(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成石英ガラス基板用の研磨剤であって、前記研磨剤が、湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含み、前記湿式セリア粒子の平均一次粒子径が30nmから50nm、前記非球状シリカ粒子の平均一次粒子径が80nmから120nmであり、
前記湿式セリア粒子の会合度が1.0から3.0であり、前記非球状シリカ粒子が会合型のシリカ粒子であって、会合度が2.0から3.5であり、
前記研磨剤における前記湿式セリア粒子の含有量が、前記非球状シリカ粒子の含有量に対して質量比で1.5倍から3.0倍の含有量であり、
前記研磨剤における前記湿式セリア粒子と前記非球状シリカ粒子の合計の含有量が、研磨剤100質量部に対して、20質量部超から50質量部であることを特徴とする合成石英ガラス基板用の研磨剤。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィーによるパターンの微細化により、合成石英ガラス基板の欠陥密度や欠陥サイズ、面粗さ、平坦度等の品質に関して、一層厳しいものが要求されている。中でも基板上の欠陥に関しては、集積回路の高精細化、磁気メディアの高容量化に伴い、更なる高品質化が要求されている。
【0003】
このような観点から、合成石英ガラス基板用研磨剤に対しては、研磨後の石英ガラス基板の品質向上のために、研磨後の石英ガラス基板の表面粗さが小さいことや、研磨後の石英ガラス基板表面にスクラッチ等の表面欠陥が少ないことが強く要求されている。また、生産性向上の観点から、石英ガラス基板の研磨速度が高いことも要求されている。
【0004】
従来、合成石英ガラスを研磨するための研磨剤として、シリカ系の研磨剤が一般的に検討されている。シリカ系のスラリーは、シリカ粒子を四塩化ケイ素の熱分解により粒成長させ、ナトリウム等のアルカリ金属を含まないアルカリ溶液でpH調整を行って製造している。例えば、特許文献1では、高純度のコロイダルシリカを中性付近で使用し欠陥を低減できることが記載されている。しかし、コロイダルシリカの等電点を考慮すると、中性付近においてコロイダルシリカは不安定であり、研磨中コロイダルシリカ砥粒の粒度分布が変動し安定的に使用できなくなる問題が懸念され、研磨剤を循環及び繰り返し使用することが困難であり、掛け流しで使用するため経済的に好ましくない問題がある。また、特許文献2では、平均一次粒子径が60nm以下のコロイダルシリカと酸を含有した研磨剤を使用することで、欠陥を低減できることが記載されている。しかしながら、これらの研磨剤は現状の要求を満足させるには不十分であり、改良が必要とされる。
【0005】
一方で、セリア(CeO
2)粒子は、強酸化剤として知られており、化学的に活性な性質を有している。セリアのCe(IV)とCe(III)間のレドックスは、ガラス等の無機絶縁体の研磨速度向上に効果があるとされ、4価のセリアの一部を3価の他の金属元素と置換して酸素欠陥を導入することで、ガラス等の無機絶縁体との反応性を高めることができ、コロイダルシリカに比べ、ガラス等の無機絶縁体の研磨速度向上に有効である。
【0006】
しかし、一般のセリア系研磨剤は、乾式セリア粒子が使用され、乾式セリア粒子は、不定形な結晶形状を有しており、研磨剤に適用した場合、球形のコロイダルシリカと比較し、石英ガラス基板表面にスクラッチ等の欠陥が発生しやすい問題がある。また、セリア系研磨剤は、コロイダルシリカに比べ分散安定性が悪く、粒子が沈降しやすい問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合成石英ガラス基板のセリア系研磨剤として、乾式セリア粒子に代わり湿式セリア粒子を使用した場合、スクラッチ等の欠陥は乾式セリア粒子比べ低減されるものの、要求を満たすまでは低減するには至らない。
【0009】
湿式セリア粒子の一次粒子径を小さくすることで、スクラッチ等の欠陥は低減可能となるが、一次粒子径を小さくすることにより研磨速度が低下してしまう問題がある。
【0010】
また、特許文献3では、コロイダルシリカを使用した研磨剤に、アクリル酸/スルホン酸共重合体のようなスルホン酸基を有する重合体を含有した研磨剤を使用することで、研磨速度を高くできることが記載されている。しかしながら、このような、重合体をセリア系の研磨剤に添加しても、現在要求されている研磨速度を満たすには至らず、研磨速度をより向上させることが必要とされている。
【0011】
また、特許文献4では、セリウムとランタニド及びイットリウムから成る群より選ばれる希土類元素のうち1種以上を0.5から60質量%含有した研磨剤を使用することで、研磨速度を高くできることが記載されている。しかし、特許文献4で得られる酸化物粒子の平均粒径は0.5から1.7μmであり、粒子サイズが大きく研磨後の合成石英ガラス基板の表面精度に問題がある。
【0012】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、高い研磨速度を有するとともに、研磨による欠陥の発生を十分に低減することができる合成石英ガラス基板用の研磨剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明では、合成石英ガラス基板用の研磨剤であって、前記研磨剤が、湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含み、前記湿式セリア粒子の平均一次粒子径が30nmから50nm、前記非球状シリカ粒子の平均一次粒子径が80nmから120nmであることを特徴とする合成石英ガラス基板用の研磨剤を提供する。
【0014】
このような粒子を含む研磨剤であれば、高い研磨速度を有するとともに、研磨による欠陥の発生を十分に低減することができる合成石英ガラス基板用の研磨剤となる。
【0015】
このとき、前記湿式セリア粒子の会合度が1.0から3.0であり、前記非球状シリカ粒子が会合型のシリカ粒子であって、会合度が2.0から3.5であることが好ましい。
【0016】
このような粒子を含む研磨剤であれば、研磨によるスクラッチ等の欠陥数がより少なく、研磨速度がより良好な合成石英ガラス基板用の研磨剤となる。
【0017】
また、前記研磨剤における前記湿式セリア粒子の含有量が、前記非球状シリカ粒子の含有量に対して質量比で1.5倍から3.0倍の含有量であることが好ましい。
【0018】
このような質量比で湿式セリア粒子及び非球状シリカ粒子を含むものであれば、十分な研磨能力を有する合成石英ガラス基板用の研磨剤となる。
【0019】
また、前記研磨剤における前記湿式セリア粒子と前記非球状シリカ粒子の合計の含有量が、研磨剤100質量部に対して、20質量部から50質量部であることが好ましい。
【0020】
このような含有量で湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含む研磨剤であれば、合成石英ガラス基板用の研磨剤としてより好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明は、粗研磨工程と該粗研磨工程後の最終研磨工程とを有する合成石英ガラス基板の研磨方法であって、前記最終研磨工程において、上記本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤を使用して最終研磨を行うことを特徴とする合成石英ガラス基板の研磨方法を提供する。
【0022】
このような本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤を用いた研磨方法であれば、研磨速度を高くすることができ、かつ、研磨による欠陥の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
ガラスに対する研磨速度が高いセリア粒子と、表面が滑らかで低欠陥かつ高平滑な研磨を可能とするシリカ粒子とを混合することで、高い研磨速度で低欠陥が可能となり、湿式セリア粒子径を小さくすることで、研磨による欠陥発生を抑制でき、粒子径が大きくても低欠陥が可能なシリカ粒子と混合することにより、セリア粒子径を小さくすることによるガラスに対する反応性の低下による研磨速度低下を抑制することで、より高い研磨速度を得ることができる。また、混合するシリカ粒子の形状が非球状のシリカ粒子を使用することで、球状のシリカ粒子に比べて歪んでいるため粒子の基板に対する接触面積が小さくなり、点接触に近い形となり、研磨の際に基板に伝わる力を大きくでき、研磨能力が向上する。
【0024】
以上のように、本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤及びこれを用いた研磨方法であれば、十分な研磨速度を得られ、かつ、合成石英ガラス基板の表面の欠陥発生を十分に抑制することが可能となる。その結果、合成石英ガラス基板の製造における、生産性及び歩留りを向上できる。また、本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤を使用することで、半導体デバイスの高精細化につながる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上述のように、高い研磨速度を有するとともに、研磨による欠陥の発生を十分に低減することができる合成石英ガラス基板用の研磨剤の開発が求められていた。
【0027】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、所定の平均一次粒子径を有する湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含む研磨剤であれば、合成石英ガラス基板に対する高い研磨速度を得ることができ、さらに合成石英ガラス基板を低欠陥で研磨できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0028】
即ち、本発明は、合成石英ガラス基板用の研磨剤であって、前記研磨剤が、湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含み、前記湿式セリア粒子の平均一次粒子径が30nmから50nm、前記非球状シリカ粒子の平均一次粒子径が80nmから120nmであることを特徴とする合成石英ガラス基板用の研磨剤である。
【0029】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
上述のように、本発明の石英ガラス基板用の研磨剤(以下、単に「研磨剤」とも称する。)は、研磨粒子が湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子の混合粒子からなる。
【0031】
本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤は、このような湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を混合した粒子を研磨粒子として使用することで、研磨による傷等の欠陥の発生を抑制し、高い研磨速度で研磨することが可能である。
【0032】
以下、各成分及び任意に添加できる成分、及び本発明の研磨剤による合成石英ガラス基板の研磨についてより詳細に説明する。
【0033】
上記のように、本発明の石英ガラス基板用の研磨剤は、湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子を含む。
【0034】
一般的に合成石英ガラス基板の最終研磨においてはシリカ粒子が使用されている。これは湿式セリア粒子に比べ表面が滑らかである点で、低欠陥かつ高平滑な表面が得られるためである。しかし、シリカ粒子は湿式セリア粒子と違いガラスとの反応性が低いがために研磨速度は遅く、研磨能力のある研磨砥粒とは言い難い。
【0035】
また、ガラスに対し反応性が高い湿式セリア粒子を使用することで研磨能力を高くすることが可能であるが、シリカ粒子に比べ研磨によるスクラッチ等の欠陥が発生しやすい。湿式セリア粒子径を小さくすることで欠陥の低減は可能となるが、粒子径が小さくなることでガラスとの反応性も低下し研磨速度も低下する。
【0036】
そこで、粒子径の大きいシリカ粒子と混合した研磨剤を用いることで、欠陥の発生を低減でき、かつ湿式セリア粒子及びシリカ粒子単独で使用した以上の研磨速度で研磨が可能となる。
【0037】
さらに、シリカ粒子を会合型である非球状のシリカ粒子を使用することで、シリカ粒子のガラス基板に対する接触面積が小さくなり、点接触に近くなることでガラス基板に伝わる力を大きくすることが可能となり更に研磨能力の向上が可能となる。
【0038】
本発明の研磨剤に含まれる湿式セリア粒子の平均一次粒子径は30nmから50nmであり、非球状シリカ粒子の平均一次粒子径は80nmから120nmであり、非球状シリカ粒子の平均一次粒子径が湿式セリア粒子の平均一次粒子径より大きい。
【0039】
湿式セリア粒子を非球状シリカ粒子より小粒径とすることで、非球形のシリカ粒子によって構成される単位体積中の充填構造中の空隙部に湿式セリア粒子が入り込むことによって、単位体積あたりの充填率を高めることができ、研磨能力の向上が可能となる。
【0040】
上記のように、湿式セリア粒子の平均一次粒子径は、30nmから50nmである。好ましくは35nmから50nmであり、特に好ましくは40nmから50nmである。湿式セリア粒子の平均一次粒子径が30nmより小さいと、湿式セリア粒子のガラスに対する反応性が著しく低下し、石英ガラスの研磨能力が著しく低下する。また、平均一次粒子径が50nmより大きいと、研磨によるスクラッチ等の欠陥数が多くなり、さらにシリカ粒子によって形成される空隙部へ入り込めなくなることから、石英ガラスの研磨速度が向上しない問題が発生する。
【0041】
また、上記のように、非球状シリカ粒子の平均一次粒子径は、80nmから120nmである。好ましくは80nmから110nmであり、より好ましくは90nmから110nmである。非球状シリカ粒子の平均一次粒子径が80nmより小さくなると形状が球状に近くなりシリカ粒子自体の研磨能力が向上せずに研磨速度が低下する。また、平均一次粒子径が120nmより大きくなると、シリカ粒子の分散性が悪化し、粒子が沈降する問題が発生する。
【0042】
ここで、湿式セリアの会合度は3.0以下が好ましく、1.0から3.0がより好ましい。湿式セリア粒子の会合度が上記範囲内であれば、研磨によるスクラッチ等の欠陥数が少なくなる。また、シリカ粒子によって形成される空隙部へ入り込めるため、石英ガラスの研磨速度が向上する。
【0043】
また、シリカ粒子の会合度は2.0以上が好ましく、2.0から3.5がより好ましい。シリカ粒子の会合度が2.0以上であれば、形状が球状にならずシリカ粒子自体の研磨能力が向上せずに研磨速度が低下する、という恐れがない。
【0044】
なお、ここで言う会合度とは、会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径の値であり、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による測定により得られる画像から円相当径として換算され、平均二次粒子径は、赤色レーザーによる動的光散乱の散乱強度測定によって求められる。
【0045】
本発明の研磨剤中における湿式セリア粒子の混合比率(含有量)は、質量比で、非球状シリカ粒子の1.0倍から4.0倍が好ましく、1.5倍から3.0倍の比率で混合されることがより好ましい。湿式セリア粒子の混合比率が非球状シリカ粒子の1.0倍以上であれば、石英ガラスに対する研磨能力が低下せず、研磨速度が低下しない。また、混合比率が4.0倍以下であれば、小粒子の湿式セリア粒子が支配的とならないため十分な研磨能力が得られる。
【0046】
更に、湿式セリア粒子と非球状シリカ粒子の合計の含有量が、研磨剤中100質量部に対し20から50質量部であることが好ましい。この範囲内であれば、研磨速度が低下する恐れがない。
【0047】
本発明の研磨剤に含まれる湿式セリア粒子としては、特に限定されないが、セリウム塩を前駆体物質として、塩基性溶液と混合・加熱処理する湿式沈殿法により生成されたものが好ましい。
【0048】
湿式セリア粒子の製造方法としては、まず、前駆体であるセリウム塩を超純水と混合してセリウム水溶液を製造する。セリウム塩と超純水は、例えば、2:1〜4:1の割合で混合することが出来る。ここでセリウム塩としては、Ce(III)塩、及びCe(IV)塩の少なくともいずれかを利用することができる。つまり、少なくとも一つのCe(III)塩を超純水と混合するか、または、少なくとも一つのCe(IV)塩を超純水と混合するか、または、少なくとも一つのCe(III)塩と少なくとも一つのCe(IV)塩を超純水と混合することができる。Ce(III)塩としては、塩化セリウム、フッ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、過塩素酸セリウム、臭化セリウム、硫化セリウム、ヨウ化セリウム、シュウ酸セリウム、酢酸セリウムなどを混合することができ、Ce(IV)塩としては、硫酸セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、水酸化セリウムなどを混合することができる。なかでも、Ce(III)塩としては硝酸セリウムが、Ce(IV)塩として硝酸アンモニウムセリウムが使いやすさの面で好適に使用される。
【0049】
さらに、超純水と混合して製造されたセリウム水溶液の安定化のために酸性溶液を混合することができる。ここで、酸性溶液とセリウム溶液は、1:1〜1:100の割合で混合することができる。ここで使用できる酸溶液としては、過酸化水素、硝酸、酢酸、塩酸、硫酸などがあげられる。酸溶液と混合されたセリウム溶液は、pHを例えば0.01に調整することができる。
【0050】
セリウム溶液とは別に塩基性溶液を製造する。塩基性溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを使用することができ、超純水と混合して適切な濃度に希釈して使用される。希釈する割合としては、塩基性物質と超純水を1:1〜1:100の割合で希釈することができる。希釈された塩基性溶液は、pHを例えば11〜13に調整することができる。
【0051】
次に、希釈された塩基性溶液を反応容器に移した後、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で、例えば5時間以下攪拌を行う。そして、希釈された塩基性溶液にセリウム水溶液を、例えば毎秒0.1リットル以上の速度で混合する。引き続き、所定の温度で熱処理を行う。この時の熱処理温度は、100℃以下、例えば60℃以上100℃以下の温度で加熱処理をすることができ、熱処理時間は、2時間以上、例えば2時間〜10時間行うことができる。また、常温から熱処理温度までの昇温速度は、毎分0.2℃〜1℃、好ましくは毎分0.5℃の速度で昇温することができる。
【0052】
熱処理を実施した混合溶液を、室温まで冷却する。このような過程を経て、1次粒径、例えば100nm以下の湿式セリア粒子が生成された混合液が製造される。
【0053】
上記のように、湿式セリア粒子は、セリウム塩の前駆体水溶液と希釈された塩基性溶液の混合液を、適切な昇温速度で昇温して、適切な範囲の熱処理温度で加熱すると、昇温過程で混合液内のセリウム塩が反応して、セリア(CeO2)の微細核が生成され、これらの微細核を中心に結晶が成長してでき、5nm〜100nmの結晶粒子で製造される。この結晶粒子を、ろ過等により分級することで、本発明で用いる平均一次粒子径が30nm〜50nmの湿式セリア粒子を得ることができる。
【0054】
本発明の研磨剤に含まれる非球状シリカ粒子としては、市販されている非球状シリカ粒子を分散させたコロイド溶液が使用でき、例えば、扶桑化学工業(株)製PLシリーズ等が好適に使用できる。
【0055】
本発明の研磨剤には、研磨特性を調整する目的で、添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、研磨粒子の表面電位をマイナスに転換することができるアニオン性界面活性剤、またはアミノ酸を含むことができる。セリア粒子の表面電位をマイナスにすれば、研磨剤中で分散しやすいため、粒径の大きな二次粒子が生成されにくく、研磨傷の発生をより一層抑制できる。
【0056】
このような添加剤としてのアニオン性界面活性剤には、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等があげられる。アミノ酸には、例えばアルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、セリン、トリプトファン、トレオニン、グリシン、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン等があげられる。
【0057】
これらの添加剤を使用する場合の濃度は、研磨粒子1質量部を基準として0.001質量部から0.05質量部の範囲で含有することが好ましい。より好ましくは0.005質量部から0.02質量部の範囲で含有されることがより好ましい。含有量が研磨粒子1質量部に対して0.001質量部以上であれば、研磨剤中の混合粒子がより安定して分散し、粒径の大きな凝集粒子が形成され難くなる。また、含有量が研磨粒子1質量部に対して0.05質量部以下であれば、添加剤が研磨を阻害することがなく、研磨速度の低下を防止することができる。従って、上記範囲で添加剤を含めば、研磨剤の分散安定性をより向上させたうえに、研磨速度の低下を防止することができる。
【0058】
本発明の研磨剤のpHは、研磨剤の保存安定性や、研磨速度に優れる点で、3.0以上8.0以下の範囲にあることが好ましい。pHが3.0以上であれば研磨剤中の湿式セリアが安定して分散する。pHが8.0以下であれば、研磨速度をより向上させることが可能である。また、pHの好ましい範囲の下限は4.0以上であることがより好ましく、6.0以上であることが特に好ましい。また、pHの好ましい範囲の上限は、8.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましい。また、研磨剤のpHは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などを添加することよって調整可能である。
【0059】
次に、本発明の研磨剤を使用した合成石英ガラス基板の研磨方法について説明する。本発明の研磨剤は特に粗研磨工程後の最終研磨工程で使用することが好ましいため、最終研磨工程において片面研磨を行う場合を例に説明する。しかしながら、もちろんこれに限定されることはなく、本発明の研磨剤は粗研磨にも用いることができる。また、本発明の研磨剤は片面研磨だけではなく両面研磨などにも用いることができる。
【0060】
本発明の研磨方法に用いることができる片面研磨装置は、例えば、
図1に示すように、研磨パッド4が貼り付けられた定盤3と、研磨剤供給機構5と、研磨ヘッド2等から構成された片面研磨装置10とすることができる。また、
図1に示すように、研磨ヘッド2は、研磨対象の合成石英ガラス基板Wを保持することができ、また、自転することができる。また、定盤3も自転することができる。研磨パッド4としては、不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂等が使用できる。また、研磨を実施している間は、常に研磨パッド4の表面が研磨剤1で覆われていることが好ましいため、研磨剤供給機構5にポンプ等を配設することで連続的に研磨剤1を供給することが好ましい。このような片面研磨装置10では、研磨ヘッド2で合成石英ガラス基板Wを保持し、研磨剤供給機構5から研磨パッド4上に本発明の研磨剤1を供給する。そして、定盤3と研磨ヘッド2をそれぞれ回転させて合成石英ガラス基板Wの表面を研磨パッド4に摺接させることにより研磨を行う。このような本発明の研磨剤を用いた研磨方法であれば、研磨速度を高くすることができ、かつ、研磨による欠陥の発生を抑制できる。そして、本発明の研磨方法は、大幅に欠陥の少ない合成石英ガラス基板を得ることができるので最終研磨に好適に使用できる。
【0061】
特に本発明の研磨方法により最終研磨を実施した合成石英ガラス基板は、半導体関連の電子材料(特に最先端用途の半導体関連電子材料)に用いることができ、フォトマスク用、ナノインプリント用、磁気デバイス用として好適に使用することができる。なお、仕上げ研磨前の合成石英ガラス基板は、例えば、以下のような工程により準備することができる。まず、合成石英ガラスインゴットを成形し、その後、合成石英ガラスインゴットをアニールし、続いて、合成石英ガラスインゴットをウェーハ状にスライスする。続いて、スライスしたウェーハを面取りし、その後、ラッピングし、続いて、ウェーハの表面を鏡面化するための研磨を行う。そしてこのようにして準備した合成石英ガラス基板に対して、本発明の研磨方法により最終研磨を実施することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
湿式セリア粒子の混合比率が非球状シリカ粒子の2倍となるように、透過型電子顕微鏡により換算した平均一次粒子径が40nm、動的光散乱の散乱強度測定によって求めた二次平均粒子径が90nm(会合度:2.3)の湿式セリア粒子の水分散液と、平均一次粒子径90nm、平均二次粒子径が220nm(会合度:2.4)である非球状シリカ粒子の水分散液(扶桑化学工業(株)製PL−10H)とを混合し、研磨剤中の粒子濃度が40質量部の研磨剤を調製した。
【0064】
研磨パッド(軟質スェード製/FILWEL製)を貼り付けた定盤に、基板の取り付けが可能なヘッドに、粗研磨を行った後の合成石英ガラス基板(4インチ:100mm)をセットし、研磨荷重100gf/cm
2、定盤及びヘッドの回転速度を50rpm、上記合成石英ガラス基板研磨用の研磨剤を毎分100mlで供給しながら、粗研磨工程で発生した欠陥を除去するのに十分な量として2μm以上研磨した。研磨後合成石英ガラス基板をヘッドから取り外し、純水で洗浄後さらに超音波洗浄を行った後、80℃乾燥器で乾燥させた。反射分光膜厚計(SF−3 大塚電子(株)製)により、研磨前後の合成石英ガラス基板厚変化を測定することで研磨速度を算出した。また、レーザー顕微鏡により、100nm以上の研磨後の合成ガラス基板表面に発生した欠陥の個数を求めた。
【0065】
[実施例2]
湿式セリア粒子の混合比率が非球状シリカ粒子の1.5倍となるように、透過型電子顕微鏡により換算した平均一次粒子径が30nm、動的光散乱の散乱強度測定によって求めた二次平均粒子径が55nm(会合度:1.8)の湿式セリア粒子の水分散液と、平均一次粒子径90nm、平均二次粒子径が220nm(会合度:2.4)である非球状シリカ粒子の水分散液(扶桑化学工業(株)製PL−10H)とを混合し、研磨剤中の粒子濃度が40質量部の研磨剤を調製した。実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。
【0066】
[実施例3]
平均一次粒子径が50nmであり、平均二次粒子径が110nm(会合度:2.2)である湿式セリア粒子を用いた以外は、実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。
【0067】
[実施例4〜6]
平均一次粒子径がそれぞれ、80nm、100nm、120nmである非球状シリカ粒子を用いた以外は、実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。なお、非球状シリカ粒子の平均二次粒子径及び会合度はそれぞれ、180nm(会合度:2.2)、260nm(会合度:2.6)、340nm(会合度:2.8)である。
【0068】
[比較例1〜2]
平均一次粒子径がそれぞれ20nm、60nmである湿式セリア粒子を用いた以外は、実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。なお、湿式セリア粒子の平均二次粒子径及び会合度はそれぞれ、70nm(会合度:3.5)、190nm(会合度:3.2)である。
【0069】
[比較例3〜4]
平均一次粒子径がそれぞれ70nm、130nmである非球状シリカ粒子を用いた以外は、実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。なお、非球状シリカ粒子の平均二次粒子径及び会合度はそれぞれ、140nm(会合度:2.0)、390nm(会合度:3.0)である。
【0070】
[比較例5]
非球状シリカ粒子に代わり球状シリカ粒子である平均一次粒子径80nm、平均二次粒子径130nmのシリカ粒子(会合度:1.6)(フジミインコーポレイテッド製 COMPOL120)を使用した以外は実施例1と同様な手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。
【0071】
[比較例6]
平均一次粒子径が50nm、二次平均粒子径が110nm(会合度:2.2)の湿式セリア粒子が40質量部分散されている水分散液を研磨剤として使用した以外は、実施例1と同様の手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。
【0072】
[比較例7]
平均一次粒子径が90nm、会合度が2.4である非球状シリカ粒子が20質量部分散されている水分散液を研磨剤として使用した以外は、実施例1と同様の手順で合成石英ガラス基板の研磨を行った。
【0073】
上記実施例及び比較例の結果を表1に示す。なお、表中の数字は実施例及び比較例で研磨した合成石英ガラス基板5枚の平均値である。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1〜6で得られた研磨剤、すなわち、所定の平均一次粒子径を有する湿式セリア粒子及び非球状シリカ粒子を含んだ研磨剤を使用し、合成石英ガラス基板を研磨することで、研磨による欠陥の発生を少なく抑えることができた。さらに、合成石英ガラス基板に対して、高い研磨速度が得られた。一方、本発明で規定する平均一次粒子径を有しない湿式セリア粒子又は非球状シリカ粒子を含んだ研磨剤を使用した比較例1〜4では、欠陥が多いか研磨速度が遅く、実施例と比較して結果が劣っていた。また、非球状シリカ粒子ではなく、球状シリカ粒子を用いた比較例5では欠陥の発生は抑制できたものの、研磨速度が低下していた。さらに、非球状シリカ粒子を含まない比較例6では欠陥数が多く、湿式セリア粒子を含まない比較例7では研磨速度が低下していた。
【0076】
以上のように、本発明の合成石英ガラス基板用の研磨剤により合成石英ガラス基板研磨を行うことで、合成石英ガラス基板に対して高い研磨速度が得られ、研磨後の合成石英ガラス基板表面の欠陥発生を少なく研磨することができることがわかった。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。