特許第6983332号(P6983332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6983332プラズマCVD装置、および、プラズマCVD法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983332
(24)【登録日】2021年11月25日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置、および、プラズマCVD法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20211206BHJP
   C23C 16/509 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20211206BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C23C16/42
   C23C16/509
   H01L21/31 C
   H01L21/316 X
   H01L29/78 619A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-544973(P2020-544973)
(86)(22)【出願日】2020年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2020005552
(87)【国際公開番号】WO2020175152
(87)【国際公開日】20200903
【審査請求日】2020年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2019-31620(P2019-31620)
(32)【優先日】2019年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小林 忠正
(72)【発明者】
【氏名】座間 秀昭
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/043139(WO,A1)
【文献】 特開平07−066196(JP,A)
【文献】 特開2003−257967(JP,A)
【文献】 特開2015−206076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象を収容する空間を区画する真空槽と、
水素を含まないイソシアネートシランを貯蔵する貯蔵部であって、前記貯蔵部内において前記イソシアネートシランを加熱して、前記真空槽に供給するためのイソシアネートシランガスを生成する前記貯蔵部と、
前記貯蔵部を前記真空槽に接続し、前記貯蔵部が生成した前記イソシアネートシランガスを前記真空槽に供給するための配管と、
前記配管の温度を83℃以上180℃以下に調節する温調部と、
前記真空槽内に配置される電極と、
前記電極に高周波電力を供給する電源と、を備え、
前記真空槽において、前記成膜対象に対してシリコン酸化膜が形成される際における前記真空槽内の圧力が50Pa以上500Pa未満であり
前記真空槽に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部をさらに備え、
前記酸素含有ガスは、酸素ガスであり、
前記イソシアネートシランは、テトライソシアネートシランであり、
前記貯蔵部は、テトライソシアネートシランガスを第1流量で前記配管に供給し、
前記酸素含有ガス供給部は、前記酸素ガスを第2流量で供給し、前記第1流量に対する前記第2流量の比は、1以上100以下である
プラズマCVD装置。
【請求項2】
前記第1流量に対する前記第2流量の比が、2以上100以下であり、
前記真空槽内の前記圧力が、50Pa以上350Pa以下である
請求項に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記配管は、第1配管であり
記酸素含有ガス供給部に接続され、かつ、前記第1配管が前記真空槽に向かう途中で前記第1配管に接続され、前記第1配管に前記酸素含有ガスを供給するための第2配管と、をさらに備える
請求項1または2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
成膜対象を収容する真空槽と貯蔵部とに接続され、前記貯蔵部が生成した水素を含まないイソシアネートシランガスを前記真空槽に供給するための配管の温度を83℃以上180℃以下に設定することと、
前記貯蔵部が前記イソシアネートシランガスを前記真空槽に供給し、酸素含有ガス供給部が酸素含有ガスを前記真空槽に供給し、前記真空槽内に配置される電極に高周波電力を供給して前記成膜対象に対してシリコン酸化膜を形成する際における前記真空槽内の圧力を50Pa以上500Pa未満に設定することと、を含み、
前記酸素含有ガスは、酸素ガスであり、
前記イソシアネートシランガスは、テトライソシアネートシランガスであり、
前記貯蔵部は、テトライソシアネートシランガスを第1流量で前記配管に供給し、
前記酸素含有ガス供給部は、前記酸素ガスを第2流量で供給し、前記第1流量に対する前記第2流量の比は、1以上100以下である
プラズマCVD法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置、および、プラズマCVD法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体を主成分とする半導体層を備える薄膜トランジスタとして、ゲート電極を覆うゲート絶縁体層上に形成された半導体層と、半導体層上に形成された絶縁体層とを備える構造が知られている。絶縁体層は、絶縁体層と、絶縁体層によって覆われていない半導体層の部分とに形成された金属層から、ソース電極とドレイン電極とを形成するときに、エッチングストッパ層として機能する。こうした絶縁体層は、例えばシリコン酸化膜によって形成される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/169397号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリコン酸化膜は、プラズマCVD法を用いて形成されることがある。シリコン酸化膜を形成するときには、シラン(SiH)およびテトラエトキシシラン(TEOS)のいずれかが、シリコン酸化膜の原料として用いられることが多い。これらの材料は水素を含むため、半導体層上に形成されたシリコン酸化膜も水素を含む。シリコン酸化膜中の水素は、シリコン酸化膜と半導体層との界面において半導体層に向けて拡散し、半導体層を還元することによって、半導体層中に酸素の欠損を生じさせる。こうした半導体層での酸素の欠損は、半導体層を含む薄膜トランジスタの特性を不安定化させる。そのため、シリコン酸化膜における水素の含有量を減らすことが可能な成膜方法が求められている。
【0005】
なお、こうした事情は、半導体層上に形成された絶縁体層であるシリコン酸化膜に限らず、シリコン酸化膜に接する層に対する水素の拡散を抑えることを求められる状況において共通している。
【0006】
本発明は、シリコン酸化膜における水素原子の濃度を低くすることを可能としたプラズマCVD装置、および、プラズマCVD法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態のプラズマCVD装置は、成膜対象を収容する空間を区画する真空槽と、水素を含まないイソシアネートシランを貯蔵する貯蔵部であって、前記貯蔵部内において前記イソシアネートシランを加熱して、前記真空槽に供給するためのイソシアネートシランガスを生成する前記貯蔵部と、前記貯蔵部を前記真空槽に接続し、前記貯蔵部が生成した前記イソシアネートシランガスを前記真空槽に供給するための配管と、前記配管の温度を83℃以上180℃以下に調節する温調部と、前記真空槽内に配置される電極と、前記電極に高周波電力を供給する電源と、を備える。前記真空槽において、前記成膜対象に対してシリコン酸化膜が形成される際における前記真空槽内の圧力が50Pa以上500Pa未満である。
【0008】
一実施形態のプラズマCVD法は、成膜対象を収容する真空槽と貯蔵部とに接続され、前記貯蔵部が生成した水素を含まないイソシアネートシランガスを前記真空槽に供給するための配管の温度を83℃以上180℃以下に設定することと、前記真空槽内の圧力を50Pa以上500Pa未満に設定することと、を含む。
【0009】
上記各構成によれば、水素を含まないイソシアネートシランガスを用いてシリコン酸化膜を形成することが可能である。そのため、シランやテトラエトキシシランなどの水素を含むガスを用いてシリコン酸化膜を形成する場合に比べて、シリコン酸化膜における水素原子の濃度を低くすることが可能である。
【0010】
上記プラズマCVD装置において、前記真空槽に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部をさらに備えてもよい。前記酸素含有ガスは、酸素ガスであってもよい。前記イソシアネートシランは、テトライソシアネートシランであってもよい。前記貯蔵部は、テトライソシアネートシランガスを第1流量で前記配管に供給し、前記酸素含有ガス供給部は、前記酸素ガスを第2流量で供給する。この場合、前記第1流量に対する前記第2流量の比は、1以上100以下であってもよい。上記構成によれば、シリコン酸化膜における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下であるシリコン酸化膜を形成することが可能である。
【0011】
上記プラズマCVD装置において、前記第1流量に対する前記第2流量の比が、2以上100以下であってもよい。前記真空槽内の前記圧力が、50Pa以上350Pa以下であってもよい。上記構成によれば、シリコン酸化膜における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下である確実性が高まる。
【0012】
上記プラズマCVD装置において、前記配管は、第1配管であり、前記真空槽に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、前記酸素含有ガス供給部に接続され、かつ、前記第1配管が前記真空槽に向かう途中で前記第1配管に接続され、前記第1配管に前記酸素含有ガスを供給するための第2配管と、をさらに備えてもよい。
【0013】
上記構成によれば、イソシアネートシランガスと酸素含有ガスとが第1配管内で混合され、これらの混合ガスが真空槽内に供給される。そのため、真空槽内における酸素濃度のばらつきが抑えられ、結果として、真空槽内で形成されたシリコン酸化膜における特性のばらつきを抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態におけるプラズマCVD装置の構造を模式的に示すブロック図。
図2】プラズマCVD装置を用いて形成されるシリコン酸化膜を備えた薄膜トランジスタの構造を示す断面図。
図3】シリコン酸化膜の水素濃度と真空槽内の圧力との関係をテトライソシアネートシランガスの流量に対する酸素ガスの流量の比ごとに示すグラフ。
図4】酸素ガスの流量、真空槽内の圧力、および、第1配管におけるテトライソシアネートシランガスの圧力の関係を示す表。
図5】テトライソシアネートシランの蒸気圧曲線。
図6】半導体層のキャリア濃度とシリコン酸化膜の水素濃度との関係を示すグラフ。
図7】試験例1の薄膜トランジスタにおけるドレイン電流を示すグラフ。
図8】試験例2の薄膜トランジスタにおけるドレイン電流を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図8を参照して、プラズマCVD装置、および、プラズマCVD法の一実施形態を説明する。以下では、プラズマCVD装置の構造、プラズマCVD法、および、試験例を順に説明する。
【0016】
[プラズマCVD装置の構造]
図1を参照して、プラズマCVD装置の構造を説明する。図1は、プラズマCVD装置の一例を模式的に示している。
【0017】
図1が示すように、プラズマCVD装置10は、真空槽21、貯蔵部30、第1配管11、および、温調部12を備えている。真空槽21は、成膜対象Sを収容する空間を区画している。貯蔵部30は、水素を含まないイソシアネートシランを貯蔵する。本実施形態において、イソシアネートシランは、テトライソシアネートシラン(Si(NCO))である。貯蔵部30は、貯蔵部30内においてSi(NCO)を加熱して、真空槽21に供給するためのSi(NCO)ガスを生成する。第1配管11は、貯蔵部30を真空槽21に接続し、貯蔵部30が生成したSi(NCO)ガスを真空槽21に供給するための配管である。温調部12は、第1配管11の温度を83℃以上180℃以下に調節する。真空槽21において、成膜対象Sに対してシリコン酸化膜が形成される際における真空槽21内の圧力が50Pa以上500Pa未満である。
【0018】
プラズマCVD装置10によれば、水素を含まないSi(NCO)ガスを用いてシリコン酸化膜を形成することが可能である。そのため、シランやテトラエトキシシランなどの水素を含むガスを用いてシリコン酸化膜を形成する場合に比べて、シリコン酸化膜における水素原子の濃度を低くすることが可能である。
【0019】
プラズマCVD装置10は、酸素含有ガス供給部13と、第2配管14とをさらに備えている。酸素含有ガス供給部13は、真空槽21に酸素含有ガスを供給する。本実施形態において、酸素含有ガスは酸素(O)ガスである。第2配管14は、酸素含有ガス供給部13に接続され、かつ、第1配管11が真空槽21に向かう途中で第1配管11に接続されている。第2配管14は、第1配管11にOガスを供給するための配管である。
【0020】
Si(NCO)ガスとOガスとが第1配管11内で混合され、これらの混合ガスが真空槽21内に供給される。そのため、真空槽21内における酸素濃度のばらつきが抑えられ、結果として、真空槽21内で形成されたシリコン酸化膜における特性のばらつきを抑えることが可能である。
【0021】
プラズマCVD装置10は、電極22と電源23とをさらに備えている。電極22は、真空槽21内に配置されている。本実施形態では、電極22は、第1配管11に接続されている。電極22は、第1配管11によって供給されたSi(NCO)ガスと酸素ガスとの混合ガスを拡散する拡散部としても機能する。電極22は、例えば、金属製のシャワープレートである。第1配管11は、電極22を介して真空槽21に接続されている。
【0022】
電源23は、電極22に高周波電力を供給する。電源23は、例えば、13MHzの周波数を有した高周波電力、または、27MHzの周波数を有した高周波電力を電極22に供給する。
【0023】
真空チャンバー20が、上述した真空槽21、電極22、および、電源23を備えている。真空チャンバー20は、支持部24および排気部25をさらに備えている。支持部24は、真空槽21内に配置されて成膜対象Sを支持する。支持部24は、例えば成膜対象Sを支持するステージである。支持部24は、成膜対象Sの温度を調節するための温調部を支持部24の内部に有してもよい。なお、プラズマCVD装置10において、支持部24は、電極22と対向する対向電極としても機能する。プラズマCVD装置10は、平行平板型のプラズマCVD装置である。
【0024】
排気部25は、真空槽21に接続されている。排気部25は、真空槽21内の圧力を所定の圧力まで減圧する。真空槽21は、例えば、各種のポンプ、および、各種のバルブを備えている。
【0025】
貯蔵部30は、収容槽31、恒温槽32、タンク33、タンク温調部34、Si(NCO)ガス供給部35、および、Si(NCO)ガス配管36を備えている。恒温槽32は、収容槽31内に位置している。恒温槽32は、恒温槽32が区画する空間内を所定の温度に維持することが可能である。タンク33、タンク温調部34、Si(NCO)ガス供給部35、および、Si(NCO)ガス配管36は、恒温槽32内に位置している。タンク温調部34は、タンク33の外部に位置し、タンク33をタンク33が貯蔵するSi(NCO)とともに加熱する。タンク33は、気液平衡状態のSi(NCO)を貯蔵することが可能である。タンク33には、Si(NCO)ガス供給部35が、Si(NCO)ガス配管36を介して接続されている。Si(NCO)ガス供給部35は、例えばマスフローコントローラーである。Si(NCO)ガス供給部35は、第1配管11に接続されている。Si(NCO)ガス供給部35は、Si(NCO)ガス配管36を通じてタンク33から供給されたSi(NCO)ガスを、所定の流量で第1配管11に供給する。
【0026】
温調部12は、第1配管11の外部に位置して第1配管11を加熱する。温調部12は、第1配管11を加熱することによって、第1配管11の温度と、第1配管11内を流れる流体の温度とをほぼ同一の温度にすることが可能である。
【0027】
酸素含有ガス供給部13は、例えばマスフローコントローラーである。酸素含有ガス供給部13は、Oガスを所定の流量で第2配管14に供給する。第2配管14は、第1配管11に接続されている。第2配管14は、第1配管11における被加熱部の少なくとも一部よりも貯蔵部30寄りに接続されていることが好ましい。これにより、第1配管11を通るSi(NCO)ガスの温度がOガスによって下げられにくい状態で、Si(NCO)ガスを酸素ガスとともに真空槽21内に供給することが可能である。
【0028】
真空槽21には、第1圧力計P1を取り付けることが可能である。第1圧力計P1は、真空槽21内の圧力を測定することが可能である。第1配管11をSi(NCO)ガスが流れる方向において、貯蔵部30よりも下流、かつ、温調部12よりも上流の位置で、第1配管11の途中に第2圧力計P2を取り付けることができる。第2圧力計P2は、第1配管11内の圧力を測定することが可能である。
【0029】
[プラズマCVD法]
図2から図5を参照して、プラズマCVD法を説明する。
【0030】
プラズマCVD法は、配管の温度を83℃以上180℃以下に設定することと、真空槽内の圧力を50Pa以上500Pa未満に設定することとを含む。配管は、成膜対象を収容する真空槽と貯蔵部とに接続され、貯蔵部が生成したSi(NCO)ガスを真空槽に供給する。以下、図面を参照してプラズマCVD法をより詳しく説明する。また、プラズマCVD法の説明に先立ち、プラズマCVD法を用いて形成されるシリコン酸化膜が絶縁体層として適用される薄膜トランジスタの構造を説明する。
【0031】
図2を参照して、薄膜トランジスタの構造を説明する。薄膜トランジスタは、上述したプラズマCVD装置10を用いて形成されたシリコン酸化膜を半導体層上に形成された絶縁体層として備える。
【0032】
図2が示すように、薄膜トランジスタ40は、半導体層41と絶縁体層42とを備えている。半導体層41は表面41sを含み、かつ、半導体層41において、酸化物半導体が主成分である。半導体層41では、90質量%以上が酸化物半導体である。
【0033】
絶縁体層42は、半導体層41の表面41sに位置している。絶縁体層42において、シリコン酸化物が主成分であり、水素原子の濃度が1×1021個/cm以下である。絶縁体層42は、上述したプラズマCVD装置10を用いて形成されたシリコン酸化膜である。絶縁体層42は、半導体層41の表面41sと、半導体層41によって覆われていないゲート絶縁体層45の部分とを覆っている。
【0034】
本実施形態では、半導体層41が単一の層から形成される例を説明しているが、半導体層41は、少なくとも1つの層を含んでいればよい。すなわち、半導体層41は、2層以上の複数の層を備えてもよい。各層の主成分は、InGaZnO、GaZnO、InZnO、InTiZnO、InAlZnO、ZnTiO、ZnO、ZnAlO、および、ZnCuOから構成される群から選択されるいずれか1つであることが好ましい。
【0035】
薄膜トランジスタ40は、上述した成膜対象Sを含んでいる。成膜対象Sは、基板43、ゲート電極44、ゲート絶縁体層45、および、半導体層41を備えている。ゲート電極44は、基板43における表面の一部に位置している。ゲート絶縁体層45は、ゲート電極44の全体と、ゲート電極44によって覆われていない基板43の表面とを覆っている。基板43は、例えば各種の樹脂から形成された樹脂基板、および、ガラス基板のいずれかであればよい。ゲート電極44の形成材料には、例えばモリブデンなどを用いることができる。ゲート絶縁体層45には、例えばシリコン酸化物層、または、シリコン酸化物層とシリコン窒化物層との積層体などを用いることができる。
【0036】
半導体層41は、薄膜トランジスタ40を構成する各層の積み重なる方向においてゲート電極44と重なる位置で、ゲート絶縁体層45の表面に位置している。薄膜トランジスタ40は、ソース電極46およびドレイン電極47をさらに備えている。ソース電極46およびドレイン電極47は、薄膜トランジスタ40の水平断面に沿う配列方向において、所定の間隔を空けて並んでいる。ソース電極46は、絶縁体層42の一部を覆っている。ドレイン電極47は、絶縁体層42における他の一部を覆っている。ソース電極46およびドレイン電極47の各々は、絶縁体層42に形成されたコンタクトホールを介して半導体層41と電気的に接続している。ソース電極46の形成材料、および、ドレイン電極47の形成材料は、例えば、モリブデンまたはアルミニウムなどであってよい。
【0037】
薄膜トランジスタ40は、保護膜48をさらに備えている。保護膜48は、ソース電極46およびドレイン電極47の両方から露出する絶縁体層42の部分、ソース電極46、および、ドレイン電極47を覆っている。保護膜48の形成材料は、例えばシリコン酸化物などであってよい。
【0038】
上述したように、薄膜トランジスタ40では、薄膜トランジスタ40の特性を安定化させる上で、シリコン酸化膜である絶縁体層42における水素原子の濃度が、1×1021個/cm以下であることが求められる。なお、以下では、水素原子の濃度を水素濃度とも言う。シリコン酸化膜の水素濃度は、シリコン酸化膜を形成する際の真空槽21内の圧力、および、Si(NCO)ガスの流量FSに対するOガスの流量FOの比(FO/FS)に依存する。なお、以下では、流量FSに対する流量FOの比を流量比とも言う。
【0039】
図3は、シリコン酸化膜の水素濃度と、真空槽21内の圧力との関係を流量比ごとに示すグラフである。なお、図3が示す水素濃度と真空槽21内の圧力との関係は、シリコン酸化物膜の形成における各条件が、以下のように設定されることによって得られたものである。
【0040】
・Si(NCO)ガス流量 55sccm
・高周波電力 4000W
・電極面積 2700cm
図3が示すように、真空槽21内の圧力が50Paである場合に、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成することが可能である。また、真空槽21内の圧力が175Paまたは350Paである場合にも、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成することが可能である。1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成するためには、流量比の値は、真空槽21内の圧力が高くなるほど大きくなる傾向を有する。そして、真空槽21内の圧力が500Paである場合には、流量比が100であっても、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成することが難しい。ここで、酸素含有ガス供給部13、および、Si(NCO)ガス供給部35が供給する実用的なガスの流量に鑑みれば、流量比を100よりも大きくすることは実用的でない。そのため、真空槽21内の圧力は、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成するためには、50Pa以上500Pa未満であることが必要である。
【0041】
また、流量比を1以上100以下に設定することによって、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜が形成されやすくなる。それゆえに、流量比は1以上100以下に設定されることが好ましい。また、シリコン酸化膜の形成において、流量比が、2以上100以下であり、かつ、真空槽21内の圧力が、50Pa以上350Pa以下であることがより好ましい。これにより、シリコン酸化膜の水素濃度が1×1021個/cm以下となる確実性を高めることができる。
【0042】
なお、真空槽21内の圧力が50Pa以上500Pa未満であり、かつ、流量比が1以上100以下である場合には、シリコン酸化膜の成膜レートが100nm/min以上200nm/min以下程度の実用的な値でもある。
【0043】
図4は、第1配管11に供給されるOガスの流量と、真空槽21内の圧力、すなわち第1圧力計P1の圧力とが各値に設定された場合に、第2圧力計P2において測定された圧力を示す表である。上述したように、1×1021個/cm以下の水素濃度を有したシリコン酸化膜を形成するためには、真空槽21内の圧力は、500Pa未満であることが必要である。また、流量比は最大でも100であることから、Si(NCO)ガスの流量が55sccmに設定された場合には、Oガスの流量における最大値は5500sccmである。そのため、第1配管11内の圧力は、最低でも1500Paであれば、言い換えれば、Si(NCO)ガスの蒸気圧が1500Paであれば、Oガスの流量、および、真空槽21内の流量に関わらず、Si(NCO)ガスを気化させた状態でSi(NCO)ガスを真空槽21に供給することが可能である。
【0044】
図5は、Si(NCO)ガスの飽和蒸気圧曲線である。
【0045】
図5が示すように、Si(NCO)ガスの温度が83℃であることによって、Si(NCO)ガスの飽和蒸気圧が1500Paに達する。そのため、Si(NCO)ガスの温度、すなわちSi(NCO)ガスが供給される第1配管11の温度は、83℃以上であることが必要である。また、Si(NCO)の沸点は、186℃である。そのため、第1配管11の温度における上限値は、Si(NCO)ガスの沸点近傍の値である180℃に設定すれば、Si(NCO)ガスを真空槽21内に確実に供給することが可能である。
【0046】
[試験例]
図6から図8を参照して、試験例を説明する。
【0047】
[成膜条件]
図2を参照して先に説明した薄膜トランジスタが備える層のうち、半導体層と絶縁体層とを以下の条件で形成した。
【0048】
[半導体層]
・ターゲット InGaZnO
・スパッタガス アルゴン(Ar)ガス/酸素(O)ガス
・スパッタガスの流量 80sccm(Ar)/6sccm(O
・成膜空間の圧力 0.3Pa
・ターゲットに印加される電力 240W
・ターゲットの面積 81cm(直径4インチ)
[絶縁体層]
・Si(NCO)ガスの流量 55sccm
・酸素ガスの流量 16.5sccm以上5500sccm以下
・真空槽内の圧力 50Pa以上500Pa以下
・高周波電力 4000W以下
・電極の面積 2700cm
[評価]
[水素原子の濃度]
各薄膜トランジスタが備える絶縁体層における水素原子の濃度の測定には、二次イオン質量分析装置(ADEPT1010、アルバック・ファイ(株)製)を用いた。各絶縁体層における水素原子の濃度は、図3に示される通りの値であることが認められた。
【0049】
[キャリア濃度]
各積層体が備える半導体層においてキャリア濃度を測定した。キャリア濃度の測定には、ホール効果測定器(HL55001U、ナノメトリクス社製)を用いた。
【0050】
図6が示すように、絶縁体層における水素原子の濃度が1×1021個/cmよりも大きいときには、半導体層41におけるキャリアの濃度が1×1016個/cmよりも大きいことが認められた。これに対して、絶縁体層における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下であるときには、半導体層におけるキャリアの濃度が1×1013個/cmよりも小さいことが認められた。
【0051】
すなわち、絶縁体層における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下であることによって、水素原子の濃度が1×1021個/cmよりも大きい絶縁体層と比べて、半導体層におけるキャリアの濃度が顕著に小さくなることが認められた。絶縁体層における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下であることによって、絶縁体層の下層である半導体層の還元による酸素の欠損が顕著に抑えられたため、こうした結果が得られたと考えられる。
【0052】
[試験例1]
図2を参照して先に説明した構造を有する薄膜トランジスタであって、ゲート電極、ゲート絶縁体層、半導体層、絶縁体層、ソース電極、ドレイン電極、および、保護膜を備える試験例1の薄膜トランジスタを形成した。なお、試験例1の薄膜トランジスタでは、半導体層の成膜条件を上述した条件とし、絶縁体層の成膜条件を以下の条件とした。絶縁体層における水素原子の濃度を上述した方法によって測定したところ、5x1019個/cmであることが認められた。
【0053】
・Si(NCO)ガス流量 55sccm
・酸素ガスの流量 2500sccm
・真空槽内の圧力 175Pa
・高周波電力 4000W
・電極面積 2700cm
また、試験例1の薄膜トランジスタでは、ゲート電極、ソース電極、および、ドレイン電極の形成材料をモリブデンとし、ゲート絶縁体層の形成材料をシリコン酸化物とし、保護層の形成材料をシリコン酸化物とした。
【0054】
[試験例2]
絶縁体層の成膜条件を以下の条件とした以外は、試験例1と同じ方法で試験例2の薄膜トランジスタを形成した。なお、絶縁体層における水素原子の濃度を上述した方法によって測定したところ、2×1021個/cmであることが認められた。
【0055】
・成膜ガス シラン(SiH
・成膜ガスの流量 70sccm
・NOガスの流量 3500sccm
・成膜空間の圧力 200Pa
・高周波電力 800W
・電極の面積 2700cm
[評価]
半導体パラメータアナライザ(4155C、アジレント・テクノロジー社製)を用いて、試験例1の薄膜トランジスタ、および、試験例2の薄膜トランジスタの各々におけるトランジスタ特性、すなわち電圧(Vg)‐電流(Id)特性を測定した。トランジスタ特性の測定条件を以下のように設定した。
【0056】
・ソース電圧 0V
・ドレイン電圧 5V
・ゲート電圧 −15Vから20V
・ガラス基板の温度 室温
図7が示すように、試験例1の薄膜トランジスタでは、閾値電圧が5.3Vであり、オン電圧が0.66Vであり、電子移動度が10.2cm/Vsであり、サブスレッショルドスイング値が0.31V/decadeであることが認められた。なお、オン電圧は、ドレイン電流が10−9A/cmであるときのゲート電圧である。このように、試験例1の薄膜トランジスタであれば、すなわち、水素原子の濃度が1×1021個/cm以下である絶縁体層を備える薄膜トランジスタであれば、薄膜トランジスタが正常に動作すること、言い換えれば、トランジスタ特性が安定であることが認められた。
【0057】
これに対して、図8が示すように、試験例2の薄膜トランジスタであって、水素原子の濃度が1×1021個/cmよりも大きい絶縁体層を備える薄膜トランジスタは正常に動作しない、言い換えれば、トランジスタ特性が不安定であることが認められた。
【0058】
以上説明したように、プラズマCVD装置、および、プラズマCVD法の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0059】
(1)水素を含まないSi(NCO)ガスを用いてシリコン酸化膜を形成することが可能である。そのため、シランやテトラエトキシシランなどの水素を含むガスを用いてシリコン酸化膜を形成する場合に比べて、シリコン酸化膜における水素原子の濃度を低くすることが可能である。
【0060】
(2)流量比が1以上100以下であることによって、シリコン酸化膜における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下であるシリコン酸化膜を形成することが可能である。
【0061】
(3)流量比が2以上100以下であり、かつ、真空槽21内の圧力が50Pa以上350Pa以下であることによって、シリコン酸化膜における水素原子の濃度が1×1021個/cm以下である確実性が高まる。
【0062】
(4)Si(NCO)ガスとOガスとが第1配管11内で混合され、これらの混合ガスが真空槽21内に供給される。そのため、真空槽21内における酸素濃度のばらつきが抑えられ、結果として、真空槽21内で形成されたシリコン酸化膜における特性のばらつきを抑えることが可能である。
【0063】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
【0064】
[第2配管]
・第2配管14は、第1配管11の途中に接続されるのではなく、真空槽21に直接接続されてもよい。この場合には、第2配管14は、例えばガスを拡散させる拡散部として機能する電極22に接続されてもよいし、真空槽21に形成された供給孔に接続されてもよい。
【0065】
[電極]
・電極22は、拡散部としての機能を有しなくてもよい。この場合には、例えば、プラズマCVD装置10は、真空槽21内に位置する拡散部を電極とは別に備えてもよい。あるいは、プラズマCVD装置10が拡散部を備えず、かつ、第1配管11が真空槽21に形成された供給孔に接続されてもよい。
【0066】
[イソシアネートシラン]
・イソシアネートシランガスは、イソシアネート基を含み、かつ、水素を含まないガスである。イソシアネートシランガスは、上述したテトライソシアネートシランガスに代えて、例えば、Si(NCO)Clガス、Si(NCO)Clガス、および、Si(NCO)Clガスから選択されるいずれか1つであってもよい。
【0067】
[酸素含有ガス]
・酸素含有ガスは、上述した酸素ガスに代えて、例えば、オゾン(O)ガス、酸化二窒素(NO)ガス、一酸化炭素(CO)ガス、および、二酸化炭素(CO)ガスから選択されるいずれか1つであってもよい。
【0068】
[シリコン酸化膜]
・シリコン酸化膜は、薄膜トランジスタが備える絶縁体層に限らず、例えば、Si半導体デバイス、強誘電体デバイス、パワー半導体デバイス、化合物半導体デバイス、および、SAWデバイスなどが備える絶縁体層であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…プラズマCVD装置、11…第1配管、12…温調部、13…酸素含有ガス供給部、14…第2配管、20…真空チャンバー、21…真空槽、22…電極、23…電源、24…支持部、25…排気部、30…貯蔵部、31…収容槽、32…恒温槽、33…タンク、34…タンク温調部、35…Si(NCO)ガス供給部、36…Si(NCO)ガス配管、40…薄膜トランジスタ、41…半導体層、41s…表面、42…絶縁体層、43…基板、44…ゲート電極、45…ゲート絶縁体層、46…ソース電極、47…ドレイン電極、48…保護膜、P1…第1圧力計、P2…第2圧力計、S…成膜対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8