(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内側テーパ軸の大径および小径の円筒部と、前記外側テーパ軸の大径および小径の円筒部とを互いに対向させ、それらをそれぞれ滑り軸受として構成したことを特徴とする請求項1に記載の測定器。
前記外側テーパ軸は拡大管状に形成されており、この拡大管状の大径側にベース板を取り付け、一方前記内側テーパ軸も拡大管状に形成されており、前記ベース板と前記内側テーパ軸の大径側との間に圧縮ばねを配設し、該圧縮ばねが、通常使用時に前記センサ・プローブ部を前記衝突退避機構から軸方向に離れるように付勢することを特徴とする請求項1または2に記載の測定器。
前記内側テーパ軸のテーパ状係止部と前記小径の円筒部との接続部および前記外側テーパ軸のテーパ状係止部と前記大径の円筒部との接続部に、それぞれ軸方向に延びる逃げ部を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の測定器。
前記センサ・プローブ部に連結する接点と前記ベース板に連結する接点とを有するスイッチを設け、該スイッチの動作により前記測定器の軸方向動を停止する信号をこの測定器が取り付けられた工作機械の制御部に送信可能とした請求項3に記載の測定器。
測定器のセンサ・プローブ部に取り付けられ、中間部に設けられたテーパ状の係止部と、前記テーパ状の係止部の両軸方向端側に設けられた大径および小径の円筒部を有する、入れ子構造の内側テーパ軸と外側テーパ軸、および前記内側テーパ軸と前記外側テーパ軸に対して軸方向に付勢力が作用するように配設した圧縮ばねを備えた衝突退避機構を用いる衝突退避方法において、
前記センサ・プローブ部がワークの外部物体に接触または衝突したら、互いに対向する前記内側テーパ軸の大径および小径の円筒部と、前記外側テーパ軸の大径および小径の円筒部と、がそれぞれ滑り軸受を形成して、前記内側テーパ軸を前記外側テーパ軸側へ軸方向に退避動作させ、
前記センサ・プローブ部が外部物体に接触も衝突もしないときには、前記圧縮ばねが伸長して前記内側テーパ軸を前記外側テーパ軸に対して軸方向に離れるように付勢し、前記内側テーパ軸の前記テーパ状の係止部を前記外側テーパ軸の前記テーパ状の係止部に実質的に密着接触させることを特徴とする衝突退避方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の測定ヘッド構造においては、測定ヘッドと一体になった測定機本体をホルダに保持し、ホルダ全体を筒状のケーシング内に遊嵌している。そしてケーシングに一端側が固定されたばねの他端側を遊嵌したホルダに取り付け、ばねの引っ張り力を軸方向に作用させている。また、周方向および半径方向の位置決めを、ホルダの軸直角面に形成した周方向3個の接点の接続状態で決定している。
【0006】
この公報に記載の測定ヘッドでは、一旦測定ヘッドが測定対象の穴の縁等に接触すると、ばね力にだけ抗してホルダ全体が軸方向に移動するので、小さな力しか必要としない迅速な退避動作を期待できる。しかしながら、ホルダの保持力が小さいため、ホルダが軽量の場合や短い場合には有効な方法と考えられるが、ホルダが長い場合や重い場合に高速なオートツールチェンジが困難になる。
【0007】
すなわち、測定ヘッドの退避動作においてはばね力に抗してホルダ全体が動くので、衝突により測定ヘッドの軸に垂直方向の力が作用し、ホルダ全体が軸方向とともに力の作用する方向にも変位する。衝突退避動作でこのように変位した後、衝突力が喪失されると、引張ばね力によりホルダ全体に復元力が作用する。ところで、ホルダに大きな加速度が加わると、慣性力の影響でホルダが斜めに浮き上がる恐れがある。その場合、ホルダを保持することが困難になるとともに、誤検出が生じる可能性もある。この現象は、ホルダの長さが長くなればなるほど、また重くなればなるほど顕著になり、最悪の場合にはオートツールチェンジを実行できなくなる。また、接点が摩耗等によりその形状を変化させると当然ながら接点の接触状況が変化し、初期の位置決めを達成し得なくなる。
【0008】
この不具合を解消するために、測定ヘッドの軸方向動を軸受で支持することも考えられる。例えば測定ヘッドを転がり軸受で支持する場合、測定ヘッドの衝突時の衝撃に耐えること及び測定時の穴との接触時に測定ヘッドの振動等を発生しないことのためには、測定ヘッドの支持部を含めた剛性を高くする必要があり、転がり軸受が大型化する。これは測定ヘッド自体の大型化や測定器の高価化を引き起こす。また、測定ヘッドを滑り軸受で支持すると、滑り軸受では軸受隙間が必要なので、この隙間がガタつきとなり、このガタつきのため通常の測定においても測定誤差が生じてしまう。
【0009】
本発明は、上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、測定器に測定対象等へ衝突する等の異常事象が発生しても、測定器を損傷することなく迅速に該事象が生じた場所から測定器を退避させ、それとともに、退避後の測定において、測定器を元の位置に正確に復旧させて、測定器の傾きや偏心等を生じさせずに高精度な復帰測定を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、測定対象物の少なくとも内径、外径、深さおよび厚さのいずれかを測定する測定器において、前記測定器は、測定子を有する測定部とこの測定部に近接して配設された検出部を有するセンサ・プローブ部と、該センサ・プローブ部の軸方向に延在する部分であってセンサ・プローブ部に付設された衝突退避機構を備え、前記衝突退避機構は入れ子構造の内側テーパ軸と外側テーパ軸を有し、内側テーパ軸と外側テーパ軸の各々は、中間部に設けられたテーパ状の係止部とこのテーパ状の係止部の両軸方向端側に設けられた大径および小径の円筒部を有することにある。
【0011】
そしてこの特徴において、前記内側テーパ軸の大径および小径の円筒部と、前記外側テーパ軸の大径および小径の円筒部を互いに対向させ、それらをそれぞれ滑り軸受として構成することが好ましく、前記外側テーパ軸は拡大管状に形成されており、この拡大管状の大径側にベース板を取り付け、一方前記内側テーパ軸も拡大管状に形成されており、前記ベース板と前記内側テーパ軸の大径側との間に圧縮ばねを配設し、該圧縮ばねが、通常使用時に前記センサ・プローブ部を前記衝突退避機構から軸方向に離れるように付勢することが望ましい。
【0012】
また上記特徴において、前記内側テーパ軸のテーパ状係止部と小径円筒部の接続部および前記外側テーパ軸のテーパ状係止部と大径円筒部の接続部に、それぞれ軸方向に延びる逃げ部を形成するのがよく、前記センサ・プローブ部に連結する接点と前記ベース板に連結する接点を有するスイッチを設け、該スイッチの動作により前記測定器の軸方向動を停止する信号をこの測定器が取り付けられた工作機械等の制御部に送信可能としてもよい。
【0013】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、測定器のセンサ・プローブ部に取り付けられ、該センサ・プローブ部がワーク等に接触または衝突した際にセンサ・プローブ部をその軸方向に移動させて接触または衝突位置から退避させる衝突退避機構において、入れ子構造の内側テーパ軸と外側テーパ軸を有し、内側テーパ軸と外側テーパ軸の各々は、中間部に設けられたテーパ状の係止部とこのテーパ状の係止部の両軸方向端側に設けられた大径および小径の円筒部を有し、前記内側テーパ軸の係止部と前記外側テーパ軸の係止部は通常状態では実質的に密着接触して係止し、前記内側テーパ軸の大径、小径の円筒部と前記外側テーパ軸の大径、小径の円筒部は互いに対向しており、かつ退避動作時に滑り軸受を形成することにある。
【0014】
上記目的を達成する本発明のさらに他の特徴は、測定器のセンサ・プローブ部に取り付けられ、中間部に設けられたテーパ状の係止部とこのテーパ状の係止部の両軸方向端側に設けられた大径および小径の円筒部を有する、入れ子構造の内側テーパ軸と外側テーパ軸、および前記内側テーパ軸と前記外側テーパ軸間に配設した圧縮ばねを備えた衝突退避機構を使用する方法において、前記センサ・プローブ部がワーク等の外部物体に接触または衝突したら、互いに対向する前記内側テーパ軸の大径、小径の円筒部と前記外側テーパ軸の大径、小径の円筒部が滑り軸受を形成して前記内側テーパ軸を前記外側テーパ軸側へ軸方向に退避動作させ、前記センサ・プローブが外部物体に接触も衝突もしないときには、前記圧縮ばねが伸長して前記内側テーパ軸を前記外側テーパ軸に対して軸方向に離れるように付勢し、前記内側テーパ軸のテーパ状の係止部を前記外側テーパ軸のテーパ状係止部に実質的に密着接触させることにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、テーパ軸の両端に滑り軸受部を有する軸を測定器に設けたので、測定器が測定対象等に衝突する等の異常事象を生じても、測定器を損傷することなく迅速に該事象が生じた場所から退避させることができる。また、退避後の復帰測定においては、テーパ軸をガイドにして測定ヘッドを軸方向移動させるので測定器の傾きや偏心等を生じさせずに、高精度な測定が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る測定器及びそれに用いる衝突退避機構の実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る測定器80を組み込んだ工作機械50の一実施例の正面図であり、測定器80は内径測定器(ボアゲージ)である。なおこの実施例では内径測定器を測定器80の例として取り上げているが、測定器80は内径測定器に限るものではなく、外径測定器、厚さ測定器、深さ測定器、接触式の三次元測定器、レーザヘッドやカメラ等の非接触式の測定器や観測機等の各種機器に適用できる。
【0018】
基礎10上に本体12が固定設置された工作機械50では、スピンドル部16にシャンクが取り付けられ、シャンクには本発明に係る内径測定器であるボアゲージ(測定器)80が取り付けられている。ボアゲージ80は、本体12の上部に取り付けられたモータを含むZ軸駆動手段20によりスピンドル部16とともに上下方向に移動可能になっている。ボアゲージ80の下方には測定対象のワーク40が配置されており、ワーク保持手段36によりX−Yテーブル30上に固定保持されている。
【0019】
X−Yテーブル30の、本実施例では上側にあるX軸テーブル32がモータを含むX軸駆動手段22により、下側にあるY軸テーブル34がモータを含むY軸駆動手段24により、それぞれX方向(本図では左右方向)及びY方向(本図では紙面垂直方向)に直線駆動される。したがってボアゲージ80を取り付けたスピンドル部16をZ軸駆動手段20でZ方向に、ワーク40をX−Yテーブル30でX、Y方向にそれぞれ駆動することにより、ボアゲージ80とワーク40の相対位置が位置決めされる。または図示しないが、さらにΘテーブルを備えて、回転移動も可能にする。
【0020】
ここで、工作機械50の適宜個所(図では左側上部)に、工作機械50を制御する制御装置14が配設されている。制御装置14は、制御部(管制部)26と表示部28を備え、制御部26は工作機械50の始動/停止やワーク40に形成された測定穴42とボアゲージ80の相対位置決め等を制御する。
【0021】
表示部28は、現在座標を表示する。制御部26は、ボアゲージ80の測定に関する制御を実行する内径測定装置用制御部70を含み、この内径測定装置用制御部70とボアゲージ80とが組み合わされて内径測定装置100を構成する。
【0022】
次に、本発明に係る内径測定器としてのボアゲージ80の詳細を、
図2ないし
図4を用いて詳細に説明する。
図2(a)は、本発明に係るボアゲージ80の一実施例の分解図であり、
図2(b)は
図2(a)におけるA視図である。
図3は、
図2に示したボアゲージ80の動作状態時の様子を示す一部縦断面図であり、
図3(a)は測定対応状態の図であり、
図3(b)は退避状態の図である。
図3(c)、(d)は、それぞれ
図3(a)のD
1、D
2部の詳細を示す拡大図である。
図4はボアゲージ80の測定対応状態と退避状態の間の変遷を説明する図であり、
図4(a)はほぼ同軸での退避状態を示す図、
図4(b)は曲がって、すなわち同軸ではなく退避した状態を示す図、
図4(c)は測定対応状態に復帰した様子を示す図である。
【0023】
図2に戻り、ボアゲージ80では測定子を有するセンサ・プローブ部110の反測定側であるスピンドル部への結合側に、衝突退避機構200が設けられている。衝突退避機構200では、センサ・プローブ部110に内側テーパ軸230を図示しない手段を用いて固定している。内側テーパ軸230は、センサ・プローブ部110側から軸方向に拡大する外形を有している。すなわち、内側テーパ軸230は、軸方向中間部に外形がセンサ・プローブ部110側から開放端部にかけて円錐状に広がるテーパ部(係止部)218を備え、テーパ部218の軸方向両端部側には小径の円筒部220と大径の円筒部216が形成されている。内側テーパ軸230の開放端部側であって周方向1か所に、キー溝214が形成されている。キー溝214には、キー212が矢印B
1のように半径方向外側から嵌合されている。
【0024】
内側テーパ軸230の内部には貫通する穴が複数の段付きで形成されており、最小径の穴はスイッチ280の接点228を保持する台部226を支持する、軸方向に延びる支柱222を通過させるための貫通穴部236である。スイッチ280にはリード線224の一端部が接続されており、本測定器80が取り付けられるマシニングセンタ等の工作機械50が備える制御部(管制部)26へスイッチ280信号を送信するのに用いられる。
【0025】
貫通穴部236の
図2において左側には、この貫通穴部236より外径が大であるばね嵌合穴部234が形成されており、さらに左側にはさらに大径のばね保持穴部232が形成されている。ばね嵌合穴部234は、圧縮ばね262の端部を位置決め保持するためのものであり、ばね262が偏心保持されるのを防止するとともに、ばね262が内側テーパ軸230から脱落するのを防止する。ばね保持穴部232は、ばね262を内側テーパ軸230内に保持するとともに、ばね262が軸方向に変位する際にばね262の外径がわずかに増大するのを吸収する隙間として作用する。
【0026】
内側テーパ軸230のテーパ部(係止部)218に対応するテーパ部(係止部)256を内径側に有する外形円筒形の外側テーパ軸250は、内径が小径端部側に小径の円筒内面からなる円筒部254を、内径が大径端部側に大径の円筒内面からなる円筒部258を有している。大径の円筒内面の周方向1か所には、内側テーパ軸230のキー溝214に対応するキー溝260が形成されており、キー212の円滑な嵌合を可能にしている。キー212は外側テーパ軸250が内側テーパ軸230に対して周方向に変位するのを防止する、回り止めとして作用する。
【0027】
外側テーパ軸250の最小内径側には、オイルシールまたはリップシール240を保持するためのオイルシール保持穴部252が形成されている。オイルシール240は、矢印B
2のように軸方向からオイルシール保持穴部252に嵌合される。外側テーパ軸250の最左端部には、外側テーパ軸250の軸端部を閉塞する円板状のベース板270が図示しない締結具を用いて締結されている。ベース板270の中心部には、貫通穴272が形成されており、スイッチ280の接点228に一端側が電気的に接続するリード線224が、この貫通穴272を通り抜けることができるようになっている。ベース板270の内面側(
図2で右側)には、ばね262の他端側を保持するためのばね嵌合穴268が形成されている。ばね嵌合穴268は、ばね262がベース板270から脱落するのを防止する。嵌合穴268および嵌合穴部234は、外側テーパ軸250に対して内側テーパ軸230が軸方向に変位するときに、ばね262がそれぞれから脱落するのを防止するとともに、ばね262の付勢力が外側テーパ軸250及び内側テーパ軸230の中心軸に沿って働くようにする。
【0028】
このように構成した測定器80の衝突退避動作を、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3(a)は、測定器80を図示しない工作機械等に取り付けた状態で、測定を開始するため測定器80を測定対象ワーク40へ接近させる状態を示す図である。外側テーパ軸250と内側テーパ軸230の間には、圧縮ばね262が取り付けられており、圧縮ばね262の付勢力が軸方向に作用して、センサ・プローブ部110に取り付けられた内側テーパ軸230のテーパ部218を外側テーパ軸250のテーパ部256に押し付けるように付勢する。その結果、内側テーパ軸230のばね取付け側端面242とベース板270の端面244の間に退避ストロークstが形成される。
【0029】
この時、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250は、それぞれのテーパ部218、256で実質的に密着接触している。なお、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250には、本実施例ではステンレス鋼SUS304を使用している。内側テーパ軸230と外側テーパ軸250が共材であるので、摺動によりかじりつきや摩擦等が発生する恐れがある。そのような不具合を防止するため、内側テーパ軸230の外周面及び外側テーパ軸250の内周面にはグリースが塗布されている。したがって上記各テーパ部218、256が実質的に密着接触しているとは、グリース膜を介した接触をも含む。なお、内側テーパ軸230及び外側テーパ軸250のそれぞれにグリースを塗布しているので、オイルシールまたはリップシール240を外側テーパ軸250の一方の端面に取付けて、グリースの外部への流出を防止している。
【0030】
測定器80を
図3(a)の状態で測定対象のワーク40に接近させ測定穴内に挿入したら、測定子81a、81bをセンサ・プローブ部110の軸に直角な方向へ外側に延ばし、内径を測定する。その際、衝突退避機構200は、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250のそれぞれのテーパ部218、256が接触し、内側テーパ軸230の端面242と外側テーパ軸250に取り付けたベース板270の端面244間に退避ストロークstが形成されることは上述したとおりである。
【0031】
ところで、測定器80を
図3(a)の状態でワークに接近させる際、誤ってワークの測定穴の縁部等に衝突C
1して
図3(b)の状態になると、センサ・プローブ部110の測定子81a、81bはセンサ・プローブ部110の外径を超えていないので衝突からは保護されているが、センサ・プローブ部110が破損する恐れがある。そこでセンサ・プローブ部110を迅速にワーク40から軸方向に退避させる。
【0032】
すなわち、センサ・プローブ部110に接続されている内側テーパ軸230は、衝突C1によりワーク40から反力を受けて、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250間に介在させた圧縮ばね262の付勢力に抗して
図3で左側へ移動し、最大、退避ストロークstの手前の位置まで変位する。
このように、退避ストロークstの手前の位置にしたのは、工作機械が停止するまでの安全マージンを見込んだもので、退避ストロークstまで退避させると、その直後には衝突の衝撃がボアゲージおよび工作機械の主軸に伝わり、ボアゲージの破損を生じる恐れがあるためである。
例えば、退避ストロークstが5mmとすれば、0.3mm程度ストロークした時点で、スイッチ280の接点228,266が接触して衝突を検知することが好ましい。これにより、残りのストロークは、衝突を検知してから実際に停止するまでの安全マージンとすることができる。よって、スイッチ280が接触を検知してから実際に停止するまでに少し移動しても退避ストロークstの手前の位置で停止することができる。この時、外側テーパ軸250の内径側と内側テーパ軸230の外径側間には、隙間が形成される。
【0033】
内側テーパ軸230が外側テーパ軸250に対して軸方向距離を詰めるように移動するので、それぞれに設けたスイッチ280の接点228、266が接触し、衝突を電気的に検出する。検出された衝突はリード線224を介して工作機械50が備える管制部26に送信され、工作機械50は測定器80全体、すなわちスピンドル部のワーク40への移動を即座に停止する。その結果、内側テーパ軸230の端面242が外側テーパ軸250のベース板270の端面244に接触する前、すなわち退避ストロークstの全ストロークを移動する前に、内側テーパ軸230は衝突退避動作を終了する。
【0034】
衝突退避の詳細を、
図4(a)を用いて説明する。
図4(a)は衝突退避機構が作動した状態を示す模式図である。理解を容易にするために隙間等は誇張して図示している。上述したとおり、内側テーパ軸230は必ずしも最大ストロークstだけ変位するわけではなく、スイッチ280の動作により途中で変位を停止する場合が多い。衝突退避動作においては、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250は、それぞれのテーパ部(係止部)218、256での接触または係止を解除し、それぞれの大、小径の円筒部216、220;258、254間に隙間304、306を有する滑り軸受を形成する。
【0035】
つまり、衝突退避動作においては、内側テーパ軸230の小径の円筒部220の外周面と対向する外側テーパ軸250の小径の円筒部254の内周面間に隙間306を有するグリースで潤滑された滑り軸受と、内側テーパ軸230の大径の円筒部216の外周面と対向する外側テーパ軸250の大径の円筒部258の内周面間に隙間304を有するグリースで潤滑された滑り軸受とを、それぞれ形成する。その結果、測定器80の衝突という不測事象が発生すると、内側テーパ軸230は測定器80の移動方向とは逆方向に、滑り軸受を案内として迅速に退避する。滑り軸受を有することになるので退避に伴う抵抗はほとんどなく、衝突によりばね262に抗する力だけ発生されればよいことになる。このとき内側テーパ軸230のテーパ部218の外周面と外側テーパ軸250のテーパ部256の内周面の間の隙間302は、内側テーパ軸230の変位により急速に軸受部の隙間304、306より大きくなるので、内側テーパ軸230が変位する際の抵抗にはならない。
【0036】
内側テーパ軸230と外側テーパ軸250の各円筒部216、220;254、258が軸受として作用する場合があることから、それらの間の隙間304、306は滑り軸受として適正な隙間にする。通常滑り軸受では支持する軸の直径の数%以下の隙間を形成するようにしているので、本実施例でも隙間304、306は上記範囲内で可能な限り小さくしている。迅速に内側テーパ軸230、すなわち、センサ・プローブ部110を退避させるためには隙間304、306は必要であるが、この隙間が保持されたまま測定状態に入ると隙間304、306が測定器80の剛性を低下させ、測定誤差を生じやすくなる。そのため上述したように、測定時には互いのテーパ部218、256を実質的に直接密着接触させて、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250の間に隙間を無くしている。
【0037】
図3に戻って、同図(c)、(d)は、
図3(a)のD
1部及びD
2部を拡大して示す図である。
図3(c)は、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250のそれぞれの大径側円筒部216、258からテーパ部218、256へ遷移する部分を示した図である。円筒部258からテーパ部256への境界部では凹面が形成される。一般的に凹面を旋削等で形成すると、加工後に境界部には刃物先端Rの影響(刃物先端の半径Rのため角度がついた部分の加工は刃物の先端半径Rの跡が残る)が残る。この刃物先端Rの影響は対応する内側テーパ軸230の円筒部216からテーパ部218への境界の角部と干渉する。そこで、外側テーパ軸250の円筒部258を軸方向にテーパ部256側まで延ばし、円筒部258とテーパ部256との接続部に逃げ部290を形成する。これにより内側テーパ軸230と外側テーパ軸250の干渉を回避する。
【0038】
内側テーパ軸230のテーパ部218から小径の円筒部220への遷移部でも外表面が凹部、すなわち断面形状が180°未満の角部が形成されるので、旋削加工による刃物Rによる干渉を防止するため、当該部分で円筒部220を軸方向に延ばし、円筒部220とテーパ部218との接続部に逃げ部292を形成する。これにより、内側テーパ軸230と外側テーパ軸250の干渉を回避する。
【0039】
図4に進み、同図(a)、(b)は衝突退避機構200が動作した図であり、同図(a)は上述した軸受を利用して内側テーパ軸230が測定器80の長手軸にほぼ沿って退避した場合である。一方、内側テーパ軸230の対比動作は瞬間的な動作であるから、測定器80とワーク40の衝突状態により内側テーパ軸230は軸受隙間の範囲内で軸が傾きまたは偏心して退避することが想定される。
図4(b)は、そのような芯ずれして退避した例を示すものである。内側テーパ軸230の中心軸はもはや外側テーパ軸250の中心軸とは一致していない。
【0040】
このような状態から、測定のために圧縮ばね262を伸展させた結果が同図(c)である。退避時には軸受隙間の範囲内で内側テーパ軸230は傾いたものの、圧縮ばね262の伸展時に内側テーパ軸230のテーパ部218と外側テーパ軸250のテーパ部256がガイドとなり内側テーパ軸230の傾きが矯正され、最終的に外側テーパ軸250の軸心と軸心が一致した状態で、各テーパ部(係止部)218、256が実質的に密着接触する。これにより測定器80の軸心の曲がりやずれに起因する測定時の測定誤差の発生を防止できる。
【0041】
図1に示した工作機械50で使用するボアゲージ(測定器)80のセンサ・プローブ部110の一例を、
図5に示す。この図はセンサ・プローブ部110の一部断面正面図であり、上部を省略した図である。センサ・プローブ部110は、内径測定用である。なお
図5では、左側の部分のみを断面図で示しているが右側の部分も同様であるので、右側の部分については説明を省略する。したがって、右側の部分については、左側の部品の説明における各部品の添え字aをbに置き換えればよい。
【0042】
センサ・プローブ部110は、ワーク40の測定穴(または中空部)42の内径に応じた外径を有し、その下部に後述の測定子81a、81bが半径方向に移動可能に設けられた、円筒形状の下側に長く延びた測定部78を有する。測定部78の上方には、測定子81a、81bの移動量を電気信号に変換する内径検出部79を備える。
【0043】
すなわち、測定用アーム82aがセンサ・プローブ部110の軸に沿って下方に長く延びており、検出部79に配設された支点83aで回動可能に支持されている。測定用アーム82aの一方の先端部近傍には、円柱形であってその先端が半球面状に形成された測定子(コンタクタ)81aが設けられており、測定子81aの軸は測定用アーム82aの延在方向に対して直角に取り付けられている。ただし、センサ・プローブ部110の中心軸に直交する方向の変位が測定できるのであれば、斜めに取り付けてもよい。測定用アーム82aの他端側は検出用腕84aとなっており、検出用腕84aは測定子81aの変位を拡大するために、測定用アーム82aの軸線方向にほぼ直角である方向に延びている。
【0044】
検出用腕84aのほぼ先端に対向しかつ上方に、変位部材85aを先端部に有するリニアセンサ等の変位検出器86aが配設されている。検出用腕84aの支点83a部の上方には、支柱93aが配設されている。支柱93aは、センサ・プローブ部110の検出部79の外形を構成するベース87の下面側に設けた支柱94aに、ばね88を介して接続されている。ベース87の下面には、支柱94aの一端部の他に変位検出器86aが取り付けられている。
【0045】
測定部78および検出部79の外周側は、有底の保護部材92で保護されている。なお保護部材92の底部は、測定子81a、81bが配設された位置の外径よりも大径に構成されている。本センサ・プローブ部110をワーク40内に位置決めする際は、測定子81a、81bをセンサ・プローブ部110の内側に退避させる。これにより、測定子81a、81bが底部径を超えて外径側へ位置することによる、意図しないセンサ・プローブ部110の外部の物体との接触等を防止できる。
【0046】
上記実施例においてはてこ式の内径測定器を例に取説明したが、内径測定器はこれに限るものではなく、種々の形式のものを使用できる。さらに測定器は内径測定器に限るものではなく、接触型または非接触型でワークの近傍に配設される内径測定装置、外径測定装置、深さ測定装置、厚さ測定装置、三次元測定器等の形状測定器に適用できる。また、内側テーパ軸と外側テーパ軸の間に圧縮ばねを配設して、内側テーパ軸と外側テーパ軸の間の軸方向距離を伸ばすようにしているが、軸方向距離を伸ばすのは、圧縮ばねに限らず引っ張りばねや油圧、空圧等の流体圧であってもよい。さらに、内側テーパ軸と外側テーパ軸のテーパの向きは逆向きであってもよい。その場合でも圧縮ばね等により内側テーパ軸と外側テーパ軸は、衝突事象が発生したら迅速に退避し、通常時には互いの間の軸方向距離を伸ばすよう押圧されていることが必要である。
【0047】
また内側テーパ軸と外側テーパ軸間にグリースを塗布しているが、内側テーパ軸及び外側テーパ軸の双方の接触面を表面硬化処理してグリース等を省くこともできる。退避動作の発生はまれであるから、両テーパ軸間でかじりつきが起こらない表面処理をすればよい。