(54)【発明の名称】二酸化炭素と芳香族ハロゲン化合物とから芳香族カルボン酸又はそのエステルを製造するための触媒組成物、及び当該触媒組成物を用いた芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイト(http://www.omcos19.org/eng/)、平成29年6月26日 [刊行物等] 第19回有機合成を志向した有機金属化学に関するアイユーパック国際シンポジウム(オムコス19)、平成29年6月28日 [刊行物等] ウェブサイト(http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.7b04838)、平成29年6月28日 [刊行物等] Journal of the American Chemical Society(JACS)、平成29年7月19日 [刊行物等] 第64回有機金属化学討論会予稿集、平成29年8月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業/「機能性遷移金属錯体の創製に基づくエチレン及びアセチレンと二酸化炭素からのアクリル酸合成法の開拓」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Chemical Reviews,vol.116,2016年,p.10035-10074,DOI:10.1021/acs.chemrev.6b00018
【文献】
Journal of the American Chemical Society,2009年,vol. 131,p.15974 -15975,DOI:10.1021/ja905264a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周期表8〜10族に属する遷移金属Mを含む光酸化還元触媒成分(A)と、周期表8〜11族に属し、前記遷移金属Mと異なる遷移金属M’を含む遷移金属触媒成分(B)とを含有し、
光照射条件下で、二酸化炭素と芳香族ハロゲン化合物とから芳香族カルボン酸又はそのエステルを製造するための触媒組成物であって、
前記光酸化還元触媒成分(A)が一般式(1)で表される化合物であり、
(N−C)3−x(N−N)xM (1)
(前記一般式(1)中のNは窒素原子、Cは炭素原子を示す。また、N−Cは、窒素原子と炭素原子とで前記遷移金属Mに配位する二座配位子を示し、N−Nは、窒素原子と窒素原子とで前記遷移金属Mに配位する二座配位子を示し、(N−C)の二座配位子がフェニルピリジン骨格を有し、(N−N)の二座配位子がビピリジン骨格またはフェナントロリン骨格を有するものである。また、xは0〜3の整数を示す。また、前記遷移金属Mは、イリジウムまたはルテニウムである。)
前記遷移金属触媒成分(B)が、遷移金属M’がパラジウムであり、かつ、配位子として有機リン化合物を含むものである、触媒組成物。
周期表8〜10族に属する遷移金属Mを含む光酸化還元触媒成分(A)と、周期表8〜11族に属し、前記遷移金属Mと異なる遷移金属M’を含む遷移金属触媒成分(B)とを含む触媒組成物の存在下、二酸化炭素と芳香族ハロゲン化合物とに光照射する工程を含み、
前記光酸化還元触媒成分(A)が一般式(1)で表される化合物であり、
(N−C)3−x(N−N)xM (1)
(前記一般式(1)中のNは窒素原子、Cは炭素原子を示す。また、N−Cは、窒素原子と炭素原子とで前記遷移金属Mに配位する二座配位子を示し、N−Nは、窒素原子と窒素原子とで前記遷移金属Mに配位する二座配位子を示し、(N−C)の二座配位子がフェニルピリジン骨格を有し、(N−N)の二座配位子がビピリジン骨格またはフェナントロリン骨格を有するものである。また、xは0〜3の整数を示す。また、前記遷移金属Mは、イリジウムまたはルテニウムである。)
前記遷移金属触媒成分(B)が、遷移金属M’がパラジウムであり、かつ、配位子として有機リン化合物を含むものである、芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の数値又は物性値を含むものとして用いることとする。例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものであり、「1以上100以下」を表す。他の数値範囲の表記も同様である。
【0013】
1.触媒組成物
本実施形態の触媒組成物は、光照射条件下で、二酸化炭素と芳香族ハロゲン化合物とから芳香族カルボン酸又はそのエステルを製造するために用いられ、周期表8〜10族に属する遷移金属Mを含む光酸化還元触媒成分(A)と、周期表8〜11族に属し、前記遷移金属Mと異なる遷移金属M’を含む遷移金属触媒成分(B)とを含有することを特徴とする。
本実施形態の触媒組成物によれば、ハロゲンアニオンの脱離及び芳香族カルボン酸の還元的脱離の段階で、光照射条件下で励起された光酸化還元触媒成分(A)から遷移金属触媒成分(B)に電子が渡されることで反応が進行すると推測される。
【0014】
以下において、本実施形態の触媒組成物に含まれる成分に関し、光酸化還元触媒成分(A)及び遷移金属触媒成分(B)の順に説明する。
【0015】
〔光酸化還元触媒成分(A)〕
光酸化還元触媒成分(A)は、周期表8〜10族に属する遷移金属Mを含む。遷移金属Mは、周期表8〜10族に属する遷移金属元素であれば特に限定されないが、好ましくはイリジウム又はルテニウムであり、より好ましくはイリジウムである。
【0016】
このような光酸化還元触媒成分(A)は、以下の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
(N−C)
3−x(N−N)
xM (1)
(一般式(1)中のNは窒素原子、Cは炭素原子を示す。また、N−Cは、窒素原子と炭素原子とで遷移金属Mに配位する二座配位子を示し、N−Nは、窒素原子と窒素原子とで遷移金属Mに配位する二座配位子を示す。また、xは0〜3の整数を示す。xは1又は2であることが好ましく、xは1であることがより好ましい。)
【0017】
窒素原子と炭素原子とで遷移金属Mに配位する二座配位子(N−C)としては、分子内に1個以上の窒素原子と1個以上の炭素原子とを有し、これらの窒素原子と炭素原子とが遷移金属Mとの間に配位結合を形成して二座配位することで錯体を形成し得る化合物であればよい。このような化合物としては、例えば、フェニルピリジン骨格を有する化合物、フェニルキノリン骨格を有する化合物、フェニルイソキノリン骨格を有する化合物、フェニルイミダゾール骨格を有する化合物、ピリジルピリジン骨格を有する化合物、ナフチルピリジン骨格を有する化合物、ピリジルベンゾチオフェン骨格を有する化合物、フェニルベンゾチアゾール骨格を有する化合物、イソキノリルベンゾチオフェン骨格を有する化合物、フェニルキノキサリン骨格を有する化合物、フェニルベンゾイソキノリン骨格を有する化合物、フェニルピラゾール骨格を有する化合物、フェニルテトラゾール骨格を有する化合物、又はフェニルベンゾイミダゾール骨格を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、フェニルピリジン骨格を有する化合物が好ましく、2−フェニルピリジン骨格を有する化合物がより好ましい。
【0018】
2−フェニルピリジン骨格を有する化合物としては、例えば、2−フェニルピリジン及びその誘導体が挙げられる。ここで、2−フェニルピリジンの誘導体には、置換基を有する2−フェニルピリジンが含まれる。このような誘導体の有する置換基は特に限定されないが、例えば、メチル基やエチル基等の炭素数が1〜10のアルキル基(C
1〜10アルキル基)、メトキシ基やエトキシ基等の炭素数が1〜10のアルコキシ基(C
1〜10アルコキシ基)、フッ素原子等のハロゲン原子、及びトリフルオロメチル基等のフッ素原子を含むアルキル基等が挙げられる。
【0019】
2−フェニルピリジン骨格を有する化合物が置換基を有する場合、置換基の数は特に限定されないが、通常1以上、好ましくは2以上であり、通常6以下、好ましくは4以下である。例えば、2−フェニルピリジン骨格を有する化合物は、少なくとも5,4’,6’位のいずれかに置換基を有することが好ましく、5,4’,6’位に置換基を有することがより好ましい。
【0020】
また、窒素原子と窒素原子とで遷移金属Mに配位する二座配位子(N−N)としては、分子内に2個以上の窒素原子を有し、これらの窒素原子が遷移金属Mとの間に配位結合を形成して二座配位することで錯体を形成し得る化合物であればよい。このような化合物としては、ビピリジンやその誘導体等のビピリジン骨格を有する化合物、フェナントロリンやその誘導体等のフェナントロリン骨格を有する化合物、及び、エチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、ビピリジン骨格を有する化合物及びフェナントロリン骨格を有する化合物が好ましく、ビピリジン骨格を有する化合物がより好ましい。また、ビピリジン骨格を有する化合物の中でも、2,2’−ビピリジン骨格を有する化合物が好ましく用いられる。フェナントロリン骨格を有する化合物の中でも、1,10−フェナントロリン骨格を有する化合物が好ましく用いられる。
なお、ビピリジンの誘導体には、置換基を有するビピリジンが含まれる。また、フェナントロリンの誘導体には、置換基を有するフェナントロリンが含まれる。これら誘導体の有する置換基は特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基やt−ブチル基等の炭素数が1〜10のアルキル基(C
1〜10アルキル基)、メトキシ基やエトキシ基等の炭素数が1〜10のアルコキシ基(C
1〜10アルコキシ基)及びフェニル基等が挙げられる。これらの置換基としては、C
1〜10アルキル基及びC
1〜10アルコキシ基が好ましく、C
1〜5アルキル基及びC
1〜5アルコキシ基がより好ましく、C
1〜5アルキル基が特に好ましい。なお、これらの置換基は、さらに別の置換基を有していてもよい。
【0021】
2,2’−ビピリジン骨格を有する化合物や1,10−フェナントロリン骨格を有する化合物が置換基を有する場合、置換基の数は特に限定されないが、通常1以上、好ましくは2以上であり、通常6以下、好ましくは4以下である。例えば、2,2’−ビピリジン骨格を有する化合物は、少なくとも4,4’位のいずれかに置換基を有することが好ましく、4,4’位に置換基を有することがより好ましい。また、1,10−フェナントロリン骨格を有する化合物は、少なくとも3,4,7,8位のいずれかに置換基を有することが好ましく、3,4,7,8位に置換基を有することがより好ましい。
【0022】
上記の二座配位子は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
光酸化還元触媒成分(A)の好ましい具体例としては、例えば、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウムジクロリド(Ru(bpy)
3Cl
2)、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウムビス(ヘキサフルオロホスフェート)(Ru(bpy)
3(PF
6)
2)、トリス(2-(2-ピリジニル-κN)フェニル-κC)イリジウム(fac-Ir(ppy)
3)、ビス(2-(2-ピリジニル-κN)フェニル-κC)(4,4’-ジターシャリーブチル-2,2’-ビピリジン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6))、ビス(2-(5-トリフルオロメチルピリジン-2-イル-κN)-4,6-ジフルオロフェニル-κC)(4,4’-ジターシャリーブチル-2,2’-ビピリジン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(dF(CF
3)ppy)
2(dtbbpy)(PF
6))、ビス(2-(5-トリフルオロメチルピリジン-2-イル-κN)-4,6-ジフルオロフェニル-κC)(2,2’-ビピリジン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(dF(CF
3)ppy)
2(bpy)(PF
6))、ビス(2-(ピリジニル-κN)フェニル-κC)(4,4’-ジメトキシ-2,2’-ジピリジニル)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(ppy)
2(dmobpy)(PF
6))、ビス(2-(ピリジニル-κN)フェニル-κC)(4,4’-ジフェニル-2,2’-ジピリジニル)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(ppy)
2(bpbpy)(PF
6))、ビス(2-(ピリジニル-κN)フェニル-κC)(1,10-フェナントロリン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(ppy)
2(phen)(PF
6))、ビス(2-(ピリジニル-κN)フェニル-κC)(3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナントロリン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)(Ir(ppy)
2(Me
4phen)(PF
6))などを挙げることができる。これらの光酸化還元触媒成分(A)は、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
芳香族カルボン酸の収率に優れるという観点から、光酸化還元触媒成分(A)のより好ましい具体例はIr(dF(CF
3)ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(dmobpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(bpbpy)(PF
6)及び Ir(ppy)
2(Me
4phen)(PF
6)であり、さらに好ましい具体例はIr(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)及び Ir(ppy)
2(dmobpy)(PF
6)であり、特に好ましい具体例は、Ir(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)である。
【0025】
触媒組成物中の光酸化還元触媒成分(A)の含有割合は特に限定されないが、カルボキシル化反応の出発物質(基質)である芳香族ハロゲン化合物に対して、通常0.01mol%以上、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは0.5mol%以上であり、通常20mol%以下、好ましくは10mol%以下、より好ましくは5mol%以下である。
光酸化還元触媒成分(A)の含有割合が少ないと、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。一方、光酸化還元触媒成分(A)の含有割合が多いと、効果の著しい向上は認められない傾向にあるため経済的ではない。
【0026】
〔遷移金属触媒成分(B)〕
遷移金属触媒成分(B)は、周期表8〜11属に属し、光酸化還元触媒成分(A)に含まれる遷移金属Mとは異なる遷移金属M’を含む。
遷移金属M’は、周期表8〜11族に属する遷移金属元素であれば特に限定されないが、ロジウム以外の遷移金属元素が好ましく、パラジウム、コバルト、ニッケル及び鉄からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、パラジウム又はニッケルがさらに好ましく、パラジウムが特に好ましい。
【0027】
また、遷移金属触媒成分(B)はリン原子を含むことが好ましい。このような遷移金属触媒成分(B)は、遷移金属M’を含む触媒前駆体とリン原子を含む単座配位子とからなる錯体である。
【0028】
パラジウムを含む触媒前駆体の具体例としては、例えば、Pd(PPh
3)
4、Pd(P(o-tol)
3)
4、Pd(P(tBu)
3)
4、Pd
2(dba)
3、Pd
2(dba)
3・CHCl
3、Pd(dba)
2、Pd(MeCN)
4(BF
4)
2、PdCl
2、PdBr
2、Pd(acac)
2、Pd(TFA)
2、Pd(allyl)Cl
2、[(allyl)PdCl]
2、Pd(PCy
3)
2Cl
2、Pd(P(o-tol)
3)
2Cl
2、Pd(OAc)
2、PdCl
2(dppf)、PdCl
2(dppf)CH
2Cl
2、Pd(MeCN)
2Cl
2、Pd(amPhos)Cl
2、PdCl
2(dtbpf)又はPdCl
2(PPh
3)
2等の、パラジウムが0価又は2価のものが挙げられる。
なお、本明細書において、Phはフェニル基、o-tolはo-トリル基、tBuはtert-ブチル基、dbaはジベンジリデンアセトン、MeCNはアセトニトリル、acacはアセチルアセトナート、TFAはトリフルオロアセテート、OAcはアセテート、allylはアリル、Cyはシクロへキシル基、dppfは1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、dtbpfは1,1’-ジ-tert-ブチルホスフィノフェロセン、PPh
3はトリフェニルホスフィン、amPhosは[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィンを表す。
これらの触媒前駆体は、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、芳香族カルボン酸の収率に優れるという観点から、Pd(OAc)
2及び[(allyl)PdCl]
2が好ましく、Pd(OAc)
2がより好ましい。
【0029】
リン原子を含む単座配位子(以下において、単に「配位子」と記載することがある。)としては、分子内に1個以上のリン原子を有し、このリン原子が遷移金属M’との間に配位結合を形成して単座配位することで錯体を形成し得る化合物であればよい。
このような化合物としては、一般式P(R
x)
3で表される有機リン化合物を用いることが好ましい。R
xはリン原子(P)に結合する置換基を表す。R
xは、置換又は無置換のC
1〜30アルキル基、置換又は無置換のC
1〜30シクロアルキル基、置換又は無置換の環形成炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であることが好ましい。複数のR
xは互いに同一でも異なっていてもよい。また、有機リン化合物としては、一般式P(R
x)
3・(HX
a)で表されるホスフィン塩を用いることもできる。R
xは、前述と同義であり、Hは水素原子であり、X
aは原子又は原子団を表し、HX
aとしては、例えば、HCl、HBr及びHBF
4等が挙げられる。
【0030】
有機リン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン(PPh
3)、トリメシチルホスフィン(PMes
3)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy
3)、トリ(t-ブチル)ホスフィン(P(tBu)
3)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(PtBu
3-HBF
4)、トリ-o-トリルホスフィン(P(o-tol)
3)、トリ-p-トリルホスフィン(P(p-tol)
3)、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン(P(p-MeOC
6H
4)
3)、トリス(o-メトキシフェニル)ホスフィン(P(o-MeOC
6H
4)
3)、トリフラニルホスフィン(P(furanyl)
3)、トリチエニルホスフィン(P(thienyl)
3)、トリス(3,5-ジメトキシフェニル)ホスフィン(P(3,5-(MeO)
2C
6H
3)
3)、ジシクロへキシルフェニルホスフィン(PPh(Cy)
2)、シクロへキシルジフェニルホスフィン(PPh
2(Cy))、ジシクロへキシルホスフィン(HPCy
2)、ジ-tert-ブチルホスフィン(HP(tBu)
2)、ジ-tert-ブチルクロロホスフィン(P(tBu)
2Cl)、トリメチルホスファイト(P(OMe)
3)、トリフェニルホスファイト(P(OPh)
3)、ジフェニルホスフィンオキシド(HPOPh
2)、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(HMPT)、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン(P(NEt
2)
3)、5-(ジ-t-ブチルホスフィノ)-1’,3’,5’-トリフェニル-1’H-[1,4’]ビピラゾール(BippyPhos)、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1’-(ジ-t-ブチルホスフィノ)フェロセン(QPhos)、1,3,5-トリアザ-7-ホスファアダマンタン(PTA)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル(DPEPhos)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン(dppm)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,2-ビス(ジシクロへキシルホスフィノ)エタン(dcpe)、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン(dtbpf)、2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(BINAP)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',6'-ジメトキシビフェニル(SPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(XPhos)、2-ジフェニルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(PhXPhos)、2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(tBuXPhos)、2-ジイソプロピルホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(iPrXPhos)、2-ビス(p-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ-2',4',6'-トリイソプロピルビフェニル(Ar
CF3XPhos)、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニル(JohnPhos)、2-(ジシクロへキシルホスフィノ)ビフェニル(cyclohexyl JohnPhos)、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2’-メチルビフェニル(MePhos)、2-(ジシクロへキシルホスフィノ)-2’,6’-ジイソプロポキシ-1,1’-ビフェニル(RuPhos)、2-(ジシクロへキシルホスフィノ)-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル(BrettPhos)、2’-(ジシクロへキシルホスフィノ)-2,6-ジメトキシ-ビフェニル-3-スルホン酸ナトリウム塩(
sSPhos)、2-(ジフェニルホスフィノ)-2’-(N,N’-ジメチルアミノ)ビフェニル(PhDavePhos)、2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-3,4,5,6-テトラメチル-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル(Tetramethyl di-tBuXPhos)、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-2’-メチルビフェニル(tBuMePhos)、2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル(tBuDavePhos)、2-(ビス-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ)-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル(JackiePhos)、(n-ブチル)ジ(1-アダマンチル)ホスフィン(cataCXium A)、(n-ブチル)ジ(1-アダマンチル)ホスフォニウムヒドロヨージド(cataCXium AHI)、N-フェニル-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ピロール(cataCXium PtB)、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-N-フェニルインドール(cataCXium PlntB)、N-フェニル-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ピロール(cataCXium PCy)、N-(2-メトキシフェニル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ピロール(cataCXium POMetB)、2-(ジ(1-アダマンチル)ホスフィノ)-ジメチルアミノベンゼン(Me-DalPhos)、ジ(1-アダマンチル)-2-モルホリノフェニルホスフィン(Mor-DalPhos)、2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2'-(ジメチルアミノ)ビフェニル(DavePhos)、及び4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテン(XantPhos)等が挙げられる。
これらの中でも、XPhos、PhXPhos、iPrXPhos、Ar
CF3XPhos及びtBuXPhosが好ましい。
これらの有機リン化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記有機リン化合物の中でも、リン原子(P)に結合する置換基(R
x)の少なくとも1つは嵩高い置換基であることが好ましい。具体的には、R
xの少なくとも1つが芳香環を2つ以上有することが好ましく、R
xの少なくとも1つがキサントホス骨格又はビフェニル骨格を有することがより好ましく、R
xの少なくとも1つがビフェニル骨格を有することがさらに好ましく、R
xの一つがビフェニル骨格を有することが特に好ましい。
このような有機リン化合物を選択することで、芳香族カルボン酸の収率がより向上する。
【0032】
また、ビフェニル骨格は置換基を有することが好ましい。このような置換基としては、メチル基、エチル基やイソプロピル基等のC
1〜10アルキル基、メトキシ基やエトキシ基等のC
1〜10アルキル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ等のC
1〜10のアルキル基を有するジアルキルアミノ基等が挙げられ、好ましくはC
1〜5アルキル基である。置換基の数は特に限定されないが、通常1以上、好ましくは3以上であり、通常6以下、好ましくは5以下である。
【0033】
遷移金属触媒成分(B)は、予め遷移金属M’を含む触媒前駆体に有機リン化合物を反応させて調製しておいてもよいし、反応系中に遷移金属M’を含む触媒前駆体と有機リン化合物とを添加し、反応系中で調製してもよい。
反応系中で調製する際に、遷移金属M’を含む触媒前駆体と有機リン化合物を添加する順序は特に限定されず、遷移金属M’を含む触媒前駆体を有機リン化合物よりも先に添加してもよいし、後に添加してもよい。遷移金属触媒成分(B)を反応系中で調製する場合、遷移金属触媒成分(B)の存在は、予め調製した遷移金属触媒成分(B)の
1H−NMRスペクトルと、触媒組成物の
1H−NMRスペクトルとを対比することで確認できる。
【0034】
触媒組成物中の遷移金属触媒成分(B)の含有割合は特に限定されないが、カルボキシル化反応の出発物質(基質)である芳香族ハロゲン化合物に対して、通常0.01mol%以上、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは0.5mol%以上であり、通常20mol%以下、好ましくは10mol%以下、より好ましくは5mol%以下である。
遷移金属触媒成分(B)の含有割合が少ないと、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。一方、遷移金属触媒成分(B)の含有割合が多いと、効果の著しい向上は認められない傾向にあるため経済的ではない。
【0035】
なお、遷移金属触媒成分(B)を反応系中で調製する場合には、遷移金属M’を含む触媒前駆体と有機リン化合物のそれぞれの含有割合は以下の通りである。
遷移金属M’を含む触媒前駆体の含有割合は、芳香族ハロゲン化合物に対して、通常0.1mol%以上、好ましくは0.5mol%以上、より好ましくは1.0mol%以上、さらに好ましくは2.0mol%以上であり、通常30mol%以下、好ましくは25mol%以下、より好ましくは20mol%以下、さらに好ましくは15mol%以下である。
また、有機リン化合物の含有割合は、芳香族ハロゲン化合物に対して、通常0.5mol%以上、好ましくは1.0mol%以上、より好ましくは2.0mol%以上、さらに好ましくは3.0mol%以上であり、通常50mol%以下、好ましくは40mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは25mol%以下である。
遷移金属M’を含む触媒前駆体の含有割合や有機リン化合物の含有割合が少ないと、遷移金属触媒成分(B)の生成量が少なくなり、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。
一方、遷移金属M’を含む触媒前駆体の含有割合や有機リン化合物の含有割合が多いと、効果の著しい向上は認められない傾向にあるため経済的ではない。また、遷移金属触媒成分(B)が生成された後の残渣物(過剰量の触媒前駆体又は有機リン化合物)により、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。
【0036】
また、遷移金属M’を含む触媒前駆体に対する有機リン化合物のモル比(有機リン化合物/触媒前駆体)は、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上であり、通常20以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。
遷移金属M’を含む触媒前駆体に対する有機リン化合物のモル比が小さいと、遷移金属触媒成分(B)の生成量が少なくなり、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。一方、遷移金属M’を含む触媒前駆体に対する有機リン化合物のモル比が大きいと、効果の著しい向上は認められない傾向にあるため経済的ではない。また、遷移金属M’を含む触媒前駆体に対する有機リン化合物のモル比が小さすぎたり、大きすぎたりすると、遷移金属触媒成分(B)が生成された後の残渣物(過剰量の触媒前駆体又は有機リン化合物)により、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。
【0037】
光酸化還元触媒成分(A)に対する遷移金属触媒成分(B)のモル比(B/A)は、通常1/20以上、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/5以上であり、通常20/1以下、好ましくは15/1以下、より好ましくは10/1以下である。
光酸化還元触媒成分(A)に対する遷移金属触媒成分(B)のモル比が小さすぎたり、大きすぎたりすると、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。また、過剰量に配合された成分が反応系中に残留し、触媒サイクルに影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
2.芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法
本実施形態における芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法は、周期表8〜10族に属する遷移金属Mを含む光酸化還元触媒成分(A)と、周期表8〜11族に属し、前記遷移金属Mと異なる遷移金属M’を含む遷移金属触媒成分(B)とを含む触媒組成物の存在下、二酸化炭素と芳香族ハロゲン化合物とに光照射する工程を含む。
【0039】
照射する光の波長は、使用する光酸化還元触媒成分(A)に応じて決めればよいが、光酸化還元触媒成分(A)に含まれる遷移金属Mがルテニウムやイリジウムの場合には、可視光(例えば、波長が400〜700nmの範囲にある光)を照射することが好ましく、青色光(例えば、波長が400〜500nmの範囲にある光)を照射することがより好ましい。また、照射する光は、太陽光のような自然光でも、LED等を光源とする人口光でもよい。
【0040】
光照射する際の温度(反応温度)は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは15℃以上であり、通常70℃以下、好ましくは50℃以下である。なお、反応温度は、芳香族カルボン酸又はそのエステルを製造するための反応容器中の温度を意味する。反応温度が低すぎると、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。また、反応温度が高すぎると、水素化生成物の収率が増加する傾向にある。
【0041】
また、光照射する時間(反応時間)は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下である。反応時間が短いと、触媒サイクルが十分に進行しないことがある。一方、反応時間が長くても芳香族カルボン酸の収率の著しい向上は認められず、水素化生成物の収率が増加する傾向にある。
【0042】
また、照射する光の強度は特に限定されない。例えば、LEDランプ等の光照射装置を用いる場合には、ソケット数の増減により光の強度を制御することができる。照射する光の強度が大きくなると、出発物質である芳香族ハロゲン化合物の転化率が向上することがある。
【0043】
光照射工程は、反応容器に触媒組成物、二酸化炭素及び芳香族ハロゲン化合物を入れて行なうことが好ましい。光照射工程は、大気圧下で行っても、大気圧以上の圧力下で行ってもよい。
ここで、二酸化炭素は、大気圧下又は加圧条件下で反応系中にバブリングして添加してもよいし、大気圧下又は加圧条件下で好ましくは上下に撹拌しながら気相から液相に溶解させてもよい。
【0044】
反応形式は特に限定されず、例えば、連続方式又はバッチ方式のいずれでもよい。
【0045】
上記条件下における光照射工程により、ハロゲンアニオンの脱離及び芳香族カルボン酸の還元的脱離の段階で、励起された光酸化還元触媒成分(A)から遷移金属触媒成分(B)に電子が渡され、反応が進行すると推測される。
【0046】
反応終了後、芳香族カルボン酸を分離する方法は特に限定されず、例えば、蒸留・濃縮法により行うことが好ましい。この蒸留・濃縮のための手段としては、従来の蒸留・濃縮装置、例えば減圧連続式蒸留装置や減圧バッチ式蒸留装置等を用いることができる。
【0047】
このようにして得られる芳香族カルボン酸は、後述する芳香族ハロゲン化合物におけるハロゲン原子(−X)が、カルボキシ基(−COOH)に置換された化合物である。なお、芳香族カルボン酸とともに、副生成物として水素化生成物も得られる。水素化生成物は、芳香族ハロゲン化合物におけるハロゲン原子(−X)が、水素原子(−H)に置換された化合物である。
【0048】
〔芳香族ハロゲン化合物〕
本実施形態の製造方法において用いられる芳香族ハロゲン化合物は、芳香族化合物の環を構成する原子にハロゲン原子が直接化学結合した構造を含む化合物であれば特に限定されない。ここで、「芳香族化合物の環を構成する原子」とは、例えばベンゼン環を構成する炭素原子が挙げられる。ベンゼン環は1個であっても2個以上であってもよく、ベンゼン環はナフタレン環のように縮合環式構造であってもよい。また、芳香族性を有していれば環構造はベンゼン環に限定されず、複素環式であってもよいし、六員環以外の五員環や七員環等であってもよい。さらに、芳香族ハロゲン化合物は、1種類のみを使用しても、異なる複数種を併用してもよい。
【0049】
例えば、ベンゼン環が1個の場合の芳香族ハロゲン化合物は、下記構造式(I)で表されることが好ましい。
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子を表し、n
1は1〜3の整数を表す。n
1が2以上の場合には、Xは互いに同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、フッ素原子を含有するアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリール基、カルボニル基、エステル基、ニトリル基又はシリル基を表し、n
2は1〜3の整数を表す。n
2が2以上の場合にはRは互いに同一でも異なっていてもよい。またRは隣接炭素原子に結合し、それらの炭素原子とともに炭化水素環又は複素環を形成してもよい。)
【0050】
触媒サイクルの進行に優れるという観点から、ハロゲン原子Xとしては塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、臭素原子又は塩素原子がより好ましい。つまり、芳香族ハロゲン化合物は、芳香族塩化物、芳香族臭化物又は芳香族ヨウ素化物であることが好ましく、芳香族塩化物又は芳香族臭化物であることがより好ましい。
また、触媒サイクルの進行に優れるという観点から、構造式(I)中、n
1は好ましくは1又は2、より好ましくは1であり、n
2は好ましくは1又は2である。
【0051】
ハロゲン原子Xが臭素原子の場合、構造式(I)で表される化合物の具体例を以下に示す。これらはハロゲン原子Xが臭素原子の場合の単なる例示であり、ハロゲン原子Xが塩素原子やヨウ素原子の場合にも同様の芳香族ハロゲン化合物を例示できる。なお、以下に例示する化合物はo-位もm-位もp-位も含むものとする。
【0052】
Rが水素原子の例としては、ブロモベンゼン等が挙げられる。
【0053】
Rがフッ素原子及び/又は塩素原子の例としては、フルオロブロモベンゼン、ジフルオロブロモベンゼン、クロロブロモベンゼン、ジクロロブロモベンゼン、フルオロクロロブロモベンエン等が挙げられる。
【0054】
Rがアルキル基の例としては、ブロモトルエン、ブロモキシレン、トリメチルブロモベンゼン、エチルブロモベンゼン、メチルエチルブロモベンゼン、tert-ブチルブロモベンゼン、2-エチルヘキシルブロモベンゼン、2,4,6-トリイソプロピルブロモベンゼン等が挙げられる。アルキル基の中でも、C
1〜10アルキル基が好ましく、C
1〜5アルキル基がより好ましい。
【0055】
Rがフッ素原子を含有するアルキル基の例としては、トリフルオロメチルブロモベンゼン等が挙げられる。
【0056】
Rがアルコキシ基の例としては、ブロモアニソール、ジメトキシブロモベンゼン、トリメトキシブロモベンゼン、エトキシブロモベンゼン、メトキシエトキシブロモベンゼン、プロポキシブロモベンゼン、エトキシペントキシブロモベンゼン、フェノキシブロモベンゼン、ベンゾキシブロモベンゼン等が挙げられる。アルコキシ基の中でも、C
1〜10アルコキシ基が好ましく、C
1〜5アルコキシ基がより好ましい。
【0057】
Rがシクロアルキル基の例としては、シクロペンチルブロモベンゼン、シクロヘキシルブロモベンゼン、シクロオクチルブロモベンゼン等が挙げられる。
【0058】
Rがアリール基の例としては、ブロモビフェニル等が挙げられる。
【0059】
Rがカルボニル基の例としては、アセチルブロモベンゼン、t-ブトキシカルボニルアミノブロモベンゼン等が挙げられる。
【0060】
Rがエステル基の例としては、ブロモ安息香酸メチル、ブロモ安息香酸エチル、ブロモ安息香酸ブチル、ブロモフタル酸ジメチル等が挙げられる。
【0061】
Rがニトリル基の例としては、シアノブロモベンゼン等が挙げられる。
【0062】
Rがシリル基の例としては、トリメチルシリルブロモベンゼン、トリエチルシリルブロモベンゼン、トリイソプロピルシリルブロモベンゼン、ジ-t-ブチルメチルシリルブロモベンゼンやトリイソプロピルシリルエチニルブロモベンゼン等が挙げられる。
【0063】
Rがイソプロペニル基、アリル基、ビニル基の例示としては、イソプロペニルブロモベンゼン、アリルブロモベンゼン、ビニルブロモベンゼン等が挙げられる。
【0064】
Rが炭化水素環又は複素環の例としては、メチレンジオキシブロモベンゼン、ブロモチオフェン、N-tert-ブトキシカルボニルブロモインドール、ブロモインドール等が挙げられる。
【0065】
〔溶媒〕
本実施形態のカルボキシル化反応は反応溶媒中で行われる。反応溶媒としては有機溶媒が好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、ジメチルスルホキシド、トルエン、ベンゼン、1,4-ジオキサン、エタノール、ブタノール、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル(MeCN)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等が挙げられる。これらの中でも、芳香族カルボン酸の収率に優れるという観点から、DMF、NMP、アセトン又はDMAが好ましく、DMF、NMP又はDMAがより好ましく、DMAが特に好ましい。
【0066】
〔エステル化反応〕
上記芳香族ハロゲン化合物と二酸化炭素とから得られた芳香族カルボン酸をエステル化することにより、芳香族カルボン酸エステルが得られる。
エステル化反応は従来公知のエステル化法を採用することができ、例えばアルキルエステル化法(アルカノール+酸触媒)、アラルキルエステル化法(アラルキルアルコール+酸触媒)、あるいはジアゾメタンやトリメチルシリルジアゾメタンを用いるメチル化法等が挙げられる。
【0067】
〔三級アミン化合物〕
本実施形態における芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法においては、触媒組成物とともに、三級アミン化合物を存在させることが好ましい。三級アミン化合物は電子供与体としてハロゲンイオンを水和し、芳香族カルボン酸の収率を向上させることができる。
【0068】
三級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n-ブチル)アミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソブチルメチルアミン等のN,N,N-トリ(C
1〜4アルキル)アミン;ジエチル(テトラメチルシリル)アミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピぺリジン、N-エチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のN-(C
1〜4アルキル)アザシクロアルカン;N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のN-(C
1〜4アルキル)アザオキシシクロアルカン;N-ベンジル-N,N-ジメチルアミン、N-ベンジル-N,N-ジエチルアミン等のN-ベンジル-N,N-ジ(C
1〜4アルキル)アミン;N,N-ジメチルアニリン等のN,N-ジ(C
1〜4アルキル)アニリン;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の二環式アミン類;トリエタノールアミン等のN,N,N-トリ(C
1〜4アルコール)アミン等を挙げることができる。これらの三級アミン化合物は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、芳香族カルボン酸の収率を向上させる観点から、N,N,N−トリ(C
1〜4アルキル)アミンが好ましく、ジイソプロピルエチルアミンがより好ましい。
【0069】
三級アミン化合物の配合量は特に限定されないが、芳香族ハロゲン化合物中のハロゲン原子に対して、通常1当量以上、好ましくは2当量以上、より好ましくは3当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは15当量以下、より好ましくは10当量以下である。三級アミン化合物の配合量を上記範囲とすることで、芳香族カルボン酸の収率を向上させることができる。
【0070】
〔塩基性化合物〕
また、本実施形態における芳香族カルボン酸又はそのエステルの製造方法においては、触媒組成物とともに、添加剤として塩基性化合物を存在させることが好ましい。塩基性化合物は遊離した酸成分を捕捉し、芳香族カルボン酸の収率を向上させることができる。また、塩基性化合物を配合することにより、副生成物の生成を抑制することができる。
【0071】
塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム等のアルカリ金属有機酸塩;トリエチルアミン、ピペリジン、N−メチルピペリジン等のアミン類やピリジン、ピコリン等の含窒素複素環化合物等を挙げることができる。これらの塩基性化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、芳香族カルボン酸の収率を向上させる観点から、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸セシウムがより好ましく、炭酸セシウムがさらに好ましい。
【0072】
塩基性化合物の配合量は特に限定されないが、芳香族ハロゲン化合物中のハロゲン原子に対して、通常1当量以上、好ましくは2当量以上、より好ましくは3当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは15当量以下、より好ましくは10当量以下である。塩基性化合物の配合量を上記範囲とすることで、芳香族カルボン酸の収率を向上させることができる。
【0073】
三級アミン化合物と塩基性化合物とを併用する場合、三級アミン化合物に対する塩基性化合物の配合比(ハロゲン原子に対する当量比として計算、塩基性化合物/三級アミン化合物)は、通常0.1以上、好ましくは0.5以上であり、通常5以下、好ましくは3以下である。
【0074】
光照射工程終了後、従来公知の手法により、反応物質から芳香族カルボン酸又はそのエステルを分離する。芳香族カルボン酸又はそのエステルを分離した後、残液中の触媒組成物は新しい操作で再使用するため、再循環に供することができる。芳香族カルボン酸又はそのエステルの収率は、出発物質である芳香族ハロゲン化合物の全量に対して、通常2質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。収率の上限は特に限定されないが、通常100質量%以下である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0076】
以下においては、特に記載のない限り、全ての操作はアルゴン、窒素又は二酸化炭素雰囲気下で行った。
1H−NMRスペクトルは、内部標準として残留CHCl
3(for 1H,δ=7.26)を用い、CDCl
3中のJEOL ECZ−500及びECX−500(500MHz)分光計で測定した。
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)には、Merck Kiesel gel 60 F254プレート(厚さ0.25mm、20×20cm
2のガラスで被覆)を使用し、分取TLCには、ガラス上に厚さ0.9mmでコーティングしたWakogel B−5Fを使用した。
可視光照射は、光触媒反応用途のRelyon Twin LED Light(3W×2、λ
irr.=425±15nm)を用いて行った。
【0077】
活性アルミナ(A−2、Purity)のカラムに続いて、Q−5捕捉剤(Engelhard)のカラムを通過させることにより、Et
2Oを乾燥させた。
脱水アセトン、アセトニトリル(MeCN)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びメタノール(MeOH)は関東化学社から購入し、N-メチルピロリドン(NMP)はシグマアルドリッチ社から購入し、使用前にアルゴンで泡立てて脱気した。
三級アミン化合物を蒸留し、凍結脱気法(3回)で脱気し、窒素雰囲気下で保管した。
CO
2ガスは大陽日酸社から購入した。
【0078】
Pd(OAc)
2、XPhos、tBuXPhos、ブロモベンゼン(化合物1b)、アセチルブロモベンゼン(化合物1r)及び3-クロロ安息香酸メチル(化合物6u)は、シグマアルドリッチ社から購入した。
【0079】
3,4-メチレンジオキシブロモベンゼン(化合物1a)、4-ブロモトルエン(化合物1c)、4-ブロモアニソール(化合物1d)、4-トリフルオロメチルブロモベンゼン(化合物1e)、4-フルオロブロモベンゼン(化合物1f)、4-クロロブロモベンゼン(化合物1g)、4-ブロモ安息香酸メチル(化合物1i)、4-シアノブロモベンゼン(化合物1j)、2-ブロモトルエン(化合物1m)、2,4,6-トリイソプロピルブロモベンゼン(化合物1n)、3-ブロモチオフェン(化合物1o)、クロロベンゼン(化合物6b)、4-クロロトルエン(化合物6c)、4-トリフルオロメチルクロロベンゼン(化合物6e)、4-シアノクロロベンゼン(化合物6j)、4-アセチルクロロベンゼン(化合物6s)、3-クロロアニソール(化合物6t)及び2-クロロナフタレン(化合物6v)は、東京化成工業社から購入した。
【0080】
炭酸セシウム及びN-tert-ブトキシカルボニルブロモインドール(化合物1p)は、和光純薬工業社から購入した。
【0081】
PhXPhos、Ru(bpy)
3(PF
6)
2、Ir(dF(CF
3)ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(dmobpy)(PF
6)、Ir(ppy)
2(Me
4phen)(PF
6)、TMSCHN
2、t-ブトキシカルボニルアミノブロモベンゼン(化合物1h)、4-トリイソプロピルシリルエチニルブロモベンゼン(化合物1k)、4-イソプロペニルブロモベンゼン(化合物1l)、5-ブロモインドール(化合物1q)、4-クロロアニソール(化合物6d)は従来公知の手法により調製した。
【0082】
液体材料である化合物1a〜1f,1m,1o,1r及び6b〜6e,6s〜6uは、蒸留後、アルゴン雰囲気下で保管した。
【0083】
(実施例1)
光酸化還元触媒成分(A)としてIr(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)(0.002 mmol、1.0 mol%)を使用した。また、遷移金属触媒成分(B)を得るための触媒前駆体として酢酸パラジウム(1.1 mg、0.005 mmol、2.5 mol%)を使用し、配位子として表1に記載の有機リン化合物(0.01 mmol,5.0 mol%)を使用した。また、三級アミン化合物としてN,N-ジイソプロピルエチルアミン(iPr
2NEt、0.10 mL、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。さらに、塩基性化合物として炭酸セシウム(Cs
2CO
3、195 mg、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。
上記光酸化還元触媒成分(A)、遷移金属触媒成分(B)、三級アミン化合物及び塩基性化合物を含む、3,4-メチレンジオキシブロモベンゼン(化合物1a、24 μL、0.20 mmol)のN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)溶液(1.0 mL)を窒素雰囲気下、試験管中で調製した。なお、予め調製した遷移金属触媒成分(B)の
1H−NMRスペクトルと、試験管中の試料の
1H−NMRスペクトルとを対比したところ、試験管中に遷移金属触媒成分(B)が含まれていることが確認できた。
【0084】
次いで、気相を大気圧のCO
2に置換し、反応容器を光源から10mmの距離に置いたウォーターバスに入れた。そして、2つのソケットを有する青色LEDランプを用い、室温(具体的には25℃)にて、閉鎖系で6時間、可視光(λ
irr.=425nm)を照射した。可視光照射後、H
2Oを用いて反応を抑え、反応容器中の混合物に対し、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。
【0085】
有機層をH
2Oで洗浄した後、Na
2SO
4を添加して脱水した。ろ過した後、ろ液を濃縮して組成物を得た。組成物を
1H−NMRを用いて分光分析し、出発物質である3,4-メチレンジオキシブロモベンゼン(化合物1a)の回収率及び水素化生成物(化合物3a)の収率を測定した(内部標準:ジブロモメタン)。
また、水層を1N HCl水溶液で酸性化し、次いで、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。有機層をNa
2SO
4で脱水・ろ過し、減圧下で濃縮して芳香族カルボン酸(化合物2a)を得た。芳香族カルボン酸(化合物2a)の収率は、
1H−NMRにより測定した(内部標準:1,4-ジオキサン)。
最初に配合した化合物1aの量と化合物1aの回収率とから、化合物1aの転化率を算出した。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2〜6)
実施例1において、配位子を、表1に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行なった。実施例6は、(A)成分を2.5mol%にしたこと以外、実施例4と同様の操作を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1より、遷移金属触媒成分(B)を生成するための配位子として、種々の有機リン化合物を用いることができることが示された。また、実施例6から、光酸化還元触媒成分(A)の含有割合を増やすと芳香族カルボン酸(化合物2a)の収率が上昇し、水素化生成物(化合物3a)の収率が低下することが分かる。
【0089】
(実施例7)
実施例1において塩基性化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
(比較例1〜5)
配合成分や光照射の有無及び気相を以下の表2に記載のように変更したこと以外は実施例7と同様の操作を行った(比較例1〜5)。結果を表2に示す。
【表2】
【0090】
表2より、芳香族ハロゲン化合物から芳香族カルボン酸(化合物2a)を得るためには、光酸化還元触媒成分(A)、遷移金属触媒成分(B)、二酸化炭素及び光照射が必須であることが分かる。これらのうちの一つを欠いても、芳香族カルボン酸(化合物2a)が得られないことが示された。
【0091】
(実施例8〜25)
芳香族臭化物として、実施例8〜25において、それぞれ、化合物1a〜1rを使用した。化合物1a〜1rは、芳香族カルボン酸メチルエステル(下記表3中の化合物5a〜5r)のカルボン酸エステル部位(−CO
2Me)を臭素(−Br)に置換した化合物である。
光酸化還元触媒成分(A)としてIr(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)(4.6 mg、0.005 mmol、2.5 mol%)を使用した。また、遷移金属触媒成分(B)を得るための触媒前駆体として酢酸パラジウム(1.1 mg、0.005 mmol、2.5 mol%)を使用し、配位子としてPhXPhos(0.01 mmol、5.0 mol%)を使用した。また、三級アミン化合物としてiPr
2NEt(0.10 mL、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。さらに、塩基性化合物としてCs
2CO
3(195 mg、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。
上記光酸化還元触媒成分(A)、遷移金属触媒成分(B)、三級アミン化合物及び塩基性化合物を含む、芳香族臭化物(0.20 mmol、表3中の化合物1a〜1r)のDMA溶液(1.0 mL)を窒素雰囲気下、試験管中で調製した。なお、予め調製した遷移金属触媒成分(B)の
1H−NMRスペクトルと、試験管中の試料の
1H−NMRスペクトルとを対比したところ、試験管中に遷移金属触媒成分(B)が含まれていることが確認できた。
【0092】
次いで、気相を大気圧のCO
2に置換し、反応容器を光源から10mmの距離に置いたウォーターバスに入れた。そして、2つのソケットを有する青色LEDランプを用い、室温(具体的には25℃)にて、閉鎖系で6時間、可視光(λ
irr.=425nm)を照射した。可視光照射後、H
2Oを用いて反応を抑え、反応容器中の混合物に対し、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。
【0093】
有機層をH
2Oで洗浄した。水層を1N HCl水溶液で酸性化し、次いで、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。有機層をNa
2SO
4で脱水・ろ過し、減圧下で濃縮して芳香族カルボン酸を得た。この芳香族カルボン酸をEt
2O(2.0 mL)とMeOH(メタノール、0.5 mL)に溶解し、0℃で、トリメチルシリルジアゾメタン(TMSCHN
2、2.0当量)のEt
2O溶液を添加した。混合物を0℃で30分間撹拌し、減圧下で溶媒を除去し、組成物を得た。得られた組成物を分取用薄層クロマトグラフィーにより精製し、芳香族カルボン酸に対応するメチルエステル(芳香族カルボン酸メチルエステル、実施例8〜25において、それぞれ、表3中の化合物5a〜5r)を得た。芳香族カルボン酸メチルエステルの収率を表3に示す。収率は、実施例1と同様の操作により、
1H−NMRスペクトルで測定した。
なお、実施例14では可視光照射時間を4時間とし、実施例21では可視光照射時間を8時間とした。また、実施例15〜17,25ではPhXPhosの代わりにtBuXPhosを使用した。
【0094】
表3中の「反応時間」とは、可視光照射時間を意味する。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表3から、出発物質として、様々な官能基Rを有する芳香族臭化物を使用できることが示された。具体的には、官能基Rとしてアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、内部アルキンやアルケンを、4位に有する芳香族臭化物(化合物1c〜1g,1k,1l)を用いると、トリメチルシリルジアゾメタン(TMSCHN
2)によるメチルエステル化により得られる芳香族カルボン酸メチルエステルの収率が80%を超え、良好な結果が得られた。
特に、基質(出発物質)として4-クロロブロモベンゼン(化合物1g)を用いると、反応時間が少ないにも関わらず、4-クロロベンゾエート(化合物5g)が選択的に得られた。
【0097】
コバルト及びニッケル触媒による、立体障害性を有するアリールトリフラートのカルボキシル化反応は知られているが、このカルボキシル化反応では2,6-ジイソプロピルフェニルトリフラートからカルボン酸は得られなかった。一方、同様の立体障害性を有する2,4,6-トリイソプロピルブロモベンゼン(化合物1n)のカルボキシル化反応は、光酸化還元触媒成分(A)と遷移金属触媒成分(B)との併用により76%の収率で進行した。これにより、かさ高い基質にも使用できることが示された。
【0098】
チオフェン(化合物1o)やインドール(化合物1p,1q)などの電子豊富なヘテロアレーンの臭化物からも、メチルエステル(化合物5o〜5q)が得られた。
【0099】
(実施例26〜34)
芳香族臭化物の代わりに芳香族塩化物を用い、遷移金属触媒成分(B)を得るための配位子としてtBuXPhosを使用したこと以外は実施例8〜25と同様の操作を行った。
【0100】
具体的には、芳香族塩化物として、実施例26〜34において、それぞれ、化合物6b〜6e,6j,6s〜6vを使用した。化合物6b〜6e,6j,6s〜6vは、芳香族カルボン酸メチルエステル(下記表4中の化合物5b〜5e,5j,5s〜5v)のカルボン酸エステル部位(−CO
2Me)を塩素(−Cl)に置換した化合物である。
光酸化還元触媒成分(A)としてIr(ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)(4.6 mg、0.005 mmol、2.5 mol%)を使用した。また、遷移金属触媒成分(B)を得るための触媒前駆体として酢酸パラジウム(1.1 mg、0.005 mmol、2.5 mol%)を使用し、配位子としてtBuXPhos(0.01 mmol、5.0 mol%)を使用した。また、三級アミン化合物としてiPr
2NEt(0.10 mL、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。さらに、塩基性化合物としてCs
2CO
3(195 mg、0.60 mmol、3.0当量)を使用した。
上記光酸化還元触媒成分(A)、遷移金属触媒成分(B)、三級アミン化合物及び塩基性化合物を含む、芳香族塩化物(0.20 mmol、表4中の化合物6b〜6e,6j,6s〜6v)のDMA溶液(1.0 mL)を窒素雰囲気下、試験管中で調製した。なお、予め調製した遷移金属触媒成分(B)の
1H−NMRスペクトルと、試験管中の試料の
1H−NMRスペクトルとを対比したところ、試験管中に遷移金属触媒成分(B)が含まれていることが確認できた。
【0101】
次いで、気相を大気圧のCO
2に置換し、反応容器を光源から10mmの距離に置いたウォーターバスに入れた。そして、2つのソケットを有する青色LEDランプを用い、室温(具体的には25℃)にて、閉鎖系で6時間、可視光(λ
irr.=425nm)を照射した。可視光照射後、H
2Oを用いて反応を抑え、反応容器中の混合物に対し、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。
【0102】
有機層をH
2Oで洗浄した。水層を1N HCl水溶液で酸性化し、次いで、Et
2O(ジエチルエーテル)による抽出作業を3回行った。有機層をNa
2SO
4で脱水・ろ過し、減圧下で濃縮して芳香族カルボン酸を得た。この芳香族カルボン酸をEt
2O(2.0 mL)とMeOH(メタノール、0.5 mL)に溶解し、0℃で、トリメチルシリルジアゾメタン(TMSCHN
2、2.0当量)のEt
2O溶液を添加した。混合物を0℃で30分間撹拌し、減圧下で溶媒を除去し、組成物を得た。得られた組成物を分取用薄層クロマトグラフィーにより精製し、芳香族カルボン酸に対応するメチルエステル(芳香族カルボン酸メチルエステル、実施例26〜34において、それぞれ、表4中の化合物5b〜5e,5j,5s〜5v)を得た。芳香族カルボン酸メチルエステルの収率を表4に示す。なお、収率は、実施例1と同様の操作により、
1H−NMRスペクトルで測定した。
【0103】
【表4】
【0104】
表4より、TMSCHN
2を用いたメチルエステル化により、種々の芳香族塩化物から、種々の芳香族カルボン酸メチルエステルが良好な収率で得られることが示された。
【0105】
なお、ZnEt
2を用いたPd触媒によるカルボキシル化反応では、臭素化物よりより安価である芳香族塩化物から芳香族カルボン酸を得ることができなかった。一方、光酸化還元触媒成分(A)と遷移金属触媒成分(B)とを含む触媒組成物を用いたカルボキシル化反応では、多種多様な基質を用いることができ、種々の官能基を有する芳香族塩化物から芳香族カルボン酸又はそのエステルを良好な収率で得られ、非常に有用であることが分かった。
【0106】
(実施例35〜36)
以下の表5に記載の光酸化還元触媒成分(A)を使用し、三級アミン化合物の含有割合を芳香族ハロゲン化合物中のハロゲン原子に対して6.0当量とし、塩基性化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
表5から、光酸化還元触媒成分(A)としてIr(ppy)
2(Me
4phen)(PF
6)よりも還元力に優れるIr(ppy)
2(dmobpy)(PF
6)を用いると、基質(化合物1a)の転化率や芳香族カルボン酸(化合物2a)の収率に優れることが分かる。
【0109】
(実施例37〜38)
実施例37として、三級アミン化合物の含有割合を6.0当量とし、塩基性化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
また、実施例38として、光酸化還元触媒成分(A)の含有割合を2.5mol%に変更したこと以外は実施例37と同様の操作を行った。結果を表6に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
表6から、塩基性化合物を使用しなくても目的化合物が収率よく得られることが分かる。更に、光酸化還元触媒成分(A)の含有割合を増やすことで、水素化生成物(化合物3a)の生成が抑制され、芳香族カルボン酸(化合物2a)の収率が向上することも分かる。
【0112】
(実施例39〜40)
以下の表7に記載の光酸化還元触媒成分(A)を使用し、三級アミン化合物の含有割合を6.0当量とし、塩基性化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表7に示す。
【0113】
【表7】
【0114】
表7より、光酸化還元触媒成分(A)としてRu(bpy)
3(PF
6)
2を用いた場合でも芳香族ハロゲン化合物から芳香族カルボン酸を生成できることが示された。また、Ir(dF(CF
3)ppy)
2(dtbbpy)(PF
6)の還元力はRu(bpy)
3(PF
6)
2の還元力よりも優れることから、適切な遷移金属を含む光酸化還元触媒成分(A)を選択することで、芳香族カルボン酸の収率が向上することが分かる。