(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984430
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】粘土粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/40 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
C01B33/40
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-6877(P2018-6877)
(22)【出願日】2018年1月19日
(65)【公開番号】特開2019-123654(P2019-123654A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2020年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆治
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敬
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−212621(JP,A)
【文献】
特開2012−082368(JP,A)
【文献】
特開2015−074744(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/158349(WO,A1)
【文献】
特開2016−176006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメクタイト系粘土鉱物100重量部に対し、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物5重量部以上20重量部以下を含む粒子であって、メジアン径が4μm以上20μm以下であることを特徴とする粘土粒子。
【化1】
(式中、R
1は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはハロゲンを表し、R
2は
ヒドロキシル基、水素またはハロゲンを表し、M
1〜M
4は各々独立して水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
【化2】
(式中、M
5〜M
8は各々独立してリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
【請求項2】
粒径の幾何標準偏差が0.15以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘土粒子。
【請求項3】
全粒子のうち、円形度0.9〜1の粒子の比率が90重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘土粒子。
【請求項4】
40℃以上に加熱した、スメクタイト系粘土鉱物並びに下記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物を含むゾルを噴霧乾燥することを特徴とする粘土粒子の製造方法。
【化3】
(式中、R
1は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはハロゲンを表し、R
2は
ヒドロキシル基、水素またはハロゲンを表し、M
1〜M
4は各々独立して水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
【化4】
(式中、M
5〜M
8は各々独立してリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
【請求項5】
ゾル中のヘクトライト系粘土鉱物濃度が15重量%以上40重量%未満であることを特徴とする請求項4に記載の粘土粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土粒子及びその製造方法に関するものであり、さらに詳細には、取り扱い性、紛体特性、流動性に優れ、担体、充填材、助剤等としての各種利用が期待される微小な球状粘土粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト、シリカ、アルミナ及び粘土等の無機系酸化化合物は比表面積の大きさを利用して触媒材料としての検討が行われている。中でもモンモリロナイトやヘクトライトに代表される粘土鉱物は、カチオンとのイオン交換能を有することから、特定のカチオンとイオン交換する変性反応を行い、固体粉末触媒としての検討が行われている(例えば非特許文献1参照。)。
【0003】
また、触媒として利用される粘土は、その粒径が触媒性能に影響することから、粒径調整として様々な検討が行われており、例えばジェットミルを用いた粉砕法、スプレードライヤーによる造粒法等が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本イオン交換学会誌、24巻(2013)1号、p.1−7
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−25035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スプレードライ法による造粒は、嵩密度の高い球状粒子の調製が可能であることから、粒子の粒径調整法として広く用いられている。そして、スプレードライ法により得られる粒子の粒径は、原液濃度と噴霧時に生じる液滴の大きさによって決まる。そのため、微小な粒子を得るには原液の濃度を薄くするか、液滴を極力小さくすることが必要である。工業的には、原液を薄くすると生産性が低下するため、出来る限りの高濃度として、微小な液滴を作ることにより対応するのが一般的である。
【0007】
しかし、粘土を水に分散させると、1〜2重量%程度の低濃度ではコロイド液(ゾル)となり、更に高濃度とするとゲル化して粘度が著しく上昇し、液の流動性が失われるため、送液が困難となり、スプレードライ自体が不可能となる。
【0008】
そこで、均一かつ微小な球状粒子及びそれを効率的に製造する方法の提供が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スメクタイト系粘土鉱物100重量部に対し、特定の化合物を特定の割合で有し、特定のメジアン径を有する粘土粒子が、優れた特性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、スメクタイト系粘土鉱物100重量部に対し、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物5重量部以上20重量部以下を含む粒子であって、メジアン径が4μm以上20μm以下であることを特徴とする粘土粒子およびその製造方法に関するものである。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはハロゲンを表し、R
2はアルコール、水素またはハロゲンを表し、M
1〜M
4は各々独立して水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、M
5〜M
8は各々独立してリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す。)
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の粘土粒子は、スメクタイト系粘土鉱物100重量部に対し、上記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物5重量部以上20重量部以下を含む粒子であって、そのメジアン径として4μm以上20μm以下の範囲を有するものである。
【0016】
そして、本発明の粘土粒子を構成するスメクタイト系粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト等が挙げられ、中でも入手の容易さや使いやすさの観点からモンモリロナイト、ヘクトライトが好ましく、特に水に分散させた際に、高濃度でもゾル状態を維持し易く、効率的に微小粘土粒子とすることが可能となることから合成ヘクトライトがより好ましい。
【0017】
上記一般式(1)で示される化合物は、R
1としては炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはハロゲンであり、R
2としてはアルコール、水素またはハロゲンであり、M
1〜M
4としては各々独立して水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであるものである。そして、具体的にはエチドロン酸ナトリウム、アレンドロン酸ナトリウム、リセドロン酸ナトリウム、クロドロン酸ナトリウム等を挙げることができる。また、上記一般式(2)で示される化合物は、M
5〜M
8としては各々独立してリチウム、ナトリウムまたはカリウムであるものである。そして、具体的にはエチドロン酸四ナトリウム(1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウムと称することもある。)、エチドロン酸四リチウム、エチドロン酸二ナトリウム二リチウム等を挙げることができる。
【0018】
本発明の粘土粒子は、スメクタイト系粘土鉱物100重量部に対し、上記一般式(1)及び/又は(2)で示される化合物5重量部以上20重量部以下を含むものである。ここで、該化合物の含有量が5重量部未満である場合、または、20重量部を越える場合、微小な粒子径、均一な粒子径を達成することが困難となる。
【0019】
本発明の粘土粒子は、メジアン径が4μm以上20μm以下のものである。ここで、メジアン径が4μm未満である場合、または20μmを越える場合、紛体特性、取り扱い性に劣るものとなる。なお、本発明でいうメジアン径とは、体積基準で累積径が50%となる粒径(d
50)を指す。また、d
50と同じく体積基準で累積径が84%となる粒径(d
84)から、log(d
84/d
50)で定義される幾何標準偏差(σ)を求めることが出来る。そして、本発明の粘土粒子としては、特に均一性に優れ、その特性にも優れるものとなることからσが、0.15以下であることが好ましい。なお、粒径の測定方法は特に限定はなく、例えばレーザー回折・散乱式の粒径測定装置を用いて測定する方法を挙げることができる。
【0020】
また、本発明の粘土粒子は、球状物であるが、多少の窪みや歪みがあったり、中空状やリング状の粒子であってもよい。その際に粒子がどれだけ球形であるかを表す指標として円形度が知られている。ここで、円形度とは(投影面積の等しい円の周長)/(粒子の周長)で定義される指標であり、これが1に近いほど円に近くなる。円形度が1である粒子の比率が100%である場合、これらの粒子は真球であると見なすことができる。円形度の測定方法としては、例えば粒子のSEM写真をとり、非常に細かい格子上に投影させ、投影部分の格子面積とその外周を測定する方法を挙げることができる。先に述べたように、窪みや歪みがあったり、中空状やリング状の粒子であったりすると、円形度は小さくなる傾向が見られる。本発明の粘土粒子は、円形度が0.9〜1の粒子の比率が全粒子数の90%以上を有するものであることが好ましい。
【0021】
本発明の粘土粒子の製造方法としては、該粘土粒子を製造することが可能であれば如何なる方法により製造してもよく、粒子の効率的な製造方法として知られているスプレードライヤーによる噴霧乾燥による製造方法を挙げることができる。
【0022】
以下に、好ましい製造方法の例示として、噴霧乾燥による製造方法の一例にて説明を行う。
【0023】
噴霧乾燥を行う際には、スメクタイト系粘土鉱物並びに上記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物を含むゾルとして供給し、噴霧乾燥を行う方法を挙げることができる。その際にゾルを構成する溶媒としては、水を挙げることができ、さらに該水としては蒸留水、イオン交換水、水道水等を挙げることができる。そして、ゾルとしては、効率的な粘土粒子の製造が可能となることから、スメクタイト系粘土鉱物を15重量%以上40重量%以下の濃度で含むものであることが好ましい。また、該ゾルを供給する際の温度としては、送液する際にゾルの粘度が低く安定し、安定な粒子を効率よく製造することが可能となることから、40℃以上とすることが好ましく、特に40℃以上80℃以下とすることが好ましい。
【0024】
スプレードライヤーの方式としては、例えば四流体ノズル式、二流体ノズル式、ロータリーアトマイザー式、超音波ノズル式、圧力ノズル式等を挙げることができ、中でも微小粒子を効率的に得ることが可能となることから四流体ノズル式、二流体ノズル式が好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、取り扱い性、紛体特性、流動性に優れ、担体、充填材、助剤等としての各種利用が期待される微小な球状粘土粒子及びその製造方法を提供することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0027】
なお、実施例及び比較例における調製、評価方法を以下に示す。
【0028】
〜スプレードライヤー
四流体式ノズル式(藤崎電機社製、(商品名)MDP−050)。
【0029】
〜粒径測定〜
マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製、(商品名)MT3300)を用いてエタノールを分散剤として測定した。
【0030】
〜円形度〜
顕微鏡(日本電子株式会社製、(商品名)FE−SEM JSM−7100F)を用い、表面をオスミウムコートして2000倍で写したSEM写真に0.5mm間隔の透明方眼紙を重ね、粒子が重なる方眼紙の格子を塗りつぶし、その格子面積と外周径を測定し、計算により求めた。
【0031】
製造例1
炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業製)0.743kgを水5.387kgに溶かし、氷浴で冷却しながら1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(和光純薬工業製)60%溶液0.759kgをゆっくり加えた。添加終了後、30分間攪拌することにより、エチドロン酸四ナトリウム(1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウム)10重量%の水溶液を6.5kg得た。
【0032】
実施例1
40℃の水2.7kgと製造例1にて製造したエチドロン酸四ナトリウム水溶液1.3kgを混合し、ここに乾燥した合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン社製、(商品名)ラポナイトRD)1kgを加え、40℃を保ちながら2時間攪拌することで、ヘクトライトが20重量%、エチドロン酸四ナトリウムがヘクトライト100重量部に対して13重量部である粘土ゾル5.0kgを作製した。40℃を保ったまま、この粘土ゾルを25mL/minの速度で、またエアーを35NL/minの速度で入口温度を200℃に設定したスプレードライヤーに送り、粘土粒子を0.92kg得た。
【0033】
この粘土粒子の粒径を測定したところ、メジアン径は11.2μm、σは0.15であった。また、円形度が0.9〜1である粒子の比率は95%であった。
【0034】
実施例2
40℃の水3.875kgと製造例1にて製造したエチドロン酸四ナトリウム水溶液0.375kgを混合し、ここに乾燥した実施例1で用いたのと同じ合成ヘクトライト0.75kgを加え、40℃を維持しつつ2時間攪拌することで、ヘクトライトが15重量%、エチドロン酸四ナトリウムがヘクトライト100重量部に対して5重量部である粘土ゾル5.0kgを作製した。40℃を保ったまま、この粘土ゾルを20mL/minの速度で、またエアーを20NL/minの速度で入口温度を200℃に設定したスプレードライヤーに送り、粘土粒子を0.70kg得た。
【0035】
この粘土粒子の粒径を測定したところ、メジアン径は4.4μm、σは0.13であった。また、円形度が0.9〜1である粒子の比率は98%であった。
【0036】
実施例3
75℃の水0.84kgと製造例1にて製造したエチドロン酸四ナトリウム水溶液2.56kgを混合し、ここに乾燥した実施例1で用いたのと同じ合成ヘクトライト1.6kgを加え、75℃の状態を維持しつつ2時間攪拌することで、ヘクトライトが32重量%、エチドロン酸四ナトリウムがヘクトライト100重量部に対して16重量部である粘土ゾル5.0kgを作製した。この粘土ゾルを20mL/minの速度で、またエアーを30NL/minの速度で入口温度を200℃に設定したスプレードライヤーに送り、粘土粒子を1.4kg得た。
【0037】
この粘土粒子の粒径を測定したところ、メジアン径は15.4μm、σは0.14であった。また、円形度が0.9〜1である粒子の比率は91%であった。
【0038】
比較例1
60℃の水4.5kgに実施例1で用いたのと同じ合成ヘクトライト0.5kgを加えたところ、全体がゲル化して攪拌不可能となり、スプレードライヤーに送液することもできなかった。
【0039】
比較例2
20℃の水6.474kgにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製)0.218kgを加え、さらに実施例1で用いたのと同じ合成ヘクトライト1.0kgを加え、24時間攪拌することで、ヘクトライトが13重量%、ピロリン酸ナトリウムがヘクトライト100重量部に対して13重量部である粘土ゾル7.692kgを作製した。この粘土ゾルを20mL/minの速度で、またエアーを30NL/minの速度で入口温度を200℃に設定したスプレードライヤーに送り、粘土粒子を0.93kg得た。
【0040】
この粘土粒子の粒径を測定したところ、メジアン径は3.6μm、σは0.17であった。また、円形度が0.9〜1である粒子の比率は88%であった。
【0041】
比較例3
75℃の水6.474kgにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製)0.218kgを加え、さらに実施例1で用いたのと同じ合成ヘクトライト1.0kgを加え、75℃を維持しつつ、24時間攪拌したところ粘性が高いゾルとなり、スプレードライヤーへの送液ができなかった。
【0042】
比較例4
75℃の水の代わりに25℃の水を用いた以外、実施例3と同様にして粘土ゾルの作製を試みたが、ゾルの粘度は著しく上昇するとともに、大量のダマが生じた。攪拌をさらに8時間続けてみたが、一部のダマが残った。ダマを回収後、粘土ゾルを20mL/minの速度で、またエアーを30NL/minの速度で入口温度を200℃に設定したスプレードライヤーに送ったところ、粘土粒子を0.7kg得た。
【0043】
この粘土粒子の粒径を測定したところ、メジアン径は3.4μm、σは0.21であった。また、円形度が0.9〜1である粒子の比率は89%であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の粘土粒子は、取り扱い性、紛体特性、流動性に優れ、担体、充填材、助剤等としての各種利用が期待されるものである。