(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
300nm以上、460nm以下の波長を有する励起光を照射することにより、500nm以上、560nm以下の範囲に発光ピーク波長を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体。
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、該第2の発光体が請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al
2O
4:Eu」という組成式は、「CaAl
2O
4:Eu」と、「SrAl
2O
4:Eu」と、「BaAl
2O
4:Eu」と、「Ca
1−xSr
xAl
2O
4:Eu」と、「Sr
1−xBa
xAl
2O
4:Eu」と、「Ca
1−xBa
xAl
2O
4:Eu」と、「Ca
1−x−ySr
xBa
yAl
2O
4:Eu」(但し、式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。)とを全て包括的に示しているものとする。
【0009】
本発明は、第一の実施態様である蛍光体、第二の実施態様である発光装置、第三の実施態様である照明装置、第四の実施態様である画像表示装置を含む。
【0010】
[蛍光体]
本発明の第一の実施態様に係る蛍光体は、下記式[1]で表される結晶相を含む。
M
mAl
aSi
bN
d [1]
(上記式[1]中、
Mは、付活元素を表し、
0<m≦0.04
a+b=3
0<a≦0.08
3.6≦d≦4.2)
【0011】
M元素は、ユーロピウム(Eu)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる1種以上の元素を表す。Mは、少なくともEuを含むことが好ましく、Euであることがより好ましい。
【0012】
さらに、Euは、その一部がCe、Pr、Sm、Tb及びYbよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよく、発光量子効率の点でCeがより好ましい。
つまり、Mは、Eu及び/又はCeであることが更に好ましく、より好ましくはEuである。
【0013】
付活元素全体に対するEuの割合は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましい。
Alは、アルミニウムを表す。Alは、化学的に類似するその他の3価の元素、例えば、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)などで一部置換されていてもよい。
【0014】
Siは、ケイ素を表す。Siは、化学的に類似するその他の4価の元素、例えば、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などで一部置換されていてもよい。
【0015】
式[1]中、Nは、窒素元素を表す。Nは、一部その他の元素、例えば、酸素(O)、ハロゲン原子(フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I))等で置換されていてもよい。
【0016】
尚、酸素は、原料金属中の不純物として混入する場合、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられ、本実施態様の蛍光体においては不可避的に混入してしまうものである。
また、ハロゲン原子が含まれる場合、原料金属中の不純物としての混入や、粉砕工程、窒化工程などの製造プロセス時に導入される場合などが考えられ、特に、フラックスとしてハロゲン化物を用いる場合、蛍光体中に含まれてしまう場合がある。
mは、付活元素Mの含有量を表し、その範囲は、通常0<m≦0.04であり、下限値は、好ましくは0.0001、より好ましくは0.0005、さらに好ましくは0.001、さらに好ましくは、0.005、またその上限値は、好ましくは0.02、更に好ましくは0.01、特に好ましくは0.005である。
【0017】
aは、Alの含有量を表し、その範囲は、通常0<a≦0.08であり、下限値は、好ましくは0.0001、より好ましくは0.001、さらに好ましくは0.005であり、また上限値は、好ましくは0.06、より好ましくは0.04である。
bは、Si元素の含有量を表す。
aとbの相互の関係は、
a+b=3
を満たす。
dは、Nの含有量を表し、その範囲は、通常3.6≦d≦4.2であり、下限値は、好ましくは3.8、より好ましくは3.9、特に好ましくは3.95、また上限値は、好ましくは4.1、より好ましくは4.05である。
【0018】
いずれの含有量も、上記した範囲であると、得られる蛍光体の発光特性、特に発光輝度が良好である点で好ましい。
【0019】
本実施態様の蛍光体は、酸素が混入される場合であっても、結晶構造内のSi−Nが、Al−Oに一部置換されることによって、その結晶構造を維持することができる。Siに対してAlを多くする場合、電荷補償の関係を保ちNサイトにOを入れることができる。
【0020】
一方で、本実施態様の蛍光体は、組成に含まれる酸素がない、もしくは極めて少ないことを特徴とする。なお、本明細書において、組成中に含まれる酸素がないことは、蛍光体の粉体を、後述するEPMAや酸素窒素水素分析装置にて元素分析した際に、酸素が検出限界以下であることと同義である。本実施態様の蛍光体がAlよりも酸素の含有量が少ない場合に、どのように電荷バランスを補償しているのか定かではないが、一部のAlはEuと対になって置換されたり、欠陥を導入したりすることによって、局所的にバランスを保っている可能性が考えられる。
この場合、Al/Euは0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.5以上がよりさらに好ましく、1.0以上が特に好ましい。
【0021】
本実施態様の蛍光体の別の態様として、下記式[2]で表される結晶相を含むことを特徴とする、蛍光体が挙げられる。
M
mAl
aO
xSi
bN
d [2]
(上記式[2]中、
Mは、付活元素を表し、
0<m≦0.04
a+b=3
0<a≦0.08
3.6≦d≦4.2
x<a)
【0022】
式中、M元素、Al、Si、Nおよびm、a、b、dの値については式[1]と同様に考えられる。
xは、酸素(O)の含有量を表し、その範囲は特に限定されないが、x<aであることが好ましい。つまり、AlよりもOの含有量が少ないことが好ましい。これは、上述の通り、Al−Oでない形態でAlが結晶構造中に導入されることにより、酸素が低減された蛍光体を得ることができることを意味する。xは0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.04以下、さらに好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下、特に好ましくはEPMAや酸素窒素水素分析装置を用いた元素分析によってOが検出限界以下であって、組成式中に含まれないこと(すなわち、x=0)である。したがって、xは好ましくは0以上であり、x=0の場合とは上記式[1]に相当する。
x/aは1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下、よりさらに好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.2以下、格段に好ましくは上記同様に、EPMAや酸素窒素水素分析装置を用いた元素分析によって酸素が検出限界以下であって、組成式中に含まれない(すなわち、x=0であることによりx/a=0)ことである。
また、AlよりもOの含有量が少ないことによって生じ得る欠陥の導入が多すぎるとキラーサイトとなり発光特性を低下させることがある。そのため、x+dは好ましくは3.6以上、より好ましくは3.7以上、さらに好ましくは3.8以上、よりさらに好ましくは3.9以上、特に好ましくは3.95以上である。
【0023】
{蛍光体の物性について}
[結晶構造]
本実施態様の蛍光体の結晶構造は、β型Si
3N
4結晶構造を有する結晶にEuが固溶したサイアロン結晶の結晶構造であることが好ましい。Si
3N
4結晶構造としては、一般にα型とβ型があることが知られているが、本実施態様の蛍光体においては、β型であることにより、所望の発光波長と半値幅を有する発光ピークが得られるため好ましい。
【0024】
[格子定数]
本実施態様の蛍光体の格子定数は、結晶を構成する元素の種類により変化するが、下記の範囲である。
a軸の格子定数(格子定数La)は、通常7.600Å≦La≦7.630Åの範囲であり、その下限値は、好ましくは7.601Å、より好ましくは7.602Å、更に好ましくは7.603Å、また上限値は、好ましくは7.620Å、より好ましくは7.615Åである。
尚、b軸の格子定数(格子定数Lb)は、a軸の格子定数と同じである。
c軸の格子定数(格子定数Lc)は、通常2.90Å≦Lc≦2.91Åの範囲であり、その下限値は、好ましくは2.903Å、より好ましくは2.906Å、また上限値は、好ましくは2.909Å、より好ましくは2.908Å、さらに好ましくは2.907Åである。
【0025】
尚、いずれの場合も上記範囲内であると、本実施態様に係る蛍光体が安定的に生成されて、不純物相の生成が抑制される為、得られる蛍光体の発光輝度が良好である。
【0026】
[単位格子体積]
本実施態様の蛍光体における、格子定数から算出される単位格子体積(V)は、好ましくは、145.30Å
3以上、より好ましくは145.35Å
3以上、更に好ましくは145.40Å
3以上、また、好ましくは146.50Å
3以下、より好ましくは146.30Å
3以下、更に好ましくは146.10Å
3以下である。
単位格子体積が大きすぎる、もしくは単位格子体積が小さすぎると骨格構造が不安定化して別の構造の不純物が副生するようになり、発光強度の低下や色純度の低下を招く傾向がある。
【0027】
[空間群]
本実施態様に係る蛍光体における結晶系は、六方晶系(Hexagonal)である。
本実施態様の蛍光体における空間群は、単結晶X線回折にて区別しうる範囲において統計的に考えた平均構造が上記の長さの繰り返し周期を示していれば特に限定されないが、「International Tables for Crystallography(Third,revised edition),Volume A SPACE−GROUP SYMMETRY」に基づく173番(P6
3)、もしくは176番(P6
3/m)に属するものであることが好ましい。
ここで、格子定数及び空間群は常法に従って求めることできる。格子定数であれば、X線回折及び中性子線回折の結果をリートベルト(Rietveld)解析して求めることができ、空間群であれば、電子線回折により求めることができる。
【0028】
[発光色]
本実施態様の蛍光体の発光色は、化学組成等を調整することにより、波長300nm〜500nmといった近紫外領域〜青色領域の光で励起され、青色、青緑色、緑色、黄緑色、黄色、橙色、赤色等、所望の発光色とすることができる。
【0029】
[発光スペクトル]
本実施態様の蛍光体は、300nm以上、460nm以下の波長(特に、波長400nmもしくは450nm)の光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特性を有することが好ましい。
本実施態様の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおけるピーク波長が、通常500nm以上、好ましくは510nm以上、より好ましくは520nm以上である。また、通常560nm以下、好ましくは550nm以下、より好ましくは545nm以下である。
上記範囲内であると、得られる蛍光体において、良好な緑色を呈するため、好ましい。
【0030】
[発光スペクトルの半値幅]
本実施態様の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が、通常70nm以下、好ましくは60nm以下、また通常25nm以上、好ましくは30nm以上である。
上記範囲内とすることで、液晶ディスプレイなどの画像表示装置に使用することが可能となる。
より色純度を低下させずに画像表示装置の色再現範囲を広くするために使用する場合は、発光ピークの半値幅は50nm以下が好ましく、48nm以下がより好ましく、45nm以下がさらに好ましく、43nm以下が特に好ましい。
【0031】
[発光スペクトルにおける強度比]
上述の画像表示装置において色純度を低下させず、色再現範囲を広くするために本実施態様の蛍光体を使用する場合は、上述の半値幅の範囲に加えて、発光スペクトルのピーク比が下記の範囲であるとよい。
発光スペクトルにおける512nmの強度をP1、525nmの強度をP2としたとき、P1/P2の値は通常0.1以上であり、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上、よりさらに好ましくは0.9以上、特に好ましくは1.1以上、格段に好ましくは1.3以上であり、通常3.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0032】
なお、本実施態様の蛍光体を波長400nmの光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。また、本実施態様の蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及びピーク半値幅の算出は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて行うことができる。
【0033】
[CIE色度座標]
本実施態様の蛍光体のCIE色度座標のx値は、通常0.240以上、好ましくは0.250以上、より好ましくは0.260以上であり、通常0.420以下、好ましくは0.400以下、より好ましくは0.380以下、さらに好ましくは0.360以下、よりさらに好ましくは0.340以下である。また、本実施態様の蛍光体のCIE色度座標のy値は、通常0.575以上、好ましくは0.580以上、より好ましくは0.620以上、さらに好ましくは0.640以上であり、通常0.700以下、好ましくは0.690以下である。
CIE色度座標が上記の範囲にあることで、液晶ディスプレイなどの画像表示装置に使用する場合には色純度を低下させずに画像表示装置の色再現範囲を広くすることができる。
【0034】
[温度特性(発光強度維持率)]
本実施態様の蛍光体は、温度特性にも優れる。具体的には、450nmの波長の光を照射した場合の、25℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する150℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が、通常50%以上であり、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
また、通常の蛍光体は温度上昇と共に発光強度が低下するので、該割合が100%を超えることは考えられにくいが、何らかの理由により100%を超えることがあってもよい。ただし100%を超えるようであれば、温度変化により色ずれを起こす傾向がある。
尚、上記温度特性を測定する場合は、常法に従えばよく、例えば、特開2008−138156号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0035】
[励起波長]
本実施態様の蛍光体は、通常300nm以上、好ましくは320nm以上、より好ましくは400nm以上、また、通常480nm以下、好ましくは470nm以下、より好ましくは460nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、近紫外から青色領域の光で励起される。
【0036】
<蛍光体の製造方法>
本実施態様の蛍光体を得るための、原料、蛍光体製造法等については以下の通りである。
本実施態様の蛍光体の製造方法は特に制限されないが、例えば、付活元素である元素Mの原料(以下適宜「M源」という。)、元素Alの原料(以下適宜「Al源」という。)、元素Siの原料(以下適宜「Si源」という。)を式[1]の化学量論比となるように混合し(混合工程)、得られた混合物を焼成する(焼成工程)ことにより製造することができる。
また、以下では例えば、元素Euの原料を「Eu源」などということがある。
【0037】
[蛍光体原料]
本実施態様の蛍光体の製造に使用される蛍光体原料(即ち、M源、Al源及びSi源)としては、M元素、Al元素及びSi元素の各元素の金属、合金、イミド化合物、酸窒化物、窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。これらの化合物の中から、複合酸窒化物への反応性や、焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0038】
(M源)
M源のうち、Eu源の具体例としては、Eu
2O
3、Eu
2(SO
4)
3、Eu
2(C
2O
4)
3・10H
2O、EuCl
2、EuCl
3、Eu(NO
3)
3・6H
2O、EuN、EuNH等が挙げられる。中でもEu
2O
3、EuN等が好ましく、特に好ましくはEuNである。
また、Sm源、Tm源、Yb源等のその他の付活元素の原料の具体例としては、Eu源の具体例として挙げた各化合物において、EuをそれぞれSm、Tm、Yb等に置き換えた化合物が挙げられる。
【0039】
(Al源)
Al源の具体例としては、AlN、Al
2O
3、Al(OH)
3、AlOOH、Al(NO
3)
3等が挙げられる。中でも、AlN、Al
2O
3が好ましく、AlNが特に好ましい。また、AlNとして、反応性の点から、粒径が小さく、発光効率の点から純度の高いものが好ましい。
Alメタル、もしくはAlNに含有される酸素の量は通常100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。
その他の3価の元素の原料の具体例としては、上記Al源の具体例として挙げた各化合物において、AlをB、Ga、In、Sc、Y、La、Gd、Lu等に置き換えた化合物が挙げられる。なお、Al源は、単体のAlを用いてもよい。
【0040】
(Si源)
Si源の具体例としては、SiO
2、α型Si
3N
4、β型Si
3N
4が挙げられ、α型Si
3N
4、β型Si
3N
4が好ましい。また、SiO
2となる化合物を用いることもできる。このような化合物としては、具体的には、SiO
2、H
4SiO
4、Si(OCOCH
3)
4等が挙げられる。また、α型Si
3N
4として反応性の点から、粒径が小さく、発光効率の点から純度の高いものが好ましい。さらに、不純物である炭素元素の含有割合が少ないものの方が好ましい。
生成物内への酸素の含有を低減させるためには、より酸素含有量の少ないSi源を用いることがよい。Siメタルを使用してもよく、酸素含有量の少ないSi
3N
4用いることでもよい。α型Si
3N
4、β型Si
3N
4における酸素含有量は通常100ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは60ppm以下、さらに好ましくは40ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。酸素含有量の多いα型Si
3N
4を1.0MPa以下、1600℃以上で熱処理を実施して、酸素含有量の少ないβ型Si
3N
4としてから使用することがより好ましい。
その他の4価の元素の原料の具体例としては、上記Si源の具体例として挙げた各化合物において、SiをそれぞれGe、Ti、Zr、Hf等に置き換えた化合物が挙げられる。なお、Si源は、単体のSiを用いてもよい。
【0041】
なお、上述したM源、Al源及びSi源は、それぞれ、一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0042】
[混合工程]
目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、ボールミル等を用いて十分混合したのち、ルツボに充填し、所定温度、雰囲気下で焼成し、焼成物を粉砕、洗浄することにより、本実施態様の蛍光体を得ることができる。
【0043】
上記混合手法としては、特に限定はされず、乾式混合法や湿式混合法のいずれであってもよい。
乾式混合法としては、例えば、ボールミルなどが挙げられる。
湿式混合法としては、例えば、前述の蛍光体原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、乳鉢と乳棒、を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる方法である。
【0044】
[焼成工程]
得られた混合物を、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器中に充填する。このような焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、本実施態様の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、窒化ホウ素などの坩堝が挙げられる。
【0045】
焼成温度は、圧力など、その他の条件によっても異なるが、通常1700℃以上、2150℃以下の温度範囲で焼成を行なうことができる。焼成工程における最高到達温度としては、通常1700℃以上、好ましくは1750℃以上、また、通常2150℃以下、好ましくは2100℃以下である。
焼成温度が高すぎると窒素が飛んで母体結晶に欠陥を生成し着色する傾向にあり、低すぎると固相反応の進行が遅くなる傾向にあり、目的相を主相として得にくくなる場合がある。
より結晶構造中に混入する酸素を低減させる場合は、1800℃以上、より好ましくは1900℃以上、特に好ましくは2000℃以上の最高到達温度で焼成するのがよい。
【0046】
焼成温度等によっても異なるが、通常0.2MPa以上、好ましくは0.4MPa以上であり、また、通常200MPa以下、好ましくは190MPa以下である。
【0047】
焼成工程における圧力が10MPa以下で焼成する場合は焼成時の最高到達温度は、通常1800℃以上、好ましくは1900℃以上、また、通常2150℃以下、より好ましくは2100℃以下である。
上記の温度で焼成することにより、酸素含有量の少ない結晶相を得ることが可能となる。焼成温度が1800℃未満であると固相反応が進まないため不純物相もしくは未反応相のみが出現し、目的相を主相として得にくくなる場合がある。
【0048】
また、ごくわずかに目的の結晶相が得られたとしても、結晶内では発光中心となる元素、特にEu元素の拡散がされず量子効率を低下させる可能性がある。また、焼成温度が高すぎると目的の蛍光体結晶を構成する元素が揮発しやすくなり、格子欠陥を形成、もしくは分解し別の相が不純物として生じてしまう可能性が高い。
【0049】
焼成工程における昇温速度は、通常2℃/分以上、好ましくは5℃/分以上、より好ましくは10℃/分以上であり、また、通常30℃/分以下、好ましくは25℃/分以下である。昇温速度がこの範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、昇温速度がこの範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。
【0050】
焼成工程における焼成雰囲気は、本実施態様の蛍光体が得られる限り任意であるが、窒素含有雰囲気とすることが好ましい。具体的には、窒素雰囲気、水素含有窒素雰囲気等が挙げられ、中でも窒素雰囲気が好ましい。なお、焼成雰囲気の酸素含有量は、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下にするとよい。
【0051】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常10分間以上、好ましくは30分間以上、また、通常72時間以下、好ましくは12時間以下である。焼成時間が短すぎると粒生成と粒成長を促すことができないため、特性のよい蛍光体を得ることができず、焼成時間が長すぎると構成している元素の揮発が促されるため、原子欠損により結晶構造内に欠陥が誘発され特性のよい蛍光体を得ることができない場合がある。
【0052】
なお、焼成工程は、必要に応じて、複数回繰り返し行なってもよい。その際は、一回目の焼成と、二回目の焼成とで、焼成条件を同一にしてもよいし、異なるものにしてもよい。
【0053】
蛍光体生成時に原子が均一に拡散し、内部量子効率の高い蛍光体を焼成する場合や数μmの大きな粒子を得る場合は、繰り返し焼成が有効となる。
【0054】
また、本実施態様の蛍光体を製造する場合、上記焼成工程時に、例えば、Li
3N、Na
3N、Mg
3N
2、Ca
3N
2、Sr
3N
2、Ba
3N
2などをフラックス(結晶成長補助剤)として用いることが好ましい。
尚、フラックスを用いて蛍光体を製造した場合、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Baなどのフラックスの構成元素が、蛍光体に混入する場合がある。
本実施態様におけるフラックスは上記の結晶成長補助剤としての効果に加えて、得られる蛍光体中の酸素の割合を減少させる効果があることが好ましい。結晶を成長させる効果に加えて、蛍光体中の酸素の割合を減らすことで、発光スペクトルの半値幅の狭い蛍光体を製造することが可能となる。
尚、得られる蛍光体中の酸素の割合を減らすために、添加する物質として、Si金属、Al金属などを用いてもよい。
【0055】
さらに、結晶相内の酸素の割合を低下させるため、焼成時に発生するSiO等の構成元素に酸素を含むガスをトラップする目的で、当該ガスを吸着するような部材を使用することがよい。特に、C(カーボン)で構成される部材がよく、C製のフェルトやCキューブをBNルツボの近辺に配置するとよい。
【0056】
[後処理工程]
得られた焼成物を解砕、粉砕及び/又は分級操作を組み合わせて所定のサイズの粉末にする。ここでは、D
50が約30μm以下になるように処理するとよい。
具体的な処理の例としては、合成物を目開き45μm程度の篩分級処理し、篩を通過した粉末を次工程に回す方法、或いは合成物をボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用して所定の粒度に粉砕する方法が挙げられる。後者の方法において、過度の粉砕は、光を散乱しやすい微粒子を生成するだけでなく、粒子表面に結晶欠陥を生成し、発光効率の低下を引き起こす可能性がある。
【0057】
また、必要に応じて、蛍光体(焼成物)を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄工程後は、蛍光体を付着水分がなくなるまで乾燥させて、使用に供する。さらに、必要に応じて、凝集をほぐすために分散・分級処理を行ってもよい。
尚、本実施態様の蛍光体は、あらかじめ構成金属元素を合金化して、それを窒化して形成する、所謂、合金法で形成してもよい。
【0058】
{蛍光体含有組成物}
本発明の第一の実施態様に係る蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、本発明の一実施態様として、適宜、「本発明の一実施態様に係る蛍光体含有組成物」などと呼ぶものとする。
【0059】
[蛍光体]
本実施態様の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の第一の実施態様に係る蛍光体の種類に制限は無く、上述したものから任意に選択することができる。また、本実施態様の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の第一の実施態様に係る蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、本実施態様の蛍光体含有組成物には、本実施態様の効果を著しく損なわない限り、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0060】
[液体媒体]
本実施態様の蛍光体含有組成物に使用される液体媒体としては、該蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料及び/又は有機系材料が使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0061】
[液体媒体及び蛍光体の含有率]
本実施態様の蛍光体含有組成物中の蛍光体及び液体媒体の含有率は、本実施態様の効果を著しく損なわない限り任意であるが、液体媒体については、本実施態様の蛍光体含有組成物全体に対して、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。
【0062】
[その他の成分]
なお、本実施態様の蛍光体含有組成物には、本実施態様の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0063】
{発光装置}
本発明の第二の実施態様は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを含む発光装置であって、該第2の発光体は本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を含有する。ここで、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0064】
本発明の第一の実施態様に係る蛍光体としては、例えば、励起光源からの光の照射下において、緑色領域の蛍光を発する蛍光体を使用する。具体的には、発光装置を構成する場合、本発明の第一の実施態様における緑色蛍光体としては、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。
【0065】
尚、励起源については、420nm未満の波長範囲に発光ピークを有するものを用いてもよい。
以下、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体が、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有し、且つ第一の発光体が300nm以上460nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものを用いる場合の発光装置の態様について記載するが、本実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0066】
上記の場合、本実施態様の発光装置は、例えば、次の態様とすることができる。
即ち、第1の発光体として、300nm以上460nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものを用い、第2の発光体の第1の蛍光体として、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(本発明の第一の実施態様に係る蛍光体)を用い、第2の発光体の第2の蛍光体として、580nm以上680nm以下の波長範囲に発光ピークを有する蛍光体(赤色蛍光体)を用いる態様とすることができる。
【0067】
(赤色蛍光体)
上記の態様における赤色蛍光体としては、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
Mn付活フッ化物蛍光体としては、例えば、K
2(Si,Ti)F
6:Mn、K
2Si
1−xNa
xAl
xF
6:Mn(0<x<1)、
硫化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)S:Eu(CAS蛍光体)、La
2O
2S:Eu(LOS蛍光体)、
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Lu,Gd,Tb)
3Mg
2AlSi
2O
12:Ce、
ナノ粒子としては、例えば、CdSe、
窒化物または酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)AlSiN
3:Eu(S/CASN蛍光体)、(CaAlSiN
3)
1−x・(SiO
2N
2)
x:Eu(CASON蛍光体)、(La,Ca)
3(Al,Si)
6N
11:Eu(LSN蛍光体)、(Ca,Sr,Ba)
2Si
5(N,O)
8:Eu(258蛍光体)、(Sr,Ca)Al
1+xSi
4−xO
xN
7−x:Eu(1147蛍光体)、M
x(Si,Al)
12(O,N)
16:Eu(Mは、Ca、Srなど)(α‐サイアロン蛍光体)、Li(Sr,Ba)Al
3N
4:Eu(上記のxは、いずれも0<x<1)
などが挙げられる。
中でも、色再現範囲の広い画像表示装置として用いる場合、上記態様における赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅は通常90nm以下であり、好ましくは70nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下であり、通常、5nm以上、より好ましくは10nm以上である。上記蛍光体のなかでも、Mn付活フッ化物蛍光体、SrLiAl
3N
4:Eu蛍光体を用いることが好ましい。
【0068】
(黄色蛍光体)
上記の態様において、必要に応じて、550〜580nmの範囲に発光ピークを有する蛍光体(黄色蛍光体)を用いてもよい。
黄色蛍光体としては、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)
3(Al,Ga)
5O
12:(Ce,Eu,Nd)、
オルソシリケートとしては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2SiO
4:(Eu,Ce)、
(酸)窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Ca,Mg)Si
2O
2N
2:Eu(SION系蛍光体)、(Li,Ca)
2(Si,Al)
12(O,N)
16:(Ce,Eu)(α‐サイアロン蛍光体)、(Ca,Sr)AlSi
4(O,N)
7:(Ce,Eu)(1147蛍光体)、(La,Ca,Y)
3(Al,Si)
6N
11:Ce(LSN蛍光体)
などが挙げられる。
尚、上記蛍光体においては、ガーネット系蛍光体が好ましく、中でも、Y
3Al
5O
12:Ceで表されるYAG系蛍光体が最も好ましい。
【0069】
(緑色蛍光体)
上記の態様において緑色蛍光体としては、本発明の第一の実施態様に係る蛍光体以外の蛍光体を含んでいてもよく、例えば、下記の蛍光体が好適に用いられる。
ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)
3(Al,Ga)
5O
12:(Ce,Eu,Nd)、Ca
3(Sc,Mg)
2Si
3O
12:(Ce,Eu)(CSMS蛍光体)、
シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)
3SiO
10:(Eu,Ce)、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2SiO
4:(Ce,Eu)(BSS蛍光体)、
酸化物蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba,Mg)(Sc,Zn)
2O
4:(Ce,Eu)(CASO蛍光体)、
(酸)窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)Si
2O
2N
2:(Eu,Ce)、Si
6−zAl
zO
zN
8−z:(Eu,Ce)(β‐サイアロン蛍光体)(0<z≦1)、(Ba,Sr,Ca,Mg,La)
3(Si,Al)
6O
12N
2:(Eu,Ce)(BSON蛍光体)、
アルミネート蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2Al
10O
17:(Eu,Mn)(GBAM系蛍光体)などが挙げられる。
【0070】
[発光装置の構成]
本実施態様の発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも本発明の第一の実施態様に係る蛍光体を使用している他は、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。
装置構成及び発光装置の実施形態としては、例えば、特開2007−291352号公報に記載のものが挙げられる。
その他、発光装置の形態としては、砲弾型、カップ型、チップオンボード、リモートフォスファー等が挙げられる。
【0071】
{発光装置の用途}
本発明の第二の実施態様に係る発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0072】
[照明装置]
本発明の第三の実施態様は、本発明の第二の実施態様に係る発光装置を光源として備えることを特徴とする照明装置である。
本発明の第二の実施態様に係る発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、保持ケースの底面に多数の発光装置を並べた面発光照明装置等を挙げることができる。
【0073】
[画像表示装置]
本発明の第四の実施態様は、本発明の第二の実施態様に係る発光装置を光源として備えることを特徴とする画像表示装置である。
本発明の第二の実施態様に係る発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0075】
<測定方法>
[発光特性]
試料を銅製試料ホルダーに詰め、蛍光分光光度計FP−6500(JASCO社製)を用いて励起発光スペクトルと発光スペクトルを測定した。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行った。また、発光ピーク波長(以下、「ピーク波長」と称することがある。)と発光ピークの半値幅は、得られた発光スペクトルから読み取った。
【0076】
[色度座標]
x、y表色系(CIE 1931表色系)の色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの460nm〜800nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標CIExとCIEyとして算出した。
【0077】
[EPMAによる元素分析]
本発明の第一の実施態様で得られた蛍光体の元素を調べるために下記の元素分析を実施した。走査型電子顕微鏡(SEM)による観察にて結晶を数個選び出したのち、電子プローブマイクロアナライザー(波長分散型X線分析装置:EPMA)JXA−8200(JEOL社製)を用いて各元素の分析を実施した。なお、本装置における酸素の検出限界値は100ppmである。
【0078】
[ICPによる元素分析]
Si、Al、Eu、Mgの定量は、EPMA元素分析の他、下記のICP元素分析で代替してもよい。
試料をアルカリ溶融後、酸を添加して溶解し、得られた試料溶液を適宜希釈して、誘導結合プラズマ発光分析装置iCAP7600 Duo(Thermo Fisher Scientific社製)で定量した。測定条件は以下の通りである。
RFパワー:1200W
ネブライザイーガス流量:0.60L/min
クーラントガス流量:12L/min
補助ガス:1.0L/min
【0079】
[O,N定量]
酸素窒素水素分析装置(LECO社製 TCH600)にて不活性ガス雰囲気下インパルス炉加熱抽出−NIR(O)検出法/TCD(N)検出法で定量した。なお、本装置における酸素の検出限界値は0.2重量%であり、実施例および比較例においては、約0.1gのサンプルを測定した。
【0080】
[粉末X線回折測定]
粉末X線回折は、粉末X線回折装置D2 PHASER(BRUKER社製)にて精密測定した。測定条件は以下の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=30KV,10mA
走査範囲 2θ=5°〜65°
読み込み幅=0.025°
【0081】
[格子定数精密化]
格子定数は、各実施例の粉末X線回折測定データより、空間群が(P6
3/m)(Intarnational Tables for Crystallography,No.176)に分類される結晶構造に起因したピークを抽出し、データ処理用ソフトTOPAS 4(Bruker社製)を用いて精密化することにより求めた。
【0082】
{蛍光体の製造}
[実施例1〜7]
蛍光体原料として、EuN、Si
3N
4、AlNを用いて、次のとおり蛍光体を調製した。
上記原料を、下記表1に示す各重量となるように電子天秤で秤量し、アルミナ乳鉢に入れ、均一になるまで粉砕及び混合した。さらに、この混合粉にフラックスとしてMg
3N
2(セラック社製)を1.00g加えて、さらに粉砕、混合を実施した。これらの操作は、Arガスで満たしたグローブボックス中で行った。
【0083】
【表1】
【0084】
得られた原料混合粉末から約0.5gを秤量し、窒化ホウ素製坩堝にそのまま充填した。この坩堝を、真空加圧焼成炉(島津メクテム社製)内に置いた。次いで、8×10
−3Pa以下まで減圧した後、室温から800℃まで昇温速度20℃/分で真空加熱した。800℃に達したところで、その温度で維持して炉内圧力が0.85MPaになるまで窒素ガスを5分間導入した。窒素ガスの導入後、炉内圧力を0.85MPaに保持しながら、さらに、1600℃まで昇温し、1時間保持した。さらに、1950℃まで加熱し、1950℃に達したところで4時間維持した。焼成後1200℃まで冷却し、次いで放冷した。その後、生成物を解砕し、実施例3〜7の蛍光体を得た。尚、実施例1〜2については、生成物を解砕後、緑色結晶を選びだして、実施例1〜2の蛍光体を得た。
【0085】
実施例1の蛍光体について、SEM観察をした結果を
図1に示す。また、SEM観察より実施例1の単結晶を選び出し、構成する元素とその比率を調べるため元素分析(EPMA測定)を実施した。EPMAにおいて検出された元素はEu、Al、Si、Nであり、マグネシウムと酸素は検出限界以下であった。定量分析の結果、Eu:Al:Siの原子比は、0.016(1):0.048(1):2.95(2)であった。括弧内の数字は標準偏差を表す。焼成時における酸素の混入はほぼゼロであることが確認された。
【0086】
次に、実施例1の単結晶構造解析を実施した。単結晶X線回折により得られた基本反射から考えた結果、実施例1の蛍光体の結晶系は、六方晶系であり、格子定数は、a=7.6265(4)Å、b=7.6265(4)Å、c=2.9075(2)Å、α=90°、β=90°、γ=120°と指数づけされた。また、実施例1の蛍光体の単位格子体積は146.454Å
3であった。
【0087】
また、実施例1の蛍光体の励起・発光スペクトルを
図2に示した。励起スペクトルは、540nmの発光をモニターしたものである。また、発光スペクトルは450nmで励起したときの測定結果である。実施例1の蛍光体は、発光ピーク波長540nm、半値幅70nmの発光スペクトルを示し、緑色の発光を示すことが確認できた。
【0088】
実施例2、3の蛍光体について、SEM観察より実施例2、3の単結晶を選び出し、EPMA組成分析を実施した。EPMAにおいて検出された元素は実施例1と同様にEu、Al、Si、Nでマグネシウムと酸素は検出限界以下であった。また、定量分析の結果、Eu:Al:Siの原子比は、実施例2では0.008(1):0.039(1):2.96(2)であり、実施例3では0.006(1):0.030(1):2.97(2)であった。括弧内の数字は標準偏差を表す。焼成時における酸素の混入はほぼゼロであることが確認された。
【0089】
実施例4の蛍光体について、ICPによる組成分析と酸素窒素水素分析装置によるO/N分析を実施した。その結果、酸素は検出限界以下であり、Eu:Al:Siの原子比は、0.003:0.04:2.96であった。
実施例3、4、5、7の蛍光体の粉末X線回折パターンを
図3に示す。また、得られた粉末X線回折パターンより精密化した実施例2〜7の蛍光体の格子定数、ならびに単位格子体積を表2に示す。実施例2〜7において、実施例1と同様の構造を有する蛍光体がほぼ単相で得られた。
【0090】
【表2】
【0091】
本発明の第一の実施態様によって得られる蛍光体は、結晶内のEu:Al:Siの割合を変化させることで、a軸が7.604Åから7.6265Åまで、c軸が2.906Åから2.908Åまで変化し、それに伴い、単位格子体積も145.53Å
3から146.454Å
3まで変化することが分かった。
実施例2、3、5、7の蛍光体について、波長450nmの光で励起したときの発光スペクトルを
図4に示す。また、実施例2〜7の蛍光体について、波長450nmの光で励起したときの発光スペクトルから読み取った発光ピーク波長、半値幅、および、色度を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
本発明の第一の実施態様によって得られる蛍光体は、結晶内のEu:Al:Siの割合を変化させることで、発光スペクトルにおける発光ピーク波長を513nmから540nmまで、また、半値幅を40nmから76nmまで変化させることが可能であることが明らかとなった。すなわち、任意の組成にすることで、青緑色から黄緑色の発光を得ることができる。
【0094】
[実施例8]
蛍光体原料として、Eu
2O
3、Si
3N
4、AlN、Al
2O
3を用いて、次のとおり蛍光体を調製した。
Si
3N
4としてα型Si
3N
4(宇部興産製:SN−E10)を圧力0.92MPaの窒素雰囲気下において1950℃、12時間の熱処理を実施し、すべてβ型にしたSi
3N
4を使用した。
上記原料を、下記表4に示す各重量となるように電子天秤で秤量し、アルミナ乳鉢に入れ、大気中で均一になるまで粉砕及び混合した。実施例8では窒化マグネシウムは用いなかった。
得られた原料混合粉末から約2.0gを秤量し、窒化ホウ素製坩堝にそのまま充填した。この坩堝を、真空加圧焼成炉(島津メクテム社製)内に置いた。次いで、8×10
−3Pa以下まで減圧した後、室温から800℃まで昇温速度20℃/分で真空加熱した。800℃に達したところで、その温度で維持して炉内圧力が0.85MPaになるまで窒素ガスを5分間導入した。窒素ガスの導入後、炉内圧力を0.85MPaに保持しながら、さらに、1600℃まで昇温し、1時間保持した。さらに、2000℃まで加熱し、2000℃に達したところで4時間維持した。焼成後1200℃まで冷却し、次いで放冷した。その後、生成物を解砕し、実施例8の蛍光体を得た。
実施例8はすべてβ‐SiAlON単相であった。
【0095】
【表4】
【0096】
実施例8のICPによる組成分析と酸素窒素水素分析装置によるO/N分析を実施した。その結果、酸素が検出され、Eu:Al:Si:О:Nの原子比は、0.003:0.05:2.95:0.04:3.91であった。
実施例4、実施例8の蛍光体について、波長450nmの光で励起したときの発光スペクトルを
図5に示す。また、実施例4と実施例8の蛍光体について、波長450nmの光で励起したときの発光スペクトルから読み取った発光ピーク波長、半値幅、および、色度を表5に示す。
結晶構造中の酸素を減少させることにより、発光ピーク波長が短波長化し、半値幅も狭くなることが明らかとなった。
【0097】
【表5】