(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0012】
1.原料
本発明により製造された即席麺は塩化マグネシウム、かんすい、及び原料粉を含むことが必要である。先ず、これら原料について詳細に説明する。
【0013】
1−1.塩化マグネシウム
塩化マグネシウムとしては、純度の高い塩化マグネシウムに限らず、苦汁(にがり)等の塩化マグネシウムを主成分とする添加物を用いることができる。
【0014】
本発明では、即席麺全量に対して、塩化マグネシウムを0.05〜1.50重量%含有することが好ましい。塩化マグネシウムの含有量が0.05重量%未満の場合には、塩味が弱く、1.50重量%を超える場合には、塩化マグネシウムの苦味が強くなりすぎてしまい、風味が悪化しやすい。なお、塩化マグネシウム含有量は、即席麺全量に対して0.1〜1.00重量%が好ましく、0.20〜0.70重量%がより好ましい。
【0015】
1−2.かんすい
本発明における“かんすい”とは、中華麺やうどんの製造に用いるアルカリ塩のことを指し、具体的には、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸ナトリウム等のピロリン酸塩、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩、メタ燐酸カリウム、メタ燐酸ナトリウム等のメタリン酸塩、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩などが挙げられる。
【0016】
かんすいを添加する利点は以下のようなものである。
(1)かんすいが有機物に作用し、ピロリジンやトリメチルアミン等のアルカリ臭が生じる。
(2)かんすい加えることで、小麦に含まれるグルテンが収斂し、コシや滑らかさが向上する。
(3)かんすいが小麦に含まれるフラボノイド系色素に作用し、淡黄色に呈色する。
【0017】
上述の通り、塩化マグネシウムとかんすいが反応すると不溶性のマグネシウム塩が生成する。このマグネシウム塩は水にほとんど溶解しないため塩味が無い。また、沈殿物が製麺装置に堆積するなどの問題も生じるため、生産性の低下に繋がる。さらに、かんすいが本来の機能を発揮しないため、麺の品質が安定せず、品質管理が困難である。このため本発明においては、塩化マグネシウムとかんすいの反応を抑制するために、後述する着味工程を設ける必要がある。
【0018】
ここで、塩化マグネシウムとかんすいの反応について簡単に説明する。例えば、かんすいとして炭酸ナトリウムを使用した場合には、塩化マグネシウムと炭酸ナトリウムが反応して、塩化ナトリウムと、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムとが生成する。ここで、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムは、ほとんど水に溶解しないため、麺生地に砂を加えたような状態となってしまい、製麺を阻害する。また、塩味は電離度に大きく依存するが、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムはほとんど電離しないため、ほとんど塩味がない。
【0019】
また、かんすいとして他の物質を使用した場合にも同様の現象が確認される。例えば、かんすいとしてリン酸三カリウムを使用した場合にはリン酸マグネシウム(不溶性)、かんすいとしてピロリン酸ナトリウムを使用した場合にはピロリン酸マグネシウム(不溶性)が生成する。
【0020】
1−3.原料粉
原料粉としては、小麦粉、米粉、ライ麦粉、大麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉、トウモロコシ粉、小豆粉、大豆粉、ソバ粉及びキヌア粉等の穀粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉及びコーンスターチ等の澱粉、並びにアセチル化澱粉、エーテル化澱粉及び架橋デンプン等の加工澱粉などを使用することができる。
【0021】
本発明では、原料粉がタンパク質を含むことが好ましい。原料粉がタンパク質を含むことにより、メイラード反応が起こり、好ましい調理感や外観を実現し易くなる。なお、原料粉がタンパク質を含まない場合には、調理感や外観の付与をカラメル反応に頼らざる得ないため、好適な調理感や外観を実現しにくくなる。
【0022】
さらに、本発明では、原料粉がタンパク質の一種であるグルテンを含むことが好ましい。原料粉がグルテンを含むことにより、好適な調理感や外観が実現されると共に、製麺性が向上する。なお、本発明におけるグルテンとは、より詳細にはグルテニンとグリアジン又はグルテンである。グルテリンの一種であるグルテニンと、プロラミンの一種であるグリアジンを水分の介在下で反応させると互いに結合させるとグルテンとなる。したがって、グルテニンとグリアジンの組み合せも、グルテンと同じように取り扱う。
【0023】
本発明に用いる原料粉としては小麦粉が好ましい。小麦粉はグルテニンとグリアジンを含有するため、水を加えて麺生地に練り上げるだけでグルテンを得ることができる。小麦粉は、タンパク含有量の違いから薄力粉、中力粉、強力粉及びデュラム粉等に分類されるが、いずれも好適に用いることができる。
【0024】
小麦粉以外の米粉、大麦粉、タピオカ澱粉等のグルテンを含まない原料粉を使用する場合には、別途、グルテンを加えることが好ましい。グルテンを含まない原料粉を使用する場合であっても、別途グルテンを加えることで、小麦粉と同じような製麺性や調理感を得ることが可能になる。
【0025】
原料粉は、即席麺の主たる成分であり、本発明に用いる全原料に対して50重量%以上を占めることが好ましい。原料粉が50重量%未満の場合には、製麺性が低く、好ましい調理感や外観が得られにくい。
【0026】
本発明では、麺線全量中、グルテンを2〜30重量%含有することが好ましい。グルテンを2〜30重量%含有している場合には、麺の弾性や伸展性のバランスが良く、麺の食感が良好である。また、適度にメイラード反応が起こるため調理感や外観が良好である。
【0027】
1−4.塩化ナトリウム
塩化ナトリウムを過剰に摂取すると高血圧症や心疾患等のリスクが高まるといわれているが、塩味を誘起する最も一般的な物質であり、代替物のみでは異味が強くなりすぎる。また、上述の通り、塩化ナトリウムは、グルテンに作用して麺線の弾性や伸展性を強化し、製麺性や食感を改善する。このため、本発明においても塩化ナトリウムを一定量添加することが好ましい。
【0028】
本発明においては、原料粉100重量部に対して、塩化ナトリウムを0.5〜3重量部添加することが好ましい。塩化ナトリウムの添加量が0.5重量部未満の場合には、麺線の弾性や伸展性が充分に向上しない。一方、塩化ナトリウムの添加量が3重量部を超える場合には、塩化ナトリウムに由来する塩味が充分に強いため、塩化マグネシウムを加えて塩味を補う必要性がない。
【0029】
1−5.副原料
本発明では、上記原料以外の副原料を添加することができる。具体的には、麺の食感を調整するために使用されるキサンタンガム、ペクチン等の増粘多糖類、色相を調整するために使用される全卵(中華麺)やほうれん草(翡翠麺)、色相や甘味を調整するために添加されるグルコースやフルクトース等の糖、風味を調整するために添加される香料等、製麺性を高めるための油脂等を使用できる。
【0030】
2.製法
次に即席麺の製造方法について具体的に説明する。
【0031】
(工程1)麺生地(ドウ)の製造工程(混捏工程)
原料粉に、少なくともかんすいを含有する練水を給水し、これを混捏してドウを製造する。混捏時間には特に限定はないが、5〜30分混捏するのが一般的である。また、混捏に使用するミキサーの種類に特に限定はなく、バッチ型ミキサーやフロージェットミキサー等を適宜使用できる。また、練水には、塩化ナトリウム、還元糖等の色相調整剤、増粘多糖類等の副原料を添加しても良い。
【0032】
(工程2−1)生麺線の製造工程
生麺線の製造方法としては、(ア)工程1で得られたドウを複合・圧延して所定の厚さの麺帯を製造し、切刃等を用いて切出す方法(切出麺)、(イ)ドウを所定のサイズの穴から押し出す方法(押出麺)、(ウ)ドウによりをかけながら延ばして麺状に成型する方法(手延麺)等が挙げられる。なお、切出麺としては中華麺、うどん等、押出麺としてはスパゲティー等、手延麺としては素麺等が例示できる。また、これらの方法を組み合わせても良く、例えば、押出によって麺帯を製造し、切出す方法(製法(ア)と製法(イ)の組合せ)等が利用できる。
【0033】
(工程2−2)蒸煮及び/又はボイル工程
本発明では、必要に応じて生麺線を蒸煮及び/又はボイルして、α化麺線としてもよい。小麦粉等に含まれる澱粉は、生澱粉と呼ばれ分子構造が緻密で消化が悪いが、水を加えて加熱すれば分子構造が崩れてα化澱粉となり消化しやすくなる。処理温度には特に制限はなく、常圧の水蒸気で蒸煮する場合やボイルする場合の処理温度は95〜100℃、過熱水蒸気を用いる場合には100〜350℃で処理するのが一般的である。
【0034】
なお、予めα化された原料粉(α化小麦粉やα化澱粉)を用いる場合には、蒸煮及び/又はボイル工程を実施する必要はない。また、着味工程において「塩化マグネシウムを含む湯中でボイルする方法」を用いる場合にも本工程を実施する必要はない。
【0035】
(工程3)着味工程
本発明では、麺線に塩化マグネシウムを添加する工程(以下「着味工程」と称する)を設ける必要がある。麺線の形成後に塩化マグネシウムを添加することで、かんすいと塩化マグネシウムの反応が抑制され、塩味を効果的に付与できる。また、麺線の形成後に塩化マグネシウムが添加されるため、製麺性にも悪影響を及ぼさない。
【0036】
着味方法には特に限定はないが、塩化マグネシウムを含む湯中でボイルする方法、塩化マグネシウムを含む着味液に浸漬させる方法、及び/又は着味液を噴き付ける方法等を適宜用いることができる。
【0037】
なお、本発明においては、塩味や食感を高める観点から、着味工程前に、上記工程2−1を設けて麺線をα化しておくこと好ましい。
【0038】
なお、着味工程でアルカリ性の材料を用いる場合には、塩化マグネシウムを含む着味液とは別にアルカリ性の材料を含む着味液を用意し、別々に添加した方が好ましい。さらに、着味の順番については、アルカリ性材料を含む着味液を先に添加し、その後塩化マグネシウムを含む着味液を添加することが好ましい。このような順番にすることで、塩化マグネシウムとアルカリ性材料の反応を最小限に抑えることができる。
【0039】
(工程4)切出・型詰工程
切出麺の場合、麺線は着味工程までは連続してコンベヤ上を運ばれるのが通常であり、切出工程において一食分にとりまとめるために切断される。そして、切断された麺線はリテーナー(金属製型枠)に自動的に型詰される。なお、押出麺や手延麺の場合は切出・型詰工程を経ずに乾燥工程に移行するのが一般的である。
【0040】
(工程5)乾燥工程
乾燥工程を経る前の麺線は水分を25〜65重量%含有するため、即席麺の保存性を高めるために、水分が1〜15重量%になるまで乾燥する必要がある。代表的な乾燥方法としては、瞬間油熱乾燥法と熱風乾燥法が挙げられる。
【0041】
<瞬間油熱乾燥法>
瞬間熱乾燥法とは、麺線を100〜200℃の熱油に1〜4分通過させることにより、麺線の水分を2〜5重量%程度まで脱水乾燥させる方法である。なお、瞬間油熱乾燥法は切出麺は、型詰を要しない押出麺や手延麺には一般的には用いられない。
【0042】
<熱風乾燥法>
熱風乾燥法とは、麺線を50〜170℃の熱風に10〜180分晒すことにより、麺線の水分を8〜15重量%程度まで乾燥させる方法である。熱風乾燥法では、麺線を型詰する必要が無いため、切出麺だけでなく押出麺や手延麺にも利用することができる。
【実施例】
【0043】
(比較例1)標準サンプル
小麦粉900g、タピオカアセチル化デンプン100部を紛体混合し、水345部、塩化ナトリウム15部、かんすい3部(炭酸カリウム:炭酸ナトリウム=3:2)からなる練り水を加え、バッチ型ミキサーで15分間ミキシングして麺生地(ドウ)を製造した。
【0044】
次に、ロールを用いて、ドウを複合、圧延して0.9mmの麺帯を製造し、切刃ロール(丸刃20番:溝巾1.5mm)で切断して麺線(切出麺)とした。さらに、麺線を270kg/hの飽和蒸気で2分間蒸煮してα化麺線1を製造した。
【0045】
α化麺線1を、水および塩化ナトリウム90部からなる着味液(1リットル)に20秒間浸漬し、約30cm(100g)に切断した後、リテーナに充填し、リテーナごとに麺線を150℃のパーム油で2分30秒乾燥(瞬間油熱乾燥法)して水分量が2重量%の標準サンプル(比較例1)を製造した。なお、リテーナに充填した麺線は100g、乾燥後のサンプル重量は66gである。
【0046】
(実施例1)
α化麺線1を、水、塩化ナトリウム90部、塩化マグネシウム六水和物20部からなる着味液(1000ml)に20秒間浸漬し、比較例1と同様の条件で乾燥させて水分2重量%の即席麺(実施例1)を製造した。
【0047】
(比較例2)
小麦粉900g、タピオカアセチル化デンプン100部を紛体混合し、水345部、塩化ナトリウム15部、かんすい3部(炭酸カリウム:炭酸ナトリウム=3:2)、塩化マグネシウム六水和物8.15部からなる練り水を加え、バッチ型ミキサーで15分間ミキシングしてドウを製造した。
【0048】
次に、ロールを用いて、ドウを複合、圧延して0.9mmの麺帯を製造し、切刃ロール(丸刃20番:溝巾1.5mm)で切断して麺線とした。さらに、麺線を270kg/hの飽和蒸気で2分間蒸煮してα化麺線2を製造した。
【0049】
α化麺線2を、水および塩化ナトリウム90部からなる着味液(1リットル)に20秒間浸漬し、約30cmに切断した後、リテーナに充填し、リテーナごとに麺線を150℃のパーム油で2分30秒乾燥(瞬間油熱乾燥法)して水分量が2重量%の即席麺(比較例2)を製造した。
【0050】
(比較例3)
小麦粉900g、タピオカアセチル化デンプン100部、塩化マグネシウム六水和物8.15部を紛体混合し、水345部、塩化ナトリウム15部、かんすい3部(炭酸カリウム:炭酸ナトリウム=3:2)からなる練り水を加え、バッチ型ミキサーで15分間ミキシングしてドウを製造した。
【0051】
次に、ロールを用いて、ドウを複合、圧延して0.9mmの麺帯を製造し、切刃ロール(丸刃20番:溝巾1.5mm)で切断して麺線(切出麺)とした。さらに、麺線を270kg/hの飽和蒸気で2分間蒸煮してα化麺線3を製造した。
【0052】
α化麺線3を、水および塩化ナトリウム90部からなる着味液(1リットル)に20秒間浸漬し、約30cmに切断した後、リテーナに充填し、リテーナごとに麺線を150℃のパーム油で2分30秒乾燥(瞬間油熱乾燥法)して水分量が2重量%の即席麺(比較例3)を製造した。
【0053】
乾燥前後の麺線に含まれる塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムの量は表1の通りである。なお、表1に示した数値は実測値ではなく、「材料の配合量」、「着味液の使用量(乾燥前の麺線100gに浸み込んでいる着味液23g、α化麺線77g)」及び「麺線の重量変化(麺線の乾燥前重量100g、乾燥後重量66g)」から算出した計算値である。
【0054】
【表1】
【0055】
(塩味、苦味)
味覚認識装置を用いて湯戻し後の即席麺の塩味及び苦味を測定した。また、塩味と電気伝導率の関連性を確認するため、電気伝導率も測定した。測定条件は以下の通りである。
(1)麺をハンマーで粉砕
(2)粉砕した麺5gを50mL遠沈管に測り取る。
(3)遠沈管に熱湯30gを加えて、ボルテックスミキサーで撹拌後、3分間静置する。
(4)遠心分離(12,000rpm、5min)し、上清液1を分け取る。
(5)沈殿物に熱湯20gを加え、ボルテックスミキサーで3分間撹拌する。
(6)遠心分離(12,000rpm、5min)し、上清液2を分け取る。
(7)沈殿物に再度熱湯20gを加え、ボルテックスミキサーで3分間撹拌する。
(8)遠心分離(12,000rpm、5min)し、上清液3を分け取る。
(9)上清液1〜3をまとめてメスフラスコに移し、50mlにメスアップして測定サンプルを調整する。
(10)電気伝導率計「LAQUA twin COND B-771(HORIBA製)」を用いて、測定サンプルの電気伝導率を測定する。
(11)味覚認識装置「TS-5000Z(インテリジェントセンサー製)」を用いて、測定サンプルの塩味及び苦味を測定する。
【0056】
塩味及び電気伝導率の測定結果は表2の通りである。表2において、味覚認識装置を用いた塩味については、「塩味スコア」、苦味については「苦味スコア」と表記している。
【0057】
(食感(コシ))
即席麺の食感を、熟練したパネラー10名が以下の基準で評価した。なお、ここでいう食感とは、麺の弾力性に由来する”コシ”を指す。
○:“標準(比較例1)と同等、又は同等以上”と評価したパネラーが9名以上
×:“標準と同等、又は同等以上”と評価したパネラーが8名以下
【0058】
【表2】
【0059】
塩化マグネシウムを着味工程で塗布した実施例1は、塩味スコアが高く(電気伝導率も同様)、食感も優れていた。一方、麺線製造前に塩化マグネシウムを添加した場合には、塩味が弱く、食感も明らかに悪かった。さらに、詳細なメカニズムは明らかではないが、比較例1、2と比較すると実施例1は苦味が抑制されていた。
【0060】
なお、即席麺に含まれる塩化マグネシウム(無水物換算)を0.33重量%から、0.16重量%、0.49重量%、0.82重量%、又は1.47重量%に変更した場合についても同じような傾向だった。以上の結果より、塩化マグネシウムの濃度よらず、塩化マグネシウムを着味工程で添加することによって塩味の強化と食感の維持を両立することができる。