特許第6984825号(P6984825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984825金属元素含有ナノ粒子を用いたヒドロシリル化による有機ケイ素化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984825
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】金属元素含有ナノ粒子を用いたヒドロシリル化による有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20211213BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20211213BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20211213BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20211213BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20211213BHJP
   B01J 31/04 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C07F7/18 B
   C07F7/18 P
   C07F7/08 B
   C07F7/08 Q
   B01J35/02 H
   B01J23/89 Z
   B01J23/42 Z
   B01J31/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-561901(P2018-561901)
(86)(22)【出願日】2017年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2017046103
(87)【国際公開番号】WO2018131430
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2020年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-4391(P2017-4391)
(32)【優先日】2017年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】林 賢今
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−520019(JP,A)
【文献】 特開2015−129103(JP,A)
【文献】 特開2012−000593(JP,A)
【文献】 BANDARI, Rajendar, et al.,Catalysis Science & Technology,2012年,2,pp. 220-226,特にScheme 3, Table 2
【文献】 BAI, Ying, et al.,Journal of Colloid and Interface Science,2013年,394,pp. 428-433,特にScheme 1, Table 1-3
【文献】 ALAUZUN, Johan, et al.,Chemistry of Materials,2007年,19(26),pp. 6373-6375,特にTable 1
【文献】 VORGNKOV, M.G., et al.,Journal of Organometallic Chemistry,1980年,190(4),pp.335-341,特にTABLE 1, ISSN 0022-328X
【文献】 SPEIER, John L. et al.,Journal of the American Chemical Society,1957年,Vol.79, No.4,p.974-979,974頁右欄4段落, Table I, ISSN 1520-5126
【文献】 春田 正毅,金の新しい触媒作用:ナノ粒子からクラスターへ,Molecular Science,2012年,6(1),AA056,特に1.はじめにの項, ISSN 1881-8404
【文献】 KAWASAKI, Hideya et al.,Chemical Communications,2010年,46(21),p.3759-3761,特に3759頁左欄4段落−同頁右欄1段落, Fig. 1, ISSN 1364-548X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子の存在下、アルケン類とヒドロシラン類とを反応させて有機ケイ素化合物を生成する反応工程を含み、
前記反応工程が、前記白金元素含有ナノ粒子に加えて、表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子の存在下で行われ、
前記ヒドロシラン類が、下記式(B)で表される化合物である、
ことを特徴とする有機ケイ素化合物の製造方法。
【化1】
(式(B)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
【請求項3】
前記アルケン類が、下記式(A−1)で表される化合物、又は下記式(A−2)で表される化合物である、請求項1に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化2】
(式(A−1)中、Rは炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化3】
(式(A−2)中、Rは炭素原子数1〜19の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
前記白金元素含有ナノ粒子と前記鉄元素含有ナノ粒子の使用比率(鉄元素の物質量/白金元素の物質量)が、0.01〜20である、請求項1又は3に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物の製造方法に関し、より詳しくは金属元素含有ナノ粒子を用いたヒドロシリル化による有機ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのヒドロシリル化反応は、化学工業上最も有用な反応の1つである。得られる有機ケイ素化合物(アルキルシラン)は、潤滑剤、接着剤、封止剤及びシリコーン系コーティング剤製造用の原材料なるとともに、檜山クロスカップリング反応原料となるなど、有機合成上有用なビルディングブロックである。
オレフィンのヒドロシリル化反応に用いられる触媒としては、Speier’s触媒(非特許文献1参照)、Karstedt’s触媒(非特許文献2参照)、鉄−ピンサー型錯体触媒(非特許文献3参照)、ニッケル−ピンサー型錯体触媒(非特許文献4参照)、ニッケル錯体とNaBHEt(非特許文献5参照)、ニッケルナノ粒子触媒(非特許文献6参照)等が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.L.Speier, J.A.Webster, G.H.Barnes, J.Am.Chem.Soc. 1957, 79, 974.
【非特許文献2】P.B.Hitchcock, M.F.Lappert, N.J.W.Warhurst, Angew.Chem.Int.Ed.Engl. 1991, 30, 43.
【非特許文献3】S.C.Bart, E.Lobkovsky, P.J.Chirik, J.Am.Chem.Soc. 2004, 126, 13794.
【非特許文献4】I.Buslov, J.Becouse, S.Mazza, M.Montandon−Clerc, X.Hu, Angew.Chem.Int.Ed. 2015, 54, 14523.
【非特許文献5】V.Srinivas, Y.Nakajima, W.Ando, K.Sato, S.Shimada, JOMC, 2016, 809, 57.
【非特許文献6】I.Buslov, F.Song, X.Hu, Angew.Chem.Int.Ed. 2016, 55, 12295.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルケン類のヒドロシリル化反応に有効な触媒を見出し、ヒドロシリル化反応を利用した新たな有機ケイ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子等の金属元素含有ナノ粒子が、アルケン類のヒドロシリル化反応において有効な触媒となることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子の存在下、アルケン類とヒドロシラン類とを反応させて有機ケイ素化合物を生成する反応工程を含むことを特徴とする有機ケイ素化合物の製造方法。
<2> 前記反応工程が、前記白金元素含有ナノ粒子に加えて、表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子の存在下で行われる、<1>に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
<3> 前記アルケン類が、下記式(A−1)で表される化合物、又は下記式(A−2)で表される化合物である、<1>又は<2>に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化1】

(式(A−1)中、Rは炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化2】

(式(A−2)中、Rは炭素原子数1〜19の炭化水素基を表す。)
<4> 前記ヒドロシラン類が、下記式(B)で表される化合物である、<1>〜<3>の何れかに記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【化3】

(式(B)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
<5> 前記白金元素含有ナノ粒子と前記鉄元素含有ナノ粒子の使用比率(鉄元素の物質量/白金元素の物質量)が、0.01〜20である、<2>〜<4>の何れかに記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効率良く有機ケイ素化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の分散液の写真である((a)表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子の分散液、(b)表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子の分散液)。
図2】実施例1で得られた生成物のMSスペクトルである。
図3】実施例6で得られた生成物のMSスペクトルである。
図4】実施例8で得られた生成物のMSスペクトルである。
図5】実施例10で得られた生成物のMSスペクトルである。
図6】実施例13で得られた生成物のMSスペクトルである。
図7】実施例14で得られた生成物のMSスペクトルである。
図8】実施例15で得られた生成物のMSスペクトルである。
図9】表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子等の赤外線分光法(IR)の測定結果である。
図10】表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子と表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子の混合物等の赤外線分光法(IR)の測定結果である。
図11】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の紫外線可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルの結果である。
図12】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)の撮影像とエネルギー分散型X線分光法(EDS)の測定結果である(図面代用写真)。
図13】表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子と表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子の混合物等の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)の撮影像とエネルギー分散型X線分光法(EDS)の測定結果である(図面代用写真)。
図14】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子のX線光電分光法(XPS)の測定結果である。
図15】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子のX線光電分光法(XPS)の測定結果である。
図16】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子のX線光電分光法(XPS)の測定結果である。
図17】表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の蛍光X線(XRF)の測定結果である。
図18】表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子と表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子の混合比率と有機ケイ素化合物の収率を表したグラフである。
図19】表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子と表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子の混合物とSpeier’s触媒の反応終了後の写真である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0010】
<有機ケイ素化合物の製造方法>
本発明の一態様である有機ケイ素化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、「表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子」の存在下、「アルケン類」と「ヒドロシラン類」とを反応させて「有機ケイ素化合物」を生成する反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。
本発明者らは、表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子等の金属元素含有ナノ粒子が、アルケン類のヒドロシリル化反応、特に第三級ヒドロシランを使用したヒドロシリル化反応において有効な触媒となることを見出したのである。表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子は、取り扱いが容易で、製造工程を簡略化することができるほか、反応に使用した後に回収して触媒として再利用できる利点がある。例えば、Speier’s触媒やKarstedt’s触媒等の錯体触媒は、高い触媒活性が得られるものの、一般的に反応終了後に失活したり、分解したりしてしまうため、再利用が困難となる。表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子は、溶媒によって表面が保護されているため、劣化しにくく、触媒活性を維持し易いものと考えられる。従って、本発明の製造方法は、経済性に優れる方法であると言えるのである。
なお、「白金元素含有ナノ粒子」とは、粒子径(累積中位径(Median径))が0.5〜100nmの範囲にあり、白金元素を構成元素として含む粒子を意味するものとする。
また、「表面に溶媒が配位した」とは、白金元素含有ナノ粒子の表面の白金原子に溶媒分子が配位していることを意味する。なお、「溶媒」が白金元素含有ナノ粒子に配位しているか否かについては、分散剤等による表面処理を施すことなく、「溶媒」に安定的に分散するか否かで判断することができる。即ち、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を配位させた白金元素含有ナノ粒子は、DMFと親和性のある「溶媒」に安定的に分散させることができる。
また、「アルケン類」とは炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有する有機化合物を、「ヒドロシラン類」とはケイ素−水素結合(Si−H)を少なくとも1つ有する有機ケイ素化合物を、「有機ケイ素化合物」とは炭素−ケイ素結合(C−Si)を少なくとも1つ有する有機化合物を意味するものとする。従って、「アルケン類」と「ヒドロシラン類」の反応として、例えば下記の反応式で示されるような反応が挙げられる(「アルケン類」が「1−デセン」であり、「ヒドロシラン類」がトリメチルシランである。)。
【化4】

以下、「アルケン類」、「ヒドロシラン類」、反応工程の条件等について詳細に説明する。
【0011】
(アルケン類)
反応工程において使用する「アルケン類」の具体的種類は、特に限定されず、製造目的である有機ケイ素化合物に応じて適宜選択されるべきであるが、アルケン類としては下記式(A)で表される化合物が挙げられる。以下、「式(A)で表される化合物」について詳細に説明する。
【化5】

(式(A)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。但し、R〜Rの2以上が炭化水素基である場合、2以上の炭化水素基が連結して環状構造を形成していてもよい。)
式(A)中のR〜Rは、それぞれ独立して「水素原子」、又は「酸素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基」を表しているが、「炭化水素基」は、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。「酸素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」とは、炭化水素基の水素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味する。
〜Rが炭化水素基である場合の炭化水素基に含まれる官能基としては、エーテル基(オキサ基,−O−)、チオエーテル基(チア基,−S−)、エステル基(−C(O)−O−)等が挙げられる。
〜Rが炭化水素基である場合の炭化水素基の炭素原子数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下であり、R〜Rが芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
〜Rとしては、水素原子、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、n−ブチル基(−,−Bu)、t−ブチル基(−,−Bu)、n−ペンチル基(−11)、n−ヘキシル基(−13,−Hex)、n−オクチル基(−17,−Oct)、メチルチオメチル基(−CHSCH)、シクロヘキシル基(−11,−Cy)、フェニル基(−C,−Ph)等が挙げられる。
式(A)で表される化合物としては、R=R=R=Hである下記式(A−1)で表される化合物、下記式(A−2)で表される化合物が挙げられる。
【化6】

(式(A−1)中、Rは炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化7】

(式(A−2)中、Rは炭素原子数1〜19の炭化水素基を表す。)
具体的な式(A)で表される化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化8】
【0012】
(ヒドロシラン類)
反応工程において使用する「ヒドロシラン類」の具体的種類は、特に限定されず、製造目的である有機ケイ素化合物に応じて適宜選択されるべきであるが、ヒドロシラン類としては第三級ヒドロシランである下記式(B)で表される化合物が挙げられる。以下、「式(B)で表される化合物」について詳細に説明する。
【化9】

(式(B)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
式(B)中のRは、それぞれ独立して「炭素原子数1〜20の炭化水素基」、「炭素原子数1〜10のアルコキシ基」を表しているが、「炭化水素基」は、R等の場合と同義である。また、Rが炭化水素基の場合の炭化水素基の炭素原子数は、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下であり、Rが芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。また、Rがアルコキシ基の場合のアルコキシ基の炭素原子数は、通常8以下、好ましくは6以下である。
としては、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、n−ブチル基(−,−Bu)、t−ブチル基(−,−Bu)、n−ペンチル基(−11)、n−ヘキシル基(−13,−Hex)、n−オクチル基(−17,−Oct)、シクロヘキシル基(−11,−Cy)、フェニル基(−C,−Ph)、メトキシ基(−OCH,−OMe)、エトキシ基(−OC,−OEt)、n−プロポキシ基(−O,−OPr)、i−プロポキシ基(−O,−OPr)、n−ブトキシ基(−O,−OBu)、t−ブトキシ基(−O,−OBu)、フェノキシ基(−OC,−OPh)等が挙げられる。
具体的な式(B)で表される化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化10】
【0013】
反応工程におけるヒドロシラン類の使用量(仕込量)は、アルケン類の炭素−炭素二重結合に対して物質量換算で、通常1以上であり、通常20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは6倍以下である。前記範囲内であると、より効率良く有機ケイ素化合物を生成することができる。
【0014】
(表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子)
反応工程において使用する「表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子」の溶媒の具体的種類、組成等は、特に限定されないが、以下、具体例を挙げて詳細に説明する。
溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。なお、表面に配位子した溶媒は、適宜置換することができる。例えばDMFが配位した金属白金ナノ粒子のDMF分散液からロータリーエバポレーター等を用いてDMFを留去し、金属白金ナノ粒子を固形物として得る。そして、固形物をTHF等のその他の溶媒に接触させ、撹拌等を行ってなじませることにより、THFが配位した金属白金ナノ粒子を得ることができる。
白金元素含有ナノ粒子は、白金元素のほかに酸素元素を含むことが好ましく、酸素原子がドープされている金属白金粒子、又は表面が酸化された金属白金粒子が特に好ましい。
白金元素含有ナノ粒子の粒子径(累積中位径(Median径))は、好ましくは1.5nm以上、より好ましくは2.0nm以上、さらに好ましくは3.0nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。なお、累積中位径(Median径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0015】
表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子の調製方法は、特に限定されないが、白金元素を含む前駆体を極性溶媒中で加熱還流する方法が挙げられる。
以下、白金元素を含む前駆体を極性溶媒中で加熱還流する方法における条件等の詳細を説明する。
白金元素を含む前駆体の種類としては、塩化白金酸(IV)等が挙げられる。
極性溶媒としては、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。この中でも、N,N−ジメチルホルムアミドが特に好ましい。N,N−ジメチルホルムアミドを使用することによって、触媒活性に優れる白金元素含有ナノ粒子を調製し易くなる。
還流は、撹拌子等を使用して撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌子の回転数は、通常500rpm以上、好ましくは800rpm以上、より好ましくは1000rpm以上であり、通常2000rpm以下、好ましくは1800rpm以下、より好ましくは1700rpm以下である。
還流時間は、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは10時間以下である。
還流は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行っても、又は空気雰囲気下で行ってもよい。
【0016】
反応工程における表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子の使用量(仕込量)は、アルケン類に対して白金元素の物質量換算で、通常0.001mol%以上、好ましくは0.005mol%以上、より好ましくは0.008mol%以上であり、通常1.0mol%以下、好ましくは0.8mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下である。前記範囲内であると、より効率良く有機ケイ素化合物を生成することができる。
【0017】
(表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子)
反応工程は、表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子に加えて、「表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子」の存在下で行われることが好ましい。表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子を使用することによって、白金の使用量を低減できるとともに、より効率良く有機ケイ素化合物を生成することができる。なお、「鉄元素含有ナノ粒子」とは、白金元素含有ナノ粒子と同様に、粒子径(累積中位径(Median径))が0.5〜100nmの範囲にあり、鉄元素を構成元素として含む粒子を意味するものとする。なお、「表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子」の溶媒の具体的種類、調製方法等は、前述した「表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子」のものと同様であるが、鉄元素含有ナノ粒子の組成、鉄元素を含む前駆体について、以下詳細に説明する。
鉄元素含有ナノ粒子は、鉄元素のほかに酸素元素を含むことが好ましく、酸素原子がドープされている金属鉄粒子若しくは鉄合金粒子、又は酸化鉄粒子であることがより好ましく、α−Fe粒子であることが特に好ましい。
鉄元素を含む前駆体の種類は、特に限定されないが、塩化鉄(III)(FeCl)、臭化鉄(III)(FeBr)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCO)、クエン酸鉄(III)(FeC)、硫酸アンモニウム鉄(III)(FeNH(SO)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(CHCOCHCOCH)等が挙げられる。この中でも、酢酸鉄(II)、鉄(III)アセチルアセトナートが好ましく、酢酸鉄(II)が特に好ましい。これらを使用することによって、触媒活性に優れる鉄元素含有ナノ粒子を調製し易くなる。
【0018】
反応工程における表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子の使用量(仕込量)は、アルケン類に対して鉄元素の物質量換算で、通常0.001mol%以上、好ましくは0.005mol%以上、より好ましくは0.008mol%以上であり、通常1.0mol%以下、好ましくは0.5mol%以下、より好ましくは0.3mol%以下である。
反応工程における表面に溶媒が配位した白金元素含有ナノ粒子と表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子の使用比率(鉄元素の物質量/白金元素の物質量)は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
前記範囲内であると、より効率良く有機ケイ素化合物を生成することができる。
【0019】
反応工程は、溶媒を使用しても、無溶媒であってもよい。また、溶媒を使用する場合の溶媒の種類も、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0020】
反応工程の反応温度は、通常70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、通常130℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下である。上記範囲内であれば、有機シラン化合物をより収率良く製造することができる。
反応工程の反応時間は、通常2時間以上、好ましくは4時間以上、より好ましくは8時間以上であり、通常48時間以下、好ましくは36時間以下、より好ましくは28時間以下である。
反応工程は、通常窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行う。
【0021】
反応工程によって生成する有機ケイ素化合物の具体的種類は、特に限定されず、製造目的に応じて適宜選択することができるが、下記式(C)又は(D)で表される化合物が挙げられる。
【化11】

(式(C)及び(D)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基を表す。)
なお、R、R、R、R、Rは、式(A)で表される化合物、及び式(B)で表される化合物のものと同義である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0023】
<合成例1:表面に溶媒が配位した金属白金ナノ粒子の分散液の調製>
ジムロート冷却器を連結した100mLの三口フラスコに、空気雰囲気下で脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れ、140℃に加熱したオイルバスに浸漬して、空気雰囲気下、撹拌子を1500rpmで回転させながら還流条件で10分程度予備加熱を行った。その後、空気雰囲気下で塩化白金酸(IV)水和物(0.05mmol)を加え、撹拌しながら140℃で8時間加熱還流を行った結果、反応溶液は時間が経つごとに橙色の透明な分散液となった。8時間加熱還流後、室温まで冷却して、金属白金ナノ粒子(以下、「PtNPs」と略す場合がある。)の分散液を得た。得られた分散液の写真を図1(a)に示す。なお、DMFは、塩化白金酸を加えた溶液が50mLになるように投入し、塩化白金酸が全て金属白金ナノ粒子になったと仮定すると、分散液の白金元素の濃度は1mmol/Lとなる。
【0024】
<合成例2:表面に溶媒が配位した酸化鉄ナノ粒子の分散液の調製>
ジムロート冷却器を連結した100mLの三口フラスコに、空気雰囲気下で脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れ、140℃に加熱したオイルバスに浸漬して、空気雰囲気下、撹拌子を1500rpmで回転させながら還流条件で10分程度予備加熱を行った。その後、空気雰囲気下で酢酸鉄(II)(0.05mmol)を加え、撹拌しながら140℃で8時間加熱還流を行った結果、反応溶液は時間が経つごとに橙色の分散液となった。8時間加熱還流後、室温まで冷却して、酸化鉄ナノ粒子(以下、「FeNPs−OAc」と略す場合がある。)の分散液を得た。得られた分散液の写真を図1(b)に示す。なお、DMFは、酢酸鉄を加えた溶液が50mLになるように投入し、酢酸鉄が全て酸化鉄ナノ粒子になったと仮定すると、分散液の鉄元素の濃度は1mmol/Lとなる。
【0025】
<合成例3:表面に溶媒が配位した鉄元素含有ナノ粒子分散液の調製>
ジムロート冷却器を連結した100mLの三口フラスコに、空気雰囲気下で脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れ、140℃に加熱したオイルバスに浸漬して、空気雰囲気下、撹拌子を1500rpmで回転させながら還流条件で10分程度予備加熱を行った。その後、空気雰囲気下で鉄(III)アセチルアセトナート(0.05mmol)を加え、撹拌しながら140℃で8時間加熱還流を行った結果、反応溶液は時間が経つごとに橙色の分散液となった。8時間加熱還流後、室温まで冷却して、鉄元素含有ナノ粒子(以下、「FeNPs−acac」と略す場合がある。)の分散液を得た。なお、DMFは、鉄(III)アセチルアセトナートを加えた溶液が50mLになるように投入し、鉄(III)アセチルアセトナートが全て酸化鉄ナノ粒子になったと仮定すると、分散液の鉄元素の濃度は1mmol/Lとなる。
【0026】
<表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の赤外線分光法(IR)測定>
IR測定サンプルは、鉄元素から真空ポンプを用いてDMF溶媒を完全に留去し、得られたペースト状固体をIR測定装置を用いて測定した。IRスペクトルは溶媒留去した微粒子サンプル(ペースト状固体を)NaCl板に挟み、常温空気下測定を行った。IRスペクトルを図9、10に示す。図9の鉄元素含有ナノ粒子にはIRスペクトルより、1650cm−1付近にDMF由来のC=O伸縮に基づくピークが現れることより、当該金属ナノ微粒子上にN,N-ジメチルホルムアミド分子の保護が確認できる。
【0027】
<表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の紫外線可視吸収スペクトルと蛍光スペクトル測定>
紫外線可視吸収スペクトルと蛍光スペクトル測定は得られた金属元素含有ナノ粒子の0.1mMの濃度に調製したDMF溶媒を用いて測定を行った。蛍光スペクトルは350nmのUV励起波長の条件のもと測定を行った。スペクトルを図11に示す。図11より、鉄微粒子と白金微粒子を混ぜ合わせることにより異なる紫外線可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルの結果が得られており、鉄および白金微粒子前駆体とは異なる合金化微粒子の生成を確認した。
【0028】
<表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)撮影とエネルギー分散型X線分光法(EDS)の測定>
分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)撮影とエネルギー分散型X線分光法(EDS)は金属元素含有ナノ粒子の1mMDMF溶液の微粒子の粒子サイズを観察し、粒子上にある元素を測定した。透過型電子顕微鏡(HRTEM)は、日本電子製 電界放射型透過型電子顕微鏡(JEM−2010F)及びThermo Electron Corporation製EDX検出器(VINTAGE)を用いて、加速電圧:200kVの条件で1nM DMF溶液中の金属微粒子の観察を行った。結果を図12、13に示す。図12より鉄微粒子では鉄元素を含む5−6nmサイズの粒子が観測され、白金微粒子では白金を含む2−3nmサイズの粒子が観測された。また図13より鉄−白金合金微粒子では、鉄と白金の両方を含む3−5nmサイズの粒子が観測された。
【0029】
<表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子のX線光電分光法(XPS)の測定>
X線光電分光測定サンプルは鉄元素から真空ポンプを用いてDMF溶媒を完全に留去し、得られたペースト状固体をXPS測定装置を用いて測定した。XPS測定はアルバック・ファイ株式会社製PHI5000 VersaProbeを用いて、溶媒を真空ポンプ(10−5Pa)で留去した金属ナノ粒子を高真空条件(10−7Pa)で測定を行った。結果を図14〜16に示す。XPS測定の結果、鉄白金合金サンプルには、鉄と白金元素に対応するピークが現れ、鉄微粒子と白金微粒子溶液を混ぜ合わせることにより鉄−白金合金が得られていることを確認した。また、鉄−白金合金中のXPSの白金に相当するピーク(Pt4f7/2は73.5eVであり、白金微粒子単独の対応するピーク(72.8eV)に比べて異なる位置にピークが現れることからも鉄白金合金ナノ微粒子が得られていることがわかる。
【0030】
<表面に溶媒が配位した金属元素含有ナノ粒子の蛍光X線(XRF)の測定>
XRF測定は鉄白金1:1混合物からから真空ポンプを用いてDMF溶媒を完全に留去して測定し、サンプルに含有する元素の割合を測定するためにおこなった。XRF測定はJEOL JSX−1000Sを用い溶媒を留去したサンプルをカプトンシートに付着させ測定を行った。結果を図17に示す。Pt:Fe=47.4:52.3と合成時に調製した鉄:白金の混合割合(1:1)と合致している。
【0031】
<実施例1>
後述するアリルメチルスルフィドに対して白金元素の物質量が0.1mol%となるように、合成例1で調製したPtNPsの分散液を0.5mL(塩化白金酸が全て金属白金ナノ粒子になったと仮定した場合の白金元素の物質量:0.5μmol)シュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(40hPa,70℃)を用いてDMFを留去し、シュレンク管を真空ラインに接続して、壁面についている液体を留去した。
次に、ホットスターラーを70℃に設定し、シュレンク管に撹拌子を投入し、シュレンク管の口に風船が付いている三方コックを取り付けた後、シュレンク管内をアルゴン置換した。シュレンク管内を真空・アルゴン導入を3回繰り返すことによってアルゴン雰囲気とした。
続いて、シリンジを使ってアリルメチルスルフィド(下記式の化合物1,0.5mmol)とジエトキシ(メチル)シラン(下記式の化合物2,3.0mmol)を投入して、溶液が壁面に飛び散らない程度にスターラーで強撹拌し、70℃で24時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)で分析した結果、下記式の化合物3が生成していることが確認された。化合物1の転化率と化合物3の収率を表1に、化合物3のMSスペクトルを図2に示す。
【0032】
【化12】
【0033】
<実施例2〜5>
アリルメチルスルフィド(化合物1)とジエトキシ(メチル)シラン(化合物2)の使用量、触媒、溶媒をそれぞれ表1に記載のものに変更した以外、実施例1と同様の方法により反応を行った。化合物1の転化率と化合物3の収率を表1に示す。なお、表1の実施例5における触媒は、合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:4となり、アリルメチルスルフィドに対して0.02mol%と0.08mol%(合計0.1mol%)となる量使用した。
【0034】
【表1】
【0035】
<実施例6〜9>
ジエトキシ(メチル)シラン(ヒドロシラン類)と触媒をそれぞれ表2に記載のものに変更した以外、実施例1と同様の方法により反応を行った。生成物の収率を表2に、生成物のMSスペクトルを図3、4に示す。なお、表2の実施例9における触媒は、合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:4となり、アリルメチルスルフィドに対して0.02mol%と0.08mol%(合計0.1mol%)となる量使用した。
【0036】
【化13】
【0037】
【表2】
【0038】
<実施例10>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:4となり、後述する1−デセンに対して0.02mol%と0.08mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(40hPa,70℃)を用いてDMFを留去し、シュレンク管を真空ラインに接続して、壁面についている液体を留去した。
次に、ホットスターラーを100℃に設定し、シュレンク管に撹拌子を投入し、シュレンク管の口に風船が付いている三方コックを取り付けた後、シュレンク管内をアルゴン置換した。シュレンク管内を真空・アルゴン導入を3回繰り返すことによってアルゴン雰囲気とした。
続いて、シリンジを使って1−デセン(70.1mg,0.5mmol)とトリエトキシシラン(492.8mg,3.0mmol)を投入して、溶液が壁面に飛び散らない程度にスターラーで強撹拌し、100℃で24時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)で分析した結果、下記式の化合物3が生成していることが確認された。化合物3の収率を表3に、化合物3のMSスペクトルを図5に示す。
【0039】
【化14】
【0040】
<実施例11>
FeNPs−OAcを合成例3で調製したFeNPs−acacに変更した以外、実施例10と同様の方法により反応を行った。化合物3の収率を表3に示す。
【0041】
<実施例12>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:10になるように変更した以外、実施例10と同様の方法により反応を行った。化合物3の収率を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
<実施例13〜15>
トリエトキシシランをそれぞれ表4に記載のものに変更した以外、実施例10と同様の方法により反応を行った。生成物の収率を表4に、生成物のMSスペクトルを図6〜8に示す。
【0044】
【化15】
【0045】
【表4】
【0046】
<実施例16〜18>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:1となり、後述する1−ドデセンに対して0.05mol%と0.05mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(25hPa,70℃,15min)を用いてDMFを留去し、さらにロータリーポンプ(10−1Pa,10min)を用いて残存する微量のDMFを取り除いて、撹拌子をシュレンク管に投入した。
次に1−ドデセン(0.111mL,0.5mmol)、トリエトキシシラン(下記表5に記載の量)を加え、特に不活性ガス置換を行わず、二方コックを閉めてシュレンク管に装着して密閉した。そして、オイルバスで反応溶液を加熱(100℃,24h)して反応させた。
反応終了後、氷浴して、n−ヘキサン(10mL)を加えてクエンチを行い、内部標準としてn−ノナン(30mg)を加えて、メンブレンフィルター(0.2μm)に通した溶液をGCを用いて収率の計算を行った。結果を下記表5に示す。
次にショートカラムにシリカを詰め込み(3cm)、酢酸エチルを用いてカラムを行い、ナノ粒子触媒と不純物を除いた。そして、真空引き(10−1Pa)及びペンタン共沸を3回行い不純物を除いた(GC収率95%以上、単離収率:81%,138mg)(実施例18の場合)。
【0047】
【化16】
【0048】
【表5】
【0049】
<実施例19>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:1となり、後述する1−ドデセンに対して0.05mol%と0.05mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、混合した後、エバポレータを用いて溶媒を留去した。
次に1−ドデセン(0.111mL,0.5mmol)、トリエトキシシラン(0.548mL,3mmol)を加え、特に不活性ガス置換を行わず、二方コックを閉めてシュレンク管に装着して密閉した。そして、オイルバスで反応溶液を加熱(100℃,24h)して反応させた。
反応終了後、氷浴して、n−ヘキサン(10mL)を加えてクエンチを行い、内部標準としてn−ノナン(30mg)を加えて、メンブレンフィルター(0.2μm)に通した溶液をGCを用いて収率の計算を行った。結果を下記表6に示す。
【0050】
<実施例20>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:1となり、後述する1−ドデセンに対して0.05mol%と0.05mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、混合した後、エバポレータを用いて溶媒を留去した。
次に1−ドデセン(0.111mL,0.5mmol)、トリエトキシシラン(0.548mL,3mmol)及びDMF(0.5mL)を加え、特に不活性ガス置換を行わず、二方コックを閉めてシュレンク管に装着して密閉した。そして、オイルバスで反応溶液を加熱(100℃,24h)して反応させた。
反応終了後、氷浴して、n−ヘキサン(10mL)を加えてクエンチを行い、内部標準としてn−ノナン(30mg)を加えて、メンブレンフィルター(0.2μm)に通した溶液をGCを用いて収率の計算を行った。結果を下記表6に示す。
【0051】
【化17】
【0052】
【表6】
【0053】
<実施例21〜26>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比を図18に示す通り変化させて加え、後述する1−ドデセンに対して0.05mol%と0.05mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(25hPa,70℃,15min)を用いてDMFを留去し、さらにロータリーポンプ(10−1Pa,10min)を用いて残存する微量のDMFを取り除いて、撹拌子をシュレンク管に投入した。
次に1−ドデセン(0.111mL,0.5mmol)、トリエトキシシラン(0.548mL,3mmol図18に記載の量)を加え、特に不活性ガス置換を行わず、二方コックを閉めてシュレンク管に装着して密閉した。そして、オイルバスで反応溶液を加熱(100℃,24h)して反応させた。
反応終了後、氷浴して、n−ヘキサン(10mL)を加えてクエンチを行い、内部標準としてn−ノナン(30mg)を加えて、メンブレンフィルター(0.2μm)に通した溶液をGCを用いて収率の計算を行った。結果を図18に示す。
【0054】
【化18】
【0055】
<実施例27、比較例1〜2>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:1となり、後述する1−ドデセンに対して0.05mol%と0.05mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(25hPa,70℃,15min)を用いてDMFを留去し、さらにロータリーポンプ(10−1Pa,10min)を用いて残存する微量のDMFを取り除いて、撹拌子をシュレンク管に投入した。
次に1−ドデセン(0.111mL,0.5mmol)、トリエトキシシラン(0.548mL,3mmol)を加え、酸素で満たした風船を反応容器に取り付け酸素雰囲気のもと反応を行った。そして、オイルバスで反応溶液を加熱(100℃,24h)して反応させた。
反応終了後、氷浴して、n−ヘキサン(10mL)を加えてクエンチを行い、内部標準としてn−ノナン(30mg)を加えて、メンブレンフィルター(0.2μm)に通した溶液をGCを用いて収率の計算を行った。また、比較例として、Speier’s触媒(HPtCl・HO)を同様な条件で用いた反応を行った。Speier’s触媒(HPtCl・HO)を用いた場合には反応終了後白金種の凝集が見られ、触媒の失活が見られるのに対して、本発明の白金と鉄合金では反応終了後も触媒の凝集は見られなかった。
【0056】
【化19】
【0057】
【表7】
【0058】
<実施例28〜29>
合成例1で調製したPtNPsと合成例2で調製したFeNPs−OAcを、白金元素と鉄元素の物質量比が1:4となり、後述する1−ドデセンに対して0.02mol%と0.08mol%(合計0.1mol%)となるようにシュレンク管に投入して、ロータリーエバポレーター(40hPa,70℃)を用いてDMFを留去し、シュレンク管を真空ラインに接続して、壁面についている液体を留去した。
次に、ホットスターラーを100℃に設定し、シュレンク管に撹拌子を投入し、シュレンク管の口に風船が付いている三方コックを取り付けた後、シュレンク管内をアルゴン置換した。シュレンク管内を真空・アルゴン導入を3回繰り返すことによってアルゴン雰囲気とした。
続いて、シリンジを使って1−ドデセン(70.1mg,0.5mmol)とトリエトキシシラン(492.8mg,3.0mmol)を投入して、溶液が壁面に飛び散らない程度にスターラーで強撹拌し、100℃で24時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフ(GC)で分析を行い収率を求めた。
得られた、
また、(1)触媒リサイクルの方法としては、反応溶液にヘキサン(8mL)とDMFを加えよく振り、その後ヘキサン層をパスツールピペットを用いて取り出す。そのDMF層に8mLのヘキサンを加えて、ヘキサン層を取り出す操作をさらに繰り返す。その後、残ったDMF層をロータリエバポレーターでDMFを留去し、シリンジを使って1−ドデセン(70.1mg,0.5mmol)とトリエトキシシラン(492.8mg,3.0mmol)を投入して、溶液が壁面に飛び散らない程度にスターラーで強撹拌し、100℃で24時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフ(GC)で分析を行い収率を求めた。以降前記(1)からの記載にある触媒リサイクルの操作を2回行って本法は複数回の触媒リサイクルが可能であることを示した。
【0059】
【化20】
【0060】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の製造方法によって製造される含窒素含ケイ素有機化合物は、例えば有機合成における出発原料として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19