【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Feng et al.,High speed carrier-depletion modulators with 1.4V-cm VπL integrated on 0.25μm silicon-on-insulator waveguides,Optics Express,米国,Optical Society of America,2010年03月31日,Vol. 18, No. 8,pp. 7994-7999
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記PN接合が、前記光の伝搬方向に延在する単一のp型領域及び単一のn型領域からなる単一のPN接合によって構成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光位相変調器。
【背景技術】
【0002】
家庭用光ファイバおよびローカル・エリア・ネットワーク(LAN)などの様々なシステム用の1310nmおよび1550nmの光ファイバ通信波長で機能するシリコン・ベース光通信デバイスは、CMOS技術を利用して、光機能素子および電子回路をシリコンプラットフォーム上に集積化可能とする非常に有望な技術である。
【0003】
近年、シリコン・ベースの導波路、光結合器、および波長フィルタなどの受動デバイスは、非常に広く研究されている。また、このような通信システム用の光信号を操作する手段として重要な技術として、シリコン・ベースの光変調器や光スイッチなどの能動素子が挙げられ、非常に注目されている。シリコンの熱光学効果を利用して屈折率を変化させる光スイッチや変調素子は、低速であり、1Mb/秒の変調周波数までの装置速度にしか使用出来ない。従って、より多くの光通信システムにおいて要求される高い変調周波数を実現するためには、電気光学効果を利用した光変調素子が必要である。
【0004】
現在提案されている電気光学変調器の多くは、キャリアプラズマ効果を利用して、シリコン層中の自由キャリア密度を変化させることにより、屈折率の実数部と虚数部を変化させ、光の位相や強度を変化させるデバイスである。純シリコンは、線形電気光学効果(Pockels)効果を示さず、またFranz−Keldysh効果やKerr効果による屈折率の変化は非常に小さいため、上記の効果が広く利用されている。自由キャリア吸収を利用した変調器では、Si中を伝播する光吸収の変化により、出力が直接変調される。屈折率変化を利用した構造としては、マッハ・ツェンダー干渉計を利用したものが一般的であり、二本のアームにおける光位相差を干渉させて、光の強度変調信号を得ることが可能である。
【0005】
電気光学変調器における自由キャリア密度は、自由キャリアの注入、蓄積、除去、または反転によって変えることが出来る。現在までに検討されたこのような装置の多くは、光変調効率が悪く、光位相変調に必要な長さがmmオーダーであり、1kA/cm
3より高い注入電流密度が必要である。小型・高集積化、さらには低消費電力化を実現するためには、高い光変調効率が得られる素子構造が必要であり、これにより光位相変調長さを小さくすることが可能である。また、素子サイズが大きい場合、シリコンプラットフォーム上での温度分布の影響を受け易くなり、熱光学効果に起因するシリコン層の屈折率変化により、本来の電気光学効果を打ち消すことも想定され、問題である。
【0006】
図12は、非特許文献1および特許文献1に開示されている、SOI基板上に形成されたリブ導波路形状を利用した、シリコン・ベース電気光学位相変調器の典型例である。電気光学位相変調器は、真性半導体領域からなるリブ形状の両側に横方向に延びるスラブ領域がp,nドープされて形成されている。上記リブ導波路構造は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板上のSi層を利用して形成される。
図12に示した構造は、PINダイオード型変調器であり、順方向および逆方向バイアスを印加することにより、真性半導体領域内の自由キャリア密度を変化させ、キャリアプラズマ効果を利用することにより、屈折率を変化させる構造となっている。この例では、真性半導体シリコン層2501は、第1の電極コンタクト層2506と接触する領域に高濃度にドープ処理されたpタイプ領域2504を含むように形成されている。図では、真性半導体シリコン層2501は、さらに高濃度にnタイプドープ処理された領域2505および、これに接続する第2の電極コンタクト層2506を含む。上記PINダイオードの構造においては、領域2504、2505は、cm
3毎に約10
20のキャリア密度を呈するようにドープ処理することも可能である。また、上記PIN構造においては、pタイプ領域2504およびnタイプ領域2505は、リブ2501の両側に間隔を置いて配置されており、リブ2501は真性半導体層である。また、
図12には、支持基板2503、埋め込み酸化膜層2502、電極配線2507及び酸化物クラッド2508が示されている。
【0007】
光変調動作に関しては、第1及び第2の電極コンタクト層2506を用いて、PINダイオードに対して順方向バイアスを印加し、それによって導波路内に自由キャリアを注入するように、電源に接続されている。この時、自由キャリアの増加により、シリコン層2501の屈折率が変化し、それによって導波路を通して伝達される光の位相変調が行われる。しかし、この光変調動作の速度は、リブ2501内の自由キャリア寿命と、順方向バイアスが印加された場合のキャリア拡散によって制限される。このような従来技術のPINダイオード位相変調器は、通常、順方向バイアス動作時に10〜50Mb/秒の範囲内の動作速度を有する。これに対し、キャリア寿命を短くするために、シリコン層内に不純物を導入することによって、切り換え速度を増加させることが可能であるが、導入された不純物は光変調効率を低下させるという課題がある。また、動作速度に影響する最も大きな因子は、RC時定数によるものであり、この場合順方向バイアス印加時の静電容量(C)が、PN接合部のキャリア拡散容量に起因して非常に大きくなる。一方、PN接合部の高速動作は逆バイアスを印加することにより達成可能であるが、比較的大きな駆動電圧あるいは大きな素子サイズを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、光損失が小さく、サイズが小さく、所要電圧が低く、高速動作が可能な光変調器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施例において、光位相変調器は、基板上に横方向に形成されたSi又はSi
1−yGe
yからなるPN接合又はPIN接合と、第1の導電タイプ又は第2の導電タイプを呈するように不純物ドーピングされ、前記PN接合又は前記PIN接合と電気的に接続されるように、前記PN接合又は前記PIN接合上に積層される少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層とを含むリブ型導波路構造を備え、前記リブ型導波路構造は、光の伝搬方向に沿って実質的に一様な構造を有し、前記基板と平行且つ前記光の伝搬方向と垂直な方向において、前記PN接合又は前記PIN接合の接合界面の位置が前記Si
1−xGe
x層の中心からオフセットしている。
【0012】
本発明の実施例において、前記PN接合又は前記PIN接合の接合界面の位置は、前記PN接合又は前記PIN接合の電気容量が大きくなるように、前記PN接合又は前記PIN接合を構成するp型領域又はn型領域の方向へオフセットしている。
【0013】
本発明の実施例において、光位相変調器は、前記リブ型導波路構造に隣接する、前記第1の導電タイプの第1の電極及び前記第2の導電タイプの第2の電極を備え、前記第1の電極及び前記第2の電極に電圧を印加することにより、前記リブ型導波路構造におけるキャリア密度が変化される。
【0014】
本発明の実施例において、前記少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層が格子歪を有する。
【0015】
本発明の実施例において、前記基板上に横方向に形成されたPN接合又はPIN接合が、SiからなるPN接合又はPIN接合と、Si
1−yGe
yからなるPN接合又はPIN接合との積層構造からなる。
【0016】
本発明の実施例において、前記基板上に横方向に形成されたSiおよびSi
1−yGe
yの積層構造からなるPN接合又はPIN接合が、リブ型導波路構造を備える。
【0017】
本発明の実施例において、前記少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層が、前記PN接合又は前記PIN接合上に積層されたSi
1−x1Ge
x1層と、前記Si
1−x1Ge
x1層上に積層されたSi
1−x2Ge
x2層とを備え、x2はx1より小さい。
【0018】
本発明の実施例において、前記少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層が、上部あるいは側面に形成された歪誘起膜を備える。
【0019】
本発明の実施例において、前記基板上に横方向に形成されたPN接合もしくはPIN接合、又はその上に電気的に接続されるように積層された少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層において、前記第1の導電タイプのドーピング濃度は前記第2の導電タイプのドーピング濃度よりも小さい。
【0020】
本発明の実施例において、前記第1の導電タイプがp型であり、前記第2の導電タイプがn型である。
【0021】
本発明の実施例において、前記PN接合が、前記光の伝搬方向に延在する単一のp型領域及び単一のn型領域からなる単一のPN接合によって構成される。
【0022】
本発明の実施例において、光強度変調器は、上記のような光位相変調器を備える。
【0023】
本発明の実施例において、光位相変調器の製造方法は、横方向に形成されたSi又はSi
1−yGe
yからなるPN接合又はPIN接合を形成するステップと、前記PN接合又は前記PIN接合に隣接する領域を第1の導電タイプ及び第2の導電タイプでドープして、第1の導電タイプの第1の電極及び第2の導電タイプの第2の電極を形成するステップと、前記PN接合又は前記PIN接合上に、前記第1の導電タイプ又は前記第2の導電タイプを呈するように不純物ドーピングされ、前記PN接合又は前記PIN接合と電気的に接続される少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層を形成するステップとを備え、前記PN接合又はPIN接合と前記Si
1−xGe
x層とによって、光の伝搬方向に沿って実質的に一様な構造を有するリブ型導波路構造が形成され、基板と平行且つ前記光の伝搬方向と垂直な方向において、前記PN接合又は前記PIN接合の接合界面の位置が前記Si
1−xGe
x層の中心からオフセットしている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光損失が小さく、サイズが小さく、所要電圧が低く、高速動作が可能な光位相変調器を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例に関して、図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の1つの実施例による光位相変調器100の断面図を概略的に示す。本実施例において、光位相変調器100は、シリコンフォトニクス技術を利用して、シリコン(Si)基板102に堆積されたシリカガラス(SiO
2)からなる埋め込み酸化膜(BOX)層104上に形成される。光位相変調器100はリブ型導波路構造110を備える。リブ型導波路構造110は、基板に対して横方向(基板に対して水平な方向)に形成されたSiからなるPN接合106を含む。PN接合106は、p型Si領域130及びn型Si領域132を含む。後述するように、PN接合106はSi
1−yGe
y(yは0以上1以下)からなってもよい。リブ型導波路構造110は、PN接合106に代えて、PIN接合を含んでもよい。このようなPIN接合は、意図的に形成されたPIN接合と、PN接合から変化することによって意図せずに形成されたPIN接合の両方を含み得る。意図しない場合とは、PN接合106において電子と正孔が熱拡散により再結合してI層になる場合である。リブ型導波路構造110はまた、不純物ドーピングによって導電性を有する、PN接合106上に積層される少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x(xは0以上1以下)層108を含む。本実施例において、Si
1−xGe
x層108の導電タイプはp型であるが、Si
1−xGe
x層108の導電タイプはn型であってもよい。このように、Si
1−xGe
x層108は導電性を有し、したがって、PN接合106と電気的に接続される。
【0027】
図1に示されるように、一例として、Si
1−xGe
x層108の幅は0.4μmであり、Si
1−xGe
x層108の厚さは20〜80nmである。また、一例として、リブ型導波路構造110におけるPN接合の高さは、
図1に示すように、スラブ層に対して80〜100nmである。また、一例として、電極112及び114の厚さは0.10〜0.18μmである。
【0028】
PN接合106の接合界面106aは、PN接合106上に積層されたSi
1−xGe
x層108の中心108aと異なる位置に配置される。すなわち、PN接合106の接合界面106aの位置は、Si
1−xGe
x層108の中心108aからオフセットしている。オフセットの方向は、基板102に対して平行であって且つリブ型導波路構造110の長手方向(すなわち光の伝搬方向)と垂直な方向である。
図1に示される例では、PN接合106の接合界面106aの位置は、p型Si
1−xGe
x層108の中心108aからp型Si領域130の方向(以下、マイナス方向と称する)へオフセットしている。そのため、リブ型導波路構造110の部分において、p型のSi
1−xGe
x層108がn型Si領域132と接する接触面積は、p型Si領域130と接する接触面積よりも大きい。換言すれば、本実施例による光位相変調器100では、PN接合106の接合界面106aがSi
1−xGe
x層108の中心108aと一致するように配置されている構成と比較して、p型のSi
1−xGe
x層108とn型Si領域132との接触面積が拡大している。
【0029】
光位相変調器100はまた、リブ型導波路構造110に隣接する第1の導電タイプ(例えば、p型)の第1の電極112及び第2の導電タイプ(例えば、n型)の第2の電極114、接地電極116及び信号電極118、並びにクラッド120を備える。接地電極116及び信号電極118は、例えば、Ti、TiN、AlSiCu、TiNなどからなってもよい。接地電極116及び信号電極118を介して第1の電極112及び第2の電極114に電圧を印加することにより、リブ型導波路構造110におけるキャリア密度が変化される。
【0030】
図2は、
図1に示される光位相変調器100の斜視図を概略的に示す。
図2に示されるように、光位相変調器100のリブ型導波路構造110は、その長手方向(すなわち光の伝搬方向)に沿って一様な構造を有する。より詳しくは、リブ型導波路構造110において、p型Si領域130は、光の伝搬方向に沿って単一の領域として一体的に延在し、光の伝搬方向と垂直な面によるp型Si領域130の断面形状は、その切断位置によらず不変である。同様に、n型Si領域132は、光の伝搬方向に沿って単一の領域として一体的に延在し、光の伝搬方向と垂直な面によるn型Si領域132の断面形状は、その切断位置によらず不変である。したがって、PN接合106の接合界面106aは、光の伝搬方向に沿うリブ型導波路構造110の全長にわたって延在する、光の伝搬方向と平行な1枚の平面として形成されている。このように、リブ型導波路構造110におけるPN接合106は、光の伝搬方向に延在する単一のp型Si領域130及び単一のn型Si領域132からなる単一のPN接合によって構成される。
【0031】
光位相変調器100は、キャリアプラズマ効果を利用して光を位相変調する。キャリアプラズマ効果におけるプラズマ分散効果による屈折率の変化は次の式によって表すことができる。
【0033】
ここで、Δnは屈折率の変化、eは単位電荷、λは光波長、cは光速度、ε
0は真空中の誘電率、nはSiの屈折率、ΔN
eは電子密度の変化、m
*ceは電子の有効質量、ΔN
hは正孔密度の変化、m
*chは正孔の有効質量である。式(1)から理解されるように、電子の有効質量又は正孔の有効質量が減少すると、屈折率の変化Δnが増大する。
【0034】
光位相変調器100のリブ型導波路構造110に生じる位相変化量Δφは、式(1)の屈折率変化Δnを用いて次の式のように表すことができる。
【0036】
ここで、Lはリブ型導波路構造110の光伝搬方向に沿った長さ、CはPN接合106の電気容量、VはPN接合106への印加電圧である。式(2)は、ある一定の位相変化量Δφを生じさせるのに必要な印加電圧Vは、PN接合106の電気容量Cに反比例することを示している。一般に、光位相変調器における変調効率の指標として、性能指数V
πLが用いられる。V
πLは、光位相シフタにおいて位相をπだけシフトさせるのに必要な電圧と長さとの積である。式(2)及びV
πLの定義から、光位相変調器100の性能指数V
πLは、次の式のようにPN接合106の電気容量Cに反比例することが理解される。
【0038】
Si層の上にSi
1−xGe
x層を積層すると、Siの格子定数とSi
1−yGe
yの格子定数との差を起因として、Si
1−xGe
x層に歪(格子歪)が誘起される。Si
1−xGe
x層に歪が誘起されると、キャリアの有効質量が小さくなる。Si
1−xGe
x層108を用いることにより、自由キャリアの有効質量が低減される。したがって、式(1)から理解されるように、プラズマ分散効果による屈折率の変化が大きくなるため、キャリアプラズマ効果をエンハンスすることができる。したがって、より短い距離で必要な位相シフト量を得ることができるため、光位相変調器100の変調効率を改善することができ、光位相変調器100のサイズを小さくすることができ、光位相変調器100の損失を小さくすることができる。また、自由キャリアの有効質量が小さくなるので、有効質量と逆数の関係にある自由キャリアの移動度が高くなる。したがって、光位相変調器100の高速動作が可能となる。
【0039】
また、上述したように、光位相変調器100は、p型Si
1−xGe
x層108とn型Si領域132との接触面積が大きいため、PN接合106の接合界面106aがSi
1−xGe
x層108の中心108aと一致するように配置されている構成と比較して、より大きな電気容量Cを有する。したがって、式(3)から理解されるように、光位相変調器100の変調効率をより一層改善することができる。
【0040】
PN接合106及び/又はSi
1−xGe
x層108において、p型のドーピング濃度はn型のドーピング濃度よりも小さくてもよい。SiGeにおけるキャリアプラズマ効果の正孔によるエンハンスメントファクターは、電子によるエンハンスメントファクターと比較して2倍程度大きい。したがって、p型SiGe層のドーピング濃度をn型SiGe層のドーピング濃度より小さくすることにより、屈折率差と吸収係数との間のトレードオフの関係を緩和することができる。結果として、光吸収係数の増大を抑制し、高速化が可能となる。
【0041】
図3は、上述した光位相変調器100について、PN接合106の接合界面106aのオフセット量と性能指数V
πLとの関係の例示的な計算結果を示す。
図3において、グラフの横軸のマイナス符号は、PN接合106の接合界面106aのオフセット方向がマイナス方向であることを表す。光位相変調器は、V
πLが小さいほどその性能が高いといえる。
図3に示されるように、本実施例の光位相変調器100においては、PN接合106の接合界面106aのマイナス方向へのオフセット量が大きくなるほど、V
πLは小さくなっていく。例えば、オフセット量がゼロのときはV
πL=0.52Vcmであるのに対して、オフセット量が−150nmになるとV
πL=0.28Vcmである。このように、PN接合106の接合界面106aをマイナス方向へオフセットさせることにより、V
πLが低下して光位相変調器100の変調効率を向上させることができる。また、所望の屈折率変化を得るために必要とされる変調器の長さが短くなるため、光位相変調器100のサイズを小さくすることができる。
【0042】
図4は、上述した光位相変調器100を含むいくつかの異なる構造の光位相変調器について、PN接合の電気容量Cと変調効率(性能指数)V
πLとの関係の例示的な実験結果を示す。
図4において、「SiGe−MOD(−30nm−offset)」と記された測定値は、PN接合106の接合界面106aをマイナス方向へ30nmオフセットさせた光位相変調器100についての結果を示し、「SiGe−MOD(30nm−offset)」と記された測定値は、PN接合106の接合界面106aをプラス方向へ30nmオフセットさせた光位相変調器100についての結果を示し、「SiGe−MOD(0nm−offset)」と記された測定値は、PN接合106の接合界面106aをオフセットさせていない光位相変調器100についての結果を示す。但し、プラス方向とは、マイナス方向と反対の方向、すなわち、PN接合106の接合界面106aがp型Si
1−xGe
x層108の中心108aよりもn型Si領域132の側へオフセットするような方向を指す。また、
図4において、「Si−MOD」と記された測定値は、PN接合106の上にSi
1−xGe
x層108が設けられていない構造の光位相変調器についての結果を参考として示す。
【0043】
図4の実験結果を得るために使用した光位相変調器100は、次のような製造方法により作製された。すなわち、PN接合106の上に、超高真空CVD法を用いてSi
0.8Ge
0.2/Si層を積層した。またSi
0.8Ge
0.2/Si層の成膜中に、制御された濃度のジボラン(B
2H
6)ガスを混合することによって、Si
0.8Ge
0.2/Si層にボロン(B)をドーピングした。これにより、p型Si
0.8Ge
0.2層108が形成された。
【0044】
上記のような製造方法を用いた場合、SiのPN接合106とSi
0.8Ge
0.2層108とのヘテロ接合が比較的良好に形成される。そのため、PN接合106の接合界面106aの位置をマイナス方向にオフセットさせ、p型Si
0.8Ge
0.2層108とn型Si領域132との接触面積を大きくすることによって、PN接合106の電気容量Cを大きくすることができる。したがって、式(3)に関して上述したように、光位相変調器100の変調効率を大きく改善することができる。
図4の実験結果はこれを裏付けており、「SiGe−MOD(−30nm−offset)」の構成の場合に、電気容量Cが大きくなり性能指数V
πLが低減する(すなわち変調効率が改善される)ことを示している。
【0045】
図5は、本発明の1つの実施例による光位相変調器500の断面図を概略的に示す。光位相変調器500の構造は、PN接合506上に2つのp型SiGe層(p型Si
1−x1Ge
x1層508及びp型Si
1−x2Ge
x2層522)が積層されていることを除いて、
図1の光位相変調器100と同様である。p型Si
1−x2Ge
x2層522におけるGeの割合は、p型Si
1−x1Ge
x1層508におけるGeの割合よりも小さくてもよい(すなわち、x1>x2)。例えば、p型Si
1−x1Ge
x1層508がp型Si
0.7Ge
0.3層であり、p型Si
1−x2Ge
x2層522がp型Si
0.8Ge
0.2層であってもよい。また、p型Si
1−x2Gex
2層522は、Si層であってもよい。
図1と同様に、
図5には、Si基板502、BOX層504、PN接合506、p型Si領域530、n型Si領域532、第1の電極512、第2の電極514、接地電極516、信号電極518及びクラッド520が示されており、PN接合506の接合界面506aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層508の中心508aからp型Si領域530の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。PN接合506はSi
1−yGe
yからなってもよい。リブ型導波路構造510は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−x1Ge
x1層508及びSi
1−x2Ge
x2層522の導電タイプはn型であってもよい。
【0046】
図5の光位相変調器500においては、p型SiGe層508及び522の厚さを増すことによって大きな歪を誘起することができる。しかしながら、Si層上に積層されるSiGe層の厚さがある膜厚に達すると、SiGe層の歪の絶対量が非常に大きくなり、Si層とSiGe層との間の界面で結合が切れてしまう(格子緩和と呼ばれる)。したがって、積層することができる歪SiGe層の厚さには限界(臨界膜厚)がある。
【0047】
SiGe層の組成を膜厚方向に徐々に変えることにより、格子欠陥を低減することができる。したがって、組成の異なる複数のSiGe層を積層することは有効である。一方、Ge組成が大きくなると、Ge酸化膜が水に溶けるなど、化学的に不安定な性質を有しやすくなる。従って、SiGe層の最上層としてGe組成の小さい層を用いると、当該最上層が保護膜として機能するので有用である。したがって、複数のSiGe層を積層する場合、Ge組成が大きい層の上にGe組成が小さい層やSi層を積層することは有効である。
【0048】
図6は、本発明の1つの実施例による光位相変調器600の断面図を概略的に示す。光位相変調器600の構造は、p型Si
1−x2Ge
x2層622上に歪誘起膜624が積層されていることを除いて、
図5の光位相変調器500と同様である。
図6の光位相変調器600においては、厚いSiGe層を積層する代わりに、歪誘起膜624を積層することによって、大きな歪を可能としている。歪誘起膜624は、例えば、SiN
xやアルミナを含んでもよい。
図5と同様に、
図6には、Si基板602、BOX層604、PN接合606、p型Si領域630、n型Si領域632、p型Si
1−x1Ge
x1層608、第1の電極612、第2の電極614、接地電極616、信号電極618及びクラッド620が示されており、PN接合606の接合界面606aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層608の中心608aからp型Si領域630の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。PN接合606はSi
1−yGe
yからなってもよい。リブ型導波路構造610は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−x1Ge
x1層608及びSi
1−x2Ge
x2層622の導電タイプはn型であってもよい。
【0049】
図7は、本発明の1つの実施例による光位相変調器700の断面図を概略的に示す。光位相変調器700の構造は、p型Si
1−x2Ge
x2層722の側面に隣接する歪誘起膜724が形成されていることを除いて、
図5の光位相変調器500と同様である。
図7に示されるように、歪誘起膜724は、PN接合706上から第1の電極712及び第2の電極714の上に渡って延在してもよい。歪誘起膜724は、p型Si
1−x1Ge
x1層708の側面に隣接するように形成されてもよい。
図7の光位相変調器700においては、厚いSiGe層を積層する代わりに、歪誘起膜層724を形成することによって、大きな歪を可能としている。歪誘起膜724は、例えば、SiN
xやアルミナを含んでもよい。
図5と同様に、
図7には、Si基板702、BOX層704、PN接合706、p型Si領域730、n型Si領域732、p型Si
1−x1Ge
x1層708、第1の電極712、第2の電極714、接地電極716、信号電極718及びクラッド720が示されており、PN接合706の接合界面706aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層708の中心708aからp型Si領域730の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。PN接合706はSi
1−yGe
yからなってもよい。リブ型導波路構造710は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−x1Ge
x1層708及びSi
1−x2Ge
x2層722の導電タイプはn型であってもよい。
【0050】
図8は、本発明の1つの実施例による光位相変調器800の断面図を概略的に示す。光位相変調器800の構造は、p型Si
1−x2Ge
x2層822の上及び側面に隣接する歪誘起膜824が形成されていることを除いて、
図5の光位相変調器500と同様である。歪誘起膜824は、
図6の光位相変調器600と同様に、p型Si
1−x2Ge
x2層822上に積層される。歪誘起膜824はまた、
図7の光位相変調器700と同様に、p型Si
1−x2Ge
x2層822の側面に隣接するように形成される。歪誘起膜824は、PN接合806上から第1の電極812及び第2の電極814の上に渡って延在してもよい。歪誘起膜824は、p型Si
1−x1Ge
x1層808の側面に隣接するように形成されてもよい。
図8の光位相変調器800においては、厚いSiGe層を積層する代わりに、歪誘起膜層824を形成することによって、大きな歪を可能としている。歪誘起膜824は、例えば、SiNやアルミナを含んでもよい。
図5と同様に、
図8には、Si基板802、BOX層804、PN接合806、p型Si領域830、n型Si領域832、第1の電極812、第2の電極814、接地電極816、信号電極818及びクラッド820が示されており、PN接合806の接合界面806aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層808の中心808aからp型Si領域830の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。PN接合806はSi
1−yGe
yからなってもよい。リブ型導波路構造810は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−x1Ge
x1層808及びSi
1−x2Ge
x2層822の導電タイプはn型であってもよい。
【0051】
図9は、本発明の1つの実施例による光位相変調器900の断面図を概略的に示す。光位相変調器900の構造は、PN接合906がp型Si
1−yGe
y層926及びn型Si
1−yGe
y層928を含むことを除いて、
図1の光位相変調器100と同様である。但し、PN接合906に含まれる層の構造は上記構成に限定されない。p型Si
1−yGe
y層926及びn型Si
1−yGe
y層928において、Geの割合は任意の値をとることができる。また、p型Si
1−xGe
x層908は、2つ以上のp型Si
1−xGe
x層(p型Si
0.7Ge
0.3層、p型Si
0.8Ge
0.2層など)を含んでもよい。
図1と同様に、
図9には、Si基板902、BOX層904、p型Si領域930、n型Si領域932、第1の電極912、第2の電極914、接地電極916、信号電極918及びクラッド920が示されており、PN接合906の接合界面906aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層908の中心908aからp型Si領域930の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。リブ型導波路構造910は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−xGe
x層908の導電タイプはn型であってもよい。p型Si
1−yGe
y層926及びn型Si
1−yGe
y層928におけるGeの組成は、p型Si
1−xGe
x層908におけるGeの組成より小さくてもよい。例えば、p型Si
1−yGe
y層926及びn型Si
1−yGe
y層928におけるGeの組成は10〜20%であってもよく、p型Si
1−xGe
x層908におけるGeの組成は30〜50%であってもよい。
図9の光位相変調器900においても、
図6乃至8と同様に、p型Si
1−xGe
x層908の上部及び/又は側面に歪誘起膜が形成されてもよい。PN接合906は、SiからなるPN接合と、Si
1−yGe
yからなるPN接合との積層構造からなる。本実施例においては、PN接合906がSiGe層を含むので、PN接合906の屈折率が
図1の光位相変調器100と比較して高くなる。したがって、本実施例によれば、光の閉じ込め効果がより強くなり、光変調効率がより高くなる。
【0052】
図10は、本発明の1つの実施例による光位相変調器1000の断面図を概略的に示す。光位相変調器1000の構造は、p型Si
1−x2Ge
x2層1022がp型Si
1−x1Ge
x1層1008上に積層されることを除いて、
図9の光位相変調器900と同様である。PN接合1006に含まれる層の構造は
図10に示される構成に限定されない。p型Si
1−yGe
y層1026及びn型Si
1−yGe
y層1028において、Geの割合は任意の値をとることができる。
図9と同様に、
図10には、Si基板1002、BOX層1004、p型Si領域1030、n型Si領域1032、第1の電極1012、第2の電極1014、接地電極1016、信号電極1018及びクラッド1020が示されており、PN接合1006の接合界面1006aの位置は、p型Si
1−x1Ge
x1層1008の中心1008aからp型Si領域1030の方向(すなわちマイナス方向)へオフセットしている。リブ型導波路構造1010は、PN接合に代えて、PIN接合を含んでもよい。Si
1−x1Ge
x1層1008及びSi
1−x2Ge
x2層1022の導電タイプはn型であってもよい。
図10の光位相変調器1000においても、
図6乃至8と同様に、p型Si
1−x2Ge
x2層1022の上及び/もしくは側面、並びに/又はp型Si
1−x1Ge
x1層1008の側面に歪誘起膜が形成されてもよい。本実施例においては、PN接合1006がSiGe層を含むので、PN接合1006の屈折率がSiのみからなるPN接合の屈折率と比較して高くなる。したがって、本実施例によれば、光の閉じ込め効果がより強くなり、光変調効率がより高くなる。
【0053】
本発明の1つの実施例は、上述のような本発明の実施例による光位相変調器を備えた光強度変調器である。例えば、
図1に示される光位相変調器100をマッハ・ツェンダー干渉計の一方のアーム又は両方のアームにおいて用いることによって、光強度変調器を構成することができる。本発明の他の実施例の光位相変調器もまた、光強度変調器を構成するために用いることができる。本発明の実施例による光強度変調器は上記の構成に限定されない。本発明の光位相変調器を当業者に知られた方法で光強度変調器に適用することにより、本発明の特徴を備えた光強度変調器を得ることができることが理解されよう。
【0054】
本発明の1つの実施例において、Si
1−xGe
x層(108、508、608、708、808、908、1008)におけるGeの割合は0≦x<0.6の範囲に設定されてよい。Geの割合xが0.6以上になると光吸収が顕著になることから、Geの割合を0≦x<0.6の範囲とすることで、光位相変調器の挿入損失の増大を抑制することができる。
【0055】
本発明の1つの実施例において、シリコン基板(102、502、602、702、802、902、1002)の結晶方位は<110>であってよい。結晶方位を<110>とすることにより、自由キャリアの移動度が増大し、光吸収が低減する。これにより、高速で低損失な光位相変調器を実現できる。
【0056】
図11A乃至
図11Hは、
図1に示される本発明の実施例による光位相変調器100の製造工程を説明する。
【0057】
図11Aは、本発明の実施例に使用した基板構成を示したものである。Si基板102上に積層されたBOX層(熱酸化膜)104上に、Si層105が積層されたSOI基板からなる。
【0058】
図11Bにおいて、Si層105の一部を(例えば、ボロンなどで)ドープすることによって、p型Si領域130が形成される。また、Si層105の別の部分を(例えば、リンなどで)ドープすることによって、n型Si領域132が形成される。これにより、基板上に横方向に形成されたSiからなるPN接合106が形成される。PN接合106はSi
1−yGe
yからなっていてもよい。PN接合に代えてPIN接合が形成されてもよい。
【0059】
図11Cにおいて、p型Si領域130のPN接合106に隣接する一部をさらにp型でドープしてドーピング濃度を高めることにより、p型電極112が形成される。また、n型Si領域132のPN接合106に隣接する一部をさらにn型でドープしてドーピング濃度を高めることにより、n型電極114が形成される。
【0060】
図11Dにおいて、PN接合106、p型電極112及びn型電極114の一部をエッチングする。
【0061】
図11Eにおいて、エッチングされた部分に酸化膜マスク層136が形成される。さらに、PN接合106上の酸化膜マスク層が除去されて、凹み138が形成される。
【0062】
図11Fにおいて、少なくとも1層からなるSi
1−xGe
x層が凹み138に形成され、この層がp型でドープされて、p型Si
1−xGe
x層108が形成される。したがって、p型Si
1−xGe
x層108はPN接合106と電気的に接続される。
【0063】
図11Gにおいて、酸化膜マスク層136が除去され、酸化膜(例えば、SiO
2)クラッド層120が形成される。
【0064】
図11Hにおいて、金属配線を用いて、接地電極116及び信号電極118が、p型電極112及びn型電極114にそれぞれ接するように形成される。
【0065】
本発明は特定の実施例に関して記載されたが、本明細書に記載された実施例は、本発明を限定的に解釈することを意図したものではなく、本発明を例示的に説明することを意図したものである。本発明の範囲から逸脱することなく他の代替的な実施例を実施することが可能であることは当業者にとって明らかである。