特許第6984604号(P6984604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984604
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】イオン性組成物および架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/03 20060101AFI20211213BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20211213BHJP
   C08G 65/24 20060101ALI20211213BHJP
   C08G 65/32 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C08L71/03
   C08K5/00
   C08G65/24
   C08G65/32
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-535754(P2018-535754)
(86)(22)【出願日】2017年8月24日
(86)【国際出願番号】JP2017030290
(87)【国際公開番号】WO2018038202
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-164578(P2016-164578)
(32)【優先日】2016年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】早野 重孝
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−241311(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148598(WO,A1)
【文献】 特開2012−167251(JP,A)
【文献】 特開2008−054446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00− 101/14
C08K 3/00− 13/08
C08G 65/00− 67/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体と、下記一般式(1)で表される単量体単位からなる、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含むイオン性組成物。
【化3】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
【請求項2】
前記カチオン性基が、窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基である請求項1に記載のイオン性組成物。
【請求項3】
前記カチオン性基が、窒素原子含有芳香族複素環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基である請求項に記載のイオン性組成物。
【請求項4】
前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量(Mn)が、750〜2,000,000である請求項1〜のいずれかに記載のイオン性組成物。
【請求項5】
前記イオン液体が、カチオンとして、カチオン性の窒素原子を含有するイオンを有する請求項1〜のいずれかに記載のイオン性組成物。
【請求項6】
前記イオン液体の分子量が、100〜700である請求項1〜のいずれかに記載のイオン性組成物。
【請求項7】
前記イオン液体100重量部に対する、前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物の含有量が2〜600重量部である請求項1〜のいずれかに記載のイオン性組成物。
【請求項8】
前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物が、架橋性基をさらに有する請求項1〜のいずれかに記載のイオン性組成物。
【請求項9】
請求項に記載のイオン性組成物と、架橋剤とを含む架橋性組成物。
【請求項10】
請求項に記載の架橋性組成物を架橋してなる架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を含むイオン性組成物に関し、さらに詳しくは、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れたイオン性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機溶媒を用いた工業プロセスは、広く化学工業において用いられているものの、有機溶媒は引火性を有するものであることから、安全性という観点より、解決されるべき問題となっている。
【0003】
また、有機溶媒以外の液体として、水溶液系プロセスの開発が検討されてきた。しかし水は概して電子機器の破損や鉄などの金属の腐食などの原因となり、そのプロセス展開は必然的に限定される。そこで、これらに代わる第3の溶媒として、不揮発性のイオン液体の利用が検討されている(たとえば、非特許文献1参照)。たとえば、有機溶媒の代わりにイオン液体を媒質として用いることにより、有機溶媒の揮発による液量の経時的な減少や引火の問題の改善が期待され、また水由来の破損や腐食のリスクも回避できる。
【0004】
しかしながら、そもそもイオン液体のその多くは、常温において液状であるものの低温下では凝固してしまうものであるため、低温特性が十分でなく、そのため工業プロセスに適用する際に使用環境条件が制約されてしまう(たとえば低温下において使用できない)という問題があった。また、イオン液体の融点を低下させる方法として、イオン液体に有機溶媒を添加する方法なども考えられるが、揮発性の有機溶媒を加えることで、引火性の抑制効果が不十分となってしまうという問題が新たに発生してしまう。
【0005】
このような状況において、一般的な化学工業のプロセスにおいて有機溶媒の代替としてイオン液体を用いるに際しては、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられていることに加え、低温特性に優れていることが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Welton, T. Chem. Rev., 1999, 99 (8), pp 2071-2084.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、イオン液体を含有するイオン性組成物において、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れたイオン性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、イオン液体に、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を配合してなるイオン性組成物によれば、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含むイオン性組成物が提供される。
【0010】
本発明のイオン性組成物において、前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物が、下記一般式(1)で表される単量体単位からなるものであることが好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
本発明のイオン性組成物において、前記カチオン性基が、窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記カチオン性基が、窒素原子含有芳香族複素環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量(Mn)が、750〜2,000,000であることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記イオン液体が、カチオンとして、カチオン性の窒素原子を含有するイオンを有するものであることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記イオン液体の分子量が、100〜700であることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記イオン液体100重量部に対する、前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物の含有量が2〜600重量部であることが好ましい。
本発明のイオン性組成物において、前記カチオン性基を有するポリエーテル化合物が、架橋性基をさらに有するものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記本発明のイオン性組成物と、架橋剤とを含む架橋性組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記本発明の架橋性組成物を架橋してなる架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イオン液体を含有するイオン性組成物において、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れたイオン性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<イオン性組成物>
本発明のイオン性組成物は、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含むイオン性の組成物である。
【0014】
<イオン液体>
本発明において、イオン液体とは、融点が150℃以下である有機塩化合物であればよく、融点が100℃以下である有機塩化合物が好ましく、融点が80℃以下である有機塩化合物がより好ましく、融点が室温(25℃)以下である有機塩化合物がさらに好ましい。そして、イオン液体は、カチオンとアニオンとから構成される有機塩化合物であることが好ましく、カチオンとして、正の電荷を1つのみ有する有機分子と、負の電荷を1つのみ有する対アニオンとを有する有機塩化合物であることがより好ましい。なお、イオン液体は、イオン性液体、あるいは、常温溶融塩とも呼ばれることがある。
【0015】
本発明で用いるイオン液体としては、25℃における粘度が10〜1000mPa・sの範囲にあるものが好ましく、10〜500mPa・sの範囲にあるものがより好ましい。
【0016】
また、本発明で用いるイオン液体としては、分子量(カチオンとアニオンとを合わせた分子量)が100〜700の範囲にあるものが好ましく、120〜500の範囲にあるものがより好ましい。
【0017】
イオン液体を形成するカチオンの具体例としては、アンモニウムイオン;メチルアンモニウムイオン、ブチルアンモニウムイオン、シクロヘキシルアンモニウムイオン、アニリニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、エタノールアンモニウムイオン等のカチオン性の窒素原子を含有するモノ置換アンモニウムイオン;ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、ジブチルアンモニウムイオン、ノニルフェニルアンモニウムイオン等のカチオン性の窒素原子を含有するジ置換アンモニウムイオン;トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、n−ブチルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、トリビニルアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、N,N−ジメチルエタノールアンモニウムイオン、トリ(2−エトキシエチル)アンモニウムイオン等のカチオン性の窒素原子を含有するトリ置換アンモニウムイオン;テトラメチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルブチルアンモニウムイオン、トリメチルペンチルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、トリメチルヘプチルアンモニウムイオン、トリメチルオクチルアンモニウムイオン、トリメチルデシルアンモニウムイオン、トリメチルドデシルアンモニウムイオン等のカチオン性の窒素原子を含有するテトラ置換アンモニウムイオン;ピペリジニウムイオン、1−メチルピロリジニウムイオン、1−ブチル−1メチルピロリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、1−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、ベンズイミダゾリウムイオン、ピロリウムイオン、1−メチルピロリウムイオン、オキサゾリウムイオン、ベンズオキサゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、イソオキサゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、2,6−ジメチルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピリダジニウムイオン、トリアジニウムイオン、N,N−ジメチルアニリニウムイオン、キノリニウムイオン、イソキノリニウムイオン、インドリニウムイオン、キノキサリウムイオン、イソキノキサリウムイオン等のカチオン性の窒素原子を含有する複素環イオン;トリブチルドデカホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン等のカチオン性のリン原子を含んでなるイオン;トリフェニルスルホニウムイオン、トリブチルスルホニウムイオン等のカチオン性の硫黄原子を含んでなるイオン;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、カチオン性の窒素原子を含有するイオンが好ましく、カチオン性の窒素原子を含有する複素環イオンがより好ましく、ピロリジニウム環を含有するイオン、イミダソリウム環を含有するイオン、ピリジニウム環を含有するイオンが特に好ましい。
【0018】
イオン液体を形成するアニオンの具体例としては、Cl、Br、I等のハロゲン化物イオン、(FSO、(CFSO、(CFCFSO等のスルホニルイミド化物イオン、OH、SCN、BF、PF、ClO、CHSO、CFSO、CFCOO、PhCOO等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのなかでも、(CFSO、BF、PF、ClO、CFSO、CFCOOが好ましく、(CFSO、BFがより好ましく、(CFSOが特に好ましい。
【0019】
本発明で用いるイオン液体としては、カチオンおよびアニオンの全てが同一のイオン種からなるものであってもよいし、カチオンおよびアニオンのいずれか一方、あるいは両方として、2種以上のイオン種が混在したものであってもよい。すなわち、イオン液体としては、単一のものであってもよく、2種以上が混合されたものであってもよい。
【0020】
本発明で用いるイオン液体の具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル―1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチルドデカホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0021】
<カチオン性基を有するポリエーテル化合物>
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物は、オキシラン構造を含有する化合物のオキシラン構造部分が開環重合することにより得られる単位である、オキシラン単量体単位を含んでなるポリエーテル化合物であって、その分子中にカチオン性基を有するものである。
【0022】
本発明者等が、イオン液体を含有するイオン性の組成物において、低温特性を向上させるために鋭意研究したところ、(1)上述したイオン液体に、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を配合することにより、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を配合した効果により、イオン液体の融点を低下させることができること、さらには、(2)カチオン性基を有するポリエーテル化合物についても、イオン液体と組み合わせることで、ガラス転移点を低下させることができること、そして、これにより、(3)得られるイオン性組成物は、低温特性に優れるものとなること、を見出したものである。そして、本発明者等は、このような知見に基づき、本発明を完成させるに至ったものである。すなわち、本発明のイオン性組成物は、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含むものであり、これにより、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とが備える蒸気圧が極めて低いため、引火性が抑えられているという特性に加え、イオン液体の融点およびカチオン性基を有するポリエーテル化合物のガラス転移点を低くすることができ、これにより低温特性に優れているという特性をも備えるものである。なお、本発明において、低温特性に優れるとは、イオン性組成物中の、イオン液体の融点がその固有の融点よりも低下しており、かつ、カチオン性基を有するポリエーテル化合物のガラス転移点がその固有のガラス転移点よりも低下していればよく、例えば、イオン性組成物中のイオン液体の融点が冷蔵温度である0〜10℃付近に観察されたとしても、そのイオン液体固有の融点よりも低下していれば、そのイオン性組成物は低温特性に優れると言える。
【0023】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物を形成する、オキシラン単量体単位の具体例としては、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位などのアルキレンオキシド単量体単位;エピクロロヒドリン単位、エピブロモヒドリン単位、エピヨードヒドリン単位などのエピハロヒドリン単量体単位;アリルグリシジルエーテル単位などのアルケニル基含有オキシラン単量体単位;フェニルグリシジルエーテル単位などの芳香族エーテル基含有オキシラン単量体単位;グリシジルアクリレート単位、グリシジルメタクリレート単位などの(メタ)アクリロイル基含有オキシラン単量体単位;などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物は、2種以上のオキシラン単量体単位を含有するものであってもよく、この場合においては、それら複数の繰り返し単位の分布様式は特に限定されないが、ランダムな分布を有していることが好ましい。
【0025】
なお、上記単量体単位のうち、エピハロヒドリン単量体単位、アルケニル基含有オキシラン単量体単位、および(メタ)アクリロイル基含有オキシラン単量体単位は、架橋性基を有するオキシラン単量体単位であり、このような架橋性基を有するオキシラン単量体単位を含有することで、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物中に、カチオン性基に加えて架橋性基をも導入でき、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を架橋可能なものとすることができる。特に、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物が架橋性基を有する場合には、架橋剤を配合することで、本発明のイオン性組成物を架橋可能な架橋性組成物とすることができ、これを架橋させることにより得られる架橋物は、架橋構造を含むものであることから、所定の形状に成形した場合等における、形状保持性により優れるものとなり、これにより、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、低温特性に優れることに加え、液漏れの発生を有効に抑制できるものとなる。なお、架橋性基を有するオキシラン単量体単位としては、架橋性基を有する単量体単位であればよく、上記したものに特に限定されるものではない。また、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位において、カチオン性基と架橋性基とは、同一の繰り返し単位として含まれていてもよいし、別個の繰り返し単位として含まれていてもよいが、別個の繰り返し単位として含まれていることが好ましい。
【0026】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物中における、架橋性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合は、特に限定されず、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位全体に対して、99モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。なお、架橋性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合の下限は、特に限定されないが、本発明のイオン性組成物を架橋可能な架橋性組成物とし、これを架橋させることにより得られる架橋物を、形状保持性により優れるものとする観点から、好ましくは1モル%以上である。
【0027】
また、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物は、オキシラン単量体単位のうち少なくとも一部として、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位を含有する。
【0028】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物に含有させることのできるカチオン性基としては、特に限定されないが、本発明のイオン性組成物を低温特性により優れたものとすることができるという観点から、周期表第15族または第16族の原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが好ましく、窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることがより好ましく、窒素原子含有芳香族複素環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることがさらに好ましく、イミダソリウム環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが特に好ましい。
【0029】
カチオン性基の具体例としては、アンモニウム基、メチルアンモニウム基、ブチルアンモニウム基、シクロヘキシルアンモニウム基、アニリニウム基、ベンジルアンモニウム基、エタノールアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、ジエチルアンモニウム基、ジブチルアンモニウム基、ノニルフェニルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、n−ブチルジメチルアンモニウム基、n−オクチルジメチルアンモニウム基、n−ステアリルジメチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、トリビニルアンモニウム基、トリエタノールアンモニウム基、N,N−ジメチルエタノールアンモニウム基、トリ(2−エトキシエチル)アンモニウム基等のアンモニウム基;ピペリジニウム基、1−ピロリジニウム基、1−メチルピロリジニウム基、イミダゾリウム基、1−メチルイミダゾリウム基、1−エチルイミダゾリウム基、ベンズイミダゾリウム基、ピロリウム基、1−メチルピロリウム基、オキサゾリウム基、ベンズオキサゾリウム基、ベンズイソオキサゾリウム基、ピラゾリウム基、イソオキサゾリウム基、ピリジニウム基、2,6−ジメチルピリジニウム基、ピラジニウム基、ピリミジニウム基、ピリダジニウム基、トリアジニウム基、N,N−ジメチルアニリニウム基、キノリニウム基、イソキノリニウム基、インドリニウム基、イソインドリウム基、キノキサリウム基、イソキノキサリウム基、チアゾリウム基等のカチオン性の窒素原子を含有する複素環を含んでなる基;トリフェニルホスホニウム塩、トリブチルホスホニウム基等のカチオン性のリン原子を含んでなる基;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、1−メチルピロリジニウム基、イミダゾリウム基、1−メチルイミダゾリウム基、1−エチルイミダゾリウム基、ベンズイミダゾリウム基等のカチオン性の窒素原子を含有する複素環を含んでなる基が好ましい。
【0030】
また、カチオン性基は、通常対アニオンを有するものであるが、その対アニオンとしては特に限定されないが、たとえば、Cl、Br、Iなどのハロゲン化物イオンや(FSO、(CFSO、(CFCFSOなどのスルホニルイミド化物イオン、さらには、OH、SCN、BF、PF、ClO、CHSO、CFSO、CFCOO、PhCOOなどを挙げることができる。これら対アニオンは、得ようとするイオン性組成物の特性に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物においては、ポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位のうち、その少なくとも一部がカチオン性基を有するオキシラン単量体単位であればよく、たとえば、ポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位の全てがカチオン性基を有するものであってもよく、あるいは、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位およびカチオン性基を有しないオキシラン単量体単位が混在するものであってもよい。本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物において、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合は、特に限定されず、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位全体に対して、1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合を上記範囲とすることにより、得られるイオン性組成物の低温特性をより優れたものとすることができる。なお、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合の上限は、特に限定されないが、本発明のイオン性組成物を架橋可能な架橋性組成物とし、これを架橋させることにより得られる架橋物を、形状保持性により優れるものとする観点から、好ましくは99モル%以下である。
【0032】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の構造としては特に限定されないが、下記一般式(1)で表される単量体単位からなるものであることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
【0033】
上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、カチオン性基の具体例としては、上述したものが挙げられ、また、カチオン性基含有基としては、上述したカチオン性基を含有する基が挙げられる。
【0034】
上記一般式(1)中、Xは、任意の対アニオンを表し、たとえば、対アニオンの具体例としては、上述したものが挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)中、Rは、非イオン性基であり、非イオン性の基であれば特に限定されず、架橋性基を含むものであってもよい。Rとしては、たとえば、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2〜10のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基;等が挙げられる。
これらのうち、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、および炭素数6〜20のアリール基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。
置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素数2〜6のアルケニルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチルカルボニル基、エチルカルボニル基等の炭素数1〜6のアルキルカルボニル基;アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の(メタ)アクリロイルオキシ基;等が挙げられる。
【0036】
また、上記一般式(1)中、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数であればよいが、nは、1〜100,000整数であることが好ましく、2〜50,000の整数であることがより好ましく、5〜5000の整数であることがさらに好ましく、5〜900の整数であることが特に好ましい。また、mは、0〜100,000の整数であることが好ましく、2〜50,000の整数であることがより好ましく、5〜5000の整数であることがさらに好ましく、5〜100の整数であることが特に好ましい。また、n+mは、1〜200,000の整数であることが好ましく、4〜100,000の整数であることがより好ましく、10〜10,000の整数であることがさらに好ましく、10〜1000の整数であることが特に好ましい。
【0037】
なお、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の構造が、上記一般式(1)で表される単量体単位からなるものである時、重合体鎖末端は、特に限定されず、任意の基とすることができる。重合体鎖末端基としては、例えば、上述したカチオン性基、水酸基、または水素原子などが挙げられる。
【0038】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、750〜2,000,000であることが好ましく、1000〜1,000,000であることがより好ましく、1500〜500,000であることがさらに好ましい。また、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の分子量分布(Mw/Mw)は、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.0〜2.0である。なお、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量、および分子量分布は、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。なお、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の分子量分布は、カチオン性基を導入する前のベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)の分子量分布から変化していないものとして取り扱うことができる。
【0039】
また、本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の鎖構造は特に限定されず、直鎖状のものであってもよいし、グラフト状、放射状などの分岐を有する鎖構造のものであってもよい。
【0040】
本発明で用いるカチオン性基を有するポリエーテル化合物の合成方法は、特に限定されず、目的とする化合物を得られるものである限りにおいて、任意の合成方法を採用することができる。合成方法の一例を示すと、まず、以下の(A)または(B)の方法により、ベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)を得る。
(A)エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を、触媒として、特開2010−53217号公報に開示されている、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒との存在下で開環重合することにより、ベースポリマーを得る方法。
(B)エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を、特公昭46−27534号公報に開示されている、トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒の存在下で開環重合することにより、ベースポリマーを得る方法。
【0041】
そして、上記(A)または(B)の方法において得られたベースポリマーに、イミダゾール化合物などのアミン化合物を反応させることにより、ベースポリマーのエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン基をオニウムハライド基に変換して、さらに必要に応じて、オニウムハライド基を構成するハロゲン化物イオンを、アニオン交換反応を行うことにより、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を得ることができる。
【0042】
本発明のイオン性組成物中における、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物との含有割合は特に限定されないが、イオン液体100重量部に対する、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の含有量が、好ましくは2〜600重量部、より好ましくは2〜500重量部、さらに好ましくは3〜400重量部である。カチオン性基を有するポリエーテル化合物の含有量が少なすぎると、イオン液体の融点を低下させる作用が小さくなってしまい、得られるイオン性組成物の低温特性の向上効果が小さくなるおそれがある。一方、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の含有量が多すぎると、カチオン性基を有するポリエーテル化合物のガラス転移点を低下させる作用が小さくなってしまい、得られるイオン性組成物の低温特性の向上効果が小さくなるおそれがある。
【0043】
<架橋性組成物>
本発明の架橋性組成物は、上述したイオン性組成物を構成する、カチオン性基を有するポリエーテル化合物として、架橋性基を有するものを用い、かつ、これに架橋剤を配合することにより得られる組成物である。
【0044】
本発明で用いる架橋剤としては、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の有する架橋性基の種類などに応じて適宜選択すればよい。架橋剤の具体例としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;s−トリアジン−2,4,6−トリチオールなどのトリアジン系化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンなどのアルキルフェノン型光重合開始剤などの各種紫外線架橋剤;などが挙げられる。たとえば、カチオン性基を有するポリエーテル化合物が有する架橋性基が、エチレン性炭素−炭素不飽和結合含有基である場合には、上記架橋剤のなかでも、硫黄、含硫黄化合物、有機過酸化物および紫外線架橋剤から選択される架橋剤を用いることが好ましく、紫外線架橋剤を用いることが特に好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の配合割合は、特に限定されないが、カチオン性基を有するポリエーテル化合物100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜7重量部がより好ましく、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。架橋剤の配合量を上記範囲とすることにより、イオン液体の有するイオン性組成物としての特有の特性を良好なものとしながら、架橋物とした場合における、形状保持性を適切に高めることできる。
【0045】
<イオン性組成物、架橋性組成物の製造方法>
本発明のイオン性組成物は、上述したイオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを混合することにより製造することができる。また、本発明の架橋性組成物は、これらに加えて、架橋剤を混合することで製造することができる。混合方法としては、特に限定されず、公知の方法を制限なく用いることできる。また、混合に際しては、溶媒中で混合を行ってもよい。用いる溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、アニソールなどのエーテル;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル;アセトン、2−ブタノン、アセトフェノンなどのケトン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒;エタノール、メタノール、水などのプロトン性極性溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いることもできる。
【0046】
<その他成分>
また、本発明のイオン性組成物、架橋性組成物は、イオン液体、カチオン性基を有するポリエーテル化合物、および架橋剤(架橋性組成物の場合)に加えて、その他の成分を含有するものであってもよい。その他の成分の具体例としては、LiPF、LiN(SOCF(LiTFSI)、LiN(SOF)、LiClO、LiBF、NaPF、NaN(SOCF、NaClO、KBF、KIなどの金属塩類;水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの低分子化合物;カーボンナノチューブやグラフェンなどのナノカーボン類;金粉末、銀粉末、銅粉末などの金属粉末類;酸化亜鉛粉末、シリカ粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末などの金属酸化物粉末類;窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末などの金属窒化物粉末類;などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
<架橋物>
本発明の架橋物は、上述した本発明の架橋性組成物を架橋することにより得られる。
【0048】
本発明の架橋性組成物を架橋させるための方法としては、用いる架橋剤の種類などに応じて選択すればよく、特に限定されないが、たとえば、加熱による架橋や紫外線照射による架橋を挙げることができる。加熱により架橋する場合の架橋温度は、特に限定されないが、130〜200℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。架橋時間も特に限定されず、たとえば1分間〜5時間の範囲で選択される。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、マイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。紫外線照射による架橋を行う場合は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀−キセノンランプなどの光源を用いて、常法に従って、架橋性組成物に紫外線を照射すればよい。
【0049】
本発明のイオン性組成物は、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含有するものであり、これにより、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れたものである。
また、本発明のイオン性組成物の架橋物は、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物と、架橋剤とを含有する架橋性組成物を架橋することにより得られるものであるため、蒸気圧が極めて低く引火性が抑えられており、しかも、低温特性に優れたものであり、しかも、所定の形状に成形した場合等における、形状保持性に優れ、液漏れが有効に防止されたものである。
そのため、本発明のイオン性組成物および架橋物は、一般的な化学工業のプロセスにおける溶媒用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記に従った。
【0051】
〔数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)〕
(1)ベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定した。なお、測定器としてはHLC−8320(東ソー社製)を用い、カラムはTSKgel SuperMultiporeHZ−H(東ソー社製)4本を直列に連結して用い、検出器は示差屈折計RI−8320(東ソー社製)を用いた。
(2)カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、次のように求めた。すなわち、まず、ベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)の繰り返し単位の平均分子量と、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位の平均分子量、および下記(3)により求めたカチオン性基を有するオキシラン単量体単位の含有率とから、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成する、全ての繰り返し単位の平均分子量を求めた。そして、ベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)の繰り返し単位数と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成する、全ての繰り返し単位の平均分子量とを乗じることにより得られた値を、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量とした。
(3)カチオン性基を有するポリエーテル化合物の構造、およびカチオン性基を有するポリエーテル化合物中の、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位の含有率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて、以下のように測定した。すなわち、まず、試料となるカチオン性基を有するポリエーテル化合物30mgを、1.0mLの重クロロホルムまたは重ジメチルスルホキシドに加え、1時間振蕩することにより均一に溶解させた。そして、得られた溶液についてNMR測定を行って、H−NMRスペクトルを得て、定法に従いポリエーテル化合物の構造を帰属した。
また、カチオン性基を有するポリエーテル化合物中の、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位の含有率は、次の方法により算出した。すなわち、まず、主鎖のオキシラン単量体単位に由来するプロトンの積分値から全オキシラン単量体単位のモル数B1を算出した。次に、カチオン性基に由来するプロトンの積分値から、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位のモル数B2を算出した。そして、B1に対するB2の割合(百分率)を、カチオン性基を有するポリエーテル化合物中の、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位の含有率として求めた。
【0052】
〔融点、ガラス転移点〕
イオン性組成物および架橋物について、示差走査熱量計(DSC)により、−80℃から100℃の間において、5℃/分の速度で冷却・加熱した。本実施例では、融解熱量の最も大きくなる点を融点とした。なお、測定器としてはX−DSC7000(日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0053】
〔形状保持性〕
架橋物を、23℃、湿度40%の環境にて24時間静置し、自重でイオン液体がブリードアウトしないか確認することで、形状保持性の評価を行った。
【0054】
〔製造例1〕
(エピクロロヒドリンとグリシジルメタクリレートとのリビングアニオン共重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド0.032gおよびトルエン5mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム0.029g(テトラノルマルブチルアンモニウムブロミドに対して2.5当量)をノルマルヘキサン0.25mlに溶解したものを添加して、15分間反応させることで触媒組成物を得た。得られた触媒組成物に、エピクロロヒドリン9.5gおよびグリシジルメタクリレート0.5gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。1時間反応後、重合反応液に少量の2-プロパノールを添加し、反応を停止した。次いで、得られた重合反応液をトルエンで希釈した後2-プロパノールに注ぎ、白色のゴム状物質8.3gを得た。得られたゴム状物質のGPC測定による数平均分子量(Mn)は57,000、分子量分布は1.58であった。さらに得られたゴム状物質について、H‐NMR測定を行ったところ、このゴム状物質は、エピクロロヒドリン単位97.0モル%およびグリシジルメタクリレート単位3.0モル%を含むものであることが確認できた。以上より、得られたゴム状物質は、重合開始末端にブロモメチル基を持ち、重合停止末端に水酸基を持つ、エピクロロヒドリン単位およびグリシジルメタクリレート単位により構成されたポリエーテル化合物A(平均でエピクロロヒドリン単位588個とグリシジルメタクリレート単位18個とからなる606量体)であるといえる。
【0055】
〔製造例2〕
(ポリエーテル化合物A中のエピクロロヒドリン単位の1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例1で得られたポリエーテル化合物A 8.0gと、1−メチルイミダゾール22.0gと、N, N−ジメチルホルムアミド16.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で144時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止し、得られた反応溶液を一部抜き取り、50℃で120時間減圧乾燥をしたところ、赤褐色の樹脂状の物質15.0gを得た。この樹脂状物質について、H‐NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料の製造例1で得られたポリエーテル化合物A中の全てのエピクロロヒドリン単位におけるクロロ基が、1−メチルイミダゾリウムクロリド基に、全ての重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基が、1−メチルイミダゾリウムブロミド基に、それぞれ置換された、1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Bであると同定された。得られたポリエーテル化合物Bの数平均分子量(Mn)は108,000であった。
【0056】
〔製造例3〕
(1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Bのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドによるアニオン交換)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド26.0gを溶解させた蒸留水300mlを攪拌機付きガラス反応器に添加した。これとは別に、製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物B 5.0gを蒸留水50mlに溶解し、これを、上記ガラス反応器に滴下し室温で30分間反応させた。反応後、沈殿したゴム状物質を回収し、アセトンに溶解させた後、そのアセトン溶液を蒸留水300mlに滴下し、ポリマー凝固により無機塩を除去した。凝固により得られたゴム状物質を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄褐色のゴム状物質11.5gを得た。得られたゴム状物質についてH‐NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料である製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Bの繰り返し単位中の1−メチルイミダゾリウムクロリド基の塩化物イオンと重合開始末端の1−メチルイミダゾリウムブロミド基の臭化物イオンの全てがビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンに交換された、対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Cであると同定された。得られたポリエーテル化合物Cの数平均分子量(Mn)は259,000であった。
【0057】
〔製造例4〕
(1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Bのヘキサフルオロリン酸カリウムによるアニオン交換)
ヘキサフルオロリン酸カリウム9.7gを溶解させたアセトニトリル50mlを攪拌機付きガラス反応器に添加した。これとは別に、製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物B 5.0gをメタノール100mlに溶解し、これを、上記ガラス反応器に滴下し室温で30分間反応させた。反応後、沈殿した薄褐色ゴム状物質を回収し、アセトンに溶解させた後、そのアセトン溶液を蒸留水300mlに滴下し、ポリマー凝固により無機塩を除去した。凝固により得られたゴム状物質を50℃で12時間減圧乾燥したところ、褐色のゴム状物質8.0gが得られた。得られたゴム状物質についてH‐NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料である製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Bの繰り返し単位中の1−メチルイミダゾリウムクロリド基の塩化物イオンと重合開始末端の1−メチルイミダゾリウムブロミド基の臭化物イオンの全てがヘキサフルオロフォスフェートアニオンに交換された、対アニオンとしてヘキサフルオロフォスフェートアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Dであると同定された。得られたポリエーテル化合物Dの数平均分子量(Mn)は175,000であった。
【0058】
〔製造例5〕
(ポリエーテル化合物A中のエピクロロヒドリン単位の1−メチルピロリジンによる4級化)
製造例1と同様にして得られたポリエーテル化合物A 4.0gと、1−メチルピロリジン11.4gと、N, N−ジメチルホルムアミド8.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で144時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応溶液を一部抜き取り、50℃で120時間減圧乾燥をしたところ、薄褐色の樹脂状の物質7.7gが得られた。この樹脂状物質について、H‐NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のポリエーテル化合物A中の全てのエピクロロヒドリン単位におけるクロロ基が、1−メチルピロリジニウムクロリド基に、全ての重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基が、1−メチルピロリジニウムブロミド基に、それぞれ置換された、1−メチルピロリジニウムハライド基を有するポリエーテル化合物Eであると同定された。得られたポリエーテル化合物Eの数平均分子量(Mn)は110,000であった。
【0059】
〔製造例6〕
(1−メチルピロリジニウムハライド基を有するポリエーテル化合物Eのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドによるアニオン交換)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド26.0gを溶解させた蒸留水300mlを攪拌機付きガラス反応器に添加した。これとは別に、製造例5で得られた1−メチルピロリジニウムハライド基を有するポリエーテル化合物E 7.7gを蒸留水100mlに溶解し、これを、上記ガラス反応器に滴下し室温で30分間反応させた。反応後、沈殿した薄褐色ゴム状物質を回収し、アセトンに溶解させた後、そのアセトン溶液を蒸留水300mlに滴下し、ポリマー凝固により無機塩を除去した。凝固により得られたゴム状物質を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄褐色ゴム状物質18.0gが得られた。得られた薄褐色ゴム状物質についてH‐NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料である製造例5で得られた1−メチルピロリジニウムハライド基を有するポリエーテル化合物Eの繰り返し単位中の1−メチルピロリジニウムクロリド基の塩化物イオンと重合開始末端の1−メチルピロリジニウムブロミド基の臭化物イオンの全てがビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンに交換された、対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するピロリジニウム構造含有ポリエーテル化合物Fであると同定された。得られたポリエーテル化合物Fの数平均分子量(Mn)は261,000であった。
【0060】
〔製造例7〕
(エピクロロヒドリンのリビングアニオン重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド3.22gとトルエン100mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム1.370gをノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応させて、触媒組成物を得た。得られた触媒組成物に、エピクロロヒドリン35.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。得られた重合反応液を0.1Nの塩酸水溶液で洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、さらにイオン交換水で洗浄した後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られたオイル状物質の収量は34.6gであった。また、得られたオイル状物質のGPC測定による数平均分子量(Mn)は3,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.4であった。さらに得られたオイル状物質について、H‐NMR測定を行ったところ、このオイル状物質は、繰り返し単位数(オキシラン単量体単位数)は37であった。以上より、得られたオイル状物質は、重合開始末端にブロモメチル基を持ち、重合停止末端に水酸基を持つ、エピクロロヒドリン単位により構成されたポリエーテル化合物Gであると同定された。
【0061】
〔製造例8〕
(ポリエーテル化合物G中のエピクロロヒドリン単位の1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例7で得られたポリエーテル化合物G 5.0gと、1−メチルイミダゾール12.1gと、アセトニトリル10.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1−メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体9.4gが得られた。この固体について、H−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料の製造例7で得られたポリエーテル化合物G(ポリエピクロロヒドリン)の、繰り返し単位におけるクロロ基全てが1−メチルイミダゾリウムクロリド基に、重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基全てが1−メチルイミダゾリウムブロミド基に、それぞれ置換された、1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Hであると同定された。得られたポリエーテル化合物Hの数平均分子量(Mn)は6,500であった。
【0062】
〔製造例9〕
(1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Hのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドによるアニオン交換)
製造例8にて得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物H 2.5gと、リチウム(ビストリフルオロメタンスルホニル)イミド4.1gと、イオン交換水20mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、粘性液状物質5.7gが得られた。得られた粘性液状物質についてH−NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である製造例8にて得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Hの、塩化物イオンおよび臭化物イオンの全てが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンに交換された、対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Iであると同定された。得られたポリエーテル化合物Iの数平均分子量(Mn)は15,500であった。
【0063】
〔製造例10〕
(ポリエーテル化合物G中のエピクロロヒドリン単位の1−メチルイミダゾールによる4級化)
製造例7で得られたポリエーテル化合物G 5.0gと、1−メチルイミダゾール6.1gと、アセトニトリル10.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1−メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体6.4gが得られた。この固体について、H−NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のポリエーテル化合物G(ポリエピクロロヒドリン)の、繰り返し単位におけるクロロ基のうち一部(30モル%)が1−メチルイミダゾリウムクロリド基に、重合開始末端のブロモメチル基のブロモ基が1−メチルイミダゾリウムブロミド基に、それぞれ置換された、1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Jであると同定された。得られたポリエーテル化合物Jの数平均分子量(Mn)は4,300であった。また、1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するオキシラン単量体単位の含有率を測定したところ30モル%であり、クロロメチル基を有するオキシラン単量体単位の含有率は70モル%であった。
【0064】
〔製造例11〕
(1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Jのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドによるアニオン交換)
製造例10にて得られたポリエーテル化合物J 2.5gと、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド4.1gと、イオン交換水20mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、粘性液状物質4.2gが得られた。得られた粘性液状物質についてH−NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である製造例10にて得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するポリエーテル化合物Jの、塩化物イオンおよび臭化物イオンの全てが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンに交換された、対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Kであると同定された。得られたポリエーテル化合物Kの数平均分子量(Mn)は7,300であった。また、1−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド基を有するオキシラン単量体単位の含有率を測定したところ30モル%であり、クロロメチル基を有するオキシラン単量体単位の含有率は70モル%であった。
【0065】
〔実施例1〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(25℃における粘度:34mPa・s、分子量:391.31)100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0066】
〔実施例2〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部と、架橋剤としての2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン(商品名「Irgcure(R) 379EG」、BASF社製)0.5部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。得られたイオン性組成物に、UV照射を行ったところ、液状であったイオン性組成物はゲル状の架橋物となった。そして、得られた架橋物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たない架橋物が得られたことが確認できた。また、得られた架橋物について、上記した形状保持性試験を行ったところ、23℃、湿度40%の環境にて24時間静置した後においても、自重でのイオン液体のブリードは観測されず、形状保持性に優れたものであった。
【0067】
〔実施例3〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例4で得られた対アニオンとしてヘキサフルオロフォスフェートアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物D 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Dに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0068】
〔実施例4〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例6で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するピロリジニウム構造含有ポリエーテル化合物F 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Fに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0069】
〔実施例5〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(25℃における粘度:38mPa・s、分子量:197.97)100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0070】
〔実施例6〕
イオン液体としての1−ブチル―1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(25℃における粘度:71mPa・s、分子量:422.41)100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−ブチル―1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0071】
〔実施例7〕
イオン液体としてのN−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(25℃における粘度:55mPa・s、分子量:416.36)100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、N−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0072】
〔実施例8〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 5部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0073】
〔実施例9〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 10部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0074】
〔実施例10〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 100部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0075】
〔実施例11〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 400部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0076】
〔実施例12〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例9で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物I 25部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Iに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0077】
〔実施例13〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例11で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物K 100部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。そして、得られたイオン性組成物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Kに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たないイオン性組成物が得られたことが確認できた。
【0078】
〔実施例14〕
イオン液体としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(25℃における粘度:51mPa・s、分子量:419.36)100部と、製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物C 25部と、架橋剤としての2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン0.5部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。得られたイオン性組成物に、UV照射を行ったところ、液状であったイオン性組成物はゲル状の架橋物となった。そして、得られた架橋物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たない架橋物が得られたことが確認できた。また、得られた架橋物について、上記した形状保持性試験を行ったところ、23℃、湿度40%の環境にて24時間静置した後においても、自重でのイオン液体のブリードは観測されず、形状保持性に優れたものであった。
【0079】
〔実施例15〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド100部と、製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物B 25部と、架橋剤としての2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン0.5部とを、アセトン中で混合した。次いで、溶媒を留去し、透明なイオン性組成物を得た。得られたイオン性組成物に、UV照射を行ったところ、液状であったイオン性組成物はゲル状の架橋物となった。そして、得られた架橋物について、DSC測定を行ったところ、−80℃から100℃の間において、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点は観測されず、またポリエーテル化合物Bに由来するガラス転移点も観測されず、融点とガラス転移点を持たない架橋物が得られたことが確認できた。また、得られた架橋物について、上記した形状保持性試験を行ったところ、23℃、湿度40%の環境にて24時間静置した後においても、自重でのイオン液体のブリードは観測されず、形状保持性に優れたものであった。
【0080】
〔比較例1〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドについて、ポリエーテル化合物を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点が−16.5℃に観測された。
【0081】
〔比較例2〕
イオン液体としての1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートについて、ポリエーテル化合物を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートに由来する融点が14.1℃に観測された。
【0082】
〔比較例3〕
イオン液体としての1−ブチル―1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドについて、ポリエーテル化合物を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、1−ブチル―1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点が−7.5℃に観測された。
【0083】
〔比較例4〕
イオン液体としてのN−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドについて、ポリエーテル化合物を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、N−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点が−16.0℃に観測された。
【0084】
〔比較例5〕
製造例3で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Cについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Cに由来するガラス転移点が−11.3℃に観測された。
【0085】
〔比較例6〕
製造例4で得られた対アニオンとしてヘキサフルオロフォスフェートアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Dについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Dに由来するガラス転移点が63.1℃に観測された。
【0086】
〔比較例7〕
製造例6で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するピロリジニウム構造含有ポリエーテル化合物Fについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Fに由来するガラス転移点が−10.4℃に観測された。
【0087】
〔比較例8〕
製造例9で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Iについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Iに由来するガラス転移点が−12.7℃に観測された。
【0088】
〔比較例9〕
製造例11で得られた対アニオンとしてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Kについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Kに由来するガラス転移点が−33.5℃に観測された。
【0089】
〔比較例10〕
イオン液体としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドについて、ポリエーテル化合物を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに由来する融点が−1.1℃に観測された。
【0090】
〔比較例11〕
製造例2で得られた1−メチルイミダゾリウムハライド基を有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物Bについて、イオン液体を混合せず、そのままの状態にて、−80℃から100℃の間においてDSC測定を行ったところ、ポリエーテル化合物Bに由来するガラス転移点が90℃に観測された。
【0091】
表1に、実施例1〜15、比較例1〜11の結果をまとめて示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、イオン液体と、カチオン性基を有するポリエーテル化合物とを含むイオン性組成物、およびこれを用いて得られる架橋物は、−80℃から100℃の間において、いずれもイオン液体に由来する融点は観測されず、さらには、カチオン性基を有するポリエーテル化合物に由来するガラス転移点も観測されず、いずれも低温特性に優れている(低温とした場合でも、大きな特性の変化が起こらない)ことが確認できる(実施例1〜15)。