(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[磁気テープ]
本発明の一態様は、非磁性支持体の一方の表面側に平均粒子体積が2500nm
3以下の強磁性粉末を含む磁性層を有し、他方の表面側に非磁性粉末を含むバックコート層を有する磁気テープであって、上記強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末およびε−酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末であり、上記磁性層の表面の5μmピッチのPSD
5μm−PSDmagと、上記バックコート層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDbcとの比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)が0.0050〜0.20の範囲である磁気テープに関する。
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。
【0017】
<磁性層およびバックコート層の表面形状>
(比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc))
例えば、10μmピッチのPSDは、以下の方法により求められる。
非接触光干渉式表面粗さ機を用いてPSDの測定を行う。例えば、Bruker社、WYKO社、ZYGO社製の非接触光干渉式表面粗さ機を用いることができる。測定時には、高倍率(例えば50倍程度)の対物レンズを用いることが好ましい。サンプリング長が50nm〜300nmの範囲となるように、対物レンズと中間レンズの倍率を設定し、測定対象表面のプロファイルデータを計測する。
磁気テープの長手方向のPSDを算出する。非接触光干渉式表面粗さ機の搭載機能により長手方向のプロファイルデータがフーリエ変換され、これを平均化したものがPSDとして算出される。
このPSDから、各波長でのPSD値を算出して10μmピッチにあたるPSD値を求める。こうして求められるPSD値を、10μmピッチのPSDとする。その他のピッチのPSDについても同様である。PSDの測定方法の具体的態様については、後述の実施例を参照できる。
【0018】
以上の方法により求められるPSDは、測定対象の層の表面のうねり成分の存在状態の指標となり得る値である。本発明者は鋭意検討を重ねる中で、非磁性支持体の一方の表面側に平均粒子体積が2500nm
3以下の強磁性粉末を含む磁性層を有し、他方の表面側に非磁性粉末を含むバックコート層を有する磁気テープにおいて、比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)が0.0050〜0.20の範囲となるように磁性層とバックコート層の表面のうねり成分の存在状態を制御することにより、繰り返し走行での記録再生品質を向上させることが可能となることを見出すに至った。この点について、以下に更に説明する。
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジのリールに巻かれて磁気テープカートリッジ内に収容される。磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置(ドライブと呼ばれる。)に装着し、ドライブ内で磁気テープを磁気テープカートリッジのリールから磁気テープを送り出し、また磁気テープカートリッジのリールへ巻き取ることによって、ドライブ内で磁気テープを走行させることができる。このリールへの巻き取り時に磁性層表面とバックコート層表面との巻きずれが生じることは、磁性層表面に傷が発生する原因になると考えられる。そして磁性層表面の傷は、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生のために磁気テープを磁気ヘッドと接触させ摺動させる際、磁性層表面と磁気ヘッドとのスペーシングの変動を引き起こし得る。この点に関し、磁性層に含まれる強磁性粉末の粒子体積が小さいほど、強磁性粉末を構成する強磁性粒子に対する結合剤分子数は少なくなるため、磁性層が脆くなり易く、傷が生じ易くなると推察される。また、ε−酸化鉄粉末を含む磁性層は、一般的に異方性磁界Hkが高くなる傾向があるため、データ記録時等にスペーシング変動の影響を受け易いと推察される。また、六方晶フェライト粉末の中でも六方晶ストロンチウムフェライト粉末を含む磁性層は、一般に異方性磁界Hkが高い傾向があるため、同様のことがいえる。
これに対し、比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)が0.0050〜0.20の範囲となるように磁性層とバックコート層の表面のうねり成分の存在状態を制御することにより、リールへの巻き取り時に磁性層表面とバックコート層表面との間で所謂くさび効果を働かせることができると考えられる。このことが、リールへの巻き取り時に磁性層表面とバックコート層表面との巻きずれが生じることを抑制することにつながり、繰り返し走行での記録再生品質を向上させることが可能になると推察される。ただし、以上は推察であって、本発明を限定するものではない。また、本明細書に記載の他の推察にも、本発明は限定されない。
【0019】
上記磁気テープにおいて、比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)は、0.0050以上であり、記録再生品質の更なる向上の観点からは、0.010以上であることが好ましく、0.020以上であることがより好ましく、0.030以上であることが更に好ましい。また、上記磁気テープにおいて、比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)は、0.20以下であり、記録再生品質の更なる向上の観点からは、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.080以下であることが更に好ましく、0.060以下であることが一層好ましい。
【0020】
上記磁気テープでは、比(PSD
5μm−PSDmag/PSD
10μm−PSDbc)が上記範囲であればよく、磁性層の表面の5μmピッチのPSD
5μm−PSDmagおよびバックコート層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDbcは限定されるものではない。磁性層の表面の5μmピッチのPSD
5μm−PSDmagは、例えば、3.00E+02nm
3以上であることができ、6.00E+02nm
3以上であることが好ましく、1.00E+03nm
3以上であることがより好ましい。また、磁性層の表面の5μmピッチのPSD
5μm−PSDmagは、例えば、1.50E+04nm
3以下であることができ、9.00E+03nm
3以下であることが好ましく、3.00E+03nm
3以下であることがより好ましい。バックコート層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDbcは、例えば1.00E+04nm
3以上であることができ、3.00E+04nm
3以上であることが好ましく、5.00E+04nm
3以上であることがより好ましい。また、バックコート層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDbcは、例えば、5.00E+05nm
3以下であることができ、3.00E+05nm
3以下であることが好ましく、1.00E+05nm
3以下であることがより好ましい。一態様では、PSD
10μm−PSDbcは、2.00E+04〜8.00E+04nm
3の範囲であることもできる。また、一態様では、磁性層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDmagは、8.00E+02〜1.00E+04nm
3の範囲であることができる。なお、「E」は周知の通り指数表記であり、例えば「E+03」は、「×10
3」(10の3乗)を示す。
【0021】
(比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc))
上記磁気テープにおいて、更なる繰り返し走行での記録再生品質の向上の観点からは、バックコート層の表面の3μmピッチのPSD
3μm−PSDbcとバックコート層の表面の10μmピッチのPSD
10μm−PSDbcとの比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)は、0.050〜0.75の範囲であることが好ましい。比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)が0.050以上であることは、リールへの巻き取り時に磁性層表面とバックコート層表面との巻きずれが生じることをより一層抑制することに寄与すると考えられる。また、比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)がより小さいことは、バックコート層表面の微小領域での粗さ変化がより小さくなることを意味すると考えられる。かかる粗さ変化が小さくなるほど、バックコート層表面の粗さに起因して磁性層表面が傷付きにくくなると推察される。これに対し、比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)が0.75以下であることは、バックコート層の粗さに起因する磁性層表面の傷の発生を低減することにつながると考えられる。繰り返し走行での記録再生品質のより一層の向上の観点から、比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)は、0.070以上であることがより好ましく、0.10以上であることが更に好ましく、0.20以上であることが一層好ましく、0.30以上であることがより一層好ましい。また、同様の観点から、比(PSD
3μm−PSDbc/PSD
10μm−PSDbc)は、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましい。バックコート層の表面の3μmピッチのPSD
3μm−PSDbcは、例えば1.00E+03〜 1.00E+05nm
3の範囲であることができる。
【0022】
(積(Rku
mag×Rku
bc))
上記磁気テープにおいて、繰り返し走行での記録再生品質の更なる向上の観点からは、磁性層の表面のクルトシスRku
magとバックコート層の表面のクルトシスRku
bcとの積(Rku
mag×Rku
bc)は、7.0〜20.0の範囲であることが好ましい。クルトシスRkuは、非接触光干渉式表面粗さ機を用いて、測定対象の層の表面の面積167μm×125μmの領域について得られた磁気テープの長手方向の表面粗さのプロファイルデータから、JIS B 0601:2013にしたがい求められる値である。Rku
magおよびRku
bcの測定方法の具体的態様については、後述の実施例を参照できる。クルトシスRkuは、表面の高さ分布の鋭さを表し、「Rku=3」とは、高さ分布が正規分布であることを示し、「Rku>3」とは、表面に鋭い凹凸が多いことを示し、「Rku<3」とは、表面に鋭い凹凸が少なく表面が平坦であることを示す。磁性層表面および/またはバックコート層表面に鋭い凹凸が多いほど所謂くさび効果をより一層働かせることができ、リールへの巻き取り時に磁性層表面とバックコート層表面との巻きずれが生じることをより一層抑制することができると考えられる。この観点から、積(Rku
mag×Rku
bc)は、7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、9.0以上であることが更に好ましい。また、凸部により磁性層表面および/またはバックコート層表面に傷が生じやすくなることを抑制する観点から、積(Rku
mag×Rku
bc)は、20.0以下であることが好ましく、18.0以下であることがより好ましく、16.0以下であることが更に好ましく、14.0以下であることが一層好ましく、12.0以下であることがより一層好ましい。磁性層表面に傷が生じやすくなることをより一層抑制する観点からは、磁性層の表面のクルトシスRku
magがバックコート層の表面のクルトシスRku
bcより小さいこと、即ち、Rku
mag<Rku
bc、の関係を満たすことが好ましい。磁性層の表面のクルトシスRku
magは、2.00〜6.00の範囲であることが好ましく、2.50〜4.00の範囲であることがより好ましい。また、バックコート層の表面のクルトシスRku
bcは、2.00〜6.00の範囲であることが好ましく、2.50〜5.00の範囲であることがより好ましい。
【0023】
(Rsk
mag、Rsk
bc)
上記磁気テープにおいて、繰り返し走行での記録再生品質のより一層の向上の観点からは、磁性層の表面のスキューネスRsk
magおよびバックコート層の表面のスキューネスRsk
bcの少なくとも一方が、0以上であることが好ましい。スキューネスRskは、非接触光干渉式表面粗さ機を用いて、測定対象の層の表面の面積167μm×125μmの領域について得られた磁気テープの長手方向の表面粗さのプロファイルデータから、JIS B 0601:2013にしたがい求められる値である。Rsk
magおよびRsk
bcの測定方法の具体的態様については、後述の実施例を参照できる。スキューネスRskは、表面の高さ分布の対称性を表し、「Rsk=0」とは、高さ分布(縦軸が高さ)が上下に対称であることを示し、「Rsk>0」(即ちRskが正の値)とは、凸部が多い表面であることを示し、「Rsk<0」(即ちRskが負の値)とは、凹部が多い表面であることを示す。所謂くさび効果をより一層働かせる観点からは、Rsk
magおよびRsk
bcの少なくとも一方が0以上であることが好ましく、0超であることがより好ましい。Rsk
magは、例えば−0.75〜0.75(即ち+0.75)の範囲であることができ、Rsk
bcは、例えば−0.50〜1.00(即ち+1.00)の範囲であることができる。一態様では、Rsk
magおよびRsk
bcが0以上または0超であることができる。また、高密度記録化の観点からは、磁性層表面の凸部を低減することが好ましいため、Rsk
magは0未満であることも好ましい。Rsk
bcは、0以上、0超または0未満であることができ、0以上または0超であることが好ましく、0超であることがより好ましい。
【0024】
以上記載した磁性層およびバックコート層の表面形状の制御方法については、後述する。
【0025】
<磁性層>
(強磁性粉末)
平均粒子体積
上記磁気テープは、六方晶フェライト粉末およびε−酸化鉄粉末からなる群から選択される平均粒子体積が2500nm
3以下の強磁性粉末を磁性層に含む。平均粒子体積は、後述する方法によって求められる平均粒子サイズから、球相当体積として求められる値である。平均粒子体積が2500nm
3以下の強磁性粉末を磁性層に含むことは、記録密度向上の観点から好ましい。この観点から、平均粒子体積は、2300nm
3以下であることが好ましく、2000nm
3以下であることがより好ましく、1500nm
3以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、平均粒子体積は、500nm
3以上であることが好ましく、600nm
3以上であることがより好ましく、650nm
3以上であることが更に好ましく、700nm
3以上であることが一層好ましい。上記磁気テープの磁性層は、六方晶フェライト粉末およびε−酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を一種単独または二種以上含むことができる。
【0026】
六方晶フェライト粉末
上記磁気テープは、一態様では、磁性層に六方晶フェライト粉末を含むことができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011−225417号公報の段落0012〜0030、特開2011−216149号公報の段落0134〜0136、特開2012−204726号公報の段落0013〜0030および特開2015−127985号公報の段落0029〜0084を参照できる。
【0027】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0028】
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0029】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×10
5J/m
3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×10
5J/m
3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×10
5J/m
3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10
−1J/m
3である。
【0030】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5〜5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0031】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5〜5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5〜4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0〜4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5〜4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0032】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0033】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0034】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0035】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015−91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10〜20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0036】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m
2/kg以上であることができ、47A・m
2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m
2/kg以下であることが好ましく、60A・m
2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=10
6/4π[A/m]である。
【0037】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0〜15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05〜5.0原子%の範囲であることができる。
【0038】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe
12O
19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5〜10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0〜5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0039】
上記磁気テープが磁性層に六方晶ストロンチウムフェライト粉末を含む場合、磁性層の異方性磁界Hkは、14kOe以上であることが好ましく、16kOe以上であることがより好ましく、18kOe以上であることが更に好ましい。また、上記磁性層の異方性磁界Hkは、90kOe以下であることが好ましく、80kOe以下であることがより好ましく、70kOe以下であることが更に好ましい。
本発明および本明細書における異方性磁界Hkとは、磁化困難軸方向に磁界を印加したときに、磁化が飽和する磁界をいう。異方性磁界Hkは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末を含む磁性層において、磁性層の磁化困難軸方向は、面内方向である。
【0040】
ε−酸化鉄粉末
本発明および本明細書において、「ε−酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε−酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε−酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε−酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε−酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε−酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280−S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200−5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε−酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0041】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε−酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×10
4J/m
3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×10
4J/m
3以上のKuを有することができる。また、ε−酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×10
5J/m
3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0042】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε−酸化鉄粉末のσsは、8A・m
2/kg以上であることができ、12A・m
2/kg以上であることもできる。一方、ε−酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m
2/kg以下であることが好ましく、35A・m
2/kg以下であることがより好ましい。
【0043】
上記磁気テープが磁性層にε−酸化鉄粉末を含む場合、磁性層の異方性磁界Hkは、18kOe以上であることが好ましく、30kOe以上であることがより好ましく、38kOe以上であることが更に好ましい。また、磁性層の異方性磁界Hkは、100kOe以下であることが好ましく、90kOe以下であることがより好ましく、75kOe以下であることが更に好ましい。ε−酸化鉄粉末を含む磁性層において、磁性層の磁化困難軸方向は、面内方向である。
【0044】
本発明および本明細書において、特記しない限り、各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。磁気記録媒体の磁性層に含まれる粉末については、以下の方法により作製した切削片を用いて撮影を行い、上記の粒子の写真を得ることができる。磁気記録媒体を樹脂ブロック等に接着し、ミクロトーム等を用いて切削片を作製し、作製した切削片を透過型電子顕微鏡を用いて観察して磁性層部分を特定して撮影を行う。例えば磁気テープについては、磁気テープを長手方向に切削して切削片を作製することができる。
得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて測定された値であり、強磁性粉末の平均粒子体積は、こうして求められた平均粒子サイズから球相当体積として算出された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0045】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011−048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0046】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0047】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0048】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。磁性層は、強磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0049】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤は、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0028〜0031を参照できる。磁性層の結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0〜30.0質量部であることができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0050】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0〜80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0〜80.0質量部であることができる。
【0051】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030〜0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030〜0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。また、磁性層にカーボンブラックを含有させることもできる。カーボンブラックとしては、例えば、平均粒子サイズが5〜300nmのものを使用することができる。磁性層のカーボンブラック含有量は、例えば強磁性粉末100.0質量部あたり、0.1〜30.0質量部とすることができる。一態様では、磁性層のカーボンブラック含有量を調整することによって、磁性層の表面形状を制御することができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013−131285号公報の段落0012〜0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0052】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0053】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性粉末の平均粒子サイズは、5〜500nmの範囲であることが好ましく、10〜200nmの範囲であることがより好ましい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報の段落0146〜0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010−24113号公報の段落0040〜0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
【0054】
非磁性層は、非磁性粉末を含み、非磁性粉末とともに結合剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0055】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0056】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。例えば、バックコート層の非磁性粉末として、粒子サイズが異なる非磁性粉末を使用することにより、バックコート層の表面形状を制御することができる。例えば、平均粒子サイズが15〜50nmのカーボンブラック(以下、「微粒子カーボンブラック」と記載する。)と、平均粒子サイズが75〜500nmのカーボンブラック(以下、「粗粒子カーボンブラック」と記載する。)とを併用し、両カーボンブラックの混合比率を調整することによって、上記の突起の個数を制御することができる。また、バックコート層のカーボンブラックの含有量は、結合剤100.0質量部に対して、好ましくは50.0〜200.0質量部の範囲であり、より好ましくは75.0〜150.0の範囲である。
【0057】
バックコート層は、好ましくはカーボンブラックとともに、一種以上の無機粉末を含むことができる。無機粉末とカーボンブラックとの混合比は、無機粉末:カーボンブラック(質量基準)として、9:1〜7:3とすることが好ましい。無機粉末としては、例えば、平均粒子サイズが80〜250nmでモース硬度が5〜9の無機粉末が挙げられる。無機粉末としては、一般に非磁性層に使用される非磁性粉末、一般に磁性層に研磨剤として使用される非磁性粉末等を挙げることができ、中でもα−酸化鉄、α−アルミナ等が好ましい。バックコート層の無機粉末の含有量は、結合剤100.0質量部に対して、好ましくは300.0〜700.0質量部の範囲であり、より好ましくは400.0〜500.0の範囲である。
【0058】
バックコート層は、非磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、一種以上の添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006−331625号公報の段落0018〜0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目〜第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0059】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。支持体として、磁性層が形成される側の表面および/またはバックコート層が形成される側の表面のPSDが異なるものを使用することにより、磁性層の表面形状および/またはバックコート層の表面形状を変えることができる。支持体の磁性層が形成される側の表面の5μmピッチのPSD(以下、「磁性面側5μmPSD」と記載する。)は、例えば2.00E+02〜1.20E+04nm
3の範囲であることができ、バックコート層が形成される側の表面の10μmピッチのPSD(以下、「バック面側10μmPSD」と記載する。)は、例えば5.00E+02〜3.00E+06nm
3の範囲であることができる。支持体を公知の方法により製造する場合、支持体に含有させる非磁性粉末のサイズおよび含有量によって、支持体の表面形状を調整することができる。また、支持体の片側またが両側の表面に放射線硬化型樹脂等を用いて平滑化層を形成することにより、その上に磁性層またはバックコート層が形成される表面の表面形状を調整することもできる。
【0060】
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0〜50.0μmであり、好ましくは3.0〜10.0μmであり、好ましくは3.0〜5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には10〜150nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20〜120nmであり、更に好ましくは30〜100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜1.5μmであり、0.1〜1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
磁気テープの各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0061】
<製造工程>
磁性層、非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物は、先に説明した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体を製造するために一般に使用される各種有機溶媒を用いることができる。各層形成用組成物における溶媒量は特に限定されるものではなく、通常の塗布型磁気記録媒体の各層形成用組成物と同様にすることができる。各層形成用組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる各種成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。
【0062】
各層形成用組成物を調製するためには、公知技術を用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1−106338号公報および特開平1−79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズからなる群から選ばれる一種以上の分散ビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)および充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物は、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01〜3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。ろ過により粗大な凝集物を除去するほど、磁性層および/またはバックコート層の表面のうねり成分および/または凸部は低減される傾向がある。
【0063】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、例えば、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−24113号公報の段落0051を参照できる。
【0064】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種工程については、例えば特開2010−24113号公報の段落0052〜0057等の公知技術を参照できる。例えば、乾燥条件(温度等)によっても、各層の表面形状を制御することができる。また、例えば磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010−231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気テープの搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。また、カレンダ処理については、カレンダ条件を強化すると、磁性層および/またはバックコート層の表面のうねり成分および/または凹凸は低減される傾向がある。カレンダ条件としては、カレンダ圧力、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)、カレンダ速度、カレンダロールの硬度等が挙げられ、カレンダ圧力、カレンダ温度およびカレンダロールの硬度は、これらの値を大きくするほどカレンダ処理は強化され、カレンダ速度は遅くするほどカレンダ処理は強化される。また、いずれかの層を形成するための組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、公知の方法によりスムージング処理を行い塗布層にせん断をかけることもできる。塗布層にせん断を加えることよって、磁性層および/またはバックコート層のうねり成分および/または凸部は低減される傾向がある。
【0065】
製造された磁気テープには、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気テープの走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0066】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0067】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape−Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0068】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0069】
また、一態様では、特開2004−318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0070】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0071】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0072】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0073】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1〜10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0074】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0075】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012−53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0076】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0077】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0078】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0079】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0080】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0081】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0082】
上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0083】
上記磁気記録再生装置において、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生は、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0084】
例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、特記しない限り、「質量部」および「質量%」を示す。下記工程および評価は、特記しない限り、23℃±1℃の大気中で行った。以下に記載の「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0086】
後述の表1中、「SrFe1」および「SrFe2」は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε−酸化鉄」はε−酸化鉄粉末を示し、「BaFe」は六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
以下に記載の各種強磁性粉末の平均粒子体積は、先に記載の方法により求められた値である。
異方性定数Kuは、各強磁性粉末について振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
また、以下に記載の磁性層の異方性磁界Hkは、振動試料型磁力計TM−VSM5050−SMS型(玉川製作所製)を用いて測定された値である。
【0087】
[強磁性粉末の作製方法]
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法1>
SrCO
3を1707g、H
3BO
3を687g、Fe
2O
3を1120g、Al(OH)
3を45g、BaCO
3を24g、CaCO
3を13g、およびNd
2O
3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(後述の表1中、「SrFe1」)の平均粒子体積は後述の表1に記載の値、異方性定数Kuは2.2×10
5J/m
3、質量磁化σsは49A・m
2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0088】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0089】
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法2>
SrCO
3を1725g、H
3BO
3を666g、Fe
2O
3を1332g、Al(OH)
3を52g、CaCO
3を34g、BaCO
3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(後述の表1中、「SrFe2」)の平均粒子体積は後述の表1に記載の値、異方性定数Kuは2.0×10
5J/m
3、質量磁化σsは50A・m
2/kgであった。
【0090】
<ε−酸化鉄粉末の作製方法>
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES;Inductively Coupled Plasma−Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε−酸化鉄(ε−Ga
0.58Fe
1.42O
3)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法1について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε−酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε−酸化鉄粉末(後述の表中、「ε−酸化鉄」)の平均粒子体積は後述の表に記載の値、異方性定数Kuは1.2×10
5J/m
3、質量磁化σsは16A・m
2/kgであった。
【0091】
[実施例1]
各層形成用組成物の処方を、下記に示す。
【0092】
<磁性層形成用組成物の処方>
強磁性粉末(表2参照) 100.0部
ポリウレタン樹脂 17.0部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、−SO
3Na=400eq/ton
α−Al
2O
3(平均粒子サイズ0.15μm) 5.0部
ダイヤモンド粉末(平均粒子サイズ:60nm) 1.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm) 1.0部
シクロヘキサノン 110.0部
メチルエチルケトン 100.0部
トルエン 100.0部
ブチルステアレート 2.0部
ステアリン酸 1.0部
【0093】
<非磁性層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α−酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ:10nm
平均針状比:1.9
BET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積:75m
2/g
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm) 25.0部
SO
3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
(重量平均分子量:70,000、SO
3Na基:0.2meq/g)
ステアリン酸 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0094】
<バックコート層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末(α−酸化鉄) 85.0部
表面処理層:Al
2O
3、SiO
2
平均粒子サイズ:0.15μm
タップ密度:0.8
平均針状比:7
BET比表面積:52m
2/g
pH:8
DBP吸油量:33g/100g
微粒子カーボンブラック(平均粒子サイズ:16nm) 20.0部
粗粒子カーボンブラック(平均粒子サイズ:370nm) なし
塩化ビニル共重合体(カネカ社製MR104) 13.0部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製バイロンUR820 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
アルミナ粉末(平均粒子サイズ:0.25μm) 5.0部
シクロヘキサノン 140.0部
メチルエチルケトン 170.0部
ブチルステアレート 2.0部
ステアリン酸 1.0部
【0095】
<各層形成用組成物の調製>
上記の磁性層形成用組成物、非磁性層形成用組成物およびバックコート層形成用組成物のそれぞれについて、各成分をオープンニーダで240分間混練した後、サンドミルで分散させた。分散時間は、磁性層形成用組成物については720分間とし、非磁性層形成用組成物およびバックコート層形成用組成物についてはそれぞれ1080分間とした。こうして得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート3041)をそれぞれ4.0部加え、更に20分間撹拌混合した後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過した。
以上により、磁性層形成用組成物、非磁性層形成用組成物およびバックコート層形成用組成物を調製した。
【0096】
<磁気テープカートリッジの作製>
厚み4.6μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート製支持体(種類:表2参照)の表面上に、乾燥後の厚みが0.7μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布して雰囲気温度100℃の環境下で乾燥させて非磁性層を形成し、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが60nmになるように磁性層形成用組成物を塗布し、磁性層形成用組成物の塗布層を形成した。この塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、磁場強度0.6Tの磁場を上記塗布層の表面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理を施した。その後、上記塗布層を乾燥させて磁性層を形成した。上記支持体の非磁性層と磁性層とを設けた表面とは反対側の表面上に乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布して雰囲気温度(乾燥温度)120℃の環境下で乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロ−ルのみから構成される7段のカレンダ機によりカレンダ速度100m/min、線圧350kg/cm(1kg/cmは0.98kN/m)、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)100℃でカレンダ処理を行った。その後、雰囲気温度70℃の環境下で24時間の熱処理を行った後、1/2インチ幅(1インチは0.0254メートル)にスリットした。スリットして得られた磁気テープの磁性層を消磁した状態で、市販のサーボライターに搭載されたサーボライトヘッドによって、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターンを磁性層に形成した。これにより、磁性層に、LTO Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。得られた磁気テープを、磁気テープカートリッジ(LTO Ultrium7データカートリッジ)のリールへ巻き取り、長さ950mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の実施例1の磁気テープカートリッジを作製した。
【0097】
[実施例2〜7、比較例1〜4]
磁性層の強磁性粉末の種類および/または非磁性支持体の種類を表2に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0098】
[実施例8〜11]
バックコート層のカーボンブラックの含有量および/または種類を表3に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0099】
[実施例12〜16]
バックコート層形成用組成物の塗布後の乾燥時間および/またはカレンダ温度を表4に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0100】
[実施例17〜19]
磁性層形成用組成物のカーボンブラックの含有量および/またはバックコート層形成用組成物の分散時間を表5に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0101】
[実施例20]
磁性層形成用組成物の強磁性粉末を、表5に示す六方晶バリウムフェライト粉末に変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0102】
[評価方法]
(1)磁性層の表面およびバックコート層の表面の各種PSD
非接触光学式粗さ測定機を使用し、表1に示す条件にて測定を行い、後述の表に記載のPSD
5μm−PSDmag、PSD
10μm−PSDbc、PSD
3μm−PSDbcおよびPSD
10μm−PSDbcを求めた。後述の表に示す支持体のPSDは、磁気テープ作製のために使用した支持体を切り出した支持体原反から得た測定用サンプルについて、同様に求めた値である。なお、特定ピッチのPSD算出に関して、例えば10μmのPSDを求めるにあたり、得られた測定結果の中に、例えば9.9μmと10.3μmの点しかないときには、少数点以下第一位を四捨五入して10μmとなる点の測定値の算術平均を採用するものとする。
【0103】
【表1】
【0104】
(2)磁性層の表面およびバックコート層の表面のクルトシスおよびスキューネス
後述の表に示すクルトシスRku
mag、Rku
bcおよびスキューネスRsk
mag、Rsk
bcは、上記の表1に示す条件において測定を行って得られた測定結果から、JIS B 0601:2013にしたがい求めた値である。測定数についても表1の記載と同様とし、合計9つの測定値の算術平均を採用した。
【0105】
(3)繰り返し走行での記録再生品質の評価
表2に示す実施例および比較例の各磁気テープカートリッジをLTO Ultrium7(LTO7)ドライブに装着し、LTO7ドライブにて磁気テープ全長を10,000回往復走行させた後、規定容量の記録ができるか確認した。規定容量は、6.0TB(テラバイト)である。記録時にエラーが発生せずに規定容量の記録ができた場合を「OK」、ドライブがエラー信号を発して停止してしまったため規定容量の記録ができなかった場合を「NG」と評価した。
また、LTO7ドライブでの上記評価後のテープの長手方向中央部分(テープの外側末2端から400〜500mの部分)を切出し、磁性層表面を微分干渉顕微鏡で観察を行った(観察領域:2.0mm×1.5mm)。表面に傷が確認されない場合を「AA」、傷が1〜2本の場合を「A」、3〜4本の場合を「B」、5〜9本の場合を「C」、10本以上の場合を「D」と評価した。
また、表3〜5に示した評価結果は、往復走行回数を20,000回まで増やした後の評価結果である。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
表2〜5に示す結果から、実施例1〜20が、比較例1〜4と比べて繰り返し走行での記録再生品質に優れることが確認できる。
なお、比較例1〜4の強磁性粉末を、実施例7等で使用した強磁性粉末(ε−酸化鉄粉末)と同様の強磁性粉末に変更した場合についても同様の評価を行ったところ、ドライブがエラー信号を発して停止してしまったため規定容量の記録ができなかった(評価結果NG)。
これに対し、比較例1〜4の強磁性粉末を、実施例20で使用した強磁性粉末(六方晶バリウムフェライト粉末)と同様の強磁性粉末に変更した場合についても同様の評価を行ったところ、規定容量の記録は可能であったものの、記録時にエラーが発生した。
以上の結果は、繰り返し走行での記録再生品質の低下は、磁性層の強磁性粉末として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε−酸化鉄粉末からなる群から選択される強磁性粉末を使用した場合に顕在化する傾向があることを示すものと考えられる。これに対し、そのような繰り返し走行での記録再生品質の低下は、上記の表に示されているように、実施例1〜19において抑制可能であった。