特許第6985220号(P6985220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985220磁気トンネル接合素子、それを用いた磁気メモリおよび磁気トンネル接合素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985220
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】磁気トンネル接合素子、それを用いた磁気メモリおよび磁気トンネル接合素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20211213BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20211213BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01L27/105 447
   H01L43/08 Z
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-135822(P2018-135822)
(22)【出願日】2018年7月19日
(65)【公開番号】特開2020-13921(P2020-13921A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2020年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】濱村 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ユウ
(72)【発明者】
【氏名】山田 将貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清彦
【審査官】 西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−305645(JP,A)
【文献】 特開2017−50506(JP,A)
【文献】 特開2006−224593(JP,A)
【文献】 特開2012−227339(JP,A)
【文献】 特開2006−86195(JP,A)
【文献】 特開2010−103303(JP,A)
【文献】 特開2009−290073(JP,A)
【文献】 特開2006−261592(JP,A)
【文献】 特開2013−153232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気トンネル接合層と、
前記磁気トンネル接合層の側壁に形成される複数層の保護膜とを有し、
前記保護膜はプラズマCVDにより形成されるSiN膜であるとともに前記磁気トンネル接合層に直接接る第1の保護膜を含み、
前記第1の保護膜の成膜条件における水素イオン密度または水素イオンエネルギーは、前記第1の保護膜以外の保護膜の成膜条件における水素イオン密度または水素イオンエネルギーより低く、
前記第1の保護膜以外の保護膜は、窒素密度が前記第1の保護膜の窒素密度よりも高い保護膜を含むことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記第1の保護膜以外の保護膜は、前記第1の保護膜を覆うように形成される第2の保護膜であることを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記第1の保護膜は圧縮応力を示し
前記第2の保護膜は引っ張り応力を示すことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記第1の保護膜以外の保護膜は、前記第2の保護膜を覆うように形成される第3の保護膜を含み、
前記第2の保護膜の窒素密度は、前記第1の保護膜および前記第3の保護膜の窒素密度よ高く、
前記第3の保護膜の耐湿性は、前記第1の保護膜および前記第2の保護膜の耐湿性よ高いことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記第1の保護膜および前記第3の保護膜は、圧縮応力を示し
前記第2の保護膜は引っ張り応力を示すことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記保護膜は、前記第1の保護膜を覆うように形成される第2の保護膜前記第2の保護膜を覆うように形成される第3の保護膜を含み、
前記第3の保護膜の窒素密度は、前記第1の保護膜および前記第2の保護膜の窒素密度よ高く、
前記第2の保護膜の耐湿性は、前記第1の保護膜および前記第3の保護膜の耐湿性よ高いことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記第1の保護膜および前記第2の保護膜は圧縮応力を示し
前記第3の保護膜は引っ張り応力を示すことを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の磁気トンネル接合素子において、
前記磁気トンネル接合層は、記録層となる第1の強磁性層と、参照層となる第2の強磁性層、前記記録層と前記参照層との間の第1の障壁層とを有することを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の磁気トンネル接合素子において、
前記磁気トンネル接合層に接するキャップ層と前記磁気トンネル接合層に接する下部電極層とをさらに有し、
前記磁気トンネル接合層は、前記キャップ層に接する記録層と、前記下部電極層に接する参照層、前記記録層と前記参照層との間の第1の障壁層と、を有し、
前記下部電極層は、第1の非磁性層、第2の非磁性層と、第3の非磁性層を有し、
前記記録層は、前記第1の障壁層に接する第3の強磁性層、第4の強磁性層、前記第3の強磁性層と前記第4の強磁性層との間の第4の非磁性層と、を有し、
前記キャップ層は、前記第4の強磁性層に接する第2の障壁層第5の非磁性層を有することを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の磁気トンネル接合素子において、
前記磁気トンネル接合層に接するキャップ層と前記磁気トンネル接合層に接する下部電極層とをさらに有し、
前記磁気トンネル接合層は、前記キャップ層に接する記録層、前記下部電極層に接する参照層、前記記録層と前記参照層との間の第1の障壁層と、を有し、
前記参照層は、第1の磁性多層膜第6の非磁性層第2の磁性多層膜第7の非磁性層第5の強磁性層を有し、
前記第1の磁性多層膜は前記下部電極層に接し、
前記第5の強磁性層は前記第1の障壁層に接し、
前記第1の磁性多層膜の磁化と前記第2の磁性多層膜の磁化は、反平行に結合し
前記第2の磁性多層膜の磁化と前記第5の強磁性層の磁化は、平行に結合することを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項11】
第1の方向に延在する複数のビット線と、
前記第1の方向に延在する複数のソース線と
前記第1の方向と交差する第2の方向に延在する複数のワード線と、
請求項1に記載の磁気トンネル接合素子と、ソース・ドレイン経路が前記磁気トンネル接合素子に直列接続される選択トランジスタとを有し、前記ビット線と前記ワード線の交点および前記ソース線と前記ワード線の交点に配置されたメモリセルとを有し、
前記磁気トンネル接合素子および前記選択トランジスタのソース・ドレイン経路は、前記ビット線と前記ソース線との間に接続され、
前記選択トランジスタのゲートは、前記ワード線に接続されることを特徴とする磁気メモリ。
【請求項12】
第1の強磁性層と、第2の強磁性層と、前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間の第1の障壁層とが積層された磁気トンネル接合層を含む積層膜から磁気トンネル接合素子を製造する磁気トンネル接合素子の製造方法において
パターニングされハードマスクを用いて前記磁気トンネル接合層をエッチングする第1の工程と、
前記ハードマスクおよび前記磁気トンネル接合層の側壁にプラズマCVDにより第1のSiN膜を成膜する第2の工程と、
前記第1のSiN膜を覆う第2のSiN膜をプラズマCVDにより成膜する第3の工程とを有し、
前記第2の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギー、前記第3の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギーより低く、
前記第2のSiN膜は、窒素密度が前記第1のSiN膜の窒素密度より高くなる成膜条件により成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気トンネル接合素子の製造方法において、
前記第1のSiN膜は、応力が圧縮応力となる成膜条件により成膜され、
前記第2のSiN膜は、応力が引っ張り応力となる成膜条件により成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の磁気トンネル接合素子の製造方法において、
前記第2のSiN膜を覆う第3のSiN膜をプラズマCVDにより成膜する第4の工程をさらに有し、
前記第2の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギー、前記第4の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギーより低く、
前記第2のSiN膜は、窒素密度が前記第3のSiN膜窒素密度より高くなる成膜条件によ成膜され、
前記第3のSiN膜は、耐湿性前記第1のSiN膜および前記第2のSiN膜の耐湿性よ高くなる成膜条件によ成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気トンネル接合素子の製造方法において、
前記第3のSiN膜は、応力が圧縮応力となる成膜条件により成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項16】
第1の強磁性層と、第2の強磁性層と、前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間の第1の障壁層とが積層された磁気トンネル接合層を含む積層膜から磁気トンネル接合素子を製造する磁気トンネル接合素子の製造方法において
パターニングされハードマスクを用いて前記磁気トンネル接合層をエッチングする第1の工程と、
前記ハードマスクおよび前記磁気トンネル接合層の側壁にプラズマCVDにより第1のSiN膜を成膜する第2の工程と、
前記第1のSiN膜を覆う第2のSiN膜をプラズマCVDにより成膜する第3の工程と、
前記第2のSiN膜を覆う第3のSiN膜をプラズマCVDにより成膜する第4の工程とを有し、
前記第2の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギー、前記第3の工程および前記第4の工程における水素イオン密度または水素イオンエネルギーより低く、
前記第2のSiN膜は、耐湿性が前記第1のSiN膜および前記第3のSiN膜の耐湿性よ高くなる成膜条件によ成膜され、
前記第3のSiN膜は、窒素密度が前記第1のSiN膜および前記第2のSiN膜窒素密度より高くなる成膜条件によ成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の磁気トンネル接合素子の製造方法において、
前記第1のSiN膜は、応力が圧縮応力となる成膜条件により成膜され、
前記第2のSiN膜は、応力が圧縮応力となる成膜条件により成膜され、
前記第3のSiN膜は、応力が引っ張り応力となる成膜条件により成膜されることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【請求項18】
請求項1に記載の磁気トンネル接合素子において、
前記保護膜の各々が示す応力の総和は、0であることを特徴とする磁気トンネル接合素子。
【請求項19】
請求項12に記載の磁気トンネル接合素子の製造方法において、
前記第1のSiN膜と前記第2のSiN膜を含む保護膜の各々が示す応力の総和は、0であることを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)及び、メモリセルを構成する磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)素子に係り、特に磁気トンネル接合の保護膜に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAMは、MTJ素子をメモリセルの構成要素とする抵抗変化型の不揮発メモリである。MTJ素子の基本構造は、第1の強磁性層、第1の障壁層、第2の強磁性層を積層した3層構造である。
【0003】
MTJ素子では、通常、第1の強磁性層、第2の強磁性層のうちどちらか一方を磁化が可変である記録層とし、他方を磁化が反転しづらい参照層とする。MTJ素子は、第1の強磁性層及び第2の強磁性層の磁化の相対角に応じて素子抵抗が変化する性質を有する。第1の強磁性層の磁化及び第2の強磁性層の磁化が互いに平行になるとき(平行状態)、MTJ素子抵抗は最小となり、第1の強磁性層の磁化及び第2の強磁性層の磁化が互いに反平行になるとき(反平行状態)、MTJ素子抵抗は最大となる。この抵抗変化率をトンネル磁気抵抗(TMR)比と呼ぶ。
【0004】
MRAMでは、この2つの抵抗状態を「0」と「1」のビット情報に対応させる。MTJ素子は電源が遮断されても磁化方向を保ち続けるため、ビット情報を保持し続けることができ、不揮発性を有する。また、MTJ素子に電流を印加することで発生するスピントランスファートルクによって記録層の磁化を反転させ、情報を書き込む方式が主流になりつつある。この場合、MTJ素子に印加する電流方向によって、書き込む「0」若しくは「1」のビット情報を区別することができる。
【0005】
次に、MTJ素子の磁化方向について説明する。MTJ素子の磁化方向は、磁化が膜面に対して水平方向になる磁性体を、第1の強磁性層、第2の強磁性層に適用することが一般的であった。これは、TMR比が大きい材料を、第1の強磁性層及び第2の強磁性層に適用するためであり、このような材料は磁化が膜面に対して水平に向く性質を示すためである。しかし、MTJ素子の磁化方向は、膜面に対して垂直であるほうが微細化に向き、かつ不揮発性を維持しやすい。そのため、大きな抵抗変化を示し、かつ垂直磁化を実現する材料技術が開発された。その結果、TMR比を維持しつつ、MTJ素子の磁化方向を膜面に対して垂直を維持できるようになっている。例えば特許文献1では、大きなTMR比が得られる例として、第1の強磁性層及び第2の強磁性層にCoFeB、第1の障壁層にMgOを材料として適用することを開示する。
【0006】
特許文献2及び特許文献3は、このような垂直磁化膜を有するMTJ素子に応力膜を設け、MTJ素子を垂直磁化膜の膜面に対して垂直方向に伸長させて垂直方向の形状磁気異方性を増加させることで、MTJ素子の保磁力特性を向上させられることを開示している。具体的には、特許文献2ではMTJ素子の上側に基板に対して引っ張り応力が加わるような応力膜を配置し、MTJ素子の下側に基板に対して圧縮応力が加わるような応力膜を配置する素子構造を開示する。また、特許文献3ではMTJ素子を磁化方向に沿って上下に引っ張るように引っ張り応力を与える側壁膜をMTJ素子の側壁に形成する素子構造を開示する。
【0007】
なお、特許文献4には複数層の保護膜を備えたMTJ素子を開示する。しかし、本文献ではスパッタ法による保護膜形成を前提とするため、保護膜作製方法、保護膜の特性、効果などが大きく異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−258596号公報
【特許文献2】特開2012−182219号公報
【特許文献3】特開2013−8868号公報
【特許文献4】特開2015−179694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らは、MTJ素子に垂直磁化膜の膜面に対して垂直方向に伸長させる応力が印加されることで、MTJ素子の垂直方向の磁化が安定化しなくなる場合があることを見出した。
【0010】
3d遷移金属を少なくとも1種類含んだ強磁性層材料(例えば、CoFeB)の磁化方向が膜面に対して垂直になる理由は、強磁性層と障壁層との積層界面において界面磁気異方性が発現し、強磁性層の膜厚が薄膜化されることによって界面磁気異方性の影響が層の全体に及ぶことにある。すなわち、例えば、CoFeB膜とMgO膜との積層界面における界面磁気異方性は膜面に対して垂直方向に磁化を揃える効果を持つ。これに対して、CoFeB膜が本来持つ磁気異方性は、面内方向に磁化を揃える傾向がある。垂直磁化を実現するためには、界面磁気異方性がCoFeB膜の磁気異方性に打ち勝つ必要がある。CoFeB膜の場合、膜厚を2nm以下まで十分に薄くすると、CoFeB膜の磁気異方性に対して界面磁気異方性が支配的になるため、垂直磁化が実現する。
【0011】
また、CoFeB膜とMgO膜との積層界面に界面磁気異方性が発現するメカニズムは、CoFeB中のFeとMgO中のOとが、界面において結合するためである。このため、垂直磁気異方性を実現するためには、Fe(3d遷移金属)とOとの結合が十分に確保される必要がある。
【0012】
MTJ素子に垂直磁化膜の膜面に対して垂直方向に伸長させる応力が印加されることで、MTJ素子の垂直方向の磁化が安定化しなくなる原因は、界面磁気異方性の発現に重要な役割を果たすFeとOとの結合が、応力印加によって界面に格子不整合が発生し、FeとOとの結合が阻害されることにあると考えられる。応力印加により形状磁気異方性が増加する形状が得られても、界面磁気異方性が減少することにより、MTJ素子の特性がかえって劣化することになる。
【0013】
さらに、界面磁気異方性に着目すると、MTJ素子の製造工程においてプラズマCVDによる保護膜成膜中において、プラズマによる酸化還元反応のためにCoFeB層とMgO層の界面磁気異方性の減少が引き起こされる可能性がある。プラズマCVDにより保護膜を成膜する利点は、緻密な膜が得られることにある。界面磁気異方性は、界面におけるFeとOの組成比が1対1のときに最大になることが知られているところ、プラズマCVDによる保護膜成膜工程において酸化または還元反応が生じると、Feに対するOの組成比が変化し、界面磁気異方性を減少させるように作用する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0015】
一実施の形態におけるMTJ素子は、磁気トンネル接合層と、磁気トンネル接合層の側壁に形成される複数層の保護膜とを有し、保護膜は、プラズマCVDにより形成されるSiN膜であるとともに磁気トンネル接合層に直接接る第1の保護膜を含み、第1の保護膜の成膜条件における水素イオン密度または水素イオンエネルギーは、第1の保護膜以外の保護膜の成膜条件における水素イオン密度または水素イオンエネルギーより低く、第1の保護膜以外の保護膜は、窒素密度が第1の保護膜の窒素密度よりも高い保護膜を含む。
【発明の効果】
【0016】
プラズマCVD成膜による磁気トンネル接合層の磁気特性劣化を抑制し、微細化に対応可能なMTJ素子、MRAMを提供する。
【0017】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1の垂直磁化MTJ素子の断面図。
図2A】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2B】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2C】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2D】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2E】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2F】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図2G】実施例1の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図3】実施例2の垂直磁化MTJ素子の断面図。
図4A】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4B】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4C】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4D】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4E】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4F】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4G】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図4H】実施例2の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図5】実施例3の垂直磁化MTJ素子の断面図。
図6A】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6B】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6C】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6D】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6E】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6F】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6G】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図6H】実施例3の垂直磁化MTJ素子の作製プロセスフロー。
図7】3層構造の記録層を適用した垂直磁化MTJ素子の断面図。
図8】積層フェリ型参照層を適用した垂直磁化MTJ素子の断面図。
図9】MRAMメモリセルの概略図。
図10】MRAMメモリアレイの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0020】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0021】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0022】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、構成要素等の数値および範囲についても同様である。
【0023】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために、平面図であってもハッチングを付す場合があり、また断面図であってもハッチングを省略する場合がある。
【実施例1】
【0024】
実施例1のMTJ素子の構造を説明する。図1はMTJ素子の断面図である。MTJ素子100は、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103をこの順に積層した3層構造の磁気トンネル接合層を基本とし、第1の強磁性層101の第1の障壁層102と逆側の界面に接する下部電極層104及び第2の強磁性層の第1の障壁層102と逆側の界面に接するキャップ層105を備える。図1の例では、下部電極層104は、第1の非磁性層106、第2の非磁性層107、第3の非磁性層108の3層構造とした。しかし、MTJ素子のTMR比、あるいは磁気異方性が減少しなければ、下部電極層104は必ずしも3層でなくても良い。また、キャップ層105は1層としたが、MTJ素子の磁気異方性が減少しなければ1層でなくても良い。また、第1の強磁性層101を参照層、第2の強磁性層103を記録層とするボトムピン型の構造としても、第1の強磁性層101を記録層とし、第2の強磁性層103を参照層とするトップピン型の構造としても良い。
【0025】
第1の強磁性層101及び第2の強磁性層103の材料はCoFeBを適用し、第1の障壁層102の材料はMgOを適用した。これは、CoFeBとMgOの積層界面における界面磁気異方性を使って垂直磁化を実現するためである。第1の強磁性層101、第2の強磁性層103、及び第1の障壁層102の材料は、界面磁気異方性が発現し、垂直磁化を実現できる材料の組合せであれば、磁気トンネル接合層の材料として他の材料の組み合わせを用いても構わない。
【0026】
下部電極層104において、第1の非磁性層106及び第3の非磁性層108の材料にはTaを用い、第2の非磁性層107の材料にはRuを用いた。このような積層構造とすることで下部電極層104の表面ラフネスを減少することができる。下部電極層104の表面ラフネスが大きいと強磁性層と障壁層との界面に乱れが生じ、発現する界面磁気異方性が低下する。表面ラフネスを小さく抑えることで、MTJ素子100のTMR比及び磁気異方性減少を抑制することが可能となる。下部電極層104の表面ラフネスを減少することができる材料の組合せであれば、他の材料や他の積層構造を用いても構わない。
【0027】
キャップ層105の材料にはRuを用いた。Ruを用いると記録層103の磁気異方性が減少する場合もあるので、Taを用いても良い。ただし、キャップ層の材料としてTaを用いた場合、第2の強磁性層103とキャップ層105との境界にCoFeBとTaとが混じり合った領域、すなわち磁気的なデッドレイヤが形成される場合がある。これは、第2の強磁性層103が実効的に薄くなったことに相当する。このため、キャップ層105にTaを用いる場合は、デッドレイヤの膜厚を考慮して第2の強磁性層103の膜厚を決定する必要がある。デッドレイヤの膜厚を考慮しておけば、Taは第2の強磁性層103の磁気異方性を減少することはない。以上のように、キャップ層105の材料は、第2の強磁性層103の磁気異方性を減少しない材料であれば、他の材料を用いても構わない。
【0028】
実施例1では、図1に示すように、MTJ素子100の側壁を覆うように形成された第1の保護膜109、及び第1の保護膜109を覆うように形成された第2の保護膜110を備える。第1の実施例では、第1の保護膜109は、プラズマCVDによって成膜される。プラズマCVDによる成膜前の段階では、MTJ素子100がピラー形状に加工されている。なお、図1ではMTJ素子の径が上にいくほど絞られた形状となっているが、積層膜のエッチングにより生じる形状であり、本明細書においては、かかる形状についてもピラー形状と表記する。保護膜の成膜前に大気曝露するとMTJ素子100の磁気特性が劣化するため、MTJ素子100がピラー形状に加工した後、大気曝露することなく、プラズマCVDによる保護膜を成膜する。
【0029】
第1の保護膜109を成膜する際には、MTJ素子100の側壁が露出した状態となるため、プラズマCVDによる保護膜成膜中に、MTJ素子100の側壁においてプラズマによる酸化還元反応が起こる。この結果、CoFeB層とMgO層の積層界面における界面磁気異方性が減少し、MTJ素子の磁気特性が劣化する。このため、第1の保護膜109の成膜条件をプラズマの密度やエネルギーが低い条件とする。この結果、プラズマCVDによる保護膜成膜中の酸化又は還元反応が緩やかになり、界面磁気異方性の減少を抑制することができる。
【0030】
その後、第2の保護膜110を、第1の保護膜109との合計の応力がゼロに近づく条件で成膜する。この結果、CoFeB層とMgO層の積層界面における格子不整合を解消し、界面磁気異方性の減少を更に抑制することができる。
【0031】
実施例1では、第1の保護膜109及び第2の保護膜110の材料は、ともにプラズマCVDによるSiNを用いた。プラズマCVDによってSiNを成膜する場合、Hガスを用いるため還元反応が起きる。第1の保護膜109を成膜するときは、プラズマCVDの印加バイアス電圧を50Vとし、水素イオン密度及びエネルギーを低減した。この結果、還元反応が抑制され、界面磁気異方性は減少しない。この条件で成膜された第1の保護膜109の応力は、膜面に対して水平にMTJ素子100を内側に圧縮する方向に印加され(圧縮応力)、その大きさは50MPaであった。
【0032】
第1の保護膜109は圧縮応力50MPaで成膜されているため、第2の保護膜110は、膜面に対して水平にMTJ素子100を外側に引っ張る方向に50MPaの応力(引っ張り応力)が印加される条件で成膜する。SiNを引っ張り応力とするためには、プラズマCVDによって成膜する際に用いるNガスの比率を高くすれば良い。従って、第1の保護膜109と第2の保護膜110とではN含有量が異なっており、第2の保護膜110のSiNのN含有量は、第1の保護膜109のSiNのN含有量より大きい。なお、第1の保護膜109及び第2の保護膜の応力方向及び応力値は、合計の応力がゼロに近づくように調整されることを説明するための例であり、これ以外の値でも構わない。
【0033】
第2の保護膜をマスクとして下部電極層104をエッチングして素子分離し、層間絶縁膜112を成膜する。更に、層間絶縁膜112をCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)で平坦化しつつ、ハードマスク層111が露出するまで除去する。その後、ハードマスク層111上端と電気的に接続されるように上部配線層113を形成する。
【0034】
図2A〜Gに、図1のMTJ素子の作製フローを示す。図2Aは、MJT素子100を構成する積層膜の成膜構成を示している。MRAMでは、半導体ウェハプロセスにおける配線プロセスにおいて、配線間にMTJ素子を作製することが多い。実施例1においても配線間にMTJ素子を作製する。配線層において、下部電極層104(第1の非磁性層106、第2の非磁性層107、第3の非磁性層108)、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103、キャップ層105、ハードマスク層111をこの順に積層する。それぞれの層の膜厚について、第1の強磁性層101は1.0nm、第1の障壁層102は1.0nm、第2の強磁性層103の膜厚は1.6nm、第1の非磁性層106の膜厚は5nm、第2の非磁性層107の膜厚は10nm、第3の非磁性層108の膜厚は20nmとする。
【0035】
図2Bはハードマスク層111を加工する工程を示している。ハードマスク層111の材料としてはTaを用いることができる。ハードマスク層の成膜段階での膜厚は150nmとした。ハードマスク層111上にレジスト膜を形成し、所望の位置にMTJ素子が形成されるようにレジスト膜をパターニングし、レジストパターンをハードマスク層111に転写する。
【0036】
図2Bでパターニングされたハードマスク層111を用いて、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103及びキャップ層105をエッチング加工する工程を図2Cに示す。エッチングの終点は、第1の強磁性層101を完全にエッチング加工し、第3の非磁性層108の表面から第3の非磁性層108の途中までエッチングした点とした。
【0037】
この後、大気曝露することなく第1の保護膜109をプラズマCVDで成膜する。この工程を図2Dに示す。第1の保護膜109としてSiN膜を適用し、その膜厚は10nmとする。この工程では、前述のように、水素イオンによる還元反応を抑制するためイオン密度及びエネルギーが低い条件としている。この成膜条件による第1の保護膜109の応力は圧縮応力50MPaを示す。
【0038】
図2Eに、第2の保護膜110を成膜する工程を示す。第2の保護膜110としてSiN膜を適用し、その膜厚は20nmとする。第2の保護膜110は引っ張り応力50MPaとする必要がある。引っ張り応力にするためには、例えば、SiNの密度が3g/cm以上で、N−H量が5×1021atms/cm以上などの条件があるが、所望の引っ張り応力が実現できれば、この条件に限るものではない。このような条件を実現するためには、少なくとも、プラズマCVDによる成膜時にNガスの流量を大きくする必要がある。結果として、第2の保護膜110のN含有量は、第1の保護膜109のN含有量より大きくなる。
【0039】
図2Fは、第2の保護膜110をマスクとして、下部電極層104をエッチングする工程を示している。その後、層間絶縁膜112を成膜する工程を図2Gに示す。
【0040】
このようにして作製したMTJ素子100は、第1の保護膜109によって第1の強磁性層101及び第2の強磁性層103と第1の障壁層102との積層界面における、還元反応による界面磁気異方性の減少が抑制されている。また、第2の保護膜110によって、第1の保護膜109と第2の保護膜110の合計応力がゼロ近辺に制御されるため、格子不整合による界面磁気異方性の減少も抑制される。以上のように、第1の保護膜109には酸化還元反応の抑制、第2の保護膜110には応力調整といった異なる機能を与えることで、磁化が膜面に対して垂直方向に安定化したMTJ素子が可能になる。
【実施例2】
【0041】
実施例1では保護膜を2層構造とし、それぞれに酸化還元反応の抑制と応力調整という異なる機能を与えた。実施例2では保護膜を3層構造とし、それぞれに酸化還元反応の抑制、応力調整、耐湿性の向上という3つの異なる機能を与え、更にMTJ素子の信頼性を高める構造とする。
【0042】
図3を用いて実施例2におけるMTJ素子の構造を説明する。図3は、実施例2のMTJ素子の断面図である。実施例2のMTJ素子300は実施例1と同じ積層構造とした。第1の強磁性層101を参照層、第2の強磁性層103を記録層とするボトムピン型の構造としているが、第1の強磁性層101を記録層とし、第2の強磁性層103を参照層とするトップピン型の構造としても良い。各層の材料についても実施例1と同様である。
【0043】
図3に示すように、実施例2のMTJ素子300では、MTJ素子300の側壁を覆うように形成された第1の保護膜109、第1の保護膜109を覆うように形成された第2の保護膜110、及び第2の保護膜110を覆うように形成された第3の保護膜301を備えている。
【0044】
実施例2における第1の保護膜109の役割は、実施例1と同様である。第1の保護膜109はプラズマの密度やエネルギーが低い条件で成膜され、プラズマCVDによる保護膜成膜中の酸化又は還元反応が緩やかになることで、界面磁気異方性の減少を抑制する。
【0045】
第2の保護膜110は、第1の保護膜109及び第3の保護膜301との合計の応力がゼロに近づく条件で成膜する。この結果、CoFeB層とMgO層の積層界面における格子不整合を解消し、界面磁気異方性の減少を更に抑制する。
【0046】
第3の保護膜301は、大気に触れる可能性があるため耐湿性に優れた条件で成膜する。緻密な膜であるほど、耐湿性に優れた膜であるといえ、SiとNとの比が1:1となるようにガス量を調整し、プラズマの密度やエネルギーを高くすることで耐湿性に優れた膜を得ることができる。そのため、第3の保護膜301のN含有量は、第2の保護膜110のN含有量より小さくなっている。この結果、実施例2のMTJ素子300は、実施例1のMTJ素子100と比較して耐湿性を向上することができ、さらに信頼性の高いMTJ素子を実現できる。
【0047】
実施例2では、第1の保護膜109、第2の保護膜110及び第3の保護膜301の材料は、ともにプラズマCVDによるSiNを用いた。第1の保護膜109を成膜するときは、プラズマCVDの印加バイアス電圧を50Vとし、水素イオン密度及びエネルギーを低減する。この結果、還元反応が抑制され、界面磁気異方性は減少しない。この条件で成膜された第1の保護膜109の応力は圧縮応力であり、その大きさは50MPaであった。
【0048】
次に、第2の保護膜110を成膜する。第1の保護膜109は圧縮応力50MPaで成膜されている。後述するように第3の保護膜301は圧縮応力140MPaで成膜されている。このため、第2の保護膜110は、引っ張り応力190MPaになる条件で成膜する。このため、実施例2では、実施例1と比較して、第2の保護膜110成膜時のNガスの比率が高くなる。従って、実施例2では、実施例1と比較して、第2の保護膜110のSiNにおけるN含有量が大きくなっている。また、第2の保護膜110のSiNにおけるN含有量は第1の保護膜109、第3の保護膜301よりも大きい。
【0049】
第3の保護膜301は上述のようなSiN膜の耐湿性を高める条件を用いて成膜した結果、応力は圧縮応力で140MPaであった。第3の保護膜301を成膜後、第3の保護膜301をマスクとして下部電極層104をエッチングして素子分離し、層間絶縁膜112を成膜する。更に、層間絶縁膜112をCMPで平坦化しつつハードマスク層111が露出するまで除去する。その後、ハードマスク層111上端と電気的に接続されるように上部配線層113を形成する。
【0050】
このようにして第1の保護膜109、第2の保護膜110、及び第3の保護膜301をプラズマCVDにより成膜することで、第1の保護膜109、第2の保護膜110、及び第3の保護膜301の合計の応力をゼロに近づけることが可能である。この結果、CoFeB層とMgO層の間の界面磁気異方性の減少を抑制し、かつ耐湿性に優れた保護膜を形成できる。また、以上説明した第1の保護膜109、第2の保護膜110、及び第3の保護膜301の応力方向及び応力値は、合計の応力がゼロに近づくように調整されることを説明するための例であり、これ以外の値でも構わない。
【0051】
図4A〜Hに、図3のMTJ素子の作製フローを示す。図4Aは、MJT素子300を構成する積層膜の成膜構成を示している。実施例1と同様に、下部電極層104(第1の非磁性層106、第2の非磁性層107、第3の非磁性層108)、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103、キャップ層105、ハードマスク層111をこの順に積層し、それぞれの層の膜厚も実施例1と同じである。
【0052】
図4B及び図4Cの工程も、実施例1と同様である。ハードマスク層111を加工し(図4B)、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103、及びキャップ層105をエッチング加工する(図4C)。実施例2におけるハードマスク層111の材料もTaを用い、ハードマスク層111の成膜段階での膜厚を150nmとしている。
【0053】
この後、大気曝露することなく第1の保護膜109をプラズマCVDで成膜する。この工程を図4Dに示す。この工程では、前述のように、還元反応を抑制するため水素イオン密度及びエネルギーが低い条件としている。第1の保護膜109は膜厚10nmのSiN膜であり、第1の保護膜109の応力は、圧縮応力50MPaを示す。
【0054】
図4Eに、第2の保護膜110を成膜する工程を示す。実施例2では、第2の保護膜110としてSiN膜を適用し、その膜厚は10nmとする。第1の保護膜109は圧縮応力50MPaで成膜されている。また、後述する第3の保護膜301の応力は、圧縮応力で140MPaである。このため、第2の保護膜110は引っ張り応力190MPaとなるように成膜した。引っ張り応力を実現するために、プラズマCVDによる成膜時にNガスの流量を大きくする必要がある。結果として、第2の保護膜110のN含有量は、第1の保護膜109及び第3の保護膜301のN含有量より大きくなる。
【0055】
図4Fは、第3の保護膜301を成膜する工程を示している。第3の保護膜301は保護膜の耐湿性を高める条件で成膜した結果、圧縮応力140MPaであった。
【0056】
図4Gは、第3の保護膜301をマスクとして、下部電極層104をエッチングする工程を示している。その後、層間絶縁膜112を成膜する工程を図4Hに示す。
【0057】
このようにして作製したMTJ素子300は、第1の保護膜109によって第1の強磁性層101及び第2の強磁性層103と第1の障壁層102との積層界面における、還元反応による界面磁気異方性の減少が抑制されている。また、第2の保護膜110によって、第1の保護膜109、第2の保護膜110、第3の保護膜301の合計応力がゼロ近辺に制御されるため、格子不整合による界面磁気異方性の減少も抑制される。更に、第3の保護膜301によって耐湿性が向上している。以上のように、第1の保護膜109には酸化還元反応の抑制、第2の保護膜110には応力調整、第3の保護膜301には耐湿性の向上と、それぞれに異なる機能を独立に与えることが可能である。それぞれの保護膜は、対応する機能を最適化することができるので、MTJ素子の安定性向上に貢献できる。
【実施例3】
【0058】
図5を用いて実施例3におけるMTJ素子の構造を説明する。図5は、実施例3のMTJ素子の断面図である。実施例3のMTJ素子500は、実施例1及び実施例2と同じ積層構造とした。また、実施例3においても、第1の強磁性層101を参照層、第2の強磁性層103を記録層とするボトムピン型の構造としているが、第1の強磁性層101を記録層とし、第2の強磁性層103を参照層とするトップピン型の構造としても良い。各層の材料についても実施例1及び実施例2と同様である。
【0059】
図5に示すように、実施例3のMTJ素子500では、MTJ素子500の側壁を覆うように形成された第1の保護膜109、第1の保護膜109を覆うように形成された第2の保護膜501を備えている。
【0060】
実施例3における第1の保護膜109の役割は、実施例1及び実施例2と同様である。第1の保護膜109はプラズマの密度やエネルギーが低い条件で成膜され、プラズマCVDによる保護膜成膜中の酸化又は還元反応が緩やかになることで、界面磁気異方性の減少を抑制する。
【0061】
第2の保護膜501は、実施例1及び実施例2とは異なり、耐湿性に優れた条件で成膜する。耐湿性に優れた条件とは実施例2の第3の保護膜301に関して説明した通りである。
【0062】
その後、耐湿性に優れた第2の保護膜501により第1の強磁性層101、第1の障壁層102及び第2の強磁性層103が保護されている状態でエッチング装置に移動させ、第2の保護膜501をマスクとして、下部電極層104をエッチングし、素子分離を行う。下部電極層104をエッチング加工した後、プラズマCVD装置に移動させ、第3の保護膜502を成膜する。第3の保護膜502の役割は応力調整であり、第1の保護膜109、第2の保護膜501、及び第3の保護膜502の合計の応力がゼロに近づくように調整される。実施例3では、第1の保護膜109の応力が圧縮応力50MPa、第2の保護膜501の応力が圧縮応力140MPaであるため、第3の保護膜502の応力は引っ張り応力190MPaに調整される。
【0063】
このように、実施例3では、第3の保護膜502成膜時のNガスの比率が高く、第1の保護膜109及び第2の保護膜501と比較して、第3の保護膜502のSiNにおけるN含有量が大きくなっている。また、実施例3における、第1の保護膜109、第2の保護膜501、及び第3の保護膜502の応力方向及び応力値は、合計の応力がゼロに近づくように調整されることを説明するための例であり、これ以外の値でも構わない。
【0064】
第3の保護膜502を成膜後、層間絶縁膜112を成膜する。更に、層間絶縁膜112をCMPで平坦化しつつハードマスク層111が露出するまで除去する。その後、ハードマスク層111上端と電気的に接続されるように上部配線層113を形成する。
【0065】
このように第1の保護膜109、第2の保護膜501、及び第3の保護膜502をプラズマCVDの条件を変えながらSiN膜を成膜することで、第1の保護膜109、第2の保護膜501、及び第3の保護膜502の合計の応力をゼロに近づけることが可能である。この結果、CoFeB層とMgO層の間の界面磁気異方性の減少を抑制し、かつ耐湿性に優れた保護膜を形成できる。
【0066】
実施例3の特徴は、3層の保護膜の中でもっとも外側に位置する第3の保護膜502が応力調整を担う点にある。最外層である第3の保護膜502に応力調整の役割を持たせることで、より容易に第1の保護膜109、第2の保護膜501、第3の保護膜502に層間絶縁膜112を含めた層の合計の応力をゼロに近づけることができる。これは、応力調整の役割を果たす第3の保護膜502が層間絶縁膜112の近くに位置することによる。
【0067】
図6A〜Hに、図5のMTJ素子の作製フローを示す。図6Aは、MJT素子500を構成する積層膜の成膜構成を示している。実施例1及び実施例2と同様に、下部電極層104(第1の非磁性層106、第2の非磁性層107、第3の非磁性層108)、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103、キャップ層105、ハードマスク層111をこの順に積層し、それぞれの層の膜厚も実施例1及び実施例2と同じである。
【0068】
図6B及び図6Cの工程も、実施例1及び実施例2と同様である。ハードマスク層111を加工し(図6B)、第1の強磁性層101、第1の障壁層102、第2の強磁性層103、及びキャップ層105をエッチング加工する(図6C)。実施例3におけるハードマスク層111の材料もTaを用い、ハードマスク層111の成膜段階での膜厚を150nmとしている。
【0069】
この後、大気曝露することなく第1の保護膜109をプラズマCVDで成膜する。この工程を図6Dに示す。この工程は、実施例1及び実施例2と同様に、プラズマによる還元反応を抑制するため水素イオン密度及びエネルギーが低い条件としている。第1の保護膜109は膜厚10nmのSiN膜であり、第1の保護膜109の応力は、圧縮応力50MPaを示す。
【0070】
図6Eに、第2の保護膜501を成膜する工程を示す。実施例3では、第2の保護膜501としてSiN膜を適用し、その膜厚は20nmとする。第2の保護膜501は保護膜の耐湿性を高める条件で成膜した結果、圧縮応力140MPaであった。
【0071】
図6Fは、第2の保護膜501をマスクとして、下部電極層104をエッチングする工程を示している。
【0072】
図6Gに、第3の保護膜502を成膜する工程を示す。第3の保護膜502は応力調整層であり、第1の保護膜109の応力は圧縮応力50MPa、第2の保護膜501の応力は圧縮応力140MPaであるため、第3の保護膜502の応力は引っ張り応力190MPaとなるように成膜する。引っ張り応力を実現するために、プラズマCVDによる成膜時にNガスの流量を大きくする必要がある。結果として、第3の保護膜502のN含有量は、第1の保護膜109及び第2の保護膜501のN含有量より大きくなる。
【0073】
その後、層間絶縁膜112を成膜する工程を図6Hに示す。
【0074】
このようにして作製したMTJ素子500は、第1の保護膜109によって第1の強磁性層101及び第2の強磁性層103と第1の障壁層102との積層界面における、還元反応による界面磁気異方性の減少が抑制されている。また、第2の保護膜501によって耐湿性が向上している。さらに、第3の保護膜502によって、第1の保護膜109、第2の保護膜501、及び第3の保護膜502の合計応力がゼロ近辺に制御されるため、格子不整合による界面磁気異方性の減少も抑制される。以上のように、第1の保護膜109には酸化還元反応の抑制、第2の保護膜501には耐湿性の向上、第3の保護膜502には応力調整と、それぞれに異なる機能を独立に与えることが可能である。それぞれの保護膜は、対応する機能を最適化することができるので、MTJ素子の安定性向上に貢献できる。
【0075】
以下、実施例1〜3として説明したMTJ素子につき、共通の変形例について説明する。実施例1〜3では、記録層を単層(第2の強磁性層103)とする例を示したが、さらに磁気異方性を向上し膜面に対して垂直方向に磁化を安定化させるために、3層構造の記録層を用いても良い。
【0076】
実施例1の磁気トンネル接合層において、単層(第2の強磁性層103)の記録層の代わりに、3層の記録層701を適用したMTJ素子700を図7に示す。3層構造の記録層701は、第3の強磁性層702、第4の非磁性層703、第4の強磁性層704で構成される。第3の強磁性層702の材料としてCoFeB、第4の非磁性層703の材料としてTa、第4の強磁性層704の材料としてCoFeBを適用する。3層構造の記録層を適用する場合は、キャップ層705は単層ではなく、第2の障壁層706及び第5の非磁性層707で構成されることが望ましい。第2の障壁層706の材料としてMgO、第5の非磁性層707の材料としてRuを適用する。
【0077】
3層構造の記録層及び2層構造のキャップ層を適用することにより、第3の強磁性層702及び第4の強磁性層704が、第4の非磁性層703を介して強磁性結合し、一体の磁性体としてはたらく。また、第4の強磁性層704と第2の障壁層706の積層界面においても、界面磁気異方性が発現する。これにより、MTJ素子の記録層の磁気異方性が増加する。本構造は、実施例1に限られず、他の実施例のMTJ素子構造にも適用可能である。
【0078】
さらに別の変形例について説明する。以上の例では、参照層を単層(第1の強磁性層101)とする例を示したが、さらに磁気異方性を向上し、膜面に対して垂直方向に磁化を安定化させるために、垂直磁化を持つ磁性多層膜を用いて積層フェリ型構造としても良い。
【0079】
実施例1の磁気トンネル接合層において、単層(第1の強磁性層101)の参照層の代わりに、磁性多層膜を用いた積層フェリ型参照層801を適用したMTJ素子800を図8に示す。磁性多層膜を使った積層フェリ型参照層801は、第1の磁性多層膜802、第6の非磁性層803、第2の磁性多層膜804、第7の非磁性層805、第5の強磁性層806をこの順に積層した構造である。第1の磁性多層膜802の材料としてCo/Pt多層膜、第6の非磁性層803の材料としてRu、第2の磁性多層膜804の材料としてCo/Pt多層膜、第7の非磁性層805の材料としてTa、第5の強磁性層806の材料としてCoFeBを適用する。
【0080】
磁性多層膜を用いた積層フェリ型参照層801では、第1の磁性多層膜802と第2の磁性多層膜804の磁化が反平行に結合するように、第6の非磁性層803の材料及び膜厚が選択されている。また、第2の磁性多層膜804と第5の強磁性層806の磁化が平行に結合するように第7の非磁性層805の材料及び膜厚が選択されている。この構造の利点は、第1の磁性多層膜802と第2の磁性多層膜804とが強い垂直磁気異方性を持つため、膜面に対して垂直方向に磁化が安定化すること、第1の磁性多層膜802と第2の磁性多層膜804が積層フェリ型構造であるため外部への漏洩磁場が小さいこと、第5の強磁性層806にTMR比が大きい材料を選択できることが挙げられる。本構造は、実施例1に限られず、他の実施例のMTJ素子構造にも適用可能であり、3層構造の記録層の変形例とも組み合わせることが可能である。
【0081】
以上説明したMTJ素子をメモリセルに利用する。メモリセルは、MTJ素子と選択トランジスタとで構成される。図9はメモリセル900の一般的な構造を示した模式図である。ここでは、一例として実施例1のMTJ素子100を適用している。メモリセル900のMTJ素子100は、下部電極層104が選択トランジスタ901のドレイン電極と電気的に接続されている。さらに、上部配線層113はビット線902に電気的に接続されている。選択トランジスタ901のソース電極は、ビット線902と平行に配置されるソース線903に電気的に接続されている。選択トランジスタ901のゲート電極は、ビット線及びソース線と直交するように配置されるワード線904に接続されている。
【0082】
図10は、MTJ素子100をアレイ状に配置したMRAMメモリアレイ1000の概略図を示している。ビット線902、ソース線903、及びワード線904は複数配置され、ビット線902及びソース線903とワード線904とが交差する各点に、メモリセル900が配置される。各ビット線902、ソース線903、ワード線904にはそれぞれ独立に電圧を制御する機構が設置されている。
【0083】
特定のメモリセル900を選択するときは、そのメモリセル900が電気的に接続しているビット線902及びソース線903の電圧を制御し、メモリセル900が接続しているワード線904に電圧を印加することで選択トランジスタ901に電流が印加される状態となる。例えば、MTJ素子を低抵抗状態に書き込みする場合、ソース線903の電位と比較してビット線902の電位が高くなるように設定する。この状態でワード線904に電圧を印加すると、MTJ素子の上部配線層113から下部電極層104に向かって電流が流れる。電流がMTJ素子の書き込み閾値電流を超えるとMTJ素子は低抵抗状態になる。
【符号の説明】
【0084】
100,300,500,700,800:MTJ素子、101:第1の強磁性層、102:第1の障壁層、103:第2の強磁性層、104:下部電極層、105,705:キャップ層、106:第1の非磁性層、107:第2の非磁性層、108:第3の非磁性層、109:第1の保護膜、110,501:第2の保護膜、111:ハードマスク層、112:層間絶縁膜、113:上部配線層、301,502:第3の保護膜、701:記録層、702:第3の強磁性層、703:第4の非磁性層、704:第4の強磁性層、706:第2の障壁層、707:第5の非磁性層、801:積層フェリ型参照層、802:第1の磁性多層膜、803:第6の非磁性層、804:第2の磁性多層膜、805:第7の非磁性層、806:第5の強磁性層、900:メモリセル、901:選択トランジスタ、902:ビット線、903:ソース線、904:ワード線、1000:MRAMメモリアレイ。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6A
図6B
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図7
図8
図9
図10