(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985758
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20211213BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
H01L21/302 101E
H05H1/46 M
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-135786(P2020-135786)
(22)【出願日】2020年8月11日
(62)【分割の表示】特願2016-35730(P2016-35730)の分割
【原出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2020-194971(P2020-194971A)
(43)【公開日】2020年12月3日
【審査請求日】2020年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】山村 和也
(72)【発明者】
【氏名】境谷 省吾
(72)【発明者】
【氏名】舩戸 大輔
【審査官】
鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−206523(JP,A)
【文献】
特開2010−186749(JP,A)
【文献】
特開平11−335868(JP,A)
【文献】
特開2009−064618(JP,A)
【文献】
特開2010−087078(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02226832(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気開放下に配し、板状の加工対象物の表面との間でプラズマ発生空間を形成する非密閉式のプラズマ処理装置であって、
側面から下面及び上面にわたって区画壁で区画されており、上面の一部又は全部をセラッミクス製の誘電体板で形成し、両側に加工対象物が通過できる開口を形成し、内部の中央部に前記プラズマ発生空間となるプラズマ発生室を設け、その両側に排気室を設けた非密閉式のチャンバーと、
前記誘電体板の上の大気開放下に非接触状態で配置した電極と、
前記プラズマ発生空間に反応ガスを含むプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記両排気室から前記プロセスガス及び大気を排気して、前記プラズマ発生空間の圧力を20〜200Torrの減圧状態に維持する差動排気構造のガス排気系と、
前記電極に高周波電界を印加する高周波電源と、
を備え、一方の開口から他方の開口に加工対象物が通過する間に、前記プラズマ発生空間で発生させたプラズマで加工対象物の表面を処理する、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記チャンバーの開口には、前記加工対象物との隙間を弾性的に塞ぐシール材を設ける、請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電極は、少なくとも前記加工対象物の繰り送り方向と直交する方向に駆動機構で数値制御走査できる、請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
大気開放下に配し、板状の加工対象物の表面との間でプラズマ発生空間を形成する非密閉式のプラズマ処理装置であって、
中心にセラミックス被覆された電極を配置し、その周囲に同心状に反応ガスを含むプロセスガスのガス噴出管、更に外側にガス吸引管を多重に形成し、下面は略フラットに形成し、前記電極は前記ガス噴出管より若干後退した位置にあり、その先端と加工対象物との間に前記プラズマ発生空間となる所定ギャップを形成する構造の電極パッドと、
前記ガス噴出管に接続されたガス供給管を含み、該ガス供給管からガス噴出管を通して前記プラズマ発生空間にプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記ガス吸引管に接続されたガス排気管を含み、該ガス排気管でガス吸引管を通して前記プロセスガス及び大気を排気して、前記プラズマ発生空間の圧力を20〜200Torrの減圧状態に維持する差動排気構造のガス排気系と、
前記電極に高周波電界を印加する高周波電源と、
を備え、前記電極パッドを加工対象物の表面に沿って数値制御走査して、前記プラズマ発生空間で発生したプラズマで加工対象物の表面を処理する、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記プロセスガスは、希ガスとハロゲン元素含有ガスもしくは酸素ガスとの混合ガスであり、加工対象物の表面形状の創成が除去加工である、請求項1〜4何れか1項に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に係わり、更に詳しくは加工対象物の表面を高精密に形状創成するためのプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学基板材料や電子デバイス材料の表面を、局所プラズマを用いてエッチングし、高精度な形状創成を行う方法として、プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)法が提供されている(特許文献1,2参照)。プラズマCVM法は、大気圧下で局所的に発生させたプラズマを数値制御走査することにより、加工対象物の表面を任意形状にナノメーターオーダの精度で加工するものである。
【0003】
特許文献1には、高電圧を印加した電極によって発生させた反応ガスに基づく中性ラジカルを加工対象物の加工面に供給し、この中性ラジカルと加工面の原子又は分子とのラジカル反応によって生成した揮発性物質を気化させて除去し、シリコン単結晶等の半導体若しくは導体又はガラスやセラミックス等の絶縁体に欠陥や熱的変質層を導入することなく高精度に加工することが可能な無歪精密加工方法が開示されている。この特許文献1は、プラズマCVM法の原理特許である。
【0004】
特許文献2には、特許文献1の加工原理を用いて、反応ガスの種類と加工対象物の材質に応じて決定される、加工時間と加工量との間の相関データと、前加工面と目的加工面の座標データとに基づきその座標差に応じて加工時間を数値制御してなるラジカル反応による無歪精密数値制御加工方法が開示されている。具体的には、加工対象物の加工前の形状と目的加工面の形状差から局所的な加工量を決定し、それに基づいて電極と加工対象物の表面とを数値制御して相対的に走査し、走査速度や滞在時間を制御して所望形状に加工するのである。
【0005】
また、特許文献3には、RF励起プラズマを限定された領域に閉じ込めて加工対象物の表面上で走査し、プラズマ補助化学エッチング反応によって非接触で材料除去が可能な材料除去ツールが開示されている。具体的には、材料除去ツールは、プラズマ室空洞を限定する手段および、反応ガスをプラズマ室空洞に供給し、RFパワーをプラズマ室空洞内の前記反応ガスに供給する手段を備えている局部プラズマエッチング反応を発生する手段と、プラズマ室空洞の外部周縁を包囲し、前記プラズマ室空洞の外側でのプラズマ発生を抑制する手段と、加工対象物の異なる局部化領域に対して局部プラズマエッチング反応の位置を調節するように前記加工対象物に関して前記プラズマ室空洞の位置を調節する手段とを備えている。この特許文献3に記載された加工方法は、PACE(Plasma Assisted Chemical Etching)と呼ばれている。
【0006】
引用文献4には、プラズマ発生部における一定口径の噴射口を加工対象物の所定の凸部に対向させ、活性種ガスを上記噴射口から上記凸部に噴射してエッチングすることで、上記凸部を平坦化するプラズマエッチング方法が開示されている。プラズマ発生部は、加工対象物を配置したチャンバーの外側に位置し、導管内のSF
6を含む活性種ガスにマイクロ波発振器からマイクロ波を照射してプラズマを発生させ、Fガスを含んだプラズマを導管の噴出口から加工対象物に噴射するのである。この特許文献4に記載された加工方法は、DCP(Dry Chemical Planarization) と呼ばれている。
【0007】
特許文献5には、プラズマCVM法を用いてフォトマスク用ガラス基板を平坦化加工する場合に、ガラス基板の外周端部にダミーガラス基板を設置し、ガラス基板外周部でプラズマが不安定になることを防止する技術が開示されている。しかし、このダミーガラス基板を用いるだけでは不十分であり、加工対象物のガラス基板とダミーガラス基板との隙間でアークが発生するとプラズマが不安定になって加工精度が低下するとともに、基板にダメージを与えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−125829号公報
【特許文献2】特開平4−246184号公報
【特許文献3】特開平5−347277号公報
【特許文献4】特開平10−147893号公報
【特許文献5】特開2006−027936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のプラズマ処理装置は、加工対象物と電極をチャンバー内に配置し、該チャンバー内にプロセスガスを供給し、加工対象物と電極との間でプラズマを発生させていたので、電極もプラズマに常時曝されることになり、電極の損耗が激しい。また、特許文献3,4は、チャンバー内にはプラズマノズルやXYステージを配置してプラズマノズルに対して加工対象物を相対的に走査しているので、チャンバーが大型・複雑になって、プロセスガスの使用量も多くなっていた。
【0010】
更に、特許文献3には、チャンバー内の圧力については明確に記載されてないが、プラズマのデバイ長が約2mmと記載され、通常のデバイスプロセスで使用されるプラズマのデバイ長と同程度であるから、1Torr以下の圧力であると推測できる。従来のデバイスプロセスで使用される1Torr以下の低圧プラズマでは、Fラジカルなどの活性種の密度が低いので、エッチング速度(加工速度)は遅い。それに対して、大気圧プラズマを用いる場合は、ラジカル密度は非常に高くなるが、平均自由行程は圧力に反比例するので、大気圧では電子の平均自由行程は約1μmと非常に短くなり、プラズマ発生領域の体積が小さくなって、それによって総ラジカル数は期待するほど増えず、低圧プラズマと比べて加工速度も極端に向上しない。
【0011】
局所プラズマを用いる数値制御プラズマ処理方法の実用化における要求事項として、加工速度の増大、アーク放電による加工対象物の損傷の抑制、加工対象物の端部における加工の安定性の向上、プラズマを発生させる電極の損耗抑制、プロセスガス使用量の低減によるランニングコストの低減が挙げられる。しかしながら、従来の大気圧プラズマCVM法では、前述の課題が解決できないまま残っている。そこで、本発明は前述の課題を一挙に解決し得るプラズマ処理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述の課題解決のために、以下のプラズマ処理装置を構成した。
【0013】
(1)
大気開放下に配し、板状の加工対象物の表面との間でプラズマ発生空間を形成する非密閉式のプラズマ処理装置であって、
側面から下面及び上面にわたって区画壁で区画されており、上面の一部又は全部をセラッミクス製の誘電体板で形成し、両側に加工対象物が通過できる開口を形成し、内部の中央部に前記プラズマ発生空間となるプラズマ発生室を設け、その両側に排気室を設けた非密閉式のチャンバーと、
前記誘電体板の上の大気開放下に非接触状態で配置した電極と、
前記プラズマ発生空間に反応ガスを含むプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記両排気室から前記プロセスガス及び大気を排気
して、前記プラズマ発生空間の圧力を20〜200Torrの減圧状態に維持する差動排気構造のガス排気系と、
前記電極に高周波電界を印加する高周波電源と、
を備え、
一方の開口から他方の開口に加工対象物が通過する間に、前記プラズマ発生空間
で発生させたプラズマで加工対象物の表面を処理する、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【0016】
(
2)
前記チャンバーの開口には、前記加工対象物との隙間を弾性的に塞ぐシール材を設ける、(
1)記載のプラズマ処理装置。
【0017】
(
3)
前記電極は、少なくとも前記加工対象物の繰り送り方向と直交する方向に駆動機構で数値制御走査できる、(
1)又は(
2)記載のプラズマ処理装置。
【0018】
(
4)
大気開放下に配し、板状の加工対象物の表面との間でプラズマ発生空間を形成する非密閉式のプラズマ処理装置であって、
中心に
セラミックス被覆された電極を配置し、その周囲に同心状に
反応ガスを含むプロセスガスのガス噴出管、更に外側にガス吸引管を多重に形成し、下面は略フラットに形成し、前記電極は前記ガス噴出管より若干後退した位置にあり、その先端と加工対象物との間に
前記プラズマ発生空間となる所定ギャップを形成する構造の電極パッドと、
前記ガス噴出管に
接続されたガス供給管を含み、該ガス供給管からガス噴出管を通して前記プラズマ発生空間にプロセスガスを供給するガス供給系と、
前記ガス吸引管
に接続されたガス排気管を含み、該ガス排気管でガス吸引管を通して前記プロセスガス及び大気を排気して、前記プラズマ発生空間
の圧力を20〜200Torrの減圧状態に
維持する差動排気構造のガス排気系と、
前記電極に高周波電界を印加する高周波電源と、
を備え、前記電極パッドを加工対象物の表面に沿って数値制御走査して、前記プラズマ発生空間で発生したプラズマ
で加工対象物の表面を処理する、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【0020】
(
5)
前記プロセスガスは、希ガスとハロゲン元素含有ガスもしくは酸素ガスとの混合ガスであり、加工対象物の表面形状の創成が除去加工である、(1)〜(
4)何れか1に記載のプラズマ処理装置。
【発明の効果】
【0021】
以上にしてなる本発明のプラズマ処理装置は、従来の大気圧プラズマCVM法における課題を全て解決できる。局所的に差動排気することで大型板状の加工対象物を加工できる。また、減圧プラズマにより加工速度が速くなり、加工時間の大幅な短縮を実現できる。また、アーク放電の発生抑制による加工対象物の損傷が回避できる。またプロセスガスの使用量が減り、ランニングコスト、製造コストが大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の関連発明に係る数値制御プラズマ処理装置の概念図である。
【
図2】各加工ギャップ毎の単位加工痕のプロファイルを示すグラフである。
【
図3】各加工ギャップ毎の加工速度のグラフである。
【
図4】従来の大気圧プラズマCVMと本発明の減圧プラズマCVMの加工速度を比較したグラフである。
【
図5】従来の大気圧プラズマCVMによる加工対象物の端部における加工安定性を試験するための配置を示す簡略断面図である。
【
図6】本発明の減圧プラズマCVMによる加工対象物の端部における加工安定性を試験するための配置を示す簡略断面図である。
【
図7】局所プラズマ発生領域の走査範囲を示す説明用平面図である。
【
図8】従来の大気圧プラズマCVMによって石英ガラス基板を加工した場合の端部と中央部での加工量を示すグラフである。
【
図9】本発明の減圧プラズマCVMによって石英ガラス基板を加工した場合の端部と中央部での加工量を示すグラフである。
【
図10】本発明の第1実施形態のプラズマ処理装置の概念斜視図である。
【
図12】本発明の第2実施形態のプラズマ処理装置の概念斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
図1は本発明の関連発明に係る数値制御プラズマ処理装置の概念図を示し、図中符号1は電極、2は高周波電源、3はチャンバー、4は排気系、5はガス供給系、6は走査手段、7は試料台、8は区画壁、9は誘電体板をそれぞれ示している。また、S1は第1空間、S2は第2空間、P1は第1設定圧力、P2は第2設定圧力、Gはギャップ、Wは加工対象物、LPは局所プラズマ発生領域をそれぞれ示している。
【0024】
本発明の関連発明に係る数値制御プラズマ処理装置は、
図1に示すように、第1設定圧力P1の第1空間S1内に配置して局所プラズマを発生させるための電極1と、前記電極1に高周波電界を印加する高周波電源2と、内部の第2空間S2に加工対象物Wを配置する気密状態のチャンバー3と、前記チャンバー3内を真空に引き、第2空間S2の第2設定圧力P2を第1設定圧力P1よりも低い減圧雰囲気に設定する圧力調節機能を備えた排気系4と、前記チャンバー3内にプロセスガスを供給するガス供給系5と、前記加工対象物Wを前記電極1に対して走査するための走査手段6とから構成されている。
【0025】
更に詳しくは、前記チャンバー3には、前記加工対象物Wを載置する接地した導電性の試料台7と、第2空間S2を形成する区画壁8のうち、少なくとも前記電極1と加工対象物Wの間に位置する部位に設けた誘電体板9とを備え、前記加工対象物Wと誘電体板9との間に、前記電極1に印加した高周波電界によってプロセスガスに基づく局所プラズマ発生領域LPとなるギャップGを設定する。本実施形態では、薄板状の加工対象物Wを平坦化加工することを想定しているが、特に限定されない。
【0026】
このように本発明は、第1空間S1と第2空間S2とを区画壁8で分離し、前記第1空間S1は第1設定圧力P1の空間であり、該第1空間S1には電極1を配置し、前記第2空間S2は第1設定圧力P1よりも低い第2設定圧力P2の空間であり、該第2空間S2には加工対象物Wを配置するとともに、第2設定圧力P2を維持しながらプロセスガスを供給し、前記電極1と加工対象物Wとの間隔を維持しながら相対的に数値制御走査し、少なくとも前記電極1と加工対象物Wの間に位置する前記区画壁8が誘電体板9で形成されており、前記電極1に高周波電界を印加して前記誘電体板9と加工対象物W間に設定された所定ギャップGでプラズマを発生させて、プロセスガス中の活性種に基づいて加工対象物Wの表面形状を創成することを特徴としている。
【0027】
つまり、前記電極1と局所プラズマ発生領域LPとは異なる空間に位置し、前記誘電体板9で遮られていることが特徴であり、これにより前記電極1が直接プラズマに曝されることがないので、プラズマによる損耗はない。
【0028】
ここで、第1空間S1の第1設定圧力P1は、700〜800Torr(93.1〜106.4kPa)であり、第2空間S2の第2設定圧力P2は20〜200Torr(2.66〜26.6kPa)に設定する。特に、第1設定圧力P1が大気圧であると、第1空間S1は大気開放下の空間でも良い。但し、前記電極1のまわりの雰囲気を常に一定に保つために、閉じたケースで第1空間S1を規定し、その内部に空気の代わりに窒素ガスや二酸化炭素ガスを充填しても良く、またその圧力(第1設定圧力P1)を大気圧近傍の圧力(700〜800Torr)に設定しても良い。第2設定圧力P2は、従来の半導体デバイスの作製プロセスで用いられている1Torr以下よりも十分に高い20〜200Torrに設定している。
【0029】
前記プロセスガスは、希ガスとハロゲン元素含有ガスもしくは酸素ガスとの混合ガスであり、加工対象物の表面形状の創成が除去加工である。希ガスとしては、ヘリウムガスやアルゴンガスが挙げられる。また、ハロゲン元素としては、フッ素や塩素が挙げられ、具体的にはハロゲン元素含有ガスは、フッ素元素を含有するものとしてSF
6、CF
4、NF
3等があり、塩素元素を含有するものとしてCl
2、CCl
4、PCl
4等がある。更に、プロセスガスには、各種目的に応じて他のガスを混合しても良く、例えば加工速度の向上や付着物の低減を目的にO
2ガスの添加も可能である。尚、本発明は、除去加工以外にもプロセスガスを選択することにより原理的に局所的に厚さを変える成膜も可能である。
【0030】
前記誘電体板9は、プロセスガスの活性種に対して耐食性を有するとともに、内外の圧力差に耐え得る機械的強度を備えたセラミックス製の板を用いている。具体的には、前記誘電体板9は、酸化アルミニウム(アルミナ)や窒化アルミニウム等の板厚が薄くても機械的強度が高く、熱伝導率も高い素材を用いる。因みに、アルミナ(99.9%)の曲げ強度は400MPa、比誘電率は9.9、熱伝導率は34W/m・Kであり、窒化アルミニウム(99.9%)の曲げ強度は220MPa、比誘電率は8.5、熱伝導率は67W/m・Kである。比較のため石英ガラスの曲げ強度は65MPa、比誘電率は3.9、熱伝導率は1.4W/m・Kである。
【0031】
そして、前記チャンバー3は、導電体からなるベース板10の上面に、前記区画壁8と上面の一部又は全部に前記誘電体板9を設けたボックス体を気密状態で接合して構成している。そして、前記チャンバー3の内部には、前記試料台7を、ギャップ調節手段11を介して前記ベース板10の上面に設けている。前記誘電体板9と加工対象物Wとの間のギャップGの間隔は、前記ギャップ調節手段11によって前記試料台7の高さを調節することによって設定する。具体的には、前記ギャップ調節手段11は、前記ベース板10の上面にねじ込んだ3個以上のネジ部材で構成しているが、Zテーブルで構成しても良い。前記ベース板10は、接地されており、前記ギャップ調節手段11を介して前記試料台7もアース電位になっている。
【0032】
本実施形態では、前記走査手段6は、前記チャンバー3を上面に載置した状態で設け、数値制御装置12により駆動され、前記ギャップGを維持したまま前記電極1に対して前記チャンバー3を移動させるXYステージで構成している。この場合、前記電極1は固定するが、電極1と加工対象物Wとを相対的に走査できれば良いので、前記電極1をXY駆動機構で移動させ、前記加工対象物W、即ち前記チャンバー3を固定していても良い。この構成の場合には、前記誘電体板9は、前記加工対象物Wの加工面よりも十分に広くしなければならない。更に、前記加工対象物Wの周囲にダミー基板を設置する場合には、該ダミー基板の一部を走査する必要があるので、更に前記誘電体板9は広い面積が必要になる。
【0033】
あるいは、図示しないが、前記走査手段6は、前記チャンバー3内に前記試料台7を上面に載置した状態で設け、数値制御装置12により駆動され、前記ギャップGを維持したまま前記電極1に対して前記試料台7を移動させるXYステージで構成しても良い。この場合、前記電極1と前記チャンバー3は固定できるので、前記電極1に対応する狭い範囲に前記誘電体板9を設けるだけで良い。
【0034】
前記高周波電源2は、本実施形態では周波数が13.56MHzのRF電源を用いている。前記高周波電源2の周波数は、0.01〜200MHzが適当である。
【0035】
前記排気系4は、真空ポンプ13と、圧力調整バルブ14及び圧力計15で構成されている。また、前記ガス供給系5は、各種プロセスガスの構成ガスを充填したガスボンベと流量調節機能を供えたガス混合機とから構成されている。前記排気系4に接続する配管と前記ガス供給系5に接続する配管は、前記チャンバー3の両側に対向して設け、チャンバー3の内部で一定のガスフローが生じるようにしている。
【0036】
前記加工対象物Wの表面形状もしくは厚さ分布を測定して、該表面の局所的な除去量を決定した後、該加工対象物Wを前記チャンバー3内の試料台7の上面に位置決めしてセットする。それから、前記排気系4で前記チャンバー3の内部を真空に引いた後、前記ガス供給系5から前記チャンバー3内にプロセスガスを、流量を調節して供給し、前記排気系4の圧力調整バルブ14によってチャンバー3内の圧力(第2設定圧力P2)を一定に保つ。それから、前記高周波電源2から前記電極1に高周波電界を印加し、前記電極1に対向する誘電体板9と加工対象物Wの間のギャップGでプロセスガスに基づく局所プラズマを発生させ、前記走査手段6を構成するXYステージの走査速度制御により、電極1の加工対象物Wとの相対位置関係を変化させて、加工対象物W上の任意の場所におけるプラズマ照射時間(単位加工痕の滞在時間)を制御することで、所望する形状もしくは厚さ分布に修正を行うのである。
【0037】
<加工ギャップと加工速度の関係性>
先ず、前記誘電体板9と加工対象物WとのギャップGの大きさによる加工速度の変化を静止加工痕で比較した。加工対象物Wは、厚さ6.35mmの石英ガラス基板である。前記電極1は、直径3mmの円柱である。前記誘電体板9は、厚さ5mmのアルミナ板である。前記電極1とアルミナ板との間隔は0.5mmである。使用したプロセスガスは、He、SF
6、O
2の混合ガスであり、それぞれ流量はHeが100sccm、SF
6が30sccm、O
2が4sccmである。前記電極1は大気開放下であり、チャンバー3内の第2設定圧力P2は、150Torrである。また、高周波電源2の投入電力は230Wである。そして、前記ギャップGを、8mm、9mm、10mm、11.65mmと変化させた。加工時間は一定で60秒である。これらの加工条件は表1にまとめている。
【0039】
図2は、各加工ギャップ毎の単位加工痕のプロファイルを示し、横軸は位置(mm)、縦軸は加工深さ(nm)を示している。また、
図3は、
図2の結果を横軸に加工ギャップ(mm)、縦軸にMRR(mm
3/min)を表したものであり、MRRは体積除去レート(加工速度)を示している。この結果、本実験装置では加工ギャップが10mmのとき、最大の加工速度になることがわかった。
【0040】
<大気圧プラズマCVMと減圧プラズマCVMの加工速度の比較>
次に、従来の大気圧プラズマCVMと本発明の減圧プラズマCVMの加工速度を静止加工痕で比較した。加工対象物Wは、厚さ6.35mmの石英ガラス基板である。大気圧プラズマCVM装置の電極ノズル20は、直径3mmの電極21がガス供給管22の中心に配置した構造のものを用い、加工ギャップは該電極ノズル20の先端と石英ガラス基板の直接的な間隔である。
【0041】
加工条件は、表2に示している。大気圧プラズマCVMは、使用したプロセスガスが、He、CF
4、O
2の混合ガスであり、それぞれ流量はHeが700sccm、CF
4が20sccm、O
2が2.5sccmであり、圧力は大気圧(760Torr)、加工ギャップは1.9mm、投入電力は55Wである。一方、本発明の減圧プラズマCVMは、使用したプロセスガスは、Ar、SF
6、O
2の混合ガスであり、それぞれ流量はArが100sccm、SF
6が45sccm、O
2が4.0sccmであり、前記電極1は大気開放下であり、チャンバー3内の第2設定圧力P2が80Torr、加工ギャプが10mm、投入電力は230Wである。共に加工時間は60秒である。
【0043】
この結果を
図4に示している。従来の大気圧プラズマCVMの加工速度が、0.068mm
3/minであったのに対し、本発明の減圧プラズマCVMの加工速度は、2.6mm
3/minと実に38倍の向上が見られた。これは、本発明の方が投入電力を大きくしても安定してプラズマを維持できることによるところが大きい。また、大気圧プラズマに比べて減圧プラズマの方が、平均自由行程が長くなり、効果的に反応ガスの分解が促進され、ラジカル密度が増加するためと推測される。因みに、大気圧プラズマでの電子の平均自由行程は1.10μmであるのに対し、100Torrの減圧プラズマでの電子の平均自由行程は8.33μmとなる。
【0044】
<基板端部における加工量の変化>
次に、従来の大気圧プラズマCVMと本発明の減圧プラズマCVMの基板端部における加工量の変化を比較した。大気圧プラズマCVMの実験配置は
図5に示している。XYステージ23の上に試料台24を載せ、その上に左側に石英ガラス基板W、右側に同じ材質、同じ厚さのダミー基板Dを、間隔0.5mmを空けて保持した。本発明の減圧プラズマCVMの実験配置は
図6に示している。前記走査手段6であるXYステージの上に試料台7を載せ、その上に左側に石英ガラス基板W、右側に同じ材質、同じ厚さのダミー基板Dを、間隔0.5mmを空けて保持した。
図7には、局所プラズマ発生領域LPの走査範囲25を示してあり、所定の加工後に石英ガラス基板Wの端から30mmの位置(中央部)と、端から1mmの位置(端部)での加工速度を比較した。それぞれ加工条件は前述の表2に示した加工条件と同じである。そして、走査速度は500mm/min、往復回数は30回、走査範囲は80mmである。
【0045】
従来の大気圧プラズマCVMの加工結果を
図8に示し、本発明の減圧プラズマCVMの加工結果を
図9に示している。この結果、大気圧プラズマCVMでは、端部と中央部での加工量が大きく異なり、加工断面積において端部が中央部より29.4%も多くなった。更に、前記石英ガラス基板Wとダミー基板Dの隙間でアーク放電が発生し、非常に明るく輝いた。これは、外周部にダミー基板Dを設置していても、石英ガラス基板Wの端部でプラズマが不安定になることを意味している。それに対し、本発明の減圧プラズマCVMでは、端部が中央部より若干加工量が多いが、加工断面積において加工量誤差は8%と少なかった。つまり、本発明は、加工対象物Wの端部での加工安定性にも優れていることが確認できた。
【0046】
また、本発明は、加工条件を変えることにより、加工速度と単位加工痕のプロファイルを簡単に変えることができる。つまり、加工対象物Wを加工装置にセットしたまま、ギャップGを一定とした状態で、高周波電源2による投入電力、第2設定圧力P2の大きさ、プロセスガスの種類ならびに組成等を変えることにより、加工速度を変えることができる。従って、加工装置に加工対象物Wをセットしたまま、加工速度の速い粗加工から加工速度の遅い精密加工まで一連で加工でき、それにより空間波長の長い成分から空間波長の短い成分を除去することができる。
【0047】
本発明は、従来大気圧下で発生させていたプラズマを10分の1気圧程度の減圧下で発生させることに特徴がある。1Torr以下の低圧下のプラズマは半導体デバイスの作製プロセスで用いられているが、広範囲に一様なプラズマを発生さて、基板上に形成したマスクを利用して微細パターンを作製するプロセスであるのに対し、本発明は局所的に発生させたプラズマを数値制御走査することにより、マスクレスで大型基板の形状修正や膜厚の均一化に用いることを意図しており、加工原理と目的が全く異なる。また、本発明は加工対象基板のみを小型の真空チャンバー内に配置する極めてシンプルな構造である。また、競合技術ではプロセス中におけるプラズマ領域の大きさは固定であるのに対し、本発明では電力制御によりプロセス中においても局所加工領域の大きさを幅広く変えることができ、加工対象物における広範な空間波長成分の除去加工に対応可能である。
【0048】
図10及び
図11は、本発明の第1実施形態を示し、局所的に差動排気することで大型板状の加工対象物Wを加工できるようにしたものである。本実施形態では、チャンバー30は、密閉式ではなく、両側に加工対象物Wが通過できる開口31,31を形成し、一方の開口31から他方の開口31に加工対象物Wが通過する間に加工されるようになっている。ここで、前記チャンバー30は、側面から下面及び上面にわたって区画壁32で区画されており、上面の一部又は全部をセラッミクス製の誘電体板33で形成し、該誘電体板33の上の大気開放下に非接触状態で電極34を配置し、該電極34は少なくとも前記加工対象物Wの繰り送り方向と直交する方向に駆動機構(図示せず)で数値制御走査できるようになっている。また、前記チャンバー30は、内部の中央部にプラズマ発生室35を設け、その両側に排気室36,36を設け、前記プラズマ発生室35にガス供給系(図示せず)からプロセスガスを供給しながら、両排気室36,36から大容量の排気系(図示せず)で排気して、差動排気構造にして前記プラズマ発生室35を所定の減圧状態にする。尚、前記チャンバー30の開口31,31には、前記加工対象物Wとの隙間を弾性的に塞ぐシール材を設けるとより好ましい。
【0049】
図12及び
図13は、本発明の第2実施形態を示し、この実施形態においても局所的に差動排気することで大型板状の加工対象物Wを加工できるようにしたものである。つまり、本実施形態は、電極パッド40を大面積の加工対象物Wの表面を数値制御走査して加工するものである。前記電極パッド40には、中心にセラミックス被覆された電極41を配置し、その周囲に同心状にプロセスガスのガス噴出管42、更に外側にガス吸引管43、44を多重に形成し、下面は略フラットに形成し、前記電極41は若干後退した位置にあり、その先端と加工対象物Wとの間に所定ギャップを形成する構造である。前記ガス噴出管42には、ガス供給管45が接続されてプロセスガスを供給しながら、前記ガス吸引管43、44に接続されたガス排気管46,47で大容量の排気系(図示せず)で排気して、差動排気構造にして前記電極41と加工対象物Wとの間の空間(ギャップ)を減圧状態とし、該空間でプラズマを発生させるのである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、リソグラフィプロセス用フォトマスク基板の平坦化、水晶ウエハ厚さ分布の均一化、ウエハ上に多数個作製したSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスの特性均一化、SOI層の均一化等に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 電極、
2 高周波電源、
3 チャンバー、
4 排気系、
5 ガス供給系、
6 走査手段、
7 試料台、
8 区画壁、
9 誘電体板、
10 ベース板、
11 ギャップ調節手段、
12 数値制御装置、
13 真空ポンプ、
14 圧力調整バルブ、
15 圧力計、
20 電極ノズル、
21 電極、
22 ガス供給管、
23 ステージ、
24 試料台、
25 走査範囲、
30 チャンバー、
31 開口、
32 区画壁、
33 誘電体板、
34 電極、
35 プラズマ発生室、
36 排気室、
40 電極パッド、
41 電極、
42 ガス噴出管、
43 ガス吸引管、
44 ガス吸引管、
45 ガス供給管、
46 ガス排気管、
47 ガス排気管、
W 加工対象物、
D ダミー基板、
G ギャップ、
LP 局所プラズマ発生領域、
S1 第1空間、
S2 第2空間、
P1 第1設定圧力、
P2 第2設定圧力、