(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
温度数百mKから数mKの極低温になるにつれて、熱交換器の焼結体とそれに接触する液体ヘリウムとの熱界面抵抗R
kが重要である。熱界面抵抗は、R
k∝S
-1T
-n(ここで、Sは熱交換表面積、Tは温度(絶対温度K)であり、n=1〜3である)。この式によれば、温度Tが低ければ低いほど、熱界面抵抗R
kが増加し、熱交換器の熱流を妨げる方向に働くため、焼結体のサイズを大きくすれば熱交換表面積Sを増加させることができ、熱界面抵抗R
kを低減できるが、熱交換器が大きくなり、使用する液体ヘリウム3(
3He)の量が増加するため冷却コストが増大するという問題がある。
【0015】
本発明者は、従来の熱交換器では有効な熱交換表面積Sが小さく、熱界面抵抗R
kを十分に低減できていないことを見いだした。本発明の各実施形態はこのような問題あるいは他の従来の問題を鑑みてなされたのである。
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。なお、図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0017】
[熱交換器]
図1は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の概略構成を示す図である。
図1を参照するに、本実施形態に係る熱交換器10は、熱伝導体11と、熱伝導体11の第1の面に設けられた第1焼結体12と、第1の面に対向する第2の面に設けられた第2焼結体13と、筐体14とを有する。熱交換器10は、熱伝導体11、第1焼結体12および筐体14に囲まれた第1領域HE1に高温側の液体ヘリウム(例えば、
3Heの濃厚相の液体ヘリウム)が流通し、熱伝導体11、第2焼結体13および筐体14に囲まれた第2領域HE2に低温側の液体ヘリウム(例えば、超流動
4Heに
3Heが溶解した希薄相の液体ヘリウム)が流通するようになっている。第1焼結体12は第1領域HE1を流通する高温側の液体ヘリウムに接触し可能であり、第2焼結体13は第2領域HE2を流通する低温側の液体ヘリウムに接触可能である。これにより、熱交換器10は、高温側である第1領域HE1の液体ヘリウムの熱が、第1焼結体12、熱伝導体11および第2焼結体13を介して第2領域HE2の液体ヘリウムに流れることによって、第1領域HE1の液体ヘリウムを冷却する。
【0018】
熱伝導体11は、貴金属元素を含む金属材料からなり、例えば、金、銀、プラチナ、アルミニウム、銅、およびこれらの合金、あるいはこれらの金属の化合物を用いることができる。熱伝導体11は、低コストおよび熱伝導性が良好な点で、銀、または銀を主成分とする銀合金であることが好ましい。なお、熱伝導体11の形状は特に限定されないが、熱交換器のサイズを小さくでき、かつ、第1領域HE1を流通する高温側の液体ヘリウムと第2領域HE2を流通する低温側の液体ヘリウムとを隔離する上で、板状であることが好ましい。
【0019】
第1焼結体12および第2焼結体13は、貴金属元素を含む金属材料、例えば、金、銀、プラチナ、アルミニウム、銅、およびこれらの合金、あるいはこれらの金属の化合物の焼結体であり、表面および内部に多数の不定形状の細孔を有する。第1焼結体12および第2焼結体13は、低コストおよび熱伝導性が良好な点で、銀、または銀を主成分とする銀合金であることが好ましい。
【0020】
第1焼結体12および第2焼結体13は、ガス吸着法による平均細孔直径Dが14nm以上である焼結体である。平均細孔直径Dは、ガス吸着法(BET(Brunauer、Emmett、Teller)法)により求めた比表面積Aと全細孔容積VからD=4V/Aと求められ、全細孔容積Vが大きいほど、比表面積Aが小さいほど平均細孔直径Dは大きくなる。ガス吸着法による平均細孔直径Dが14nm以上であることにより、第1焼結体12および第2焼結体13の内部に液体ヘリウムが侵入可能な細孔の体積を十分確保できるので、液体ヘリウムが第1焼結体12および第2焼結体13の内部の細孔の表面と円滑に接触かつ流通でき、熱交換器10の性能を向上できる。
【0021】
第1焼結体12および第2焼結体13の比表面積Aは、1.0m
2/g以上であることが好ましい。これにより、液体ヘリウムとの界面との熱界面抵抗(いわゆるカピッツァ熱界面抵抗)が減少し、上述した、液体ヘリウムの円滑な流通と相伴って、熱交換器10の冷却能力を向上できる。
【0022】
さらに、第1焼結体12および第2焼結体13は、ガス吸着法による平均細孔直径が40nm以下であることが十分な比表面積Aを確保できる点で好ましい。
【0023】
第1焼結体12および第2焼結体13は、レーザフラッシュ法による熱拡散率が、室温における真空中で6.8×10
-5m
2/s以上であることが好ましい。第1焼結体12および第2焼結体13の熱拡散率が増加することで、高温側の液体ヘリウムからの熱流の熱伝導が良好になり、熱交換器の冷却能力が向上する。レーザフラッシュ法による熱拡散率の具体的な測定方法は後述する。
【0024】
第1焼結体12および第2焼結体13は、充填率が45%以上55%以下であることが、熱伝導体11との接着強度(物理的結合)および熱交換器10自体の熱伝導が向上する点で、好ましい。充填率は、第1焼結体12および第2焼結体13のバルクの金属材料の密度に対する第1焼結体12および第2焼結体13の密度を百分率で表したものである。例えば、第1焼結体12および第2焼結体13が銀粉末の焼結体の場合、充填率(%)=焼結体の密度/銀の密度(10.50g/cm
3、但し20℃において)×100で求められる。
【0025】
熱伝導体11と第1焼結体12および第2焼結体13は、互いの接着強度が向上する点で、同じ金属材料であることが好ましく、金属材料の組成比も同じであることがさらに好ましい。例えば、第1焼結体12および第2焼結体13が銀粉末の焼結体の場合は、熱伝導体11は銀からなることが好ましい。
【0026】
筐体14は、第1焼結体12を収容し、熱伝導体11と隙間なく密着するとともに、閉じた第1領域HE1の空間を形成し、高温側の液体ヘリウムが流通するようになっている。さらに、筐体14は、第2焼結体13を収容し、熱伝導体11と隙間なく密着するとともに、閉じた第2領域HE2を形成し、低温側の液体ヘリウムが流通するようになっている。第1領域HE1および第2領域HE2のそれぞれに液体ヘリウムの供給および取出のための配管口(不図示)が設けられている。筐体14は、第1領域HE1側と第2領域HE2側が別々の部材から形成されていてもよく、一体でもよい。
【0027】
筐体14は、熱伝導率が熱伝導体11の金属材料の熱伝導率よりも低い材料で形成されることが好ましく、例えば、銅ニッケル合金、真鍮、SUS304LやSUS316L等のステンレス材料が用いられる。
【0028】
本実施形態によれば、第1および第2焼結体12、13は、貴金属元素を含む金属材料からなり、ガス吸着法による平均細孔直径が14nm以上であることにより、第1および第2焼結体12、13内部に高温側および低温側の液体ヘリウムが侵入可能な細孔の体積を十分確保するとともに、液体ヘリウムとの熱交換表面積を増加してカピッツァ熱界面抵抗を低減することができるので、熱交換器10の性能を向上できる。これにより、熱交換器10のコンパクト化が可能になり、使用する液体ヘリウム3(
3He)の量を低減でき、ひいては、この熱交換器10を備える低コストの希釈冷凍機を実現できる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の変形例の概略構成を示す図である。
図2を参照するに、本変形例の熱交換器20は、第1焼結体12と熱伝導体11との間に設けられた第1下地層25と、第2焼結体13と熱伝導体11との間に設けられた第2下地層26とを有し、それ以外は、
図1に示す熱交換器10と同様に構成されている。
【0030】
第1下地層25および第2下地層26は、貴金属元素を含む金属材料の粉末の焼結体であり、それぞれ第1焼結体12および第2焼結体13の金属材料と同じ材料であることが好ましい。第1下地層25および第2下地層26は、充填率が、第1焼結体12および第2焼結体13の充填率よりも高いことが好ましい。これにより、第1下地層25および第2下地層26をそれぞれ介した第1焼結体12および第2焼結体13と熱伝導体11との接着強度(物理的結合)および熱交換器10自体の熱伝導がさらに向上するともに、第1焼結体12および第2焼結体13の充填率の範囲を広げることができる。なお、本変形例の熱交換器20は、
図1の熱交換器10と同様の効果を有することは言うまでもない。
【0031】
[熱交換器の製造方法]
図3は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の製造方法のフローチャートである。
図3を
図1とともに参照しつつ、熱交換器の製造方法を説明する。
【0032】
最初に、平均粒径が100nm以上の貴金属元素を含む金属粉末を準備する(S100)。貴金属元素を含む金属粉末は、貴金属元素を含む金属材料からなり、例えば、金、銀、プラチナ、アルミニウム、銅、およびこれらの合金、あるいはこれらの金属の化合物を用いることができる。金属粉末は、低コストおよび熱伝導性が良好な点で、銀または銀を主成分とする銀合金であることが好ましい。
【0033】
次いで、金属粉末を加圧および加熱して第1および第2焼結体12、13を形成するとともに第1および第2焼結体12、13をそれぞれ熱伝導体11に焼結する(S110)。具体的には、高温圧縮法により、真空中、あるいは水素、ヘリウム等の雰囲気下、熱伝導体11、例えば銀板、の上下にダイスに金属粉末を充填して、5MPa〜50MPaの圧力で加圧し、温度100℃〜400℃に加熱して10分間〜12時間、焼結処理を行う。焼結された第1および第2焼結体12、13は、熱伝導体11との接着強度(物理的結合)および熱交換器10自体の熱伝導がより良好な点で、充填率が45%以上55%以下になるように焼結することが好ましい。また、加熱温度を230℃以上250℃以下に設定することが、第1および第2焼結体12、13の充填率を制御し易い点で好ましい。また、圧力は6MPa以上24MPa以下に設定することが第1および第2焼結体12、13の充填率を45%以上55%以下に制御し易い点で好ましい。
【0034】
次いで、熱伝導体11と、第1および第2焼結体12、13とを筐体14に組み込む(S120)。具体的には、筐体14と熱伝導体11を溶接して、第1領域HE1およびHE2を流通する液体ヘリウムが外部に漏れないように、さらに第1領域HE1およびHE2を流通する液体ヘリウム同士が混合しないようにする。以上により、熱交換器10が作製される。
【0035】
本実施形態によれば、平均粒径が100nm以上の貴金属元素を含む金属粉末を焼結することで、ガス吸着法による平均細孔直径が14nm以上である第1および第2焼結体12、13を形成することができ、熱伝導体11との接着強度(物理的結合)および熱交換器10自体の熱伝導が良好な熱交換器10を作製できる。また、S110の1回の焼結処理で第1および第2焼結体12、13を形成するとともに第1および第2焼結体12、13をそれぞれ熱伝導体11に焼結できるので、第1および第2焼結体12、13の形成と第1および第2焼結体12、13を熱伝導体11へ焼結する処理を別々に行うよりも処理コストを低減できる。
【0036】
図4は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の製造方法の変形例1のフローチャートである。
図4を
図2とともに参照しつつ、上記実施形態の変形例1の熱交換器の製造方法を説明する。
【0037】
最初に、平均粒径が100nm以上の貴金属元素を含む金属粉末を準備する(S200)。具体的には、上述したS100と同様に行う。
【0038】
次いで、熱伝導体11の両面に焼結体からなる下地層25、26を形成する(S202)。具体的には、熱伝導体の表面に少量のS200で準備した金属粉末をS110で述べた高温圧縮法により焼結して下地層を形成する。この際の加熱温度および圧力の少なくとも一方を次のステップ(S210)の加熱温度、圧力よりも高く設定する。
【0039】
次いで、金属粉末を加圧および加熱して第1および第2焼結体12、13を形成するとともに第1および第2焼結体12、13をそれぞれ下地層25、26を介して熱伝導体11に焼結する(S210)。具体的には、上述したS110の焼結処理と同様に行う。
【0040】
次いで、熱伝導体と11、第1および第2焼結体12、13とを筐体14に組み込む(S220)。具体的には、上述したS120と同様に行う。以上により、熱交換器10が作製される。
【0041】
本変形例1によれば、下地層25、26が熱伝導体11に形成されているので、上述したS110の焼結処理の場合よりもより高い接着強度で第1および第2焼結体12、13と熱伝導体11とを焼結することができる。
【0042】
図5は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の製造方法の変形例2のフローチャートである。
図5を
図1とともに参照しつつ、上記実施形態の変形例2の熱交換器の製造方法を説明する。
【0043】
最初に、平均粒径が100nm以上の貴金属元素を含む金属粉末を準備する(S300)。具体的には、上述したS100と同様に行う。
【0044】
金属粉末に圧力を印加しないで加熱して予備焼結粉末を形成する(S304)。具体的には、電気炉を用いて不活性ガス、例えばヘリウムガス雰囲気中で加圧せずに焼結する。加熱温度は次のステップ(S310)の加熱温度以上とし、例えば、250℃〜260℃に設定する。これにより、この変形例2で形成される第1および第2焼結体12、13のガス吸着法により求めた全細孔容積Vを、予備焼結を行わない上述した
図3に示した実施形態に係る熱交換器の製造方法で形成した場合よりも、増加することができる。
【0045】
次いで、予備焼結粉末を加圧および加熱して第1および第2焼結体12、13を形成するとともに第1および第2焼結体12、13をそれぞれ熱伝導体11に焼結する(S310)。具体的には、上述したS110の焼結処理と同様に行うが、予備焼結されているので、S110の焼結処理の温度よりも低い加熱温度により焼結処理する。また、圧力は20MPa以上34MPa以下に設定することが第1および第2焼結体12、13の充填率を45%以上55%以下に制御し易い点で好ましい。
【0046】
次いで、熱伝導体11と、第1および第2焼結体12、13とを筐体14に組み込む(S320)。具体的には、上述したS120と同様に行う。以上により、熱交換器10が作製される。
【0047】
本変形例2によれば、S304において予備焼結処理を行うので、熱伝導体11との接着強度を確保しつつ、温度をS110の焼結処理よりも高く設定することができる。これにより、第1および第2焼結体12、13の比表面積を維持して、ガス吸着法により求めた全細孔容積Vを増加させることができ、ガス吸着法による平均細孔直径Dを維持または増加させることができる。
【0048】
[実施例1]
平均粒径130nmの銀粉末(徳力本店社製、製品名C−34)を17g用意して、2つのダイス(横幅53mm×奥行き15mm)を2つのフランジで挟み、熱伝導体11の両面に、片側8.5gずつ銀粉末をプレス装置(受圧面積14.52cm
2)により18.3MPa〜31.0MPaの範囲から選択した圧力を印加して、充填し、フランジをボルトで固定して充填圧を保持させ、電気炉にてヘリウムガス雰囲気中で、230℃または250℃に加熱し、20分〜60分間焼結処理を行った。また、平均粒径10600nmの銀粉末(田中貴金属社製、製品名AY−6010)を17g用意して、同様の装置で、圧力を34.7MPa、250℃に加熱し、60分間焼結処理を行った。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同じ銀粉末を用いて、予備焼結を行って予備焼結粉末を形成し、さらに本焼結を行って焼結体を形成した。予備焼結は、電気炉にてヘリウムガス雰囲気中で温度250℃、60分の条件で行い、予備焼結粉末を得た。本焼結は、実施例1と同様に、18.3MPa〜34.7MPaの範囲から選択した圧力を予備焼結粉末に印加して、ヘリウムガス雰囲気中、温度250℃、60分の条件で行った。
【0050】
[比較例]
平均粒径70nmの銀粉末(ULVAC社製、製品名Agナノ粒子(70nm))を17g用意して、予備焼結は、電気炉を用いてヘリウムガス雰囲気中で、加熱温度240℃、60分の条件で行い予備焼結粉末を得て、本焼結は、圧力24.5MPaを予備焼結粉末に印加して、200℃、30分間の条件で焼結処理を行った。
【0051】
なお、上記の銀粉末の平均粒径は、レーザ回折法により、銀粉末を銀粉末の屈折率と異なる屈折率を有する溶媒中に銀粉末を分散させ、その銀粉末の粒子群にレーザ光を照射し、粒子群からの散乱光は銀粉末の粒径に依存するので、その回折強度分布パターンを検出し、光散乱理論(Mie散乱理論)に基づき解析して、粒度分布(縦軸は相対粒子量、横軸は粒径)を得て、この粒度分布から求めたものである。
【0052】
図6は、実施例および比較例の焼結体の電子顕微鏡写真であり、走査型電子顕微鏡で実施例1、実施例2および比較例の焼結体サンプルの代表的な表面を3万倍に拡大したものである。
図6の(a)が実施例1(平均粒径130nm)、(b)が実施例1(平均粒径10600nm)、(c)が比較例である。
【0053】
図6を参照するに、(a)の実施例1の焼結体は、銀粉末の一次粒子同士が線状に連結して焼結されており、細孔の径が連結した銀粉末よりも広い幅で連続しており、液体ヘリウムが焼結体の内部まで侵入し易い構造になっていることが分かる。(b)の実施例2の焼結体は、銀粉末の複数の一次粒子同士が一つの塊状に焼結されており、細孔の体積が実施例1よりも小さいように見える。(c)の比較例の焼結体は、銀粉末の複数の一次粒子同士が一つの塊状に焼結されており、細孔の径にばらつきがあるように見える。これらのことから、実施例1がもっとも液体ヘリウムとの接触が良好であると推察される。
【0054】
[ガス吸着法による平均細孔直径の測定]
実施例1、実施例2および比較例の焼結体サンプルを真空中で温度150℃、1時間の前処理を行った。前処理温度は、焼結体サンプルの高温圧縮焼結処理での焼結温度よりも低い温度に設定した。
【0055】
次いで、窒素ガスを用い、液体窒素温度(77.36K)でのガス吸着量および吸着圧を測定し、BET法用いて比表面積Aと全細孔容積VからD=4V/Aにより平均細孔直径Dを求めた。全細孔容積Vは、相対圧(p/p
0、p
0は飽和蒸気圧)に対して吸着量をプロットし、相対圧の1に近いところは、吸着ガス分子が多層吸着して細孔内は吸着ガスで詰まっている状態、すなわち毛管現象で液相状態であると考える(いわゆるGurvitsch則)。相対圧0.990における吸着量を液体に換算したものを全細孔容積Vとして求めた。なお、測定器は、マイクロトラベック・ベル社のBELSORP−miniIIを使用した。
【0056】
[レーザフラッシュ法による熱拡散率の測定]
レーザフラッシュ法による熱拡散率は、実施例1、実施例2および比較例の焼結体の平板サンプル(厚さd)の片面に、室温下、真空中で光パルスレーザを照射して加熱し、加熱による過渡的な温度変化から熱損失を考慮してハーフタイム法により熱拡散率αを測定した。最大温度上昇の半分の温度に達する時間をt
1/2とした。熱拡散率は以下の式から求めた。
α=(0.1388×d
2)/t
1/2
【0057】
なお、温度上昇曲線の解析は、熱損失を考慮する上で面積比較法とCape−Lehmanの式を用いた。レーザ強度を変えて、3回程度繰り返し測定した結果について横軸を温度上昇値(信号強度)、縦軸を各レーザ強度で得られた熱拡散率αでプロットし、最終的に熱拡散率は、温度上昇がない場合にゼロ外挿し、レーザ加熱前の熱拡散率として求めた。
【0058】
本発明者は、レーザフラッシュ法により室温における熱拡散率を求めることで、温度領域によって純金属の熱伝導の担い手である電子の散乱状態は変化するものの、極低温における熱伝導が良好な焼結体を選別可能であると推察している。
【0059】
図7は、実施例および比較例の焼結体の充填率、平均細孔直径、比表面積、および熱拡散率を示す図である。
図8は、実施例および比較例の焼結体の平均細孔直径と銀粉末の平均粒径との関係を示す図である。
【0060】
図7および
図8を参照するに、実施例1および実施例2は、比較例よりも平均細孔直径Dが大きい事が分かる。実施例1および実施例2の平均細孔直径Dは14nm以上であることが分かる。平均細孔直径Dは大きいほどよいと推察されるが、比表面積Aが過度に小さくなるとカピッツァ熱界面抵抗が増加するため、平均細孔直径Dは、実施例2のサンプルA8の比表面積から、40nm以下であることが好ましい。
【0061】
図8を参照するに、平均細孔直径Dの各データ点の傾向から、銀粉末の平均粒径dが100nm以上あることが好ましく、20μm以下であることがさらに好ましいことが推察できる。さらに、銀粉末の平均粒径dが100nm以上で、平均細孔直径Dが平均粒径dの冪乗で変化すると仮定すると、平均粒径dは1500nm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
図7に戻り、比表面積Aは、実施例1および実施例2は比較例よりも大きいことが分かる。実施例1および実施例2の比表面積Aは1.0m
2/g以上であることが分かる。
【0063】
図7に示す熱拡散率は、実施例1は7.15×10
-5m
2/s
、6.46×10
-5m
2/sであり、比較例は8.95×10
-5m
2/sである。平均細孔直径Dの変化に伴って熱拡散率がわずかに変化しているが、
図7によれば熱拡散率の変化は小さい。熱拡散率は、6.4×10
-5m
2/s以上であることが好ましい。
【0064】
図7に示す充填率は、実施例1では、圧力を6MPa以上24MPa以下に設定し、実施例2では20MPa以上24MPa以下
にすることで、焼結温度230℃以上250℃以下の設定で、45%〜55%の範囲に作製できることが分かる。
【0065】
[冷却装置]
図9は、本発明の一実施形態に係る冷却装置の概略構成を示す図である。
図9を参照するに、本発明の一実施形態に係る冷却装置100は、冷却装置100の冷却対象であるナノ電子デバイス200に接続可能な配線101、102と、配線101、102の表面に設けられた焼結体103、104と、冷凍機の低温出力部210に接触する熱伝導体105と、熱伝導体105上に設けられた焼結体106とを有する。冷却装置100は、冷凍機の低温出力部210により、熱伝導体105および焼結体106を介して、筐体108と熱伝導体105によって画成された領域HE3にある液体ヘリウムを冷却し、その液体ヘリウムが焼結体103、104を介して配線101、102を冷却する。配線101、102は、ナノ電子デバイス200の端子(不図示)に接続され、ナノ電子デバイス200を構成する素子を冷却する。
【0066】
配線101、102は、冷却装置100を介して、ナノ電子デバイス200と測定機(不図示)とを接続する。配線101、102は、
図1に示した熱伝導体11と同様の材料が用いられ、導電体である。配線101、102は、ナノ電子デバイス200からの信号を測定機に伝送する。熱伝導体105は、
図1に示した熱伝導体11と同様の材料が用いられる。
【0067】
焼結体103、104は、領域HE3にある液体ヘリウムに接触可能に配置されている。焼結体103、104は、それぞれ、配線101、102を囲むように接着されており、熱的に配線101、102と結合している。焼結体103、104は、
図1に示した第1および第2焼結体12、13と同様の材料が用いられ、配線101、102の熱流が焼結体103、104に良好に流れるようになっている。焼結体103、104は、領域HE3にある液体ヘリウムに接触することで冷却され、それによって、配線101、102を冷却してナノ電子デバイス200を構成する素子を冷却する。
【0068】
焼結体106は、一方の面が熱伝導体105と接触し、他方の面が領域HE3にある液体ヘリウムに接触可能に配置されている。焼結体106は、
図1に示した熱伝導体11と同様に熱伝導体105と接着され、機械的に結合し、熱伝導が良好である。焼結体106は、
図1に示した第1および第2焼結体12、13と同様の材料が用いられ、配線101、102の熱流が液体ヘリウムを介して焼結体106に良好に流れるようになっている。焼結体106は、冷凍機の低温出力部210に冷却された熱伝導体105を介して冷却され、焼結体106に接触する領域HE3にある液体ヘリウムを冷却する。
【0069】
筐体108は、熱伝導体105と隙間なく密着するとともに、閉じた領域HE3の空間を形成し、液体ヘリウムを貯蔵あるいは流通するように構成されている。領域HE3に液体ヘリウムの供給および取出のための配管口(不図示)が設けられている。筐体108は、
図1に示した筐体14と同様の材料が用いられる。
【0070】
冷却装置100は、焼結体103、104、106がガス吸着法による平均細孔直径が14nm以上である焼結体により形成されており、良好に液体ヘリウムに接触する。これにより、冷凍機の低温出力部210により、熱伝導体105を介して液体ヘリウムを効率良く冷却でき、その液体ヘリウムにより配線101、102を効率良く冷却でき、極低温に冷却できる。冷却装置100は、ナノ電子デバイス200を構成する素子や内部配線を、配線101、102を介して冷却することで、ナノ電子デバイス200を極低温に冷却できる。これによりナノ電子デバイス200のリーク電流を減少させ、熱雑音を低減することができ、ナノ電子デバイス200の性能を向上させることができる。
【0071】
なお、本実施形態では、配線101、102は、ナノ電子デバイス200の測定用の配線を例に挙げたが、他の配線、例えば、信号入力用の配線でもよく、電源供給用の配線でもよい。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、それぞれの実施形態を組み合わせてもよい。例えば、
図4に示す変形例1と
図5に示す変形例2とを組み合わせてもよい。本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内および発明を実施するための形態の欄に記載した事項の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0073】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1)熱伝導体と、
前記熱伝導体上に設けられ、流体に接触する焼結体と、を備え、
前記焼結体は、貴金属元素を含む金属材料からなり、ガス吸着法による平均細孔直径が14nm以上である、熱交換器。
(付記2)前記焼結体は、ガス吸着法による比表面積が1.0m
2/g以上である、請求項1記載の熱交換器。
(付記3)前記焼結体は、前記熱伝導体の第1の面および該第1の面に対向する第2の面に設けられ、
前記第1の面の焼結体は、第1の温度の流体と接触可能に配置され、前記第2の面の焼結体は該第1の温度よりも低い温度の第2の流体と接触可能に配置される、付記1または2記載の熱交換器。
(付記4)前記焼結体は、レーザフラッシュ法による熱拡散率が、室温における真空中で6.4×10
-5 m
2/s以上である、付記1〜3のうちいずれか一項記載の熱交換器。
(付記5)前記焼結体は充填率が45%以上55%以下である、付記1〜4のうちいずれか一項記載の熱交換器。
(付記6)前記焼結体と前記熱伝導体との間に、前記貴金属元素を含む金属材料からなる他の焼結体の下地層をさらに備え、
前記下地層は、前記焼結体よりも充填率が高い、付記1〜5のうちいずれか一項記載の熱交換器。
(付記7)前記貴金属元素を含む金属材料が、銀または銀を主成分とする銀合金である、付記1〜6のうちいずれか一項記載の熱交換器。
(付記8)熱交換器の製造方法であって、
平均粒径が100nm以上の貴金属元素を含む金属粉末に圧力を印加し加熱して焼結体を形成するとともに該焼結体を熱伝導体に焼結するステップを含む、前記製造方法。
(付記9)前記焼結体を形成するステップにおいて、該焼結体は充填率が45%以上55%以下になるように形成する、付記8記載の製造方法。
(付記10)前記焼結体を形成するステップの前に、前記熱伝導体の表面に前記貴金族元素を含む金属粉末に圧力を印加して焼結体からなる下地層を形成するステップをさらに含み、
前記焼結体を形成するステップにおいて、前記下地層上に前記焼結体を形成する、付記8または9記載の製造方法。
(付記11)前記焼結体を形成するステップにおいて、前記圧力は6MPa以上24MPa以下に設定する、付記8〜10のうちいずれか一項記載の製造方法。
(付記12)前記焼結体を形成するステップの前に、予め前記貴金属元素を含む金属粉末を加熱して焼結粉末を形成するステップをさらに含み、
前記焼結体を形成するステップにおいて、前記焼結粉末に圧力を印加して加熱して前記焼結体を形成するとともに該焼結体を前記熱伝導体に焼結する、付記8〜10のうちいずれか一項記載の製造方法。
(付記13)前記焼結体を形成するステップにおいて、前記圧力は20MPa以上34MPa以下に設定する、付記12記載の製造方法。
(付記14)前記貴金属元素を含む金属粉末が、銀または銀を主成分とする銀合金である、付記8〜13のうちいずれか一項記載の製造方法。
(付記15)前記焼結体を形成するステップにおいて、加熱温度を230℃以上250℃以下に設定する、付記8〜14のうちいずれか一項記載の製造方法。
(付記16)電子デバイスを冷却するための冷却装置であって、
前記電子デバイスに接続される配線と、
前記配線の表面に設けられ、流体に接触する第1の焼結体と、
冷凍機の低温出力部に接触する熱伝導体と、
前記熱伝導体上に設けられ、前記流体に接触する第2の焼結体と、を備え、
前記第1および第2の焼結体は、貴金属元素を含む金属材料からなり、ガス吸着法による平均細孔直径が14nm以上である、冷却装置。
(付記17)前記焼結体は、レーザフラッシュ法による熱拡散率が、室温における真空中で6.8×10
-5m
2s
-1以上である、付記16記載の冷却装置。
(付記18)前記焼結体は充填率が45%以上55%以下である、付記16または17記載の冷却装置。