(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において同一の記号を付したものは、同一の構成要素を示すものとする。また、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0018】
(積層体)
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂層、不織布からなる裏当て部材および発泡ポリウレタン層を有する積層体であって、熱可塑性樹脂層が最表面層であり、且つ、熱可塑性樹脂層と裏当て部材とが一体縫製されている必要がある。熱可塑性樹脂層と裏当て部材とが一体縫製されていなければ、縫製加工された熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを十分に抑制できない。そして、本発明の積層体では、上記構成を採用することにより、熱可塑性樹脂層の表面に縫製を施しつつ、当該表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを防いでいる。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車内装部品用、とりわけ、ステッチ装飾を施して意匠性および商品性を高めた自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造するための自動車内装部材として好適に使用することができる。
【0019】
<熱可塑性樹脂層>
熱可塑性樹脂層は、本発明の積層体において最表面層であり、且つ、裏当て部材と一体縫製されている必要がある。そして、熱可塑性樹脂層は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の表皮として好適に使用することができる。
【0020】
熱可塑性樹脂層は、通常、熱可塑性樹脂を含み、更に、可塑剤および添加剤を更に含んでいてもよい。中でも、熱可塑性樹脂層に良好な柔軟性を付与する観点からは、熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂および可塑剤を併用していることが好ましい。
なお、本発明において、熱可塑性樹脂層は、通常、シート状構造を有する熱可塑性樹脂成形シート、好ましくは非発泡の熱可塑性樹脂成形シートである。ここで、本明細書において、「シート状構造」とは、例えば、織物構造および後述する不織構造などの特殊な加工構造を有さないシート状に成形された構造である。
【0021】
<<熱可塑性樹脂>>
ここで、熱可塑性樹脂としては、特に制限されることなく、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
[塩化ビニル樹脂]
上述した中でも、熱可塑性樹脂としては塩化ビニル樹脂が好ましい。一般に、塩化ビニル樹脂は加工性に優れるため、熱可塑性樹脂層が塩化ビニル樹脂を含めば、例えば、装飾性に優れた自動車内装部品の表皮として好適に使用し得る熱可塑性樹脂層が得られ易いからである。
【0023】
[含有割合]
熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂の含有割合は、特に制限されることなく、例えば、30質量%以上とすることができ、70質量%以下とすることができる。
【0024】
<<可塑剤>>
また、熱可塑性樹脂層が含み得る可塑剤としては、特に制限されることなく、フタル酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系、アジピン酸系、アゼライン酸系、セバシン酸系、マレイン酸系、フマル酸系、クエン酸系、イタコン酸系、オレイン酸系、リシノール酸系、ステアリン酸系、リン酸系、グリコール系、グリセリン系、エポキシ系等の可塑剤が挙げられる。中でも、可塑剤は、例えば、トリメリット酸エステル等のトリメリット酸系およびピロメリット酸エステル等のピロメリット酸系であることが好ましく、トリメリット酸トリアルキルエステル(ここで、トリメリット酸トリアルキルエステルが有するアルキル基の炭素数は一分子中で互いに同一であっても異なっていてもよい。)であることがより好ましい。トリメリット酸系およびピロメリット酸系の可塑剤を用いれば、熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層の形成に用い得る熱可塑性樹脂組成物の柔軟性および加工性を更に高めることができる。従って、例えば、装飾性に優れた自動車内装部品の表皮として好適に使用し得る熱可塑性樹脂層をより良好に得られるからである。
【0025】
[含有割合]
ここで、熱可塑性樹脂層に含まれ得る可塑剤の含有割合は、特に制限されることなく、例えば、30質量%以上とすることができ、70質量%以下とすることができる。
【0026】
<<添加剤>>
熱可塑性樹脂層が更に含み得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、シリコーンオイルなどの表面改質剤;特許文献3に記載された成分と同様の添加剤;を同様の含有割合で用いることができる。
【0027】
<<形成方法>>
そして、熱可塑性樹脂層は、例えば、上述した成分を含有する熱可塑性樹脂組成物を、任意の方法で成形、好ましくは粉体成形、より好ましくはパウダースラッシュ成形することにより形成できる。
【0028】
ここで、上記熱可塑性樹脂組成物は、上述した成分を任意の方法で混合して調製してもよく、市販品を用いてもよい。
混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0029】
また、例えば、パウダースラッシュ成形では、特に限定されることなく、以下の方法を用いることができる。即ち、任意の温度範囲に加熱した金型に熱可塑性樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の熱可塑性樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた熱可塑性樹脂層を金型から脱型する。そして、脱型された熱可塑性樹脂層は、例えば、金型の形状および模様をかたどったシート状の成形体として得られる。
ここで、成形時に加熱する金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0030】
<裏当て部材>
本発明の積層体が有する裏当て部材は不織布のみからなり、通常、本発明の積層体において、熱可塑性樹脂層の裏側に配置される。従って、本発明の積層体では、熱可塑性樹脂層および裏当て部材の間に粘着剤等が介在されることなく、熱可塑性樹脂層および裏当て部材が直接接触して縫製されている。また、裏当て部材は、本発明の積層体において、上述した熱可塑性樹脂層と一体縫製されている必要がある。熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とが一体縫製されていることにより、裏当て部材は、本発明の積層体において、熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れだすことを防ぐ役割を担う。
【0031】
<<不織布>>
裏当て部材を構成する不織布は、単数の不織布のみからなっていてもよいし、複数の不織構造体を積層したものであってもよい。
ここで、本発明において、「不織布」は、繊維同士を任意の方向性をもってまたはランダム方向に結合してなる不織構造を有する。
【0032】
[繊維の組成]
ここで、不織布を構成する繊維としては、上述した不織構造を形成し得る繊維であれば特に限定されることなく、ポリアミド系樹脂を含む繊維、ポリアラミド系樹脂を含む繊維、ポリエステル系樹脂を含む繊維、セルロース、綿、麻、羊毛、絹等の有機繊維;ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維等の無機繊維;等が挙げられる。また、不織布を構成する繊維には、1種又は2種以上の繊維が使用され得る。上記の中でも、不織布を構成する繊維としては、有機繊維が好ましく、ポリエステル系樹脂を含む繊維がより好ましく、ポリエステル系樹脂のみからなる繊維が更に好ましい。一般に、多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体であるポリエステル系樹脂は極性基を有する。従って、不織布がポリエステル系樹脂を含む繊維からなることにより裏当て部材がポリエステル系樹脂を含めば、積層体において、不織布と上述した熱可塑性樹脂層、および、不織布と後述する発泡ポリウレタン層の双方を良好に密着させ、層間剥離を良好に抑制し得るからである。
更に、不織布を構成する繊維の組成として好適に挙げられるポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートである。
【0033】
<<目付量>>
また、裏当て部材の単位面積あたりの質量(目付量)は、25g/m
2以上であることが好ましく、35g/m
2以上であることがより好ましく、50g/m
2以上であることが更に好ましく、55g/m
2以上であることが一層好ましく、60g/m
2以上であることがより一層好ましく、80g/m
2以上であることが特に好ましく、300g/m
2以下であることが好ましく、200g/m
2以下であることがより好ましい。目付量が上記下限以上の裏当て部材では、裏当て部材を構成する不織布の繊維がより密集して結合されている。従って、裏当て部材の目付量が上記下限以上であれば、裏当て部材と接触した発泡ポリウレタン層の成分が裏当て部材内をより浸透し難いからである。加えて、裏当て部材の目付量が上記下限以上であれば、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製した際に、熱可塑性樹脂層中の縫い穴に裏当て部材を構成する不織布の繊維が入り込み易く、熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることをより防止できるからである。また、裏当て部材の目付量が上記上限以下であれば、縫製加工の作業性を良好に維持し、コストも低減できるからである。
【0034】
<<厚み>>
また、裏当て部材の厚みは、0.18mm以上であることが好ましく、0.22mm以上であることがより好ましく、0.25mm以上であることが更に好ましく、0.29mm以上であることが一層好ましく、0.30mm以上であることがより一層好ましく、0.35mm以上であることが特に好ましく、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが更に好ましい。裏当て部材の厚みが上記下限以上であれば、熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを更に防止し得るからである。また、裏当て部材の厚みが上記上限以下であれば、縫製加工の作業性をより向上させ、コストもより低減できるからである。
【0035】
<<引裂き強さ>>
また、裏当て部材の引裂き強さは、7N以上であることが好ましく、11N以上であることがより好ましく、14N以上であることが更に好ましく、18N以上であることが一層好ましく、28N以上であることが特に好ましく、60N以下であることが好ましい。裏当て部材の引裂き強さが上記下限以上であれば、裏当て部材が縫い穴に対して十分な物理的強度を有するため、裏当て部材を構成する不織布を損傷することなく、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とをより良好に一体縫製することができるからである。また、裏当て部材の引裂き強さが上記上限以下であれば、縫製加工の作業性を更に向上させることができるからである。
なお、本発明において、「引裂き強さ」は、JIS L 1913:2010に従って測定することができる。
【0036】
<<形成方法>>
そして、裏当て部材は、例えば、比較的短い繊維を薄く形成する乾式法;更に短い繊維を水と混ぜ合わせ、紙のように漉いて形成する湿式法;上述した樹脂等を溶解して糸状にした繊維同士を結合して薄く広げる手法(スパンボンド法);上記スパンボンド法よりも高温環境下にて繊維をより微細化させた手法(メルトブロー法);更には、上記スパンボンド法およびメルトブロー法の組み合わせ;等により不織布を得ることで形成することができる。
ここで、繊維同士の結合は、例えば、(a)接着剤としての樹脂による化学的接着(ケミカルボンド又はレジンボンド)、(b)加熱による融着(サーマルボンド)、(c)鉤付き針による機械的な絡み合わせ(ニードルパンチ)、(d)高圧水流の噴射による絡み合わせ(水流交絡又はスパンレース)、(e)面内に広がった繊維の縫い合わせ(ステッチボンド)、等の手法により行うことができる。
【0037】
<発泡ポリウレタン層>
また、本発明の積層体が有する発泡ポリウレタン層は、ポリウレタンからなる発泡成形体であり、通常、上述した裏当て部材側に積層されて上述した熱可塑性樹脂層を裏打ちする役割を果たす。
ここで、発泡ポリウレタン層は、特に制限されることなく、例えば、後述する積層体の形成方法に従って得ることができる。
【0038】
なお、例えば、発泡ポリウレタン層の密度を0.2g/cm
3以上と比較的高めにして裏打ちした場合、積層体の強度を良好にできる反面、発泡ポリウレタン層を裏打ちする際に熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出し易くなる虞がある。しかしながら、本発明の積層体では、熱可塑性樹脂層および所定の裏当て部材が一体縫製されているため、比較的高い密度でポリウレタンを発泡させても、発泡ポリウレタン層の成分が熱可塑性樹脂層の表面上に漏れ出ることを良好に抑制できる。
【0039】
<積層体の形成方法>
積層体の積層方法は、特に限定されることなく、例えば、
図1〜3に示されるように、以下の方法を用いることができる。
即ち、まず、上述した熱可塑性樹脂層2の縫製加工を施す部分の裏面から、上述した不織布からなる裏当て部材4を積層(裏当て)する。次に、任意の縫製方法を用いて熱可塑性樹脂層2および裏当て部材4を一体縫製することにより、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11を得る。このとき、熱可塑性樹脂層2および裏当て部材4は縫製した糸を通じて密着されているものの、熱可塑性樹脂層2および裏当て部材4の間であって糸が通っていない部分では、通常、隙間が生じ得る。続いて、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11の裏当て部材4側において、発泡ポリウレタンの原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11の裏面(裏当て部材4側)上に発泡ポリウレタン層5を直接形成する。このようにして、熱可塑性樹脂層2、不織布からなる裏当て部材4および発泡ポリウレタン層5を有する積層体1が形成される。そして、通常、熱可塑性樹脂層2が表皮2となる。
なお、発泡ポリウレタン層5の形成は、大気に開放するオープン型で行っても、密閉空間内のクローズ型で行ってもよい。
【0040】
ここで、熱可塑性樹脂層および裏当て部材の間に上記隙間が生じている場合は、発泡ポリウレタン層の形成に際してポリウレタンが熱可塑性樹脂層および裏当て部材の間に入りこむことがある。しかしながら、本発明では、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製しているため、熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを良好に抑制することができる。
また、発泡ポリウレタン層の形成をクローズ型で行った場合、または、オープン型でもポリウレタンの密度を高めて発泡する場合は、一般に、比較的高い発泡圧力をかけるため、発泡ポリウレタン層の成分が熱可塑性樹脂層の表面上に漏れ出す虞が高まる。しかしながら、本発明の積層体は、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とが一体縫製されてなるため、比較的高圧環境下で発泡ポリウレタン層を形成した場合であっても、熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを良好に抑制し得ると考えられる。
【0041】
<<縫製方法>>
縫製方法は、積層体において、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製できれば特には制限されないが、通常、上述した発泡ポリウレタン層の形成に先立って行われる。また、縫製方法としては、任意の糸を用いて一方向に縫ってもよいし、例えば、
図1〜3に示すように、上糸31および下糸32を用いて、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11の表面および裏面の双方向から縫ってもよい。また、縫製は、手作業で行っても(手縫いでも)よいが、様々な縫製方法を容易に選べる観点からは、ミシン等の縫製機器を用いることが好ましい。
なお、本明細書では、ミシンを用いる場合において、「上糸」とは、通常、ミシン針に通す糸のことを指し、「下糸」とは、通常はボビンに巻いて使用し、上糸で作ったループの中に通して、または上糸に引っ掛けて縫い目を形成する糸を指す。
【0042】
そして、例えば、ミシンを用いる場合の縫製は、JIS B 9003:1999に従えば、本縫い(上糸と下糸とが絡み合って縫い目を構成)であってもよく、単環縫い(1本の糸が鎖状に絡み合って縫い目を構成)であってもよい。更に、ミシンを用いる場合の縫製は、二重環縫い、ピンポイント縫い等、その他の縫製方法であってもよい。更に、ステッチも、直線縫い、ジグザグ縫い、点線模様縫い、二本針縫い、三重縫い、サイクル縫い、サテンステッチ、ブラインドステッチ、スカラップステッチ等から、所望のデザインに合わせて適宜選択すればよい。
【0043】
ここで、熱可塑性樹脂層2中に生じた縫い穴を通じて発泡ポリウレタン層5の成分が熱可塑性樹脂層2の表面上に漏れ出ることをより防ぐ観点からは、一体縫製は、
図1〜3に示すように、上糸31と下糸32とを用いて行うことが好ましい。また、
図1に示すように、上糸31は熱可塑性樹脂層2の表面上に表れ、且つ、下糸32は熱可塑性樹脂層2の表面上には表れない(
図2に示すように、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11の裏面上には表れてもよい)ことがより好ましい。特に、例えば、
図3に示されるように、上糸31で下糸32を引っ張り上げながら一体縫製すれば、縫い目毎に、不織布からなる裏当て部材4の繊維を熱可塑性樹脂層2中の縫い穴に引っ張り込んで縫い穴を塞ぐことができるため、発泡ポリウレタン層5の成分が縫い目から漏れ出ることを更に抑制し得るからである。
【0044】
[糸]
一体縫製に用いる糸としては、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製できれば特に制限されることなく、例えば、綿糸、毛糸など短い繊維を紡績した糸;生糸、合成繊維糸など長い繊維からなる糸;が挙げられる。中でも、合成繊維糸が好ましく、ポリエステル系樹脂からなる糸がより好ましい。ポリエステル系樹脂からなる糸は一般に耐久性および汎用性が高く、熱可塑性樹脂層と裏当て部材との一体縫製をより良好に行うことができるからである。
また、糸の径(太さ)は、所望のデザインに合わせて適宜選択すればよい。
【0045】
[針]
また、一体縫製に用いる針は、ミシン針等の一般の針を用いればよいが、縫製により熱可塑性樹脂層中の縫い目周辺に生じ得る隙間を小さくして発泡ポリウレタン層の成分の漏れをより抑制する観点からは、針の径(太さ)は、糸の径に近いサイズとすることが好ましい。
【0046】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、熱可塑性樹脂、不織布からなる裏当て部材および発泡ポリウレタン層を有する積層体の製造方法であって、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程と、当該裏当て部材付き熱可塑性樹脂層に発泡ポリウレタン層を裏打ちして積層体を得る工程とを有することを特徴とする。また、本発明の積層体の製造方法は、上述した裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程および積層体を得る工程に加え、例えば、熱可塑性樹脂層および不織布からなる裏当て部材を準備する工程などのその他の工程を更に有していてもよい。そして、本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製して積層体を製造しているので、例えば、発泡ポリウレタン層を裏打ちする際に、縫製加工された熱可塑性樹脂層の表面上に発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出ることを十分に抑制できる。従って、本発明の製造方法に従って得られた積層体は、例えば、自動車内装部品用、とりわけ、ステッチ装飾を施して意匠性および商品性を高めた自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等を製造するための自動車内装部材として好適に使用することができる。
【0047】
<裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程>
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程について、
図2〜3に例示して説明する。裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程では、熱可塑性樹脂層2と不織布からなる裏当て部材4とを一体縫製して裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11を得る。ここで、熱可塑性樹脂層2および不織布からなる裏当て部材4としては、積層体について上述したのと同様の組成、性状および含有割合等を採用することができる。また、一体縫製の方法も、積層体について上述したのと同様の縫製方法を採用することができる。
そして、得られた裏当て部材付き熱可塑性樹脂層は、後に詳述する積層体を得る工程にて使用される。
【0048】
<積層体を得る工程>
積層体を得る工程では、上記工程で得られた裏当て部材付き熱可塑性樹脂層11の裏当て部材4側から、発泡ポリウレタン層5を裏打ちして積層体1を得る。ここで、発泡ポリウレタン層5の形成方法および積層体1の形成方法としては、積層体について上述したのと同様の方法を採用することができる。
【0049】
<その他の工程>
また、本発明の積層体の製造方法は、例えば、上述した裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得る工程に先立ち、熱可塑性樹脂層を準備する工程、不織布からなる裏当て部材を準備する工程等のその他の工程を更に有してもよい。
【0050】
<<熱可塑性樹脂層を準備する工程>>
ここで、熱可塑性樹脂層を準備する工程では、例えば、市販の熱可塑性樹脂層を用いてもよいし、積層体について上述したのと同様の形成方法にて、熱可塑性樹脂組成物を用いて熱可塑性樹脂層を形成してもよい。
【0051】
一例として、熱可塑性樹脂層の形成に用いる熱可塑性樹脂組成物が含み得る塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。ここで、通常、当該塩化ビニル樹脂粒子は熱可塑性樹脂層の基材として機能し、当該塩化ビニル樹脂微粒子はダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0052】
<<裏当て部材を準備する工程>>
また、不織布からなる裏当て部材を準備する工程では、市販の不織布を用いてもよいし、積層体について上述したのと同様の形成方法にて不織布を形成してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、熱可塑性樹脂層の表面上への発泡ポリウレタン層の成分の漏れ率は、下記の方法で測定した。
【0054】
<発泡ポリウレタン層の成分の漏れ率>
得られた積層体における熱可塑性樹脂層(表皮)の状態を目視観察した。具体的には、当該熱可塑性樹脂層の表面に施された総ステッチ数S
T=60個のうち、発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出た箇所のステッチ数S
L(個)を数えた。そして、発泡ポリウレタン層の成分の漏れ率(%)=(S
L/S
T)×100に従って、熱可塑性樹脂層の表面上へ発泡ポリウレタン層の成分が漏れ出た程度を算出した。
【0055】
(実施例1)
<熱可塑性樹脂組成物の調製>
表1に示す熱可塑性樹脂層の配合成分のうち、可塑剤およびダスティング剤を除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で可塑剤を全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が粒子状の熱可塑性樹脂に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点でダスティング剤を添加することにより、熱可塑性樹脂組成物としての、粉体成形用塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
【0056】
<熱可塑性樹脂層の形成>
上述で得られた熱可塑性樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、8秒〜20秒程度の任意の時間放置して溶融させた後、余剰の熱可塑性樹脂組成物を振り落とした。その後、上記熱可塑性樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、熱可塑性樹脂層としての、サイズが縦150mm×横200mm×厚み1mmの塩化ビニル樹脂シートを金型から脱型した。
【0057】
<裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成>
図2に示すように、上述で得られた熱可塑性樹脂層の裏面(金型と直接接することなく、シボ模様の施されていない面)に、裏当て部材としての幅25mmに裁断した不織布(東洋紡社製、品番「3301A」、ポリエステル系樹脂)を重ねた状態で、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とを一体縫製することにより、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を得た。ここで、縫製には、ミシン(JUKI社製、品番「LU−2860−7」)、ミシン針(オルガン針社製、品番「DPx17S」)および糸(大貫繊維社製、商品名「エースクラウン車輌用」、ポリエステル系樹脂、品番:上糸「#5」、下糸「#8」)を使用した。また、ステッチは、間隔:3ステッチ/cm、速度:3.3ステッチ/秒にて、約8mmの距離をもって、30個のステッチを略平行に2本施した(つまり、総ステッチ数=30個×2本=60個であった。)。ここで、ステッチする方向は、上記不織布の商品仕様に従ったタテ方向に揃えた。
なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:30g/m
2
厚み:0.20mm
引裂き強さ:8N〜9N
引っ張り強さ:36N/5cm〜121N/5cm
伸び率:31%〜33%
乾熱収縮率:0.3%〜1.4%
【0058】
<積層体の形成>
上述で得られた裏当て部材付き熱可塑性樹脂層を、縦200mm×横300mm×厚み10mmの金型の中に、熱可塑性樹脂層の表面(シボ模様が施された表皮面)を下にして敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコール溶液(東ソー社製、商品名「TEDA−L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F−122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、インデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型内に敷かれた裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の裏当て部材側の上から注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層に発泡ポリウレタン層(厚み:9mm、密度:0.2g/cm
3)が裏打ちされた積層体が、金型内で形成された。
そして、形成された積層体を金型から取り出して、上述の方法に従って、発泡ポリウレタン層の成分の漏れ率を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を別の品番(東洋紡社製、品番「3401A」、ポリエステル系樹脂)に替えた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:40g/m
2
厚み:0.24mm
引裂き強さ:12N〜13N
引っ張り強さ:54N/5cm〜159N/5cm
伸び率:26%〜34%
乾熱収縮率:0.2%〜1.0%
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を別の品番(東洋紡社製、品番「3501A」、ポリエステル系樹脂)に替えた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:50g/m
2
厚み:0.27mm
引裂き強さ:15N
引っ張り強さ:70N/5cm〜183N/5cm
伸び率:25%〜34%
乾熱収縮率:0.3%〜1.0%
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例4)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を別の品番(東洋紡社製、品番「3601A」、ポリエステル系樹脂)に替えた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:60g/m
2
厚み:0.30mm
引裂き強さ:20N
引っ張り強さ:90N/5cm〜223N/5cm
伸び率:29%〜32%
乾熱収縮率:0.2%〜0.8%
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を別の品番(東洋紡社製、品番「3701A」、ポリエステル系樹脂)に替えた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:70g/m
2
厚み:0.31mm
引裂き強さ:23N〜24N
引っ張り強さ:104N/5cm〜269N/5cm
伸び率:27%〜33%
乾熱収縮率:0.4%〜0.8%
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例6)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を別の品番(東洋紡社製、品番「3A01A」、ポリエステル系樹脂)に替えた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層、裏当て部材付き熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。なお、用いた不織布の性状は以下の通りであり、これらの値はJIS L 1913:2010に従った商品物性値である。
目付量:100g/m
2
厚み:0.39mm
引裂き強さ:32N〜45N
引っ張り強さ:132N/5cm〜324N/5cm
伸び率:23%〜30%
乾熱収縮率:0.3%〜1.2%
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
裏当て部材付き熱可塑性樹脂層の形成において、不織布を使用しなかった(つまり、裏当て部材を使用しなかった)以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂層および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により観察、算出した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)2500Z」
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」
3)花王社製、製品名「トリメックスN−08」
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O−130S」
5)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
6)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
7)昭和電工社製、製品名「カレンズDK−1」
8)堺化学工業社製、製品名「SAKAI SZ2000」
9)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
10)東洋紡社製、製品名「エクーレ(登録商標)」各種品番
【0067】
表1より、熱可塑性樹脂層と不織布からなる裏当て部材とが一体縫製されている実施例1〜6の積層体では、不織布からなる裏当て部材を有さず、熱可塑性樹脂層と裏当て部材との一体縫製が施されていない(熱可塑性樹脂層が単独で縫製されている)比較例1の積層体に比べ、発泡ポリウレタン層の成分の漏れを顕著に抑制することが分かった。