【文献】
タイラー・ルブラン,336 積層造形されたAISI630ステンレス材の機械的性質に及ぼすひずみ速度の影響,日本機械学会第21回機械材料・材料加工技術講演会講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2013年,336-p.1-5,DOI:10.1299/jsmemp.2013.21._336-1_
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属からなる造形物の製作に、3Dプリンターが使用されている。この3Dプリンターでは、積層造形法によって造形物が製作される。積層造形法では、敷き詰められた金属粉末に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、粉末の金属粒子が溶融する。粒子はその後、凝固する。この溶融と凝固とにより、粒子同士が結合する。照射は、金属粉末の一部に、選択的になされる。粉末の、照射がなされなかった部分は、溶融しない。照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成される。
【0003】
結合層の上に、さらに金属粉末が敷き詰められる。この金属粉末に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、金属粒子が溶融する。金属はその後、凝固する。この溶融と凝固とにより、粉末中の粒子同士が結合され、新たな結合層が形成される。新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0004】
照射による結合が繰り返されることにより、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形物が得られる。積層造形法により、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。積層造形法の一例が、特許第4661842号公報に開示されている。
【0005】
積層造形法に用いられる粉末に適した材質として、Fe基合金があげられる。10.5質量%以上のCrを含有するFe基合金、換言すればステンレス鋼は、その耐食性ゆえに幅広い分野で使用されている。
【0006】
特開2006−233308公報には、Feを主成分とし、質量%で、C:0.2%以下、Si:0.40%以下、Mn:2%超〜4%未満、P:0.1%以下、S:0.03%以下、Cr:15%〜35%、Ni:1%以下、及びN:0.05%〜0.6%を含み、かつ残部がFe及び不可避的不純物であるステンレス鋼が開示されている。このステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相との二相組織を有する。このステンレス鋼は、オーステナイト相の体積率が10%から85%である。
【0007】
特開2003−113446公報には、Feを主成分とし、質量%で、C:0.02%未満、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Al:0.10%以下、Cr:11.0%以上15.0%以下、Ni:0.8%を超え3.0%未満、Mo:0.5%以上2.0%以下及びN:0.05%超え0.10%以下を含むステンレス鋼が提案されている。このステンレス鋼では、P、S及びSiの含有率が小さい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2006−233308公報に開示されたステンレス鋼は、難加工性である。このステンレス鋼は、鋳造及び鍛造には不向きである。特開2003−113446公報に開示されたステンレス鋼も、難加工性である。このステンレス鋼は、鋳造及び鍛造には不向きである。
【0010】
難加工性であるステンレス鋼が用いられた造形法として、積層造形法が注目されている。しかし、ステンレス鋼が使用された積層造形法では、凝固割れが生じやすい。積層造形法に適したステンレス鋼が求められている。射法、レーザーコーティング法、肉盛法等の、急速溶融急冷凝固プロセスを伴う他の造形法でも、凝固割れが生じにくいステンレス鋼が求められている。
【0011】
本発明の目的は、急速溶融急冷凝固プロセスを伴う造形法において凝固割れが生じにくいステンレス鋼粉末の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る造形用粉末の材質は、
Cr:10.5質量%以上20.0質量%以下
Ni:1.0質量%以上15.0質量%以下、
C+Si+Mn+N:2.0質量%以下、
及び
Mo+Cu+Nb:5.0質量%以下
を含むステンレス鋼である。このステンレス鋼の残部は、Fe及び不可避的不純物である。このステンレス鋼は、下記数式(1)及び(2)を満たす。
Cr
eq / Ni
eq ≧ 1.5 (1)
P+ S ≦ 0.03 (2)
この数式(1)において、Cr
eq及びNi
eqは、それぞれ、下記数式によって算出される。
Cr
eq = Cr + 1.4Mo+ 1.5Si + 2Nb
Ni
eq = Ni + 0.3Mn+ 22C + 14N + Cu
【0013】
本発明に係る成形体の製造方法は、
上記粉末を準備する工程、
及び
この粉末に急速溶融急冷凝固プロセスを伴う造形を施して、成形体を得る工程
を含む。この成形体の組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、5質量%以下である。この成形体の組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、20質量%以下である。
【0014】
好ましくは、成形体の組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、2質量%以下である。好ましくは、成形体の組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、10質量%以下である。
【0015】
好ましくは、造形工程におけるエネルギー密度ED(J/mm
3)と、粉末の累積50体積%粒子径D
50(μm)との比(ED/D
50)は、下記数式(3)を満たす。
0.7≦ ED / D
50≦ 5.0 (3)
【0016】
好ましくは、粉末における、累積50体積%粒子径D
50(μm)とタップ密度TD(Mg/m
3)との比(D
50/TD)は、0.2以上20以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るステンレス鋼粉末から、急速溶融急冷凝固を伴うプロセスにより、優れた特性を有する造形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者が、急速溶融急冷凝固プロセスにおいて凝固割れが生じた鋼を調査したところ、粒界における割れの近傍に、P又はSに由来する低融点共晶組織が存在していることが判明した。P及びSは、δ相に入りやすい。δ相とγ相との2相を有するステンレス鋼では、粒界のボリュームが大きいので、P及びSが分散しやすい。この結果、凝固時の収縮により、割れが発生する。この低融点共晶組織は粒界に多く存在するが、P及びSの含有量が多くなると、粒内にも晶出する。本発明者は、鋭意検討した結果、各元素量を所定の範囲内とし、かつP及びSの量を制御することにより、凝固割れが生じにくい粉末を得た。本発明は、凝固割れが生じにくく、良好な造形性を示すステンレス鋼粉末を実現したものである。
【0019】
本発明に係る造形用粉末は、多数の粒子の集合である。この粒子の材質は、ステンレス鋼である。このステンレス鋼は、Crを含む。このステンレス鋼は、Ni、Mo、Cu、Nb、Si、Mn、C及びNを含みうる。このステンレス鋼における残部は、Fe及び不可避的不純物である。以下、この合金における各元素の役割が詳説される。
【0020】
[クロム(Cr)]
Crは、成形体の表面に酸化被膜を形成させる。この酸化皮膜は、成形体の耐食性に寄与する。さらに、Crは炭化物を形成しやすく、従って成形体の焼入れ性を高める。焼入れ性に優れた成形体では、硬さが大きく、強度も大きい。これらの観点から、ステンレス鋼におけるCrの含有率は10.5質量%以上が好ましく、12.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上が特に好ましい。Crは、フェライト形成元素である。Crを大量に含むステンレス鋼では、焼入れ処理によってもフェライト組織が残存しやすい。Crの含有率が所定値以下とされることにより、成形体の焼入れ性が損なわれない。従って、この成形体では、硬さが大きく、強度も大きい。これらの観点から、ステンレス鋼におけるCrの含有率は20.0質量%以下が好ましく、18.5質量%以下がより好ましく、18.0質量%以下が特に好ましい。
【0021】
[ニッケル(Ni)]
Niは、Crによって生成される酸化皮膜の密着性を高める。NiとCrとの両方を含むステンレス鋼から形成された成形体は、耐食性に優れる。この観点から、ステンレス鋼におけるNiの含有率は1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上が特に好ましい。Niは、オーステナイト形成元素である。多量のNiを含むステンレス鋼では、オーステナイト相が形成されやすい。このオーステナイト相は、成形体の硬度及び強度を阻害する。この観点から、Niの含有率は15.0質量%以下が好ましく、13.0質量%以下がより好ましく、11.0質量%以下が特に好ましい。
【0022】
[炭素(C)、マンガン(Mn)及び窒素(N)]
C、Mn及びNは、オーステナイト形成元素である。C、Mn及びNの含有率が小さなステンレス鋼は、適正なマルテンサイト変態温度を有する。
【0023】
[珪素(Si)]
Siは、フェライト形成元素である。Siの含有率が小さなステンレス鋼は、成形体の靱性に寄与しうる。
【0024】
[C+Si+Mn+N]
成形体の強靱性の観点から、C、Si、Mn及びNの合計含有率は2.0質量%以下が好ましく、1.7質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。この含有率がゼロであってもよい。
【0025】
[モリブデン(Mo)]
Moは、Crと組み合わされることで、成形体の硬度及び強度に寄与しうる。この観点から、ステンレス鋼におけるMoの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。大量のMoの添加は、成形体の焼入れ性を阻害し、硬度を低下させる。
【0026】
[銅(Cu)]
Niと共にCuを含むステンレス鋼は、成形体の耐食性に寄与する。この観点から、ステンレス鋼におけるCuの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。Cuは、オーステナイト形成元素である。大量のCuの添加は、マルテンサイト変態温度に悪影響を与える。
【0027】
[ニオブ(Nb)]
ニオブは、ステンレス鋼において炭化物を形成する。この炭化物は、成形体の強度に寄与しうる。この観点から、ステンレス鋼におけるNbの含有率は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。Nbは、フェライト形成元素である。大量のNbの添加は、成形体の靱性を阻害する。
【0028】
[Mo+Cu+Nb]
成形体の強靱性の観点から、Mo、Cu及びNbの合計含有率は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0029】
[クロム当量(Cr
eq)]
本発明において、クロム当量(Cr
eq)は、下記の数式によって算出される。
Cr
eq = Cr + 1.4Mo+ 1.5Si + 2Nb
Cr、Mo、Si及びNbは、フェライト形成元素である。クロム当量(Cr
eq)は、ステンレス鋼におけるフェライトの形成されやすさを表す指標である。
【0030】
[ニッケル当量(Ni
eq)]
本発明において、ニッケル当量(Ni
eq)は、下記の数式によって算出される。
Ni
eq = Ni + 0.3Mn+ 22C + 14N + Cu
Ni、Mn、C、N及びCuは、オーステナイト形成元素である。ニッケル当量(Ni
eq)は、ステンレス鋼におけるオーステナイトの形成されやすさを表す指標である。
【0031】
[Cr
eq/Ni
eq]
成形体において、オーステナイトがマルテンサイトへと変態するときの凝固割れが生じにくいとの観点から、クロム当量(Cr
eq)とニッケル当量(Ni
eq)との比(Cr
eq/Ni
eq)が、下記数式(1)を満たすことが好ましい。
Cr
eq / Ni
eq ≧ 1.5 (1)
換言すれば、比(Cr
eq/Ni
eq)は1.5以上が好ましい。比(Cr
eq/Ni
eq)は2.0以上がより好ましく、2.5以上が特に好ましい。比(Cr
eq/Ni
eq)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0032】
[リン(P)及び硫黄(S)]
P及びSは、不可避的不純物である。ステンレス鋼において、PとSはδ相に入りやすい。δ相とγ相との2相を有するステンレス鋼では、粒界の面積が大きいので、P及びSが分散する。このP及びSの影響により、凝固の収縮に起因する割れが発生する。凝固割れの抑制の観点から、P及びSの含有率が下記の数式(2)を満たすことが好ましい。
P+ S ≦ 0.03 (2)
換言すれば、Pの含有率とSの含有率との合計は、0.03質量%以下が好ましい。この合計は、0.02質量%以下が特に好ましい。理想的には、Pの含有率はゼロであり、Sの含有率もゼロである。
【0033】
[成形体の製造]
成形体は、粉末に急速溶融急冷凝固プロセスを伴う造形法が施されることで得られる。この造形法として、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法及び肉盛法が例示される。典型的には、成形体は、三次元積層造形法によって成形される。
【0034】
この三次元積層造形法には、3Dプリンターが使用されうる。この積層造形法では、敷き詰められたステンレス鋼粉末に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、粒子が急速に加熱され、急速に溶融する。粒子はその後、急速に凝固する。この溶融と凝固とにより、粒子同士が結合する。照射は、ステンレス鋼粉末の一部に、選択的になされる。ステンレス鋼粉末の、照射がなされなかった部分は、溶融しない。照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成される。
【0035】
結合層の上に、さらにステンレス鋼粉末が敷き詰められる。このステンレス鋼粉末に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、粒子が急速に溶融する。粒子はその後、急速に凝固する。この溶融と凝固とにより、ステンレス鋼粉末中の粒子同士が結合され、新たな結合層が形成される。新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0036】
照射による結合が繰り返されることにより、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形物が得られる。この積層造形法により、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。
【0037】
[ED/D
50]
本発明に係るステンレス鋼粉末から成形体が得られるとき、エネルギー密度ED(J/mm
3)と粉末の累積50体積%粒子径D
50(μm)とのバランスが重要である。D
50が大きな粉末では、その表面積が小さい。この粉末では、内部に伝播するビームの熱が弱い。従って、成形体の内部に未溶融粉末が残存しやすい。エネルギー密度EDが大きいと、未溶融粉末の残存は生じにくい。しかし、エネルギー密度EDが大きいと、粉末が溶融されて得られた湯が突沸に似た現象を起こし、成形体に不活性ガスが巻き込まれやすい。健全な成形体が得られるとの観点から、エネルギー密度EDと粒子径D
50との比(ED/D
50)が下記数式(3)を満たすことが好ましい。
0.7 ≦ ED / D
50≦ 5.0 (3)
換言すれば、比(ED/D
50)は0.7以上5.0以下が好ましい。未溶融粉末が残存しにくいとの観点から、比(ED/D
50)は1.0以上がより好ましく、1.2以上が特に好ましい。成形体に不活性ガスが巻き込まれにくいとの観点から、比(ED/D
50)は4.5以下がより好ましく、4.0以下が特に好ましい。
【0038】
エネルギー密度EDは、単位体積当たりに照射されるビームのエネルギーを表す。エネルギー密度EDは、下記の数式によって算出されうる。
ED= P / (V * d * t)
この数式において、Pはビームの出力(W)を表し、Vはビームの走査速度(mm/s)を表し、dはビームの操作ピッチ(mm)を表し、tはステンレス鋼粉末の積層厚さ(mm)を表す。
【0039】
粒子径D
50は、粉体の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径である。粒子径は、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」により測定される。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、粒径が検出される。
【0040】
粒子径D
50は、15μm以上50μm以下が好ましい。粒子径D
50がこの範囲内であるステンレス鋼粉末から、未溶融粉末が残存せず、不活性ガスの巻き込みがない成形体が得られうる。この観点から、粒子径D
50は、20μm以上30μm以下が特に好ましい。
【0041】
粉末における、粒子径D
50(μm)とタップ密度TD(Mg/m
3)との比(D
50/TD)は、0.2以上20以下が好ましい。比(D
50/TD)が0.2以上である粉末は、流動性に優れる。この粉末から、高密度な成形体が得られうる。この観点から、比(D
50/TD)は1以上がより好ましく、3以上が特に好ましい。比(D
50/TD)が20以下である粉末から得られた成形体では、内部に未溶融粉末が残存しにくい。この観点から、比(D
50/TD)は18以下がより好ましく、16以下が特に好ましい。タップ密度TDは、「JIS Z 2512」の規定に準拠して測定される。
【0042】
[共晶組織]
粉末の急速溶融急冷凝固プロセスで得られた成形体では、オーステナイト粒界に低融点化合物が偏析しやすい。この低融点化合物は、P、S、Si又はNbを含む。この低融点化合物は、共晶組織を有する。この共晶組織の具体例として、Fe−FeS共晶組織が挙げられる。この共晶組織の融点は、約998℃である。
【0043】
成形体の組織がその結晶粒界に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、20質量%以下が好ましい。この量が20質量%以下である成形体の製造では、凝固割れが生じにくい。この観点から、この量は15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0044】
成形体の組織がその結晶粒内に含む、共晶温度が600℃以上1350℃以下である共晶組織の量は、5質量%以下が好ましい。この量が5質量%以下である成形体が熱処理に供されても、結晶粒界に析出する低融点化合物の量が少ない。この観点から、この量は3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0046】
[ガスアトマイズ法]
真空中にて、アルミナ製坩堝で、所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した。坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させた。この溶湯に、高圧アルゴンガス又は高圧窒素ガスを噴霧し、粉末を得た。各粉末の組成の詳細が、下記の表1及び2に示されている。
【0047】
[成形]
この粉末を分級に供し、各粒子の粒径を63μm以下とした。この粉末を原料として、3次元積層造形装置(EOS−M280)による積層造形法を実施し、成形体を得た。
【0048】
[共晶組織の割合測定]
10mm角の試験片(10×10×10mm)を作製した。この試験片を中央にて切断し、導電性樹脂に埋め込んだ。目の細かい1000番以上のバフで試験片断面を磨いた後、腐食液で試験片断面を腐食させた。この試験片いて、走査電子顕微鏡(SEM)を用い、任意で選択した10箇所(1箇所は200μm×200μmの領域)で元素分析を行った。統計型熱力学計算システム(Thermo−Calc)を用いて共晶温度を算出することで、P、S、Si、Nb等を含む低融点化合物からなる共晶組織の量を測定した。
【0049】
[成形体の相対密度]
10mm角の試験片(10×10×10mm)を作製した。空気中での重量、水中での重量、水の密度を用いて、この試験片の密度を算出した(アルキメデス密度測定法)。一方、定容積膨張法による乾式密度測定にて、粉末の密度を算出した。試験片の密度及び粉末の密度から、積層体の相対密度を算出した。
【0050】
[タップ密度]
50gの粉末を、容積が100cm
3のシリンダーに充填した。落下高さが10mmであり、回数が200回である条件でタップを行い、タップ密度を測定した。
【0051】
[評価]
下記の基準に従い、各粉末を評価した。
(評価1)
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒内):2質量%以下
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒界):10質量%以下
ED/D
50:1.0−4.0
成形体の相対密度:95%以上
D
50/TD:0.2−20
(評価2)
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D
50:1.0−4.0
成形体の相対密度:95%以上
D
50/TD:0.2−20
(評価3)
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D
50:0.7−5.0
成形体の相対密度:95%以上
D
50/TD:0.2−20
(評価4)
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒内):5質量%以下
共晶温度が600−1350℃である共晶組織(粒界):20質量%以下
ED/D
50:0.7−5.0
成形体の相対密度:90%以上
D
50/TD:0.2−20
(評価5)
次の1)−3)のいずれか1つに該当する。
1)共晶温度が600−1350℃の共晶組織:粒内に5質量%以上または粒界に20質量%以上
2)ED/D
50:0.7よりも小さいか、または5.0よりも大きい
3)D
50/TD:0.2よりも小さいか、または20よりも大きい
(評価6)
成形体の相対密度が90%よりも小さい
この評価の結果が、下記の表1及び2に示されている。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1において、共晶組織の温度の列の「−」は、共晶温度が600℃よりも小さいか、または1350℃よりも大きいことを表わす。粒内共晶組織の割合の列の「−」は、量が5質量%よりも大きいことを表す。粒界共晶組織の割合の列の「−」は、量が20質量%よりも大きいことを表わす。ED/D
50の列の「−」は、0.7よりも小さいか、または5.0よりも大きいことを表わす。成形体の相対密度の列の「−」は、90%よりも小さいことを表わす。D
50/TDの列の「−」は、0.2よりも小さいか、または20よりも大きいことを表わす。
【0055】
表2に示された比較例1及び2では、Mo+Cu+Nbの値が範囲外である。比較例3、4、11及び12では、C+Si+Mn+Nの値、及びCreq/Nieqの値が範囲外である。比較例5、6、13及び14では、Creq/Nieqの値が範囲外である。比較例7、8、16及び20−24では、P+Sの値が範囲外である。比較例9では、Niの値、Mo+Cu+Nbの値、C+Si+Mn+Nの値及びCreq/Nieqの値が範囲外である。比較例10では、Niの値、Mo+Cu+Nbの値及びCreq/Nieqの値が範囲外である。比較例17−19では、Crの値が範囲外である。
【0056】
表1に示された各粉末は、諸性能に優れている。この結果から、本発明の優位性は明かである。