【実施例】
【0022】
次に、本発明の接合体の製造方法に係る実施例(実施例1,2)と、比較例(比較例1,2及び3,4)について説明する。
【0023】
実施例1,2、比較例1,2,3,4は、いずれも金属部材11としてJIS規格 A5052のアルミニウム合金板を用いた。各接合面15には、表1に示す各種のレーザ光を照射し、それぞれ
図1に示すような複数のディンプル13を形成した。
【0024】
実施例1,2、比較例1,2、及び比較例3,4のレーザ加工条件は、それぞれ表1に示す通りである。
【0025】
【表1】
【0026】
そして、金属部材11をインサート成形することで、樹脂材17(ガラス繊維30%含有PBT)と金属部材11との重ね継手試験片を作製した。この重ね継手試験片を、ISO19095の『樹脂−金属異種材料複合材の特性評価試験方法』に基づいて引張せん断強度(接合強度)を測定した。
【0027】
表1に示すように、実施例1,2のアルミニウム板には、波長515nm、スポット径16μmのピコ秒レーザを接合面15に照射して、直径φDが20μmのディンプル13を複数加工した。また、比較例1,2のアルミニウム板には、パルス幅が1nsから500nsのパルスレーザ(ナノ秒レーザと定義する)を、波長1064nm、スポット径が59μmとして接合面15に照射して、直径φDが80μmのディンプル13を複数加工した。更に、比較例3,4のアルミニウム板には、波長1030nm、スポット径170μmの連続レーザ光を接合面15に照射して、直径φDが300μmのディンプル13を複数加工した。
【0028】
なお、実施例1と実施例2、比較例1と比較例2、比較例3と比較例4は、それぞれディンプル13の加工周期(隣接するディンプル13間の距離)を調整して加工面積を異ならせたもので、その他の条件はそれぞれの組で同一である。なお、加工面積とは、接合面15上でディンプル13をレーザ光で加工した、被レーザ加工面の合計面積を表している。
【0029】
図2は実施例1,2におけるピコ秒レーザの照射により接合面に形成されたディンプル13の顕微鏡写真、
図3は
図2に示す領域Aの拡大顕微鏡写真である。
図2,
図3に示すように、ディンプル13の内周面13aには、周期的構造の微細凹凸部19が多数形成されており、数十〜数百μmオーダーの凹凸加工と同時に、サブμmオーダーの凹凸加工が行われたことがわかる。
【0030】
図4は比較例1、2におけるナノ秒レーザ光の照射により接合面に形成された凹部の顕微鏡写真、
図5は
図4に示す領域Bの拡大顕微鏡写真である。
図4、
図5に示すように、比較例1、2においては、ディンプル13の内周面13aに凹凸構造が形成されているが、実施例1,2の微細凹凸部19と比較するとその周期性は高くない。
【0031】
図6は比較例3,4における連続レーザ光の照射により接合面に形成された凹部の顕微鏡写真、
図7は
図6に示す領域Cの拡大顕微鏡写真である。
図6、
図7に示すように、ディンプル13の内周面13aは、凹凸構造のない滑らかな面となっている。
【0032】
実施例1,2、比較例1,2及び比較例3,4の接合強度の評価結果を、それぞれのディンプル径、加工面積と共に表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示すように、実施例1,2の接合体は、ディンプル13の内周面13aに周期的構造の微細凹凸部19が形成されて、比較例1〜4よりもアンカー効果が大きい。これは、後述するように、ディンプル13の内部に充填された樹脂材17に作用する応力が分散され、高い接合強度が得られたものと考えられる。
【0035】
比較例1,2の接合体100は、ディンプル13の内周面13aに凹凸構造が形成されてはいるものの、実施例1,2の微細凹凸部19と比較すると周期性が高くない。そのため、接合強度も実施例1,2と比較して劣っている。
【0036】
比較例3,4の接合体100は、ディンプル13の内周面13aに凹凸構造が形成されておらず、平滑である。そのため、接合強度は、実施例1,2と比較例1,2よりも小さくなった。また、接合強度については、上記実施例、比較例のいずれについても、加工面積の増大に伴って大きくなっている。
【0037】
上記したように、加工面積が同程度であっても、実施例1,2に示すように、ディンプル13の内周面13aに周期的な微細凹凸部19があると、接合強度が大きくなる。つまり、実施例1、2によれば、僅かな加工面積でも大きな接合強度が得られる。
【0038】
次に、ディンプル13の内周面13aの微細凹凸構造が、接合強度に及ぼす影響について有限要素法を用いて解析した解析結果について説明する。
【0039】
図8は有限要素法による解析に使用した解析モデルを示す説明図である。
ディンプル13は円錐台形状でモデル化し、ディンプル13の内周面13aの微細凹凸構造は断面矩形状の環状の凹凸を用いてモデル化した。
図8に示す解析モデルの樹脂材17の端面に荷重Fを負荷した場合の樹脂材17の応力分布を調べた。
【0040】
図9はディンプル13の内周面13aに微細凹凸部19を有する場合の樹脂材17のる応力分布図であり、
図10は内周面13aに微細凹凸部を有しない場合の樹脂材17の応力分布図である。
図9に示すように、ディンプル13の内周面13aに凹凸構造が形成された場合、ディンプル13内の樹脂材17に作用する応力が分散されやすくなる。
図10に示す内周面13aに凹凸構造が形成されない場合と比較すると、樹脂材17に作用する最大応力が低下していることがわかる。最大応力は、ディンプル13と接合面15との接続部における荷重負荷側に生じるため、ディンプル13の深い所よりも浅い所で応力を分散させる構造にすることが望ましい。
【0041】
ディンプル13の内周面13aに形成された微細凹凸部19の平均周期と、ディンプル13内に充填された樹脂材17に作用する応力との関係を表3に示す。なお、表3では、ディンプル13の内周面13aに凹凸構造が形成されない場合に、樹脂材17に作用する応力を100として、各応力を応力比として示している。
【0042】
【表3】
【0043】
ディンプル13の内周面13aにおける微細凹凸部19の平均周期Pが小さくなると、樹脂材17に作用する応力が低下する。したがって、微細凹凸部19の平均周期Pは、小さくすることが望ましい。
【0044】
なお、本解析では、それぞれの解析モデルにおいて、樹脂材17に等しい荷重を負荷しているが、ディンプル13の内周面13aにおける微細凹凸部19の有無や、微細凹凸部19の平均周期Pによって樹脂材17に作用する応力が異なる。つまり、樹脂材に作用する応力が小さければ、樹脂材17での破断が起こりにくくなり、金属部材11と樹脂材17との接合強度が高くなる。これらのことから、ディンプル13の内周面13aに微細凹凸部19を形成することで、金属部材11と樹脂材17との接合強度を向上できる。
【0045】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0046】
例えば、上記実施形態では、金属部材と樹脂材との接合体について説明したが、ピコ秒レーザは、可視光や近赤外線光が通過してしまう材料の加工に対しても有効であり、金属部材に限定されず、ガラスや特殊ポリマー等にも適用可能である。
【0047】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 金属部材の接合面に樹脂材が接合された接合体の製造方法であって、
前記金属部材の前記接合面に、ピコ秒レーザを同一加工点に繰り返し照射して凹部を形成するとともに、前記凹部の内周面に前記ピコ秒レーザによるアブレーションで微細凹凸部を形成することを前記接合面上の複数箇所で繰り返し行い、前記接合面に複数の前記凹部を形成する工程と、
複数の前記凹部に前記樹脂材を充填させて、前記金属部材と前記樹脂材とを接合する工程と、
を有する接合体の製造方法。
この接合体の製造方法によれば、金属部材に凹部を形成するとともに、凹部の内周面に微細凹凸部を形成し、樹脂材を充填させることで、微細凹凸部による樹脂材のアンカー効果が高められ、接合強度が高い接合体を形成できる。
【0048】
(2) 前記ピコ秒レーザにより、前記微細凹凸部に周期構造を自己組織的に形成する(1)に記載の接合体の製造方法。
この接合体の製造方法によれば、金属部材の凹部に周期構造を有する微細凹凸部を形成できるため、金属部材と樹脂材との接合面での局所的な接合強度のばらつきを小さくでき、接合体全体としての接合強度を向上できる。
【0049】
(3) 前記ピコ秒レーザを、1発目の照射のパルスレーザ光と、当該1発目のパルスレーザ光の照射からアブレーションプロセスに基づいた蒸散開始までの極短時間後に照射する2発目のパルスレーザ光とを照射して、前記微細凹凸部を形成する(2)に記載の接合体の製造方法。
この接合体の製造方法によれば、極短時間のパルス間隔でピコ秒レーザを照射してアブレーション加工することで、周期構造を有する微細凹凸部を熱影響が少ない状態で形成できる。
【0050】
(4) 複数の前記凹部を、前記ピコ秒レーザを走査させて形成する上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の接合体の製造方法。
この接合体の製造方法によれば、接合面に複数の凹部を簡単に形成することができる。