特許第6983374号(P6983374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6983374
(24)【登録日】2021年11月26日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20211206BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20211206BHJP
   G01B 9/02 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   G01B11/06 G
   G01B11/00 G
   G01B9/02
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-226121(P2016-226121)
(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公開番号】特開2018-84434(P2018-84434A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年10月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】林 恭平
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−139511(JP,A)
【文献】 特開平06−117824(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/011148(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物までの距離と前記測定対象物の厚みとを同時に測定する測定装置において、
波長掃引光を出射する波長掃引光源と、
前記測定対象物とは異なる位置に設けられており、前記波長掃引光源から出射された前記波長掃引光の一部を参照光とする参照光生成部と、
前記波長掃引光源から出射され且つ前記一部とは異なる前記波長掃引光を、前記測定対象物の第1面に向けて出射する光出射部と、
前記参照光生成部にて生成された前記参照光と、前記光出射部からの前記波長掃引光の出射により、前記測定対象物の前記第1面で反射された前記波長掃引光の第1反射光と、前記測定対象物を透過して前記測定対象物の前記第1面とは反対側の第2面で反射された前記波長掃引光の第2反射光と、の干渉信号を検出する信号検出部と、
前記第1反射光及び前記参照光の干渉信号成分を第1干渉信号成分とし、前記第1干渉信号成分のピーク周波数を第1ピーク周波数とした場合、前記信号検出部が検出した前記干渉信号から前記第1ピーク周波数を検出し、前記第1ピーク周波数から前記第1面までの距離を検出する距離検出部と、
前記第2反射光及び前記参照光の干渉信号成分を第2干渉信号成分とし、前記第1反射光及び前記第2反射光の干渉信号成分を第3干渉信号成分とした場合、前記信号検出部が検出した前記干渉信号の前記第1干渉信号成分及び前記第2干渉信号成分に基づき、前記第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成する信号生成部と、
前記第2干渉信号成分のピーク周波数を第2ピーク周波数とした場合、前記信号生成部が生成した前記等価干渉信号成分から、前記第1ピーク周波数と前記第2ピーク周波数との差を示す差周波数を検出し、前記差周波数に基づき前記測定対象物の前記第1面と前記第2面との間の厚みを検出する厚み検出部と、
を備え、
前記信号生成部は、
前記干渉信号から、少なくとも前記第1ピーク周波数よりも低い周波数領域に含まれる前記第3干渉信号成分及びノイズの信号ピークを除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部により前記フィルタ処理された前記干渉信号を二乗演算処理して、前記等価干渉信号成分を生成する二乗演算部と、を備え、
前記厚み検出部は、前記二乗演算部により二乗された前記干渉信号を周波数解析して、前記差周波数を検出する測定装置。
【請求項2】
前記参照光生成部は、前記波長掃引光の前記一部を反射して前記参照光とする参照面である請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記波長掃引光源から出射された前記波長掃引光を、前記光出射部に入力する光ファイバーケーブルを備え、
前記光出射部は、前記光ファイバーケーブルの前記波長掃引光を出射する出射端側に接続されたセンサヘッドであって、前記波長掃引光を前記第1面に向けて出射し、且つ前記第1面で反射された前記第1反射光と前記第2面で反射された前記第2反射光とが入射するセンサヘッドであり、
前記参照面は、前記光ファイバーケーブルの前記出射端側の端面である請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記光出射部は、前記波長掃引光源から出射された前記波長掃引光を光分割して前記第1面と前記参照面とに向けてそれぞれ出射し、且つ前記第1面で反射された前記第1反射光と、前記第2面で反射された前記第2反射光と、前記参照面で反射された前記参照光とがそれぞれ入射する光分割部である請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
測定対象物までの距離と前記測定対象物の厚みとを同時に測定する測定方法において、
前記測定対象物とは異なる位置において、波長掃引光源から出射された波長掃引光の一部を参照光とする参照光生成ステップと、
前記波長掃引光源から出射され且つ前記一部とは異なる前記波長掃引光を、前記測定対象物の第1面に向けて出射する光出射ステップと、
前記参照光生成ステップにて生成された前記参照光と、前記光出射ステップでの前記波長掃引光の出射により、前記測定対象物の前記第1面で反射された前記波長掃引光の第1反射光と、前記測定対象物を透過して前記測定対象物の前記第1面とは反対側の第2面で反射された前記波長掃引光の第2反射光と、の干渉信号を検出する信号検出ステップと、
前記第1反射光及び前記参照光の干渉信号成分を第1干渉信号成分とし、前記第1干渉信号成分のピーク周波数を第1ピーク周波数とした場合、前記信号検出ステップで検出した前記干渉信号から前記第1ピーク周波数を検出し、前記第1ピーク周波数から前記第1面までの距離を検出する距離検出ステップと、
前記第2反射光及び前記参照光の干渉信号成分を第2干渉信号成分とし、前記第1反射光及び前記第2反射光の干渉信号成分を第3干渉信号成分とした場合、前記信号検出ステップで検出した前記干渉信号の前記第1干渉信号成分及び前記第2干渉信号成分に基づき、前記第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成する信号生成ステップと、
前記第2干渉信号成分のピーク周波数を第2ピーク周波数とした場合、前記信号生成ステップにて生成した前記等価干渉信号成分から、前記第1ピーク周波数と前記第2ピーク周波数との差を示す差周波数を検出し、前記差周波数に基づき前記測定対象物の前記第1面と前記第2面との間の厚みを検出する厚み検出ステップと、
を有し、
前記信号生成ステップは、
前記干渉信号から、少なくとも前記第1ピーク周波数よりも低い周波数領域に含まれる前記第3干渉信号成分及びノイズの信号ピークを除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理ステップと、
前記フィルタ処理ステップで前記フィルタ処理された前記干渉信号を二乗演算処理して、前記等価干渉信号成分を生成する二乗演算ステップと、を備え、
前記厚み検出ステップは、前記二乗演算ステップで二乗された前記干渉信号を周波数解析して、前記差周波数を検出する測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物までの距離と測定対象物の厚みとを同時に測定する測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で測定対象物の厚みを測定する方法として、分光エリプソメトリ法と、分光干渉法とが知られている。分光エリプソメトリ法は、入射光と反射光との偏光状態の変化から、測定対象物の厚み等を測定する方法であり、5μm以下の厚みを測定可能で且つ測定対象物の屈折率が未知でも厚みが測定可能というメリットを有する一方、測定作業が煩雑になり且つセンサヘッドが大きくインライン測定に不向きというデメリットを有する。また、分光干渉法は、測定対象物の表裏面(境界面)からの多重反射光を干渉させ、その分光特性(位相差)に基づき測定対象物の厚みを測定する方法であり、センサヘッドが小型でインライン測定に向くというメリットを有する一方、測定可能な厚みの上限が1.0mm程度であるというデメリットを有する。
【0003】
そして、分光エリプソメトリ法及び分光干渉法の双方共に、センサヘッドから測定対象物までの距離、すなわち、この距離の変化に相当する測定対象物の変位を同時に測定することができないというデメリットをさらに有している。
【0004】
一方、非接触で測定対象物の変位(距離)を測定する方法としては、波長を変化させながら光(波長掃引光)を出射する波長掃引光源を用いて測定を行う方法が知られている。この方法では、測定対象物とは異なる位置に配置された参照面で反射された波長掃引光である参照光と、測定対象物のセンサヘッドに対向する側の第1面で反射された波長掃引光の反射光との干渉信号を検出し、この干渉信号を周波数解析(フーリエ変換)して信号強度が最大となるピーク周波数を検出した結果に基づき、測定対象物の変位(距離)を検出することができる。
【0005】
また、波長掃引光源を用いる測定方法では、測定対象物の第1面を参照面に設定して測定を行うことで、上述の分光エリプソメトリ法及び分光干渉法と同様に、非接触で測定対象物の厚みを測定することができる(特許文献1及び2参照)。具体的には、第1面で反射した反射光と測定対象物の第1面とは反対側の第2面で反射した反射光との干渉信号を検出し、この干渉信号を周波数解析(フーリエ変換)して信号強度が最大となるピーク周波数を検出した結果に基づき第1面と第2面との間の厚みを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−2509号公報
【特許文献2】特開2013−96858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、分光エリプソメトリ法及び分光干渉法を採用した場合、並びに、波長掃引光源を用いる測定方法において参照面を測定対象物の第1面に設定した場合には、測定対象物の厚みの測定は可能であるが、測定対象物の変位を同時に検出することができない。
【0008】
一方、波長掃引光源を用いる測定方法において参照面を測定対象物とは異なる位置に設定した場合には、測定対象物の第1面で反射した反射光と、第2面で反射した反射光と、参照面で反射した参照光との干渉信号を検出することで、測定対象物の変位の測定と同時に、測定対象物の厚みを測定することができる。
【0009】
図11は、波長掃引光源を用いる測定方法において、参照面を測定対象物とは異なる位置に設定した場合に得られる干渉信号を周波数解析した結果(周波数スペクトル)の一例を示した説明図である。ここでは測定対象物として、厚み200μmのシリコンウェハ(波長λ=1.532μmに対して屈折率3.4784、温度係数1.8×10−5)を用いている。
【0010】
図11に示すように、干渉信号を周波数解析した場合、測定対象物の第1面で反射された反射光と参照光との干渉信号成分の信号ピークP1と、測定対象物の第2面で反射された反射光と参照光との干渉信号成分の信号ピークP2と、第1面で反射された反射光と第2面で反射された反射光との干渉信号成分の信号ピークP3と、が検出される。
【0011】
信号ピークP1の周波数は、第1面で反射された反射光と参照光との光路長差に対応して検出される第1ピーク周波数fであり、前述の第1面までの距離、すなわち測定対象物の距離(変位)を示す。また、信号ピークP2の周波数は、第2面で反射された反射光と参照光との光路長差に対応して検出される第2ピーク周波数fであり、前述の第2面までの距離を示す。さらに信号ピークP3の周波数は、第1面で反射された反射光と第2面で反射された反射光との光路長差、すなわち測定対象物の第1面と第2面との厚みに対応して検出される第3ピーク周波数fである。従って、第3ピーク周波数fを検出することで、測定対象物の厚みを測定することが考えられる。
【0012】
しかしながら、信号ピークP3の周辺には、センサヘッド内のレンズ等で反射した波長掃引光の反射光(不要な反射光)に起因するノイズピークNPが発生する。そして、特に測定対象物の厚みが薄くなるほどノイズピークの数が増加するため、第3ピーク周波数fの検出精度が低下し、その結果、測定対象物の厚みの測定精度が低下する。
【0013】
これに対して、例えば信号ピークP1及び信号ピークP2にそれぞれ対応する各ピーク周波数f,fの差である差周波数ΔF(ΔF=f−f)に基づき、第1面及び第2面でそれぞれ反射された反射光の光路長差に相当する測定対象物の厚みを測定することも考えられる。
【0014】
図12は、信号ピークP1及び信号ピークP2の差周波数ΔFに基づき、測定対象物としてシリコンウェハ(Siウェハ)の厚みを測定する場合の課題を説明するための説明図である。ここで、図12の上段は、厚み33.6μmのシリコンウェハの周波数解析結果であり、図12の下段は、厚み11.7μmのシリコンウェハの周波数解析結果である。
【0015】
図12の上段に示すように、測定対象物の厚みが薄くなるほど信号ピークP1と信号ピークP2とが互いに干渉し合うため、第1ピーク周波数fと第2ピーク周波数fとを精度よく検出できなくなる。そして、図12の下段に示すように、測定対象物の厚みがさらに薄くなると信号ピークP1と信号ピークP2との弁別が不可能になったりする。このため、測定対象物の厚みの測定精度が低下する。
【0016】
このように波長掃引光源を用いた測定において、参照面を測定対象物とは異なる位置に設定した場合には、測定対象物の変位(距離)及び厚みの同時測定は可能であるものの、測定対象物の厚みの測定精度が低下するという問題が発生する。
【0017】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、測定対象物までの距離と測定対象物の厚みとを同時に測定する場合に、測定対象物の厚みを精度良く測定することができる測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的を達成するための測定装置は、測定対象物までの距離と測定対象物の厚みとを同時に測定する測定装置において、波長掃引光を出射する波長掃引光源と、測定対象物とは異なる位置に設けられており、波長掃引光源から出射された波長掃引光の一部を参照光とする参照光生成部と、波長掃引光源から出射され且つ一部とは異なる波長掃引光を、測定対象物の第1面に向けて出射する光出射部と、参照光生成部にて生成された参照光と、光出射部からの波長掃引光の出射により、測定対象物の第1面で反射された波長掃引光の第1反射光と、測定対象物を透過して測定対象物の第1面とは反対側の第2面で反射された波長掃引光の第2反射光と、の干渉信号を検出する信号検出部と、第1反射光及び参照光の干渉信号成分を第1干渉信号成分とし、第1干渉信号成分のピーク周波数を第1ピーク周波数とした場合、信号検出部が検出した干渉信号から第1ピーク周波数を検出し、第1ピーク周波数から第1面までの距離を検出する距離検出部と、第2反射光及び参照光の干渉信号成分を第2干渉信号成分とし、第1反射光及び第2反射光の干渉信号成分を第3干渉信号成分とした場合、信号検出部が検出した干渉信号の第1干渉信号成分及び第2干渉信号成分に基づき、第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成する信号生成部と、第2干渉信号成分のピーク周波数を第2ピーク周波数とした場合、信号生成部が生成した等価干渉信号成分から、第1ピーク周波数と第2ピーク周波数との差を示す差周波数を検出し、差周波数に基づき測定対象物の第1面と第2面との間の厚みを検出する厚み検出部と、を備える。
【0019】
この測定装置によれば、干渉信号の第1干渉信号成分及び第2干渉信号成分に基づき第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成し、この等価干渉信号成分から検出した差周波数に基づき測定対象物の厚みを検出するため、測定対象物の厚みを高精度に測定することができる。
【0020】
本発明の他の態様に係る測定装置において、信号生成部は、干渉信号から、少なくとも第1ピーク周波数よりも低い周波数領域に含まれる信号ピークを除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、フィルタ処理部によりフィルタ処理された干渉信号を二乗演算処理して、等価干渉信号成分を生成する二乗演算部と、を備え、厚み検出部は、二乗演算部により二乗された干渉信号を周波数解析して、差周波数を検出する。これにより、第1干渉信号成分及び第2干渉信号成分に基づき、第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成することができる。
【0021】
本発明の他の態様に係る測定装置において、参照光生成部は、波長掃引光の一部を反射して参照光とする参照面である。これにより、測定対象物とは異なる位置で参照光を生成することができるので、距離及び厚みの測定に必要な干渉信号の検出が可能となる。
【0022】
本発明の他の態様に係る測定装置において、波長掃引光源から出射された波長掃引光を、光出射部に入力する光ファイバーケーブルを備え、光出射部は、光ファイバーケーブルの波長掃引光を出射する出射端側に接続されたセンサヘッドであって、波長掃引光を第1面に向けて出射し、且つ第1面で反射された第1反射光と第2面で反射された第2反射光とが入射するセンサヘッドであり、参照面は、光ファイバーケーブルの出射端側の端面である。これにより、測定対象物とは異なる位置で参照光を生成することができるので、距離及び厚みの測定に必要な干渉信号の検出が可能となる。
【0023】
本発明の他の態様に係る測定装置において、光出射部は、波長掃引光源から出射された波長掃引光を光分割して第1面と参照面とに向けてそれぞれ出射し、且つ第1面で反射された第1反射光と、第2面で反射された第2反射光と、参照面で反射された参照光とがそれぞれ入射する光分割部である。これにより、測定対象物とは異なる位置で参照光を生成することができるので、距離及び厚みの測定に必要な干渉信号の検出が可能となる。
【0024】
本発明の目的を達成するための測定方法は、測定対象物までの距離と測定対象物の厚みとを同時に測定する測定方法において、測定対象物とは異なる位置において、波長掃引光源から出射された波長掃引光の一部を参照光とする参照光生成ステップと、波長掃引光源から出射され且つ一部とは異なる波長掃引光を、測定対象物の第1面に向けて出射する光出射ステップと、参照光生成ステップにて生成された参照光と、光出射ステップでの波長掃引光の出射により、測定対象物の第1面で反射された波長掃引光の第1反射光と、測定対象物を透過して測定対象物の第1面とは反対側の第2面で反射された波長掃引光の第2反射光と、の干渉信号を検出する信号検出ステップと、第1反射光及び参照光の干渉信号成分を第1干渉信号成分とし、第1干渉信号成分のピーク周波数を第1ピーク周波数とした場合、信号検出ステップで検出した干渉信号から第1ピーク周波数を検出し、第1ピーク周波数から第1面までの距離を検出する距離検出ステップと、第2反射光及び参照光の干渉信号成分を第2干渉信号成分とし、第1反射光及び第2反射光の干渉信号成分を第3干渉信号成分とした場合、信号検出ステップで検出した干渉信号の第1干渉信号成分及び第2干渉信号成分に基づき、第3干渉信号成分と等価な等価干渉信号成分を生成する信号生成ステップと、第2干渉信号成分のピーク周波数を第2ピーク周波数とした場合、信号生成ステップにて生成した等価干渉信号成分から、第1ピーク周波数と第2ピーク周波数との差を示す差周波数を検出し、差周波数に基づき測定対象物の第1面と第2面との間の厚みを検出する厚み検出ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の測定装置及び測定方法は、測定対象物までの距離と測定対象物の厚みとを同時に測定する場合に、測定対象物の厚みを精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】波長掃引光を用いて非接触で測定対象物の変位(距離)と厚みとを同時に測定する測定装置の概略図である。
図2】波長掃引光源から出射される波長掃引光の波長の時間変化の一例を示したグラフである。
図3】センサヘッドの拡大図である。
図4】制御装置の構成を示すブロック図である。
図5】干渉信号の周波数解析結果(周波数スペクトル)の一例を示したグラフである。
図6】干渉信号に対するフィルタ処理部による信号処理と二乗演算部による信号処理とを説明するための説明図である。
図7】厚み検出部による厚み検出の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】厚み検出部によるローパスフィルタ処理を説明するための説明図である。
図9】測定装置による測定対象物の変位(距離)及び厚みの同時測定処理の流れを示すフローチャートである。
図10】他実施形態の測定装置の一例を示した概略図である。
図11】波長掃引光源を用いる測定方法において、参照面を測定対象物とは異なる位置に設定した場合に得られる干渉信号を周波数解析した結果(周波数スペクトル)の一例を示した説明図である。
図12】信号ピークP1及び信号ピークP2の差周波数ΔFに基づき、測定対象物としてシリコンウェハの厚みを測定する場合の課題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[測定装置の構成]
図1は、波長掃引光Lを用いて非接触で測定対象物9の変位(距離D)と厚みTHとを同時に測定(計測)する測定装置10の概略図である。なお、測定対象物9の変位とは、主として図中の矢印A方向(後述の波長掃引光Lの出射方向)の変位であり、ここでは測定対象物9の振動も含まれる。また、測定対象物9の距離Dとは、測定装置10[本実施形態では後述の端面19(参照面)]から測定対象物9(第1面9a)までの距離である。さらに、測定対象物9の厚みTHとは、本実施形態では測定対象物9の第1面9aと第2面9bとの間隔(長さ)である。
【0028】
図1に示すように、測定装置10は、波長掃引光源12と、ファイバーサーキュレータ13(光サーキュレータともいう)と、センサヘッド14と、これら各部を接続する光経路である光ファイバーケーブル16A,16B,16Cと、光検出器17と、制御装置18と、を備える。
【0029】
波長掃引光源12は、光ファイバーケーブル16Aを介してファイバーサーキュレータ13と接続している。波長掃引光源12は、時間の経過と共に、一定の波長掃引周期(一定の波長掃引周波数)且つ一定波長帯で波長を正弦波状に変化させながら、光ファイバーケーブル16Aを介してファイバーサーキュレータ13へ波長掃引光Lを出射する。
【0030】
図2は、波長掃引光源12から出射される波長掃引光Lの波長の時間変化の一例を示したグラフである。ここで、図2のグラフの横軸は時刻(経過時間)であり、縦軸は波長掃引光源12から射出される波長掃引光Lの時刻毎の波長λ(nm)である。図2に示すように、波長掃引光源12は、例えば、約0.7msecの波長掃引周期毎に1540±50(nm)の波長帯で波長が正弦波(Sin波)状に変化する波長掃引光Lを出射する。
【0031】
図1に戻って、ファイバーサーキュレータ13は、既述の光ファイバーケーブル16Aを介して波長掃引光源12に接続している他、光ファイバーケーブル16Bを介してセンサヘッド14と接続し、さらに光ファイバーケーブル16Cを介して光検出器17と接続している。
【0032】
ファイバーサーキュレータ13は、例えば非往復方式且つ1方向型デバイスであって3つのポートを有しており、光ファイバーケーブル16Aを介して波長掃引光源12から入力された波長掃引光Lを光ファイバーケーブル16Bへ出力する。これにより、波長掃引光源12からの波長掃引光Lが、光ファイバーケーブル16Bを介してセンサヘッド14に入力される。また、ファイバーサーキュレータ13は、光ファイバーケーブル16Bを介して後述の干渉信号SGを光ファイバーケーブル16Cへ出力する。これにより、干渉信号SGが、光ファイバーケーブル16Cを介して光検出器17に入力される。
【0033】
図3は、センサヘッド14の拡大図である。図3に示すように、センサヘッド14は、本発明の光出射部及び参照光生成部に相当するものであり、測定対象物9の第1面9aに対向する位置に配置されている。なお、センサヘッド14に対する光ファイバーケーブル16Bの接続構造は図3に示した例に限定されるものではなく、公知の接続構造を採用することができる。
【0034】
センサヘッド14は、ファイバーサーキュレータ13から光ファイバーケーブル16Bを介して入力された波長掃引光Lを測定対象物9の第1面9aに向けて出射する。これにより、センサヘッド14から出射された波長掃引光Lの一部が第1面9aにて反射され、第1反射光R1としてセンサヘッド14に入射する。また、第1面9aから測定対象物9を透過した波長掃引光Lの一部が第1面9aとは反対側の第2面9bで反射され、第2反射光R2としてセンサヘッド14に入射する。そして、第1反射光R1及び第2反射光R2は、センサヘッド14から光ファイバーケーブル16Bに入力される。
【0035】
光ファイバーケーブル16Bのセンサヘッド14に接続される側の端面19、すなわち、波長掃引光Lをセンサヘッド14へ出射する出射端側の端面19は、波長掃引光Lの一部をファイバーサーキュレータ13に向けて反射する参照面として機能する。これにより、波長掃引光Lの一部が端面19(参照面)でファイバーサーキュレータ13に向けて反射されて、参照光R3となる。このため、光ファイバーケーブル16Bにおいて第1反射光R1と第2反射光R2と参照光R3とが互いに干渉し、第1反射光R1と第2反射光R2と参照光R3との干渉信号SG(干渉光)がファイバーサーキュレータ13に入力される。
【0036】
干渉信号SGには、第1反射光R1及び参照光R3の干渉信号成分である第1干渉信号成分sg1と、第2反射光R2及び参照光R3の干渉信号成分である第2干渉信号成分sg2と、第1反射光R1及び第2反射光R2の干渉信号成分である第3干渉信号成分sg3と、が含まれる。なお、干渉信号SGには、センサヘッド14内の不図示のレンズによる不要反射によって発生するノイズ光RNも含まれている。そして、干渉信号SGは、ファイバーサーキュレータ13及び光ファイバーケーブル16Cを介して光検出器17に入力される。
【0037】
図1に戻って、光検出器17は、本発明の信号検出部に相当するものであり、例えばCCD(Charge Coupled Device)型又はCMOS(complementary metal oxide semiconductor)型のイメージセンサ、或いはシリコンフォトダイオードが用いられる。光検出器17は、ファイバーサーキュレータ13から光ファイバーケーブル16Cを介して入力(入射)された干渉信号SGを電気信号に変換及び増幅して制御装置18へ出力する。
【0038】
制御装置18は、例えばパーソナルコンピュータ等の演算処理装置であり、波長掃引光源12及び光検出器17などの測定装置10の各部の動作を制御する。また、制御装置18は、光検出器17から入力された干渉信号SGを解析して、測定対象物9の変位(距離D)と厚みTHとをそれぞれ同時に測定(演算)する。
【0039】
[制御装置の構成]
図4は、制御装置18の構成を示すブロック図である。図4に示すように、制御装置18は、制御部21と表示部22と記憶部23とを備えている。制御部21は、例えばCPU(Central Processing Unit)或いはFPGA(field-programmable gate array)を含む各種の演算部と処理部とメモリ等により構成されている。この制御部21は、メモリ等から読み出した不図示の制御プログラムを実行することで、測定制御部25と、干渉信号取得部26と、第1測定部27と、第2測定部28として機能する。
【0040】
測定制御部25は、波長掃引光源12による波長掃引光Lの出射、及び光検出器17による干渉信号SGの出力などを制御する。干渉信号取得部26は、光検出器17から図示しない信号入力インターフェースを介して干渉信号SGを取得し、この干渉信号SGを第1測定部27と第2測定部28とへそれぞれ出力する。
【0041】
<第1測定部による測定対象物の変位測定>
第1測定部27は、干渉信号取得部26から入力された干渉信号SGを解析して、測定対象物9の変位(距離D)を測定する。この第1測定部27は、周波数解析部30及び距離検出部31として機能する。
【0042】
周波数解析部30は、干渉信号取得部26から入力された干渉信号SGに対して、フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)による周波数解析を行う。
【0043】
図5は、干渉信号SGの周波数解析結果(周波数スペクトル)の一例を示したグラフであって、且つ既述の図11に示したグラフを簡略化したものである。図5に示すように、干渉信号SGの周波数解析結果(周波数スペクトル)には、第1干渉信号成分sg1の信号ピークP1、第2干渉信号成分sg2の信号ピークP2、第3干渉信号成分sg3の信号ピークP3、及び前述のノイズ光RNに起因するノイズピークNPが含まれる。
【0044】
信号ピークP1は、第1面9aで反射した第1反射光R1と参照光R3との光路長差に対応して検出される。信号ピークP2は、第2面9bで反射した第2反射光R2と参照光R3との光路長差に対応して検出される。信号ピークP3は、第1反射光R1と第2反射光R2との光路長差に対応して検出される。そして、周波数解析部30は、干渉信号SGの周波数解析結果を距離検出部31へ出力する。
【0045】
図4に戻って、距離検出部31は、周波数解析部30から入力された干渉信号SGの周波数解析結果に基づき、この周波数解析結果から信号ピークP1に対応する第1ピーク周波数fを検出する。この第1ピーク周波数fと、第1反射光R1及び参照光R3の光路長差との間には相関関係があるので(特開2016−224086号公報参照)、この相関関係を事前に求めておくことにより、第1ピーク周波数fから光路長差が得られる。また、参照光R3の光路長は既知であるため、距離検出部31は、得られた光路長差から前述の距離Dを検出することができる。なお、この距離D(図1参照)を基に、例えばセンサヘッド14の先端面等の任意の基準面から第1面9aまでの距離を算出してもよい。
【0046】
以上のように、周波数解析部30は、光検出器17から干渉信号取得部26を介して時間的に連続して入力される干渉信号SGを順次に周波数解析し、周波数解析結果を距離検出部31へ順次に出力する。また、距離検出部31は、周波数解析部30より順次入力される各周波数解析結果からそれぞれ距離Dを検出する。ここで、測定対象物9の変位により、各周波数解析結果からそれぞれ検出される信号ピークP1の第1ピーク周波数fの周波数位置が変化し、この変化に伴って第1ピーク周波数fから求められる距離Dも変動する。これにより、測定対象物9の変位を測定することができる。
【0047】
第1測定部27は、測定対象物9の変位(距離D)の測定結果を表示部22と記憶部23とにそれぞれ出力する。
【0048】
<第2測定部による測定対象物の変位測定>
第2測定部28は、前述の第1測定部27による測定対象物9の変位測定と同時に、干渉信号取得部26から入力された干渉信号SGを解析して、測定対象物9の厚みTHを測定する。具体的に第2測定部28は、既述の図5及び図11図12で説明したノイズピークNPに起因する信号ピークP3の検出精度の低下、及び測定対象物9の薄型化による信号ピークP1及び信号ピークP2の差周波数ΔFの検出精度の低下又は検出不能という問題を解決するため、下記のアルゴリズムを用いて干渉信号SGから差周波数ΔFを検出する。
【0049】
第2測定部28は、フィルタ処理部33と、二乗演算部34と、周波数解析部35と、厚み検出部36として機能する。ここで、フィルタ処理部33と及び二乗演算部34は、本発明の信号生成部を構成する。
【0050】
図6は、干渉信号SGに対するフィルタ処理部33による信号処理と二乗演算部34による信号処理とを説明するための説明図である。なお、フィルタ処理部33及び二乗演算部34の各々による信号処理は、実際には時間領域で行われるが、ここでは各信号処理の理解を容易にするため周波数領域で説明する。
【0051】
図6の上段及び中段に示すように、フィルタ処理部33は、干渉信号取得部26から入力された干渉信号SGに対して、少なくとも第1ピーク周波数fよりも低い周波数領域に含まれる信号ピークを除去するフィルタ処理を行う。本実施形態のフィルタ処理部33は、フィルタ処理として、第1ピーク周波数fよりも低い周波数領域に含まれる信号ピークと、第2ピーク周波数fよりも高い周波数領域に含まれる信号ピークとを除去するバンドパスフィルタ処理を行うバンドパスフィルタである。
【0052】
ここでいう「第1ピーク周波数fよりも低い周波数領域」とは、厳密に第1ピーク周波数fよりも低い領域に限られず、第1ピーク周波数fの近傍の周波数を含む周波数領域よりも低い周波数領域を指す。また、「第2ピーク周波数fよりも高い周波数領域」についても、第2ピーク周波数fの近傍の周波数を含む周波数領域よりも高い周波数領域を指す。
【0053】
バンドパスフィルタ処理により、干渉信号SGに含まれる信号ピークP3及びその周辺の周波数領域に存在するノイズピークNPが除去される。そして、フィルタ処理部33は、バンドパスフィルタ処理後の干渉信号SGを二乗演算部34へ出力する。
【0054】
なお、フィルタ処理部33(バンドパスフィルタ)としては、例えば干渉信号SGの中で除去する周波数領域(透過を許容する周波数領域)を可変可能な可変フィルタが用いられる。この場合、フィルタ処理部33は、例えば、前述の周波数解析部30による周波数解析結果を参照して、第1ピーク周波数f及び第2ピーク周波数fを判別し、この判別結果に基づき、干渉信号SGの中で除去する周波数領域を決定する。
【0055】
また、フィルタ処理部33(バンドパスフィルタ)は、除去する周波数領域が固定式のものであってもよい。この場合には、第1ピーク周波数f及び第2ピーク周波数fを含む周波数領域の信号が透過し、且つ信号ピークP3及びその周辺のノイズピークNPを含む周波数領域の信号が除去されるように、除去する周波数領域を実験又はシミュレーションで決定する。
【0056】
図6の下段に示すように、二乗演算部34は、バンドパスフィルタ処理された干渉信号SGに対して二乗演算処理を施す。これにより、下記の[数1]式に示すような公知の三角関数の公式によって、第1ピーク周波数f及び第2ピーク周波数fの差(周波数差:f−f)に相当するピーク周波数を有する干渉信号と、両者の和(周波数和:f+f)に相当するピーク周波数を有する干渉信号とが形成される。その結果、第1干渉信号成分sg1と第2干渉信号成分sg2とに基づいて、前述の第3干渉信号成分sg3と等価な等価干渉信号成分sg4が生成される。
【0057】
【数1】
【0058】
等価干渉信号成分sg4の信号ピークを信号ピークP4とし、この信号ピークP4に対応するピーク周波数を第4ピーク周波数fとした場合、この第4ピーク周波数fは、前述の第3ピーク周波数fと等価である。このため、第4ピーク周波数fは、前述の第3ピーク周波数fと同様に差周波数ΔF(=f−f)に相当し、測定対象物9の厚みTHを示す。
【0059】
このように、二乗演算部34によって干渉信号SGに対し二乗演算処理を施すことにより、二乗演算処理後の干渉信号SGの周波数解析結果から差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)が検出可能となる。この際に、前述のバンドパスフィルタ処理によりノイズピークNPは除去されているため、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)を高精度で検出することができる。そして、二乗演算部34は、二乗演算処理を施した干渉信号SGを周波数解析部35(図4参照)へ出力する。
【0060】
なお、二乗演算部34は、後述の厚み検出部36からのリクエストに応じて、二乗演算処理を施した干渉信号SG(時間領域)を厚み検出部36へ出力する。
【0061】
図4に戻って、周波数解析部35は、二乗演算部34から入力された二乗変換処理後の干渉信号SG(時間領域)を周波数解析(フーリエ変換)する。これにより、既述の図6の下段に示したような二乗変換処理後の干渉信号SGの周波数解析結果が得られる。そして、周波数解析部35は、干渉信号SGの周波数解析結果を厚み検出部36へ出力する。
【0062】
厚み検出部36は、周波数解析部35より入力された干渉信号SGの周波数解析結果から、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)を検出し、この差周波数ΔFに基づき測定対象物9の厚みTHを検出する。この際に、厚み検出部36は、下記のように差周波数ΔFの大きさによって異なる方法で厚みTHの検出を行う。
【0063】
(厚み検出部による厚み検出)
図7は、厚み検出部36による厚み検出の処理の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、厚み検出部36は、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)が予め定めた基準周波数以上である場合、すなわち測定対象物9の厚みTHが十分に厚い場合、公知の周波数領域での厚み検出を行う(ステップS1でYES、ステップS2)。
【0064】
例えばステップS2では、差周波数ΔFと、第1反射光R1及び第2反射光R2の光路長差との間には相関関係があるため、この相関関係を事前に求めておくことで、厚み検出部36は差周波数ΔFから光路長差を検出して、この検出結果に基づき測定対象物9の厚みTHを検出する。
【0065】
一方、厚み検出部36は、差周波数ΔFが予め定めた基準周波数未満である場合、二乗演算部34に対して「二乗演算処理を施した干渉信号SG(時間領域)」のリクエストを行って、二乗演算部34から干渉信号SG(時間領域)を取得する(ステップS1でNO、ステップS3)。次いで、厚み検出部36は、二乗演算部34から取得した干渉信号SGに対してローパスフィルタ処理を施す(ステップS4)。
【0066】
図8は、厚み検出部36によるローパスフィルタ処理を説明するための説明図である。なお、ローパスフィルタ処理は、実際には時間領域で行われるが、ここでは理解を容易にするためローパスフィルタ処理を周波数領域で説明する。
【0067】
図8に示すように、厚み検出部36は、二乗演算部34から取得した干渉信号SGに対してローパスフィルタ処理を施すことにより、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)よりも高い周波数領域に含まれる信号ピークを除去する。なお、ローパスフィルタ処理は、例えば、周波数解析部35による周波数解析結果を参照して第4ピーク周波数fを判別し、この判別結果に基づき、干渉信号SGの中で除去する周波数領域を決定する可変フィルタ、或いは除去する周波数領域を実験又はシミュレーションで決定した固定式のフィルタを用いて行う。
【0068】
図7に戻って、厚み検出部36は、ローパスフィルタ処理された干渉信号SGに対して、カーブフィッティング法による解析を行って、測定対象物9の厚みTHを検出する(ステップS5)。具体的に厚み検出部36は、ローパスフィルタ処理された干渉信号SG、すなわち、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)に対応した干渉スペクトルと、予め求めた理論値(厚みに対応する波形データ)とを比較し、最小二乗法により最も誤差の少ない波形データを抽出して、この波形データの厚みを測定対象物9の厚みTHとして決定する。これにより、厚み検出部36は、測定対象物9の厚みTHを検出することができる。
【0069】
図4に戻って、第2測定部28は、光検出器17から干渉信号取得部26を介して時間的に連続して入力される干渉信号SGに対して、バンドパスフィルタ処理、二乗演算処理、周波数解析処理、及び厚み検出処理を順次に行うことで、測定対象物9の厚みTHを測定(検出)する。そして、第2測定部28は、測定対象物9の厚みTHの測定結果を表示部22と記憶部23とにそれぞれ出力する。
【0070】
表示部22は、第1測定部27及び第2測定部28からそれぞれ入力された測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHの測定結果を表示する。また、記憶部23は、第1測定部27及び第2測定部28からそれぞれ入力された測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHの測定結果を記憶する。
【0071】
[本実施形態の測定装置の作用]
次に、図9を用いて上記構成の測定装置10による測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHの同時測定処理(本発明の測定方法)について説明を行う。なお、図9は、測定装置10による測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHの同時測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0072】
ユーザが測定対象物9を測定装置10の所定の測定位置にセットした後、不図示の操作部にて測定開始操作を行うと、制御装置18(制御部21)の測定制御部25が波長掃引光源12及び光検出器17を作動させる。これにより、波長掃引光源12は、波長掃引光Lを出射する。また、光検出器17は、干渉信号SGの検出を開始する。
【0073】
波長掃引光源12から出射された波長掃引光Lは、光ファイバーケーブル16A、ファイバーサーキュレータ13、及び光ファイバーケーブル16Bを介してセンサヘッド14から測定対象物9の第1面9aに向けて出射される(ステップS1、本発明の光出射ステップに相当)。これにより、測定対象物9の第1面9aで反射された第1反射光R1と、第2面9bで反射された第2反射光R2とがセンサヘッド14に入射し、さらにこのセンサヘッド14から光ファイバーケーブル16Bに入射する(ステップS2)。
【0074】
またこの際に、光ファイバーケーブル16Bからセンサヘッド14に入力される波長掃引光Lの一部が端面19にて反射されることにより、参照光R3が生成される(本発明の参照光生成ステップに相当)。これにより、光ファイバーケーブル16Bにおいて第1反射光R1と第2反射光R2と参照光R3とが互いに干渉し、各光の干渉信号SG(干渉光)がファイバーサーキュレータ13に入力され、さらに光ファイバーケーブル16Cを介して光検出器17に入力される。
【0075】
光検出器17は、前述の測定制御部25の制御の下、光ファイバーケーブル16Cから入力された干渉信号SGを検出して電気信号に変換及び増幅した後、この干渉信号SGを制御装置18の干渉信号取得部26へ出力する(ステップS3、本発明の信号検出ステップに相当)。そして、干渉信号取得部26は、光検出器17から入力された干渉信号SGを第1測定部27と第2測定部28とにそれぞれ出力する。
【0076】
<測定対象物の変位(距離)測定>
干渉信号取得部26から第1測定部27に入力された干渉信号SGは、既述の図5に示したように、第1測定部27の周波数解析部30により周波数解析され、この周波数解析結果が周波数解析部30から距離検出部31に入力される(ステップS4)。
【0077】
次いで、距離検出部31は、周波数解析部30から入力された干渉信号SGの周波数解析結果から第1ピーク周波数fを検出し、この検出結果から第1反射光R1及び参照光R3の光路長差を検出した結果に基づき、距離Dを検出する(ステップS5、本発明の距離検出ステップに相当)。これにより、測定対象物9の変位も検出することができる。そして、第1測定部27は、距離検出部31による距離Dの検出結果を、測定対象物9の変位(距離D)の測定結果として表示部22と記憶部23とにそれぞれ出力する。
【0078】
<測定対象物の厚み測定>
一方、干渉信号取得部26から第2測定部28に入力された干渉信号SGに対しては、既述の図6に示したように、フィルタ処理部33によるバンドパスフィルタ処理(ステップS6)と、二乗演算部34による二乗演算処理(ステップS7、本発明の信号生成ステップに相当)とが順に施される。バンドパスフィルタ処理により、信号ピークP3の周辺に存在するノイズピークNP(図6参照)が除去されるため、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)の検出時にノイズピークNPが悪影響を及ぼすことが防止される。また、二乗演算処理により、既述の図6に示したように、第1干渉信号成分sg1及び第2干渉信号成分sg2から第3干渉信号成分sg3と等価な等価干渉信号成分sg4が生成されるため、差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)の検出が可能となる。
【0079】
二乗演算処理された干渉信号SGは、周波数解析部35により周波数解析され、この周波数解析結果が厚み検出部36へ出力される(ステップS8)。
【0080】
そして、厚み検出部36は、周波数解析部35による周波数解析結果から差周波数ΔF(第4ピーク周波数f)を検出する(ステップS9)。この際に、既述の通りノイズピークNPが既に除去されているため、差周波数ΔFの検出を高精度に行うことができる。
【0081】
次いで、厚み検出部36は、既述の図7及び図8で説明したように、差周波数ΔFが基準周波数以上であるか否かに応じて、周波数領域での厚み検出とカーブフィッティング法を用いた厚み検出と選択的に行うことにより、測定対象物9の厚みTHを検出する(ステップS10、本発明の厚み検出ステップ)。そして、第2測定部28は、厚み検出部36が検出した厚みTHを、測定対象物9の厚みTHの測定結果として表示部22と記憶部23とにそれぞれ出力する。
【0082】
以上で、測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHの同時測定が完了する。そして、第1測定部27による測定対象物9の変位(距離D)の測定結果と、第2測定部28による測定対象物9の厚みTHの測定結果とは、表示部22に表示されると共に記憶部23に記憶される(ステップS11)。
【0083】
以下、新たな測定対象物9の変位(距離D)と厚みTHの同時測定を継続して行う場合には、前述のステップS1からステップS11までの処理が繰り返し実行される(ステップS12)。
【0084】
[本実施形態の効果]
以上のように本実施形態の測定装置10は、干渉信号SGの第1干渉信号成分sg1及び第2干渉信号成分sg2に基づき等価干渉信号成分sg4を生成し、この等価干渉信号成分sg4から検出した差周波数ΔFに基づき測定対象物9の厚みTHを検出するため、測定対象物9の厚みを高精度に測定することができる。これにより、従来、参照面(端面19)を測定対象物9の異なる位置に設定してこの測定対象物9の変位(距離D)及び厚みTHを同時測定する場合に、厚みTHの測定精度が低下するという問題が解決する。その結果、変位(距離D)及び厚みTHの同時測定を行う場合に、厚みTHを精度よく測定することができる。
【0085】
[形状測定装置の他実施形態]
上記実施形態では、波長掃引光源12、光検出器17、及び制御装置18の他に、ファイバーサーキュレータ13と、センサヘッド14と、光ファイバーケーブル16A〜16Cとを備える測定装置10について説明したが、測定対象物9とは異なる位置に参照面が設定され且つ干渉信号SGを取得可能であれば、その装置構成は適宜変更してもよい。
【0086】
図10は、他実施形態の測定装置10Aの一例を示した概略図である。図10に示すように、測定装置10Aは、既述の波長掃引光源12と光検出器17と制御装置18との他に、光分割部40及び参照ミラー41を備えている。
【0087】
光分割部40は、例えばビームスプリッタが用いられ、後述の参照ミラー41と共に本発明の参照光生成部として機能する。この光分割部40は、波長掃引光Lの進行方向において波長掃引光源12と測定対象物9との間に配置され、且つこの進行方向と垂直方向において参照ミラー41と光検出器17との間に配置されている。この光分割部40は、波長掃引光源12から入射した波長掃引光Lの一部をそのまま透過させて測定対象物9の第1面9aに向けて出射すると共に、波長掃引光Lの残りを参照ミラー41に向けて反射する。
【0088】
参照ミラー41は、光分割部40にて反射された波長掃引光Lの光路上に配置されており、鏡面である参照面41aを有している。参照面41aは、光分割部40から入射した波長掃引光Lを参照光R3として光分割部40に向けて反射する。なお、参照ミラー41の代わりに、ループ状の光ファイバケーブル(参照光生成部)を配置してもよい。
【0089】
また、波長掃引光Lが光分割部40から測定対象物9の第1面9aに向けて出射された後、上記実施形態と同様に、第1面9aと第2面9bとでそれぞれ反射される。これにより、光分割部40には、既述の第1反射光R1及び第2反射光R2も入射する。そして、光分割部40は、参照ミラー41から入射した参照光R3をそのまま光検出器17に向けて出射すると共に、測定対象物9にて反射された第1反射光R1及び第2反射光R2を光検出器17に向けて反射する。その結果、光検出器17には、第1反射光R1と第2反射光R2と参照光R3との干渉信号SG(干渉光)が入射する。
【0090】
光検出器17は、光分割部40から出射される干渉信号SGの光路上に配置されており、上記実施形態と同様に、光分割部40から出射された干渉信号SGを電気信号に変換して制御装置18へ出力する。
【0091】
なお、これ以降の構成については上記実施形態と基本的に同じであるので、ここでは具体的な説明を省略する。
【0092】
[その他]
上記実施形態では、バンドパスフィルタ処理された干渉信号SGに対して、二乗演算部34によって二乗演算処理を施すことにより、第3干渉信号成分sg3と等価な等価干渉信号成分sg4を生成しているが、二乗演算処理以外の方法(アルゴリズム)を採用してもよい。すなわち、第1干渉信号成分sg1と第2干渉信号成分sg2とに基づいて等価干渉信号成分sg4を生成可能な各種のアルゴリズムを採用してよい。
【0093】
上記実施形態の厚み検出部36は、差周波数ΔFが基準周波数以上であるか否かに応じて、周波数領域での厚み検出とカーブフィッティング法を用いた厚み検出とを選択的に実行するが、例えば差周波数ΔFの大きさに関係なくいずれか一方の方法だけを用いて厚みTHを検出したり、或いは他の公知の方法で厚みTHを検出したりしてもよい。
【0094】
上記実施形態のフィルタ処理部33は、干渉信号SGに対してバンドパスフィルタ処理を行っているが、このフィルタ処理部33によるフィルタ処理は、信号ピークP3及びその周辺のノイズピークNPを含む周波数領域の信号を除去可能であれば、バンドパスフィルタ処理に限定されず、例えばハイパスフィルタ処理を行ってもよい。
【0095】
上記実施形態では、光ファイバーケーブル16Bの端面19と、光分割部40及び参照ミラー41等を用いて参照光R3を生成する場合について説明したが、測定対象物9の第1面9aを参照面に設定することなく、この測定対象物9とは異なる位置で参照光R3を生成する構成は特に限定されず、公知の構成を用いることができる。
【符号の説明】
【0096】
9…測定対象物,10,10A…測定装置,12…波長掃引光源,13…ファイバーサーキュレータ,14…センサヘッド,17…光検出器,18…制御装置,19…端面,21…制御部,30…周波数解析部,31…距離検出部,33…フィルタ処理部,34…二乗演算部,35…周波数解析部,36…厚み検出部,40…光分割部,41…参照ミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12