は、塗布処理装置、乾燥処理装置及び搬送領域の配置を示す平面図である。
【0038】
上述した塗布処理装置10と減圧乾燥装置100は、搬送領域200を介して隣接して配置されている。搬送領域200には、ガラス基板Gを搬送する搬送装置201が設けられている。搬送領域200の内部には、ダウンフローなどはなく、無風状態でガラス基板Gを搬送する。
【0039】
<1−4.加熱処理装置>
図6は、加熱処理装置の構成の概略を示す縦断面図である。加熱処理装置300では、ガラス基板Gに形成された光学膜(直線偏光膜とλ/4波長膜)を加熱する。
【0040】
加熱処理装置300は、処理容器301を有している。処理容器301は、蓋体302と本体303を有している。蓋体302は、昇降機構(図示せず)によって昇降自在に構成されている。処理容器301にガラス基板Gを搬入出する際には、蓋体302は本体303から上方に分離し、処理容器301の内部で加熱処理を行う際には、蓋体302と本体303が一体となって、密閉された空間を形成する。蓋体302の上面中央部には、排気部304が設けられている。処理容器301の内部は排気部304から排気される。
【0041】
処理容器301の内部には、ガラス基板Gを載置して加熱する熱板310が設けられている。熱板310は、光学膜が形成された表面が上方を向くように、ガラス基板Gを載置する。熱板310には、給電により発熱するヒータ311が内蔵されている。
【0042】
本体303は、熱板310を収容して熱板310を収容して熱板310の外周部を保持する保持部材320と、その保持部材320の外周を囲むサポートリング321を備えている。
【0043】
なお、加熱処理装置の構成は本実施の形態の加熱処理装置300の構成に限定されず、公知の加熱処理装置の構成を任意に取り得る。
【0044】
<1−5.膜定着装置>
図7は、膜定着装置の構成の概略を示す縦断面図である。膜定着装置400では、インクジェット方式で定着材を所定領域、本実施の形態ではガラス基板Gの画素エリアに選択的に塗布する。
【0045】
膜定着装置400は、処理容器401を有している。処理容器401の側面にはガラス基板Gの搬入出口(図示せず)が形成され、当該搬入出口には開閉シャッタ(図示せず)が設けられている。
【0046】
処理容器401の内部には、ガラス基板Gを保持するステージ410が設けられている。ステージ410は、ガラス基板Gに定着材が塗布される表面が上方を向くように、その裏面を吸着保持する。
【0047】
ステージ410は、当該ステージ410の下面側に設けられ、X軸方向に延伸する一対のレール411、411に取り付けられている。レール411は、X軸方向に延伸するテーブル412に設けられている。そして、ステージ410は、レール21に沿って移動自在に構成されている。
【0048】
また、レール411は、後述する塗布ノズル420を挟んで、少なくともガラス基板Gの2枚の長さ以上でX軸方向に延伸している。これにより、ステージ410がX軸方向負方向の端部に位置している場合のガラス基板G(図中の実線、基板位置C1)と、ステージ410がX軸方向正方向の端部に位置している場合のガラス基板G(図中の点線、基板位置C2)とが、平面視において重ならない。
【0049】
ステージ410の上方には、当該ステージ410に保持されたガラス基板Gに定着材を塗布する塗布ノズル420が設けられている。塗布ノズル420は、例えばインクジェットノズルであり、ガラス基板Gの所定領域に定着材を選択的塗布することができる。なお、塗布ノズル420は、移動機構(図示せず)によって鉛直方向にも移動自在に構成されている。
【0050】
なお、塗布ノズル420から吐出される定着材は、ガラス基板Gの所定領域に光学膜を定着させるものであれば、任意の材料を用いることができる。例えば光学膜の末端の官能基を置換したり、或いは収縮反応を起こして高分子化させて、当該光学膜を不活性化(不溶化)させて定着させてもよい。或いは光学膜を固めて定着させてもよい。
【0051】
また、膜定着装置の構成は本実施の形態の膜定着装置400の構成に限定されず、公知のインクジェット方式の装置の構成を任意に取り得る。さらに、膜定着装置において定着材を選択的に塗布する方法はインクジェット方式に限定されず、他の方法を用いてもよい。他の方法として、例えば所定領域以外の領域にマスクを設け、その上から定着材を吐出することで、所定領域のみに定着材を選択的に塗布してもよい。
【0052】
<1−6.膜除去装置>
図8は、膜除去装置の構成の概略を示す縦断面図である。膜除去装置500では、ガラス基板Gに洗浄液を供給し、膜定着装置400で定着していない光学膜(所定領域以外の光学膜)を選択的に除去する。
【0053】
膜除去装置500は、処理容器501を有している。処理容器501の側面にはガラス基板Gの搬入出口(図示せず)が形成され、当該搬入出口には開閉シャッタ(図示せず)が設けられている。
【0054】
処理容器501の内部には、ガラス基板Gを保持して回転されるスピンチャック510が設けられている。スピンチャック510は、ガラス基板Gに洗浄液が供給される表面が上方を向くように、その裏面を吸着保持する。また、スピンチャック510は、例えばモータなどのチャック駆動部511により所定の速度に回転できる。
【0055】
スピンチャック510の周囲には、ガラス基板Gから飛散又は落下する洗浄液を受け止め、回収するカップ520が設けられている。カップ520の下面には、回収した定着材を排出する排出管521と、カップ520の内部を排気する排気管522が接続されている。
【0056】
スピンチャック510の上方には、当該スピンチャック510に保持されたガラス基板Gに洗浄液を供給する洗浄ノズル530が設けられている。洗浄ノズル530は、移動機構531によって水平方向及び鉛直方向に移動自在に構成されている。
【0057】
なお、洗浄ノズル530から供給される洗浄液は、膜定着装置400で塗布される定着材の溶媒に応じた材料が用いられる。例えば定着材の溶媒が水であれば、洗浄液には水が用いられ、或いは定着材の溶媒が有機溶剤であれば、洗浄液には有機溶剤が用いられる。
【0058】
また、膜除去装置の構成は本実施の形態の膜除去装置500の構成に限定されず、公知のスピン塗布方式の装置の構成を任意に取り得る。さらに、膜除去装置において光学膜を選択的に除去する方法はスピン塗布方式に限定されず、他の方法を用いてもよい。他の方法として、例えば洗浄液を貯留する洗浄槽に、ガラス基板Gを浸漬させて、光学膜を選択的に除去してもよい。また、レーザーアブレーションを行って光学膜を選択的に除去してもよいし、或いはフォトリソグラフィー処理及びエッチング処理を行って光学膜を選択的に除去してもよい。
【0059】
<2.光学膜形成方法>
次に、以上のように構成された光学膜形成装置を用いて行われる光学膜形成方法について説明する。
図9は、かかる光学膜形処理の主な工程の例を示すフローチャートである。本実施の形態では、上述したように光学膜として、直線偏光膜とλ/4波長膜を、その偏光軸が45度で交差するようにガラス基板Gに積層して形成する。工程S1〜S5は直線偏光膜を形成する工程であり、工程S6〜S10はλ/4波長膜を形成する工程である。
【0060】
<2−1.工程S1>
先ず、塗布処理装置10において、ガラス基板Gの全面に塗布液を塗布する。この場合の塗布液は、直線偏光膜を形成するための偏光膜用塗布液である。
【0061】
塗布処理装置10では、基板位置A1においてガラス基板Gがステージ20に保持される。そして、
図10に示すようにガラス基板Gを基板位置A1から移動させずに、塗布ノズル30をノズル位置B1からノズル位置B2に移動させる。
【0062】
図10(a)に示すように塗布ノズル30をノズル位置B1に配置する際、塗布ノズル30は、塗布液P1の目標膜厚に応じた高さに配置される。続いて、
図10(b)及び
図11に示すように塗布ノズル30から塗布液P1を吐出しつつ、塗布ノズル30をY軸方向正方向に移動させ、ガラス基板Gに塗布液P1が塗布される。そして、
図10(c)及び
図12に示すように塗布ノズル30がノズル位置B2まで移動して、ガラス基板Gの全面に塗布液P1が塗布される。
【0063】
このとき、塗布液P1はせん断応力(
図10中のブロック矢印)が加えられながら塗布される。ガラス基板Gは移動せず、塗布ノズル30はY軸方向正方向に移動するので、せん断応力はY軸方向負方向に加えられる。
【0064】
また、せん断応力(シアレート)は、塗布速度(ガラス基板Gに対する塗布ノズル30の移動速度)を、ガラス基板Gと塗布ノズル30の吐出口31との距離(ギャップ)で割った値である。塗布ノズル30にはスリットノズルが用いられるので、塗布ノズル30は、ガラス基板Gを傷つけることなく、当該ガラス基板Gに十分に近接できる。このため、ギャップを小さくすることができる。そうすると、塗布ノズル30の移動速度を制御することで、塗布液P1に十分なせん断応力を加えることができる。またその結果、塗布液P1中の分子を一方向(Y軸方向)に配向させることができる。
【0065】
なお、塗布ノズル30には、スリットノズル以外の他のノズルを用いることもできるが、上述したようにギャップをできるだけ小さくできるという観点からは、スリットノズルが好適である。また、ガラス基板Gに塗布される塗布液P1の膜厚は小さく、かかる観点からもスリットノズルが好適である。
【0066】
なお、塗布ノズル30から吐出される塗布液P1のうち、ガラス基板Gに塗布されない塗布液P1は、下方に落下し回収部40に回収される。回収された塗布液P1は、次以降に処理されるガラス基板Gに再利用される。また、ステージ20はガラス基板Gより小さいので、塗布液P1がステージ20に付着することがない。したがって、ステージ20をガラス基板G毎に枚葉で洗浄するのを抑制することができる。
【0067】
このように塗布処理装置10では、ガラス基板Gに塗布液P1が塗布されて、直線偏光膜が形成される。以下の説明においては、直線偏光膜をP1として説明する。
【0068】
<2−2.工程S2>
次に、減圧乾燥装置100において、ガラス基板Gの直線偏光膜P1を減圧乾燥させる。具体的には、載置台110にガラス基板Gを載置し、蓋体102を閉じて、処理容器101の内部に密閉された空間を形成する。その後、ガス供給部120から不活性ガスを供給すると共に、排気部121から処理容器101の内部が排気され、処理容器101の内部を減圧雰囲気にする。そして、直線偏光膜P1が乾燥される。
【0069】
直線偏光膜P1が乾燥されると、膜中の溶媒が除去される。上述した工程S1ではせん断応力を加えることで分子を一方向に配向させているが、そのままの状態で放置しておくと、分子の配向が元に戻って乱れるおそれがある。このため、工程S2で膜中の溶媒を除去することで、分子の配向状態が適切に維持される。
【0070】
ここで、上述した直線偏光膜P1を乾燥させる際、当該直線偏光膜P1を加熱すると、膜中の溶媒が対流し、この対流により膜中の分子の配向状態が乱れる。そこで、本実施の形態では、直線偏光膜P1を加熱することなく、減圧乾燥することで、膜中の溶媒の対流を抑制している。そうすると、工程S1で配向させた分子の配向状態を適切に維持することができる。
【0071】
また、分子の配向状態を適切に維持する観点から、塗布処理装置10と減圧乾燥装置100の間の搬送領域200を無風状態にして、ガラス基板Gを搬送している。例えば搬送領域200にダウンフローなどを生じさせていると、ガラス基板Gに衝突する風が均一でなくなり、分子の配向状態が均一でなくなるおそれがある。そこで本実施の形態では、搬送領域200を無風状態にして、減圧乾燥処理を行うまでに、直線偏光膜P1が乱れて分子の配向状態乱れるのを抑制している。
【0072】
<2−3.工程S3>
次に、加熱処理装置300において、ガラス基板Gの直線偏光膜P1を加熱する。具体的には、熱板310にガラス基板Gを載置し、蓋体302を閉じて、処理容器101の内部に密閉された空間を形成する。そして、熱板310のヒータ311によって、直線偏光膜P1が所定の温度、例えば50℃で加熱される。
【0073】
例えば工程S2で直線偏光膜P1を減圧乾燥しても、膜中に溶媒が完全に除去されない場合がある。工程S3における直線偏光膜P1の加熱は、このように膜中に残存する溶媒を確実に除去する。なお、工程S2において膜中の溶媒を完全に除去できる場合には、工程S3は省略してもよい。
【0074】
<2−4.工程S4>
次に、膜定着装置400において、ガラス基板Gの所定領域、本実施の形態では画素エリアに定着材を塗布する。
【0075】
膜定着装置400では、基板位置C1においてガラス基板Gがステージ410に保持される。そして、ガラス基板Gを基板位置C1から基板位置C2に移動させる。
【0076】
ガラス基板Gの移動中、
図13に示すようにガラス基板Gの画素エリアに形成された直線偏光膜P1に塗布ノズル420から定着材Fを塗布する。このとき、膜定着装置400はインクジェット方式を採用しているため、画素エリアの直線偏光膜P1に正確に定着材Fを塗布することができる。
【0077】
定着材Fは直線偏光膜P1を不活性化(不溶化)する。具体的には、直線偏光膜P1におけるOH基などの水溶性の末端を、別の官能基に置換する。そして、不活性化された直線偏光膜P1はガラス基板Gに定着する。以下、定着材Fが塗布されて定着した直線偏光膜をP2として説明する。すなわち、ガラス基板Gの画素エリア以外において、直線偏光膜P1は不活性化されておらず定着していない。一方、画素エリアにおいて、直線偏光膜P2は不活性化されて定着している。
【0078】
そして、
図14に示すようにガラス基板Gの画素エリアすべてに、不活性化した直線偏光膜P2を形成することができる。なお、図示の都合上、ガラス基板の画素エリア、すなわち直線偏光膜P2は20箇所である場合を例示しているが、画素エリアの数はこれに限定されない。実際には画素エリアは、1枚のガラス基板Gに対して約100箇所にある。
【0079】
<2−5.工程S5>
次に、膜除去装置500において、ガラス基板Gに洗浄液を供給し、工程S4で定着していない直線偏光膜P1を選択的に除去する。
【0080】
膜除去装置500では、ガラス基板Gがスピンチャック510に吸着保持される。その後、スピンチャック510に保持されたガラス基板Gを回転させながら、洗浄ノズル530からガラス基板Gの中心部に洗浄液を供給する。供給された洗浄液は、遠心力によってガラス基板G上を拡散する。このとき、定着材Fが塗布された直線偏光膜P2は定着しているので、洗浄液によって除去されない。一方、定着材Fが塗布されていない直線偏光膜P1は定着していないので、洗浄液によって除去される。こうして、
図15及び
図16に示すように直線偏光膜P1のみが選択的に除去され、ガラス基板G上には画素エリアに直線偏光膜P2のみが形成される。
【0081】
<2−6.工程S6>
以上のようにガラス基板Gに直線偏光膜P2が形成されると、次に、ガラス基板Gにλ/4波長膜をさらに形成する。先ず、塗布処理装置10において、ガラス基板Gの全面に塗布液を塗布する。この場合の塗布液は、λ/4波長膜を形成するための波長膜用塗布液である。
【0082】
塗布処理装置10では、基板位置A1においてガラス基板Gがステージ20に保持される。そして、
図17に示すようにガラス基板Gを基板位置A1から基板位置A2に移動させると共に、塗布ノズル30をノズル位置B1からノズル位置B2に移動させる。このとき、ガラス基板Gの移動速度と塗布ノズル30の移動速度は同じである。
【0083】
図17(a)に示すように塗布ノズル30をノズル位置B1に配置する際、塗布ノズル30は、塗布液Q1の目標膜厚に応じた高さに配置される。続いて、
図17(b)及び
図18に示すようにガラス基板GをX軸方向正方向に移動させると共に、塗布ノズル30から塗布液Q1を吐出しつつ、塗布ノズル30をY軸方向正方向に移動させ、ガラス基板Gに塗布液Q1が塗布される。そして、
図17(c)及び
図19に示すようにガラス基板Gが基板位置A2まで移動し、かつ塗布ノズル30がノズル位置B2まで移動して、ガラス基板Gの全面に塗布液Q1が塗布される。
【0084】
このとき、塗布液Q1はせん断応力(
図17中のブロック矢印)が加えられながら塗布される。すなわち、ガラス基板Gの移動速度と塗布ノズル30の移動速度が同じであるため、せん断応力はY軸方向負方向及びX軸方向負方向に斜め45度方向に加えられる。
【0085】
また、ガラス基板Gの移動速度と塗布ノズル30の移動速度を制御することで、塗布液Q1に十分なせん断応力を加えることができる。その結果、塗布液Q1中の分子を一方向(斜め45度方向)に配向させることができる。
【0086】
このように塗布処理装置10では、ガラス基板Gに塗布液Q1が塗布されて、λ/4波長膜が形成される。以下の説明においては、λ/4波長膜をQ1として説明する。
【0087】
<2−7.工程S7>
次に、減圧乾燥装置100において、ガラス基板Gのλ/4波長膜Q1を減圧乾燥させる。具体的な減圧乾燥処理は、工程S2と同様であるので、説明を省略する。そして、λ/4波長膜Q1の溶媒が除去され、膜中の分子の配向状態が適切に維持される。
【0088】
<2−8.工程S8>
次に、加熱処理装置300において、ガラス基板Gのλ/4波長膜Q1を加熱する。具体的な加熱処理は、工程S3と同様であるので、説明を省略する。そして、λ/4波長膜Q1の溶媒が完全に除去される。なお、工程S7において膜中の溶媒を完全に除去できる場合には、工程S8は省略してもよい。
【0089】
<2−9.工程S9>
次に、膜定着装置400において、
図20に示すようにガラス基板Gの画素エリアに形成されたλ/4波長膜Q1に、塗布ノズル420から定着材Fを選択的に塗布する。具体的な定着材Fの選択手的塗布処理は、工程S4と同様であるので、説明を省略する。
【0090】
定着材Fはλ/4波長膜Q1を不活性化(不溶化)し、当該不活性化されたλ/4波長膜Q1はガラス基板Gに定着する。以下、定着材Fが塗布されて定着したλ/4波長膜をQ2として説明する。すなわち、ガラス基板Gの画素エリア以外において、λ/4波長膜Q1は不活性化されておらず定着していない。一方、画素エリア(直線偏光膜P2)において、λ/4波長膜Q2は不活性化されて定着している。
【0091】
<2−10.工程S10>
次に、膜除去装置500において、ガラス基板Gに洗浄液を供給し、工程S9で定着していないλ/4波長膜Q1を選択的に除去する。具体的なλ/4波長膜Q1の選択手的除去処理は、工程S5と同様であるので、説明を省略する。そして、
図22及び
図23に示すようにガラス基板G上には画素エリアにλ/4波長膜Q2のみが形成される。
【0092】
以上の実施の形態によれば、塗布処理装置10において、ステージ20に保持されたガラス基板Gと塗布ノズル30がそれぞれ直交方向に移動するので、これらガラス基板Gの移動速度と塗布ノズル30の移動速度を制御することで、ガラス基板Gに塗布される塗布液の塗布方向を制御することができる。このように簡易な構成及び簡易な制御で、ガラス基板Gに対して任意の角度で塗布液を塗布することができる。そして、工程S1における塗布液P1の塗布方向と工程S6における塗布液Q1の塗布方向を45度で交差させ、直線偏光膜P1とλ/4波長膜Q1を、その偏光軸が45度で交差するように形成することができる。
【0093】
また、工程S2において直線偏光膜P1を減圧乾燥しているので、直線偏光膜P1中で溶媒の対流が生じるのを抑制することができる。そうすると、直線偏光膜P1における分子の配向状態を適切に維持することができる。同様に、工程S6においてλ/4波長膜Q1を減圧乾燥しているので、λ/4波長膜Q1における分子の配向状態を適切に維持することができる。
【0094】
また、工程S4において画素エリアの直線偏光膜P1に定着材Fを選択的に塗布し、工程S5において定着材Fが塗布されず定着していない直線偏光膜P1を選択的に除去しているので、画素エリアのみに直線偏光膜P2が形成される。同様に、工程S9と工程S10を行うことで、画素エリアのみにλ/4波長膜Q2が形成される。
【0095】
ここで、例えば円偏光板を作製する場合、直線偏光膜とλ/4波長膜は、画素エリアだけに形成されていればよい。画素エリア以外に膜が形成されると、画素エリアの周囲に設けられた端子が適切に機能しないおそれがある。本実施の形態では、画素エリア以外には膜は形成されないので、画素エリアの直線偏光膜P2とλ/4波長膜Q2の機能を発揮させつつ、画素エリアの周囲にある部品の機能も発揮させることができる。
【0096】
また、工程S1及びS6では、それぞれせん断応力を加えながら塗布液P1、Q1を塗布するが、この際、画素エリアのみに塗布液P1、Q1を塗布するのは困難である。したがって、工程S4、S5、S9、S10を行い、画素エリアに選択的に直線偏光膜P2とλ/4波長膜Q2を形成することは有用である。
【0097】
さらに、仮に工程S1においてガラス基板Gに塗布液P1を塗布して直線偏光膜P1を形成した後、工程S4における定着材Fの選択的塗布を省略した場合、その後、工程S6においてガラス基板Gに塗布液Q1を塗布すると、直線偏光膜P1に塗布液Q1が混ざるおそれがある。この点、本実施の形態のように工程S4を行って不溶化した直線偏光膜P2を形成することで、当該直線偏光膜P2と塗布液Q1が混ざるのを抑制することができる。その結果、直線偏光膜P2とλ/4波長膜Q2を適切に形成することができる。
【0098】
なお、これら工程S4、S5、S9、S10を行うことは必ずしも必須ではない。本実施の形態のようにガラス基板Gに複数の画素エリアがある場合、工程S4、S5、S9、S10を行うことは有用であるが、例えばガラス基板Gの全面に直線偏光膜とλ/4波長膜を形成する場合は、工程S4、S5、S9、S10は省略してもよい。
【0099】
また、工程S4と工程S9において、膜定着装置400では、定着材を塗布することで直線偏光膜とλ/4波長膜を定着させていたが、他の方法を用いることもできる。他の方法として、例えば予め、直線偏光膜とλ/4波長膜に光と反応する材料を添加しておけば、光照射によって、直線偏光膜とλ/4波長膜の結晶を重合させ、当該直線偏光膜とλ/4波長膜を不溶化させて定着させることができる。
【0100】
<3.他の実施の形態>
以上の実施の形態において、塗布処理装置10と減圧乾燥装置100は別の装置として設けられていたが、これらは同一装置であってもよい。
【0101】
図24に示すように塗布処理装置10において、減圧乾燥装置100のガス供給部120と排気部121が設けられている。ガス供給部120は処理容器11の天井面に設けられ、排気部121は処理容器11の底面に設けられている。
【0102】
かかる場合、上述した工程S1においてガラス基板Gに塗布液P1を塗布する際、ガス供給部120から不活性ガスを供給すると共に、排気部121から処理容器11の内部が排気され、処理容器11の内部を減圧雰囲気にする。そうすると、ガラス基板Gに塗布された塗布液P1は、塗布された直後に減圧乾燥される。その結果、直線偏光膜P1における分子の配向状態をより確実に維持することができる。同様に、工程S6においても減圧雰囲気下でガラス基板Gに塗布液Q1を塗布するので、塗布液Q1は塗布された直後に減圧乾燥され、その結果、λ/4波長膜Q1における分子の配向状態をより確実に維持することができる。
【0103】
以上の実施の形態では、OLEDに用いられる円偏光板を作製する場合において、ガラス基板に光学膜として、直線偏光膜(直線偏光板)とλ/4波長膜(λ/4波長板)を形成する場合を例にとって説明したが、本発明は他にも適用できる。例えばLCDに用いられる偏光板や波長板にも、本発明を適用することができる。また、波長板もλ/4波長膜に限定されず、例えばλ/2波長膜などの他の波長板にも、本発明を適用することができる。
【0104】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。