【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従前、幾何位相解析およびモアレ法を含む位相解析技術において、変形測定のために位相接続(位相アンラッピング)を使用する。
【0008】
しかし、試料格子上に無視できないほどの汚れや境界や欠陥(以下、欠陥と称する)がある場合(
図1)、画像の位相を接続すると結果として、欠陥領域だけでなく欠陥位置から1つの画像エッジまでの領域において、正しくない位相と正しくないひずみ値をもたらす(
図2の従来技術1)。
従って、いくつかの欠陥がある場合、多くの領域のひずみ分布は正しく現われない。
【0009】
また、ひずみは、ラップされた(折りたたまれた)位相差(-πからπ)の偏微分から位相アンラッピングなしで直接測定できる。
しかし、最大値(π)と最小値(-π)の境界付近の測定ひずみは正しく現われない(
図2の従来技術2)。
【0010】
他方、変形前後のラップされた位相から、変形前後の格子ピッチを計算し、格子ピッチの変化から測定されたひずみは、欠陥領域以外の領域でひずみの値にエラーは生じない。
このため水平、垂直方向のひずみ測定には使用できるが、せん断ひずみの測定精度が低いため、せん断ひずみ測定には適さない。
【0011】
従って、この特許は、欠陥が欠陥領域以外の領域におけるひずみ測定結果に影響しない全視野および高精度のひずみ測定方法に関する技術である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
欠陥を有する試料の全視野における面内ひずみ分布測定のために、局所位相アンラッピングアルゴリズムとフーリエ変換(FT)法やモアレ法などの位相抽出技術を組み合わせた位相解析手法を提案する(
図3)。
格子位相、モアレ位相及びひずみの測定原理を、以下に説明する。
【0013】
格子は、
図4に示すように、r
1、r
2、... r
nの主方向を持ついくつかの格子に分離することができ、格子が2方向またはクロスであれば、主方向r
1およびr
2を持つ2つの格子に分離できる。
【0014】
格子が六角形または三角形である場合、主方向がr
1、r
2およびr
3の3つの格子に分離できる。
【0015】
なお、格子自体は1次元規則格子であっても2次元規則格子であってもよい。
以下では、主に2方向格子を用いてひずみ分布を算出する原理を説明する。
【0016】
(ひずみ測定の手順)
図5に、ひずみ測定プロセスを示す。
【0017】
試料上に周期的な構造が存在しない場合は、最初に変形キャリアの役割として、規則格子を試料表面上に貼付または作製する(S1)。
【0018】
次に、変形前後のデジタル格子像が記録される(S2)。
【0019】
そして、フーリエ変換(FT)から変形前後の格子位相を算出し(S3)、または変形前後のモアレ縞の位相差をサンプリングモアレ法により算出する(S4)。
【0020】
最後に、位相境界周辺の位相差を補正した変形前後の格子位相差またはモアレ位相差を用いて、面内ひずみ分布を計算する(S5)。
【0021】
図6にそのプログラムを示す。
【0022】
開始後、記録されたデジタル格子画像または1次元モアレ縞または2次元モアレ縞の画像が入力される(S01)。
【0023】
格子ピッチやサンプリングピッチなどの解析パラメータが入力される(S02)。
【0024】
そして、変形前後の格子位相差またはモアレ位相差を算出する。
【0025】
記録された画像がモアレパターンである場合、記録されたモアレ縞または2段モアレ縞の位相差が計算される(S03)。
次に、位相境界周辺の位相差を補正した位相差から面内ひずみ分布を測定する(S04)。最後に、測定結果を表示して出力し(S05)、終了する。
【0026】
(フーリエ変換を用いた格子位相抽出)
図7にフーリエ変換を用いた格子位相抽出処理を示す。
【0027】
変形前の周期構造(格子)画像の輝度分布は複素数を用いて次式で示される。
【数1】
【0028】
ここで、jは虚数単位、A
rとφ
rは主方向r(r = r
1、r
2、...方向)の格子の振幅と位相、Bは背景輝度である。
【0029】
図7(a)の格子画像サイズをM×Nとする。
1枚の格子画像(空間領域)は、2D離散フーリエ変換(DFT)を使用して、周波数領域の周波数スペクトログラムに変換することができる。
【数2】
【0030】
uとvは周波数領域の座標を表す。
【0031】
ゼロ周波数(背景周波数)成分が周波数スペクトルの中心にシフトされた後、他の周波数スポットは、
図7(b)に見られるように中心スポットの周りに対称的に配置される。
【0032】
各方向の中央スポットに最も近い対称スポットは、その方向の格子の1次周波数に対応する。
中央スポットに近いr方向の回折スポットを選択して2D逆DFTを行い、選択された回折スポットに対応する格子の輝度を抽出することができる。
【数3】
【0033】
I
r(u、v)(Iの上にキャップ)はr方向の1次の周波数成分を意味し、I
r(x、y)は主方向rの格子の輝度である。
【0034】
各格子輝度を抽出した後、各格子輝度の実数部と虚数部を求めることができる。
図7(c)〜(f)は、主方向がxに近い格子1、および主方向がyに近い格子2の実部および虚部の例を示す。
格子輝度は、次式で表される。
【数4】
【0035】
格子輝度の実数部はRe [I
r(x、y)] =A
rcosφ
rであり、虚数部はIm [I
r(x、y)] = A
rsinφ
rなので、格子位相は次式で表される。
【数5】
【0036】
図7(g)および(h)は、
図7(a)の格子像から抽出された格子1および格子2の位相を示す。
【0037】
この格子が変形を受けると、変形後の格子位相φ
r 'も上記の式を用いて測定することができる。
よって変形前後の格子位相差は、次式で表すことができる。
【数6】
【0038】
ここで、rはx方向、y方向、またはr
1、r
2などの任意の方向である。
【0039】
(サンプリングモアレ法によるモアレ位相抽出)
図8(a)の変形前の格子は、
図4に示すように2つの格子の組み合わせと考えることができる。格子1のピッチx方向、y方向のピッチをp
1x、p
1yとし、格子2のx方向およびy方向のピッチをそれぞれp
2x、p
2yとすると
図8(a)の2次元格子輝度は、次式で表すことができる。
【数7】
【0040】
ここで、A
1およびA
2はそれぞれ格子1および格子2の変調振幅であり、Bは背景輝度および高次輝度を含む。
ローパスフィルタまたはフーリエ変換を使用した後、2D格子を格子1および格子2に分離することができる(
図8(b)および
図8(c)参照)。格子1の輝度は、次式で表すことができる。
【数8】
【0041】
ここで、B
1は格子1のバックグラウンドおよび高次の輝度を意味し、φ
1は格子1の位相を意味する。
【0042】
主方向がxに近い格子1の場合、
図8(d)のx方向の空間位相シフトモアレ縞は、T
x画素のダウンサンプリングと輝度補間から生成することができる。
ここで、T
xは、格子1のピッチp
1xとx方向とのなす角度である。
T
xステップ位相シフトモアレ縞の輝度は、次式で表すことができる。
【数9】
【0043】
ここで、φ
1、mxは格子1からx方向にk
x = 0の場合に生成したときのモアレパターンの位相を意味する。
【0044】
モアレパターンのx方向の位相φ
1、mx(
図8(f))は、DFTアルゴリズムを用いた位相シフト法により算出することができる。
【数10】
【0045】
同様に、主方向がyに近い格子2(
図8(c))から、T
yステップのサンプリングモアレ縞を発生させることができ(
図8(e))、y方向のモアレ位相φ
2、myを得ることができる(
図8(g))。
【0046】
上記の式を用いて、x方向およびy方向の変形後のモアレ相も測定することができる。
変形前後のモアレ位相差は、次式で表すことができる。
【数11】
【0047】
(格子位相差とモアレ位相差の関係)
主方向r
1がx方向(
図4)に近い格子1の場合、格子位相差とx方向のモアレ位相差は理論的には等しく、
【数12】
【0048】
同様に、y方向(
図4)に近いr
2の主方向を有する格子2の場合、格子位相差とそれに対応するy方向のモアレ位相差も理論的には等しくなる。
【数13】
【0049】
したがって、格子位相差またはモアレ位相差のいずれかをひずみ測定に使用することができる。
【0050】
ここでは、Δφ
1を使用して、式(11)のΔφ
1、mxと式(6)Δφ
r1を表す。同様に、Δφ
2を用いて、式(11)のΔφ
2、myと式(6)のΔφ
r2を表す。
【0051】
(格子またはモアレの位相差からのひずみ測定)
異なる方向のひずみは、格子またはモアレ位相差の偏微分から計算することができる。
【0052】
式(12)および(13)の位相差Δφ
1とΔφ
2は、[-π、π]の範囲にラップされて(折りたたまれて)いることに留意すべきである。
【0053】
位相接続(位相アンラッピング)アルゴリズムによって位相差が接続(アンラップ)された場合、無視できない欠陥は、欠陥領域から1つの画像エッジまでの領域のひずみ値に影響を及ぼす(
図2の従来技術1)。
【0054】
ラップされた位相差が直接ひずみを計算するために使用されると、位相差がπと−πの間の境界周辺のひずみ値は、正しく計算されない(
図2の従来技術2)。
【0055】
従って、ひずみ測定のため、位相境界周辺の位相差の偏微分は、次の式により局所位相アンラッピングアルゴリズムによって補正する必要がある。
【数14】
【数15】
【0056】
ここでcは臨界値を表し、π/2以上π未満の範囲で格子またはモアレ縞のピッチ、画像の画質またはノイズレベルに応じて適宜に選択できる。
【0057】
位相差の偏微分を補正した後、x方向とy方向の垂直ひずみとせん断ひずみは、次式で表すことができる。
【数16】
【0058】
記録された画像が変形前後のモアレパターンである場合、式(6)のΔφ
rは記録されたモアレの位相差、式(11)のΔφ
1、mx、Δφ
2、myは、記録されたモアレから生成される2段モアレの位相差となる。