特許第6984715号(P6984715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984715
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】R−TM−B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20211213BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20211213BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211213BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20211213BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   B22F3/00 F
   C22C38/00 303D
   H01F1/055 170
   H01F7/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-189481(P2020-189481)
(22)【出願日】2020年11月13日
(62)【分割の表示】特願2020-12756(P2020-12756)の分割
【原出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2021-38463(P2021-38463A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-66185(P2015-66185)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】山道 大介
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 政直
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝洋
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−209546(JP,A)
【文献】 特開2016−143828(JP,A)
【文献】 特開2007−305878(JP,A)
【文献】 特開2009−135393(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/150843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
C22C 38/00
H01F 1/055
H01F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
24.5〜34.5質量%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種)と、0.96〜1.15質量%のBと、0.1質量%未満のCoと、0.3質量%超0.5質量%以下のGaと、0〜0.15質量%のCuと、不可避不純物と、残部Feとを含有することを特徴とするR-TM-B系焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載のR-TM-B系焼結磁石において、
3質量%以下のM(MはZr、Nb、Hf、Ta、W、Mo、Al、Si、V、Cr、Ti、Ag、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb及びZnから選ばれる少なくとも1種)をさらに含有することを特徴とするR-TM-B系焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のR-TM-B系焼結磁石において、
前記Ga含有量が0.4〜0.5質量%であることを特徴とするR-TM-B系焼結磁石。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のR-TM-B系焼結磁石において、
前記R-TM-B系焼結磁石が、円筒状ラジアル異方性磁石又は円筒状極異方性磁石であることを特徴とするR-TM-B系焼結磁石。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のR-TM-B系焼結磁石において、120℃、100%RH、2気圧及び96時間の条件でプレッシャークッカーテストを行ったときの腐食減量が2 mg/cm2未満であることを特徴とするR-TM-B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性改善を図ったR-TM-B系焼結磁石及び割れ低減を図ったR-TM-B系円筒状異方性焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-TM-B系焼結磁石は、高い磁気特性を有しているため広く使用されている。しかしながら、R-TM-B系焼結磁石は主成分として希土類元素(R元素)を含有していることから腐食しやすいといった問題がある。腐食は希土類元素を多く含む希土類リッチ相から始まり、主相が脱落しながら進行してゆくことが知られている。腐食を防止するため、R-TM-B系焼結磁石の表面には通常防錆被膜(塗装やめっき)が施されているが、水蒸気はある程度防錆被膜を通過するため、磁石の腐食を完全に防止することは難しい。
【0003】
R-TM-B系焼結磁石の形態の一つとして、円筒状極異方性磁石及び円筒状ラジアル異方性磁石が知られている。これらの円筒状磁石は、回転機に用いる場合に、弓型磁石のようにロータに一枚ずつ貼りつける必要がないため、組み立てが容易であり広く使用されている。
【0004】
しかしながら、これら円筒状磁石は、異方性化に起因して、磁石のC軸方向とC軸と垂直方向との線膨張係数の違いが生じ、それらの線膨張係数の違いにより発生する応力が円筒状磁石に内在するようになる。この応力が円筒状磁石の機械強度より大きくなると、例えば、特開昭64-27208号に記載されているように、割れやクラックが発生する。なおブロック形状の磁石の場合には、線膨張係数が異なっていたとしても応力は解放されるため、応力が磁石に内在することはない。
【0005】
R-TM-B系焼結磁石の耐食性を向上させる金属としてCoが知られている。例えば、特開昭63-38555号は、CoがR-TM-B系焼結磁石の主相及び粒界に取り込まれ、希土類リッチ相より腐食しにくい希土類元素との金属間化合物を形成すると記載している。しかしながら一方で、添加したCoは主相に含まれるだけでなく、粒界相にも含まれることにより機械的強度を低減させるという問題を生じる。このためCoを含有させたR-TM-B系焼結磁石は、焼結後の取り扱いや研削加工の際に欠けやクラックが発生しやすく、生産効率を低下させる場合がある。
【0006】
特開2003-31409号は、CoとCuを添加して、Rリッチ相(希土類元素リッチな粒界相)の周囲にCoとCuを偏析させて中間相を形成することによってRリッチ相をCoとCuにより被覆し、個々のRリッチ相の耐食性を改善させる技術を開示している。しかしながら、特許文献2と同様に、Co添加により焼結磁石の機械的強度が低下するといった問題が生じるため、特に円筒状磁石のように応力が内在する磁石での耐食性改良技術の開発が望まれている。
【0007】
特開2013-216965号は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属を含む金属元素Mと、B及び不可避不純物からなるR-T-B系希土類焼結磁石用合金を開示している。しかしながら耐食性及び強度の改良技術について言及しておらず、これらのR-T-B系希土類焼結磁石用合金を円筒状磁石へ適用する記載もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の様に、R-TM-B系焼結磁石においては、Coの添加によって耐食性を向上させることが可能であるものの、一方で機械的強度が低下することから、特に円筒状極異方性磁石や円筒状ラジアル異方性磁石に応用するときには、割れ、欠け、クラックが発生するという問題がある。そのため、耐食性を確保するために十分な量のCoを添加できなかったり、円筒状磁石の寸法(円筒状磁石の径方向寸法)を大きくすることによって機械的強度を確保したりする等、製造するにあたっては十分な注意が必要であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、Coを添加することなく、高い機械的強度と優れた耐食性とを両立させたR-TM-B系焼結磁石を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、割れ、欠け、クラックの発生が低減されたR-TM-B系円筒状異方性焼結磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、Ga又は(Ga+Cu)を添加したR-TM-B系焼結磁石は、実質的にCoを含有しない場合でも耐食性に優れており、機械的強度の低下が発生せず、残留応力が発生しやすい円筒状異方性焼結磁石とした場合であっても、割れ、欠け、クラック等の発生が低減することを見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明のR-TM-B系焼結磁石は、24.5〜34.5質量%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種)と、0.96〜1.15質量%のBと、0.1質量%未満のCoと、0.3質量%超0.5質量%以下のGaと、0〜0.15質量%のCuと、不可避不純物と、残部Feとを含有することを特徴とする。
【0013】
本発明のR-TM-B系焼結磁石は、3質量%以下のM(MはZr、Nb、Hf、Ta、W、Mo、Al、Si、V、Cr、Ti、Ag、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb及びZnから選ばれる少なくとも1種)をさらに含有してもよい。
【0014】
前記Ga含有量が0.4〜0.5質量%であるのが好ましい。
【0015】
前記R-TM-B系焼結磁石は、円筒状ラジアル異方性磁石又は円筒状極異方性磁石であるのが好ましい。
【0016】
前記R-TM-B系焼結磁石は、120℃、100%RH、2気圧及び96時間の条件でプレッシャークッカーテストを行ったときの腐食減量が2 mg/cm2未満であるのが好ましく、0.85 mg/cm2以下であるのがより好ましく、0.76 mg/cm2以下であるのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のR-TM-B系焼結磁石は、Coを含有させることによって耐食性を付与する代わりに、Ga及びCuを特定の範囲で含有させることによって耐食性を発揮させるので、高い機械的強度と優れた耐食性とを両立することができる。このため、割れ、欠け、クラック等の発生が低減されたR-TM-B系焼結磁石を提供することができ、残留応力が発生しやすい円筒状のR-TM-B系異方性焼結磁石(円筒状ラジアル異方性磁石及び円筒状極異方性磁石)にも適用できる。従って、本発明のR-TM-B系焼結磁石は回転機用の磁石として好ましく使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のR-TM-B系焼結磁石に含有するCu量及びGa量の範囲を示すグラフである。
図2(a)】実験例3で行ったプレッシャークッカーテスト後の合金1(Ga/Cu=0.1/0.02質量%)の腐食の様子を示すSEM写真である。
図2(b)】実験例3で行ったプレッシャークッカーテスト後の合金4(Ga/Cu=0.5/0.4質量%)の腐食の様子を示すSEM写真である。
図3】実験例4で使用したR-TM-B系ラジアル異方性リング磁石を成形するための成形装置を示す模式図である。
図4(a)】実験例5で使用したR-TM-B系極異方性リング磁石を成形するための成形装置を模式的に示す断面図である。
図4(b)】図4(a)のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)組成
R-TM-B系焼結磁石は、24.5〜34.5質量%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種)と、0.85〜1.15質量%のBと、0.1質量%未満のCoと、0.07〜0.5質量%のGaと、0〜0.4質量%のCuと、不可避不純物と、残部Feとを含有するR-TM-B系焼結磁石であって、
前記Ga及びCuの含有量が、Ga量(質量%)及びCu量(質量%)をそれぞれX軸及びY軸としたXY平面上で、点A(0.5、0.0)、点B(0.5、0.4)、点C(0.07、0.4)、点D(0.07、0.1)及び点E(0.2、0.0)を頂点とする五角形で囲まれる領域内にあることを特徴とする。
【0020】
本発明の好ましいR-TM-B系焼結磁石は、24.5〜34.5質量%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種)と、0.96〜1.15質量%のBと、0.1質量%未満のCoと、0.3質量%超0.5質量%以下のGaと、0〜0.15質量%のCuと、不可避不純物と、残部Feとを含有することを特徴とする。
【0021】
本発明のR-TM-B系焼結磁石は、R-TM-Bから実質的になるのが好ましい。ここでRはYを含む希土類元素の少なくとも1種であり、Nd、Dy、Prの少なくとも1種を必ず含むのが好ましく、TMは遷移金属元素の少なくとも1種であり、Feであるのが好ましい。Bはホウ素である。
【0022】
R-TM-B系焼結磁石は24.5〜34.5質量%のRを有する。R量が24.5質量%未満では、残留磁束密度Br及び保磁力iHcが低下する。R量が34.5質量%超では焼結体内部の希土類リッチ相の領域が多くなるので、残留磁束密度Brが低下し、かつ耐食性が低下する。
【0023】
R-TM-B系焼結磁石は、0.85〜1.15質量%のBを有する。B量が0.85質量%未満の場合、主相であるR2Fe14B相の形成に必要なBが不足し、軟磁性的な性質を有するR2Fe17相が生成し保磁力が低下する。一方B量が1.15質量%を超えると、非磁性相であるBに富む相が増加して残留磁束密度が低下する。
【0024】
R-TM-B系焼結磁石は、0.07〜0.5質量%のGaを含有する。Gaは保磁力を向上させる効果に加えて、耐食性を向上させる効果を有する。0.07質量%以下では、保磁力iHc向上の効果が得られない。またGaを0.5質量%超含有させてもさらなる保磁力向上の効果及び耐食性向上の効果は望めない。Ga添加による耐食性向上の効果は0.07質量%以上含有していれば十分にその効果を奏するが、0.1質量%以上含有するのがさらに好ましい。特にCuを含まない場合は、Ga含有量を0.2質量%以上とするのが好ましい。
【0025】
R-TM-B系焼結磁石は、0〜0.4質量%のCuを含有する。Cuを含有しなくても、Gaの含有量を調整することにより本発明の効果を得ることができるが、Cuを含有させることにより耐食性がより向上する。Ga含有量が0.07質量%である場合は、Cuを0.1質量%以上含有させるのが好ましい。Cuを0.4質量%超含有させてもさらなる耐食性の向上効果は得られない。
【0026】
R-TM-B系焼結磁石において、Ga及びCuによる耐食性の向上効果を十分に発揮させるためには、Ga及びCuの含有量を、Ga量(質量%)及びCu量(質量%)をそれぞれX軸及びY軸としたXY平面上で、点A(0.5、0.0)、点B(0.5、0.4)、点C(0.07、0.4)、点D(0.07、0.1)及び点E(0.2、0.0)を頂点とする五角形で囲まれる領域内に設定する。Ga及びCuの含有量がこの領域内にあると、実質的にCoを含有しない場合でも必要な磁気特性と耐食性能を備えたR-TM-B系焼結磁石を得ることができる。なお本発明において「実質的に含有しない」とは、不可避不純物としての含有を許容し「実質的」と表記している。
【0027】
Ga及びCuの含有量は、前記XY平面上で、点A(0.5、0.0)、点B(0.5、0.4)、点C'(0.1、0.4)、点D'(0.1、0.1)及び点E(0.2、0.0)を頂点とする五角形で囲まれる領域内にあるのが好ましく、点A(0.5、0.0)、点B(0.5、0.4)、点C"(0.2、0.4)及び点D"(0.2、0.1)を頂点とする四角形で囲まれる領域内にあるのがさらに好ましい。
【0028】
Feはその一部がCoで置換されていても良いが、Coを0.1質量%以上含有すると特に円筒状異方性焼結磁石において割れの発生が急激に多くなり望ましくないため、Co含有量は0.1質量%未満であるのが好ましい。R-TM-B系焼結磁石において、Coは通常耐食性を高めるものとして使用される場合があるが、本発明においては前述したようにGa又はGa及びCuによって耐食性を付与することができるので、Coの使用は必須ではない。ただしFeの不可避不純物として、0.08質量%以下のCoを含有しても良い。不可避不純物として含有されるCoは少ない方が望ましいが、量産工程で使用される原料の純度や、再生材料の添加によって一定の割合で含有される。不可避不純物として含まれるCoは0.06質量%以下であるのがより好ましい。
【0029】
R-TM-B系焼結磁石に原料やその製造工程から混入する可能性のある不純物の一つとしてとしてはNiがあげられる。Niは、Feの一部に置換し、R-TM-B系磁石の磁気特性を低下させることが知られている。また一定量以上のNiの含有は、割れの発生が急激に多くなるため望ましくない。原料に含まれる不可避不純物及び製造工程において意図せずに混入する不純物としてのNiは0.1質量%未満に抑えることが望ましく、0.08質量%以下にすることがさらに望ましい。
【0030】
R-TM-B系焼結磁石は、さらにM(MはZr、Nb、Hf、Ta、W、Mo、Al、Si、V、Cr、Ti、Ag、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb及びZnから選ばれる少なくとも1種)を含有してもよい。金属元素Mの微量添加により粒界相の性質が変化し、保磁力向上効果が得られるが、多量に添加するとR2Fe14B相の体積比率が減少しBrが低下するため、3質量%以下にとどめておくのが好ましい。
【0031】
(2)磁石形状
本発明のR-TM-B系焼結磁石は円筒状であるのが好ましい。前記円筒状磁石は、異方性方向としてラジアル異方性又は極異方性を有するのが好ましい。円筒状(リング形状)とすることで、回転機として組み立てる際の組立工数を低減することができる。
【0032】
本発明のR-TM-B系焼結磁石の組成を有する円筒状磁石は耐食性が良好であるばかりでなく、Coを含まないか含んでも極微量であるためCo含有による機械的強度の低下に起因する割れ、欠け、クラック等の発生は無いか、発生しても極めて少ない量になる。
【0033】
R-T-B系ラジアル異方性リング磁石は、内径(D1)と外径(D2)との比D1/D2が0.7以上であるのが好ましい。
【0034】
R-T-B系ラジアル異方性リング磁石を多極着磁する場合の極数は、当該磁石が使用される電動機の仕様に合わせ適宜設定すれば良い。
【0035】
R-T-B系極異方性リング磁石は、着磁極数をPとしたとき、内径(D1)と外径(D2)との比D1/D2が、式:D1/D2=1-K(π/P)[ただし、P=4のときKの値は0.51〜0.70、P=6のときKの値は0.57〜0.86、P=8のときKの値は0.59〜0.97、P=10のときKの値は0.59〜1.07、P=12のときKの値は0.61〜1.18、及びP=14のときKの値は0.62〜1.29である。]で表される範囲であるのが好ましい。
【0036】
R-T-B系極異方性リング磁石は、4極、6極、8極、10極、12極又は14極の多極異方性を有する断面円形の外周面と、断面多角形の内周面とを有していても良い。その場合には前記外周面の極数が前記多角形の頂点の数の整数倍であるのが好ましい。また前記外周面の極位置の中間位置の少なくとも一つと、前記内周面を構成する断面多角形の頂点の少なくとも一つとが周方向において一致しているのが好ましい。前記極数は、前記多角形の頂点の数と同じ又は2倍であるのが好ましい。多角形の頂点の数をどのように設定するかは、極数に応じて適宜調節すればよい。前記多角形は正多角形であるのが好ましい。なお内周面の断面が多角形の場合には、多角形に外接する円の直径を内径とする。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の実験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0038】
実験例1
Ndを24.80質量%、Prを6.90質量%、Dyを1.15質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.10質量%含有し、Ga及びCuの含有量を表1に示すようにそれぞれ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5質量%及び0.02、0.1、0.2、0.3、0.4質量%の範囲で変更し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する25種類の組成の合金をストリップキャスト法により作製した。これらの合金には、不可避不純物としてCoが0.06質量%含有していた。なお、前記Cu含有量は不可避不純物として含まれる0.02質量%のCuを含んだ値である。
【0039】
得られた合金を、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し、磁場中で圧縮成形し、焼結及び熱処理を行った後、研削加工し、R-TM-B系焼結磁石からなる3 mm×10 mm×40 mmのテストピースを準備した。これらのテストピースを用いて、プレッシャークッカーテスト(120℃100%RH、2気圧、96時間)を行い、テスト前後での重量から腐食減量(mg/cm2)を求めた。結果を表1に示す。なおこれらの結果は各合金についてn=3でテストした結果の平均値である。
【0040】
【表1】
【0041】
Ga又はGa+Cuの添加によってR-TM-B系焼結磁石の腐食減量が少なくなり、耐食性が大幅に向上していることが分かる。Cuを添加しない(ただし、不可避不純物として0.02質量%のCuを含む)場合、Ga含有量が0.1質量%では腐食減量は著しく大きかったが、Ga含有量を増やすと腐食減量は低下し、耐食性が良好となる結果が得られた。Ga含有量が0.1質量%でCuを添加してゆくと腐食減量は低下し、耐食性が良好となる結果が得られた。
【0042】
本発明者らは、R-TM-B系焼結磁石において120℃100%RH、2気圧及び96時間の条件でプレッシャークッカーテストを行ったときに腐食減量が2 mg/cm2未満であれば、自動車用(電装用やHV用)に要求される耐食性の規格を満足できることを確認している。
【0043】
従って、Coを実質的に含まなくても前記耐食性の規格を満足できると考えられるCu及びGaの含有量の範囲は、Ga量(質量%)及びCu量(質量%)をそれぞれX軸及びY軸としたXY平面上で、図1に示すように、点ABCDEを頂点とする五角形で囲まれる領域であることが分かる。
【0044】
実験例2
Ndを24.80質量%、Prを6.90質量%、Dyを1.15質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.10質量%、Gaを0.30質量%及びCuを0.15質量%含有し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する合金Aをストリップキャスト法により作製した。この合金Aには、不可避不純物としてCoが0.06質量%含有していた。
【0045】
合金組成を表2に示すように変更した以外は合金Aと同様にして、合金B〜Fを作製した。なお合金Cは本発明のR-TM-B系焼結磁石であり、合金A、B、D、Eは参考例のR-TM-B系焼結磁石であり、合金Fは比較例のR-TM-B系焼結磁石である。
【0046】
【表2】
注(1) Coは不可避不純物である。
【0047】
得られた合金A〜Fを、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し、磁場中で圧縮成形し、焼結及び熱処理を行った後、研削加工し、R-TM-B系焼結磁石からなる3 mm×10 mm×40 mmのテストピースを準備した。これらのテストピースを用いて、残留磁束密度Br及び保磁力HcJを測定し、さらにプレッシャークッカーテスト(120℃100%RH、2気圧、96時間)を行い、テスト前後での重量から腐食減量を求めた。結果を表3に示す。なおプレッシャークッカーテストの結果は各合金についてn=3でテストした結果の平均値である。
【0048】
さらに実験例1で作製したテストピースのうち、Ga含有量及びCu含有量が、それぞれ0.1質量%及び0.02質量%の合金1、0.1質量%及び0.4質量%の合金2、0.5質量%及び0.02質量%の合金3及び0.5質量%及び0.4質量%の合金4の残留磁束密度Br及び保磁力HcJを測定した。結果を合わせて表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
本発明及び参考例のR-TM-B系焼結磁石である合金A〜E及び合金2〜4は、腐食減量が小さく、高い残留磁束密度Br及び保磁力HcJを有することが分かる。なお合金FについてはNd、Pr及びDyの合計が本発明で規定する希土類量を超えており、結果として耐食性が悪くなったものと推定している。
【0051】
実験例3
実験例1で得られた、Ga含有量及びCu含有量がそれぞれ0.1質量%及び0.02質量%の合金1と、Ga含有量及びCu含有量がそれぞれ0.5質量%及び0.4質量%の合金4とについて、120℃100%RH、2気圧及び24時間の条件でプレッシャークッカーテストを行い、テスト後の腐食の様子をSEMで観察した。結果を図2に示す。
【0052】
合金1のサンプル(図2(a))は深さ方向に腐食(図中矢印で示した部分)が進行していることが確認されたが、合金4のサンプル(図2(b))については腐食の進行は確認されなかった。
【0053】
実験例4
Co含有量がR-TM-B系焼結磁石の機械的強度に与える影響を評価するため、以下の実験を行った。
【0054】
Ndを24.25質量%、Prを6.75質量%、Dyを2.1質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.06質量%、Gaを0.08質量%含有し、Co含有量を0.0、0.06、0.08及び0.1〜1.0質量%(0.1質量%刻み)の範囲で変更し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する13種類の組成の合金をストリップキャスト法により作製した。なお実験には純度の高い金属を使用したが微量の不可避不純物は含まれる。従って、Co含有量が0.0質量%と表記した合金は、実際は測定限界(0.01質量%)以下のCoを含んでいる可能性がある。
【0055】
得られた合金を、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し微粉を準備した。得られた微粉を用いて、図3に示す成形装置で磁場中圧縮成形(磁場強度:318 kA/m、圧力:98 MPa)し、R-TM-B系ラジアル異方性リング磁石の成形体(外径41.8 mm×内径32.5 mm×高さ47.2 mm)を得た。各合金について、それぞれ10個の成形体を作製した。
【0056】
R-TM-B系ラジアル異方性リング磁石の成形に用いた成形装置は、円柱状の上下コア40a,40b(パーメンダー製)と、円筒状の外型30(SK3製)と、円筒状の上下パンチ90a,90b(非磁性)とからなる金型と、これらに囲まれた空間によって構成されるキャビティ60と、上コア40a及び下コア40bの外周位置にそれぞれ配置された一対の磁場発生コイル10a,10bとからなる。上コア40aは下コア40bから離脱可能であり、上コア40aと上パンチ90aとは、それぞれ独立に上下動でき、上パンチ90aはキャビティ60から離脱可能である。密着した上コア40a及び下コア40bを通して磁力線70に沿ってキャビティ60にラジアル方向に磁場を印加できる。
【0057】
得られた成形体の内部に外径29.0 mmの円柱体からなる焼結治具(材質SUS403線膨張係数11.4×10-6)を挿入し、Mo容器内に敷いたMo製耐熱板の上に置き真空中1080℃で2時間焼結した。上記焼結治具は有機溶剤にいれ攪拌したNd2O3を外周面に塗布したのち使用した。得られた焼結体の端面、外周面及び内周面を研削加工し、Co含有量の異なる13種のR-TM-B系ラジアル異方性リング磁石401〜413を作製した。得られたR-TM-B系ラジアル異方性リング磁石に割れが発生しているかについて目視により確認した。結果を表4に示す。リング磁石401〜403は、Ga含有量は本発明から外れるが、Co含有量が0.1質量%未満(本発明で規定する範囲内)である参考例であり、リング磁石404〜413はCo含有量が0.1質量%以上(本発明で規定する範囲外)である比較例である。
【0058】
【表4】
【0059】
表4の結果から、Co含有量が0.1質量%以上の場合に、リング磁石の焼結体に割れが発生しており、Co含有量が増加するに従って割れの発生が増加していることが分かる。
【0060】
実験例5
実験例4と同様にして準備した13種類の合金の微粉を用いて、図4に示す成形装置100で磁場中圧縮成形(圧力:80 MPa、磁場強度については全ての条件で同じ磁場強度(パルス磁場)とした。)し、外周面に8極を有するR-TM-B系極異方性リング磁石の成形体(外径31.5 mm×内径20.3 mm×高さ27.8 mm)を得た。各合金について、それぞれ10個の成形体を作製した。
【0061】
R-TM-B系極異方性リング磁石の成形に用いた磁場中成形装置100は、図4(a)に示すように、磁性体からなるダイス101と、ダイス101の環状空間内に同心状に配置された円柱状の非磁性体からなるコア102とを有し、ダイス101は支柱111,112により支持され、コア102及び支柱111、112はいずれも下部フレーム108により支持されている。ダイス101とコア102との間の成形空間103内に円筒状の非磁性体からなる上パンチ104と同様に円筒状の非磁性体からなる下パンチ107とがそれぞれ嵌入される。下パンチ107は基板113に固着され、一方上パンチ104は上部フレーム105に固定されている。上部フレーム105及び下部フレーム108はそれぞれ上部シリンダー106及び下部シリンダー109と連結している。
【0062】
図4(b)は図4(a)のA-A断面を示す。円筒状のダイス101の内面には複数の溝117が形成されており、各溝117には磁場発生コイル115が埋設されている。ダイス101の内面には溝を覆うように環状の非磁性体の環状スリーブ116が設けられている。環状スリーブ116とコア102の間が成形空間103である。図4(b)において、各溝117内の磁場発生コイル115は、電流が紙面に対して垂直方向に流れるように配置され、周方向に隣り合うコイルの電流の向きが交互に逆向きになるように接続されている。磁場発生コイル115に電流を流すと、成形空間103に矢印Aで示すような磁束の流れが生じ、磁束が環状のスリーブにあたる点(矢印の始点及び終点)に、円周方向に順にS、N、S、N・・・と極性が交互に変わる磁極(図では8極)が形成される。
【0063】
得られた成形体をMo容器内に敷いたMo製耐熱板の上に置き真空中1080℃で2時間焼結した。得られた焼結体の端面、外周面及び内周面を研削加工し、Co含有量の異なる13種のR-TM-B系極異方性リング磁石501〜513を作製した。得られたR-TM-B系極異方性リング磁石に割れが発生しているかについて目視により確認した。結果を表5に示す。リング磁石501〜503は、Ga含有量は本発明から外れるが、Co含有量が0.1質量%未満(本発明で規定する範囲内)である参考例であり、リング磁石504〜513はCo含有量が0.1質量%以上(本発明で規定する範囲外)である比較例である。
【0064】
【表5】
【0065】
表5の結果から、Co含有量が0.1質量%以上の場合に、リング磁石の焼結体に割れが発生しており、Co含有量が増加するに従って割れの発生が増加していることが分かる。
【0066】
実験例6
実験例1と同様にして準備した25種類の合金の微粉を用いた以外、実験例4と同様にしてラジアル異方性焼結リング磁石を製作した。その結果、これらの25種のラジアル異方性焼結リング磁石は、全て研削加工後の割れが発生しなかった。
【0067】
実験例7
実験例1と同様にして準備した25種類の合金の微粉を用いた以外、実験例5と同様にして極異方性焼結リング磁石を製作した。その結果、これらの25種のラジアル異方性焼結リング磁石は、全て研削加工後の割れが発生しなかった。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4(a)】
図4(b)】