(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに無機充填剤をポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
請求項1から6のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品とが、レーザー溶着された複合成形品。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の成形品同士を接合する技術として、熱溶着が知られている。熱溶着は、接合させる成形品の表面を加熱して溶融させ、溶融した面同士を密着させて接合させる技術である。熱溶着のうち、熱源としてレーザー光を用いるものが、レーザー溶着である。
図1は、一般的なレーザー溶着方法についての説明図である。
図1に示すように、レーザー溶着では、光源1から発せられるレーザー光2を透過する樹脂組成物で形成されたいわゆる透過側成形品3と、レーザー光2を吸収する樹脂組成物で形成されたいわゆる吸収側成形品4とを、接合させたい面同士が対向するように重ね合せ、透過側成形品3側から吸収側成形品4側に向けてレーザー光2を照射する。レーザー光2の照射により、重ね合せた界面が発熱して溶融し接合される。そのため、透過側成形品3に用いられる樹脂組成物は、レーザー光の透過率が高いほど(吸収率が低いほど)好ましく、吸収側成形品4に用いられる樹脂組成物は、レーザー光の吸収率が高いほど(透過率が低いほど)好ましい。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気的特性、機械的特性、及び成形加工性等の種々の特性に優れるため、多くの用途に用いられている。ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、それ自体が不透明な結晶性樹脂であり、カーボンブラック等の着色剤で容易に着色することもできるため、吸収側成形品4としては容易に用いることができる。反対に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を透過側成形品3に用いる場合は、樹脂のレーザー光の透過性を高める必要がある。ポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光の透過性を高める方法としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に、ポリカーボネート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等の結晶化度が低く透明性の高い樹脂をアロイ材として添加する方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を用いた成形品は、部位によってレーザー光透過率にバラツキが生じる場合がある。レーザー光透過率にバラツキが生じると、部位によってレーザー光の出力を変更しなければならず作業性が悪化する。一方、作業性を高めるために、レーザー光の出力を一定にして溶着作業を進めると、レーザー光透過率にバラツキがある場合、必要以上に発熱して炭化してしまう部位が発生したり、レーザー光が透過せずに溶着できない部位が発生したりしてしまい、均一に溶着することが難しい。特許文献2には、均一に溶着可能なレーザ溶着用PBT系樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、エラストマー(B)と、ポリカーボネート系樹脂(C)と、シリコーンオイル(D)とを含む樹脂組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2004−315805号公報
【特許文献2】特開2005−133087号公報
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
[樹脂組成物]
本実施形態のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう。)は、レーザー溶着用のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PBT系樹脂」ともいう。)、及び所定の粒子径の無機粒子を所定の含有量で含有する。この樹脂組成物によれば、レーザー光透過性を有しつつ部位によるレーザー光透過性のバラツキが小さく、かつ成形時の熱収縮を抑制する成形品を製造することが可能である。
【0017】
(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分(例えば、50質量%〜100質量%、好ましくは60質量%〜100質量%、さらに好ましくは75質量%〜100質量%程度)とするホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)又はコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)等が挙げられる。
【0018】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又は変性PBT樹脂)における共重合可能なモノマー(以下、「共重合性モノマー」ともいう。)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC
4−40ジカルボン酸、好ましくはC
4−14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC
8−12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸;4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等のC
8−16ジフェニルジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体[例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)等のフタル酸又はイソフタル酸のC
1−4アルキルエステル等)、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体]等が挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸等を併用してもよい。
【0020】
ジオールには、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状C
2−12脂肪族グリコール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
2−10脂肪族グリコール)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(複数のオキシC
2−4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)、芳香族ジオール(例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオール等のC
6−14芳香族ジオール;ビフェノール;ビスフェノール類;キシリレングリコール等)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオールを併用してもよい。
【0021】
前記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン等のビス(ヒドロキシアリール)C
1−6アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)C
4−10シクロアルカン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体が例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF等)のC
2−3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールA等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のC
2−3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基に対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0022】
オキシカルボン酸には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトン等)等のC
3−12ラクトン等が含まれる。
【0023】
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類、又はジカルボン酸類が挙げられる。ジオール類としては、C
2−6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコール等)、繰返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC
2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコール等)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体等)等が挙げられる。ジカルボン酸類としては、C
6−12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、及び非対称芳香族ジカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、及びその反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)等の低級アルキルエステル等)]等が好ましい。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が好ましく、共重合性モノマーの割合(変性量)は、通常、45モル%以下(例えば、0〜40モル%程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0〜35モル%程度)であってもよく、30モル%以下(0〜30モル%程度)であってもよい。単独で使用する場合、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。ホモポリエステルと併用する場合、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.1〜45モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜40モル%(例えば、5〜40モル%)、好ましくは10〜35モル%程度であってもよい。
【0025】
なお、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1〜30モル%(好ましくは1〜25モル%、さらに好ましくは5〜25モル%)程度となる範囲であり、通常、ホモポリエステル/コポリエステルの質量比は、99/1〜1/99、好ましくは95/5〜5/95、さらに好ましくは90/10〜10/90程度の範囲から選択できる。
【0026】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法等により共重合することにより製造できる。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂の含有量は、全樹脂組成物中50質量%以上100質量%未満とすることができ、好ましくは、60質量%以上100質量%未満とすることができ、より好ましくは65質量%以上99.9質量%以下とすることができる。
【0028】
(無機粒子)
無機粒子としては、板状無機粒子又は粉粒状無機粒子を挙げることができる。板状無機粒子としては、タルク、マイカ、カオリン、パイロフィライト、セリサイト、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、スチーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト、ガラスフレーク、黒鉛、各種の金属箔(例えば、アルミ箔、鉄箔、銅箔)等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。粉粒状無機粒子は、球状や回転楕円形状の他、球状化処理されていない不規則な形状を有する無機粒子であり、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、金属酸化物微粒子(例えば、シリカ、アルミナ)等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、層状ケイ酸塩からなる板状無機粒子を含むことが好ましく、タルクを含むことが特に好ましい。
【0029】
無機粒子の平均一次粒子径は、1.0μm以上10μm以下である。平均一次粒子径を1.0μm以上10μm以下とすることで、得られる樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いて形成された成形品が、レーザー光透過率のバラツキが少なく、かつ成形時の収縮率の異方性が小さいものとすることができる。平均一次粒子径は、1.5μm以上、2.0μm以上、又は2.0μmを超え、10μm未満、8.0μm以下、7.0μmとすることもできる。なお、「平均一次粒子径」とは、樹脂組成物に配合される前の無機粒子について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値であり、例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA−3を用いて算出することができる。無機粒子のアスペクト比は、1以上10以下であることが好ましく、より好ましくは、1以上5以下である。
【0030】
無機粒子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下である。無機粒子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、好ましくは、0.1質量部以上、0.5質量部以上又は1.0質量部以上、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は5質量部未満である。無機粒子の含有量が20質量部を超えて過多になると、成形品の収縮率および異方性が大きくなり、反りなどの変形や形状のバラツキが生じ得る。その結果、レーザー光透過性のバラツキが多くなるとともに、レーザー溶着の相手材との密着性が低下してしまう。無機粒子の含有量が0.01質量部未満であると、レーザー光透過性のバラつきが大きくなってしまう。無機粒子は、通常、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に比べ熱による寸法変化が小さいことから、樹脂組成物の収縮率を抑制する目的で添加される場合があるが、本実施形態のように、平均一次粒子径の小さい無機粒子を少量添加する際は、無機粒子が核剤として作用することで、樹脂組成物の結晶化が進む場合がある。そのため、無機粒子の添加量によっては収縮率が大きくなることがある。
【0031】
(無機充填剤)
本実施形態の樹脂組成物は、得られる成形品の機械的物性を向上させる目的で、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤としては、繊維状充填剤、板状充填剤、又は粉粒状充填剤を挙げることができる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ−アルミナ繊維、アルミニウムシリケート繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素等のウィスカー)等の無機質繊維;脂肪族又は芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル樹脂、或いはレーヨン等で形成された繊維等の有機質繊維を挙げることができる。板状充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト等を挙げることができる。粉粒状充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、ウォラストナイト(珪灰石)等を挙げることができる。なお、ウォラストナイトは、板状、柱状、繊維状等の形態であってもよい。これらの無機充填剤のうち、安価であり入手しやすいこと等から、ガラス繊維が好ましい。
【0032】
繊維状充填剤の平均径は、例えば、1μm〜30μm(好ましくは3μm〜20μm)程度、平均長は、例えば、100μm〜5mm(好ましくは300μm〜4mm、さらに好ましくは500μm〜3.5mm)程度であってもよい。また、板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、例えば、10μm〜500μm、好ましくは15μm〜100μm程度とすることができる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なお、繊維状充填剤の平均径と平均長、並びに板状又は粉状充填剤の平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の繊維状充填剤、板状又は粉状充填剤について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値であり、例えば、上記無機粒子の平均一次粒子径の測定に用いる装置と同じ装置を用いて算出することができる。
【0033】
無機充填剤の含有割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下、好ましくは、10質量部以上80質量部以下、より好ましくは12質量部以上60質量部以下、特に好ましくは15質量部以上50質量部以下とすることができる。無機充填剤の含有割合がポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下の場合、得られる成形体のレーザー光透過性のバラツキを抑えつつ、得られる成形体の機械的物性を向上させることができる。
【0034】
(他の添加物)
樹脂組成物には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、染顔料等の着色剤、分散剤、可塑剤、核剤等を添加してもよい。この場合の添加物の含有量は、例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、0質量部を超え20質量部以下とすることができる。なお、着色剤については、意匠面の要求から、レーザー光吸収側成形品と同様の色目、特に黒色系への着色が必要となる場合、レーザー光透過性を損なわないよう、染料系の着色剤を用いるか、或いはレーザー光透過率を損なわない顔料(例えばBASF社のルモゲンブラックなど)を用いることが望ましい。
【0035】
また、樹脂組成物には、耐加水分解性などを改善するため、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物などのエポキシ化合物を添加してもよい。また、レーザー光に対する吸収成分や反射成分(例えば、波長800〜1000nm領域の入射光を殆ど吸収する成分及び/又は反射する成分)は、レーザー溶着性を損なわない範囲であれば使用してもよいが、通常、このような吸収成分や反射成分は添加しない場合が多い。また、必要であれば、他の樹脂(スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)と組合せて用いてもよい。
【0036】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物(ペレット等)であってもよい。この樹脂組成物を用いた成形品は、レーザー光透過性を有しているとともに、レーザー光透過性の部位によるバラツキが小さいので、樹脂組成物はレーザー溶着するための成形品を製造するのに適している。特に、レーザー光透過側成形品を製造するのに適している。得られる成形品は、部位によるレーザー光透過性のバラツキが小さいため、レーザー溶着の際に部位ごとにレーザー光の出力を変える必要がない。また、レーザー光の出力を一定に保ちながら他の成形品と溶着する場合でも、炭化する部位が発生したり溶着できない部位が発生したりすることを防ぐことができる。その結果、容易かつ均一にレーザー溶着することが可能となる。また、成形時の収縮率の異方性を抑制できるので、反りなどの変形や形状のバラツキが少なく、相手材との密着性よく溶着することができる。
【0037】
[成形品]
成形品は、上記した樹脂組成物を用いて形成することができ、上記樹脂組成物を含む。この成形品は、レーザー溶着用成形品とすることができる。成形品は、例えば、サイドゲート方式で幅2mmのゲートからの射出成形により形成された成形品(長さ80mm×幅80mm×厚み1.5mm)において、波長800nm〜1000nm(特に900nm〜1000nm)のレーザー光透過率が、15%以上、又は20%以上であり、レーザー光透過性を有している。また、成形品は、部位によるレーザー光透過率のバラツキが小さくレーザー光が一様に透過する。例えば、射出成形して形成した成形品(長さ80mm×幅80mm×厚み1.5mm)において、800nm〜1000nmの光を厚み方向に照射したとき、透過率の部位による変動幅(例えば、成形品のゲート側領域の透過率と、成形品の樹脂流動末端側領域の透過率との差)は、5%以下であり、好ましくは4%以下であり、より好ましくは2%以下、又は2%未満である。なお、レーザー光透過率は、分光光度計を用いて測定した値である。部位によるレーザー光透過率のバラツキが小さいので、レーザー溶着時に部位によってレーザー光の出力を変える必要がなく、一定の出力でレーザー光を照射した場合でも、均一に溶着することが可能である。
【0038】
また、この成形品は、成形時の収縮率の異方性が小さいので、変形や形状のバラツキが少ない。例えば、射出成形により形成された成形品(射出成形品)において、樹脂流れの直角方向(TD方向)と樹脂流れに平行方向(MD方向)の成形収縮率の差(異方性)が、1.0%以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、特に好ましくは0.6以下である。そのため、レーザー溶着した場合に相手材との密着性がよい。なお、成形収縮率は、金型のキャビティの大きさ(長さ)を100とした場合の、成形品のTD方向及びMD方向の大きさ(長さ)の割合(%)である。
【0039】
成形品は、樹脂組成物を慣用の方法で成形して得ることができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法、等で製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材等)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分(ガラス系補強材等)を混合することにより調製してもよい。
【0040】
成形方法は、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディング等の慣用の方法を用いることができるが、通常、射出成形により成形される。特に、インサート成形に適している。
【0041】
成形品の形状は、特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(他の樹脂成形品)と接合して用いるため、通常、少なくとも接触面(平面等)を有する形状(例えば、板状)である。また、本発明の成形体はレーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1mm〜2mm、好ましくは0.1mm〜1.5mm(例えば、0.5mm〜1mm)程度であってもよい。
【0042】
前記成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法等により他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
【0043】
[複合成形品]
複合成形品は、上記したポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いて形成され該樹脂組成物を含む第1の成形品と、熱可塑性樹脂組成物を用いて形成され該熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品とが、レーザー溶着された複合成形品である。第1の成形品と、第2の成形品とは、レーザー溶着により接合され一体化されている。複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品の少なくとも一部と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品の少なくとも一部とを重ね合せ、第1の成形品側からレーザー光を照射して第1の成形品の少なくとも一部と第2の成形品の少なくとも一部とを溶着して得ることができる。レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面が少なくとも部分的に溶融して接合面が密着され、その後、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの複合成形体とすることができる。
【0044】
第2の成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物としては、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂と相溶性のある樹脂組成物であれば特に制限されず、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を含む樹脂組成物を挙げることができる。これらの樹脂のうち、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂等の芳香族ポリエステル系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂又はその組成物で相手材を構成してもよい。
【0045】
第2の成形品は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料又は有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、酸化鉄赤等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、酸化チタン等の白色顔料等を挙げることができる。有機顔料としては、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等を挙げることができる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。吸収剤としては、通常、黒色顔料又は染料、特にカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、熱可塑性樹脂組成物全体に対して0.1質量%〜10質量%、好ましくは0.5質量%〜5質量%(例えば、0.5質量%〜3質量%)程度である。
【0046】
レーザー光の照射は、通常、第1の成形体から第2の成形体の方向に向けて行われ、光吸収性を有する第2の成形体の界面で発熱させることにより、第1の成形体と第2の成形体とを融着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を融着してもよい。レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザ、気体レーザ(エキシマレーザ、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム−ネオンレーザ等)、固体レーザ(YAGレーザ等)、半導体レーザ等が利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザが利用される。
【0047】
(用途)
本実施形態で得られる複合成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射によるPBT系樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品等に適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品等)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0049】
[実施例1〜11、比較例1〜5]
以下に示す材料を用い、表1,2に示す含有割合で2軸押出機(日本製鋼所株式会社製、30mmφ)により250℃にて混錬しペレットを作製した。なお、タルクの平均一次粒子径は、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA−3を用いて算出した。
【0050】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT):ウィンテックポリマー社製、固有粘度0.95dl/gのPBT
タルク1:平均一次粒子径2.6μmのタルク
タルク2:平均一次粒子径3.4μmのタルク
タルク3:平均一次粒子径6.2μmのタルク
タルク4:平均一次粒子径0.6μmのタルク
タルク5:平均一次粒子径14.2μmのタルク
ガラス繊維(GF):日本電気硝子社製、商品名「ECS03T−187」、平均径13μm、平均長3mm
【0051】
[評価]
実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、射出成形機(ファナック株式会社製)により、シリンダー温度260℃及び金型温度80℃の条件で成形品(縦8cm×横8cm×厚さ1.5mm、サイドゲート)を成形した。
【0052】
(レーザー光透過率)
得られた成形品のゲート側領域、及び樹脂の流動末端側領域からそれぞれ2cm×2cmを切り出して試験片とし、積分球を使用した分光光度計(日本分光社製、型式:V570)を用いて、波長940nmでの試験片のレーザー光透過率を測定した。結果を表1に示した。なお、「レーザー光透過率の変動幅」は、成形品の、ゲート側領域のレーザー光透過率と、樹脂流動末端側領域のレーザー光透過率との差(%)とした。
【0053】
(成形収縮率)
上記の条件で射出成形して得られた成形品について、キャビティの大きさと比較しての樹脂流れの直角方向(TD方向)、流れに平行方向(MD方向)の成形収縮率(単位:%)及びその差(異方性)を測定した。
【0054】
【表1】
【表2】
【0055】
表1,2から明らかなように、実施例1〜11の樹脂組成物を含む成形品は、レーザー光透過率が15%以上、又は20%以上でありレーザー光透過性を有している。また、所定の粒子径の無機粒子を含有しない樹脂組成物を用いた比較例1の成形品や、粒子径又は含有量が所定の数値範囲外である樹脂組成物を用いた比較例2〜5の成形品よりも、ゲート側領域部の透過率と流動末端側領域部の透過率との差が、5%以下と小さくなっている。そのため、成形品の部位によるレーザー光透過率にバラツキが少なく、レーザー溶着時に部位によってレーザー光の出力を変える必要がないとともに、一定の出力でレーザー光を照射した場合でも、均一に溶着することが可能である。また、この成形品は、成形時の収縮率の異方性が小さいので、変形や形状のバラツキが少なく、レーザー溶着する際に相手材との密着性がよい。