(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、及び0.1質量%以上5.0質量%以下のTiを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のOを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、20ppm以上1000ppm以下のO、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含み、残部がFe及び不可避的不純物である析出硬化型マルテンサイト系工具鋼。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2015−93991公報に開示されたステンレス鋼は、Coを含まないので、取り扱い性には優れる。しかしこのステンレス鋼は、強度、硬度及び耐衝撃性の点で、工具鋼には不向きである。
【0007】
本発明の目的は、Coを実質的に含有せず、しかも機械的特性に優れた析出硬化型マルテンサイト系工具鋼の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、及び0.1質量%以上5.0質量%以下のTiを含む。この工具鋼における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0009】
好ましくは、この工具鋼におけるNiの含有率は、10.0質量%以上20.0質量%以下である。好ましくは、この工具鋼におけるNiの含有率は、15.0質量%以上18.0質量%以下である。好ましくは、この工具鋼におけるNbの含有率は、0.30質量%以上1.00質量%以下である。
【0010】
他の観点によれば、本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のOを含む。この工具鋼における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0011】
好ましくは、Oの含有率は、20ppm以上500ppm以下である。
【0012】
さらに他の観点によれば、本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含む。この工具鋼における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0013】
好ましくは、Nの含有率は、20ppm以上500ppm以下である。
【0014】
さらに他の観点によれば、本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、0.0050質量%以上1.00質量%以下のSi、10.0質量%以上25.0質量%以下のNi、0.01質量%以上5.0質量%以下のCr、3.5質量%以上7.0質量%以下のMo、0.050質量%以上1.00質量%以下のNb、0.050質量%以上4.0質量%以下のAl、0.1質量%以上5.0質量%以下のTi、20ppm以上1000ppm以下のO、及び20ppm以上1000ppm以下のNを含む。この工具鋼における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0015】
好ましくは、Oの含有率は20ppm以上800ppm以下であり、Nの含有率は20ppm以上500ppm以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、不可避的不純物であるもの以外のCoを含まないにもかかわらず、機械的特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Fe基合金である。本発明者らは、鋭意検討の結果、Si、Nb及びCrの適正量の添加により、不可避的不純物であるもの以外のCoを含まないにもかかわらず、工具鋼が優れた機械的特性を発現することを見いだした。具体的には、この工具鋼は、引張強さ、硬さ及び耐衝撃性に優れている。以下、各実施形態に基づき、本発明が詳説される。
【0018】
[第一実施形態]
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiを含む。以下、この工具鋼における各元素の役割が詳説される。
【0019】
[ケイ素(Si)]
Siは、工具鋼の焼入れ特性を高める。Siはさらに、Niを含む金属間化合物の生成に寄与する。Siの添加により、硬度が大きい工具鋼が得られうる。この観点から、工具鋼におけるSiの含有率は0.0050質量%以上が好ましく、0.010質量%以上がより好ましく、0.015質量%以上が特に好ましい。Siの過剰な添加は、引張強さ及び耐衝撃性を阻害する。引張強さ及び耐衝撃性の観点から、Siの含有率は1.00質量%以下が好ましく、0.90質量%以下がより好ましく、0.85質量%以下が特に好ましい。Siの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
【0020】
[ニッケル(Ni)]
Niは、δフェライト相の生成を抑制する。Niはさらに、他の元素と共に、金属間化合物を析出させる。具体的な金属間化合物として、Ni−Al、Ni−Ti、Ni−Mo及びNi−Nbが例示される。これらの金属間化合物の時効析出により、硬度が高く、引張強さが大きく、耐衝撃性に優れた工具鋼が得られうる。Niはさらに、他の金属間化合物であるNi−Siも析出させる。このNi−Siは、工具鋼の高硬度に寄与しうる。これらの観点から、工具鋼におけるNiの含有率は10.0質量%以上が好ましく、13.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上が特に好ましい。Niは、オーステナイト形成元素である。Niの過剰の添加は、マルテンサイト変態を阻害し、引張強さ及び耐衝撃性を低下させることがある。引張強さ及び耐衝撃性の観点から、Niの含有率は25.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましく、18.0質量%以下が特に好ましい。Niの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
【0021】
[クロム(Cr)]
Crは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにCrは、工具鋼の耐食性にも寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるCrの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。Crは、フェライト形成元素である。Crが過剰に添加された工具鋼では、高温に保持されてもオーステナイトが生じにくい。従ってこの工具鋼では、溶体化処理によってもマルテンサイト組織が得られにくい。この工具鋼の強度は、低い。強度の観点から、Crの含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。Crの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
【0022】
[モリブデン(Mo)]
Moは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにMoは、Niとの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるMoの含有率は3.5質量%以上が好ましく4.0質量%以上がより好ましく、4.5質量%以上が特に好ましい。Moが過剰に添加された工具鋼では、δフェライトが生成される。このδフェライトは、工具鋼の機械的特性を阻害する。さらに、Moが過剰に添加された工具鋼では、FeとMoとの金属間化合物が形成される。この金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Moの含有率は7.0質量%以下が好ましく、6.5質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下が特に好ましい。Moの含有率は、「JIS G 1256」の規定に準拠して測定される。
【0023】
[ニオブ(Nb)]
Nbは、Fe中への他の元素の固溶に寄与する。さらにNbは、Niとの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるNbの含有率は0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.30質量%以上が特に好ましい。Nbが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Nbの含有率は1.00質量%以下が好ましく、0.95質量%以下がより好ましく、0.90質量%以下が特に好ましい。Nbの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
【0024】
[アルミニウム(Al)]
Alは、Niとの金属間化合物を形成し、Tiとの金属間化合物も形成する。これらの金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるAlの含有率は0.050質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、1.00質量%以上が特に好ましい。Alが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Alの含有率は4.0質量%以下が好ましく、3.9質量%以下がより好ましく、3.8質量%以下が特に好ましい。Alの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
【0025】
[チタン(Ti)]
Tiは、Niとの金属間化合物を形成し、Alとの金属間化合物も形成する。これらの金属間化合物は、工具鋼の高硬度に寄与する。これらの観点から、工具鋼におけるTiの含有率は0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。Tiが過剰に添加された工具鋼では、金属間化合物の量も過剰である。過剰の金属間化合物は、工具鋼の機械的特性を阻害する。機械的特性の観点から、Tiの含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下が特に好ましい。Tiの含有率は、「JIS G 1258」の規定に準拠して測定される。
【0026】
[残部]
この工具鋼の残部は、Fe及び不可避的不純物である。この工具鋼は、Coを実質的に含まない。この工具鋼において、不可避的不純物であるCoの含有は、許容される。具体的には、Coの含有率は、1.0質量%未満である。不可避的不純物であるもの以外のCoを含まないので、この工具鋼は特定化学物質障害予防規制の対象外である。従ってこの工具鋼は、取り扱い性に優れる。合金元素(特にSi、Nb及びCr)の含有率が適正なので、この工具鋼は、Coを含まないにもかかわらず、引張強さ、硬さ及び耐衝撃性に優れている。
【0027】
[製造方法]
この工具鋼からなる成形体は、典型的には、鋳造法によって得られる。例えば、高周波真空溶解炉によって得られた溶湯から、成形体が得られる。高周波真空溶解炉では、溶湯の空気との接触が抑制される。この製造方法により、不純物の少ない成形体が得られる。
【0028】
[第二実施形態]
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti及びOを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
【0029】
本実施形態に係る工具鋼は、Oを含む。Oは、Siとの結合力に優れる。Siを含む工具鋼がさらにOを含むことにより、工具鋼においてOが固溶状態で均一に分散する。Oは、工具鋼の引張強さ及び硬さに寄与する。この観点から、工具鋼におけるOの含有率は20ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、150ppm以上が特に好ましい。工具鋼における酸化物生成が抑制されるとの観点から、Oの含有率は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。Oの含有率は、「JIS Z 2613」の規定に準拠して測定される。
【0030】
この工具鋼からなる成形体は、典型的には、粉末冶金によって得られる。粉末は、水アトマイズ、ガスアトマイズ、ディスクアトマイズ等によって得られうる。粉末冶金では、材料のOとの接触面積が、鋳造のそれと比べて大きい。粉末冶金により、適量のOを含有する粉末が得られる。溶湯に例えばアルゴンガスが噴射されるガスアトマイズにより、適量のOを含有する粉末が得られる。アルゴンガス雰囲気中での水アトマイズによっても、適量のOを含有する粉末が得られる。アルゴンガス雰囲気中でのディスクアトマイズによっても、適量のOを含有する粉末が得られる。粉末が適温にて酸化処理されることで、Oの含有率が調整されてもよい。これらの粉末が加圧されることで、成形体が得られる。好ましい加圧方法として、熱間等方加圧法(HIP)が挙げられる。
【0031】
[第三実施形態]
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti及びNを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
【0032】
本実施形態に係る工具鋼は、Nを含む。Nは、Nb及びCrとの結合力に優れる。Nb及びCrを含む工具鋼がさらにNを含むことにより、工具鋼においてNが固溶状態で均一に分散する。Nは、工具鋼の引張強さ、硬さ及び耐衝撃性に寄与する。この観点から、工具鋼におけるNの含有率は20ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、180ppm以上が特に好ましい。工具鋼における窒化物生成が抑制されるとの観点から、Nの含有率は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。Nの含有率は、「JIS G 1228」の規定に準拠して測定される。
【0033】
この工具鋼からなる成形体は、典型的には、粉末冶金によって得られる。粉末は、水アトマイズ、ガスアトマイズ、ディスクアトマイズ等によって得られうる。粉末冶金では、材料のNとの接触面積が、鋳造のそれと比べて大きい。粉末冶金により、適量のNを含有する粉末が得られる。溶湯に窒素ガスが噴射されるガスアトマイズにより、適量のNを含有する粉末が得られる。窒素ガス雰囲気中での水アトマイズによっても、適量のNを含有する粉末が得られる。窒素ガス雰囲気中でのディスクアトマイズによっても、適量のNを含有する粉末が得られる。粉末が適温にて窒化処理されることで、Nの含有率が調整されてもよい。これらの粉末が加圧されることで、成形体が得られる。好ましい加圧方法として、熱間等方加圧法(HIP)が挙げられる。
【0034】
[第四実施形態]
本実施形態に係る析出硬化型マルテンサイト系工具鋼は、Si、Ni、Cr、Mo、Nb、Al、Ti、O及びNを含む。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの役割は、第一実施形態に係る工具鋼におけるこれらの元素の役割と同じである。本実施形態に係る工具鋼におけるSi、Ni、Cr、Mo、Nb、Al及びTiの含有率の好ましい範囲は、第一実施形態に係る工具鋼における範囲と同じである。
【0035】
本実施形態に係る工具鋼は、O及びNを含む。この工具鋼は、引張強さ、硬さ及び耐衝撃性に優れる。この工具鋼におけるOの含有率は20ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、150ppm以上が特に好ましい。Oの含有率は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。この工具鋼におけるNの含有率は20ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、180ppm以上が特に好ましい。Nの含有率は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましい。
【0036】
この工具鋼からなる成形体は、典型的には、粉末冶金によって得られる。粉末は、水アトマイズ、ガスアトマイズ、ディスクアトマイズ等によって得られうる。粉末冶金では、材料のO及びNとの接触面積が、鋳造のそれと比べて大きい。粉末冶金により、適量のO及びNを含有する粉末が得られる。溶湯に窒素ガスが噴射されるガスアトマイズにより、適量のO及びNを含有する粉末が得られる。窒素ガス雰囲気中での水アトマイズによっても、適量のO及びNを含有する粉末が得られる。窒素ガス雰囲気中でのディスクアトマイズによっても、適量のO及びNを含有する粉末が得られる。粉末が適温にて酸化処理又は窒化処理されることで、O及びNの含有率が調整されてもよい。これらの粉末が加圧されることで、成形体が得られる。好ましい加圧方法として、熱間等方加圧法(HIP)が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0038】
[実験1]
[実施例1]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10
−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶湯から、鋳造にて鋼塊を得た。1ton鍛造機を用いてこの鋼塊に熱間鍛造を施し、直径が100mmであり長さが200mmである円柱材の成形体を得た。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例1の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.017質量%のSi、17.1質量%のNi、1.29質量%のCr、5.0質量%のMo、0.86質量%のNb、3.23質量%のAl、及び2.8質量%のTiを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0039】
[実施例2−45及び比較例1−29]
下記の表1−3に示される通りの組成とした他は実施例1と同様にして、実施例2−45及び比較例1−29の工具鋼を得た。実施例2−45及び比較例1−10の鋼の成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。比較例11−29の鋼には、意図的にCoが添加されている。
【0040】
[硬さ試験]
「JIS Z 2245」の規定に準拠して、各成形体のロックウェル硬さを測定した。ロックウェル硬さが56HRC以上をSSS、56HRC未満54HRC以上をSS、54HRC未満52HRC以上をS、52HRC未満50HRC以上をA、50HRC未満48HRC以上をB、48HRC未満46HRC以上をC、46HRC未満44HRC以上をD、44HRC未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
【0041】
[引張試験]
「JIS Z 2241」の規定に準拠して引張試験を実施し、各成形体の引張強さを測定した。引張強さが2600N/m
2以上をSSS、2600N/m
2未満2500N/m
2以上をSS、2500N/m
2未満2400N/m
2以上をS、2400N/m
2未満2300N/m
2以上をA、2300N/m
2未満2200N/m
2以上をB、2200N/m
2未満2100N/m
2以上をC、2100N/m
2未満2000N/m
2以上をD、2000N/m
2未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
【0042】
[衝撃特性]
「JIS Z 2242」の規定に準拠して、成形体のシャルピー衝撃値を測定した。シャルピー衝撃値が50J/cm
2以上をSSS、50J/cm
2未満48J/cm
2以上をSS、48J/cm
2未満46J/cm
2以上をS、46J/cm
2未満44J/cm
2以上をA、44J/cm
2未満42J/cm
2以上をB、42J/cm
2未満40J/cm
2以上をC、40J/cm
2未満38J/cm
2以上をD、38J/cm
2未満をFとランク付けした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
【0043】
[総合評価]
ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値のランクのうち最も低いランクを、総合評価のランクとした。この結果が、下記の表1−3に示されている。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表1−3に示されるように、各実施例の工具鋼は、総合評価に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0048】
[実験2]
[実施例46]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10
−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、アルゴンガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例46の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.007質量%のSi、17.3質量%のNi、2.3質量%のCr、4.8質量%のMo、0.60質量%のNb、1.97質量%のAl、3.5質量%のTi、及び570ppmのOを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0049】
[実施例47−70及び比較例30−35]
下記の表4及び5に示される通りの組成とした他は実施例46と同様にして、実施例47−70及び比較例30−35の工具鋼を得た。表4及び5に示された成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0050】
[評価]
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表4及び5に示されている。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表4及び5に示されるように、各実施例の工具鋼は、総合評価に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0054】
[実験3]
[実施例71]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10
−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、窒素ガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例96の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.013質量%のSi、16.3質量%のNi、0.46質量%のCr、4.4質量%のMo、0.82質量%のNb、3.70質量%のAl、1.9質量%のTi、760ppmのO、及び680ppmのNを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0055】
[実施例72−95及び比較例36−39]
下記の表6及び7に示される通りの組成とした他は実施例71と同様にして、実施例72−95及び比較例36−39の工具鋼を得た。表6及び7に示された成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0056】
[評価]
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表6及び7に示されている。
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
表6及び7に示されるように、各実施例の工具鋼は、総合評価に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0060】
[実験4]
[実施例96]
高周波真空溶解炉を用いて、真空度が1.0×10
−2Pa以下の条件下で、温度が1600℃である溶湯を得た。この溶解炉の圧力を、大気圧に戻した。この溶湯に、窒素ガスを用いたガスアトマイズを施し、粉末を得た。この粉末に、酸化処理を施した。この酸化処理では、粉末が、温度が300℃である大気雰囲気に保持された。この粉末を円筒缶に充填し、HIP法で固化させて成形体を得た。この成形体の表面を、ピーリングで除去した。除去後の成形体は、100mmの直径及び200mmの長さを有する。この成形体に、均質化処理を施した。この均質化処理では、成形体が1100℃の温度下に3時間保持された。この成形体に、溶体化処理を施した。この溶体化処理では、成形体が850℃の温度下に1時間保持された。この成形体に、時効処理を施した。この時効処理では、成形体が450℃の温度下に6時間保持された。これらの処理により、実施例96の工具鋼を得た。この工具鋼は、0.013質量%のSi、16.3質量%のNi、0.46質量%のCr、4.4質量%のMo、0.82質量%のNb、3.70質量%のAl、1.9質量%のTi、760ppmのO、及び680ppmのNを含む。残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0061】
[実施例97−145及び比較例40−59]
下記の表8−10に示される通りの組成とした他は実施例96と同様にして、実施例97−145及び比較例40−59の工具鋼を得た。実施例97−145及び比較例40−49の鋼の成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。比較例50−59の鋼には、意図的にCoが添加されている。
【0062】
[評価]
実験1と同様の方法で、ロックウェル硬さ、引張強さ及び衝撃値を測定し、ランク付けを行った。この結果が、下記の表8−10に示されている。
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
表8−10に示されるように、各実施例の工具鋼は、総合評価に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。