(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定対象である試料に励起光を照射して放出された蛍光を測定し、励起波長に対する蛍光強度を示す励起スペクトルおよび特定の波長の励起光を照射して放出された蛍光の蛍光波長に対する蛍光強度を示す蛍光スペクトルを取得する分光蛍光光度計と、
前記試料を溶離時間に従って含有する物質毎に分離するとともに、当該物質毎の吸収波長を取得する液体クロマトグラフ装置と、
前記溶離時間に従って分離された物質毎の質量情報を取得する質量分析装置と、
前記分光蛍光光度計と、前記液体クロマトグラフ装置と、前記質量分析装置とを制御する制御部と、
測定結果を表示する表示部と、を備え、
前記制御部は、
前記分光蛍光光度計が取得した特定の励起波長に対する蛍光強度のピークと、当該蛍光強度のピークに対応した、前記液体クロマトグラフ装置が取得した特定の吸収波長に対する吸光度のピークに基づき、少なくとも前記吸光度のピークが得られた溶離時間に対応した、前記質量分析装置が取得した質量情報を前記表示部に表示する、
試料分析システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
三次元蛍光スペクトル測定において蛍光ピークが出現した際、試料に含まれる蛍光物質が未知な場合、その物質を特定することは容易ではない。サイズ排除カラムと蛍光検出器を用いた測定系にて校正試料を測定して溶離時間より分子量を推定する特許文献1及び2の方法があるが、この方法では、複数の既知の分子量を有する校正試料にて分子量と溶離時間の関係性を予め把握する必要があり、また得られる分子量は、校正試料に対する予測値であるため分子量の精度は高くない。そのため、非特許文献1の記載にもあるように、予め成分の予測がされており、タンパク質や腐植物質などの成分で分子量分布の特徴を把握する場合には有効であるが、未知の成分推定で分子量を把握したい場合には、適していない。サイズ排除カラムを用いる際、ある程度分子量を推測した上で分子量に応じた校正試料を複数用意する必要があり、さらにそれに応じた溶離条件の最適化が必要であるので煩雑であるという課題があった。
【0008】
本発明は、分光蛍光光度計で取得される三次元蛍光スペクトルにおける未知の蛍光ピークを同定するための情報として質量情報を推定することができる試料分析システム、表示方法及び試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の試料分析システムは、測定対象である試料に励起光を照射して放出された蛍光を測定し、励起波長に対する蛍光強度を示す励起スペクトルおよび特定の波長の励起光を照射して放出された蛍光の蛍光波長に対する蛍光強度を示す蛍光スペクトルを取得する分光蛍光光度計と、前記試料を溶離時間に従って含有する物質毎に分離するとともに、当該物質毎の吸収波長を取得する液体クロマトグラフ装置と、前記溶離時間に従って分離された物質毎の質量情報を取得する質量分析装置と、前記分光蛍光光度計と、前記液体クロマトグラフ装置と、前記質量分析装置とを制御する制御部と、測定結果を表示する表示部と、を備え、前記制御部は、前記分光蛍光光度計が取得した特定の励起波長に対する蛍光強度のピークと、当該蛍光強度のピークに対応した、前記液体クロマトグラフ装置が取得した特定の吸収波長に対する吸光度のピークに基づき、少なくとも前記吸光度のピークが得られた溶離時間に対応した、前記質量分析装置が取得した質量情報を前記表示部に表示する。
【0010】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記分光蛍光光度計は、励起波長と、蛍光波長と、蛍光強度を含む三次元蛍光スペクトルを取得する。
【0011】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記液体クロマトグラフ装置は、前記溶離時間と、前記吸収波長と、吸光度を含む三次元吸収スペクトルを取得する。
【0012】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記液体クロマトグラフ装置は、前記試料を溶離時間に従って含有する物質毎に分離する分離カラムと、当該分離カラムによって分離された物質毎の吸収波長を測定するダイオードアレイ検出器とを有する。
【0013】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記分離カラムによって分離された物質を、前記ダイオードアレイ検出器および前記質量分析装置の双方に導入する。
【0014】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記質量分析装置は、前記溶離時間と、前記質量情報と、イオン強度を含む三次元質量スペクトルを取得する。
【0015】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記質量情報が質量電荷比である。
【0016】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記質量分析装置は、単一または複数の質量検出部から構成される。
【0017】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記試料を当該試料分析システムに導入する試料導入ユニットを更に備え、前記試料導入ユニットが、前記分光蛍光光度計へ試料を導入し、前記分光蛍光光度計が、励起スペクトルを取得した後に、前記液体クロマトグラフ装置に試料を導入する。
【0018】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記試料を当該試料分析システムに導入する試料導入ユニットを更に備え、前記試料導入ユニットが、前記分光蛍光光度計及び前記液体クロマトグラフ装置の双方に試料を導入する。
【0019】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記制御部は、前記分光蛍光光度計が取得した特定の励起波長に対する蛍光強度のピークを検出し、前記蛍光強度のピークに対応した、前記液体クロマトグラフ装置が取得した特定の吸収波長に対する吸光度のピークを特定し、前記吸光度のピークが得られた溶離時間に対応した、前記質量分析装置が取得した質量情報を特定する。
【0020】
本発明の試料分析システムの一態様として例えば、前記分光蛍光光度計は、励起波長と、蛍光波長と、蛍光強度を含む三次元蛍光スペクトルを取得し、前記液体クロマトグラフ装置は、前記溶離時間と、前記吸収波長と、吸光度を含む三次元吸収スペクトルを取得し、前記質量分析装置は、前記溶離時間と、前記質量情報と、イオン強度を含む三次元質量スペクトルを取得し、前記制御部は、前記三次元蛍光スペクトルの励起波長の軸と、前記三次元吸収スペクトルの吸収波長の軸を同じ尺度に揃え、前記三次元吸収スペクトルの溶離時間の軸と、前記三次元質量スペクトルの溶離時間の軸を同じ尺度に揃え、前記表示部が、前記三次元蛍光スペクトルと、前記三次元吸収スペクトルと、前記三次元質量スペクトルとを並べて表示する。
【0021】
本発明の表示方法は、分光蛍光光度計と、液体クロマトグラフ装置と、質量分析装置と、測定結果を表示する表示部と、を備える試料分析システムを用いて実施する表示方法であって、前記分光蛍光光度計が取得する三次元蛍光スペクトルの励起波長の軸と、前記液体クロマトグラフ装置が取得する三次元吸収スペクトルの吸収波長の軸を同じ尺度に揃え、前記三次元吸収スペクトルの溶離時間の軸と、前記質量分析装置が取得する三次元質量スペクトルの溶離時間の軸を同じ尺度に揃え、前記表示部が、前記三次元蛍光スペクトルと、前記三次元吸収スペクトルと、前記三次元質量スペクトルとを並べて表示する。
【0022】
本発明の試料分析方法は、分光蛍光光度計と、液体クロマトグラフ装置と、質量分析装置とを備える試料分析システムを用いて実施する試料分析方法であって、前記分光蛍光光度計が取得した特定の励起波長に対する蛍光強度のピークを検出し、前記蛍光強度のピークに対応した、前記液体クロマトグラフ装置が取得した特定の吸収波長に対する吸光度のピークを特定し、前記吸光度のピークが得られた溶離時間に対応した、前記質量分析装置が取得した質量情報を特定する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の試料分析システム、表示方法及び試料分析方法は、分光蛍光光度計と、液体クロマトグラフ装置と、質量分析装置とで取得した各スペクトルを軸調整し、三次元蛍光スペクトルにピークとして出現した蛍光成分の質量情報(質量電荷比:m/z)を基に、未知の物質を推定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る試料分析システムの好適な実施形態を、
図1〜
図16に基づいて詳述する。
【0026】
図1は、本発明に係る試料分析システムに用いられる分光蛍光光度計の一実施形態を示す構成ブロック図である。
図1を用いて分光蛍光光度計の構成を詳述する。
【0027】
分光蛍光光度計1は、試料に励起光を照射して、試料から放出された蛍光を測定する装置であり、光度計部10と、光度計部10内に配置され、光度計部10をコントロールし試料を分析するデータ処理部30と、入出力を行う操作部40とを備える。
【0028】
光度計部10は、光源11と、光源11の光から分光して励起光を生成する励起側分光器12と、励起側分光器12からの光を分光するビームスプリッタ13と、ビームスプリッタ13で分光された一部の光の強度を測定するモニタ検知器14と、試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器15と、単色の蛍光の電気信号を検知する検知器(蛍光検知器)16と、励起側分光器12の回折格子を駆動する励起側パルスモータ17と、蛍光側分光器15の回折格子を駆動する蛍光側パルスモータ18とを備える。さらに光度計部10は、測定対象の試料を収容して保持する試料容器50を設置するための試料設置部21を備えている。ビームスプリッタ13からの励起光が試料容器50に入射し、試料から放出された蛍光が蛍光側分光器15に入射する。試料設置部21は、ビームスプリッタ13からの励起光が、適切に試料容器50に入射可能なように、その位置が調整可能であってもよい。
【0029】
データ処理部30は、コンピュータ31と、コンピュータ31内に配置される中央処理部32と、試料からの蛍光をデジタル変換するA/D変換器33を備える。また、操作部40は、操作者が、コンピュータ31の処理に必要な入力信号を入力する操作パネル41と、コンピュータ31により処理された各種分析結果を表示する表示装置42と、操作パネル41及び表示装置42とコンピュータ31とを連結するインターフェース43とを備える。
【0030】
操作者が操作パネル41により入力した測定条件に応じて、コンピュータ31が励起側パルスモータ17に信号を出力し、励起側パルスモータ17が駆動して励起側分光器12が目的の波長位置に設定される。また、同じく測定条件に応じて、コンピュータ31が蛍光側パルスモータ18に信号を出力し、蛍光側パルスモータ18が駆動して蛍光側分光器15が目的の波長位置に設定される。励起側分光器12、蛍光側分光器15は、所定のスリット幅を持つ回折格子やプリズムなどの光学素子を有しており、励起側パルスモータ17、蛍光側パルスモータ18を動力とし、ギヤやカム等の駆動系部品を介して光学素子を回転運動させることでスペクトル走査が可能となる。
【0031】
図2に示す励起スペクトルは、試料容器50内の試料に対し、励起光の励起波長を変化させた際の蛍光強度を測定することにより得られるスペクトルである。励起側分光器12が励起波長を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、各波長の励起光を試料に照射する。その時の固定波長に設定されている蛍光側分光器15を経て特定波長の蛍光の変化を検知器16が検出し、A/D変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。コンピュータ31(中央処理部32)が、この信号強度を解析処理し、表示装置42にスペクトルを表示する。
【0032】
表示装置42は、測定結果として、励起波長と蛍光強度の
図2に示されるような2次元の励起スペクトルを表示する。
図2のスペクトル(グラフ)は、特定の蛍光波長(例えば550nm)において励起波長を変化させた際の蛍光強度(任意単位)を示している。
【0033】
図3に示す蛍光スペクトルは、試料容器50内の試料に対し、固定波長の励起光を照射し、蛍光波長を変化させた際の波長毎の蛍光強度を測定することにより得られるスペクトルである。固定波長に設定された励起側分光器12からの励起光を試料に照射する。蛍光側分光器15は、その時の測定対象の蛍光を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、波長毎の蛍光の変化を検知器16が検出し、A/D変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。コンピュータ31(中央処理部32)が、この信号強度を解析処理し、表示装置42にスペクトルを表示する。
【0034】
表示装置42には、測定結果として、蛍光波長と蛍光強度の
図3に示されるような2次元の蛍光スペクトルを表示する。
図3のスペクトルは、励起光が特定波長(例えば450nm)であり、蛍光波長を変化させた際の蛍光強度を示している。
【0035】
図4は、表示装置42が表示する三次元スペクトルであり、特に三次元蛍光スペクトルを示す。試料に対し、励起波長を固定した際の蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル走査が終了したら、蛍光波長を測定開始波長に戻し、励起波長を所定の波長間隔だけ駆動、次の励起波長における蛍光スペクトルを測定する。得られた蛍光スペクトルを励起波長、蛍光波長、蛍光強度の三次元で記憶し、励起波長が最終の波長に達するまで繰り返すことにより、三次元蛍光スペクトルを取得することができる。本スペクトルは、
図2の励起スペクトルと
図3の蛍光スペクトルの組み合わせということができる。
【0036】
得られた三次元蛍光スペクトルは、
図4に示すように同一の蛍光強度をそれぞれ線で結び、等高線図や鳥瞰図等の模擬三次元形式にて描写される。等高線で山となる励起波長および蛍光波長が、試料の測定に適した励起波長、特徴的な蛍光波長となり、操作者は、試料の測定範囲内の励起波長と蛍光波長の蛍光特性を、容易に把握することが可能となる。このような三次元蛍光スペクトルは、試料中の蛍光物質の成分数や成分の同定等、多くの情報を得ることができる点で有用である。
【0037】
分光蛍光光度計1は、短い測定時間で試料の励起波長と、蛍光波長と、蛍光強度が取得でき、蛍光強度のピークを分析して既知の情報と照合できれば、速やかに物質を特定可能である。しかしながら、蛍光強度のピークとして未知の物質が検出され、既知の情報に存在しないような場合には、特定は困難である。
【0038】
そこで、発明者は、1)分光蛍光光度計1の蛍光強度と、後述する液体クロマトグラフ装置60の吸光度に相関性があること、2)液体クロマトグラフ装置60が溶離時間毎に物質を分離して吸収強度を得るとともに、後述する質量分析装置70がこの溶離時間毎に分離した物質の質量情報を測定できることを見出した。この結果、蛍光強度と質量情報を結び付け、未知の物質を円滑に特定する試料分析システム100及びその方法を見出した。
【0039】
上述の1)分光蛍光光度計1の蛍光強度と、後述する液体クロマトグラフ装置60との吸光度に相関性に関して、ランバートベールの法則を論ずる必要がある。ランバートベールの法則により、蛍光強度Fと吸光度Abs(=εcd)との関係は、式)F=I
0(2.303εcd)φ
f、であることが知られている。
ここで、
F:蛍光強度
I
0:入射光強度
ε:モル吸光係数
c:濃度
d:液槽の長さ(光路長)
φ
f:量子収率
である。
【0040】
上式に示すように、A)蛍光強度Fは、I
0(2.303εcd)φ
fで表される。この時、吸光度Absは、εcdとなる。また、B)量子収率φ
fは、物質の発光効率であるが、波長によらずほぼ一定の値となる。さらに、C)入射光強度(励起光強度)I
0も装置関数を適用することで、波長によらずほぼ一定の値となる。
【0041】
以上により、蛍光強度Fは、吸光度Abs(εcd)と比例関係になることが分かる。また、上記B)及びC)により、この比例関係は励起波長を変えた際にも成立することが理解され、励起波長に対する蛍光強度と、吸収波長に対する吸光度は比例関係になることが理解される。実験により得られた
図5に示されるグラフからも、試料(ローダミンB)に光を照射して得られる蛍光強度を示す励起スペクトル(
図5(a))と、試料に光を照射して得られる吸収強度を示す吸収スペクトル(
図5(b))とは、互いに相関性が高いデータであると判断できる。即ち、(分光蛍光光度計1の)励起波長に対する蛍光強度の関係と、(液体クロマトグラフ装置60の)吸収波長に対する吸光度(吸収強度)には相関性があり、励起スペクトルおよび吸収スペクトルそれぞれの強度(蛍光強度、吸光度)は、実質的に同じ挙動を示すことが理解される。
【0042】
よって、分光蛍光光度計1により試料中で特定の励起波長で未知の蛍光強度のピークを持つ物質が検出された場合、この試料を液体クロマトグラフ装置60で測定すると、実質的に同一の吸収波長において吸光度のピークが得られる可能性が高い。そして、上記2)のように液体クロマトグラフ装置60の溶離時間に対し、質量分析装置70が連動した溶離時間で質量情報を取得しているため、このピークが発現した液体クロマトグラフ装置60の溶離時間に対し、質量分析装置70が同じ溶離時間で取得した質量情報が対応するはずであり、結果的に、未知の蛍光強度のピークを持つ物質の質量情報が特定されると判断できる。これにより、物質を速やかに特定しやすくなるという結論が導き出せる。
【0043】
図6は、本発明に係る試料分析システムのブロック図である。
図6に基づいて試料分析システムの第1の実施形態を説明する。
【0044】
試料分析システム100は、分光蛍光光度計1と、液体クロマトグラフ装置60と、質量分析装置70と、制御装置110と、試料導入ユニット120とを備える。
【0045】
分光蛍光光度計1は、励起波長と、蛍光波長と、蛍光強度を含む三次元蛍光スペクトルを取得する装置で、構成は
図1で詳述している。液体クロマトグラフ装置60は、分光蛍光光度計1で分析した試料を溶離時間に従って含有する物質毎に分離するとともに、当該物質毎の吸収波長を取得する装置で、分離カラム61とダイオードアレイ検出器62を有し、溶離時間と吸収波長と吸光度を含む三次元吸収スペクトルを取得する。即ち、分離カラム61は、試料を溶離時間に従って含有する物質毎に分離し、ダイオードアレイ検出器62は、分離カラム61によって分離された物質毎の吸収波長を測定する。また、分離カラム61は、恒温槽63内に配置されている。
【0046】
質量分析装置70は、液体クロマトグラフ装置60で溶離時間に従って分離された物質毎の質量情報を取得する装置で、例えば物質を構成する分子の質量情報、例えば分子量情報を取得する第1の質量検出部と、当該分子を分解して得られるプロダクトイオンの質量情報を取得可能なMS
n機能を有する第2の質量検出部を有し、溶離時間と質量情報とイオン強度を含む三次元質量スペクトルを取得する。また、質量情報は、荷電粒子の質量と電荷の比である質量電荷比(m/z)である。ここで、mは分子質量、zは電荷数である。ただし、質量分析装置70の構成は特に限定されず、単一の質量検出部から構成されてもよいし、二段以上で、検出対象となる質量情報の異なる複数の質量検出部を備えてもよい。
【0047】
制御装置110は、制御部111と表示部112と入力部113とを有し、制御部111は、分光蛍光光度計1と液体クロマトグラフ装置60と質量分析装置70とを制御する。表示部112は測定条件及び測定結果などを表示する。入力部113は、操作者が各種分析に必要なデータや各種装置を動作させるコマンドなどを入力する装置である。また、分光蛍光光度計1のデータ処理部30及び操作部40は、制御装置110と統合しても良く、独立するが各種データが共用できるネットワークで連携されていても良い。
【0048】
また制御部111は、分光蛍光光度計1が取得した特定の励起波長に対する蛍光強度のピークと、当該蛍光強度のピークに対応した、液体クロマトグラフ装置60が取得した特定の吸収波長に対する吸光度のピークに基づき、吸光度のピークが得られた溶離時間に対応した、質量分析装置70が取得した質量情報を表示部112に表示する。
【0049】
試料導入ユニット120は、試料を試料分析システム100に導入し、送液部121と試料導入部122とを有する。また、試料分析システム100は、試料導入部122に導入する溶離液を貯蔵する溶離液部130と排出された溶離液を貯蔵する廃液部131を有している。廃液部131は、少なくとも一つ以上配置されている。また、試料導入部122は、マイクロシリンジなどで試料を導入するマニュアルインジェクターまたはバイアルに入れた試料を自動分注器で導入するオートサンプラーで構成される。
【0050】
図7のフロー図に基づいて、試料分析システム100を用いて実施する試料分析方法の手順の一例について説明する。
【0051】
試料導入ユニット120の送液部121は、ポンプなどにより溶離液部130の溶離液を試料導入部122に送液する。導入された試料は溶離液とともに流路を流れ、分光蛍光光度計1に導かれる。通常、分光蛍光光度計1は溶液試料を10mm角セルに入れ、試料設置部21に設置し測定するが、試料送液方式とするため、本発明の分光蛍光光度計1の試料容器50には試料の溶液が試料設置部21に対して前後に流れるフローセルを用いることが望ましい。
【0052】
試料が試料容器(フローセル)50に導入された後、分光蛍光光度計1にて試料に含まれる全蛍光成分における三次元蛍光スペクトル(励起波長、蛍光波長、蛍光強度)を取得する(S10)。当該三次元蛍光スペクトルは
図8(c)のグラフに示されている。三次元蛍光スペクトルは、
図8(a)の励起スペクトルと、
図8(b)の蛍光スペクトルとの組み合わせである。
【0053】
測定の際、脈流の影響でノイズが生じるため、送液は一旦停止するか脈流の影響が無い程度まで低流量にした状態で行うことが望ましい。測定に用いた試料溶液は、励起光が照射され光分解されることがある。特に、分光蛍光光度計1の光源11は光量が強いため、試料に含まれる成分の光分解に留意する必要がある。そのため、フローセル50の出口の流路は2分岐させ、測定に用いた試料溶液部分を廃液部131に導いて廃棄しても良い。光劣化が懸念される場合、次の工程に試料が送液される際に分光蛍光光度計1のフローセル50の部分に励起光が遮断されるシャッターを挿入しておくことが望ましい。なお、光分解の影響が無い試料の場合は、そのまま次の工程に使用しても良い。
【0054】
つづいて、分光蛍光光度計1のフローセル50を通過した試料は、液体クロマトグラフ装置60の分離カラム61に到達する。分離カラム61と試料の各成分の相互作用によって、各成分が分離カラム61を通過する時間が異なることから、溶離時間によって成分が分離される(S20)。溶離時間は温度に依存するため、恒温層53にて一定温度に保つことが望ましい。
【0055】
分離カラム61を通過した試料の各成分は、異なる溶離時間にてダイオードアレイ(DAD)検出器62に導かれる。ダイオードアレイ検出器62は、高速で吸収スペクトルを測定することが可能であることから、ここでは三次元の吸収スペクトル(溶離時間、吸収波長、吸光度)を取得する(S30)。三次元の吸収スペクトルは、
図9に示されている。ダイオードアレイ検出器62において試料に照射される入射光は、分光蛍光光度計1の励起光と比較して、光量が小さいため、試料に含まれる成分の光分解の影響は無いことが多い。
【0056】
ダイオードアレイ検出器62を通過した試料の各成分は、異なる溶離時間を保持したまま質量分析装置70に導かれ、質量分析装置70が三次元の質量スペクトル(溶離時間、質量電荷比(m/z)、イオン強度)を取得する(S40)。三次元の質量スペクトルは、
図10に示されている。
【0057】
質量分析装置70が、例えば上述した第1の質量検出部及び第2の質量検出部を有する場合、第1の質量検出部が高真空下で気体にし、イオン化した物質(分子)の質量情報を取得する。そして、第2の質量検出部は、第1の質量検出部で測定した分子を分解して得られるプロダクトイオンの質量情報を取得する。即ち、第1の質量検出部で分子量情報を取得して、第2の質量検出部でさらに化合物を推定するためのプロダクトイオンの質量情報を取得することができる。
【0058】
上述のフローでは、液体クロマトグラフ装置60における溶離時間に連動して行われるため、溶液時間に沿って測定される試料(物質)は同一である。
【0059】
次に、分光蛍光光度計1で取得される三次元蛍光スペクトルにおける未知の蛍光ピークを同定するための情報として質量情報(質量電荷比:m/z)を推定する手順について、
図11のフロー図に基づいて説明する。
図11(a)は第1のフロー、
図11(b)は第2のフローを示している。
【0060】
第1のフローでは、
図7のフローで保存されたデータを呼び出し(S100)、三次元蛍光スペクトルのみを表示部112に表示する(S110、
図8(c)参照)。次に、例えば操作者の処理命令入力などにより、制御部111は一気に蛍光強度のピークをサーチし(S120)、それに一致する液体クロマトグラフ装置60の三次元吸収スペクトルデータにおける吸収ピークを探索して(S130)、該当する吸収ピークの溶離時間を取得する。
【0061】
そして、溶離時間軸を一致させた液体クロマトグラフ装置60の三次元吸収スペクトルデータと質量分析装置70の三次元質量スペクトルデータより、制御部111は、吸収ピークを探索して(S140)、該当する吸収ピークの溶離時間を取得する。さらに制御部111は、吸収ピークの溶離時間から該当する質量分析装置70の三次元質量スペクトルデータにおける質量電荷比(m/z)を演算処理する(S150)。
【0062】
第2のフローでは、
図7のフローで保存されたデータを呼び出し(S100)、三次元蛍光スペクトルと、当該三次元蛍光スペクトルに関係する三次元吸収スペクトル、三次元質量スペクトル等を
図12の配置で表示部112に表示する(S111)。操作者は、分光蛍光光度計1で取得した三次元蛍光スペクトルデータにおける励起波長軸(Y軸)と液体クロマトグラフ装置60のダイオードアレイ検出器62にて取得した三次元吸収スペクトルデータにおける吸収波長軸(Y軸)のスケール範囲を一致させる(S112)。つづいて、ダイオードアレイ検出器62にて取得した三次元吸収スペクトルデータの溶離時間軸(X軸)と質量分析装置70の三次元質量スペクトルデータにおける溶離時間軸(X軸)を一致させる(S113)。
【0063】
その後、操作者は三次元蛍光スペクトル(EEM:Excitation Emission Matrix)データの着目する成分の励起波長のピーク波長を指定し(S120)、それに一致する液体クロマトグラフ装置60の三次元吸収スペクトルデータにおける吸収ピークを探索して(S130)、該当する吸収ピークの溶離時間を取得する。その後、溶離時間軸を一致させた液体クロマトグラフ装置60の三次元吸収スペクトルデータと質量分析装置70の三次元質量スペクトルデータより、吸収ピークを探索して(S140)、該当する吸収ピークの溶離時間を取得する。
【0064】
本発明の試料分析システム100では、分光蛍光光度計1で、励起波長と、蛍光波長と、蛍光強度を含む三次元蛍光スペクトルを取得し、液体クロマトグラフ装置60で、溶離時間と、吸収波長と、吸光度を含む三次元吸収スペクトルを取得し、質量分析装置70で、溶離時間と、質量情報と、イオン強度を含む三次元質量スペクトルを取得している。
【0065】
そして、制御部111は、三次元蛍光スペクトルの励起波長の軸と、三次元吸収スペクトルの吸収波長の軸を同じ尺度に揃え、三次元吸収スペクトルの溶離時間の軸と、三次元質量スペクトルの溶離時間の軸を同じ尺度に揃え、表示部112が、三次元蛍光スペクトルと、三次元吸収スペクトルと、三次元質量スペクトルとを並べて表示する。
図13は、
図12のグラフに対して、軸調整、軸表示(実直線)、ピーク同定(破線)を行った表示である。尚、
図12、
図13では溶離時間に対する吸光度の変化を示す質量スペクトルも表示されている。また、第1のフローによる処理においても、表示部112が
図12、
図13の表示を行ってよい。
【0066】
各スペクトルの軸を揃える方法は、操作者による場合と、ソフトで自動的に制御部111が行う場合が有り、特に限定しない。また、軸を揃える場合、特定の波長範囲などを絞っても良い。
【0067】
そして、吸収ピークの溶離時間から該当する質量分析装置70の三次元質量スペクトルデータにおける質量電荷比(m/z)を確定することが可能となる(S150)。この結果、操作者等は、質量電荷比の如き質量情報を利用することができるため、例え三次元蛍光スペクトル等において未知の物質が検出されても、より容易に物質の種類を特定することが可能となる。特に、試料分析システム100を用いて
図12、
図13に示す表示部112の画面を表示する表示方法によれば、操作者は、尺度が揃った吸収波長の軸および溶離時間の軸を介して、容易にピークを同定することができ、未知の物質の質量情報を容易に入手することができる。
【0068】
図14は、試料分析システム100の第2の実施形態を示すブロック図である。
図14に基づいて試料分析システム100の第2の実施形態を説明する。
【0069】
第2の実施形態では、試料導入ユニット120の試料導入部122からの流路を2分岐させ、流路を切り替えることで、一方を分光蛍光光度計1、もう一方を液体クロマトグラフ装置60の分離カラム61に導いている。分光蛍光光度計1の測定に用いた試料溶液は、励起光が照射されることにより光分解されることがある。特に、分光蛍光光度計1の光源は光量が強く、試料に含まれる成分の光分解に留意する必要があるため、分光蛍光光度計1で使用した試料溶液は廃液部131に導いて廃棄し、分離カラム61以降の流路には、新たな状態の試料を導入することが可能となる構成である。
【0070】
図15は、試料分析システム100の第3の実施形態を示すブロック図である。
図15に基づいて試料分析システム100の第3の実施形態を説明する。
【0071】
第1の実施形態において、液体クロマトグラフ装置60のダイオードアレイ検出器62の測定に用いた試料溶液は、分光蛍光光度計1と比較して、光量は少ないが光照射されるため、光劣化または光反応した成分が質量分析装置70に導入される可能性がある。そのため、第3の実施形態では、分離カラム61からの流路を2分岐させ、流路を切り替えることで一方をダイオードアレイ検出器62、もう一方を質量分析装置70に導くことで、光照射されていない試料の成分の質量情報を得えることが可能となる。
【0072】
図16は、試料分析システム100の第4の実施形態を示すブロック図である。
図16に基づいて試料分析システム100の第4の実施形態を説明する。
【0073】
第4の実施形態では、分光蛍光光度計1が中央処理部32で制御され、液体クロマトグラフ装置60と質量分析装置70とが制御部111でコントロールされている。また、分光蛍光光度計1で使用した試料溶液は廃液部131に導いて廃棄し、分離カラム61以降の流路には、新たな状態の試料を導入する構成である。分光蛍光光度計1で測定した試料を一旦取り出し、人為的に液体クロマトグラフ装置60に移し、液体クロマトグラフ装置60で測定する。各種データは双方で連携されており、全体として制御装置110がコントロールしても良い。
【0074】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。また、質量分析装置は、四重極型、イオンとラップ型、セクタ型等があり、その種類は問わない。