特許第6985426号(P6985426)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985426固体電解質含有シート、全固体二次電池用電極シート、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車、並びに、これらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985426
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】固体電解質含有シート、全固体二次電池用電極シート、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車、並びに、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20211213BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20211213BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20211213BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M4/139
   H01M4/13
   H01M10/0585
   H01B1/06 A
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】26
【全頁数】65
(21)【出願番号】特願2019-569203(P2019-569203)
(86)(22)【出願日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2019003270
(87)【国際公開番号】WO2019151363
(87)【国際公開日】20190808
【審査請求日】2020年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2018-18678(P2018-18678)
(32)【優先日】2018年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-87793(P2018-87793)
(32)【優先日】2018年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信
(72)【発明者】
【氏名】今井 真二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】磯島 広
(72)【発明者】
【氏名】八幡 稔彦
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−037780(JP,A)
【文献】 特開2015−220012(JP,A)
【文献】 特開2017−204468(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/204028(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/138116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 10/0585
H01B 1/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートであって、
前記固体電解質層は無機固体電解質とバインダとを含有し、
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質及び酸化物系無機固体電解質から選ばれ、
前記3層以上の固体電解質層のうち、前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有する無機固体電解質が平均粒子径0.5〜0.9μmの粒子であり、
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層のうち、
少なくとも1層の固体電解質層が含有する無機固体電解質が平均粒子径1.8〜5μmの粒子であり、
前記少なくとも1層の固体電解質層が含有するバインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、固体電解質含有シート。
【請求項2】
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダのそれぞれが互いに異なる、請求項1に記載の固体電解質含有シート。
【請求項3】
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分又は質量平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、請求項2に記載の固体電解質含有シート。
【請求項4】
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の一方が含有するバインダが、質量平均分子量1000以上1,000,000未満のマクロモノマー由来の構成成分と2環以上の縮環構造を含む基とを有するポリマーである、請求項2又は3に記載の固体電解質含有シート。
【請求項5】
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダが粒子状である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項6】
前記積層体が有する全ての固体電解質層に含まれるバインダが粒子状である、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項7】
前記積層体が有する全ての固体電解質層に含まれる無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項8】
4層以上の固体電解質層の積層体を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートであって、
前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層のうちの1層が短絡抑制層であり、前記短絡抑制層の水銀圧入法で測定される空孔細孔半径が5nm未満であり、前記短絡抑制層の厚さが4μm以下である、固体電解質含有シート。
【請求項9】
前記短絡抑制層が、前記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層のうちの一方に接する、請求項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項10】
転写用である、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項11】
前記積層体が、同時重層塗布法又は湿潤逐次塗布法により形成されたものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の固体電解質含有シート。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートが有する前記積層体と、前記積層体に隣接する電極活物質層とを有する全固体二次電池用電極シート。
【請求項13】
請求項12に記載の全固体二次電池用電極シートを有する全固体二次電池。
【請求項14】
請求項13に記載の全固体二次電池を有する電子機器。
【請求項15】
請求項13に記載の全固体二次電池を有する電気自動車。
【請求項16】
3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートの製造方法であって、
平均粒子径0.5〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(1)と、
平均粒子径1.8〜5μmの無機固体電解質と粒子状バインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(2)と、
平均粒子径0.5〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(3)と、
乾燥する工程と、を含み、
前記工程(2)により形成される固体電解質層が、前記工程(1)により形成される固体電解質層と、前記工程(3)により形成される固体電解質層の間にあり、
前記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質及び酸化物系無機固体電解質から選ばれ、
前記工程(2)により形成される固体電解質層の前記粒子状バインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項17】
前記工程(1)における固体電解質組成物が含むバインダと、前記工程(3)における固体電解質組成物が含むバインダとが、互いに異なる、請求項16に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項18】
前記3層以上の固体電解質層を湿潤状態で積層し、積層した前記3層以上の固体電解質層を乾燥する工程、をさらに含む、請求項16又は17に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項19】
乾燥した前記3層以上の固体電解質層を加圧する工程、をさらに含む、請求項1618のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項20】
加圧した前記3層以上の固体電解質層をロールに巻き取る工程、をさらに含む、請求項19に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項21】
4層以上の固体電解質層の積層体を有する、請求項1620のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
前記工程(1)により形成される固体電解質層と、前記工程(3)により形成される固体電解質層との間に、水銀圧入法で測定される空孔細孔半径が5nm未満であり、厚さが4μm以下である短絡抑制層を、短絡抑制層を形成するための固体電解質組成物を塗布して形成する工程(4)、をさらに含む、固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項22】
前記短絡抑制層が、前記積層体の両表面に配置された固体電解質層のうちの一方に接する、請求項21に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項23】
請求項1622のいずれか1項に記載の固体電解質含有シートの製造方法により得られた固体電解質含有シートが有する前記積層体を、電極活物質層上に転写する工程を含む全固体二次電池用電極シートの製造方法。
【請求項24】
請求項23に記載の全固体二次電池用電極シートの製造方法を含む、全固体二次電池の製造方法。
【請求項25】
請求項24に記載の全固体二次電池の製造方法を含む、電子機器の製造方法。
【請求項26】
請求項24に記載の全固体二次電池の製造方法を含む、電気自動車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質含有シート、全固体二次電池用電極シート、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車、並びに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性の更なる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性ないし信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した積層構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、各種電子機器、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
このような全固体二次電池の実用化に向けて、全固体二次電池及び全固体二次電池を構成する部材の検討が盛んに進められている。
例えば、特許文献1には、箔上に配置された、バインダを含有する1層の固体電解質層の上に電極材を積層し、プレスすることにより、電極層を形成し、箔を除去することを含む全固体二次電池の製造方法が記載されている。この製造方法により得られる全固体二次電池は高出力であるとされる。特許文献2には、2つ又は3つの固体電解質層を有する全固体二次電池の製造方法が記載されている。この製造方法により得られる全固体二次電池は、短絡が抑制され、内部抵抗値が低下しているとされる。特許文献3には、極材層の上に厚さ10nm〜1μmの薄膜層と厚さ1〜500μmの固体電解質層をこの順に積層してなる全固体二次電池用部材であって、この薄膜層が固体電解質層と同一の材料、極材層と同一の材料又はこれらの混合物からなる全固体二次電池用部材が記載されている。この部材は、極材層と固体電解質層の界面抵抗が低く、放電電流密度が良好とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5686191号公報
【特許文献2】特開2017−10816号公報
【特許文献3】特開2008−135287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池は、電極(負極及び正極)を構成する電極活物質層、及び固体電解質層が、活物質、無機固体電解質等の固体粒子で形成されている。この固体電解質層が含有する無機固体電解質の平均粒子径は、電極活物質層表面の活物質との接触を考慮すると小さい方が固体電解質層と電極活物質層間のイオン伝導性に優れる。一方、固体電解質層が含有する無機固体電解質の平均粒子径は、固体電解質層自体のイオン伝導性を向上させるためには大きい方がよい。
【0006】
また、この固体電解質層は、ロール状に巻き取られた際の摩擦、大きい曲率の巻き取り、輸送時の衝撃、正極負極と積層する際の取扱時にかかる負荷などに耐えることが必要である。そのため、膜強度の向上が望まれている。
【0007】
特許文献1記載の製造方法により得られる全固体二次電池は、固体電解質層が薄膜化された1層からなる。この固体電解質層のイオン伝導性を向上させるため、無機固体電解質の平均粒子径を大きくすると、固体電解質層と電極活物質層との接触面積の少なさから界面における抵抗が大きくなる。また、固体電解質層と電極活物質層との接触面積を増やすため、固体電解質層が含有する無機固体電解質の平均粒子径を小さくすると、層内の粒子数が多くなりすぎ、固体電解質層自体の抵抗が大きくなる。
【0008】
特許文献2記載の製造方法によれば、電極活物質層上に形成された固体電解質層と、別に設けられた固体電解質層とを積層した後にプレスするため、固体電解質層間に空隙が存在する。結果、特許文献2記載の製造方法により得られる全固体二次電池が有する2つ又は3つの固体電解質層からなる積層体はイオン伝導性が低く、抵抗が高くなる。
【0009】
特許文献3に記載の全固体二次電池用部材が有する薄膜層と固体電解質層との積層体は、バインダを含有しないため、上記積層体を膜と見立てた場合に、膜強度が低い。
【0010】
そこで本発明は、膜強度に優れる固体電解質含有シートであって、構成部材として用いることにより、優れた電池電圧の全固体二次電池を実現することができる、3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートを提供することを課題とする。また、本発明は、上記積層体を有する全固体二次電池用電極シート、及び、この全固体二次電池用電極シートを有する全固体二次電池、並びに、上記全固体二次電池を具備する電子機器及び電気自動車を提供することを課題とする。また、本発明は、上記固体電解質含有シート、上記全固体二次電池用電極シート、上記全固体二次電池、上記電子機器及び上記電気自動車の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、無機固体電解質とバインダとを含む3層以上の固体電解質層からなる積層体であって、この積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含む無機固体電解質の平均粒子径と、この2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層が含む無機固体電解質の平均粒子径とをそれぞれ特定の範囲にし、上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層が含むバインダを粒子状とすることにより、上記課題が解決できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0012】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートであって、
上記固体電解質層は無機固体電解質とバインダとを含有し、
上記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質及び酸化物系無機固体電解質から選ばれ、
上記3層以上の固体電解質層のうちの、上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有する無機固体電解質が平均粒子径0.5〜0.9μmの粒子であり、
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層のうち、少なくとも1層の固体電解質層が含有する無機固体電解質が平均粒子径1.8〜5μmの粒子であり、
前記少なくとも1層の固体電解質層が含有するバインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、固体電解質含有シート。
<2>
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダのそれぞれが互いに異なる、<1>に記載の固体電解質含有シート。
<3>
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分又は質量平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、<2>に記載の固体電解質含有シート。
<4>
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の一方が含有するバインダが、質量平均分子量1000以上1,000,000未満のマクロモノマー由来の構成成分と2環以上の縮環構造を含む基とを有するポリマーである、請求項2又は3に記載の固体電解質含有シート。
<5>
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダが粒子状である、<1>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シート。

上記積層体が有する全ての固体電解質層に含まれるバインダが粒子状である、<1>〜<>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シート。

上記積層体が有する全ての固体電解質層に含まれる無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質である、<1>〜<>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シート。

4層以上の固体電解質層の積層体を有する、<1>〜<>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シートであって、
上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層のうちの1層が短絡抑制層であり、上記短絡抑制層の水銀圧入法で測定される空孔細孔半径が5nm未満であり、上記短絡抑制層の厚さが4μm以下である、固体電解質含有シート。

上記短絡抑制層が、上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層のうちの一方に接する、<>に記載の固体電解質含有シート。
10
転写用である、<1>〜<>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シート。
<11>
上記積層体が、同時重層塗布法又は湿潤逐次塗布法により形成されたものである、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シート。
【0013】
12
<1>〜<11>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シートが有する上記積層体と、上記積層体に隣接する電極活物質層とを有する全固体二次電池用電極シート。
13
12>に記載の全固体二次電池用電極シートを有する全固体二次電池。
14
13>に記載の全固体二次電池を有する電子機器。
15
13>に記載の全固体二次電池を有する電気自動車。
【0014】
16
3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートの製造方法であって、
平均粒子径0.5〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(1)と、
平均粒子径1.8〜5μmの無機固体電解質と粒子状バインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(2)と、
平均粒子径0.5〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する工程(3)と、乾燥する工程と、を含み、
上記工程(2)により形成される固体電解質層が、上記工程(1)により形成される固体電解質層と、上記工程(3)により形成される固体電解質層の間にあり、
上記無機固体電解質が硫化物系無機固体電解質及び酸化物系無機固体電解質から選ばれ、
上記工程(2)により形成される固体電解質層の上記粒子状バインダが、数平均分子量1000以上のマクロモノマー由来の構成成分を有する粒子状ポリマーである、固体電解質含有シートの製造方法。
17
上記工程(1)における固体電解質組成物が含むバインダと、上記工程(3)における固体電解質組成物が含むバインダとが、互いに異なる、<16>に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
18
上記3層以上の固体電解質層を湿潤状態で積層し、積層した上記3層以上の固体電解質層を乾燥する工程、をさらに含む、<16>又は<17>に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
19
乾燥した上記3層以上の固体電解質層を加圧する工程、をさらに含む、<16>〜<18>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シートの製造方法。
20
加圧した前記3層以上の固体電解質層をロールに巻き取る工程、をさらに含む、<19>に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
21
4層以上の固体電解質層の積層体を有する、<16>〜<20>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
上記工程(1)により形成される固体電解質層と、上記工程(3)により形成される固体電解質層との間に、水銀圧入法で測定される空孔細孔半径が5nm未満であり、厚さが4μm以下である短絡抑制層を、短絡抑制層を形成するための固体電解質組成物を塗布して形成する工程(4)、をさらに含む、固体電解質含有シートの製造方法。
22
上記短絡抑制層が、上記積層体の両表面に配置された固体電解質層のうちの一方に接する、<21>に記載の固体電解質含有シートの製造方法。
【0015】
23
16>〜<22>のいずれか1つに記載の固体電解質含有シートの製造方法により得られた固体電解質含有シートが有する上記積層体を、電極活物質層上に転写する工程を含む全固体二次電池用電極シートの製造方法。
24
23>に記載の全固体二次電池用電極シートの製造方法を経る、全固体二次電池の製造方法。
25
24>に記載の全固体二次電池の製造方法を経る電子機器の製造方法。
26
24>に記載の全固体二次電池の製造方法を経る電気自動車の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固体電解質含有シートは、膜強度に優れ、この固体電解質含有シートが有する積層体を構成部材として用いることにより、優れた電池電圧の全固体二次電池を実現することができる。本発明によれば、上記積層体を有する全固体二次電池用電極シート、この全固体二次電池用電極シートを有する全固体二次電池、並びに、この全固体二次電池を具備する電子機器及び電気自動車を提供することができる。
本発明の固体電解質含有シート、全固体二次電池用電極シート、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車の製造方法によれば、上述した本発明の固体電解質含有シート、全固体二次電池用電極シート、全固体二次電池、電子機器及び電気自動車を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の好ましい実施形態に係る固体電解質含有シート(転写シート)を模式化して示す縦断面図である。
図2図2は本発明の好ましい実施形態に係る別の固体電解質含有シート(転写シート)を模式化して示す縦断面図である。
図3図3は本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
図4図4は本発明の好ましい実施形態に係る別の全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、固体電解質層は、通常、活物質を含有しないが、本発明の効果を損なわない範囲及び活物質層として機能しない範囲であれば、活物質を含有してもよい。
本発明の説明において、「積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダのそれぞれが互いに異なる」とは、上記2つの固体電解質層のうちの一方の固体電解質層に含まれるバインダと、もう一方の固体電解質層に含まれるバインダとが異なることを意味し、例えば、上記2つの固体電解質層のうちの一方の固体電解質層が正極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有し、もう一方の固体電解質層が負極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有することを意味する。
本発明の説明において、3層以上の固体電解質層の積層体を構成する、互いに接する固体電解質層の組成は互いに異なる。すなわち、同じ組成を有する複数の固体電解質層が積層されている場合、複数の固体電解質層を全体として1層の固体電解質層とする。
本発明の説明において、「転写」とは、離型フィルム(支持体)上に形成された3層以上の固体電解質層からなる積層体の、離型フィルム(支持体)と反対に配置された固体電解質層と、電極活物質層とが接するように、固体電解質含有シートと電極活物質層とを重ね合わせることを意味する。したがって、本発明の固体電解質含有シートは、積層体を転写するためのシート(積層体転写用シート)ということもできる。
本発明の説明において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
[固体電解質含有シート]
本発明の固体電解質含有シートは、3層以上の固体電解質層の積層体を有する。この積層体が有する固体電解質層は、全固体二次電池の固体電解質層を構成するために用いられる。
上記固体電解質層は無機固体電解質とバインダとを含有し、上記3層以上の固体電解質層のうちの、上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層(おもて面側の最外の固体電解質層と裏面側の最外の固体電解質層)が含有する無機固体電解質が平均粒子径(以下、単に「粒径」ともいう。)0.3〜0.9μmの粒子であり、上記積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層の間に配置された固体電解質層のうちの少なくとも1層が含有するバインダが粒子状であり、粒子状バインダを含む固体電解質層が含有する無機固体電解質が平均粒子径1〜5μmの粒子である。
以下、上記積層体を「本発明の積層体」と称することがある。
【0020】
<積層体>
本発明の積層体は3層以上の固体電解質層からなる。
本発明の積層体において、固体電解質層の数の上限は特に制限されないが、10以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましく、4以下が特に好ましい。
【0021】
本発明の積層体が有する固体電解質層のうちの1層が短絡抑制層(デンドライト抑制層)であることが好ましい。この短絡抑制層は、水銀圧入法で測定される空孔細孔半径が5nm未満であり、3nm未満が好ましい。下限に特に制限はないが、1nm以上が実際的である。全固体二次電池に本発明の積層体が組み込まれた状態で、短絡抑制層の空孔細孔半径が上記範囲にあることが好ましい。また、短絡抑制層の厚さは4μm以下であり、2μm以下が好ましい。下限に特に制限はないが、0.1μm以上が実際的である。
【0022】
本発明の積層体において、上記短絡抑制層の位置は特に制限されないが、積層体の両表面側に配置された層でないことが好ましい。すなわち、本発明の積層体が、短絡抑制層としての固体電解質層を有する場合、4層以上の固体電解質層を有し、短絡抑制層が、積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層に、直接又は他の固体電解質層を介して、挟まれることが好ましい。
以下の、本発明の固体電解質含有シートの説明において、短絡抑制層は、積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層に、直接又は他の固体電解質層を介して、挟まれるものとする。ここで、「積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層」とは、積層体の表面層と裏面層を意味し、図1の転写シート10Aを例にとると、固体電解質層1と固体電解質層3が、この2つの層である。
【0023】
積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層のうちの1つを「第1固体電解質層(第1SE層)」と称し、もう1つの固体電解質層を「第3固体電解質層(第3SE層)」と称することがある。また、第1SE層と第3SE層の間に配置され、粒子状バインダと平均粒子径1〜5μmの無機固体電解質粒子を含む固体電解質層を「第2固体電解質層(第2SE層)」と称することがある。また、短絡抑制層を「第4固体電解質層(第4SE層)」と称することがある。また、本発明の積層体が有する、上記第1〜第4SE層以外の固体電解質層を「他の固体電解質層(他のSE層)」と称することがある。
以下、本発明の積層体の好ましい形態を説明する。
【0024】
(3層の固体電解質層を有する積層体)
本発明の積層体が3層の固体電解質層からなる場合、本発明の積層体は、第1〜第3SE層からなる。具体的には、バインダと粒径0.3〜0.9μmの無機固体電解質粒子とを含有する、積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層(第1SE層と第3SE層)と、粒子状バインダと粒径1〜5μmの無機固体電解質粒子を含む固体電解質層(第2SE層)からなる。
【0025】
(4層の固体電解質層を有する積層体)
本発明の積層体が4層の固体電解質層からなる場合、本発明の積層体は、第1〜第4SE層からなる態様が好ましい。具体的には、バインダと粒径0.3〜0.9μmの無機固体電解質粒子とを含有する、積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層(第1SE層と第3SE層)と、粒子状バインダと粒径1〜5μmの無機固体電解質粒子を含む固体電解質層(第2SE層)と、短絡抑制層(第4SE層)からなる。第2SE層と第4SE層との位置関係は特に制限されない。また、本発明においては、短絡抑制層に代えて、他のSE層を有する態様も包含される。
【0026】
(5層以上の固体電解質層を有する積層体)
本発明の積層体が5層以上の固体電解質層からなる場合、本発明の積層体は、第1〜第4SE層と他のSE層からなる態様が好ましい。他のSE層として、全固体二次電池に用いられる通常の固体電解質層を、適宜厚みを調整して用いることができる。本発明の積層体において、第4SE層は、第1又は第3SE層と接することが好ましい。全固体二次電池において、効率的に短絡を抑制するためである。本発明においては、短絡抑制層を複数有する態様、更には短絡抑制層を備えず、他のSE層を3層有する態様も包含される。
【0027】
[転写シート]
本発明の固体電解質含有シートは、上記積層体からなるシートであってもよく、離型フィルム(支持体)を有する転写シートであってもよい。以下、転写シートである、本発明の固体電解質含有シートを、単に「転写シート」と称することもある。本発明の転写シートは、電極活物質層上に本発明の積層体を転写するために好適である。
本発明の転写シートの好ましい形態として、図1及び2に示す転写シートが挙げられる。
【0028】
図1に示す本発明の転写シート10Aは、離型フィルム4、固体電解質層3(第1SE層)、固体電解質層2(第2SE層)及び固体電解質層1(第3SE層)をこの順に有する。一方、図2に示す本発明の転写シート10Bは、固体電解質層1(第3SE層)と固体電解質層2(第2SE層)の間に固体電解質層5(短絡抑制層、第4SE層)を有すること以外は、図1に示す転写シートと同じである。
【0029】
本発明の転写シートに用いられる離型フィルムは特に制限されないが、例えば、アルミニウムフィルム、ステンレス鋼(SUS)フィルム、銅フィルム等の金属フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。また、離型フィルムと固体電解質層との離型性を向上させるため、固体電解質層と離型フィルムとの間にシリコーン樹脂層、フッ素樹脂層、オレフィン樹脂層などの離型性調整層を有してもよい。離型性調整層付の離型フィルムの具体例として、東レフイルム加工(株)社製のセラピール、パナック(株)製のパナピール、ユニチカ(株)社製のユニピールを挙げることができる。
【0030】
本発明の固体電解質含有シートは、保護フィルムを有してもよい。保護フィルムとして、上記離型フィルムで挙げたフィルムを用いることができる。積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層上に設けられるフィルムのうち、転写前に剥離する必要があるフィルムが保護フィルムであり、電極活物質層上に本発明の積層体を積層した後に剥離するフィルムが離型フィルムである。
なお、本発明の固体電解質含有シートは、水分、異物の侵入防止、転写後の積層時の位置ずれなどに起因する正極負極の接触による短絡を防ぐために、本発明の積層体の端面を保護する膜を有してもよい。
【0031】
[全固体二次電池用電極シート]
本発明の全固体二次電池用電極シートは、本発明の積層体と電極活物質層とを有する。
本発明の全固体二次電池用電極シートとして、例えば、集電体上に電極活物質層を有し、この電極活物質層上に本発明の積層体を有するシート、及び、集電体上に導電体層を有し、この導電体層上に電極活物質層を有し、この電極活物質層上に本発明の積層体を有するシートが挙げられる。
全固体二次電池用電極シートにおいて、積層体を構成する各固体電解質層は後述の分散媒を含んでいてもよい。
この導電体層としては、例えば、特開2013−23654号公報及び特開2013−229187号公報に記載の導電体層(カーボンコート箔)が挙げられる。
また、上記電極活物質層及び集電体は、通常の全固体二次電池に使用される電極活物質層及び集電体を用いることができる。例えば、特開2015−088486号公報に記載の電極活物質層及び集電体を用いることができる。
なお、本発明の説明において、電極活物質層(正極活物質層(以下、正極層とも称す。)と負極活物質層(以下、負極層とも称す。))を活物質層と称することがある。
【0032】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、集電体と、電極活物質層と、本発明の積層体とを有する。以下に、図3及び4を参照して、本発明の好ましい全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0033】
図3は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池100A(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池100Aは、図1に示す固体電解質含有シートの積層体を有するものであり、負極側からみて、負極集電体9、負極活物質層8、固体電解質層1(第3SE層)、固体電解質層2(第2SE層)、固体電解質層3(第1SE層)、正極活物質層7、正極集電体6を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、積層した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位11に電子が供給される。図示した例では、作動部位11に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。図3において図示していないが、負極集電体9と負極活物質層8との間及び/又は正極活物質層7と正極集電体6との間にそれぞれ導電体層を有してもよい。
【0034】
図4は、本発明の好ましい実施形態に係る別の全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。固体電解質層1(第3SE層)と固体電解質層2(第2SE層)の間に固体電解質層5(短絡抑制層、第4SE層)を有すること以外は、図3に示す全固体二次電池と同じである。
【0035】
固体電解質層1(第3SE層)、固体電解質層2(第2SE層)及び固体電解質層3(第1SE層)の層厚は特に制限されないが、第1SE層と第3SE層の層厚は1〜5μmが好ましく、2〜4μmがより好ましい。一方、第2SE層の層厚は3〜50μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
負極活物質層8、正極活物質層7の層厚は特に限定されない。一般的な電池の寸法を考慮すると、10〜1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。
【0036】
本発明において、固体電解質層と電極活物質層の間、電極活物質層と集電体の間、及び、集電体の外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、電極活物質層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0037】
〔筐体〕
上記の各層を配置して全固体二次電池の基本構造を作製することができる。用途によってはこのまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためにはさらに適当な筐体に封入して用いる。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金及びステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0038】
[固体電解質層が含有する成分]
<無機固体電解質>
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンが解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に制限されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0039】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有する。無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は、(i)硫化物系無機固体電解質と、(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられ、高いイオン伝導度と粒子間界面接合の容易さの点で、硫化物系無機固体電解質が好ましい。
本発明の全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合、無機固体電解質はリチウムイオンのイオン伝導度を有することが好ましい。
【0040】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0041】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性硫化物系無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1〜e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1〜12:0〜5:1:2〜12:0〜10を満たす。a1は1〜9が好ましく、1.5〜7.5がより好ましい。b1は0〜3が好ましく、0〜1がより好ましい。d1は2.5〜10が好ましく、3.0〜8.5がより好ましい。e1は0〜5が好ましく、0〜3がより好ましい。
【0042】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合比を調整することにより制御できる。
【0043】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi−P−S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi−P−S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0044】
Li−P−S系ガラス及びLi−P−S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40〜90:10、より好ましくは68:32〜78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10−4S/cm以上、より好ましくは1×10−3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10−1S/cm以下であることが実際的である。
【0045】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS−P、LiS−P−LiCl、LiS−P−HS、LiS−P−HS−LiCl、LiS−LiI−P、LiS−LiI−LiO−P、LiS−LiBr−P、LiS−LiO−P、LiS−LiPO−P、LiS−P−P、LiS−P−SiS、LiS−P−SiS−LiCl、LiS−P−SnS、LiS−P−Al、LiS−GeS、LiS−GeS−ZnS、LiS−Ga、LiS−GeS−Ga、LiS−GeS−P、LiS−GeS−Sb、LiS−GeS−Al、LiS−SiS、LiS−Al、LiS−SiS−Al、LiS−SiS−P、LiS−SiS−P−LiI、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0046】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0047】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3〜0.7、ya=0.3〜0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbbmbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccczcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In、Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3−2xe)eexeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO−LiSO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2−xhSiyh3−yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0048】
本発明の積層体において、第1SE層及び第3SE層が含有する無機固体電解質粒子の粒径の下限は、0.3μm以上である。固体電解質含有シートの膜強度、及び全固体二次電池に組み込んだ時に示す高い電池電圧を両立してより向上させるため、0.4μm以上が好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。一方、粒径の上限は、0.9μm以下である。
【0049】
また、本発明の積層体において、第2SE層が含有する無機固体電解質粒子の粒径の下限は、1μm以上であり、1.8μm以上が好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。一方、粒径の上限は、5μm以下である。
【0050】
また、本発明の積層体において、第4SE層及び他のSE層が含有する無機固体電解質粒子として、第1SE層又は第2SE層が含有する無機固体電解質粒子を用いることができる。
【0051】
本発明の説明において、固体電解質層中の無機固体電解質の粒径は、後述の実施例における、走査型電子顕微鏡を用いた測定方法により得られる値とする。
【0052】
無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機固体電解質の、各固体電解質層中の含有量は、特に制限されない。全固体二次電池に用いたときの界面抵抗の低減と低減された界面抵抗の維持を考慮したとき、各固体電解質層中の固形成分100質量部中、無機固体電解質が50〜99.9質量部であることが好ましく、60〜99.5質量部であることがより好ましく、70〜99質量部以上であることが特に好ましい。
本発明において、固形分(固形成分)とは、各固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下120℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、固体電解質組成物が含有する分散媒以外の成分を指す。
【0053】
−バインダ−
本発明の積層体において、第1SE層と第3SE層が含有するバインダは、同種でも異種でもよいが、互いに異なることが好ましい。すなわち、第1SE層及び第3SE層のうちの一方が正極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有し、他方が負極活物質層に対する密着性の高いバインダを有することが好ましい。本発明の積層体と電極活物質層とがより強固に結着するからである。
【0054】
本発明の積層体において、第1SE層と第3SE層のうちの一方が、負極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有し、残りの全固体電解質層が正極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有することが好ましい。
【0055】
本発明の積層体において、第2SE層以外の固体電解質層が含有するバインダの形状に特に制限はないが、電池電圧をより向上させるため、第1SE層と第3SE層が含有するバインダが粒子状であることが好ましく、本発明の積層体を構成する全ての固体電解質層が含有するバインダが粒子状であることが好ましい。
【0056】
図1に示す転写シートを例にとると、固体電解質層1(第3SE層)が負極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有し、固体電解質層2(第2SE層)及び固体電解質層3(第1SE層)が正極活物質層に対する密着性の高いバインダ(好ましくはバインダ粒子)を含有する形態が、本発明の転写シートの好ましい形態である。
【0057】
図2に示す転写シートを例にとると、固体電解質層1(第3SE層)が負極活物質層に対する密着性の高いバインダを含有し、固体電解質層2(第2SE層)、固体電解質層3(第1SE層)及び固体電解質層5(短絡抑制層、第4SE層)が正極活物質層に対する密着性の高いバインダ(好ましくはバインダ粒子)を含有する形態が、本発明の転写シートの好ましい形態である。
【0058】
正極活物質層に対する密着性の高いバインダ粒子として、例えば、特開2015−088486号公報に記載のバインダ粒子を用いることができる。また、負極活物質層に対する密着性の高いバインダ粒子として、国際公開第2017/131093号公報記載のバインダ粒子を用いることができる。
以下に、正極活物質層に対する密着性の高いバインダ粒子と負極活物質層に対する密着性の高いバインダ粒子の具体的な形態を記載する。
【0059】
(i)正極活物質層に対する密着性の高いバインダ粒子(バインダ粒子A)
バインダ粒子Aを構成するポリマーは、数平均分子量1000以上のマクロモノマーAに由来する構成成分が組み込まれている。上記バインダ粒子Aを構成するポリマー中、マクロモノマーA由来のグラフト部分は、主鎖に対し側鎖を構成する。主鎖は特に限定されない。
【0060】
・モノマー(a)
バインダ粒子Aを構成するポリマーのマクロモノマーA由来の構成成分以外の構成成分は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーA由来の構成成分以外の構成成分を導入するためのモノマー(以下、このモノマーを「モノマー(a)」とも称する。)としては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーを適用することができる。本発明においては、中でも、アクリル系モノマーを用いることが好ましい。さらに好ましくは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーを用いることが好ましい。重合性基の数は特に限定されないが、1〜4個であることが好ましい。
バインダ粒子Aを構成するポリマーは、下記官能基群(a)のうち少なくとも1つを有していることが好ましい。この官能基群は、主鎖に含まれていても、マクロモノマーA由来の側鎖に含まれていてもよいが、主鎖に含まれることが好ましい。このように、主鎖等に特定の官能基が含まれることで、無機固体電解質、活物質、集電体の表面に存在していると考えられる水素原子、酸素原子、硫黄原子との相互作用が強くなり、結着性が向上し、界面の抵抗が下げられるという作用が期待できる。
【0061】
官能基群(a)
カルボニル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、エーテル基、シアノ基、チオール(スルファニル)基
カルボニル基含有基としてはカルボキシ基、カルボニルオキシ基、アミド基、カルバモイル基等が挙げられ、炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい。
アミノ基は炭素数0〜12が好ましく、0〜6がより好ましく、0〜2が特に好ましい。
スルホン酸基はそのエステルや塩でもよい。エステルの場合、炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい。
リン酸基はそのエステルや塩でもよい。エステルの場合、炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい。
なお、上記官能基は、置換基として存在しても、連結基として存在していてもよい。例えば、アミノ基は2価のイミノ基又は3価の窒素原子として存在してもよい。
【0062】
上記のポリマーをなすビニル系モノマーとしては、下記式(b−1)で表されるものが好ましい。
【0063】
【化1】
【0064】
式中、Rは水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6が特に好ましい)、又はアリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましい)を表す。中でも水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0065】
は、水素原子、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜15がより好ましい)、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましい)、又はアミノ基(NR:Rは後記の定義に従い、好ましくは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基)である。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シアノ基、エテニル基、フェニル基、カルボキシ基、チオール基、スルホン酸基等が好ましい。
はさらに後記置換基Tを有していてもよい。なかでも、カルボキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、アルキル基などが置換していてもよい。
カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基は例えば炭素数1〜6のアルキル基を伴ってエステル化されていてもよい。
酸素原子を含有する脂肪族複素環基は、エポキシ基含有基、オキセタン基含有基、テトラヒドロフリル基含有基などが好ましい。
【0066】
は、任意の連結基であり、後記連結基Lの例が挙げられる。具体的には、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基、炭素数2〜6(好ましくは2〜3)のアルケニレン基、炭素数6〜24(好ましくは6〜10)のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(NR)、カルボニル基、リン酸連結基(−O−P(OH)(O)−O−)、ホスホン酸連結基(−P(OH)(O)−O−)、又はそれらの組合せに係る基等が挙げられる。上記連結基は任意の置換基を有していてもよい。連結原子数、連結原子の数の好ましい範囲も後記と同様である。任意の置換基としては、置換基Tが挙げられ、例えば、アルキル基又はハロゲン原子などが挙げられる。
【0067】
nは0又は1である。
【0068】
上記のポリマーをなすアクリル系モノマーとしては、上記(b−1)のほか、下記式(b−2)〜(b−6)のいずれかで表されるものが好ましい。
【0069】
【化2】
【0070】
、nは、上記式(b−1)と同義である。
は、Rと同義である。ただし、その好ましいものとしては、水素原子、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基、アミノ基(NR)などが挙げられる。
は、任意の連結基であり、Lの例が好ましく、酸素原子、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基、炭素数2〜6(好ましくは2〜3)のアルケニレン基、カルボニル基、イミノ基(NR)、又はそれらの組合せに係る基等がより好ましい。
は連結基であり、Lの例が好ましく、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキレン基がより好ましい。
は、Lと同義である。
は、水素原子、炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキル基、炭素数0〜6(好ましくは0〜3)のヒドロキシ基含有基、炭素数0〜6(好ましくは0〜3)のカルボキシ基含有基、又は(メタ)アクリロイルオキシ基である。なお、Rは上記Lの連結基になって、この部分で2量体を構成していてもよい。
mは1〜200の整数を表し、1〜100の整数であることが好ましく、1〜50の整数であることがより好ましい。
【0071】
上記式(b−1)〜(b−6)において、アルキル基やアリール基、アルキレン基やアリーレン基など置換基を取ることがある基については、本発明の効果を維持する限りにおいて任意の置換基を有していてもよい。任意の置換基としては、例えば、置換基Tが挙げられ、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリーロイル基、アリーロイルオキシ基、アミノ基等の任意の置換基を有していてもよい。
【0072】
以下にモノマー(a)の例を挙げるが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。下記式中のlは1〜1,000,000を表す。
【0073】
【化3】
【0074】
【化4】
【0075】
【化5】
【0076】
・マクロモノマーA
マクロモノマーAは、数平均分子量が1,000以上であり、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが特に好ましい。上限としては、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記バインダ粒子Aを構成するポリマーが上記の範囲の分子量をもつマクロモノマーA由来の側鎖を有することで、より良好に有機溶剤(分散媒)中に均一に分散でき固体電解質粒子と混合して塗布できるようになる。
【0077】
ここで本発明の積層体の作製に用いられる固体電解質組成物の作用について触れると、バインダ粒子Aを構成するポリマーにおける上記マクロモノマーA由来の側鎖は溶剤への分散性を良化する働きを有するものと解される。これにより、バインダ粒子Aが良好に分散されるので、無機固体電解質を局部的あるいは全面的に被覆することなく結着させることができる。その結果、無機固体電解質粒子等の固体粒子間の電気的なつながりを遮断せずに密着させることができるため、固体粒子間の界面抵抗の上昇を抑えられると考えられる。さらに、バインダ粒子Aを構成するポリマーが上記側鎖を有することでバインダ粒子Aが無機固体電解質粒子に付着するだけでなく、その側鎖が絡みつく効果も期待できる。これにより無機固体電解質に係る界面抵抗の抑制と結着性の良化との両立が図られるものと考えられる。さらに、バインダ粒子Aを構成するポリマーは、その分散性の良さから、水中乳化重合などと比較して有機溶剤中に転層させる工程を省略でき、また、沸点が低い溶剤を分散媒として用いることができるようにもなる。なお、マクロモノマーA由来の構成成分の分子量は、バインダ粒子Aを構成するポリマーを合成するときに組み込む重合性化合物(マクロモノマーA)の分子量を測定することで同定することができる。
【0078】
−分子量の測定−
本発明においてバインダAを構成するポリマー及びマクロモノマーAの分子量については、特に断らない限り、数平均分子量をいい、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の数平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、ポリマー種によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM−H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる。
キャリア:10mMLiBr/N−メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM−H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0079】
マクロモノマーAのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0080】
−SP値の定義−
本明細書においてSP値は、特に断らない限り、Hoy法によって求める(H.L.Hoy Journal of Painting,1970,Vol.42,76−118)。また、SP値については単位を省略して示しているが、その単位はcal1/2cm−3/2である。なお、側鎖成分のSP値は、上記側鎖をなす原料モノマーのSP値とほぼ変わらず、それにより評価してもよい。
【0081】
SP値は有機溶剤に分散する特性を示す指標となる。ここで、側鎖成分を特定の分子量以上とし、好ましくは上記SP値以上とすることで、無機固体電解質との結着性を向上させ、かつ、これにより溶媒との親和性を高め、安定に分散させることができ好ましい。
【0082】
上記のマクロモノマーAの主鎖は特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。マクロモノマーAは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
なお、本明細書において、「アクリル」ないし「アクリロイル」と称するときには、アクリロイル基のみならずその誘導構造を含むものを広く指し、アクリロイル基のα位に特定の置換基を有する構造を含むものとする。ただし、狭義には、α位が水素原子の場合をアクリルないしアクリロイルと称することがある。α位にメチル基を有するものをメタクリルと呼び、アクリル(α位が水素原子)とメタクリル(α位がメチル基)のいずれかのものを意味して(メタ)クリルなどと称することがある。
【0083】
上記マクロモノマーAは、(メタ)アクリル酸モノマー、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、及び(メタ)アクリロニトリルから選ばれるモノマーに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーAは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造単位S(好ましくは炭素数6以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数8以上24以下のアルキレン基)を含むことが好ましい。このように、側鎖をなすマクロモノマーAが直鎖炭化水素構造単位Sを有することで、分散媒との親和性が高くなり分散安定性が向上するという作用が期待できる。
【0084】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b−11)で表される部位を有することが好ましい。
【0085】
【化6】
【0086】
11はRと同義である。*は結合部である。
【0087】
上記のマクロモノマーAとしては、下記式(b−12a)〜(b−12c)のいずれかで表される部位を有することが好ましい。これらの部位を「特定重合性部位」と呼ぶこともある。
【0088】
【化7】
【0089】
b2はRと同義である。*は結合部である。Rは後記置換基Tで示す定義と同義である。式(b−12c)、後述の(b−13c)及び(b−14c)のベンゼン環には任意の置換基Tが置換していてもよい。
*の結合部の先に存在する構造部としては、マクロモノマーAとしての分子量を満たせば特に限定されないが、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される構造部位であることが好ましい。このとき、置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子)などを有していてもよい。
【0090】
上記のマクロモノマーAは、下記式(b−13a)〜(b−13c)のいずれかで表される化合物又は(b−14a)〜(b−14c)のいずれかで表される繰り返し単位を有する化合物であることが好ましい。
【0091】
【化8】
【0092】
b2、Rb3は、Rと同義である。
【0093】
naは特に限定されないが、好ましくは1〜6の整数であり、より好ましくは1又は2である。
【0094】
Raはnaが1のときは置換基(好ましくは有機基)、naが2以上のときは連結基を表す。
Rbは二価の連結基である。
Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基としては、下記連結基Lが挙げられる。具体的には、炭素数1〜30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数3〜12のシクロアルカン連結基(2価の場合シクロアルキレン基)、炭素数6〜24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、炭素数3〜12のヘテロアリール連結基(2価の場合ヘテロアリーレン基)、エーテル基(−O−)、スルフィド基(−S−)、ホスフィニデン基(−PR−:Rは水素原子もしくは炭素数1〜6のアルキル基)、シリレン基(−SiRR’−:R、R’は水素原子もしくは炭素数1〜6のアルキル基)カルボニル基、イミノ基(−NR−:Rは後記の定義に従い、ここでは、水素原子もしくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基)、又はその組み合わせであることが好ましい。なかでも、炭素数1〜30のアルカン連結基(2価の場合アルキレン基)、炭素数6〜24のアリール連結基(2価の場合アリーレン基)、エーテル基、カルボニル基、又はその組み合わせであることが好ましい。また、Ra及びRbが連結基であるとき、その連結基として、下記連結基Lが採用されてもよい。
Ra及びRbを構成する連結基は、炭素原子、酸素原子、水素原子から構成される連結構造であることが好ましい。あるいは、Ra及びRbを構成する連結基が、後記繰り返し単位(b−15)を有する構造部であることも好ましい。Ra及びRbが連結基であるときの連結基を構成する原子の数や連結原子数は後記連結基Lと同義である。
【0095】
Raが1価の置換基であるときには、後記置換基Tの例が挙げられ、なかでもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。このとき、連結基Lが介在して置換していても、置換基内に連結基Lが介在していてもよい。
あるいは、Raが1価の置換基であるときは、−Rb−Rcの構造や、後記繰り返し単位(b−15)を有する構造部であることも好ましい。ここでRcは、後記置換基Tの例が挙げられ、なかでもアルキル基、アルケニル基、アリール基であることが好ましい。
【0096】
このとき、Ra及びRbは、それぞれ、少なくとも、炭素数1〜30の直鎖炭化水素構造単位(好ましくはアルキレン基)を含有することがより好ましく、上記直鎖炭化水素構造単位Sを含むことがより好ましい。また、上記Ra〜Rcは、それぞれ、連結基又は置換基を有していてもよく、その例としては後記連結基Lや置換基Tが挙げられる。
【0097】
上記のマクロモノマーAはさらに下記式(b−15)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化9】
式中、Rb4は、水素原子又は後記置換基Tである。好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基である。Rb4がアルキル基、アルケニル基、アリール基であるとき、さらに後記置換基Tを有していてもよく、例えば、ハロゲン原子やヒドロキシ基などを有していても良い。
Xは連結基であり、連結基Lの例が挙げられる。好ましくは、エーテル基、カルボニル基、イミノ基、アルキレン基、アリーレン基、又はその組合せである。組合せに係る連結基としては、具体的には、カルボニルオキシ基、アミド基、酸素原子、炭素原子、及び水素原子で構成された連結基が挙げられる。Rb4及びXが炭素を含むときその好ましい炭素数は、後記置換基T及び連結基Lと同義である。連結基の好ましい構成原子数や連結原子数も同義である。
その他、マクロモノマーAには、上述した重合性基を有する繰り返し単位のほか、上記式(b−15)のような(メタ)アクリレート構成単位、ハロゲン原子(例えばフッ素原子)を有していてもよいアルキレン鎖(例えばエチレン鎖)が挙げられる。このとき、アルキレン鎖には、エーテル基(O)等が介在していてもよい。
【0098】
置換基としては、上記の連結基の末端に任意の置換基が配置された構造が挙げられる、末端置換基の例としては、後記置換基Tが挙げられ、上記Rの例が好ましい。
なお、本明細書において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、上記化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
【0099】
本明細書において置換又は無置換を明記していない置換基(連結基についても同様)については、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0100】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2〜20のヘテロ環基、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基が好ましく、例えば、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6〜26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1−ナフチルオキシカルボニル、3−メチルフェノキシカルボニル、4−メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20のスルファモイル基、例えば、N,N−ジメチルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1〜20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7〜23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1−ナフチルチオ、3−メチルフェニルチオ、4−メトキシフェニルチオ等)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6〜22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1〜20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6〜42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0〜20のリン酸基、例えば、−OP(=O)(R)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0〜20のホスホニル基、例えば、−P(=O)(R)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0〜20のホスフィニル基、例えば、−P(R)、スルホ基(スルホン酸基)、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。
また、これらの置換基Tで挙げた各基は、上記の置換基Tがさらに置換していてもよい。
【0101】
化合物、置換基及び連結基等がアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等を含むとき、これらは環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよく、上記のように置換されていても無置換でもよい。
【0102】
本明細書で規定される各置換基は、本発明の効果を奏する範囲で下記の連結基Lを介在して置換されていても、その構造中に連結基Lが介在していてもよい。たとえば、アルキル基、アルキレン基、アルケニル基及びアルケニレン基等はさらに構造中に下記のヘテロ連結基を介在していてもよい。
【0103】
連結基Lとしては、炭化水素連結基〔炭素数1〜10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1〜6、さらに好ましくは1〜3)、炭素数2〜10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2〜6、さらに好ましくは2〜4)、炭素数2〜10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2〜6、さらに好ましくは2〜4)、炭素数6〜22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6〜10)〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(−CO−)、チオカルボニル基(−CS−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、イミノ基(−NR−)、イミン連結基(R−N=C<,−N=C(R)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、リン酸連結基(−O−P(OH)(O)−O−)、ホスホン酸連結基(−P(OH)(O)−O−)、2価のヘテロ環基〕、又はこれらを組み合せた連結基が好ましい。なお、縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環として好ましくは、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素の5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0104】
は水素原子又は置換基を表し、置換基は上記置換基Tで示す定義と同義である。置換基としては、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜22が好ましく、7〜14がより好ましく、7〜10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10が特に好ましい)が好ましい。
【0105】
は水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基である。置換基としては、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜22が好ましく、7〜14がより好ましく、7〜10が特に好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10が特に好ましい)、アルコキシ基(炭素数1〜24が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3が特に好ましい)、アルケニルオキシ基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アルキニルオキシ基(炭素数2〜24が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましく、2〜3が特に好ましい)、アラルキルオキシ基(炭素数7〜22が好ましく、7〜14がより好ましく、7〜10が特に好ましい)、アリールオキシ基(炭素数6〜22が好ましく、6〜14がより好ましく、6〜10が特に好ましい)、が好ましい。
【0106】
本明細書において、連結基を構成する原子の数は、1〜36であることが好ましく、1〜24であることがより好ましく、1〜12であることがさらに好ましく、1〜6であることが特に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ経路に位置し連結に関与する最少の原子数を言う。たとえば、−CH−C(=O)−O−の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。
【0107】
具体的な連結基の組合せとしては、以下のものが挙げられる。オキシカルボニル基(−OCO−)、カーボネート基(−OCOO−)、アミド基(−CONH−)、ウレタン基(−NHCOO−)、ウレア基(−NHCONH−)、(ポリ)アルキレンオキシ基(−(Lr−O)x−)、カルボニル(ポリ)オキシアルキレン基(−CO−(O−Lr)x−、カルボニル(ポリ)アルキレンオキシ基(−CO−(Lr−O)x−)、カルボニルオキシ(ポリ)アルキレンオキシ基(−COO−(Lr−O)x−)、(ポリ)アルキレンイミノ基(−(Lr−NR)x−)、アルキレン(ポリ)イミノアルキレン基(−Lr−(NR−Lr)x−)、カルボニル(ポリ)イミノアルキレン基(−CO−(NR−Lr)x−)、カルボニル(ポリ)アルキレンイミノ基(−CO−(Lr−NR)x−)、(ポリ)エステル基(−(CO−O−Lr)x−、−(O−CO−Lr)x−、−(O−Lr−CO)x−、−(Lr−CO−O)x−、−(Lr−O−CO)x−)、(ポリ)アミド基(−(CO−NR−Lr)x−、−(NR−CO−Lr)x−、−(NR−Lr−CO)x−、−(Lr−CO−NR)x−、−(Lr−NR−CO)x−)などである。xは1以上の整数であり、1〜500が好ましく、1〜100がより好ましい。
【0108】
Lrはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が好ましい。Lrの炭素数は、1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が特に好ましい。複数のLrやR、R、x等は同じである必要はない。連結基の向きは上記の記載により限定されず、適宜所定の化学式に合わせた向きで理解すればよい。
【0109】
上記マクロモノマーAとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーAは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0110】
マクロモノマーAに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、バインダ粒子Aを構成するポリマー中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0111】
・バインダ粒子A等の諸元
バインダ粒子Aを構成するポリマーの数平均分子量は5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。上限としては、1,000,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。
【0112】
バインダ粒子Aの平均粒子径は、1,000nm以下であることが好ましく、750nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。下限値は10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。本発明においてバインダ粒子Aの平均粒子径は、特に断らない限り、後記実施例の項の走査型電子顕微鏡を用いた測定方法により得られる値とする。
無機固体電解質の平均粒子径より、上記バインダ粒子Aの粒径が小さいことが好ましい。
バインダ粒子Aの大きさを上記の範囲とすることにより、良好な密着性と界面抵抗の抑制とを実現することができる。
【0113】
本発明においてバインダ粒子Aを構成するポリマーは非晶質であることが好ましい。本発明においてポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、特開2015−088486号公報の段落<0143>に記載のガラス転移温度(Tg)の測定法で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないポリマーのことを言う。上記ポリマーのTgは、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。下限値としては、−80℃以上であることが好ましく、−70℃以上であることがより好ましく、−60℃以上であることが特に好ましい。本発明においてバインダ粒子Aをなすポリマーのガラス転移温度は、特に断らない限り、上記測定法により得られる値とする。
なお、作製された全固体二次電池からの測定は、例えば、電池を分解し電極を水に入れてその材料を分散させた後、ろ過を行い、残った固体を収集し、上記Tgの測定法でガラス転移温度を測定することにより行うことができる。
【0114】
バインダ粒子Aはこれを構成するポリマーのみからなっていてもよく、あるいは、別種の材料(ポリマーや低分子化合物、無機化合物など)を含む形で構成されていてもよい。好ましくは、構成ポリマーのみからなるバインダ粒子である。
【0115】
(ii)負極活物質層に対する密着性の高いバインダ(バインダ粒子B)
バインダ粒子Bは、質量平均分子量1,000以上1,000,000未満のマクロモノマーB由来の構成成分を含み、かつ、2環以上の環構造を含む基を有する。
バインダ粒子Bを構成するポリマーとして、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレア、ポリウレタン又はアクリル樹脂が好ましい。
【0116】
・バインダ粒子Bの合成に用いられるモノマー
バインダ粒子Bの合成に用いられるマクロモノマーB以外のモノマーは特に限定されない。このようなモノマーとしては、重合性不飽和結合を有するモノマーであることが好ましく、例えば各種のビニル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーを適用することができる。具体的には、上述のバインダ粒子Aで記載したモノマー(a)を採用することができる。
【0117】
バインダ粒子Bを構成するポリマーの合成原料として用いうるモノマーとして、上記「A−数字」で示す例示化合物を挙げることができる。ただし、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。
【0118】
・マクロモノマーB由来の構成成分
本発明に用いられるバインダ粒子Bを構成するポリマーは、質量平均分子量1000以上のマクロモノマーB由来の構成成分が組み込まれている。上記バインダ粒子Bを構成するポリマーにおいて、マクロモノマーB由来の構成成分は主鎖に対し側鎖を構成する。
マクロモノマーBの質量平均分子量は、2,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましい。上限は、1,000,000未満であり、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。上記バインダ粒子Bを構成するポリマーが上記の範囲の分子量をもつ側鎖を有することで、より良好に有機溶剤中に均一に分散でき固体電解質粒子と混合して塗布できるようになる。
なお、マクロモノマーBの質量平均分子量は、マクロモノマーAの数平均分子量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0119】
このようなマクロモノマーB由来の構成成分を含有するバインダ粒子Bは、バインダ粒子Aと同様の作用を奏する。
【0120】
マクロモノマーBのSP値は10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。
【0121】
バインダ粒子Bを構成するポリマーにおいて、上記のマクロモノマーB由来のグラフト部分を側鎖、それ以外を主鎖とした場合、この主鎖構造は特に限定されない。マクロモノマーBは、重合性不飽和結合を有することが好ましく、例えば各種のビニル基や(メタ)アクリロイル基を有することができる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0122】
上記のマクロモノマーB由来の構成成分は、グラフト鎖中に(メタ)アクリル酸成分、(メタ)アクリル酸エステル成分及び(メタ)アクリロニトリル成分から選ばれる構成成分(繰り返し単位)を含むことが好ましい。また、上記マクロモノマーBは、重合性二重結合と炭素数6以上の直鎖炭化水素構造単位S(好ましくは炭素数6以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数8以上24以下のアルキレン基である。これらのアルキレン基を構成するメチレンの一部は置換基を有してもよく、またこれらのアルキレン基を構成するメチレンの一部が他の構造(酸素原子、硫黄原子、イミノ基、カルボニル基等)に置き換わっていてもよい。)を含むことが好ましい。このように、マクロモノマーBが直鎖炭化水素構造単位Sを有することで、溶媒との親和性が高くなり分散安定性が向上するという作用が期待できる。
【0123】
上記のマクロモノマーBは、上記式(b−1)で表される部位を有することが好ましい。
【0124】
マクロモノマーBとして、炭化水素系溶媒に対して溶媒和されている構造部分(溶媒和部分)と溶媒和されない構造部分(非溶媒和部分)とを有しているポリウレア又はポリウレタンも好ましい。ポリウレア又はポリウレタンとしては、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有する粒子が好ましい。このような粒子は、例えば、非水媒体中で、炭素数6以上の長鎖アルキル基を有するジオール化合物(いわゆる親油性ジオール)と、イソシアネート化合物と、ポリアミン(ポリウレタンの場合はポリオール)化合物と、を反応させることで得られる。つまり、炭素数6以上の長鎖アルキル基等の、炭化水素系溶媒と溶媒和した構造部分を粒子に付与することができる。なお、親油性ジオール及びイソシアネート化合物に代えて、これらの化合物からなる末端NCOプレポリマーを反応させてもよい。
親油性ジオールは、官能基が2以下のポリオールであって、好ましい分子量は700以上5000未満である。但し、親油性ジオールは、これに限定されない。親油性ジオールの具体例としては、各種の油脂を低級アルコール及び/又はグリコールを用いてアルコリシス化する方法、油脂を部分鹸化する方法、水酸基含有脂肪酸をグリコールによりエステル化する方法等によって、油脂に約2個以下の水酸基を含有させたもの、あるいはJ.H.SAUNDERS,K.C.FRISCH著のPOLYURETHANES,CHEMISTRY AND TECHNOLOGY PART1,Chemistry(pp.48〜53、1962年発行)等に記載の、油脂変性ポリオール、末端アルコール変性したアクリル樹脂及び末端アルコール変性したポリエステル等が挙げられる。
上記のうち、水酸基含有脂肪酸としては、例えば、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ヒマシ油脂肪酸及び水添ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。
末端アルコール変性したアクリル樹脂としては、例えば、チオグリセロールを連鎖移動剤として用いた長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物などが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートの重合物としては、炭素数6以上30未満のアルキル(メタ)アクリレートの1種又は2種以上が好適に用いられる。さらに好ましくは、炭素数8以上25未満(特に好ましくは炭素数10以上20未満)のアルキル(メタ)アクリレートである。
イソシアネート化合物としては、通常のイソシアネート化合物を全て適用でき、特に好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添加トルエンジイソシアネート(水添加TDI)、水添加ジフェニルメタンジイソシアネート(水添加MDI)及びイソホロジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族系ジイソシアネート化合物である。
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス−アミノプロピルピペラジン、ポリオキシプロピレンジアミン、4,4−ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、チオ尿素及びメチルイミノビスプロピルアミン等が挙げられる。アミン化合物は、1種単独で用てもよく、2種以上を混合した混合物として用いてもよい。
上記マクロモノマーBとして、末端にエチレン性不飽和結合を有するマクロモノマーを用いてもよい。ここで、マクロモノマーBは、ポリマー鎖部分とその末端のエチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基の部分からなる。
【0125】
マクロモノマーBに由来する構成成分の共重合比は特に限定されないが、バインダ粒子Bを構成するポリマー中、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。なお、共重合比は、バインダ粒子Bの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。ただし、2環以上の環構造を含む基を有するモノマーの仕込み量(使用量)は含まれない。
【0126】
−2環以上の環構造を含む基−
本発明に用いられる2環以上の環構造を含む基は、2環以上の環(好ましくは縮環)構造を有する化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であればよく、下記一般式(D)で表される化合物の少なくとも1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが好ましく、1つ又は2つの水素原子を結合手に置き換えた基であることがより好ましく、1つの水素原子を結合手に置き換えた基であることが特に好ましい。
下記一般式(D)で表される化合物から形成される基は、炭素質材料との親和性に優れるため、バインダ粒子Bを含有する固体電解質組成物の分散安定性を向上させることができ、本発明の積層体及び全固体二次電池用電極シートの結着性を向上させることができる。分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、本発明の積層体及び全固体二次電池用電極シートを用いて作製した全固体二次電池はサイクル特性に優れる。2環以上の環構造を含む基は、サイクル特性向上の観点から、3環以上の環構造を含む基であることが好ましく、4環以上の環構造を含む基であることがさらに好ましい。上限に特に制限はないが、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下がさらに好ましく、8環以下がさらに好ましく、6環以下がさらに好ましい。
【0127】
【化10】
【0128】
一般式(D)中、環αは2環以上の環を表し、RD1は環αの構成原子と結合している置換基を表し、d1は1以上の整数を表す。d1が2以上の場合、複数のRD1は同一でも異なっていてもよい。隣接する原子に置換するRD1が互いに結合して、環を形成してもよい。環αは、2環以上が好ましく、3環以上がより好ましく、4環以上がさらに好ましい。また、環αは、18環以下が好ましく、16環以下がより好ましく、12環以下がさらに好ましく、8環以下がさらに好ましく、6環以下がさらに好ましい。環αは3員環以上の環構造を含有することが好ましく、4員環以上の環構造を含有することがより好ましく、5員環以上の環構造を含有することがさらに好ましく、6員環構造を含有することが特に好ましい。また環αは24員環以下の環構造を含有することが好ましく、12員環以下の環構造を含有することがより好ましく、8員環以下の環構造を含有することがさらに好ましく、6員環の環構造を含有することが特に好ましい。
【0129】
環αは脂肪族炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族環、ヘテロ環のいずれか又はその組み合わせの構造を含有することが好ましい。脂肪族炭化水素環の具体的な構造としてはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、デカリンなどが挙げられる。
【0130】
不飽和炭化水素環の具体的な構造としては上記脂肪族炭化水素環の一部が二重結合に置き換わった環構造が挙げられる。例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0131】
芳香族環の具体的な構造としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピセン、ペンタヘン、ペリレン、ヘリセン、コロネンなどが挙げられる。
ヘテロ環の具体的な構造としては、エチレンイミン、エチレンオキシド、エチレンスルフィド、アセチレンオキシド、アザシクロブタン、1,3−プロピレンオキシド、トリメチレンスルフィド、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、アザロトピリデン、オキサシクロヘプタトリエン、チオトロピリデン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、アクリジン、キサンテン、アクリジン、ベンゾキノリン、カルバゾール、ベンゾ−O−シンノリン、ポルフィリン、クロリン、コリンなどが挙げられる。
【0132】
環αは中でも、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロオクテン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘキサメチレンオキシド、ヘキサメチレンスルフィド、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、ベンゾキノリン、キサンテン、カルバゾール、ポルフィリンを含有する構造が好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トリフェニレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、イミダゾール、オキサゾール、インドールを含有していることがさらに好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ピレンを含有する構造が特に好ましい。
【0133】
D1で表される置換基としては、上述の置換基Tが好ましく挙げられる。
また、RD1で表される置換基として、=Oも好ましい。このような=Oを有する環αの例として、アントラキノンを含む構造が挙げられる。
【0134】
後述のように、上記2環以上の環構造を含む基を、本発明に用いられるバインダ粒子Bを構成するポリマーの側鎖及び/又はマクロモノマーB成分の側鎖に含ませるため、Rが上記式(b−1)で表される部位及び/又は上記連結基Lを有すること、RD1が後述のPであることも好ましい。
【0135】
本発明に用いられるバインダ粒子Bを構成するポリマーは、上記2環以上の環構造を含む基をポリマー主鎖、側鎖及び末端のいずれに有していてもよい。
以下、上記2環以上の環構造を有する化合物が、一般式(D)で表される化合物である場合を例に挙げて説明する。
ポリマーの主鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物が、一般式(D)で表される化合物の少なくとも2つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれ、ポリマーの繰り返し構造となる主鎖そのものとなるものである。一方、ポリマーの側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれることを意味する。また、ポリマー末端に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つ水素原子を結合手に置き換えた構造でポリマーに組込まれ、ポリマー鎖長となるものである。ここで、ポリマーの主鎖、側鎖及びポリマー末端の複数に含まれていても構わない。
本発明では、バインダ粒子Bを構成するポリマーが、上記2環以上の環構造を含む基を、主鎖又は側鎖に有することが好ましく、側鎖に有することがより好ましく、マクロモノマーB由来の構成成分の側鎖(マクロモノマーB由来の構成成分が有するグラフト鎖)中に有することが特に好ましい。マクロモノマーB成分の側鎖に有するとは、一般式(D)で表される化合物の1つの水素原子を結合手に置き換えた構造を側鎖として有する繰り返し単位が、マクロモノマーB成分を構成する繰り返し単位の1つとして、マクロモノマーB成分に組み込まれていることを意味する。
【0136】
上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられるバインダ粒子Bを構成するポリマーの側鎖に組み込まれていることにより、上記2環以上の環構造を含む基の運動性が向上することで吸着性が向上する。そうすることで、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。上記2環以上の環構造を含む基が、本発明に用いられるバインダ粒子Bを構成するポリマーのマクロモノマーB成分の側鎖に含まれていることにより、バインダ粒子B表面に存在する上記2環以上の環構造を含む基の割合が多くなり、全固体二次電池における固体粒子間等の結着性をより向上させることができる。
【0137】
本発明においては、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が、バインダ粒子Bを構成するポリマー100質量%中10質量%以上85質量%以下であることが好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、18質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量が上記範囲内にあることにより、吸着性とバインダ粒子Bの分散安定性が両立することができ好ましい。
なお、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は、バインダ粒子Bの合成に用いられるモノマーの仕込み量(使用量)から算出することができる。国際公開第2017/131093号公報記載の表1において、M1〜M4及びMMで表される成分のうち、2環以上の環構造を含む基を有する成分の合計が、上記2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量である。例えば、表1のBP−5では、M4(B−5)とMM(MM−2)が2環以上の環構造を含む基を有しており、2環以上の環構造を含む基を有する繰り返し単位の含有量は40質量%である。
【0138】
また、本発明において、上記一般式(D)で表される化合物は、下記一般式(1)で表される化合物及び後述の一般式(2)で表される脂肪族炭化水素のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、負極活物質である炭素質材料との親和性に優れる。そのため、これらの化合物を含有する固体電解質組成物の分散安定性をより向上させるとともに本発明の積層体及び全固体二次電池用電極シートの結着性を向上させることができる。また、分散安定性の向上、結着性の向上に伴い、この固体電解質組成物を用いて作製した全固体二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0139】
【化11】
【0140】
一般式(1)において、CHCはベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環を表す。n1は0〜8の整数を表す。R11〜R16は各々独立に、水素原子又は置換基を表す。CHCがベンゼン環以外の場合は環構造にR11〜R16以外に水素原子を有していてもよい。X及びXは各々独立に、水素原子又は置換基を表す。ここで、R11〜R16、X及びXにおいて、互いに隣接する基が結合して、5又は6員環を形成してもよい。ただし、n1が0の場合、R11〜R16のいずれか1つの置換基は、−(CHCm1−Rxであるか、又はR11〜R16のいずれか2つが互いに結合して、−(CHCm1−を形成する。ここで、CHCはフェニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基を表し、m1は2以上の整数を表し、Rxは水素原子又は置換基を表す。また、n1が1の場合、R11〜R16、X及びXにおいて、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環又はシクロヘキサジエン環を形成する。
【0141】
11〜R16が表す置換基として、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、アミノ基、メルカプト基(スルファニル基)、アミド基、ホルミル基、シアノ基、ハロゲン原子、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0142】
なお、以下ではホルミル基をアシル基に含めて説明する。
【0143】
アルキル基の炭素数は、1〜30が好ましく、1〜25がより好ましく、1〜20が特に好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、オクチル、ドデシル、ステアリル、ベンジル、ナフチルメチル、ピレニルメチル及びピレニルブチルが挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することがさらに好ましい。
【0144】
アリール基の炭素数は、6〜30が好ましく、6〜26がより好ましく、6〜15が特に好ましい。具体的には、フェニル、ナフチル、アントラセン、ターフェニル、トリル、キシリル、メトキシフェニル、シアノフェニル及びニトロフェニルが挙げられる。
【0145】
ヘテロアリール基の炭素数は、6〜30が好ましく、6〜26がより好ましく、6〜15が特に好ましい。具体的には、フラン、ピリジン、チオフェン、ピロール、トリアジン、イミダゾール、テトラゾール、ピラゾール、チアゾール及びオキサゾールが挙げられる。
【0146】
アルケニル基の炭素数は、2〜30が好ましく、2〜25がより好ましく、2〜20が特に好ましい。具体的には、ビニル及びプロペニルが挙げられる。
【0147】
アルキニル基の炭素数は、2〜30が好ましく、2〜25がより好ましく、2〜20が特に好ましい。具体的には、エチニル、プロピニル及びフェニルエチニルが挙げられる。
【0148】
・アルコキシ基:アルコキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0149】
・アリールオキシ基:アリールオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0150】
・ヘテロアリールオキシ基:ヘテロアリールオキシ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
【0151】
・アルキルチオ基:アルキルチオ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0152】
・アリールチオ基:アリールチオ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0153】
・ヘテロアリールチオ基:ヘテロアリールチオ基中のヘテロアリール基は、上記ヘテロアリール基と同じである。
【0154】
・アシル基:炭素数は、1〜30が好ましく、1〜25がより好ましく、1〜20がさらに好ましい。アシル基はホルミル基、脂肪族カルボニル基、芳香族カルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含む。例えば、以下の基が挙げられる。
ホルミル、アセチル(メチルカルボニル)、ベンゾイル(フェニルカルボニル)、エチルカルボニル、アクリロイル、メタクリロイル、オクチルカルボニル、ドデシルカルボニル(ステアリン酸残基)、リノール酸残基、リノレン酸残基
【0155】
・アシルオキシ基:アシルオキシ基中のアシル基は、上記アシル基と同じである。
【0156】
・アルコキシカルボニル基:アルコキシカルボニル基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0157】
・アリールオキシカルボニル基:アリールオキシカルボニル基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0158】
・アルキルカルボニルオキシ基:アルキルカルボニルオキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同じである。
【0159】
・アリールカルボニルオキシ基:アリールカルボニルオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同じである。
【0160】
これら置換基は一般的に、一般式(1)で示される芳香族炭化水素の求電子置換反応、求核置換反応、ハロゲン化、スルホン化、ジアゾ化、又はそれらの組み合わせによって導入することが可能である。例えばフリーデルクラフト反応によるアルキル化、フリーデルクラフト反応によるアシル化、ビルスマイヤー反応、遷移金属触媒カップリング反応などが挙げられる。
【0161】
n1は、0〜6の整数がより好ましく、1〜4の整数が特に好ましい。
【0162】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1−1)又は(1−2)で表される化合物が好ましい。
【0163】
【化12】
【0164】
一般式(1−1)において、Arはベンゼン環である。R11〜R16、X及びXは、一般式(1)におけるR11〜R16、X及びXと同義であり、好ましい範囲も同じである。n3は1以上の整数を表す。ただし、n3が1の場合、R11〜R16、X及びXにおいて、互いに隣接する少なくとも2つが結合して、ベンゼン環を形成する。
一般式(1−2)において、Rxは一般式(1)におけるRxと同義であり、好ましい範囲も同じである。R10は置換基を表し、nxは0〜4の整数を表す。m3は3以上の整数を表す。Ryは、水素原子又は置換基を表す。ここで、RxとRyが結合してもかまわない。
【0165】
n3は、1〜6の整数が好ましく、1〜3の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。
m3は、3〜10の整数が好ましく、3〜8の整数がより好ましく、3〜5の整数が特に好ましい。
【0166】
一般式(1)で表される化合物の具体例として、ナフタレン、アントラセン、フェナントラセン、ピレン、テトラセン、テトラフェン、クリセン、トリフェニレン、ペンタセン、ペンタフェン、ペリレン、ピレン、ベンゾ[a]ピレン、コロネン、アンタントレン、コランヌレン、オバレン、グラフェン、シクロパラフェニレン、ポリパラフェニレン又はシクロフェンの構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0167】
【化13】
【0168】
一般式(2)において、Y及びYは各々独立に水素原子、メチル基又はホルミル基を表す。R21、R22、R23及びR24は各々独立に、置換基を表し、a、b、c及びdは0〜4の整数を表す。
ここで、A環は、飽和環、二重結合を1もしくは2個有する不飽和環又は芳香環であってもよく、B環及びC環は、二重結合を1もしくは2個有する不飽和環であってもよい。なお、a、b、c又はdの各々において、2〜4の整数の場合、互いに隣接する置換基が結合して環を形成してもよい。
【0169】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、ステロイド骨格を有する化合物である。
ここで、ステロイド骨格の炭素番号は、下記の通りである。
【0170】
【化14】
【0171】
最初に、一般式(2)で表される脂肪族炭化水素を説明する。
【0172】
21、R22、R23及びR24における置換基は、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基又はその塩、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、エポキシ基、オキセタニル基が好ましく、また、同一炭素原子に2つ置換した置換基が共同して形成された、=O基が好ましい。
アルキル基は、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。アルキル基としては内部に二重結合又は三重結合の不飽和炭素結合を含有することがさらに好ましい。
アルケニル基は、炭素数1〜12のアルケニル基が好ましく、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、どのような置換基でも構わないが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基が挙げられる。
21は、炭素番号3に置換するのが好ましく、R22は、炭素番号6又は7に置換するのが好ましく、R23は炭素番号11又は12に置換するのが好ましく、R24は、炭素番号17に置換するのが好ましい。
【0173】
、Yは水素原子又はメチル基が好ましい。
【0174】
a、b、c、dは0〜2の整数が好ましい。
【0175】
A環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号4と5の結合が好ましく、B環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号5と6又は6と7の結合が好ましく、C環が不飽和環である場合、二重結合は炭素番号8と9の結合が好ましい。
【0176】
なお、一般式(2)で表される化合物は、立体異性体のいずれをも包含するものである。置換基の結合方向が紙面下方向をα、紙面上方向をβで表すと、α、βのいずれであってもよく、これらの混合であってもよい。また、A/B環の配置、B/C環の配置、C/D環の配置は、トランス配置であっても、シス配置のいずれであってもよく、これらの混合配置であっても構わない。
【0177】
本発明では、a〜dの総和が1以上であって、かつR21、R22、R23及びR24のいずれかが、ヒドロキシ基又は置換基を有するアルキル基が好ましい。
【0178】
ステロイド骨格を有する化合物としては下記に示されるようなステロイドが好ましい。
下記では、ステロイド環に有する置換基は、立体的に制御されているものである。
左からコレスタン類、コラン類、プレグナン類、アンドロスタン類、エストラン類である。
【0179】
【化15】
【0180】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素の具体例として、コレステロール、エルゴステロール、テストステロン、エストラジオール、エルドステロール、アルドステロン、ヒドロコルチゾン、スチグマステロール、チモステロール、ラノステロール、7−デヒドロデスモステロール、7−デヒドロコレステロール、コラン酸、コール酸、リトコール酸、デオキシコール酸、デオキシコール酸ナトリウム、デオキシコール酸リチウム、ヒオデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、ホケコール酸又はヒオコール酸の構造を含む化合物が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0181】
一般式(2)で表される脂肪族炭化水素は、市販品を用いることができる。
【0182】
一般式(D)で表される化合物は、RD1の少なくとも1つがL1a−Pであること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a−P又はL3a−Pであることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11〜R16、X及びXの少なくとも1つがL1a−Pであること、又はR11〜R16、X及びXの少なくとも2つが各々独立にL2a−P又はL3a−Pであることが好ましく、前者であることがより好ましい。一般式(2)においては、R21、R22、R23及びR24の少なくとも1つがL1a−Pであること、又はRD1の少なくとも2つが各々独立にL2a−P又はL3a−Pであることが好ましく、前者であることがより好ましい。
なお、L1a−PはL1aで環に結合する。また、L2a−P及びL3a−PはL2a及びL3aでそれぞれ環に結合する。
【0183】
1aは、単結合又は連結基を表す。連結基としては、炭化水素連結基〔炭素数1〜10のアルキレン基(より好ましくは炭素数1〜6、さらに好ましくは1〜3)、炭素数2〜10のアルケニレン基(より好ましくは炭素数2〜6、さらに好ましくは2〜4)、炭素数2〜10のアルキニレン基(より好ましくは炭素数2〜6、さらに好ましくは2〜4)、炭素数6〜22のアリーレン基(より好ましくは炭素数6〜10)、又はこれらの組み合わせ〕、ヘテロ連結基〔カルボニル基(−CO−)、チオカルボニル基(−CS−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、イミノ基(−NRNa−)、アンモニウム連結基(−NRNa−)、ポリスルフィド基(Sの数が1〜8個)、イミン連結基(RNa−N=C<,−N=C(RNa)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、リン酸連結基(−O−P(OH)(O)−O−)、ホスホン酸連結基(−P(OH)(O)−O−)、又はこれらの組み合わせ〕、又は、これらを組み合わせた連結基が好ましい。L1aにおけるRNaは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基(好ましくは炭素数1〜4、さらに好ましくは炭素数1〜2)を表す。
【0184】
なお、置換基や連結基が縮合して環を形成する場合には、上記炭化水素連結基が、二重結合や三重結合を適宜形成して連結していてもよい。形成される環としては、5員環又は6員環が好ましい。5員環としては含窒素5員環が好ましく、その環をなす化合物として例示すれば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、インダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、インドリン、カルバゾール、又はこれらの誘導体などが挙げられる。6員環としては、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、又はこれらの誘導体などが挙げられる。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、同様に置換されていても無置換でもよい。
【0185】
1aが組み合わせからなる連結基である場合、組み合わせる数は、特に限定されず、例えば、2〜30が好ましく、2〜20がより好ましく、2〜10がさらに好ましく、2〜4が特に好ましい。組み合わせからなる連結基としては、例えば、炭素数1〜6(好ましくは1〜4)のアルキレン基、炭素数6〜24(好ましくは6〜10)のアリーレン基、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基、(ポリ)アミド基又はそれらの組み合わせに係る基が挙げられる。中でも、炭素数1〜4のアルキレン基、エーテル基(−O−)、イミノ基(NRNa)、カルボニル基、(ポリ)アルキレンオキシ基、(ポリ)エステル基又はそれらの組み合わせに係る基がより好ましい。他にも後述する例示モノマーが有する連結基が挙げられる。
【0186】
1aが置換基を採りうる基であるとき、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
1aは一定以上の長さを有することが好ましい。具体的には環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とPとを連結する最短原子数は、2原子以上が好ましく、4原子以上がより好ましく、6原子以上がさらに好ましく、8原子以上が特に好ましい。上限は1000原子以下であることが好ましく、500原子以下であることがより好ましく、100原子以下であることがさらに好ましく、20原子以下であることが特に好ましい。
【0187】
2a、L3aはL1aと同義でありそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0188】
は重合性部位である。重合性部位とは、重合反応で重合することができる基であり、エチレン性不飽和基、エポキシ基やオキセタニル基のような、連鎖重合する基が挙げられる。またヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基等を2つ以上有する基、及び、縮合重合する基として、ジカルボン酸無水物構造を1つ以上有する基などが挙げられる。
なお、エチレン性不飽和基は、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基(アリル基を含む)が挙げられる。
【0189】
は、エチレン性不飽和基、エポキシ基、オキセタニル基又はジカルボン酸無水物を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、2つ以上含有する部分構造が好ましく、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基又はビニル基を1つ以上、又はヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基を2つ以上含有する部分構造がより好ましく、(メタ)アクリロイル基又は(メタ)アクリロイルオキシ基を含有する部分構造が好ましい。
【0190】
はヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物など縮合重合する基が挙げられる。なかでもヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基、ジカルボン酸無水物が好ましく、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアナート基が特に好ましい。
【0191】
1a−Pは、下記一般式(F−1)で表される基であることが好ましい。
【0192】
【化16】
【0193】
一般式(D)で表される化合物は、d1が1〜4で、RD1が一般式(F−1)で表される基であることが好ましく、d1が1で、RD1が一般式(F−1)で表される基であることがより好ましい。一般式(1)においては、R11〜R16、X及びXの少なくとも4つが一般式(F−1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F−1)で表される基であることがより好ましい。一般式(2)においては、R、R22、R23及びR24の少なくとも4つが一般式(F−1)で表される基であることが好ましく、少なくとも1つが一般式(F−1)で表される基であることがより好ましい。
【0194】
31は、−O−又は>NHを表す。
【0195】
式中、R31は、水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を表す。
31として採りうるアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1〜24のアルキル基が好ましく、1〜12のアルキル基がより好ましく、1〜6のアルキル基が特に好ましい。
31として採りうるアルケニル基としては、特に限定されないが、炭素数2〜24のアルケニル基が好ましく、2〜12のアルケニル基がより好ましく、2〜6のアルケニル基が特に好ましい。
31として採りうるアルキニル基としては、特に限定されないが、炭素数2〜24のアルキニル基が好ましく、2〜12のアルキニル基がより好ましく、2〜6のアルキニル基が特に好ましい。
31として採りうるアリール基としては、特に限定されないが、炭素数6〜22のアリール基が好ましく、6〜14のアリール基がより好ましい。
31として採りうるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
31は、中でも、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチルがより好ましい。
31が置換基を採りうる基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基)であるとき、R31はさらに置換基を有していてもよい。置換基としては後述する置換基Zが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(フッ素原子等)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基が好ましい。
【0196】
31は、L1aと同義である。中でも、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは1〜6)、カルボニル基、エーテル基、イミノ基、又はこれらを組み合わせた連結基がより好ましい。炭素数1〜4のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、イミノ基又はこれらを組み合わせた連結基が特に好ましい。
31が置換基を採りうる基であるとき、さらに置換基を有していてもよい。置換基としては上記置換基Tが挙げられ、中でも、ハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子、塩素原子)、アルキル基、アシル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基が好ましい。
31は一定以上の長さを有することが好ましい。環α(環α、一般式(1)又は(2)における環構造を構成する原子のうちL1aが結合する原子)とX31とを連結する最短原子数は、環αとPとを連結する最短原子数と同じである。
【0197】
以下に、上記2環以上の環構造を有する化合物の例を挙げるが、本発明がこれらにより限定して解釈されるものではない。なお、下記例示化合物において、m4は、1〜100000を表し、n4は、1〜100000を表す。
【0198】
【化17】
【0199】
2環以上の環構造を有する化合物は、例えば、2環以上の環構造と反応点(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)を有する化合物に重合性基(例えば、(メタ)アクリロイル基など)を含有する化合物を反応させて合成することにより得ることができる。
【0200】
バインダ粒子Bの平均粒子径は、50,000nm以下であり、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、250nm以下であることが特に好ましい。下限値は10nm以上であり、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、100nm以上であることが特に好ましい。バインダ粒子Bの大きさを上記の範囲とすることにより、固体粒子等との抵抗被膜の面積が小さくなり、低抵抗化することができる。すなわち、良好な密着性と界面抵抗の抑制とを実現することができる。
本発明において、バインダ粒子Bの平均粒子径は、イオン伝導性物質を内包した状態での平均粒子径をいう。
なお、バインダ粒子Bの平均粒子径の測定方法は、バインダ粒子Aの平均粒子径の測定方法と同じである。
【0201】
バインダ粒子Bを構成するポリマーの質量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。上限としては、1,000,000以下が実質的であるが、架橋された態様も好ましい。
なお、バインダ粒子Bを構成するポリマーの質量平均分子量は、バインダ粒子Aを構成するポリマーの数平均分子量の測定方法と同様にして測定することができる。
【0202】
加熱や電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時に、バインダ粒子Bを構成するポリマーが上記範囲の質量平均分子量であることである。
【0203】
本発明に用いられるバインダを構成するポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。
また、本発明に用いられるバインダを構成するポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー溶液をそのまま用いてもよい。金属系触媒(ウレタン化、ポリエステル化触媒=スズ、チタン、ビスマス)は少ない方が好ましい。重合時に少なくするか、晶析で触媒を除くことで、共重合体中の金属濃度を、100ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。
【0204】
各固体電解質層中のバインダの含有量は特に制限されない。各固体電解質層中、バインダの含有量は、無機固電解質100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜40質量部であることがより好ましく、1〜30質量部であることが特に好ましい。
バインダを上記の範囲で用いることにより、一層効果的に無機固体電解質の結着性と界面抵抗の抑制性とを両立して実現することができる。
【0205】
本発明の積層体を構成する各固体電解質層において、バインダは1種を単独で用いても、複数の種類のものを組み合わせて用いてもよい。また、他の粒子と組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明に用いられるバインダは、常法により調製することができる。
また、粒子化する方法としては、例えば、重合反応時にバインダ粒子を形成する方法、ポリマー溶液を沈殿させて粒子化する方法等が挙げられる。
【0206】
(リチウム塩)
本発明の積層体を構成する固体電解質層は、リチウム塩(支持電解質)を含有してもよい。
リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015−088486の段落0082〜0085記載のリチウム塩が好ましい。
固体電解質層がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、各固体電解質層中、無機固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0207】
(イオン液体)
本発明の積層体を構成する固体電解質層は、イオン伝導度をより向上させるため、イオン液体を含有してもよい。イオン液体としては、特に限定されないが、イオン伝導度を効果的に向上させる観点から、上述したリチウム塩を溶解するものが好ましい。例えば、下記のカチオンと、アニオンとの組み合わせよりなる化合物が挙げられる。
【0208】
(i)カチオン
カチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ホスホニウムカチオン及び第4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。ただし、これらのカチオンは以下の置換基を有する。
カチオンとしては、これらのカチオンを1種単独で用いてもよく、2以上組み合わせて用いることもできる。
好ましくは、四級アンモニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン又はピロリジニウムカチオンである。
上記カチオンが有する置換基としては、アルキル基(炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。)、ヒドロキシアルキル基(炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基が好ましい。)、アルキルオキシアルキル基(炭素数2〜8のアルキルオキシアルキル基が好ましく、炭素数2〜4のアルキルオキシアルキル基がより好ましい。)、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基(炭素数1〜8のアミノアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアミノアルキル基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜12のアリール基が好ましく、炭素数6〜8のアリール基がより好ましい。)が挙げられる。上記置換基はカチオン部位を含有する形で環状構造を形成していてもよい。置換基はさらに上記分散媒で記載した置換基を有していてもよい。なお、上記エーテル基は、他の置換基と組み合わされて用いられる。このような置換基として、アルキルオキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0209】
(ii)アニオン
アニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、ジシアナミドイオン、酢酸イオン、四塩化鉄イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロブチルメタンスルホニル)イミドイオン、アリルスルホネートイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホネートイオン等が挙げられる。
アニオンとしては、これらのアニオンを1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いることもできる。
好ましくは、四フッ化ホウ素イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン又はヘキサフルオロリン酸イオン、ジシアナミドイオン及びアリルスルホネートイオンであり、さらに好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン又はビス(フルオロスルホニル)イミドイオン及びアリルスルホネートイオンである。
【0210】
上記のイオン液体としては、例えば、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME)、N−プロピル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PMP)、N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウム テトラフルオロボラート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、(2−アクリロイルエチル)トリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチルー1−メチルピロリジニウムアリルスルホネート、1−エチルー3−メチルイミダゾリウムアリルスルホネート及び塩化トリヘキシルテトラデシルホスホニウムが挙げられる。
各固体電解質層中のイオン液体の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して0質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が最も好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
リチウム塩とイオン液体の質量比は、リチウム塩:イオン液体=1:20〜20:1が好ましく、1:10〜10:1がより好ましく、1:7〜2:1が最も好ましい。
【0211】
(線状構造体)
本発明の積層体を構成する固体電解質層は、構造を補強するための線状構造体を含有してもよい。具体的には有機物、無機物からなる線状構造体を例示できる。
有機物からなる線状構造体としては、例えば、セルロースナノファイバー(商品名:セリッシュ(ダイセルファインケム(株)製))、置換セルロースナノファイバー、ポリエステルナノファイバー(商品名:ナノフロント(帝人(株)製))、ポリアミドナノファイバー(商品名:ティアラ(ダイセルファインケム(株)製))、アクリルナノファイバー、ポリウレタンナノファイバー、ポリイミドナノファイバーが挙げられる。
カーボンからなる線状構造体としては、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーが挙げられる。
無機物からなる線状構造体としては、例えば、金属からなる線状構造体(銀ナノワイヤー、銅ナノワイヤー、ニッケルナノワイヤー、コバルトナノワイヤー、金ナノワイヤー等)、セラミックスからなる線状構造体(酸化アルミナノワイヤー、水酸化銅ナノワイヤー、ヒドロキシアパタイトナノワイヤー、酸化鉄水和物ナノワイヤー、酸化鉄ナノワイヤー、水酸化ニッケルナノワイヤー、酸化マグネシウムナノワイヤー、酸化モリブデンナノワイヤー、シリコンカーバイドナノワイヤー、酸化チタンナノワイヤー、酸化マンガンナノワイヤー、酸化ニッケルナノワイヤー、酸化タングステンナノワイヤー、酸化バナジウムナノワイヤー、酸化亜鉛ナノワイヤー等)、ガラスからなる線状構造体(シリカグラスナノファイバー等)が挙げられる。
各固体電解質層中の線状構造体の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して1〜50質量%が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。
【0212】
(支持体A)
上記各固体電解質層は、上記離型フィルムとは別の支持体を含んでもよい。すなわち、本発明の積層体において、各固体電解質層の構成部材として支持体を用いてもよい。以下、このような支持体を支持体Aとも称する。支持体Aの形状として好ましくは、シート状の支持体に複数の貫通孔等の開口部を有しているものである。支持体Aは樹脂、ガラス又は繊維から形成されることが好ましい。
上記樹脂として例えば、ポリカプロラクタム、ポリアルキレン、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)−テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及びナイロンが挙げられ、ポリカプロラクタム、ポリイミド、アクリル樹脂が好ましい。
開口部を有するガラス支持体Aは、例えば、ウェットエッチング等でパターニングすることにより作製することができる。この方法において上記エッチングを効果的に行えるため、少量の金属イオンを含む感光性ガラスを用いることが好ましい。
開口部の形状は特に限定されないが、例えばハニカム状、円形等が挙げられる。また、形状を有さない不定形の開口部(例えば繊維が合わさってできる、開口率の高い貫通孔)であってもよい。
【0213】
[固体電解質含有シートの製造方法]
本発明の固体電解質含有シートの製造方法は、少なくとも下記工程(1)〜(3)と乾燥する工程とを有する、3層以上の固体電解質層の積層体を有する固体電解質含有シートの製造方法である。
工程(1):平均粒子径0.3〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する。
工程(2):平均粒子径1〜5μmの無機固体電解質と粒子状バインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する。
工程(3):平均粒子径0.3〜0.9μmの無機固体電解質とバインダとを含む固体電解質組成物を塗布して固体電解質層を形成する。
ここで、上記工程(1)〜(3)を行う順は特に制限されず、同時に行われてもよい。
上記工程(2)により形成される固体電解質層が、上記工程(1)により形成される固体電解質層と、上記工程(3)により形成される固体電解質層の間に形成される。
【0214】
本発明の固体電解質含有シートの製造方法により、上記本発明の固体電解質含有シートを好適に製造することができる。すなわち、工程(1)の固体電解質組成物から、本発明の固体電解質含有シートの第1SE層及び第3SE層のいずれか一方を形成し、工程(3)の固体電解質組成物から、上記第1SE層及び第3SE層の他の一方を形成する。また、工程(2)の固体電解質組成物から、第2SE層を形成する。
【0215】
本発明の固体電解質含有シートの製造方法は、上記第4SE層を形成する工程を含むことが好ましい。本発明の固体電解質含有シートの製造方法において、工程(1)の固体電解質組成物から形成される固体電解質層と、工程(3)の固体電解質組成物から形成される固体電解質層の間に、短絡抑制層である固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布する工程(4)を含むことが好ましい。
【0216】
本発明の固体電解質含有シートの製造方法において、短絡抑制層が、第1SE層及び第3SE層のうちの一方に接するように工程(4)を行うことが好ましい。
【0217】
また、本発明の固体電解質含有シートの製造方法は、得ようとする固体電解質含有シートの形態に合わせて、「他のSE層」を形成する工程を含むことができる。
【0218】
上記工程(1)〜(4)に用いられる固体電解質組成物及び「他のSE層」の形成に用いられる固体電解質組成物が含有する成分及び含有量は、上述した本発明の積層体が含有する成分及び含有量に対応する。
なお、第4SE層における水銀圧入法で測定される空孔細孔半径は、工程(4)に用いられる固体電解質組成物の成分、含有量、本発明の積層体を形成する際の加圧時の圧力によって調整することができる。
【0219】
<固体電解質組成物の調製>
本発明の固体電解質含有シートの製造方法に用いられる固体電解質組成物は、常法により調製することができる。具体的には、無機固体電解質及びバインダと、必要により分散媒等の他の成分とを、混合又は添加することにより、調製できる。例えば、各種の混合機を用いて上記成分を混合することにより、調製できる。混合条件としては、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ―、ブレードミキサ―、ロールミル、ニーダー、ディスクミル等が挙げられる。
【0220】
(分散媒)
上記分散媒の具体例としては以下のものが挙げられる。
アルコール化合物溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6−ヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール及び1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0221】
エーテル化合物溶媒としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等)、テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2−、1,3−及び1,4−の各異性体を含む)が挙げられる。
【0222】
アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド及びヘキサメチルホスホリックトリアミドが挙げられる。
【0223】
アミノ化合物溶媒としては、例えば、トリエチルアミン及びトリブチルアミンが挙げられる。
【0224】
ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトンが挙げられる。
【0225】
エステル化合物溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸ペンチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、吉草酸ブチル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプロン酸ブチル等が挙げられる。
【0226】
芳香族化合物溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンが挙げられる。
【0227】
脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、オクタン、ペンタン、シクロペンタン及びシクロオクタンが挙げられる。
【0228】
ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピロニトリル及びブチロニトリルが挙げられる。
【0229】
<積層体の形成方法>
本発明の積層体は、上記固体電解質組成物を用いて形成することができる。以下、本発明の固体電解質含有シートの製造方法により、本発明の転写シートを製造する場合を例にとって説明する。
【0230】
離型フィルム(支持体)上に固体電解質組成物を塗布する方法は特に制限されないが、例えば、湿潤逐次塗布法及び塗布法が挙げられ、同時重層塗布法が好ましい。
【0231】
(湿潤逐次塗布法)
湿潤逐次塗布法は、例えば、特開2007−83625号公報の記載を参照して行うことができる。以下、図1に示す本発明の転写シート10Aの製造を例にとって説明する。
【0232】
離型フィルム4上に、固体電解質層3(第1SE層)を形成するための固体電解質組成物(分散媒を含むスラリー)を塗布し(工程(1))、第1SE層を形成する。
続いて、第1SE層から分散媒が蒸発又は揮発しきる前に、第1SE層上に固体電解質層2(第2SE層)を形成するための固体電解質組成物(分散媒を含むスラリー)を塗布し(工程(2))、第2SE層を形成する。
続いて、第2SE層から分散媒が蒸発又は揮発しきる前に、第2SE層上に、固体電解質層1(第3SE層)を形成するための固体電解質組成物(分散媒を含むスラリー)を塗布し(工程(3))、第3SE層を形成する。
【0233】
なお、上記線状構造体を用いる場合、例えば、工程(2)において、第1SE層から分散媒が蒸発又は揮発しきる前に、第2SE層を形成するための固体電解質組成物を含浸させた線状構造体を配置し、第2SE層を形成してもよい。線状構造体は、工程(1)及び(3)においても同様に用いることができる。
【0234】
また、上記支持体Aを用いる場合、例えば、工程(2)において、第1SE層から分散媒が蒸発又は揮発しきる前に、第1SE層上に貫通孔を有する支持体Aを配置し、第2SE層を形成するための固体電解質組成物を塗布し(工程(2))、貫通孔に固体電解質組成物(スラリー)を充填し第2SE層を形成してもよい。支持体Aは、工程(1)及び(3)においても同様に用いることができる。
【0235】
ここで、「第1SE層(第2SE層)から分散媒が蒸発又は揮発しきる前」とは、「第1SE層(第2SE層)が減率乾燥を示すようになる前」であることが好ましい。
【0236】
「第1SE層(第2SE層)が減率乾燥を示すようになる前」とは、通常、スラリーの塗布直後から数分間の過程を指し、この間においては、塗布された塗布層中の溶剤(分散媒)の含有量が時間に比例して減少する「恒率乾燥」の現象を示す。この「恒率乾燥」を示す時間については、例えば、「化学工学便覧」(頁707〜712、丸善(株)発行、昭和55年10月25日)に記載されている。
【0237】
なお、スラリーの塗布は、例えば、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の通常の塗布方法によって行うことができる。
【0238】
(同時重層塗布法)
同時重層塗布法は、例えば、特開2005−271283号公報及び特開2006−247967号公報の記載を参照して行うことができる。
同時重層塗布は、例えば、エクストルージョンダイコーター、カーテンフローコーター等のコーターを用いて、少なくとも、工程(1)〜(3)で用いる各固体電解質組成物を例えば離型フィルム上に同時に塗布する塗布方法により、行なうことができる。本発明において、同時に塗布するとは、例えば後述するように各固体電解質組成物が重層された状態で例えば離型フィルム上に塗布されることを意味し、離型フィルム上に塗布される時間若しくはタイミングが完全に一致する態様に限定されない。図1に示す転写シートを例にとると、各固体電解質層を形成するためのスラリーが同時重層塗布されることにより、第1〜第3SE層が分散媒を含んだ状態(湿潤状態)で離型フィルム4上に積層され、図1に示す層構成となる。
【0239】
同時重層塗布を、例えば、エクストルージョンダイコーターにより行った場合、同時に吐出される3種のスラリー(第1SE層を形成するための固体電解質組成物、第2SE層を形成するための固体電解質組成物、及び第3SE層を形成するための固体電解質組成物)は、エクストルージョンダイコーターの吐出口附近で、即ち、支持体上に移る前に重層形成され、その状態で支持体上に重層塗布される。
【0240】
(乾燥)
全ての固体電解質組成物が塗布された後、乾燥する工程が行われる。乾燥温度及び乾燥時間は、スラリーに用いた分散媒により適宜に設定することができる。乾燥温度は、例えば、80〜200℃であり、乾燥時間は、0.3〜15分である。
本発明において、本発明の効果を損なわない限り、本発明の積層体における乾燥後の各固体電解質層は、それぞれ、乾燥後も分散媒を含有してよい。例えば、固体電解質層の全質量中、1質量%以下とすることができる。
【0241】
(加圧)
本発明の固体電解質含有シートの製造方法は、全ての固体電解質層を、固体電解質組成物を塗布し、乾燥した後、加圧する工程を含んで形成することが好ましい。加圧する圧力は、得られる固体電解質含有シート中の無機固体電解質粒子及びバインダ粒子が粒子状の形態を保持できる範囲で調整される。例えば、1〜100MPaである。
【0242】
(保存)
本発明の固体電解質含有シートの保存方法は特に制限されないが、ロールに巻き取った状態で保存することが好ましい。上記加圧は、固体電解質含有シートをロールに巻き取る前及び後のいずれに行ってもよいが、ロールに巻き取る前に加圧することが好ましい。
【0243】
[全固体二次電池用電極シートの製造方法]
本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、本発明の固体電解質含有シートの製造方法により得られた積層体を、電極活物質層上に転写する工程を含む。本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、上記固体電解質含有シートの製造方法を含む以外は、常法によって行うことができる。
【0244】
集電体となる金属箔上に、電極用組成物を塗布し、塗膜を形成(製膜)する工程を含む(介する)方法により、製造できる。金属箔上に導電体層形成用組成物を塗布し、導電体層を形成し、この導電体層上に電極用組成物を塗布してもよい。
【0245】
例えば、負極集電体である金属箔上に、負極用組成物として、負極活物質を含有する負極用組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、この負極活物質層の上に、本発明の固体電解質含有シートの製造方法により得た転写シートの積層体を転写する。図1に示す転写シートを例にとると、固体電解質層1(第3SE層)が負極活物質層と接するようにして、全固体二次電池用負極シート上に転写シートを重ねる。転写シートを重ねた後、加圧し、固体電解質含有シートと負極活物質層を密着させる。必要に応じて加熱状況下で加圧してもよい。このようにして、本発明の全固体二次電池用負極シートを得ることができる。
なお、本発明の全固体二次電池用電極シートの電極活物質層は、通常の全固体二次電池を構成する電極活物質層を用いることができる。このような電極活物質層を形成するための電極用組成物として、例えば、上記工程(1)又は(3)で用いられる固体電解質組成物に活物質を含有させた電極用組成物を用いることができる。
【0246】
[全固体二次電池の製造方法]
本発明の全固体二次電池の製造方法は、本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法を含む。本発明の全固体二次電池の製造方法は、上記全固体二次電池用電極シートの製造方法を含む以外は、常法によって行うことができる。
【0247】
例えば、上記作製した全固体二次電池用負極シート上の転写シート10Aから離型フィルム4を剥す。固体電解質層3上に、正極用組成物を塗布し正極活物質層を形成する。正極活物質層上に集電体を重ねることにより、図3に示す層構成を有する全固体二次電池100Aを得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
【0248】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用負極シートを作製する。また、正極集電体である金属箔上に、正極用組成物として、正極活物質を含有する正極用組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。全固体二次電池用負極シートから離型フィルムを剥し、離型フィルムを有していた固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シートを、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。必要に応じて加熱状況下で加圧してもよい。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
【0249】
(電極活物質層の形成(成膜))
電極用組成物の塗布方法は、特に限定されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布及びバーコート塗布が挙げられる。
このとき、電極用組成物は、塗布した後に乾燥処理を施してもよい。乾燥温度は特に限定されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体状態にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性を得ることができる。
【0250】
全固体二次電池を作製した後に、全固体二次電池を加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては、特に限定されず、一般的には50〜1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した電極用組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されず、一般的には30〜300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
加圧は塗布溶媒又は分散媒をあらかじめ乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
【0251】
加圧中の雰囲気としては、特に限定されず、大気下、乾燥空気下(露点−20℃以下)及び不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0252】
(初期化)
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は、特に限定されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0253】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0254】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、「室温」は25℃を意味する。
【0255】
<バインダAの合成例>
還流冷却管、ガス導入コックを付した2L三口フラスコに、マクロモノマーM−1の40質量%ヘプタン溶液を7.2g、アクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社製)を12.4g、アクリル酸(和光純薬工業株式会社製)を6.7g、ヘプタン(和光純薬工業株式会社製)を207g、アゾイソブチロニトリル1.4gを添加し、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に、100℃に昇温した。別容器にて調製した液(マクロモノマーM−1の40質量%ヘプタン溶液を93.1g、アクリル酸メチルを222.8g、アクリル酸を120.0g、ヘプタン300.0g、アゾイソブチロニトリル2.1gを混合した液)を4時間かけて滴下した。滴下完了後、アゾイソブチロニトリル0.5gを添加した。その後100℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却し、ろ過することでバインダAの分散液を得た。固形成分濃度は39.2%であった。
【0256】
(マクロモノマーM−1の合成例)
12−ヒドロキシステアリン酸(和光純薬工業株式会社製)の自己縮合体(GPCポリスチレンスタンダード数平均分子量:2,000)にグリシジルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)を反応させマクロモノマーとしてそれをメタクリル酸メチルとグリシジルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)と1:0.99:0.01(モル比)の割合で重合したポリマーにアクリル酸(和光純薬株式会社製)を反応させたマクロモノマーM−1を得た。このマクロモノマーM−1のSP値は9.3、数平均分子量は11000であった。
下記に、バインダAを構成するポリマー及びマクロモノマーM−1の推定構造式を示す。
【0257】
【化18】
【0258】
【化19】
【0259】
<バインダBの合成例>
還流冷却管、ガス導入コックを付した1Lの3つ口フラスコにヘプタンを200質量部加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に室温から80℃に昇温した。攪拌しているヘプタン中に、別容器にて調製した液(アクリル酸ブチルA−5(和光純薬工業社製)90質量部、メタクリル酸メチルA−4(上記例示化合物、和光純薬工業社製)20質量部、アクリル酸A−1(上記例示化合物、和光純薬工業社製)10質量部、B−27(上記例示化合物、合成品)を20質量部、マクロモノマーMM−1を60質量部(固形分量)、重合開始剤V−601(商品名、和光純薬工業社製)を2.0質量部混合した液)を2時間かけて滴下し、その後80℃で2時間攪拌した。その後、得られた混合物にV−601をさらに1.0質量部添加し、90℃で2時間攪拌した。得られた溶液をヘプタンで希釈することで、バインダBの分散液を得た。
【0260】
(B−27の合成)
1Lの3つ口フラスコにコレステロール(東京化成工業社製)80g、こはく酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)(アルドリッチ社製)を50g、4−ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製)を5g、ジクロロメタンを500g加えた後、20℃で5分攪拌した。攪拌している溶液中に1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(東京化成工業社製)52gを30分かけて添加し、20℃で5時間攪拌した。その後0.1M塩酸で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧留去を行った。得られたサンプルをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することでB−27を得た。
【0261】
(マクロモノマーMM−1の合成)
還流冷却管、ガス導入コックを付した1Lの3つ口フラスコにトルエンを190質量部加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に室温から80℃に昇温した。攪拌しているトルエン中に、別容器にて調製した液(下記処方α)を2時間かけて滴下し、80℃で2時間攪拌した。その後、V−601(和光純薬工業社製)を0.2質量部添加し、さらに95℃で2時間攪拌した。攪拌後95℃に保った溶液に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(東京化成工業社製)を0.025質量部、メタクリル酸グリシジル(和光純薬工業社製)を13質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製)を2.5質量部加えて120℃で3時間攪拌した。得られた混合物を室温まで冷却したのちメタノールに加えて沈殿させ、沈殿物をろ取し、メタノールで2回洗浄後、ヘプタン300質量部を加えて溶解させた。得られた溶液を減圧下で濃縮することでマクロモノマーMM−1の溶液を得た。固形分濃度は43.4%、SP値は9.1、質量平均分子量は16,000であった。得られたマクロモノマーMM−1を以下に示す。
【0262】
(処方α)
メタクリル酸ドデシル(和光純薬工業社製) 150質量部
メタクリル酸メチル (例示化合物A−4、和光純薬工業社製) 59質量部
3−メルカプトイソ酪酸 (東京化成工業社製) 2質量部
V−601 (和光純薬工業社製) 1.9質量部
【0263】
【化20】
【0264】
−測定方法−
<固形分濃度の測定方法>
バインダA又はBの分散液及びマクロモノマー溶液の固形分濃度は、下記方法に基づいて、測定した。
7cmΦのアルミカップ内にバインダA若しくはBの分散液又はマクロモノマー溶液を約1.5g秤量し、少数点第3位までの秤量値を読み取った。続いて窒素雰囲気下で90℃2時間、続いて140℃2時間加熱し、乾燥させた。得られたアルミカップ内の残存物の質量を測り、下記式により固形分濃度を算出した。測定は、5回行い、最大値及び最小値を除いた、3回の平均を採用した。
固形分濃度(%)=アルミカップ内の残存物量(g)/バインダA若しくはBの分散液又はマクロモノマー溶液(g)
【0265】
<平均分子量の測定>
マクロモノマーM−1の数平均分子量及びマクロモノマーMM−1の質量平均分子量は、上記方法(条件2)により、測定した。
【0266】
−硫化物系無機固体電解質(Li−P−S系ガラス)の合成−
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231−235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872−873の非特許文献を参考にして合成した。
【0267】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42kg、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90kgをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳鉢を用いて、5分間混合した。なお、LiS及びPはモル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行い、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li−P−S系ガラス、「LPS」とも称する。)6.20gを得た。
【0268】
[実施例1]
<固体電解質含有シートの作製>
(第1固体電解質組成物の調製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、LPS 2.9g、バインダAの分散液を固形分換算で0.1g、分散媒としてトルエン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合し、粒径0.7μmのLPSを含有する、第1固体電解質層を形成するための固体電解質組成物(第1固体電解質用組成物)を調製した。
【0269】
(第2固体電解質組成物の調製)
ジルコニアビーズを30個、回転数を100rpm、混合する時間を30分にしたこと以外は、第1固体電解質用組成物の調製と同様にして、第2固体電解質層を形成するための固体電解質組成物(第2固体電解質用組成物)を調製した。第2固体電解質用組成物中のLPSの粒径は2.0μmであった。
【0270】
(第3固体電解質組成物の調製)
バインダAをバインダBに変更したこと以外は、第1固体電解質用組成物の調製と同様にして、第3固体電解質層を形成するための固体電解質組成物(第3固体電解質用組成物)を調製した。第3固体電解質用組成物中のLPSの粒径は0.7μmであった。
【0271】
固体電解質組成物中の無機固体電解質の粒径は、特開2015−088486号公報の段落<0142>に記載の方法により測定した。
【0272】
(積層体の形成)
上述の同時重層塗布法により、各固体電解質組成物を塗布し、図1に示す固体電解質含有シート10Aを作製した。
上記で調製した固体電解質組成物を、A1N30−H(商品名、(株)UACJ製、厚み20μm、幅200mmのアルミニウム支持体)上に、後述のように全固体二次電池を形成し加圧した後の、第1固体電解質層の厚みが3μm、第2固体電解質層の厚みが24μm、第3固体電解質層の厚みが3μmとなるように、第1固体電解質組成物、第2固体電解質組成物、第3固体電解質組成物を、スマートラボコーター(テクノスマート(株)製)で同時重層塗布し、乾燥器中、150℃で3分乾燥後、20MPaで加圧後巻き取り、実施例1の固体電解質含有シートを作製した。
図1に示すように、実施例1の固体電解質含有シート10Aは、支持体4、第1SE層3、第2SE層2、第3SE層4を有する。
【0273】
<全固体二次電池の作製>
(正極シートの作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLi−P−S系ガラス2.8g、バインダAの分散液を固形分換算で0.2g、分散媒としてトルエン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7(商品名)に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質としてNMC(LiNi0.33Co0.33Mn0.33(アルドリッチ社製))7.0g、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製)を0.2g容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP−7に容器をセットし、温度25℃、回転数100rpmで10分間混合を続け、正極用組成物を調製した。
【0274】
上記で調製した正極用組成物を、アルミ箔(正極集電体)上に、アプリケータ(商品名:SA−201ベーカー式アプリケータ、テスター産業社製)により30mg/cmの目付量となるように塗布し、80℃で1時間加熱後、さらに110℃で1時間乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)、正極集電体上に正極活物質層を有する正極シートを作製した。
【0275】
(負極シートの作製)
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLi−P−S系ガラス2.8g、バインダBの分散液を固形分換算で0.2g、分散媒としてヘプタン12.3gを投入した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7に容器をセットし、温度25℃、回転数300rpmで2時間混合した。その後、活物質としてCGB20(商品名、日本黒鉛社製)7.0gを容器に投入し、同様に、遊星ボールミルP−7に容器をセットし、温度25℃、回転数200rpmで15分間混合を続け負極用組成物を調製した。
【0276】
上記で調製した負極用組成物を、SUS箔(負極集電体)上に、アプリケータ(商品名:SA−201ベーカー式アプリケータ、テスター産業社製)により15mg/cmの目付量となるように塗布し、80℃で1時間加熱後、さらに110℃で1時間乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)、負極集電体上に負極活物質層を有する負極シートを作製した。
【0277】
(電池形成)
図3に示す層構成を有する、実施例1の全固体二次電池を形成した。
上記で得られた固体電解質含有シートの固体電解質層と負極シートの負極活物質層が接するように重ね(一括転写)、50MPaで10秒加圧した。負極集電体9/負極活物質層8/第3SE層1/第2SE層2/第1SE層3/アルミニウム支持体4からなる部材を作製し、アルミニウム支持体4を剥離した後、直径15mmΦに切り出した。その後、2032型コインケース内で直径14mmΦに切り出した正極シートの正極活物質層7と第1SE層3が接するように重ね、600MPaで加圧後、コインケースをかしめ、実施例1の全固体二次電池を作製した。
図3に示すように、実施例1の全固体二次電池の構成は、負極集電体9/負極活物質層8/第3SE層1/第2SE層2/第1SE層3/正極活物質層7/正極集電体6である。
【0278】
[実施例2]
下記表1に示す構成としたこと以外は実施例1と同様にして、図1に示す層構成を有する、実施例2の固体電解質含有シート10A及び図3に示す層構成を有する、実施例2の全固体二次電池100Aを作製した。
【0279】
[実施例3]
上述の湿潤塗布法により、各固体電解質組成物を塗布し、図1に示す、実施例3の固体電解質含有シート10Aを作製し、実施例3の固体電解質含有シートを用いて、実施例3の全固体二次電池を作製した。
具体的には、アルミニウム支持体上に第1固体電解質組成物を塗布し第1固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第1固体電解質層上に、第2固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第2固体電解質層上に、第3固体電解質層を形成した。このように、逐次で固体電解質層を積層したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0280】
[実施例4]
巻き取り後に加圧(20MPa)したこと以外は実施例1と同様にして、図1に示す層構成を有する、実施例4の固体電解質含有シート10A及び図3に示す層構成を有する、実施例4の全固体二次電池100Aを作製した。
【0281】
[実施例5]
(第4固体電解質組成物の調製)
ジルコニアビーズを120個、回転数を500rpmにしたこと以外は、第1固体電解質用組成物の調製と同様にして、第4固体電解質層を形成するための固体電解質組成物(第4固体電解質用組成物)を調製した。第4固体電解質用組成物中のLPSの粒径は0.2μmであった。
【0282】
(固体電解質含有シートの作製)
図2に示す層構成を有する、実施例5の固体電解質含有シート10Bを作製した。
第1〜第4の固体電解質組成物を用いて、実施例1の固体電解質含有シートの作製と同様にして、実施例5の固体電解質含有シート10Bを作製した。図2に示すように、実施例5の固体電解質含有シート10Bの構成は、支持体4/第1SE層3/第2SE層2/第4SE層5/第3SE層4である。
【0283】
−全固体二次電池の作製−
実施例5の固体電解質含有シート10Bを用いたこと以外は、実施例1の全固体二次電池の作製と同様にして、図4に示す層構成を有する、実施例5の全固体二次電池100Bを作製した。図4に示すように、実施例5の全固体二次電池の構成は、負極集電体9/負極活物質層8/第3SE層1/第4SE層5(短絡抑制層)/第2SE層2/第1SE層3/正極活物質層7/正極集電体6である。
下記方法により算出した、全固体二次電池中で本発明の積層体が有する短絡抑制層の空孔細孔半径は、4nmであった。
【0284】
<空孔細孔半径の算出>
第4固体電解質組成物を乾燥粉末化し、SUS板に挟んだ状態で電池形成時と同じ圧力600MPaで加圧し、600μm厚のペレットを成型した後、オートポアIV9520(商品名、Micromeritics社製)を用いて、空孔細孔半径1.8nm〜100μmの空孔細孔分布を求めWashburnの式を用いて空孔細孔半径を算出した。水銀圧入法により算出した数値を用いた。
【0285】
[実施例6]
下記表1の構成としたこと以外は、実施例5の固体電解質含有シート及び実施例5の全固体二次電池と同様にして、実施例6の固体電解質含有シート及び実施例6の全固体二次電池を作製した。上記方法により算出した、全固体二次電池中で本発明の積層体が有する短絡抑制層の空孔細孔半径は、5nm以下であった。
【0286】
[実施例7]
構成を、支持体4/第1SE層3/第4SE層5/第2SE層2/第3SE層1としたこと以外は、実施例5の固体電解質含有シートと同様にして、実施例7の固体電解質含有シートを作製した。
また、実施例7の固体電解質含有シートを用いたこと以外は、実施例5の全固体二次電池と同様にして、実施例7の全固体二次電池を作製した。上記方法により算出した、全固体二次電池中で本発明の積層体が有する短絡抑制層の空孔細孔半径は、5nm以下であった。
【0287】
[実施例8〜13]
下記表1に示す無機固体電解質の粒径となるよう、各固体電解質組成物の調製において、ボール数、分散時間を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8〜13の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
[実施例14及び15]
下記表1に示す構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14及び15の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
[実施例16及び17]
下記表1に示す無機固体電解質の粒径となるよう、各固体電解質組成物の調製において、ボール数、分散時間を変更したこと、及び/又は、固体電解質層の厚みを変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例16及び17の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0288】
[実施例18]
下記表1の構成としたこと以外は、実施例5の固体電解質含有シート及び実施例5の全固体二次電池と同様にして、実施例18の固体電解質含有シート及び実施例18の全固体二次電池を作製した。上記方法により算出した、全固体二次電池中で本発明の積層体が有する短絡抑制層の空孔細孔半径は、5nm以下であった。なお、無機固体電解質の粒径は、固体電解質組成物の調製におけるボール数及び分散時間により調整した。
【0289】
[実施例19]
特開2017−103146号公報の実施例1を参照して、開口率88%の貫通孔を有するポリイミドシート(厚み40μm、開口の大きさは平均で3mm程度)を作製した。
このポリイミドシートを用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例19の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
具体的には、アルミニウム支持体上に第1固体電解質組成物を塗布し第1固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第1固体電解質層上に、上記ポリイミドシートを配置した。このポリイミドシートに、第2固体電解質組成物を塗布することにより貫通孔を満たし、第2固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第2固体電解質層上に、第3固体電解質層を形成した。このようにして、実施例19の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0290】
[実施例20]
特開2007−291367号公報の実施例1[実験1]を参照して、開口率80%の貫通孔を有するポリカプロラクトンシート(厚み50μm)を作製した。ポリイミドシートに変えてポリカプロラクトンシートを用いたこと以外は、実施例19と同様にして、実施例20の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0291】
[実施例21]
国際公開第2017/026118号の実施例5樹脂層形成工程を参照して、開口率80%の貫通孔を有するアクリル樹脂シート(厚み50μm、開口大きさは平均で2mm程度)を作製した。ポリイミドシートに変えてアクリル樹脂シートを用いたこと以外は、実施例19と同様にして、実施例21の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0292】
[実施例22]
以下のようにして、電界紡糸法により、ファイバーを用いた不織布を調製した。
ジクロロメタン:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)=8:2(質量比)の溶媒中に、セルローストリアセテート(ダイセル社製、商品名L−30)を溶解させた溶液(濃度4質量%)を調製した。この溶液を用いて、MECC社のNANON−3(商品名)により、印加電圧30kV、流束1.0mL/hrの条件で電界紡糸を行い、ファイバーを得た。このファイバーを集積し、不織布を得た。この時の不織布の厚みは下記に示す、固体電解質組成物を含浸し、シート及び電池形成後に厚みが25μmとなるように集積量を調整し、所定の厚みの不織布を得た。
このようにして得た不織布に、第2固体電解質組成物を含浸させ、無機固体電解質含浸不織布(湿潤状態)を作製した。この無機固体電解質含浸不織布を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例22の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。アルミニウム支持体上に第1固体電解質組成物を塗布し第1固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第1固体電解質層上に、無機固体電解質含浸不織布を湿潤状態で配置し、第2固体電解質層(湿潤状態)を形成した。この第2固体電解質層上に、第3固体電解質層を形成した。このようにして、実施例22の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
実施例22の全固体二次電池中、第2固体電解質層の厚みは25μmであった。
【0293】
[比較例1]
下記表1に示す構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0294】
[比較例2]
A1N30−H(アルミニウム支持体)上に、後述ように全固体二次電池を形成し加圧した後の、第1固体電解質層の厚みが3μmとなるようにスマートラボコーター(テクノスマート(株)製)で単層塗布し、乾燥機中、150℃で3分乾燥した。同様に、第1固体電解質層上に、第2固体電解質層の厚みが24μmとなるように、第2固体電解質組成物を塗布し乾燥した。さらに、第2固体電解質層上に、第3固体電解質層の厚みが3μmとなるように、第3固体電解質組成物を塗布し乾燥し固体電解質含有シートを得た。次いで、得られた固体電解質含有シートを20MPaで加圧後巻き取り、比較例2の固体電解質含有シートを作製した。
【0295】
[比較例3〜9]
下記表1に示す構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3〜9の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。なお、比較例3はバインダを含有していないため、シート化することができなかった。
【0296】
[実施例101及び比較例101]
下記表2に示す構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例101及び比較例101の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0297】
[比較例102]
下記表2に示す構成としたこと以外は、比較例2と同様にして、比較例102の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0298】
[比較例103及104]
下記表2に示す構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例103及104の固体電解質含有シート及び全固体二次電池を作製した。
【0299】
(i)平均粒子径
固体電解質層に含まれる無機固体電解質粒子及びバインダの平均粒子径の算出方法を以下に示す。
上記で製造した全固体二次電池を解体し、イオンミリング装置(商品名「IM4000PLUS」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、加速電圧3kVの条件で断面出しを行った。走査型電子顕微鏡(SEM)で1画面中に粒子が400〜500入る程度の倍率で撮影した画像10枚を、ImageJ(米国国立衛生研究所 NIH製ソフトウェア)を用いて2値化し、算出した面積から求めた面積換算径を平均粒子径とした。
【0300】
(ii)固体電解質層の厚み
SEM画像から各固体電解質層の厚みを算出した。
【0301】
下記表1及び<表の注>に、固体電解質層に含まれる無機固体電解質粒子及びバインダの平均粒子径、並びに、各固体電解質層の厚みを記載する。
【0302】
実施例及び比較例の固体電解質含有シート、並びに、実施例及び比較例の全固体二次電池の性能を以下の試験により評価した。
【0303】
(1)膜強度
JIS K5600−5−1に準拠し、マンドレル試験機を用いた耐屈曲性試験により、固体電解質含有シートの膜強度を評価した。
幅50mm、長さ100mmの短冊状の固体電解質含有シートを用い、固体電解質層面をマンドレルとは逆側にセットし、直径違いのマンドレルを用いて、屈曲させた後、ヒビ及び割れの有無を目視で観察した。ヒビ及び/又は割れが発生していない場合、マンドレルの径(単位mm)を25、20、16、12、10、8、6、5、4、3、2と徐々に小さくしていき、ヒビ及び/又は割れが発生したマンドレルの径を記録した。ヒビ及び/又は割れが発生したマンドレルの径のうち最大ものが下記評価基準のいずれに含まれるかで評価した。AA、A、B及びCが本試験の合格である。
【0304】
−評価基準−
AA:5mm未満
A:5mm以上10mm未満
B:10mm以上16mm未満
C:16mm以上20mm未満
D:20mm以上
【0305】
(2)電池性能
全固体二次電池を、東洋システム社製の充放電評価装置「TOSCAT−3000」(商品名)により測定した。全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vになるまで電流値2.0mAで放電した。放電開始10秒後の電池電圧を以下の基準で読み取り、抵抗を評価した。
【0306】
評価基準を以下に示す。評価基準1は、表1における評価の基準であり、評価基準2は、表2における評価の基準である。評価基準1及び2のいずれにおいても、AA、A、B及びCが本試験の合格である。なお、表1及び2の電池性能評価における「−」は、強度が弱く、電池形成自体ができなかったため、電池性能評価ができなかったことを意味する。
−評価基準1−
AA:4.1V以上
A:4.05V以上4.1V未満
B:4.0V以上4.05V未満
C:3.95V以上4.0V未満
D:3.9V以上3.95V未満
−評価基準2−
AA:3.8V以上
A:3.75V以上3.8V未満
B:3.7V以上3.75V未満
C:3.65V以上3.7V未満
D:3.6V以上3.65V未満
【0307】
(3)短絡
全固体二次電池を、東洋システム社製の充放電評価装置「TOSCAT−3000」(商品名)により測定した。全固体二次電池を10セット作製し、電池電圧が4.2Vになるまで電流密度0.8mA/cmで急速充電し、短絡しなかった電池の数の割合を算出した。評価基準を以下に示す。AA、A、B及びCが本試験の合格である。なお、表1及び2の短絡評価における「−」は、強度が弱く、電池形成自体ができなかったため、短絡評価ができなかったことを意味する。
【0308】
−評価基準−
AA:0%
A:0%超10%以下
B:10%超20%以下
C:20%超50%以下
D:50%超
【0309】
【表1-1】
【0310】
【表1-2】
【0311】
【表1-3】
【0312】
【表1-4】
【0313】
<表の注>
Al:A1N30−H(商品名、(株)UACJ製 厚み20μm)
PET:セラピールHP2(商品名、東レフィルム加工社製、厚み38μm)
LPS:上記合成したLi−P−S系ガラス
バインダA:上記合成したバインダA、固体電解質層中の粒径:0.3μm
バインダB:上記合成したバインダB、固体電解質層中の粒径:0.3μm
バインダC:商品番号430072、アルドリッチ社製
「溶液」:バインダが固体電解質組成物中分散媒に溶解し、固体電解質層において粒子状で存在していないことを意味する。
層の位置B:第1SE層と第2SE層の間に第4SE層が設けられていることを意味する。
層の位置C:第2SE層と第3SE層の間に第4SE層が設けられていることを意味する。
【0314】
【表2】
【0315】
<表の注>LLZ:LiLaZr12(豊島製作所製)
【0316】
表1から明らかなように、比較例2、3、6、8及び9の固体電解質含有シートは膜強度が不合格であった。また、比較例1、2、4、5及び7の全固体二次電池は電池性能が不合格であった。これに対し、実施例1〜22の固体電解質含有シートはいずれも膜強度が合格であり、実施例1〜22の全固体二次電池は電池性能が合格であった。
実施例1と実施例15の全固体二次電池の結果の比較から、積層体の両表面側に配置された2つの固体電解質層が含有するバインダのそれぞれが互いに異なることにより、電極活物質層と積層体との密着力を高めることができ、電池性能がより優れることが分かる。
また、実施例1と実施例3の全固体二次電池の結果の比較から、積層体が同時重層塗布法により作製されることにより、より電池性能が優れることが分かる。
表2から明らかなように、本発明の固体電解質含有シートは、酸化物系無機固体電解質を用いても優れた作用効果を奏することが分かる。
【符号の説明】
【0317】
1 固体電解質層(第3SE層、第3固体電解質層)
2 固体電解質層(第2SE層、第2固体電解質層)
3 固体電解質層(第1SE層、第1固体電解質層)
4 離型フィルム(支持体)
5 固体電解質層(短絡抑制層、第4SE層)
6 正極集電体
7 正極活物質層
8 負極活物質層
9 負極集電体
11 作動部位
10A、10B 固体電解質含有シート(転写シート)
100A、100B 全固体二次電池
図1
図2
図3
図4