(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光伝送路を介して互いに接続され、少なくとも一方のキャリア周波数が可変な送信部の光送信機と受信部の光受信機の伝送特性を光伝送特性推定システムが推定する方法であって、
前記送信部から前記受信部に第1の既知信号を伝送した時に前記光受信機が前記第1の既知信号を受信した第1のデータと前記光受信機の仮の伝達関数又は逆伝達関数とから前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理を、前記光送信機と前記光受信機との間の複数の周波数オフセットに対してそれぞれ実施する第1のステップと、
前記複数の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を平均化するか、或いは、周波数を示す変数をs、前記光送信機の伝達関数の振幅成分を|T(s)|、位相特性をΦ(s)として前記光送信機の伝達関数を|T(s)|×exp(jΦ(s))で表した時の前記複数の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数の位相特性Φ(s)を平均化して指数関数表現することで、前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を求める第2のステップとを備え、
前記第1のステップにおいて、前記受信部にて検出した伝送路特性、及び前記光受信機の仮の伝達関数のうち少なくとも1つを補償、或いは1つも補償しない前記第1のデータと、前記伝送路特性及び前記光受信機の仮の伝達関数のうち前記第1のデータに対して補償しなかったものを付加した伝送前の第1の既知信号とを比較して、前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする光伝送特性推定方法。
前記送信部から前記受信部に第2の既知信号を伝送した時に前記光受信機が前記第2の既知信号を受信した第2のデータから前記光受信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する第3のステップを更に備え、
前記第3のステップにおいて、前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償する場合、前記伝送路特性を補償した前記第2のデータと伝送前の第2の既知信号とを比較するか、又は前記伝送路特性を補償しない前記第2のデータと前記伝送路特性を付加した伝送前の第2の既知信号とを比較して、前記光受信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定し、
前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償しない場合、前記光送信機の平均化伝達関数及び前記伝送路特性のうち少なくとも1つを補償、或いは1つも補償しない前記第2のデータと、前記光送信機の平均化伝達関数及び前記伝送路特性のうち前記第2のデータに対して補償しなかったものを付加した伝送前の第2の既知信号とを比較して、前記光受信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項1に記載の光伝送特性推定方法。
前記複数の周波数オフセットは、初回の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数の位相特性の周波数方向に対する変動周期を2以上に分割するように設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の光伝送特性推定方法。
前記第1のステップにおいて、前記送信部から前記受信部に伝送され、前記受信部にて伝送路特性の補償及び前記光受信機の伝達関数の補償が行われ、前記光送信機の伝達関数の影響が残る前記第1のデータをデジタルフィルタに入力して伝送前の第1の既知信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数から前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光伝送特性推定方法。
前記第3のステップにおいて、前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償する場合、前記第2のデータをデジタルフィルタに入力し、このデジタルフィルタの出力と、伝送路特性を伝送前の第2の既知信号に付加した信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数から前記光受信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項2に記載の光伝送特性推定方法。
前記第1のステップの前に、前記受信部のみにおいて前記光受信機の前記仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する第4のステップを更に備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光伝送特性推定方法。
前記第4のステップにおいて、前記光受信機の入力端にスペクトラムが既知な試験信号を入力した時に前記光受信機が出力する第3のデータから前記光受信機の前記仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項6に記載の光伝送特性推定方法。
前記第1のステップにおいて、前記光受信機の前記仮の伝達関数を1として前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理を実施することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の光伝送特性推定方法。
光伝送路を介して互いに接続され、少なくとも一方のキャリア周波数が可変な送信部の光送信機と受信部の光受信機のうち前記光送信機の伝送特性を推定する送信機伝達関数推定部を備え、
前記送信機伝達関数推定部は、前記送信部から前記受信部に第1の既知信号を伝送した時に前記光受信機が前記第1の既知信号を受信した第1のデータと前記光受信機の仮の伝達関数又は逆伝達関数とから前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理を、前記光送信機と前記光受信機との間の複数の周波数オフセットに対してそれぞれ実施し、
前記複数の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を平均化するか、或いは、周波数を示す変数をs、前記光送信機の伝達関数の振幅成分を|T(s)|、位相特性をΦ(s)として前記光送信機の伝達関数を|T(s)|×exp(jΦ(s))で表した時の前記複数の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数の位相特性Φ(s)を平均化して指数関数表現することで、前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を求め、
前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理は、前記受信部にて検出した伝送路特性、及び前記光受信機の仮の伝達関数のうち少なくとも1つを補償、或いは1つも補償しない前記第1のデータと、前記伝送路特性及び前記光受信機の仮の伝達関数のうち前記第1のデータに対して補償しなかったものを付加した伝送前の第1の既知信号とを比較して行うことを特徴とする光伝送特性推定システム。
前記送信部から前記受信部に第2の既知信号を伝送した時に前記光受信機が前記第2の既知信号を受信した第2のデータから前記光受信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する第1の受信機伝達関数推定部を更に備え、
前記光受信機の伝達関数又は逆伝達関数の推定は、
前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償する場合、前記伝送路特性を補償した前記第2のデータと伝送前の第2の既知信号とを比較するか、又は前記伝送路特性を補償しない前記第2のデータと前記伝送路特性を付加した伝送前の第2の既知信号とを比較して行い、
前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償しない場合、前記光送信機の平均化伝達関数及び前記伝送路特性のうち少なくとも1つを補償、或いは1つも補償しない前記第2のデータと、前記光送信機の平均化伝達関数及び前記伝送路特性のうち前記第2のデータに対して補償しなかったものを付加した伝送前の第2の既知信号とを比較して行うことを特徴とする請求項9に記載の光伝送特性推定システム。
前記複数の周波数オフセットは、初回の周波数オフセットに対して推定した前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数の位相特性の周波数方向に対する変動周期を2以上に分割するように設定することを特徴とする請求項9又は10に記載の光伝送特性推定システム。
前記送信機伝達関数推定部は、前記送信部から前記受信部に伝送され、前記受信部にて伝送路特性の補償及び前記光受信機の伝達関数の補償が行われ、前記光送信機の伝達関数の影響が残る前記第1のデータをデジタルフィルタに入力して伝送前の第1の既知信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数から前記光送信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項9〜11の何れか1項に記載の光伝送特性推定システム。
前記第1の受信機伝達関数推定部は、前記第2の既知信号を送信側で予め前記光送信機の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償する場合、前記第2のデータをデジタルフィルタに入力し、このデジタルフィルタの出力と、伝送路特性を伝送前の第2の既知信号に付加した信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数から前記光受信機の前記伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項10に記載の光伝送特性推定システム。
前記受信部のみにおいて前記光受信機の仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する第2の受信機伝達関数推定部を更に備えることを特徴とする請求項9〜13の何れか1項に記載の光伝送特性推定システム。
前記第2の受信機伝達関数推定部は、前記光受信機の入力端にスペクトラムが既知な試験信号を入力した時に前記光受信機が出力する第3のデータから前記光受信機の前記仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定することを特徴とする請求項14に記載の光伝送特性推定システム。
前記送信機伝達関数推定部は、前記光受信機の前記仮の伝達関数を1として前記光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理を実施することを特徴とする請求項9〜13の何れか1項に記載の光伝送特性推定システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定方法、光伝送特性補償方法、光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムについて図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。なお、以下で使用する「伝達関数」という用語は、装置、部品、伝搬路等の伝送特性を表す所定の関数に限定されず、ある2地点間の伝送特性を表す関数、数式、回路、或いは線路等であればどのようなものでもよい。また、伝達関数は線形に限らず、非線形な特性を表す関数等でもよい。更に、「伝送」と「伝達」については、本発明の範囲内では基本的に同意として捉える。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定システム及び光伝送特性補償システムを備える光送受信機を示す図である。送信部1は伝送路2を介して光信号を受信部3に送信する。伝送路2は例えば光ファイバと光増幅器からなる。
【0014】
送信部1は、送信信号処理部4、既知信号挿入部5、送信機補償部6、及び光送信機7を備える。送信信号処理部4と既知信号挿入部5と送信機補償部6の一部又は全部は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成できる。また、これらの一部又は全部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより機能するソフトウェでも構成できる。
【0015】
既知信号挿入部5は、送信信号処理部4が生成したXIレーン(第1レーン)、XQレーン(第2レーン)、YIレーン(第3レーン)、YQレーン(第4レーン)の変調対象信号系列に、それぞれ既知信号の系列を挿入する。既知信号の系列は送信部1と受信部3との間で共有されている。既知信号は、所定のビット又はシンボルで構成できるが、例えば2000シンボル程度の信号系列で構成される。既知信号の系列の長さは、最低限、算出するFIRフィルタ長より長いことが求められる。
【0016】
送信信号処理部4は、送信データ系列に基づいてフレームデータを生成する。フレームデータは、光送信機7において変調処理を施すための信号系列(変調対象信号系列)である。送信信号処理部4は、既知信号系列が挿入されたフレームデータを送信機補償部6に送信する。
【0017】
送信機補償部6は、光送信機7の伝達関数の推定結果を後述する受信部3の送信機伝達関数推定部8から取得する。送信機補償部6は、その推定結果に基づいて光送信機7のXIレーン、XQレーン、YIレーン、及びYQレーンの伝達関数と、そのレーン間差を補償する。送信機補償部6は、例えばFIR(Finite Impulse Response)フィルタ等のデジタルフィルタにより構成できるが、アナログフィルタ等により構成してもよい。また、送信機補償部6は、個別に4レーン間の遅延時間差を保証する機能を持つ機能部を備えてもよい。
【0018】
光送信機7は、補償されたフレームデータで直交した直線偏光を変調することで、変調対象信号系列の光信号を生成する。光送信機7はドライバアンプ7a、チューナブルレーザ7b(信号TL)、90°合成器7c、及び偏波合成器7dを備える。ドライバアンプ7aは、補償されたフレームデータの電気信号を適切な振幅になるように増幅して90°合成器7cに送信する。90°合成器7cは、マッハツェンダ型ベクトル変調器であり、チューナブルレーザ7bから送信された直線偏光のCW(Continuous Wave)光を直交した直線偏光に分離し、それぞれの直線偏光に対してフレームデータで変調することで、変調対象信号系列の光信号を生成する。水平偏波による光信号と垂直偏波による光信号が、偏波合成器7dで合成され、伝送路2を介して受信部3に供給される。
【0019】
受信部3は、光受信機9、データバッファ10、受信機補償部11、受信信号処理部12、第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14、及び送信機伝達関数推定部8を備える。第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14及び送信機伝達関数推定部8が、光送受信機の光伝送特性を推定する光伝送特性推定システムを構成する。この光伝送特性推定システムと送信機補償部6及び受信機補償部11が、光送受信機の光伝送特性を補償する光伝送特性補償システムを構成する。なお、
図1では送信機補償部6と受信機補償部11を個別のブロックで表現しているが、送信機補償部6は送信信号処理部4の一部であってもよく、受信機補償部11は受信信号処理部12の一部であってもよい。
【0020】
光受信機9は、偏波分離器9a、レーザモジュール9b(局発LD)、偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド9c、フォトダイオード (PD: Photo Diode)(図示せず)、TIA9d(Transimpedance Amplifier)、及びA/D変換器9eを備える。
【0021】
レーザモジュール9bは、直線偏光のCW光を偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド9cに送る。偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド9cは受信した光信号とCW光を干渉させる。フォトダイオードがそれを光電変換する。TIA9dがその電流信号を電圧信号に変換する。A/D変換器9eがその電圧信号をA/D変換する。これらにより、受信した光信号をベースバンドのデジタル信号に変換する。
【0022】
光受信機9のA/D変換器9e、データバッファ10、受信機補償部11、受信信号処理部12、第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14、及び送信機伝達関数推定部8の一部又は全部は、例えばASIC又はFPGA等のハードウェアで構成できる。また、これらの一部又は全部は、CPU等のプロセッサが記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより機能するソフトウェでも構成できる。また、第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14及び送信機伝達関数推定部8は、光送受信機とは独立した外部装置、例えばPC又はそれに相当する装置によって構成することができる。また、受信信号処理部12も、第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14及び送信機伝達関数推定部8と同様の機能を有することができ、それらとの共用化も可能である。
【0023】
データバッファ10は、一般的にはメモリ回路(RAM)で構成でき、光受信機9で受信した信号をA/D変換したデータを一時的に蓄えておく。データバッファ10に蓄えられたデータは、順次的に後段の受信機補償部11と受信信号処理部12へ送られる。それらのデータを第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14及び送信機伝達関数推定部8が取得することも可能である。なお、データバッファ10を使用せず、第1及び第2の受信機伝達関数推定部13,14及び送信機伝達関数推定部8がA/D変換されたデータをリアルタイムで直接的に取得してもよい。以後、データバッファ10のデジタルデータを用いて説明する全ての例は、受信データをリアルタイムで直接的に取得する方法も含んでいる。
【0024】
受信機補償部11は、光受信機9の伝達関数の推定結果を第2の受信機伝達関数推定部14から取得し、その推定結果に基づいて光受信機9のXIレーン、XQレーン、YIレーン、YQレーンの伝達関数とそのレーン間差を補償する。受信機補償部11は、例えばFIRフィルタ等のデジタルフィルタにより構成できる。また、受信機補償部11は、個別に4レーン間の遅延時間差を保証する機能を持つ機能部を持っても良い。
【0025】
受信信号処理部12には、受信機補償部11からデジタル信号が入力される。伝送路2では例えば波長分散、偏波モード分散、偏波変動又は非線形光学効果によって光信号に波形歪が生じる。受信信号処理部12は伝送路2において生じた波形歪を補償する。また、受信信号処理部12は、光送信機7のチューナブルレーザ7bの光の周波数と光受信機9のレーザモジュール9bの局発光の周波数との差を補償する。更に、受信信号処理部12は、光送信機7のチューナブルレーザ7bの光の線幅と光受信機9のレーザモジュール9bの局発光の線幅とに応じた位相雑音を補償する。
【0026】
第1の受信機伝達関数推定部13は、光受信機9の入力端に、白色雑音に相当するASE(Amplified Spontaneous Emission)信号を入力した時に受信部3が取得したデジタルデータから、光受信機9の仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する。これにより、受信部3のみにおいて光受信機9の仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定することができる。ASE信号は光アンプから発生させることができる。ASEのみを出力する場合は、何も入力しない状態で光アンプを用いる。この光アンプは別途用意してもよいが、伝送路2の光アンプを用いることもできる。ASE信号のスペクトラム(周波数特性)は均一であるため、それを通すことで周波数特性を取得することができる。従って、ASE信号を入力した状態で、データバッファ10に保存されたデータを、第1の受信機伝達関数推定部13が取得することで、周波数特性を推定することができる。これらは、レーンごとに推定可能である。第1の受信機伝達関数推定部13の構成例は後ほど示す。
【0027】
周波数特性の推定は、デジタルデータをフーリエ変換することで伝達関数として得られる。更に逆伝達関数を求める手法としては、逆数を計算する他に、適応フィルタの解を求める方法がある。適応フィルタの解を求める方法として、一般的にウィナー解を求める方法、及び、LMS(least mean square)アルゴリズム又はRLS(recursive least square)アルゴリズム等によっても求める方法がある。ここで、伝達関数は時間的には比較的変化しないため、「適応」は時間的な対応を意味しない。以降、「適応」は、収束解を求めるためのフィードバック回路に対する適応を意味することとする。第1の受信機伝達関数推定部13の詳細な構成例は後ほど示す。なお、上記の説明ではASE信号を使用したが、ASE信号には限定されず、スペクトラムが既知な信号であればどのような試験信号でも使用可能である。
【0028】
送信機伝達関数推定部8は、送信部1から受信部3に第1の既知信号を伝送した時に受信部3が取得した第1のデジタルデータと、受信部3の光受信機9の仮の伝達関数又は逆伝達関数とから、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定する。具体的には、第1のデジタルデータから第1の既知信号を抽出し、そこから検出した伝送路の伝送特性を補償し、更に、第1の受信機伝達関数推定部13で推定した仮の伝達関数で光受信機9の伝達特性の補償を行う。更に、適応フィルタ等のデジタルフィルタを用いて光送信機7の伝達関数を推定する。適応フィルタは、例えばLMSアルゴリズムに基づくフィルタ又はRMSアルゴリズムに基づくフィルタである。即ち、送信機伝達関数推定部8は、光送信機7の伝達関数の影響が残る第1の既知信号をデジタルフィルタに入力して元の第1の既知信号、即ち伝送前の第1の既知信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数として光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定する。そして、後述のように、複数の周波数オフセットに対して推定した光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数或いはその位相特性を平均化して光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を求める。
【0029】
第2の受信機伝達関数推定部14は、光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を用いて光送信機7の伝達特性を補償した送信部1から受信部3に第2の既知信号を伝送した時に受信部3が取得した第2のデジタルデータと、推定した光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数とから、光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する。推定方法としては、例えば適応フィルタ等のデジタルフィルタを用いて光受信機9の逆伝達関数を推定する。適応フィルタは、例えばLMSアルゴリズムに基づくフィルタ又はRLSアルゴリズムに基づくフィルタである。この場合もレーンごとに推定可能である。即ち、第2の受信機伝達関数推定部14は、第2の既知信号をデジタルフィルタに入力し、このデジタルフィルタの出力と、伝送路特性を伝送前の第2の既知信号に付加した信号との間の誤差を最小にするように収束させた際のデジタルフィルタのフィルタ係数として光受信機9の伝達関数又は逆伝達関数を推定する。
【0030】
続いて、本実施の形態に係る光伝送特性推定システムが光送受信機の光伝送特性を推定する方法について図面を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る光伝送特性推定方法を示すフローチャートである。まず、第1の受信機伝達関数推定部13にて、光受信機9の仮の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS1)。次に、送信機伝達関数推定部8にて、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS2)。次に、第2の受信機伝達関数推定部14にて、光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する(ステップS3)。
【0031】
続いて、それぞれのステップの詳細な動作について説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る光受信機の仮の伝達関数を推定するフローチャートである。まず、光受信機9の入力にスペクトラムが均一であるASE信号を挿入する(ステップS101)。ASE信号を通すことで周波数特性を取得することができる。次に、ASE信号を入力した状態で、データバッファ10が受信データを取得する(ステップS102)。次に、第1の受信機伝達関数推定部13がデータバッファ10からデジタルデータを取得してFFT(高速フーリエ変換)処理し、仮の伝達関数を取得する(ステップS103)。ASE信号は固定的な位相特性を有しないため、算出された仮の伝達関数は光受信機9の伝達関数のうち振幅特性部分(伝達関数の絶対値に相当)のみとなる。
【0032】
次に、取得した仮の伝達関数から仮の逆伝達関数を計算する(ステップS104)。次に、計算した仮の逆伝達関数を受信機補償部11に設定する(ステップS105)。なお、計算した逆伝達関数は、伝達関数の推定時では必ずしも受信機補償部11に設定する必要はないが、後に説明する送信機伝達関数推定部8において光送信機の伝達関数を推定する計算に使用される。
【0033】
図4は、本発明の実施の形態に係る第1の受信機伝達関数推定部を示す図である。第1の受信機伝達関数推定部13は、X偏波の受信信号とY偏波の受信信号をそれぞれFFT処理するFFTと、それらの出力をそれぞれ1/伝達関数処理して逆伝達関数を計算する回路とを備える。なお、X偏波の受信信号をXI+jXQ、Y偏波の受信信号をYI+jYQとしているが、XIとXQの間、及びYIとYQの間に遅延差が無い場合を想定している。遅延差がある場合は、XI、XQ、YI、YQを個別にフーリエ変換及び1/伝達関数処理することが可能である。なお、フーリエ変換できればFFT処理に限定する必要はなく、その他の方法でもよい。以降の「FFT」の表記はフーリエ変換の機能を意味する。
【0034】
データバッファ10にて取得したデジタルデータは、時間領域のデータのため、X偏波及びY偏波のレーンで、それぞれFFT処理によって周波数領域のデータに変換される。
【0035】
【数1】
X
R(n)はデータバッファ10にて取得したデジタルデータ、X
R(k)はFFT処理したデータである。FFTはDFT(Discrete Furrier Transfer)の高速処理を意味する。なお、連続信号に対する一般的なFFT処理では、有限のデータ数N毎に行うが、隣接する処理との間でデータをオーバーラップして処理することは言うまでもない(オーバーラップAdd、オーバーラップSave等の方法がある)。以降のFFT処理においても同様である。X
R(k)の絶対値は振幅情報を示し、これを仮の伝達関数として得る。その逆数を計算することで仮の逆伝達関数を得ることができる。この逆伝達関数は受信機補償部11に設定することができる。また、逆伝達関数は光送信機7の伝達関数を推定する際にも使用される。この場合は、必ずしも仮の伝達関数の逆伝達関数を受信機補償部11に設定する必要はない。また、第1の受信機伝達関数推定部13は、特許文献1の
図9に示すように適応フィルタを使用することによっても構成できる。この場合、第1の受信機伝達関数推定部13は、光受信機9の入力端にスペクトラムが既知な試験信号を入力した時に光受信機9が出力するデータをフーリエ変換することで光受信機9の仮の伝達関数を推定し、任意波形信号に光受信機9の仮の伝達関数を乗じて適応フィルタに入力し、この適応フィルタ(デジタルフィルタ)の出力と元の任意波形信号との二乗誤差を最小にするように収束させた際の適応フィルタを構成するFIRフィルタのフィルタ係数として光受信機9の仮の逆伝達関数の時間応答を求める。このフィルタ係数或いは時間応答のフーリエ変換が光受信機9の仮の逆伝達関数となる。
【0036】
図5は、本発明の実施の形態に係る送信機伝達関数推定部を示す図である。送信機伝達関数推定部8は、既知信号同期部8a、種々の伝送特性補償部8b、受信機補償部8c、及びFIRフィルタ8d及び二乗誤差最小化部8eを有する適応フィルタと、平均化回路8fを備える。種々の伝送特性補償部8bは、波長分散補償、周波数オフセット補償、偏波分散・偏波回転補償、クロック位相補償、位相雑音補償等の伝送時の歪を補償する種々の補償回路を含む。なお、既知信号同期部8aは、デジタルデータから既知信号を抽出する機能を有し、抽出した既知信号の状態から後段の種々の伝送特性補償に設定する補償データを各種推定ブロックにて推定する。即ち、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数の推定は伝送路2の伝送特性を推定する処理を含む。なお、受信機補償部8cは種々の伝送特性補償部8bの前段に配置することも可能である。
【0037】
波長分散補償部は既知信号同期部8aの前段に配置することも可能である。種々の伝送特性補償部の各補償部の順番は入れ替え可能である。また、偏波分散・偏波回転補償の(1TAP 2×2MIMO(Multi Input Multi Output))の意味は、フィルタのタップ数を1にして、光送受信機の帯域特性をこのブロックで補償せず、偏波回転のみ行うことを示している(一般的な複数タップの2×2MIMOフィルタでは帯域についても補償する。)。
【0038】
また、送信機伝達関数推定部8は、
図4の第1の受信機伝達関数推定部13と同様に、X偏波及びY偏波のそれぞれについて複素ベクトル信号として処理しているが、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。X偏波について複素ベクトル信号として処理することは、XIとXQとの間の遅延差(Skew)をゼロとみなしている。遅延差が無視できない場合はレーン毎に伝達関数の抽出及び補償を行う必要がある。Y偏波についても同様である。
【0039】
図6は、本発明の実施の形態に係る光送信機の伝達関数又は逆伝達関数を取得するフローチャートである。まず、送信信号処理部4の入力に既知信号を入力し、光送信機7から光変調信号を送信する(ステップS201)。この時、送信機補償部6はバイパスする。なお、送信機補償部6は受信機補償部11と同じ構成を取ることができる。次に、受信側においてデータバッファ10で受信データが取得される(ステップS202)。次に、送信機伝達関数推定部8は、データバッファ10からデジタルデータを取得する(ステップS203)。既知信号同期部8aは、取得したデジタルデータから既知信号を抽出する。抽出した既知信号に対して、種々の伝送特性の補償及び光受信機補償が行われる。種々の伝送特性の補償は、周波数オフセット補償、波長分散補償、偏波分散補償等の伝送路特性の補償を含む。光受信機補償は、ステップS1で推定した光受信機9の仮の逆伝達関数を用いて行う。
図5ではデータバッファ10の後段で受信機補償部11において仮の逆伝達関数で補償する構成が示されているが、この補償は上述の送信機伝達関数推定部8の処理には特に必要ない。
【0040】
次に、適応フィルタを用いて光送信機の伝達関数を推定する。適応フィルタは、最適化アルゴリズムに従ってその伝達関数を自己適応させるフィルタである。種々の伝送特性の補償及び光受信機補償が処理された既知信号には、光送信機7の伝達関数の影響が残されている。従って、その信号に、その逆特性を設定したFIRフィルタ8dを適応フィルタとして適用し、その出力と伝送前の既知信号との差分の二乗が最小になるように再び逆特性を修正する。この処理によって、適応フィルタを構成するFIRフィルタ8dのフィルタ係数を、逆伝達関数の時間応答として求めることができる。この逆伝達関数を求める手法は、一般的に下記に示すウィナー解又はLMSアルゴリズムとして知られている。
【0041】
【数2】
ここで、s(n)は伝送前の既知信号、y(n)は適応フィルタの出力、e(n)はs(n)とy(n)の差、h(n)は、適応フィルタの時間応答である。
【0042】
上記の例では、適応等化の回路によって光送信機7の逆伝達関数を直接求めることができるため、ステップS203とステップS204は一体として処理できる。一方、一度光送信機7の伝達関数が求められる場合は逆伝達関数を計算する(ステップS204)。
【0043】
開始時点では光送信機7のチューナブルレーザ7bの波長は当初設計時の周波数s
TXに合わせられている。次に、光送信機7のチューナブルレーザ7bの波長を変更して周波数シフトを発生させ、現状と異なる周波数オフセットを設定する(ステップS205)。ここで、周波数オフセットとは、光送信機7内の信号TLの周波数と光受信機9内の局発LDの周波数の差である。
【0044】
現状と異なる周波数オフセットを設定した状態で再びステップS202〜ステップS204を実施する。再びステップS205でチューナブルレーザ7bの波長を変更し、同様にステップS202〜ステップ204を繰り返す。このように送受間の複数の周波数オフセットに対して光送信機7の逆伝達関数を計算する。上述の動作をM回繰り返すことで、M個の異なる周波数における逆伝達関数を推定できる。
【0045】
予め決めたM個の周波数オフセットに対して光送信機の逆伝達関数が計算されたら、平均化回路8fがそれらの平均値を計算する(ステップS206)。この平均値を光送信機7の逆伝達関数の推定値(平均化逆伝達関数)とし、送信機補償部6に設定する(ステップS207)。設定方法は、ステップS105で示した方法と同じである。この時、前述したように、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。なお、本実施の形態では、光送信機7の逆伝達関数の時間応答がFIRフィルタ8dへ設定するフィルタ係数として求められるため、そのフィルタ係数の平均化が行われる。フィルタ係数は、逆伝達関数の時間応答であるが、周波数応答の平均化の時間応答(逆フーリエ変換の関係)は、時間応答の平均化に等しいことは周知の事実である。逆(時間応答の平均化の周波数応答(フーリエ変換の関係))も真である。従って、周波数応答を平均化し、それを逆フーリエ変換して時間応答を求めてもよい。
【0046】
また、上述した送信機伝達関数推定部8の動作では、抽出した既知信号に対して、種々の伝送特性の補償及び光受信機補償が行われ、更に伝送前の既知信号と比較されて光送信機の伝達関数が推定される。即ち、抽出した既知信号から光送信機の伝達関数を推定するには、何等かの方法で種々の伝送特性(伝送路特性)、光受信機の伝達関数、及び伝送前の既知信号の影響を除くことができればよい。例えば、伝送前の既知信号に伝送路特性及び光受信機の伝達関数を付加したものと、抽出した既知信号と比較することでも、光送信機の伝達関数は推定できる。
【0047】
これは次に説明する第2の受信機伝達関数推定部14で、光受信機の真の伝達関数を求める場合においても同様のことが言える。即ち、抽出した既知信号から光受信機の伝達関数を推定するには、何等かの方法で、光送信機の伝達関数、種々の伝送特性(伝送路特性)、及び伝送前の既知信号の影響を除くことができればよい。次に示す例では、光送信機の伝達関数を補償した既知信号と、伝送前の既知信号に伝送路特性付加したものとを比較して、光受信機の伝達関数を推定している。また、光送信機の伝達関数を補償した既知信号に対して、伝送路特性を補償し、それと伝送前の既知信号とを比較しても、光受信機の伝達関数は推定できる。
【0048】
また、一般的に、「補償」は、伝達関数を除算する又は逆伝達関数を乗算することで行うことができることは当業者にとって自明であるが、本明細書では、「伝達関数の補償」と「伝達関数の影響を除く」の一手段として使用している。更に、本明細書において、用語「伝送特性」は用語「伝達関数」と同義である。
【0049】
図7は、本発明の実施の形態に係る第2の受信機伝達関数推定部を示す図である。第2の受信機伝達関数推定部14は、既知信号同期部14a、波長分散補償、周波数オフセット補償、偏波分散・偏波回転付加、クロック位相付加、位相雑音付加等の伝送時の歪を模擬する回路14b、適応等化用のFIRフィルタ14c、二乗誤差最小化回路14dを有する。既知信号同期部14aは、デジタルデータから既知信号を抽出する機能を有し、抽出した既知信号の状態から後段の歪を模擬する回路に設定する付加データを各種推定ブロックにて推定する。即ち、光受信機9の伝達関数又は逆伝達関数の推定は伝送路2の伝送特性を推定する処理を含む。なお、波長分散補償、周波数オフセット補償、偏波分散・偏波回転付加、クロック位相付加、位相雑音付加等の伝送時の歪を模擬する回路14bの順番は入れ替え可能である。
【0050】
第2の受信機伝達関数推定部14では、第1の受信機伝達関数推定部13の場合と同様に、X偏波及びY偏波のそれぞれについて複素ベクトル信号として処理しているが、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。X偏波について複素ベクトル信号として処理することは、XIとXQとの間の遅延差をゼロとみなしている。遅延差が無視できない場合は、レーン毎に伝達関数の抽出及び補償を行う必要がある。Y偏波についても同様である。
【0051】
図8は、本発明の実施の形態に係る光受信機の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定するフローチャートである。まず、送信信号処理部4の入力に既知信号を入力し、送信部1の光送信機7から受信部3に光変調信号を伝送する(S301)。この時、上述した送信機伝達関数推定部8で推定した光送信機7の平均化逆伝達関数を送信機補償部6に設定して、光送信機7の伝送特性を補償する。なお、送信機補償部6は受信機補償部11と同じ構成を取ることができる。
【0052】
次に、受信部3においてデータバッファ10で受信データが取得される(ステップS302)。第2の受信機伝達関数推定部14は、データバッファ10からデジタルデータを取得する(ステップS303)。既知信号同期部14aは、取得したデジタルデータから既知信号を抽出する。抽出した既知信号は、適応フィルタとしてのFIRフィルタ14cに供給される。一方、伝送前の既知信号に対して、伝送路歪として推定される波長分散、周波数オフセット、偏波分散・偏波回転、クロック位相、位相雑音が付加され、適応フィルタの出力と比較される。波長分散、周波数オフセット、偏波分散・偏波回転、クロック位相、位相雑音の付加量は、既知信号の状態から種々の推定ブロックにて推定される。
【0053】
ここで、適応フィルタの出力において、光送信機7の伝達関数は送信機補償部6で補償されているとみなされる。光受信機9の伝達関数が適応フィルタによって補償されれば、適応フィルタの出力は伝送路歪の影響のみ受ける。この信号が、伝送路歪が付加された既知信号と比較され、その差分(二乗誤差)が最小化されることで、適応フィルタであるFIRフィルタ14cのフィルタ係数を光受信機9の逆伝達関数の時間応答として求めることができる。この逆伝達関数を求める手法は、一般的に下記に示すウィナー解又はLMSアルゴリズムとして知られている。
【0054】
【数3】
ここで、d(n)は伝送路歪が付加された既知信号、y(n)は適応フィルタの出力、e(n)はd(n)とy(n)の差、h(n)は適応フィルタの時間応答である。
【0055】
上記の例では、適応等化の回路によって、光送信機7の真の逆伝達関数を直接求めることができたため、ステップS303とステップS304は一体として処理できる。一方、光受信機9の真の伝達関数が求められる場合は、その伝達関数から真の逆伝達関数を計算する(ステップS304)。
【0056】
次に、推定された光受信機9の真の逆伝達関数を受信機補償部11に設定する(ステップS305)。設定方法は、ステップS105で示した方法と同じである。この時、前述したように、XI、XQ、YI、及びYQのそれぞれのレーンについて独立的に処理することも可能である。この場合、レーン間の遅延差についても抽出及び補償することが可能となる。以上より、第2の受信機伝達関数推定部14によって光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数を求めることができる。
【0057】
続いて、本実施の形態に係る光送受信機の動作を式を用いて説明する。以下の式においては、周波数を示す変数を“s”とし、各種信号と伝達関数をsの関数として表す。
【0058】
一般に、光送信機7の伝達関数TX(s)と光受信機9の伝達関数RX(s)は、以下に示すように振幅成分(伝達関数の絶対値)と位相成分(指数関数表示)の積で表される。
TX(s)=|TX(s)|・e^[jφ
TX(s)]
RX(s)=|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]
ここで、|RX(s)|はASE信号を入力して得られる光受信機9の仮の伝達関数RX_ASE(s)に相当する。φ
TX(s)は光送信機7の伝達関数の位相特性、φ
RX(s)は光受信機9の伝達関数の位相特性である。“^”は累乗を表す。
【0059】
位相成分は位相特性を用いて以下の三角関数を用いた式で表すこともできる。
e^[jφ
TX(s)]=COS(φ
TX(s))+j・SIN(φ
TX(s))
e^[jφ
RX(s)]=COS(φ
RX(s))+j・SIN(φ
RX(s))
【0060】
送信機伝達関数推定部8で推定した光送信機7の伝達関数をeTX(s)、第1の受信機伝達関数推定部13で推定した光受信機9の仮の伝達関数をeRX1(s)、第2の受信機伝達関数推定部14で推定した光受信機9の真の伝達関数をeRX2(s)でそれぞれ表す。光送信機7内の信号TL7bの周波数をs
TX、光受信機9内の局発LD9bの周波数をs
RX、それらの間の周波数オフセットs
TX−s
RXをΔs
0でそれぞれ表す。
【0061】
ここで、既知信号挿入部5から入力される既知信号の系列を、周波数領域の信号G(s)で表す。既知信号G(s)が光送信機7に入力されると、信号TL(周波数s
TX)が既知信号G(s)によって変調され、変調信号G(s+s
TX)として光送信機7から出力される。また、変調信号G(s+s
TX)が光受信機9に入力され復調されると、復調信号G(s+s
TX−s
RX)が出力される。周波数オフセットs
TX−s
RX=Δs
0が存在する場合、復調信号G(s+s
TX−s
RX)はG(s+Δs
0)で表される。また、光送信機7の伝達関数はTX(s+s
TX)で表される。なお、伝送路2における伝送特性は、送信機伝達関数推定部8及び第2の受信機伝達関数推定部14で補償されるため、以下の動作説明では省略する。
【0062】
既知信号G(s)を送信機補償部6に入力した時の光送信機7の出力信号はG(s+s
TX)・TX(s+s
TX)で表される。送信機補償部6はバイパスされ、既知信号は光送信機7の伝達関数の影響を受ける。光送信機7の出力信号は伝送路2を通って光受信機9に入力される。光受信機9の出力信号は下式で表される。この時、光送信機7の出力信号は送受間の周波数オフセットΔs
0と、光受信機9の伝達関数RX(s)の影響を受ける。
G(s+s
TX−s
RX)・TX(s+s
TX−s
RX)・RX(s)=G(s+Δs
0)・TX(s+Δs
0)・RX(s)
【0063】
光受信機9の出力信号は、データバッファ10を介して、送信機伝達関数推定部8に入力される。送信機伝達関数推定部8では、光受信機9の出力信号から既知信号G(s)を抽出し、種々の伝送特性の補償を行う。この際に周波数オフセットΔs
0を検出し、それを用いて周波数オフセット補償(s→s−Δs
0)を行う。周波数オフセット補償を行った後の信号はG(s)・TX(s)・RX(s−Δs
0)で表される。
【0064】
次に、周波数オフセット補償された既知信号から、光送信機7の伝達関数が推定される。具体的には、適応フィルタが適用され、光送信機7の伝達関数の逆関数が時間応答として直接求められる。この方法は以下の方法と等価である。即ち、周波数オフセット補償を行った後の信号を参照信号である既知信号G(s)で除して、その結果に対して光受信機9の補償を行うことで光送信機7の伝達関数を推定できる。参照信号である既知信号とは、伝送前の既知信号を示す。その逆数を計算することで、光送信機7の逆伝達関数を求めることができる。なお、光受信機9の補償は、事前に周波数オフセット補償を施した光受信機9の仮の伝達関数RX_ASE(s−Δs0)を用いて行われるため、光送信機7の伝達関数の推定値は以下となる。
eTX(s)=G(s)・TX(s)・RX(s−Δs
0)/G(s)/RX_ASE(s−Δs
0)
=G(s)・TX(s)・|RX(s−Δs
0)|・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]/G(s)/|RX(s−Δs
0)|
=TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]
光送信機7の逆伝達関数の推定値はeTX(s)^(−1)={TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]}^(−1)となる。推定された光送信機7の伝達関数と逆伝達関数は光受信機9の伝達関数の位相特性φ
RX(s−Δs
0)を含む。
【0065】
次に、光送信機7内のチューナブルレーザ7bの波長を変えることでその周波数をs
TX1に変更する。この時の送受間の周波数オフセットをs
TX1−s
RX=Δs
1と定義する。この状態でステップS202〜S204を実行すると、下式のように、周波数オフセットΔs
1における光送信機7の逆伝達関数が求まる。
{TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
1)]}^(−1)
【0066】
更に、光送信機7内のチューナブルレーザ7bの波長を変えて周波数オフセットΔs
2〜Δs
M−1に対する光送信機7の伝達関数を求めると以下のようになる。
{TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
2)]}^(−1)
・・・
{TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
M−1)]}^(−1)
【0067】
M個の周波数オフセットΔs
1〜Δs
M−1に対する光送信機7の逆伝達関数の平均化は下式で表される。
(1/M){{TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]}^(−1)・・・+{TX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
M−1)]}^(−1)}
=TX(s)^(−1)・(1/M){e^[jφ
RX(s−Δs
0)]}^(−1)・・・+{e^[jφ
RX(s−Δs
M−1)]}^(−1)}
【0068】
上式の(1/M){e^[jφ
RX(s−Δs
0)]}^(−1)・・・+{e^[jφ
RX(s−Δs
M−1)]}^(−1)}は、複数の周波数オフセットに対する光受信機9の逆伝達関数の位相成分の平均値であり、これをe^[jφ
RXAVE(s)]^(−1)と定義する。
【0069】
φ
RXAVE(s)は、複数の逆伝達関数の位相成分{e^[jφ
RX(s)]}^(−1)を平均化して求められる位相特性を示す関数である。これは、複数の伝達関数の位相成分e^[jφ
RX(s)]を平均化して求められる位相特性を示す関数とは厳密には異なる。しかし、後で説明するように、位相成分について、複数の逆伝達関数の代わりに複数の伝達関数を平均化して逆伝達関数を求める方法でも、近い効果を得ることが可能であり、それも本発明の技術的思想の範囲内である。また、複数の逆伝達関数の位相成分{e^[jφ
RX(s)]}^(−1)又は複数の伝達関数の位相成分e^[jφ
RX(s)]を平均化したものに対して、位相特性φ
RX(s)を平均化した後で指数関数表現したものは厳密には異なるが、近い効果を得ることが可能であり、これも本発明の技術的思想の範囲内である。
【0070】
送信機伝達関数推定部8の出力である光送信機7の逆伝達関数の平均値は下式で表される。
TX(s)^(−1)・{e^[jφ
RXAVE(s)]^}(−1)={TX(s)・e^[jφ
RXAVE(s)]}^(−1)
【0071】
なお、
図5に示す送信機伝達関数推定部8では、適応フィルタを構成するFIRフィルタのフィルタ係数が、逆伝達関数の時間応答として求められた。従って、これを平均することでも、光送信機7の逆伝達関数の平均値をその時間応答として求めることができる。これは、時間応答の平均化と周波数応答の平均化はフーリエ変換又は逆フーリエ変換の関係にあることから自明である。
【0072】
上述したように、ステップS2では、複数の周波数オフセットに対してそれぞれ推定した光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を平均化する。推定した光送信機7の伝達関数には、実際の光送信機7の伝達関数TX(s)が含まれている。ただし、上記の場合、この伝達関数TX(s)は複数の周波数オフセットに対して変わらない(平均しても同じ)ため、光受信機9の伝達関数の位相成分の平均化を選択的に行うことができる。これは、逆伝達関数又は位相特性に対しても同様である。
【0073】
光受信機9の真の伝達関数を求めるステップS3では、送信機補償部6にステップS2で推定した光送信機7の平均化逆伝達関数を設定し、第2の既知信号G2(s)を送信機補償部6に入力する。第2の既知信号G2(s)は、ステップS2で使用した既知信号と同じものでも異なるものでもよいが、ここでは便宜上G2(s)として区別する。既知信号G2(s)を送信機補償部6に入力した時の光送信機7の出力信号は下式で表される。
G2(s+s
TX)・[eTX(s+s
TX)]^(−1)・TX(s+s
TX)
=G2(s+s
TX)・{TX(s+s
TX)・e^[jφ
RXAVE(s+s
TX)]}^(−1)・TX(s+s
TX)
=G2(s+s
TX)・{e^[jφ
RXAVE(s+s
TX)]}^(−1)
【0074】
上記の光送信機7の出力信号は、伝送路2を通って光受信機9に入力される。この時、送受間の周波数オフセット(s
TX−s
RX=Δs
0)により、光受信機9の出力信号は下式で表される。
G2(s+s
TX−s
RX)・{e^[jφ
RXAVE(s+s
TX−s
RX)]}^(−1)・RX(s)
=G2(s+Δs
0)・{e^[jφ
RXAVE(s+Δs
0)]}^(−1)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]
【0075】
光受信機9の出力信号は、データバッファ10を介して第2の受信機伝達関数推定部14に入力される。第2の受信機伝達関数推定部14では、光受信機9の出力信号から第2の既知信号G2(s)を抽出し適応フィルタに入力する。また、第2の既知信号G2(s)に対しても伝送路歪みとして推定される種々の伝送特性を付加されるが、ここでは周波数オフセット以外は補償されていることとして説明を省略する。
【0076】
この時、周波数オフセットΔs
0が検出され、第2の既知信号G2(s)に事前に周波数オフセットΔs
0が付加される(s→s+Δs
0)。周波数オフセットΔs
0が付加された第2の既知信号はG2(s+Δs
0)で表される。
【0077】
次に、適応フィルタが適用され、光受信機9の真の伝達関数の逆関数が直接求められる。この方法は、光受信機9の出力信号から抽出した第2の既知信号を、周波数オフセットを付加した参照信号としての第2の既知信号で除することと等価である。参照信号としての第2の既知信号とは、伝送前の第2の既知信号を示す。従って、光受信機9の真の伝達関数は下式で表される。
G2(s+Δs
0)・{e^[jφ
RXAVE(s+Δs
0)]}^(−1)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]/G2(s+Δs
0)
={e^[jφ
RXAVE(s+Δs
0)]}^(−1)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]
=|RX(s)|・e^j[φ
RX(s)−φ
RXAVE(s+Δs
0)]
光受信機9の真の逆伝達関数は伝達関数の逆数で求まるため、{|RX(s)|・e^j[φ
RX(s)−φ
RXAVE(s+Δs
0)]}^(−1)となる。
【0078】
上述したキャリブレーションの結果、光送信機7の逆伝達関数{TX(s)・e^[jφ
RXAVE(s)]}^(−1)と光受信機9の真の逆伝達関数{|RX(s)|・e^j[φ
RX(s)−φ
RXAVE(s+Δs
0)]}^(−1)が求められた。これらは、光通信の運用時においてそれぞれ送信機補償部6と受信機補償部11に設定される。
【0079】
続いて、光通信の運用時における動作について説明する。上述したキャリブレーション実行時では、光送信機7のチューナブルレーザ7bの周波数はs
TX、光受信機9のレーザモジュール9bの周波数はs
RX、送受間の周波数オフセットはs
TX−s
RX=Δs
0を想定した。一方、光通信の運用時では、光送信機7のチューナブルレーザ7bの周波数がs
TXaに変動した場合を想定する。ただし、光受信機9のレーザモジュール9bの周波数はs
RXのままと仮定する。この時の周波数オフセットをs
TXa−s
RX=Δs
aと表す。
【0080】
光通信の運用時に、信号A(s)を送信側に入力した場合の光送信機7の出力信号は、チューナブルレーザ7bの周波数変動(s→s
TXa)により下式で表される。
A(s+s
TXa)・{TX(s+s
TXa)・e^[jφ
RXAVE(s+s
TXa)]}^(−1)・TX(s+s
TXa)
=A(s+s
TXa)・{e^[jφ
RXAVE(s+s
TXa)]}^(−1)
【0081】
上記の光送信機7の出力信号は、伝送路2を通って光受信機9に入力される。この時、送受間の周波数オフセットs
TXa−s
RX=Δs
aにより光受信機9の出力信号は下式で表される。
A(s+s
TXa−s
RX)・{e^[jφ
RXAVE(s+s
TXa−s
RX)]}^(−1)・RX(s)
=A(s+Δs
a)・{e^[jφ
RXAVE(s+Δs
a)]}^(−1)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]
=A(s+Δs
a)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]・{e^[jφ
RXAVE(s+Δs
a)]}^(−1)
【0082】
周波数オフセット補償(s→s−Δs
a)後の信号は下式となる。
A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^[jφ
RX(s−Δs
a)]・{e^[jφ
RXAVE(s)]}^(−1)
=A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RXAVE(s)]
なお、周波数オフセット補償は受信機補償部11の後段で実施することも可能である。
【0083】
次に、受信機補償部11において、光受信機9の真の伝達関数で補償すると、受信機補償部11の出力は以下の式で表される。ただし、補償する伝達関数は、検出した周波数オフセットΔs
aで事前に周波数オフセット補償(s→s−Δs
a)しておく。
A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RXAVE(s)]・{|RX(s−Δs
a)|・e^j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RXAVE(s−Δs
a+Δs
0)]}^(−1)
=A(s)・e^j[φ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))−φ
RXAVE(s)]
【0084】
上記の結果において、φ
RXAVE(s)は、送信機伝達関数推定部8において、複数の周波数オフセットに対して逆伝達関数を求め、それらを平均化し、それから計算した位相特性に等しい。ここで、φ
RXAVE(s)のsに対する変動が小さい場合、周波数オフセットに変動(Δs
a−Δs
0)があってもφ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))≒φ
RXAVE(s)とみなせる。この場合、受信機補償部11の出力はA(s)・e^j[φ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))−φ
RXAVE(s)]≒A(s)となり、周波数オフセットの変動によらず信号A(s)の再生が可能となる。即ち、周波数オフセット量Δsが、キャリブレーション時と光通信の運用時とで変動しても、良好な送信機補償及び受信機補償を行うことができ、信号A(s)の良好な再生が可能となる。
【0085】
続いて、本実施の形態の効果を比較例と比較して説明する。比較例では、光送信機7の信号TLとして、チューナブルレーザ7bではなく、周波数の変更ができないレーザダイオードを用いる。そして、送信機伝達関数推定部8が1つの周波数オフセットのみに対して光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を計算し、送信機補償部6に設定する。比較例でも、送受間で周波数オフセットΔs
0が存在している場合の補償動作を行うことができる。
【0086】
しかし、光送信機7のチューナブルレーザ7b又は光受信機9のレーザモジュール9bは、温度等の環境変化又は経年劣化のため、経時的に周波数が変動することが分っている。更に、レーザ周波数の揺らぎによっても周波数オフセットに数百MHz程度の変動が発生する場合がある。詳細な解析の結果、伝達関数を推定したキャリブレーション時と光通信の運用時との間で周波数オフセットが変動した場合に問題が発生することが分った。
【0087】
この問題発生のメカニズムについて説明する。ここで、光送信機7のチューナブルレーザ7bの周波数をs
TX、光受信機9のレーザモジュール9bの周波数をs
RX、それらの間の周波数オフセットs
TX−s
RXをΔs
0で表す。光通信の運用時に仮に光送信機7のチューナブルレーザ7bの周波数がs
TXaに変動し、光受信機9のレーザモジュール9bの周波数はs
RXのままである場合を考える。この時の周波数オフセットをs
TXa−s
RX=Δs
aと表す。
【0088】
ここで、光送信機7の伝達関数の推定値に含まれる光受信機9の伝達関数の位相成分が、光受信機9の真の伝達関数を求める際の光受信機9の伝達関数の位相特性に等しい場合は、光受信機9の真の伝達関数は|RX(s)|となる。これはステップ1で求めた光受信機9の仮の伝達関数と等しくなる。但し、送信機補償部6と受信機補償部11における補償用フィルタのタップの数が等しいか又は双方共に逆伝達関数を精密に表現できる必要がある。仮に送信機補償部6の補償用フィルタのタップの数が少なく、逆伝達関数の位相特性を表現する解像度が粗い場合(送受で補償用フィルタのタップ数が異なる場合はある)、前述した送信機補償部6の補償動作において、光送信機7の伝送特性を補償しきれない成分が残留する場合がある。この場合、この光送信機7の伝送特性の残留部分は上記の光受信機9の真の伝達関数に含まれてくることに留意する必要がある。
【0089】
キャリブレーション時では、光送信機7の伝達関数の推定値はTX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]、光受信機9の真の伝達関数の推定値は|RX(s)|となる。光通信の運用時にTX(s)・e^[jφ
RX(s−Δs
0)]の逆関数が送信機補償部6に設定され、|RX(s)|の逆関数が受信機補償部11に設定される。
【0090】
光通信の運用時に、信号A(s)を送信側に入力した場合の、光送信機7の出力信号は、信号TLの周波数変動(s→s
TXa)により下式で表される。
A(s+s
TXa)・{TX(s+s
TXa)・e^[jφ
RX(s+s
TXa−Δs
0)]}^(−1)・TX(s+s
TXa)
=A(s+s
TXa)・{e^[jφ
RX(s+s
TXa−Δs
0)]}^(−1)
【0091】
上記の光送信機7の出力信号は、伝送路2を通って光受信機9に入力される。この時、光受信機9の出力信号は、送受間の周波数オフセットs
TXa−s
RX=Δs
aを考慮すると下式で表される。
A(s+s
TXa−s
RX)・{e^[jφ
RX(s+s
TXa−s
RX−Δs
0)]}^(−1)・RX(s)
=A(s+Δs
a)・{e^[jφ
RX(s+Δs
a−Δs
0)]}^(−1)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]
=A(s+Δs
a)・|RX(s)|・e^[jφ
RX(s)]・{e^[jφ
RX(s+Δs
a−Δs
0)]}^(−1)
【0092】
周波数オフセット補償(s→s−Δs
a)後の信号は下式となる。
A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^[jφ
RX(s−Δs
a)]・{e^[jφ
RX(s−Δs
0)]}^(−1)
=A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}
なお、周波数オフセット補償は受信機補償部11の後段で実施することも可能である。
【0093】
次に、受信機補償部11において、光受信機9の真の伝達関数|RX(s)|で補償する(|RX(s)|で除する)。受信機補償部11の出力は以下の式で表される。但し、補償する伝達関数は、検出した周波数オフセットΔs
aで事前に周波数オフセット補償(s→s−Δs
a)しておく。
A(s)・|RX(s−Δs
a)|・e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}・|RX(s−Δs
a)|^(−1)
=A(s)・e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}
【0094】
上記の結果より、伝達関数の推定時の周波数オフセットΔs
0と光通信の運用時の周波数オフセットΔs
aが異なる場合、受信機補償部11の出力において、入力信号A(s)が光受信機9の伝達関数の位相特性の影響を受けることが分る。
【0095】
図9は、光受信機の伝達関数の位相特性の影響を説明するための図である。縦軸は位相特性φ
RX、横軸は周波数を示す変数sである。φ
RX(s−Δs
0)は実際の光受信機の伝達関数の位相特性φ
RX(s)をΔs
0だけs軸方向にシフトした特性となる。φ
RX(s−Δs
a)は位相特性φ
RX(s)をΔs
aだけシフトした特性となる。任意の周波数s
iではφ
RX(s−Δs
0)の値とφ
RX(s−Δs
a)の値が異なるため、[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]がゼロにならず、信号A(s)の再生に影響を与える。但し、Δs
a=Δs
0の場合は[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]がゼロになるため、信号A(s)の再生に影響を与えない。よって、伝達関数の推定時の周波数オフセットΔs
0と光通信の運用時の周波数オフセットΔs
aが異なる場合は、[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]の差が大きいほど、再生信号A(s)への影響も大きくなる。
【0096】
なお、一般的には、e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}の部分は、受信機補償部11の後段の適応等化フィルタで補償ができると考えられる。しかし、実際には電力の観点から適応等化フィルタのタップ数は制限されることが多く、適応等化フィルタでの補償は十分にはできない。受信機補償部11は静的な特性を補償するためタップ数を大きく設定できるので、この受信機補償部11での補償が望ましい。
【0097】
図10は、光受信機の伝達関数及び逆伝達関数の一般的な位相特性を示す図である。図の上側が伝達関数の位相特性φ
RX(s)を示し、下側が逆伝達関数の位相特性−φ
RX(s)を示している。光送信機7及び光受信機9において信号の通り道に高周波配線を用いる。この高周波配線において、高周波信号の反射によって伝送特性に周波数方向に対して周期的なリップルが生じる。光受信機9の伝達関数及び逆伝達関数の位相特性も周期的なリップルが生じる。即ち、位相特性が周波数方向に対して周期的に変動する。この変動周期は、光信号の周波数や高周波配線長等に依存する。従って、比較例において、光通信の運用時にキャリブレーション時と異なる周波数オフセットが生じた場合、受信機補償部11の出力A(s)・e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}のうち位相成分e^{j[φ
RX(s−Δs
a)−φ
RX(s−Δs
0)]}がゼロにならず信号A(s)の再生に影響を与える。
【0098】
図11は、複数の周波数オフセットに対して推定した光送信機の逆伝達関数の平均化を説明するための図である。本実施の形態では、複数の周波数オフセットに対して推定した光送信機7の逆伝達関数を平均化する。周波数オフセットが生じると、光受信機9の伝達関数の位相特性は、その周波数オフセット分、周波数方向(s方向)にシフトする。例えば、周波数オフセットがΔs
1の場合、位相特性はφ
RX(s−Δs
1)となる。同様に、周波数オフセットがΔs
M−1の場合、位相特性はφ
RX(s−Δs
M−1)となる。これは、それぞれの逆伝達関数における位相特性も同様である。ステップS201〜S205をM回繰り返すと、M個の周波数オフセットに対する逆伝達関数が求められる。ステップS206では、これらのM個の逆伝達関数の平均化が行われる。
図11では平均化された逆伝達関数から求められた位相特性が−φ
RXAVE(s)で表される。
【0099】
図示のように複数の周波数オフセットは、リップル周期に渡って細分するように設定する。具体的には、複数の周波数オフセットは、初回の周波数オフセットに対して推定した光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数の位相特性の変動周期を2以上に分割するように設定する。これにより、−φ
RXAVE(s)は平坦に近い特性となる。例えば、リップル周期が5GHzの場合、約1GHzずつ周波数オフセットを選べばよい。具体的には、キャリブレーション時の周波数オフセットΔs
0に1GHz、2GHz、3GHz、4GHzの4つの周波数オフセット量を加えたものに対して逆伝達関数を求め平均化する。この時、高い精度は必要としない。周期的な位相特性が平均化によって比較的緩やかな特性になればよい。設定する周波数オフセット量も多少のばらつきは許容できる。
【0100】
このようにφ
RXAVE(s)のsに対する変動が小さい場合、周波数オフセットに変動(Δs
a−Δs
0)があってもφ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))≒φ
RXAVE(s)とみなせる。この場合、受信機補償部11の出力はA(s)・e^j[φ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))−φ
RXAVE(s)]≒A(s)となり、周波数オフセットの変動によらず信号A(s)の再生が可能となる。即ち、周波数オフセット量Δsが、キャリブレーション時と光通信の運用時とで変動しても、良好な送信機補償及び受信機補償を行うことができ、信号A(s)の良好な再生が可能となる。なお、周波数変動自体が発生した場合においても同様の効果が得られるため、局発用のレーザの経年劣化又はレーザ周波数の揺らぎ(長期及び短期)によるQ値劣化も抑えることができる。また、[φ
RXAVE(s−(Δs
a−Δs
0))−φ
RXAVE(s)]は、完全にゼロになる必要はなく、本発明の適用以前の値より小さくなれば、それも本発明の効果である。
【0101】
また、位相特性が比較的周期的に変化する場合について説明したが、これに限定されず、周期的でなくても平均化する範囲と周波数オフセットの変更幅によって平滑化される場合も有り得る。そのような場合も本発明の効果は得られるので、本発明の技術的思想の範囲に含まれる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態では、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定する処理を複数の周波数オフセットに対してそれぞれ実施し、複数の周波数オフセットに対して推定した光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数或いはその位相特性を平均化して光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を求める。この時、周波数に対して位相の急激な変化が低減されるように平均化が行われる。これにより、経年劣化又はレーザ周波数の揺らぎによりキャリブレーション時と運用時との間で周波数オフセットが変動した場合でも伝送特性の良好な推定又は補償を行うことができる。
【0103】
なお、本実施例の形態では、光送信機7の信号TLをチューナブルレーザ7bとしたが、光受信機9のレーザモジュール9bをチューナブルレーザとしてもよい。光送信機7と光受信機9の少なくとも一方のキャリア周波数が可変であって、送受間で複数の周波数オフセットを設定できれば手段は限定しない。チューナブルレーザは、一般的に普及しており、外部から波長に相当するデータを設定することで容易に波長、即ち周波数を変更することができる。光伝送システムで使用されるチューナブルレーザ7bは例えば中心周波数を100GHz程度のステップで複数の伝送チャネルに切り替える機能と共に中心チャネルの周波数をMHz単位程度で調整する機能を持っている。また、チューナブルレーザ7bに周波数の測定器を付加してもよい。
【0104】
また、上記の平均化では、複数の周波数オフセットに対する逆伝達関数の平均化について示した。しかし、上述したように、逆伝達関数の時間応答を示すFIRフィルタのタップ係数の平均化でもよい。更には、計算上多少の違いが生じる場合もあるが、伝達関数を平均化した後に逆伝達関数を求めても位相特性の変動を低減できるため、本発明の効果を得ることができる。更に、伝達関数及び逆伝達関数の位相特性自体を平均化することでも、位相特性の変動を低減できるため、本発明の効果を得ることができる。
【0105】
ここで、位相特性の平均化、伝達関数(位相成分)の平均化、逆伝達関数(位相成分)の平均化の違いについて説明する。3つの位相特性をa(s)、b(s)、c(s)とすると、それらの伝達関数の位相成分はそれぞれe^ja(s)、e^jb(s)、e^jc(s)、逆伝達関数の位相成分はそれぞれe^−ja(s)、e^−jb(s)、e^−jc(s)となる。位相特性の平均化は、位相の和を用いて[a(s)+b(s)+c(s)]/3で計算される。伝達関数の平均化は、ベクトル合成を用いて[e^ja(s)+e^jb(s)+e^jc(s)]/3で計算される。逆伝達関数の平均化は、ベクトル合成を用いて[e^−ja(s)+e^−jb(s)+e^−jc(s)]/3で計算される。これらはそれぞれ異なるが、位相特性の平均化から逆伝達関数を求めたもの、伝達関数の平均化から逆伝達関数を求めたもの、逆伝達関数の平均化は、比較的同じ値を取る場合もある。そこで、これらの何れかの計算から、光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を求める。
【0106】
また、これまでの説明では、光受信機9の仮の伝達関数を、光受信機9の入力端からASE信号を入力して取得した|RX(s)|とした。しかし、これに限らず、例えば光受信機9の仮の伝達関数をRX(s)=1とすることもできる。これは、仮の伝達関数を推定するステップを省略した場合にも適用できる。この場合でも推定した光送信機7の伝達関数には光受信機9の伝送特性(振幅成分及び位相成分の両者)が含まれるため、周波数オフセットの変動により補償の劣化が発生する。そのような場合も、複数の周波数オフセットに対する光送信機7の伝達関数の推定値の平均化によって、本発明の効果は得られるので、本発明の技術的思想の範囲に含まれる。
【0107】
また、送信機伝達関数推定部8、第1の受信機伝達関数推定部13及び第2の受信機伝達関数推定部14において伝達関数又は逆伝達関数を求める方法、並びに、送信機補償部6及び受信機補償部11における補償の方法は、適応等化に限定されず、特許文献1の
図6及び
図8の実施例に示すように周波数領域で計算する方法でもよい。
【0108】
また、
図5に示した送信機伝達関数推定部8では、送信部1から受信部3に第1の既知信号を伝送した時に受信部3が取得したデジタルデータから第1の既知信号が抽出され、それが伝送路特性及び光受信機9の仮の伝達関数で補償され、伝送前の第1の既知信号と比較されて、光送信機の伝達関数又は逆伝達関数が推定される。しかし、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定する方法はこれに限定されない。抽出した第1の既知信号は光送信機7の伝達関数、伝送路特性、及び光受信機9の伝達関数の影響を受けているため、例えば、抽出した第1の既知信号と、伝送前の既知信号に伝送路特性及び光受信機9の仮の伝達関数を付加した信号とを比較することでも、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定することは可能である。さらに、抽出した第1の既知信号を伝送路特性又は光受信機9の仮の伝達関数で補償した信号と、伝送路特性と光受信機9の仮の伝達関数のうち抽出した第1の既知信号に対して補償しなかったものを付加した伝送前の第1の既知信号とを比較することでも、光送信機7の伝達関数又は逆伝達関数を推定することができる。
【0109】
上記の推定方法の変形は第2の受信機伝達関数推定部14の推定方法においても成り立つ。
図7に示した第2の受信機伝達関数推定部14では、光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数を用いて光送信機7の伝達特性を補償した送信部1から受信部3に第2の既知信号を伝送した時に、受信部3で取得したデジタルデータから第2の既知信号が抽出され、伝送前の第2の既知信号に伝送路特性が付加された信号と比較されて、光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数が推定される。しかし、光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定する方法はこれに限定されない。例えば、抽出した第2の既知信号を伝送路特性で補償した信号と、伝送前の第2の既知信号とを比較することでも光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数は推定できる。さらに、第2の既知信号を送信側で予め光送信機7の平均化伝達関数又は平均化逆伝達関数で補償しない場合、受信部3で取得したデジタルデータから抽出した第2の既知信号に対して光送信機7の平均化伝達関数及び伝送路特性のうち少なくとも1つを補償、或いは1つも補償しない信号と、光送信機7の平均化伝達関数及び伝送路特性のうち抽出した第2の既知信号に対して補償しなかったものを付加した伝送前の第2の既知信号とを比較することによっても、光受信機9の真の伝達関数又は逆伝達関数を推定することができる。