【文献】
MOTOYAMA, Yasushi, et al.,Directional Control of Light-Emitting-Device Emission Via Sub-micron Dielectric Structures,2014 IEEE Photonics Conference,IEEE,2014年10月16日,MH2.3,pp. 160-161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2電圧印加部は、前記円周状の複数のワイヤに対して所定角度毎に設けられ、径方向に伸延する複数の電極を有し、各電極に第2電圧を個別に印加することにより、前記ワイヤグリッド偏光子から外部に出射された発光の光ビームの収束の形状、出射方向、及び出射角度を制御する、請求項3記載の光偏向素子。
請求項1乃至5のいずれか一項記載の光偏向素子を画素として2次元アレイ状に配列して設けた表示パネルを備えたインテグラル・フォトグラフィ方式の立体画像表示装置であって、
前記画素に対して、それぞれ前記立体画像表示装置が表示する2以上の出射方向に対応
する画像信号を時分割で切り替えて出力し、当該画素から出射方向の発光と非発光とを制御することを特徴とする立体画像表示装置。
【背景技術】
【0002】
微細なLED(Light Emitting Diode)を並置して配列した表示装置が試作されている。LEDを配列したLEDディスプレイは、高速の動画応答性や色再現性、広い視野角を特徴とする高品質な表示装置として注目されている。2012年にはハイビジョン(HDTV:High Definition Television)のLEDディスプレイが報告されたほか、2016年にはLEDディスプレイをユニット化して複数台並置したタイル型ディスプレイも試作された。
【0003】
これら2次元の映像表示装置から発展させて、さらに立体表示装置を実現する場合には、多数の画素を配置したディスプレイを構築する必要がある。特に3D用のメガネを掛けることなく自然な立体映像の表示手法として開発が進められているインテグラル立体による表示方式について、必要となる画素数を単純に試算した場合には、仮に水平方向60視点、垂直方向60視点、HDの立体解像度を想定すると、画素数は60×60×HD×RGBとなる(RGB:赤緑青)。この膨大な画素数については、最も多画素化されたテレビであるスーパーハイビジョンと比べても実に225倍の画素数に相当する。
【0004】
このインテグラル立体の表示装置を直視する観察者は、ディスプレイから放出される光線を目で直視することになる。このため、各画素を構成する微細な光源としては、レーザーダイオード(LD)ではなくLEDとすることが望ましい。
【0005】
この1つのLED素子画素から複数の色を出すことの先行研究として、サファイア基板のC面上に形成した窒化インジウムガリウム(InGaN)製のLEDにおいて、印加電圧の電圧値を変えたパルス幅変調によって青緑の領域で発光色を変えられることが報告されている。(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
さらに、LEDを使った表示装置において、膨大な画素の配置を軽減する手法として、すでに赤緑青の3原色を1つのInGaAlN-LEDから出力するLED表示装置が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
このように、InGaAlNを基本構造とするLEDは、1個の素子で赤緑青3原色すべての光を発光させることができる。
【0008】
このLED方式によれば、1つの画素から赤緑青3色の光を出射することができるため、ディスプレイを構成する画素の数を従来の1/3に削減することができる。
さらに、また赤青緑の微細なLEDと光学レンズを組み合わせたインテグラル方式の立体表示装置についても提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
一方、LEDから出射される光線の偏向動作によって、時分割表示技術を取り入れることで、実質的に表示装置から出射される光線の数を増やそうとする方式も提案されている。この方式によれば、表示装置の画素数を増やすことなく、ディスプレイから出射される光線の数を増やすことができる。現在までにLEDの母体材料であるGaN−LEDにおけるピエゾ効果(逆圧電効果)を利用することによって、LEDから出射される光線方向を変えることで、インテグラル立体の表示装置を実現しようとする提案がなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
LED等の光源と偏向素子を別々に作製し、それらを個別に組み合わせることで光を偏向しようとする方式は、すでに広く実用化されている。この偏向方式としては、古くからガルバノメータやポリゴンミラー(多面体ミラー)等の機械式のミラーを回転させる技術が広く使われてきた。この機械式の偏向技術については、最近になってMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術として発展している。
【0011】
また、MEMS等の機械式ではない偏向素子として電気光学効果(EO効果:Electro-Optic effect)を使った光偏向素子も開発されている。EO効果は、電界に比例して屈折率が変化する効果であって、ポッケルス効果とも言われている。
【0012】
代表的なEO材料としては、例えばニオブ酸リチウムLiNbO
3(LN)単結晶やチタン酸ジルコン酸ランタン鉛La
2O
3/PbZrO
3/PbTiO
3(PLZT)セラミックスがある。LN結晶の(001)面やPLZTにプリズム形状の電極を形成したEO光偏向素子も開発されている(例えば、非特許文献3、4参照)。
【0013】
さらに、タンタル酸ニオブ酸カリウムKTa
1−xNb
XO
3(KTN)結晶を使った光偏向素子も実用化された(例えば、特許文献3参照)。この光偏向素子では、KTN結晶を上下から電極で挟んだ構造を有し、電極間に電圧を印加させて光を偏向させる。その際、上記のEO効果に加えて、電極から注入された電子をKTN結晶中の結晶欠陥にトラップさせて、結晶中の空間電荷の効果を用いることで偏向角の増大が実現されている(例えば、非特許文献5参照)。
【0014】
さらに、光導波路内に入射する光の波長を変えることで、光導波路から出力される光の偏向を実現しようとする試みも行われている。一般に、光導波路内での遮断波長λcの近傍では、入力された光の波長変化によって偏向角を大きくすることができる。ガリウムヒ素(GaAs)を使った半導体の光導波路構造において、波長952〜989nmの波長範囲で、約50°程度の偏向角が報告されている(例えば、非特許文献6参照)。この半導体を使った偏向素子の構造では、面発光レーザーの構造を踏襲しているため、今後、半導体レーザーと偏向素子を組み合わせたコンパクトな素子により、光スイッチ等の実現が期待されている。この方式では、光源の波長を変えることで偏向を実現している。
【0015】
一方、光を変調する位相変調器として半導体のEO効果を利用する試みも行われている。特にLEDの主要な材料であるInGaAlN等のウルツ鉱型の結晶材料は、インジウムガリウムヒ素リン(InGaAsP)等の閃亜鉛構造型のものに比べて、EO効果による屈折率の変調率が大きいことが知られている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の光偏向素子、及び、表示装置を適用した実施の形態について説明する。
【0034】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1の光偏向素子100を示す斜視図である。
図2は、
図1のA−A矢視断面を示す図である。また
図3は、
図2の境界面と入射光との関係を示す図である。
図1、2では、XYZ座標系を定義する。なお、以下では、説明の便宜上、基準位置に対してZ軸正方向側を上、Z軸負方向側を下と称すが、普遍的な上下関係を示すものではない。
【0035】
光偏向素子100は、サファイア基板101、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140、n型電極150、p型電極160、遮光膜170、絶縁層171、ワイヤグリッド偏光子180、バイアス電圧源190A、190Bを含む。
【0036】
サファイア(Al
2O
3)基板101は、サファイアC面である(0001)面がXY平面と平行、かつ、Z軸正方向側に位置し、(0001)面にGaN層102を積層してある。
【0037】
GaN層102は、アンドープの窒化ガリウム層であり、サファイア基板101の(0001)面上に設けられている。GaN層102は、例えばキャリヤガスとして水素を用い、Ga源としてTMG(トリメチルガリウム)、窒素源としてはアンモニアを用いたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法(または、Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPEと呼称)で構成される結晶成長法でサファイア基板101に積層される。
【0038】
n−GaN層110は、GaN層102の上に設けられている。n−GaN層110は、n型の窒化ガリウム層であり、一例として、シラン(SiH
4)を使ってシリコン(Si)をドーピングとしたMOCVD法で成長する。なお、n−GaN層110は、アルミニウムを含んでいてもよく、この場合には、窒化ガリウムアルミニウム(Ga
xAl
1−xN(0<x≦1))を母体材料とする層として捉えることができる。
【0039】
MQW層120は、窒化インジウムガリウム(In
yGa
1−yN(0<y≦1))で構成される多重型の量子井戸(Multiple Quantum Well、MQW)であり、n−GaN層110の上に設けられている。MQW層120は、n−GaN層110の上の領域のうち、X軸負方向側の端部を避けた領域に設けられている。MQW層120は、MOCVD法でn−GaN層110の上に積層される。
【0040】
より具体的には、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120は、次のように形成することができる。サファイア基板101の上に、例えば、MBE(分子線エピタキシー)法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法などの成膜方法により、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120を順次に積層して形成することができる。
【0041】
更に詳細に説明すると、n−GaN層110は、アンドープのGaN層102を介してn型不純物であるSiをドープしたGaNで構成される結晶を成長させて形成する。また、n−GaN層110は、例えば、GaNで構成されるn型コンタクト層とAlGaNで構成されるn型クラッド層との2層構造にして形成してもよい。
【0042】
MQW層120は、n−GaN層110とアンドープGaN層130およびp型半導体層140の間に設けられ、n−GaN層110に、例えば、InGaNなどを積層して形成する。なお、MQW層120としてInGaNで構成される活性層を形成し、ダブルへテロ構造とすることもできる。また、MQW層120として、例えば、アンドープのGaNで構成される障壁層とアンドープのInN又はInGaNで構成される井戸層とを交互に積層した量子井戸構造、好ましくは多重量子井戸構造の活性層を形成してもよい。
【0043】
p型半導体層140は、MQW層120上に、またはMQW層120上に形成したアンドープGaN層130上に、p型不純物であるMgをドープしたGaNで構成される結晶を成長させて形成する。一例として、MOCVD法によりマグネシウム(Mg)をドープし、窒素雰囲気中での熱処理を行い作製できる。p型半導体層140も、n−GaN層110と同様に、例えば、GaNで構成されるp型クラッド層とAlGaNで構成されるp型コンタクト層との2層構造にして形成してもよい。
【0044】
また、p−GaN層140は、アルミニウムを含んでいてもよく、この場合には、窒化ガリウムアルミニウム(Ga
xAl
1−xN(0<x≦1))を母体材料とする層として形成することができる。
【0045】
n型電極150は、LED領域50A(p−GaN140、GaN層130、MQW層120、n−GaN層110)に電界を印加するための一対の電極のうちの一つであり、バイアス電圧源190Aの負極性電極に接続されている。LED領域50Aは、発光ダイオード部の一例である。n型電極150は、n−GaN層110の上の領域のうち、X軸負方向側の端部に設けられている。n型電極150が設けられる領域には、MQW層120、GaN層130、及びp−GaN層140は設けられていない。
【0046】
p型電極160は、LED領域50Aに電界を印加するための一対の電極のうちの一つであり、バイアス電圧源190Aの正極性電極に接続されている。このようにp型電極160を配置してp型電極160とn型電極150との間にバイアス電圧源190Aから順バイアスを印加することにより、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、及びp−GaN層140のうち、LED領域50Aに電流が流れる。
【0047】
MQW層120は、p−GaN層140およびGaN層130とn型GaN層110との間に設けられ、p−GaN層140を介して輸送されるキャリアである正孔と、n型半導体層110を介して輸送されるキャリアである電子とが再結合することで発光する。その際、p−GaN層140およびn型GaN層110におけるキャリア移動度と再結合時間との関係により、p型電極160とp−GaN140との接触面の直下領域およびその近傍であるLED領域50で囲まれた部分のMQW層領域120Aのみが発光し、他の領域では発光しない。
【0048】
遮光膜170は、p−GaN層140の上面のうち、p型電極160とワイヤグリッド偏光子180との間の領域に設けられている。絶縁層171は、遮光膜170とp−GaN層140との間に設けられ、遮光膜170をp−GaN層140から絶縁している。
【0049】
ワイヤグリッド偏光子(Wire-grid polarizer)180は、p−GaN層140の上面において、LED領域50Aよりも平面視でX軸正方向側にp−GaN層140の上面領域に形成される。作製法としては、金属の蒸着法とフォトリソグラフィーの組み合わせが一般的であって、ワイヤグリッド偏光子180の材料としては、Y軸方向に細線状に伸延する構造であって、アルミニウム、金、銀などの金属またはそれらの固溶体で構成され、複数の金属ワイヤを有し、それらのワイヤは互いに平行に配設されている。ワイヤグリッド偏光子180の複数のワイヤのY軸正方向側の端部(
図1で破線で囲む部分)は、バイアス電圧源190Bの負極性端子に接続される。
【0050】
ワイヤグリッド偏光子180は、p−GaN層140の表面上に微細な金属のグリッド(スリット状)を形成する事によって、GaN層からのグリッドに入射する光のTM偏光の成分を空気中に透過する一方、TE偏光成分をGaN積層膜(GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140)側へ反射または一部を金属で吸収することで偏光子として機能する。なお、以下では、GaN積層膜(GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140)をGaN積層膜102〜140と称す。
【0051】
また、バイアス電圧源190Bは、n型電極150とワイヤグリッド偏光子180の間にバイアス電圧が印加される、その際、ワイヤグリッド偏光子は偏光子に加えて電極としても機能する。すなわち、LED領域50Aの発光のうちワイヤグリッド偏光子はTM光を偏光し、さらにワイヤグリッド偏光子180に電界を印加することによってZ軸正方向側に印加電圧に応じた出射角度方向に偏向を行うことができる。
【0052】
バイアス電圧源190Aは、p型電極160とn型電極150との間で、p−GaN層140とn−GaN層110に順バイアスを印加するように接続されている直流電源である。すなわち、直流電源の正極性端子はp型電極160に接続され、負極性端子はn型電極150に接続される。バイアス電圧源190Aは、LEDの出力光強度を変える場合、または発光色を変える場合には、順バイアスのパルス幅変調または、パルス高変調も可能である。
【0053】
バイアス電圧源190Bは、正極性端子がn型電極150に接続され、負極性端子がワイヤグリッド偏光子180に接続されており、出力電圧を変化させることができる可変型の直流電源である。
【0054】
上述のように、光偏向素子100は、Ga
xAl
1−xN(0<x≦1)を母体材料とするp型層(p−GaN層140)及びn型層(n−GaN層110)を積層し、特に活性層としてIn
yGa
1−yN(0<y≦1)と障壁層(GaN)のペアを多層化した多重量子井戸(MQW層120)を組み込んだLEDの構造を基本構造としている。ここで
図2では、一例として、y=0.2とし、MQW層120の組成を厚さ4nmのIn
0.2Ga
0.8N活性層と厚さ11nmの障壁層を10層重ねたMQW層120を組み込んだ構造とした際の例である。
【0055】
LED領域50Aにおいて、In
yGa
1−yN(0<y≦1)のMQW層120の内、特に50Aで囲まれた部分のMQW層領域120Aから放射される発光は、TE(MQW層120に平行なY軸方向の電界ベクトルを持つ光)とTM(MQW層120に垂直なZ軸方向の電界ベクトルを持つ光)の両方の成分を有している。これについては、サファイア基板のC面上に形成した窒化ガリウム製のレーザダイオード(GaN−LD)がTEモードのみを放射することと対照的である。
【0056】
例えば、サファイア基板101のC面上に形成したn−GaN層110、MQW層120、GaN層130、及びp−GaN層140による窒化ガリウム製のLED(GaN−LED)であるLED領域50AのTEモードとTMモードの偏光の強度比率の差は、青色LEDのピーク波長458nmにおいて最大でも30%程度である。
【0057】
MQW層120で発光した光は、遮光膜170を設けたことにより、MQW層120を含んだGaN積層膜(102〜140)を光導波路とみなすことができ、p−GaN層140と上側の空気層との境界面、及び、GaN層102とサファイア基板101との境界面で全反射される。
図3は、当該光導波路の境界面と入射光との関係を示す図であって、
図2の50Bの光伝播領域を拡大した図である。境界面の垂直方向と入射光とのなす角をθとするとスネル則によって、それぞれの界面での臨界角θ
1、θ
2については、次式(1)、(2)となる。
【0060】
いま、例えば青色LEDのピーク波長458nmについては、空気中の屈折率n
Air=1.00、GaN積層膜102〜140の中での屈折率n
GaN=2.47、サファイア基板101の中での屈折率n
Al2O3=1.78とすると、空気層とp−GaN層140との境界面での臨界角θ
1と、GaN層102とサファイア基板101との境界面での臨界角θ
2は、式(1)及び式(2)によって、θ
1=23.9°、θ
2=46.1°となる。
【0061】
従って、LED領域50AからX軸正方向に放射される光の光導波路(GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140)の上下の境界面への入射角θがθ>θ
2の条件を満たせば、p−GaN層140と空気、又は、GaN層102とサファイア基板101との間の屈折率差によって、MQW層120から放射される発光は、光導波路の中を全反射しながらX軸正方向に伝搬していくことになる。
【0062】
すなわち、
図1のような遮光膜170をp型電極160のX軸正方向側の近傍に設ければ、θ>θ
2の条件を常に満たすことができるため、空気層とp−GaN層140との境界面から発光が空気層に出ることを抑制できY軸方向には光はほとんど出力されずに、GaN積層膜102〜140を光導波路として光伝搬させることが可能となる。
【0063】
一方、
図1、
図2の構成では、MQW層120を含むGaN積層膜102〜140の厚みすなわち光導波路の厚みをa、真空中の波数をk、GaN積層膜102〜140の上下の境界面への入射角をθとすると次式(3)、(4)が成り立つ。
【0066】
式(3)において、aは、GaN積層膜102〜140の全体の合計膜厚、φ
AirはGaN積層膜102〜140と空気の境界面での全反射に伴う位相変化、φ
Al2O3はGaN積層膜102〜140とサファイア基板101の境界面での全反射に伴う位相変化、mは0以上の整数(0、1、2…)、βは伝搬定数を表す。
【0067】
図4は、サファイア基板101とGaN積層膜102〜140の屈折率の深さ(厚さ)方向の分布を示す図である。深さ0μmは、サファイア基板101とGaN層102との境界の位置である。
【0068】
図4に示すように、サファイア基板101の屈折率は1.78であり、GaN積層膜102〜140の屈折率は2.47である。GaN積層膜102〜140にはMQW層120が含まれ、MQW層120の屈折率は、GaN層102、n−GaN層110、GaN層130、p−GaN層140の屈折率より少し高いが、約2.5である。
【0069】
このようなデバイス構造は、空気をクラッド層、光導波路として機能するGaN積層膜102〜140をコア層、サファイア基板101をクラッド層とする3層構造のスラブ型の光導波路と扱うことができ、一般的な非対称性のTEモードとTMモードのスラブ型光導波路の解析が適用できる。すなわち、
図2の遮光膜170によって上面(正面)への放射モードとサファイア基板101への放射モードを生じないようにすることができ、X軸方向において遮光膜170が存在する区間内でGaN積層膜内を伝搬する光は、次式(5)を満足する複数の伝搬光を含む離散的な解を持つマルチモードの伝搬光となる。
【0071】
また、式(3)において、TEモードとTMモードでは位相変化φ
Airと位相変化φ
Al2O3の値が異なるため、導波路解析における分散曲線(dispersion curve)も、TE1とTM1で異なることになる。
【0072】
図5は、サファイア基板101とGaN積層膜102〜140の屈折率の波長依存性を示す図である。
図5に示すように、GaN積層膜102〜140の屈折率は、波長が400nmでは約2.55であり、波長の増大とともに緩やかに減少し、900nmでは約2.35になる。また、サファイア基板101の屈折率は、波長が400nmでは約1.78であり、波長が増大に対して非常に緩やかな減少傾向にあるが、ほぼ一定である。
【0073】
図6は、n
Air=1.00、n
GaN=2.47、n
Al2O3=1.78の青色LEDのピーク波長458nmで計算した、TE1とTM1におけるGaN積層膜102〜140の3層構造スラブ型光導波路の分散曲線である。
【0074】
図6において、横軸はVパラメータ(規格化周波数とも称す)、縦軸は規格化伝搬定数b(normalized propagation constant)を示している。
図6には、TEモードとTMモードのモード0〜5(m=0〜5)の特性を示す。
【0075】
図6に示すように、屈折率が非対称な3層構造を反映して、TEとTMの各モードで分散曲線が異なる。さらに式(5)及びb−V特性から、伝搬定数βを解析的に求めることができる。さらにβと波数kの比率から、次式(6)のように、等価屈折率n
eq(equivalent indexまたは実行屈折率:effective indexとも称す)を求めることができる。
【0077】
次に、ワイヤグリッド偏光子(wire-grid polarizer)180(
図1、2参照)について説明する。ワイヤグリッド偏光子180は、p−GaN層140の表面にピッチΛ(μm)で配設される複数本の金属製のワイヤを有する。複数のワイヤは、Y軸方向に伸延し、X軸方向にピッチΛ(μm)で平行に配列されている。
【0078】
ワイヤグリッド偏光子180では、p−GaN層140の表面上に微細な金属のグリッド(スリット状)を形成する事によって、GaN層からのグリッドに入射するTMモードの成分を空気中に透過する一方、TE偏光成分をGaN層へ反射(一部吸収)することで偏光子として機能する。すなわち、ワイヤの伸延方向(Y軸方向)に振動する光(TEモード)は、光の電界振動方向がワイヤの伸延方向と一致するため、ワイヤの金属中の電子は電界による移動でジュール熱を発生し、光は金属に吸収されてしまう。また、金属に吸収されない光は金属でGaN側に反射される。一方、ワイヤの金属と伸延方向の直交する電界をもつ光(TMモード)に対しては、金属内で電子が移動できる距離が限られているため光吸収は少なく、透過する。すなわち、ワイヤグリッド偏光子180は、回折格子として機能するため、TMモードは、ワイヤの間を透過することができる。このため、ワイヤグリッド偏光子180においては、GaN積層膜102〜140の内部を伝搬するTMモードとTEモードの伝搬光のうち、TMモードの光のみを外部に取り出すことができるようになる。
【0079】
ワイヤグリッド偏光子180を透過して、外部に取り出される光線については、出射される光線方向と境界面に垂直方向とのなす角をαとすると次式(7)で与えられる。
【0081】
ワイヤグリッド偏光子180とLED領域50Aのn型電極150の間にバイアス電圧源190Bから逆バイアス電圧を印加した場合には、TMモードの等価屈折率n
eqを印加電圧に比例する形で、可変させることができる。式(7)において、λ
0は、LED領域50Aの発光のピーク波長(中心波長)であって、逆バイアス電圧の値には依存せず常に一定値である。ワイヤグリッド偏光子180のピッチΛについては、式(7)においてsinα>0を満足する条件下で適宜設定すればよい。LED領域50Aから出力される光線方向に応じて印加電圧を変えることで、光線のXZ平面と垂直方向との成す角αを制御することが可能となる。
【0082】
なお、
図2において、GaNの結晶構造に由来するEO効果が発現する理由は、GaNの結晶構造が六方晶系の対称性が低い結晶構造からなり、TMモードのGaN積層膜102〜140の結晶構造に中心対称性を含まないことに由来したEO効果が発現する。すなわち、このような対称性が低く、中心対称性を持たない結晶構造に電界を印加した場合に、電界に比例した屈折率変化、すなわちポッケルス効果による電気光学(EO)効果が生じる。
【0083】
また、このような大きな屈折率変化が、特にInNの量子井戸を有するLEDでは増強される。GaN結晶の水平方向(a軸)の格子定数は0.3189nmであり、InN結晶の同方向の格子定数は0.3548nmである。従って、両者の間の格子不整合が11%ある。この格子不整合によって、面内圧縮歪は更に増長され、ポッケレス効果が増強される。
【0084】
しかし、サファイア基板101のC面上に形成したGaN積層膜102〜140の中のMQW層120に由来する大きなEO効果は、TMモードでは望めない。
【0085】
すなわち、MQW層120での屈折率の変調効果については、TE偏光は変調されるが、TM偏光はほとんど変調されない。これを回避するためには、サファイア基板101のC面上でのGaNの結晶成長に代えて、C面から約45°傾いた基板である半極性基板上に作製したMQWの形成が最も有効である。または、GaNの成長に代えて、AlNの固溶体であるGa
xAl
1−xN(0<x≦1)を母体材料とするp型層及びn型層を積層した基本構造とし、特に活性層としてIn
yGa
1−yN(0<y≦1)のMQWを組み込んだ構造とするのも効果的である。GaNでは、価電子帯Topと伝導体の底の間で許容される遷移(光学選択則)が電界ベクトルとGaN結晶のC軸とが垂直になるのに対し、AlNでは、電界ベクトルとGaN結晶のC軸とが平行になるためである。
【0086】
これが主因となりAlNでは、C軸に平行な電界ベクトルの光も変調できるようになる。MQWのバンド構造も母体材料であるGaNやAlNのバンド構造を踏襲すると考えられるためGaNに代えてAlを含んだGa
xAl
1−xN(0<x≦1)を母体材料とするLEDがTMモードの変調には有効である。
【0087】
以上、実施の形態1によれば、LED領域50Aとワイヤグリッド偏光子180とを同
一基板(サファイア基板101)上に形成できるため、小型の光偏向素子100を実現することが可能となる。実施の形態1では光変調器や光偏向器について、光源(LED領域50A)と光変調部(ワイヤグリッド偏光子180を電極とするEO変調部50C)を一体化することで、コンパクトな光偏向素子100を実現できる。その際、光源(LED領域50A)の偏波面とEO変調部50C(ワイヤグリッド偏光子180を電極とする変調部)の偏波面を一緒にすることにより、光源の変調及び光偏向を実現できる。なお、EO変調部50Cは、
偏向部の一例である。
偏向部は、偏光子として働くとともに、変調器として屈折率を変えることで偏向を行う。
【0088】
光偏向素子100は、光の位相変調としてGHz以上の高速変調が可能な電気光学効果(EO効果)を用いているため、高速の光偏向制御が可能となる。この光偏向素子100をインテグラル立体表示装置の表示部の各画素に用いることで、時分割表示によって、立体表示に必要となる画素数の大幅な削減を実現することが可能となる。
【0089】
図7は、実施の形態1の変形例の光偏向素子100Aを示す図である。光偏向素子100Aは、サファイア基板101、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140、n型電極150、p型電極160A、遮光膜170A、ワイヤグリッド偏光子180A、バイアス電圧源190A、190Bを含む。
【0090】
光偏向素子100Aは、
図1、2に示す光偏向素子100のワイヤグリッド偏光子180の代わりに、リング状のワイヤグリッド偏光子180Aを含む。これに伴い、
図1、2に示すp型電極160と遮光膜170は、p型電極160Aと遮光膜170Aに変更されている。なお、
図7では絶縁層171に相当する絶縁層を省略する。
【0091】
ワイヤグリッド偏光子180Aは、同心円状に配置される複数のワイヤと、電極180A1とを有する。また、遮光膜170Aは、平面視で複数のワイヤの外側から中心まで延びる基部170A1と、複数のワイヤの中心(最も直径が小さいワイヤの内側の部分)を覆う中心部170A2とを有する。また、p型電極160Aは、遮光膜170Aの上側に設けられ、平面視で複数のワイヤの外側から中心まで延びる基部160A1と、中心部160A2とを有する。基部160A1と中心部160A2は、それぞれ、基部170A1と中心部170A2上に位置する。
【0092】
このような光偏向素子100Aは、
図1、2に示す光偏向素子100と同様に、バイアス電圧源190Bからワイヤグリッド偏光子180Aの全体と、n型電極150との間に逆バイアス電圧を印加する。バイアス電圧源190Bからワイヤグリッド偏光子180Aには、1つの電極180A1を介して電界が印加される。電極180A1は、ワイヤグリッド偏光子180Aの複数のワイヤの中心から径方向外側に向かって設けられる直線状の電極である。
【0093】
LED領域50Aで発生した光は、ワイヤグリッド偏光子180Aで回折されて、Z軸方向に取り出すことができる。また、ワイヤグリッド偏光子180Aは、平面視でLED領域50Aを周囲から取り囲む形状をしているため、ワイヤグリッド偏光子180A全体で可変焦点レンズを形成することが可能となる。従って、取り出される光は、
図7に示すようにビーム100A1にビーム収束される。
【0094】
図8は、実施の形態1の変形例の光偏向素子100Bを示す図である。光偏向素子100Bは、
図7に示す光偏向素子100Aのワイヤグリッド偏光子180Aをワイヤグリッド偏光子180Bに変更したものである。
【0095】
ワイヤグリッド偏光子180Bは、同心円状に配置される複数のワイヤと、8個の電極180B1〜180B8とを有する。電極180B1〜180B8は、
図7に示す電極180A1を等角度間隔で8つ配置したものである。電極180B1〜180B8には、バイアス電圧源190Bから独立的に可変電圧が印加される。
【0096】
ワイヤグリッド偏光子180Bを周方向に8分割された複数個の電極に見立て、分割駆動を可能にしている。電極180B1〜180B8の分割駆動によって、電極180B1〜180B8の各々からワイヤに印加する電圧に印加電圧差を設けることにより、8個の電極180B1〜180B8下のGaN積層膜102〜140中の伝播光について、同心円方向に異なる位相分布を持たせれば、ビーム100B1の仰角及び方位角を制御できるようになる。
【0097】
このようなワイヤグリッド偏光子180Bは、8つの開口部を持つ光フェーズドアレイと見なすこともできる。ただし、光フェーズドアレイとしての動作を実現するためには、開口部全体が、LED領域50Aの発光のスペクトル幅で規定されるコヒーレンス長の中に入っていることが必要となる。一般的なLEDの場合、コヒーレンス長は20μm程度である。LEDの中での光閉じ込め効果を高めれば、コヒーレンス長は、伸長することは可能である。光フェーズドアレイ動作により、光ビームの方向制御と収束・発散動作が可能となる。
【0098】
<実施の形態2>
図9は、実施の形態2の光偏向素子200を示す図である。MQW層120の積層方向と同一方向に電界成分を持たせて、電気光学定数r
13を用いたTEモードで光偏向できる構造である。
【0099】
このような電界成分を持たせるために、光偏向素子200は、サファイア基板101、GaN層102、n−GaN層110、MQW層120、GaN層130、p−GaN層140、n型電極150、p型電極160、遮光膜170、絶縁層171、金属クラッディング280、バイアス電圧源190A、290B1、290B2、p型電極290C1、290C2を含む。
【0100】
金属クラッディング280は、平面視で矩形状の金属膜であり、GaN積層膜102〜140の光導波路のp−GaN層140の上面に直接的に形成されている。金属クラッディング280のX軸方向の位置は、p型電極160の正方向側に隣接する位置である。金属クラッディング280のX軸正方向側には、p型電極290C1、290C2が設けられる。金属クラッディング280は、例えば、Al、Au、Agなどの金属薄膜製であって特に複素誘電率の虚部が大きいAlが有効であり、作製法としては、例えば、蒸着法によって形成される。
【0101】
p型電極290C1、290C2は、金属クラッディング280のX軸正方向側において、GaN積層膜102〜140の光導波路のp−GaN層140の上面に設けられている。p型電極290C1は、p−GaN層140の上面のうち、Y軸正方向側の端部に設けられ、p型電極290C2は、p−GaN層140の上面のうち、Y軸負方向側の端部に設けられている。また、p型電極290C1は、バイアス電圧源290B1によってn型電極150に対して逆バイアス電圧が印加され、p型電極290C2は、バイアス電圧源290B2によって可変の逆バイアス電圧が印加される。
【0102】
図1、2、7、8に示した光偏向素子100、100A、100Bでは、TMモードの光を外部に取り出しており、サファイア基板101のC面基板上に形成したGaN積層膜102〜140のInGaNのMQW層120では大きなEO係数の発現は難しかったが、本構造によれば、TEモードを利用することができるため、可視光の発光領域においても電気光学定数r
13=20(pm/V)程度の大きな電気光学効果が発現することが可能となる。
【0103】
特に、p−GaN層140の上面に直接金属を製膜した金属クラッディング280を用いることによってTMモードを吸収し、GaN積層膜102〜140の内部でTEモードをX軸正方向に透過させることができる。TEモードの光は、X軸正方向側の端面から放射される。
【0104】
本構造によれば、TMモードの電磁界分布が金属クラッディング280の金属中に浸透するため、TMモードの伝搬損失は大きく、TEモードのみが透過する。すなわち、金属はTMモードの光に対して、誘電率が負でかつ損失の大きな誘電体としてふるまう。その結果、2本のp型電極290C1、290C2で挟まれた導波路領域では、バイアス電圧源290B2のバイアス電圧を可変させることにより、効率的にTEモードの光を矢印で示すように偏向し、X軸正方向側の端面から放射される方向をXY平面内で制御することができるため、安価なC面サファイア基板を用いて、電気光学定数r
13の大きな光偏向素子200を形成することが可能となる。
【0105】
<実施の形態3>
図10は、実施の形態3のインテグラル立体方式の表示装置(立体画像表示装置)300を示す図である。
図10に示す表示装置300は、実施の形態1、2の光偏向素子100、100A、100B、200のうちのいずれか1つを用いたインテグラル立体方式の表示装置である。
図10の表示装置300において、各画素に光偏向素子100、100A、100B、200のうちのいずれか1つが配置される。
図10(A)、(B)には、複数の光偏向素子100、100A、100B、200の各々から放射される光を時分割して時分割表示することで、表示装置300の利用者に立体映像を提供する。
【0106】
かかる構成によれば、立体画像表示装置300は、発光制御部によって、各画素に対して、それぞれ2以上の出射方向に対応する画像信号を時分割で切り替えて出力し、当該画素の発光と非発光とを制御する。また、立体画像表示装置300は、各画素からの光線の出射方向を特定する。このとき、立体画像表示装置300は、出射方向の制御によって、発光制御部が2以上の出射方向に対応して各画素に出力する画像信号を切り替えるタイミングに同期して、各画素として設けられた発光素子の出射方向を偏向する。これによって、立体画像表示装置300は、インテグラル・フォトグラフィ方式の立体画像を表示する。
【0107】
このため、各画素からの光線の方向が2以上の出射方向に特定されるため、従来のレンズを用いた立体画像表示装置に比べて、立体映像を高精細化することができる。また、時分割方式によって、1つの発光素子が複数の出射方向に対応する画素として機能するため、立体画像表示装置300に搭載する発光素子の数を削減することができる。
【0108】
立体表示装置を実現した際、表示装置を直視する観察者は、ディスプレイから放出される光線を目で直視することになる。このため、各画素を構成する微細な光源としては、レーザーダイオード(LD)ではなくLEDを用いて実現できる。
【0109】
LED光源と偏向素子と一体化した構造であることが画素を形成することによってで、時分割表示により、画素から出射する光線方向と形状を制御することで、立体映像を表示することが可能となる。
【0110】
なお、本光偏向素子100、100A、100B、200は、光線の成形と方向制御を必要とするデバイス一般に応用することが可能である。例えば、プロジェクター用光源、光スイッチ、空間光インターコネックションに用いる接続器、拡散板を必要としない照明光源などに好適である。
【0111】
以上、本発明の例示的な実施の形態の光偏向素子、及び、表示装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。