特許第6985112号(P6985112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985112
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】分析用試料埋込樹脂
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/36 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   G01N1/36
【請求項の数】24
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-219427(P2017-219427)
(22)【出願日】2017年11月14日
(65)【公開番号】特開2019-90687(P2019-90687A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】麻生 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−034503(JP,A)
【文献】 特開2017−090183(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0048972(US,A1)
【文献】 特開平11−290668(JP,A)
【文献】 特開平06−194283(JP,A)
【文献】 特表2016−505848(JP,A)
【文献】 寺下敬次郎,電池材料 リチウムイオン二次電池用の正極極板材料の湿式分散,粉体および粉末冶金,2021年05月28日,Vol.48 No.3,Page.254-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00−1/44
G01N33/24
G01N15/00
G01N23/00
B01F9/22
B01D19/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料の粒径分布を測定し、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率および、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率をそれぞれ縦軸および横軸とした散布図で、最小二乗法により算出した回帰直線の傾きである断面粒径勾配が、0.7〜1.4であり、
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料の粒径分布を測定し、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率および、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率をそれぞれ縦軸および横軸とした散布図で、最小二乗法により算出した回帰直線の傾きである表面粒径勾配が、0.7〜1.4である分析用試料埋込樹脂。
【請求項2】
前記断面粒径勾配が、0.9〜1.1である請求項1に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項3】
前記表面粒径勾配が、0.9〜1.1である請求項1又は2に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項4】
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面化合物種ばらつきが、30以下である請求項1〜のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項5】
前記断面化合物種ばらつきが、10以下である請求項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項6】
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面化合物種ばらつきが、30以下である請求項1〜のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項7】
前記表面化合物種ばらつきが、10以下である請求項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項8】
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、50以下である請求項1〜のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項9】
前記断面元素ばらつきが、15以下である請求項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項10】
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが、50以下である請求項1〜のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項11】
前記表面元素ばらつきが、15以下である請求項10に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項12】
前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子である請求項1〜11のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項13】
粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面化合物種ばらつきが、30以下であり、
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面化合物種ばらつきが、30以下である分析用試料埋込樹脂。
【請求項14】
前記断面化合物種ばらつきが10以下である請求項13に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項15】
前記表面化合物種ばらつきが、10以下である請求項13又は14に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項16】
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、50以下である請求項1315のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項17】
前記断面元素ばらつきが、15以下である請求項16に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項18】
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが、50以下である請求項1317のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項19】
前記表面元素ばらつきが、15以下である請求項18に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項20】
前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子である請求項1319のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項21】
粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、
当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、50以下であり、
当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが50以下である分析用試料埋込樹脂。
【請求項22】
前記断面元素ばらつきが、15以下である請求項21に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項23】
前記表面元素ばらつきが、15以下である請求項21又は22に記載の分析用試料埋込樹脂。
【請求項24】
前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子である請求項2123のいずれか一項に記載の分析用試料埋込樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、分析の対象とする微小な粒状試料を、分析に先立ち、樹脂材料に埋め込んで固定して得られる分析用試料埋込樹脂に関するものであり、樹脂材料中の粒状試料の分散性の向上により、分析精度を高めることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、鉱石、スラグ、汚泥、粉塵もしくは、電気電子機器等のリサイクル原料その他の不均一な組成および粒径の粒子からなる粒状試料の元素含有量、粒度分布、単体分離度などを計測して分析するに際しては、その粒状試料を構成する粒子が微小であることから、分析装置にセットする前に、当該粒状試料を樹脂材料に埋め込んで固定して、試料埋込樹脂を得ることが一般に行われている。なお、このような分析装置の一例として、鉱物解析システム(Mineral Liberation Analyzer、MLA)は、SEM−EDSをベースとして鉱石粒子の解析を行うものであり、特に鉱物資源の分野で用いられている。
【0003】
かかる試料埋込樹脂では、分析精度を高めるため、樹脂材料中の粒状試料の粒子の凝集をできる限り取り除き、粒状試料が樹脂材料中に十分に分散し、分離偏析がない代表組成になっていることが求められる。
それゆえに従来は、試料埋込樹脂を作製する場合、はじめに、粒状試料に対して篩別を行って篩上と篩下に分けた後にさらにそれらを混合し、その混合試料を液体状樹脂材料とともに容器に投入し、容器内を手動作業でかき混ぜるとともに、真空デシケーターを用いた液体状樹脂材料の脱泡、超音波撹拌機による容器内の攪拌を行った後、液体状樹脂材料を大気中で硬化させることとしていた。またここでは、試料埋込樹脂中の粒状試料の分散性を高めるため、容器に、液体状樹脂材料を投入するに先立って、グラファイトを投入し、これを粒状試料と混合させることもある。さらに断面を作製して測定する場合もある。
【0004】
ここで、特許文献1の従来の技術の項目には、磁性材料、金属粉射出成形材料その他の種々の粉体の性状を測定ないし評価するに際し、特に磁石原料粉などの粉体を粒子単位に分離するため、水、アルコール、液状樹脂、油等の溶媒に観察対象とする粉体を溶かし、場合によっては超音波振動を与えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−43275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような超音波振動の付与によっては、先述したように粒子の凝集を確実になくすことはできないので、より高い精度で分析を行うには分散性が不十分となる。また、エタノールによる洗浄や固液分離、乾燥は手間がかかり、分析前の作業工数を増大させる。
【0007】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題に対処することを課題とするものであり、その目的は、樹脂材料中の粒状試料の粒子の凝集を十分に抑制されたことによって、樹脂材料中の粒状試料の分散性が向上し、それにより、分析精度を高めることのできる分析用試料埋込樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は鋭意検討の結果、容器内に投入した粒状試料と液体状樹脂材料との混合攪拌に、自転公転撹拌機を用いることにより、粒子の凝集が効果的に抑制されて、樹脂材料中の粒状試料の分散性を有効に向上でき、分離偏析もない代表組成を得ることを見出した。これは、粒状試料および液体状樹脂材料を投入した容器を自転させながら公転させることで、渦巻流と上下対流の相互効果に基いて、液体状樹脂材料の硬化時の粒子の凝集が抑制されること、ならびに、自転公転撹拌機で粒状試料の粒子どうしが混練されて、粒子表面に付着した他の粒子が剥ぎ取られること、さらに、摩擦熱による温度上昇があり、液体状樹脂材料の硬化時間の短縮されること等によるものと考えられるが、この発明は、このような理論に限定されるものではない。
【0009】
そして、このようにして作製された分析用試料埋込樹脂は、試料埋込樹脂の特に断面における粒径分布が均一で、当該断面における元素含有率のばらつきが有効に抑制され、また当該断面における化合物種ばらつきが有効に抑制されるとの知見を得た。
【0010】
このような知見に基き、この発明の分析用試料埋込樹脂は、粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料の粒径分布を測定し、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率および、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率をそれぞれ縦軸および横軸とした散布図で、最小二乗法により算出した回帰直線の傾きである断面粒径勾配が、0.7〜1.4であり、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料の粒径分布を測定し、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率および、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率をそれぞれ縦軸および横軸とした散布図で、最小二乗法により算出した回帰直線の傾きである表面粒径勾配が、0.7〜1.4であるというものである。
【0011】
ここで好ましくは、前記断面粒径勾配が、0.9〜1.1である。
【0012】
記表面粒径勾配、0.9〜1.1であることがより好ましい。
【0013】
上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面化合物種ばらつきが、好ましくは30以下、より好ましくは10以下である。
【0014】
また、上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面化合物種ばらつきが、好ましくは30以下、より好ましくは10以下である。
【0015】
上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、好ましくは50以下、より好ましくは15以下である。
【0016】
また、上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが、好ましくは50以下、より好ましくは15以下である。
【0017】
上記の分析用試料埋込樹脂は、前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子であるものとすることができる。
【0018】
また、この発明の分析用試料埋込樹脂は、粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面化合物種ばらつきが、30以下であり、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面化合物種ばらつきが、30以下であるというものである。
【0019】
ここで好ましくは、前記断面化合物種ばらつきが、10以下である。
【0020】
記表面化合物種ばらつき、10以下であることがより好ましい。
【0021】
上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、好ましくは50以下、より好ましくは15以下である。
【0022】
また、上記の分析用試料埋込樹脂では、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが、好ましくは50以下、より好ましくは15以下である。
【0023】
上記の分析用試料埋込樹脂は、前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子であるものとすることができる。
【0024】
そしてまた、この発明の分析用試料埋込樹脂は、粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料と、前記粒状試料が埋め込まれて固定された樹脂材料とを有する試料埋込樹脂であって、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、50以下であり、当該試料埋込樹脂の表面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定し、当該表面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である表面元素ばらつきが50以下であるというものである
【0025】
ここで好ましくは、前記断面元素ばらつきが、15以下である。
【0026】
記表面元素ばらつき、15以下であることが好ましい。
【0027】
上記の分析用試料埋込樹脂は、前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明の分析用試料埋込樹脂によれば、断面粒径勾配、断面化合物種ばらつき及び断面元素ばらつきのうちの少なくとも一つが所定の範囲内ないし上限値以下となっていることにより、粒子の凝集が十分に抑制されていて、樹脂材料中の粒状試料の分散性に優れたものとなっているので、これを用いて分析した場合の分析精度を大きく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】この発明の実施形態の分析用試料埋込樹脂を、それを収容する容器とともに示す斜視図である。
図2】断面粒径勾配の算出に用いる散布図の一例を示すグラフである。
図3図1の分析用試料埋込樹脂を作製することのできる方法で、粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器を自転させつつ公転させる際の様子を模式的に示す斜視図である。
図4】実施例の試料Aについて現行法により作製した試料埋込樹脂の平面および断面のそれぞれの粒径分布の比較に関する散布図を示すグラフである。
図5】実施例の試料Aについて混練法により作製した試料埋込樹脂の平面および断面のそれぞれの粒径分布の比較に関する散布図を示すグラフである。
図6】実施例の試料Bについて混練法により作製した試料埋込樹脂の平面および断面のそれぞれの粒径分布の比較に関する散布図を示すグラフである。
図7】実施例で設定した観測領域を示す模式図ならびに、試料埋込樹脂の表面および断面のそれぞれの反射電子像及び鉱物種マップである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の実施形態は、図1に例示するような分析用試料埋込樹脂1である。この分析用試料埋込樹脂1は、粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料2と、前記粒状試料2が埋め込まれて固定された液体状樹脂材料3とを有するものである。一般には、図1に示すように、粒状試料2および液体状樹脂材料3を有する分析用試料埋込樹脂1は、円筒状等の所定の容器4に収容されて、それ自身が円柱状等の形状を有するものであるが、容器4の有無や形状は特に問わない。なお以下の説明では、特に必要でない限り符号は省略することがある。
【0031】
そして、一の実施形態では、試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料の粒径分布を測定し、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率および、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率をそれぞれ縦軸および横軸とした散布図で、最小二乗法により回帰直線を算出した場合に、その回帰直線の傾きである断面粒径勾配が、0.7〜1.4である。
【0032】
また、他の実施形態では、試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の化合物の含有率を測定した場合、当該断面に0.5質量%以上含まれる化合物のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面化合物種ばらつきが、30以下である。
また、さらに他の実施形態では、当該試料埋込樹脂の断面における複数の観測領域で、当該観測領域に存在する粒状試料中の元素の含有率を測定した場合、当該断面に0.5質量%以上含まれる元素のそれぞれについて、複数の観測領域における当該含有率の変動係数である断面元素ばらつきが、50以下である。
【0033】
つまり、ここでは、樹脂材料中の粒状試料の分散性の良否を示す指標として、断面粒径勾配、断面化合物種ばらつき、断面元素ばらつきを採用し、それらのうちの少なくとも一つが所定の値であれば、所定の分析の精度を有意に高めることができる。
【0034】
(粒状試料)
分析の対象とする粒状試料は、鉱石、スラグ、汚泥、粉塵もしくは、電気電子機器を含むそのリサイクル原料等に対して所定の処理を施すこと等によって、比較的小さい粒子となったものとすることができる。このような粒状試料は通常、組成および粒径の意図的な均一化が行われていないので、組成が異なるとともに粒径も異なる不均一な多種類の粒子からなる。
【0035】
なかでも、鉱石粒子からなる粒状試料を対象とする場合、このような鉱石粒子は銅鉱石を含むことがあり、これには、たとえば、輝銅鉱、銅藍、黄銅鉱、班銅鉱、硫砒銅鉱、ブロシャン銅鉱等が含まれ得る。銅鉱石以外にも黄鉄鉱、磁鉄鉱、ケイ酸塩鉱物、輝水鉛鉱、金粒子等も含まれ得る。なおケイ酸塩鉱物としては、正長石、曹長石、斜長石、白雲母、黒雲母、石英等がある。
【0036】
スラグからなる粒状試料を対象とする場合、スラグ自体がSiO2、CaO、Al23、FeO及びFe34等を含む複雑な組成を持ち、さらにスラグ中にマット粒子やメタル粒子を含む場合がある。
電気電子機器からなる粒状試料の場合、基板に含まれる樹脂部や回路を構成する金属部、難燃剤部等の様々な組成を持つ粒子が存在する。
汚泥、粉塵に至っては単一の組成となっている場合はまず無い。
【0037】
粒状試料を構成する粒子の粒径は、たとえば1μm〜700μm、典型的には20μm〜200μmの範囲で、比較的全体的に分布していて不均一である。なお、粒度分布計で測定できる粒径は、たとえば0.243μm〜2000μmである場合があるが、上述したような粒状試料の粒径はこの範囲で不均一に分布している。
【0038】
(樹脂材料)
上述した粒状試料を埋め込んで固定するための樹脂材料としては、後述する容器への投入の際および攪拌の際に液体状に維持でき、かつその後に硬化させることができれば様々なものを用いることができるが、たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができ、このなかでも、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が好ましい。アクリル樹脂は電子線照射に弱いことから、電流量を増やすことができず、それにより測定に時間を要し、またフェノール樹脂は樹脂以外のものが含有されていることがあり、それが測定試料と判別ができない懸念があるからである。
【0039】
(粒径勾配)
一の実施形態では、試料埋込樹脂の断面における粒径勾配である断面粒径勾配は、0.7〜1.4である。断面粒径勾配は次のようにして算出する。
はじめに、試料埋込樹脂の所定の断面で、所定の複数の観測領域を決定する。ここで、「断面」は、試料埋込樹脂内の互いに垂直な二つの断面を意味し、それらの二つの断面のそれぞれで算出した断面粒径勾配がいずれも上述した範囲内にあることを要する。たとえば、円柱状等の試料埋込樹脂では、平面上に載置することのできる端面等の平坦面に垂直な縦断面と、縦断面に垂直な横断面の二つの断面とする。後述する断面化合物種ばらつき及び断面元素ばらつきの断面についても同様である。
【0040】
またここで、観測領域は任意に設定することができるが、複数の観測領域で相互に重複がないものとする。各観測領域は、上記の断面内で、たとえば830μm×4100μm等の長方形状もしくは正方形状その他の多角形状または円形状等とすることができるが、観測領域の大きさは粒状試料の粒径等に応じて適宜決定することができる。たとえば、観測領域は、1000〜25000粒の粒状試料が含まれる大きさとすることができる。
なお、後述のMLAでは所定の円の範囲をマッピング分析する手段もあるが、その測定範囲を決める際に円の半径を決めるといったことができず、測定するフレーム数、測定時間、及び粒子の数を設定して測定することになるため、測定したい範囲を精度よく測定することが難しい。
【0041】
次いで、それぞれの観測領域で、その観測領域に存在する粒径分布を測定する。各観測領域のこの粒径分布の測定には、鉱物解析システム(Mineral Liberation Analyzer、以下、「MLA」という。)を用いる。具体的には、所定のMLA(FEI社製 MLA650F)で測定する際に、“Comparison of measurement”のモードを“GXMAP”(Grain X−ray Map)に設定する。その後、解析時にパラメータの一つである“Size Definition”を“Equivalent Circle”とし、さらに他のパラメータである“Sieve Size Series”を“4 Sqrt 2”という条件を設定する。それにより、所定の複数の粒径のそれぞれにおける粒子存在比率、つまり粒径分布を測定することができる。
【0042】
その後、一の観測領域の粒径分布における所定の粒径の粒子存在比率と、それと同じ粒径の、他の観測領域の粒径分布における粒子存在比率とを対応させて、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率を縦軸とするとともに他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率を横軸としたグラフにプロットし、粒径分布の各粒径における粒子存在比率について一の観測領域と他の観測領域とで比較できる散布図を得る。この散布図には、粒径分布の粒子存在比率についての一の観測領域と他の観測領域との関連性が示されることになる。仮に、一の観測領域と他の観測領域の粒径分布が完全に一致していれば、プロットした点はすべて、原点を通り傾きが1の直線上に存在する。
【0043】
そして、上記の散布図で、プロットした各点について最小二乗法により回帰直線の近似式を求める。すなわち、プロットした各点の縦軸方向の差が最小になる直線を算出する。このような回帰直線の算出は、所定の表計算ソフトを用いて容易に行うことができ、その際に回帰直線の傾き(断面粒径勾配)も得られる。
なお、最小二乗法による回帰直線を求めるに当り、散布図を得るためにグラフ上にプロットする点の数は、精度上の観点から4点以上は必要であり、4点〜25点とすることが望ましい。点の数を増やしすぎても得られる結果に大きな影響はない。典型的にはプロットする点の数は10〜20点とすることができる。
【0044】
上述した散布図では縦軸と横軸を、異なる観測領域の粒径分布の粒子存在比率とするため、観測領域の数は、少なくとも二つ必要である。たとえば、四つの観測領域A〜Dのそれぞれで粒径分布を測定した場合、観測領域Aと観測領域Bの粒径分布比較についての散布図での回帰直線と、観測領域Cと観測領域Dの粒径分布比較についての散布図での回帰直線をそれぞれ算出する。あるいは、仮に三つの観測領域A〜Cのそれぞれで粒径分布を測定した場合、観測領域Aと観測領域Bの粒径分布比較についての散布図での回帰直線と、観測領域Bと観測領域Cの粒径分布比較についての散布図での回帰直線を算出する。このように、重複しない観測領域どうし(観測領域Aと観測領域B、観測領域Cと観測領域D)で比較する場合や、特定の観測領域(観測領域B)と他の二つ以上の観測領域(観測領域A、C)のそれぞれとで比較する場合のいずれであっても、それにより得られる複数本の回帰直線のいずれの傾きも、所定の範囲内であることを要する。
典型的には観測領域の数を2〜10とし、それらが重複しない組み合わせで複数本の回帰直線の各傾きを算出する。
【0045】
断面粒径勾配の算出方法の一例について説明すると次のとおりである。
いずれも領域サイズが830μm×4100μmの長方形の観測領域A及びBの粒径分布をそれぞれMLAで測定すると、表1に示すように、各観測領域A及びBで粒径(μm)ごとの粒子存在比率(%)の結果が得られたと仮定する。この場合、観測領域Aの粒子存在比率を縦軸(y軸)とし、観測領域Bの粒子存在比率を横軸(x軸)としたグラフで、当該グラフ上に、y座標が観測領域Aの所定の粒径での粒子存在比率であって、x座標が観測領域Bの同じ粒径での粒子存在比率である点をプロットしていくと、図2に示す散布図を得ることができる。そして、同図に示すように、この散布図で最小二乗法により回帰直線を導出し、その傾きを求め、これを断面粒径勾配とする。なおこの例では、断面粒径勾配は1.0108である。
【0046】
【表1】
【0047】
このようにして得られる断面粒径勾配は、0.7〜1.4とする。断面粒径勾配が1より大きすぎても小さすぎても、比較した観測領域の粒径分布に比較的大きな違いがあることを意味するので、所望の分散性が実現されておらず、それにより分析精度が低下する。したがって、断面粒径勾配は、好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0048】
ところで一般に、試料埋込樹脂を作製する際は樹脂材料が硬化するまでの間に樹脂材料中での粒状試料の沈降が生じることがあり、円柱状等の試料埋込樹脂の縦断面等の断面は、粒状試料の各粒子でその沈降の度合いに差が生じたことに起因する粒子の偏りが現れやすくなる。それ故に、そのような粒子の偏りがなく粒状試料が良好に分散していることを担保するため、上述したように、試料埋込樹脂の断面における粒径勾配である断面粒径勾配を所定の範囲に規定することが有効である。
【0049】
一方、試料埋込樹脂の露出表面も、分析対象の面となることがあるので、この表面で観ても粒状試料が良好に分散していることが望ましい。
したがって、試料埋込樹脂の表面における粒径勾配である表面粒径勾配は、0.7〜1.4であることが好ましく、さらに0.9〜1.1であることがより一層好ましい。
【0050】
この「表面」は、試料埋込樹脂の外側に露出する少なくとも一つの平坦な表面を意味し、その少なくとも一つの表面のそれぞれで算出した表面粒径勾配が上述した範囲内にあることとする。たとえば、円柱状の試料埋込樹脂では、上記の表面は、その軸線方向の両端面のうちのいずれか一方の端面である。あるいは、立方体や直方体のように互いに垂直な表面が存在する形状の試料埋込樹脂では、上記の表面は、六面のうちの一の表面とそれに垂直な他の表面の二つの表面を意味し、それらの二つの表面のそれぞれの表面粒径勾配が上述した範囲内にあることとする。後述する表面化合物種ばらつき及び表面元素ばらつきの表面についても同様である。
表面粒径勾配は、観測領域を上記の表面上に設定することを除いて、先に述べた断面粒径勾配と同様にして算出する。
【0051】
なお、上述した粒径勾配の他、一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率と、他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率との関係性を確認する指標として、相関係数を用いることも有効である。一の観測領域の粒径分布の粒子存在比率他の観測領域の粒径分布の粒子存在比率と相関係数は、好ましくは0.9〜1であり、より好ましくは0.95〜1である。
【0052】
(化合物種ばらつき)
他の実施形態では、試料埋込樹脂の断面における化合物種ばらつきである断面化合物種ばらつきが、30以下である。断面化合物種ばらつきは次のようにして算出する。
はじめに、試料埋込樹脂の所定の断面で設定した複数の観測領域のそれぞれで、MLAを用いて、試料埋込樹脂の粒状試料に含まれる複数種類の化合物の各含有率を測定する。ここでのMLA(FEI社製 MLA650F)の条件は、測定時に“Comparison of measurement”のモードを“GXMAP”(Grain X−ray Map)に設定して測定する。その後、解析時にパラメータの一つである“Size Definition”を“Equivalent Circle”とし、さらに他のパラメータである“Sieve Size Series”を“4 Sqrt 2”とする。なお、複数の観測領域は、先述の断面粒径勾配と同様に設定することができる。
その後、化合物の種類ごとに、複数の観測領域の測定値から標準偏差および平均値をお求め、その標準偏差を平均値で除して100を乗じることで得られる変動係数を算出する。
【0053】
MLAでの測定結果より、試料埋込樹脂の断面に存在する粒状試料の各粒子の化合物の種類と、それらの化合物の含有率が解かるので、複数の観測領域での各化合物の含有率の平均値を算出し、その平均値が0.5質量%以上となる化合物を抽出する。
そして、それらの三種類の化合物の含有率の上述した変動係数を断面化合物種ばらつきとし、三種類の化合物のそれぞれについての断面化合物種ばらつきがいずれも、上記の範囲内であることを要する。
【0054】
このようにして得られる断面化合物種ばらつきが大きすぎると、複数の観測領域で化合物の含有率に比較的大きな差があることを意味するので、所望の分散性が実現されておらず、それにより分析精度が低下する。その結果、試料の平均的な状態を精度よく分析するために測定面積を広げる対策が必要になり、測定時間や解析時間が膨大になる。したがって、断面化合物種ばらつきは、好ましくは10以下である。なお、断面化合物種ばらつきは0以上となり、典型的には1以上となることが多い。
【0055】
また、試料埋込樹脂の表面の良好な分散性をも確保するとの観点から、試料埋込樹脂の表面における化合物種ばらつきである表面化合物種ばらつきは、30以下であることが好ましく、さらに10以下であることがより一層好ましい。なお、表面化合物種ばらつきは0以上となり、典型的には1以上となることが多い。
表面化合物種ばらつきは、観測領域を表面上に設定することを除いて、先に述べた断面化合物種ばらつきと同様にして算出する。
なおここでいう化合物には鉱物が含まれる。
【0056】
(元素ばらつき)
さらに他の実施形態では、試料埋込樹脂の断面における元素ばらつきである断面元素ばらつきが、50以下である。断面元素ばらつきは次のようにして算出する。
はじめに、試料埋込樹脂の所定の断面で設定した複数の観測領域のそれぞれで、MLAを用いて、試料埋込樹脂の粒状試料に含まれる複数種類の元素の各含有率を測定する。ここでのMLA(FEI社製 MLA650F)の条件は、測定時に“Comparison of measurement”のモードを“GXMAP”(Grain X−ray Map)に設定する。その後、解析時にパラメータの一つである“Size Definition”を“Equivalent Circle”とし、さらに他のパラメータである“Sieve Size Series”を“4 Sqrt 2”とする。なお、複数の観測領域は、先述の断面粒径勾配と同様に設定することができる。
その後、元素の種類ごとに、複数の観測領域の測定値から標準偏差および平均値をお求め、その標準偏差を平均値で除して100を乗じることで得られる変動係数を算出する。
【0057】
MLAでの測定結果より、試料埋込樹脂の断面に存在する粒状試料の元素の種類と、それらの元素の含有率が解かるので、複数の観測領域での各元素の含有率の平均値を算出し、その平均値が0.5質量%以上となる元素を抽出する。
そして、0.5質量%以上と比較的多く含まれるそれらの元素の含有率の上述した変動係数を断面元素ばらつきとし、それらの元素のそれぞれについての断面元素ばらつきがいずれも、上記の範囲内であることを要する。
【0058】
このようにして得られる断面元素ばらつきが大きすぎると、複数の観測領域で元素の含有率に比較的大きな差があることを意味するので、所望の分散性が実現されておらず、それにより分析精度が低下する。したがって、断面元素ばらつきは、好ましくは15以下である。なお、断面元素ばらつきは0以上となり、典型的には1以上となることが多い。
【0059】
また、試料埋込樹脂の表面の良好な分散性をも確保するとの観点から、試料埋込樹脂の表面における元素ばらつきである表面元素ばらつきは、50以下であることが好ましく、さらに15以下であることがより一層好ましい。なお、表面元素ばらつきは0以上となり、典型的には1以上となることが多い。
表面元素ばらつきは、観測領域を表面上に設定することを除いて、先に述べた断面元素ばらつきと同様にして算出する。
【0060】
(分析用試料埋込樹脂の作製方法)
上述したような試料埋込樹脂を作製するには、はじめに、図3に例示するような底付き円筒状等の所定の容器4に、粒状試料2を液体状樹脂材料3とともに投入する。
またここでは、必要に応じて、エポキシ樹脂等の液体状樹脂材料3を攪拌後の加熱で硬化させるための樹脂硬化剤を使用することができる。この場合、事前に液体状樹脂材料3と樹脂硬化剤を所定の比率で混合して調合しておき、それを粒状試料2とともに容器4に投入することができる。樹脂硬化剤としては、液体状樹脂材料3の種類に適合する公知のものを用いることが可能である。
【0061】
この作製方法では、後述するように自転公転撹拌機により液体状樹脂材料3中に粒状試料2を十分に分散させることができるので、グラファイト等をさらに投入することを要しない。すなわち、容器4には、樹脂硬化剤を除き粒状試料2および液体状樹脂材料3のみを投入することができる。またここでは、手作業および超音波による容器4内の粒状試料2および液体状樹脂材料3の攪拌を行わないこととすることができる。さらに、従来行っていた粒状試料2の容器4への投入前の篩別も不要である。したがって、この方法では、試料埋込樹脂の作製に要する作業を飛躍的に簡略化することができ、作業工数の低減、作業時間の短縮を実現することができる。
【0062】
容器4に投入する液体状樹脂材料3に対する粒状試料2の割合は、100体積%〜300体積%とすることが好適である。より好ましくは、200体積%〜300体積%とする。これはすなわち、粒状試料2の割合が少なすぎると、粒子が凝集する可能性が否めず、また粒状試料の2の割合が多すぎると、固結できず、測定面を露出させる面だし研磨時に破損することが懸念されるからである。
【0063】
次いで、粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5を、所定の自転公転撹拌機にセットし、当該自転公転撹拌機の機能に基き、図3に矢印で示すように、粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5の自転および公転を同時に行って、容器4内の粒状試料2および液体状樹脂材料3を攪拌する。より詳細には、底付き円筒状の容器4の底部を斜め下側に向けてその中心軸を傾斜させて配置し、その中心軸を自転軸として粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5を自転させるとともに、容器4から距離をおいて自転軸が所定の角度θで傾斜するように公転軸を設定し、その公転軸の周りに粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5を公転させる。
【0064】
これにより、自転と公転の相互作用によって発生する渦巻流と上下対流によって、液体状樹脂材料3中の気泡を押し出し、泡を巻きこむことなく、粒状試料2および液体状樹脂材料3を撹拌させて、その分散を促進させることができる。しかもここでは、自転公転撹拌機による攪拌時に、液体状樹脂材料3や粒子等との摩擦熱によって温度が上昇し、液体状樹脂材料3が若干硬化することから、後述するような液体状樹脂材料3を硬化させる際の時間を短縮できる他、そのような若干の硬化により、内部の粒状試料2の粒子の沈降度合の違いによる粒子の存在の偏りを抑制することができる。
【0065】
自転公転撹拌機としては、粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5のこのような自転および公転を行い得るものであれば特に問わず、たとえば公知のものを用いることができる。自転公転撹拌機での公転と自転は、互いに逆の回転方向とする。
【0066】
ここで、自転公転撹拌機による攪拌時の公転速度は、400rpm〜2000rpmとすることが好ましい。公転速度が遅すぎる場合、凝集粒ができることが懸念され、この一方で、公転速度が速すぎる場合、摩擦により粒が摩耗するおそれがある。この観点から、公転速度は400rpm〜2000rpmとすることが好ましい。
【0067】
またここで、自転公転撹拌機による攪拌時の公転速度に対する自転速度の比率は、樹脂の上下対流が発生し、粒子同士が摩耗しない範囲であればよく、例えば公転速度に対して0.4〜0.6倍とすることが好適である。自転速度が遅すぎると、上下対流が起きないために凝集粒が存在することが考えられる。一方、自転速度が速すぎると、渦巻流と上下対流のスピードが早くなり、粒子同士が摩耗して本来の粒度とは異なってしまう懸念がある。
なお、上述した公転速度および自転速度は、自転公転撹拌機で設定可能である。
【0068】
自転公転撹拌機による攪拌時の自転軸の、公転軸に対する角度θは、好ましくは30°〜60°、より好ましくは40°〜50°として、自転軸を公転軸から傾斜させて攪拌を行うことができる。自転軸の傾斜角度θが小さいと、比重の大きいものが容器底部に沈降しやすい状態となり、また傾斜角度θが大きいと容器から樹脂がこぼれ、必要な樹脂量を容器に充填できない状態となる可能性がある。傾斜角度θは、材料の性質に合わせて適宜設定することができる。
【0069】
ところで、上述したような自転公転撹拌機による攪拌は、粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5の周囲の雰囲気を真空雰囲気として行うことが、液体状樹脂材料3に混入し得るマイクロバブルを除去できる点で好適である。このようなマイクロバブルは、粒子の凝集を生じさせる要因の一つになるところ、自転公転撹拌機で真空雰囲気にて攪拌することにより、マイクロバブル除去のためにこれまで行っていた真空デシケーターの使用を省略することができる。真空雰囲気とする場合、マイクロバブルを有効に除去するとの観点から、最大到達真空度は、たとえば1.0kPa以下、好ましくは0.67kPa以下とすることができる。なお、さらに圧力を低下させても効果はそれほど変化せず、またそのような低い圧力に到達するまでに時間がかかる。
【0070】
但し、液体状樹脂材料3中に粒状試料2がほとんど分散していない攪拌の初期段階から、自転公転撹拌機内の粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器5の周囲を真空雰囲気とすれば、容器4の開口の表面近傍に存在する粒状試料2が飛散することが懸念される。これを防止するため、攪拌の初期段階は、大気雰囲気として重力の作用の下で攪拌を行い、その後、真空雰囲気に切り替えてさらに攪拌することが好適である。つまり、攪拌の初期段階は大気雰囲気とし、その後の少なくとも終期段階は真空雰囲気とすることが好ましい。
ここで攪拌の初期段階は、自転公転撹拌機による攪拌の開始時点から、30秒〜60秒が経過したときまでとすることができる。その後に真空雰囲気とする時間は、60秒〜30分とすることができる。
【0071】
自転公転撹拌機による攪拌時間は、上述したように途中で大気雰囲気から真空雰囲気に切り替える場合はそれらの合計の時間として、好ましくは1分〜30分、より好ましくは5分〜15分とすることができる。攪拌時間が短い場合は、液体状樹脂材料3中での粒状試料2の分散が不十分となることが懸念され、この一方で、攪拌時間が長すぎると、液体状樹脂材料3中で粒状試料2の粒子が相互に衝突することに起因する粒子の破壊が生じるおそれがある。
【0072】
このように自転公転撹拌機を用いて、容器4内の粒状試料2および液体状樹脂材料3を攪拌した後は、所定の温度、たとえば20℃〜60℃まで加熱されることで、先述の樹脂硬化剤の作用と相俟って、液体状樹脂材料3を硬化させる。それにより、硬化した樹脂材料中に粒状試料が埋め込まれて固定された試料埋込樹脂を作製することができる。
【0073】
ここで、攪拌後から液体状樹脂材料3を硬化させるまで長い時間をおくと、容器4内の液体状樹脂材料3中で粒状試料2が、重力の作用により沈降して分散性が低下することが懸念される。逆に攪拌後から液体状樹脂材料3を硬化させるまでの時間が短いと、加熱時に粒状試料2の温度が上昇している懸念があり、この場合、粒状試料2が熱により変質する可能性がある。そのため、自転公転撹拌機による攪拌後、液体状樹脂材料3の硬化が完了するまでの時間は、好ましくは30分〜60分、より好ましくは30分〜40分とする。
【0074】
以上に述べたようにして作製された試料埋込樹脂では、試料埋込樹脂における樹脂材料中に分散した粒状試料の粒子の粒径分布が、埋め込み前の粒状試料の粒径分布とほぼ同一、つまりほぼ同様の傾向となっていることが、粒子どうしの凝集抑制の観点から好適である。
そして、このような試料埋込樹脂は、様々な分析装置を用いた粒状試料の元素含有量、粒径分布、単体分離度などの分析に供することができる。特にここで、粒状試料を構成する粒子を鉱石粒子とした場合、その試料埋込樹脂は、鉱物解析システム(Mineral Liberation Analyzer、MLA)による分析に有効に用いることができる。
【実施例】
【0075】
次に、この発明の分析用試料埋込樹脂を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0076】
粒状試料として所定の鉱石粒子試料A、鉱石粒子試料B(以下、それぞれ単に「試料A」、「試料B」という。)の二種類を準備し、それらのそれぞれについて、超音波撹拌機を用いた方法(現行法)と、自転公転撹拌機を用いた方法(混練法)のそれぞれを用いて、試料埋込樹脂を作製した。
【0077】
現行法では、篩を用いてサンプルを篩別し、その篩下と篩上を混合し、1インチのクリアカップにその混合サンプルとグラファイトを重量比で3:1となるように投入し、手動作業にてそれらを混合した。次いで、エポキシ樹脂(Buehler社製のエポキュア2)の主剤と硬化剤を2:1の割合で混合し、それを真空デシケーターで脱泡した。その後、超音波撹拌機で9分間攪拌し、そして、真空デシケーターで10分間脱泡し、残りのエポキシ樹脂をクリアカップに流し込んだ後、大気中でエポキシ樹脂を硬化させた。サンプル量は1gとし、樹脂量は5gとした。
【0078】
混練法では、サンプルを上記と同様のエポキシ樹脂とともにクリアカップに投入した後、自転公転撹拌機(シンキー社製のあわとり練太郎(登録商標))を用いて攪拌を行った。その後、大気中でエポキシ樹脂を硬化させた。このときの攪拌の条件は、試料Aについては、大気雰囲気の予備攪拌で回転数を800rpm、時間を30秒、圧力を101kPaとし、その後の真空雰囲気の真空攪拌で回転数を2000rpm、時間を60秒、圧力を1.0kPaとした。試料Bについては、大気雰囲気の予備攪拌で回転数を800rpm、時間を30秒、圧力を101kPaとし、その後の真空雰囲気の真空攪拌で回転数を2000rpm、時間を300秒、圧力を1.0kPaとした。その他の条件として、自転速度は公転速度に対して1/2とし、自転軸の傾斜角度は公転軸に対して45°とした。なお、公転軸は鉛直方向に平行とした。サンプル量は6g、樹脂量は2gとした。
【0079】
(粒径勾配の結果)
上記のようにして作製した円柱状の試料埋込樹脂のそれぞれについて、軸線方向に沿う縦断面(断面)と一方の端面(表面ないし平面)のそれぞれで、先に述べたようにしてMLAを用いて粒径分布を測定し、平面粒径勾配および断面粒径勾配を算出した。その結果を図4〜6にグラフで示す。
なおここで、平面粒径勾配および断面粒径勾配の算出で設定した観測領域は、図7に示す観測領域1〜10(それぞれPoint 1〜Point 10)とし、図4、6のグラフ中の平面のPoint 6〜Point 10はそれぞれ、Point 6〜Point 10の各々(縦軸)とPoint 1〜Point 5(横軸)の各々との粒子存在比率の比較を表し、また断面のPoint 5〜Point 8はそれぞれ、Point 5〜Point 8の各々(縦軸)とPoint 1〜Point 4の各々(横軸)との粒子存在比率の比較を表す。粒径分布は、1.2μm〜425μmまでの間の多数の粒子の各粒径における粒子存在比率を測定した。
【0080】
図4〜6に示す結果より、特に断面粒径勾配については、混練法の試料埋込樹脂は、現行法の試料埋込樹脂に比して、傾きが十分に1に近い値となっていることから、分散性が良好であることが解かる。
【0081】
(化合物種ばらつきの結果)
上記の円柱状の試料埋込樹脂のそれぞれについて、軸線方向に沿う縦断面(断面)と一方の端面(表面ないし平面)のそれぞれで、先に述べたようにしてMLAを用いて化合物種としての鉱物種の含有率を測定し、断面化合物種ばらつきおよび表面化合物種ばらつきを算出した。その結果を表2〜7に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
表2〜7に示すところから、特に断面化合物種ばらつきについては、混練法の試料埋込樹脂は、現行法の試料埋込樹脂に比して、その断面に0.5質量%以上含まれる鉱物の含有率の変動係数CVが有効に低減されており、分散性が良好であることが解かる。
【0089】
(元素ばらつきの結果)
上記の円柱状の試料埋込樹脂のそれぞれについて、軸線方向に沿う縦断面(断面)と一方の端面(表面ないし平面)のそれぞれで、先に述べたようにしてMLAを用いて元素の含有率を測定し、断面元素ばらつきおよび表面元素ばらつきを算出した。その結果を表8〜13に示す。
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
【表10】
【0093】
【表11】
【0094】
【表12】
【0095】
【表13】
【0096】
表8〜13に示すところから、特に断面元素ばらつきについては、混練法の試料埋込樹脂は、現行法の試料埋込樹脂に比して、0.5質量%以上の元素の含有率の変動係数CVが十分に小さい値となっていることから、分散性が良好であることが解かる。
【符号の説明】
【0097】
1 試料埋込樹脂
2 粒状試料
3 液体状樹脂材料
4 容器
5 粒状試料および液体状樹脂材料入りの容器
θ 公転軸に対する自転軸の傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7