(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プラズマ電極を備えたプラズマ生成部と処理容器とを有するプラズマ処理装置であって、前記プラズマ生成部の少なくとも前記プラズマ電極に対応する領域が合成石英にて形成され、前記プラズマ生成部には、前記プラズマ電極を介してプラズマ化されるプラズマガスを前記処理容器内に供給するプラズマガス供給部が配設され、処理容器内に収容された基板に対してプラズマ処理を行うプラズマ処理方法において、
前記プラズマガス供給部より、酸素を含まず、水素を含む水素含有ガスである前記プラズマガスを供給し、プラズマ化された前記プラズマガスを前記処理容器内に供給して前記基板をプラズマ処理する、プラズマ処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態に係るプラズマ処理装置とプラズマ処理方法について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0009】
[実施形態]
<プラズマ処理装置>
はじめに、本開示の実施形態に係るプラズマ処理装置の一例について
図1乃至
図3を参照して説明する。ここで、
図1は、実施形態に係るプラズマ処理装置の全体構成の一例を示す断面図であり、
図2は、
図1のII−II矢視図である。また、
図3は、プラズマ生成部の実施例を処理容器と共に示す図である。
【0010】
以下、「合成石英」とは、高純度の四塩化ケイ素(SiCl
4)を酸化して合成した合成シリカガラスのことを意味する。また、「天然石英」とは、天然の石英粉を溶融した溶融石英ガラス(電気溶融と火炎溶融)を意味する。また、合成石英と天然石英を合せて、シリカガラスと称す。
【0011】
図1に示すプラズマ処理装置100は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition : 化学気相成長法)やALD(Atomic Layer Deposition : 原子層成膜法)による成膜処理に用いられる。これらの方法により、基板Wである半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)に、シリコン窒化膜(SiN膜)やシリコン酸化膜(SiO
2膜)、もしくはそれらの積層膜等が成膜される。本実施形態は、良好なステップカバレッジを得ることのできるALD法を用いて、例えばゲート電極周辺に使用されるSiN膜のうち、ライナー膜やオフセットスペーサ膜、サイドウォールスペーサ膜等を成膜する際に好適に用いられる装置である。プラズマ処理装置100は、ALD法を適用しながら良好な生産性を実現するバッチ式のプラズマ処理装置である。以下、SiN膜の成膜を例示して説明する。
【0012】
図1に示すように、プラズマ処理装置100は、下端に開口部を備え、有天井で筒状の縦型の処理容器10を有する。尚、処理容器10は、反応管やプロセスチューブ等と称することもできる。処理容器10は、天然石英により形成されており、処理容器10の内部の天井には、天然石英にて形成される天井板11が設けられて処理容器10内が封止されている。また、この処理容器10の下端には、外側に張り出す環状フランジ10cが設けられ、例えばステンレス鋼により形成される筒状のマニホールド12により支持されている。
【0013】
より具体的には、筒状のマニホールド12の上端には、処理容器10を支持する環状フランジ12aが外側に張り出すようにして形成されており、さらに、マニホールド12の下端にも、外側に張り出す環状フランジ12bが形成されている。マニホールド12の環状フランジ12aの上に、Oリング等のシール部材13を介して処理容器10の環状フランジ10cが気密に載置されている。また、円筒状のマニホールド12の下端の環状フランジ12bには、蓋体14がOリング等のシール部材15を介して気密に取り付けられており、処理容器10の下端の開口を気密に塞いでいる。この蓋体14は、例えばステンレス鋼により形成されている。
【0014】
蓋体14の中央には磁性流体シール部材26が取り付けられており、この磁性流体シール部材26には回転軸25が回転自在でかつ気密状態に貫通(遊嵌)している。回転軸25の下端は、昇降機構であるボートエレベータ(図示せず)から側方に延びる支持アーム27に回転自在に支持されており、モータ等のアクチュエータ(図示せず)により、Z1方向に回転自在となっている。
【0015】
回転軸25の上端には回転プレート24が配設されており、回転プレート24には天然石英により形成される保温筒22が搭載されている。そして、保温筒22には、上下方向に所定間隔を置いて並ぶ複数のウエハWを保持するウエハボート20(基板保持部の一例)が載置されている。ウエハボート20は天然石英により形成されており、ウエハボート20の有する支持アーム21は、例えば30枚乃至50枚程度で直径が300mm程度のウエハWを略等ピッチで多段に支持できるように構成されている。ボートエレベータを昇降させることにより、支持アーム21、蓋体14及び保温筒22を介してウエハボート20が一体にZ2方向に昇降し、ウエハボート20を処理容器10に対して搬出入することができる。
【0016】
マニホールド12の側壁に設けられているガス導入ポート(図示せず)を介して、プラズマガス供給部40を形成するプラズマガス供給管41が導入されている。プラズマガス供給部40は、プラズマガス供給源、MFC(Mass Flow Controller、マスフローコントローラー)、開閉バルブ(いずれも図示せず)、及び天然石英により形成されるプラズマガス供給管41を有する。
【0017】
プラズマガス供給管41を介して処理容器10内にX1方向にプラズマガスが導入される。プラズマガスとしては、酸素を含まず、水素を含む水素含有ガスが挙げられ、より具体的には、アンモニア(NH
3)ガス、水素(H
2)ガス等が挙げられる。
【0018】
また、マニホールド12の側壁に設けられているガス導入ポート(図示せず)を介して、原料ガス供給部50を形成する原料ガス供給管51が導入されている。原料ガス供給部50は、原料ガス供給源、MFC、開閉バルブ(いずれも図示せず)、及び天然石英により形成される原料ガス供給管51を有する。
【0019】
原料ガス供給管51を介して処理容器10内にX2方向に原料ガスが導入される。処理容器10内に導入される原料ガスは、非プラズマガスである。原料ガスとしては、シラン系ガスであるジクロロシラン(DCS : SiH
2Cl
2)ガスが一例として挙げられる。適用されるシラン系ガスとしてはその他、モノシラン(SiH
4)、ジシラン(Si
2H
6)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、モノクロロシラン(SiH
3Cl)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、テトラクロロシラン(SiCl
4)、ジシリルアミン(DSA)が適用できる。さらに、トリシリルアミン(TSA)、ビスターシャルブチルアミノシラン(BTBAS)等が適用できる。
【0020】
処理容器10の側壁の一部には、処理容器10の高さ方向に延設する開口10bが開設されており、この開口10bを包囲するようにして、処理容器10の高さ方向に延設するプラズマ生成部30が形成されている。また、処理容器10のうち、プラズマ生成部30に対向する反対側には、処理容器10内の雰囲気を真空排気するための細長い排気口10aが設けられている。
【0021】
図1に示すように、処理容器10の側壁のうち排気口10aを包囲する箇所には、天然石英により形成される断面がコ字状の排気口カバー部材16が処理容器10の側壁の外周面に溶接により取り付けられている。排気カバー部材16は、処理容器10の側壁に沿って上方に延びており、処理容器10の上方には排気口17が設けられている。排気口17には、真空ポンプや開閉弁(いずれも図示せず)等を有する真空排気部が連通している。真空排気部を作動させると、処理容器10の内部から処理ガスを含む処理容器10内の気体が排気カバー部材16にX5方向に排気され、排気口17を介してX6方向に真空ポンプへ排気される。真空排気部の作動により、処理容器10内をプロセス中の所定の真空度に真空引きでき、処理容器10内から処理ガス等を外部へパージすることができる。
【0022】
また、処理容器10の外周を包囲するようにして、処理容器10と処理容器10内に収容されている複数のウエハWを加熱する筒状の加熱部18が設けられている。加熱部18は、ヒータ等により形成される。また、
図2に示すように、処理容器10における排気口カバー部材16の近傍には、処理容器10内の温度を計測し、加熱部18の温度制御に供される熱電対等の温度センサ19が設けられている。また、処理容器10内の圧力を計測し、真空排気部の排気制御に供される圧力センサ(図示せず)が設けられている。
【0023】
図1乃至
図3に示すように、プラズマ生成部30は、長手方向に直交する断面がコの字状を呈し、細長で中空の中空突起31を有する。中空突起31の端部にはフランジ32が設けられており、フランジ32が処理容器10の側壁に対して溶接等により取り付けられている。すなわち、フランジ32を介して、処理容器10の外側に中空突起31が気密に溶接接合されることにより、処理容器10の側壁の開口10bの外側において、処理容器10の内部に連通するようにして、外側に突設したプラズマ生成部30が形成される。尚、中空突起31の外側には、中空突起31を包囲する天然石英製の絶縁保護カバー(図示せず)が取り付けられてもよい。
【0024】
また、
図1に示すように、開口10bの長手方向の長さと中空突起31の長手方向の長さは共に、ウエハボート20の長手方向の長さにほぼ対応した長さである。
【0025】
図1乃至
図3に示す中空突起31はフランジ32を含めて、その全体が合成石英にて形成されている。すなわち、プラズマ処理装置100を形成する部材のうち、プラズマ生成部30を形成する中空突起31(フランジ32を含む)以外の石英製の部材は全て天然石英にて形成され、中空突起31(フランジ32を含む)のみが合成石英にて形成される。以下で詳説するが、プラズマ生成部30では、プラズマによるスパッタリングやエッチングによりクラックが発生する等の損傷を受け易い。特に、プラズマガスである水素含有ガスにより生成された水素を含むイオンやラジカルがシリカガラス中の酸素と選択的に反応し、酸素がシリカガラスの表面から引き抜かれることが本発明者等により見出されている。
【0026】
天然石英に比べて、合成石英は多数のシラノール基(OH基)を有していることから、プラズマ生成部30を形成する中空突起31には合成石英を適用することとした。また、天然石英に対して、合成石英は材料コストが高価である。これらのことに鑑み、中空突起31(フランジ32を含む)のみを合成石英にて形成し、プラズマ処理装置100を形成する他の石英製の部材を全て天然石英にて形成することにより、材料コストが可及的に抑制されたプラズマ処理装置100が得られる。
【0027】
中空突起31は、中空を介して対向する一対の側壁を有し、これら一対の側面には、一対の平行平板型のプラズマ電極34が配設されている。
図3に示すように、鉛直方向に延設する中空突起31の側壁に対して、同様に鉛直方向に延設するプラズマ電極34が装着されている。
図2に示すように、一対のプラズマ電極34にはプラズマ発生用の高周波電源35が給電ライン36を介して接続されている。プラズマ電極34に対して、例えば13.56MHzの高周波電圧を印加することによりプラズマを発生し得るようになっており、
図2に示すように、中空突起31の中空内には、プラズマ生成領域PAが形成される。尚、高周波電圧の周波数は13.56MHzに限定されるものでなく、例えば400kHz等の他の周波数の高周波電圧が適用されてもよい。また、図示を省略するが、高周波電源35と一対のプラズマ電極34の間に、オートチューナー、システムコントローラ、及びマッチングネットワーク等が介在してもよい。このように、プラズマ生成部30は、少なくとも、中空突起31、一対のプラズマ電極34、高周波電源35及び給電ライン36により形成されている。
【0028】
図1に戻り、マニホールド12の側壁を介して導入されたプラズマガス供給管41は、屈曲した後、マニホールド12の側壁と処理容器10の下方の側壁に沿って上方に延設する。次いで、プラズマガス供給管41は、中空突起31の下方位置にて中空突起31の中空側(処理容器10の径方向外側)へ屈曲する。中空側へ屈曲したプラズマガス供給管41は、中空突起31の端壁(処理容器10から最も離れている壁)近傍で鉛直上方側へ屈曲し、中空突起31の上端近傍まで鉛直方向に延設している。
図2に示すように、プラズマガス供給管41は、中空突起31の端壁近傍であって、一対のプラズマ電極34よりも外側(処理容器10から離れた位置)に位置する。
【0029】
プラズマガス供給管41には、その長手方向に間隔を置いて複数のプラズマガス吐出孔42が開設されており、各プラズマガス吐出孔42を介して水平方向(
図1及び
図2のX3方向)に略均一にアンモニアガスや水素ガスといったプラズマガスを吐出できるようになっている。
図1に示すように、プラズマガス吐出孔42は、プラズマガス供給管41において、中空突起31の上端近傍から下端近傍に亘って設けられており、ウエハボート20に搭載されている全てのウエハWに対してプラズマガスが供給されるようになっている。尚、プラズマガス吐出孔42の直径は、例えば0.4mm程度に設定できる。
【0030】
図2に示すように、プラズマ生成部30において、一対のプラズマ電極34間に高周波電圧が印加された状態において、この一対のプラズマ電極34間にプラズマガス吐出孔42からプラズマガスが供給される。供給されたプラズマガスはプラズマ生成領域PAに到達し、プラズマ生成領域PAおいて分解され、もしくは活性化され、処理容器10の中心側に向かって拡散しながらX3方向に流入する。
【0031】
一方、
図1及び
図2に示すように、マニホールド12の側壁を介して導入された原料ガス供給管51は、屈曲した後、マニホールド12の側壁に沿い、さらに処理容器10の側壁に沿って上方に延設し、ウエハボート20の上端近傍に到達している。
図2に示すように、図示例の原料ガス供給管51は、処理容器10の側壁の開口10bの一方の側に1本設けられているが、例えば開口10bを挟むようにして双方の側に2本以上設けられてもよい。
【0032】
原料ガス供給管51には、その長手方向に間隔を置いて複数の原料ガス吐出孔52が開設されており、各原料ガス吐出孔52を介して水平方向(
図1及び
図2のX3方向)に略均一にDCSガス等の原料ガスを吐出できるようになっている。
図1に示すように、原料ガス吐出孔52は、原料ガス供給管51において、ウエハボート20の下端から上端に亘って設けられており、ウエハボート20に搭載されている全てのウエハWに対して原料ガスが供給されるようになっている。尚、原料ガス吐出孔52の直径も、プラズマガス吐出孔42と同様、例えば0.4mm程度に設定できる。
【0033】
また、プラズマ処理装置100は、制御部(図示せず)を有する。制御部は、プラズマ処理装置100の各構成部、例えば、加熱部18、真空排気部、プラズマ生成部30を構成する高周波電源35、プラズマガス供給部40、原料ガス供給部50等の動作を制御する。制御部は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有する。
【0034】
CPUは、RAM等の記憶領域に格納されたレシピ(プロセスレシピ)に従い、所定の処理を実行する。レシピには、プロセス条件に対するプラズマ処理装置100の制御情報が設定されている。制御情報には、例えば、ガス流量や処理容器10内の圧力、処理容器10内の温度、プロセス時間等が含まれる。例えば、SiN膜の成膜に際し、処理容器10内を所定の圧力でかつ所定の温度に制御し、所定時間に亘ってプラズマを生成した後、所定時間に亘って原料ガスの供給を行い、このプラズマ生成と原料ガス供給を所定回数繰り返し実行するシーケンスがレシピに含まれる。
【0035】
レシピ及び制御部が適用するプログラムは、例えば、ハードディスクやコンパクトディスク、光磁気ディスク等に記憶されてもよい。また、レシピ等は、CD−ROM、DVD、メモリカード等の可搬性のコンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体に収容された状態で制御部にセットされ、読み出される形態であってもよい。制御部はその他、コマンドの入力操作等を行うキーボードやマウス等の入力装置、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等の表示装置、及びプリンタ等の出力装置といったユーザーインターフェイスを有している。
【0036】
(プラズマ生成部の変形例)
次に、
図4を参照して、プラズマ生成部の変形例について説明する。
図1乃至3に示すプラズマ処理装置100において、プラズマ生成部30は、フランジ32を含む中空突起31の全てが合成石英にて形成されている。これに対して、
図4に示す変形例に係るプラズマ生成部30Aは、中空突起のうち、プラズマ電極34に対応する領域を合成石英により形成される第一領域33Aとする。そして、フランジ32を含む他の領域を天然石英により形成される第二領域33Bとし、第一領域33Aと第二領域33Bを溶接にて接続することにより、中空突起31Aが形成される。
【0037】
ここで、「プラズマ電極34に対応する領域」とは、プラズマ電極34が装着される領域を意味することの他、プラズマ電極34が装着される領域よりも若干広めの領域をも意味する。以下で詳説するが、本発明者等による検証によれば、プラズマによるスパッタリングやエッチングに起因して、中空突起の壁面内には最大主応力が生じる位置は、プラズマ電極の輪郭線およびその近傍であることが特定されている。
【0038】
具体的には、
図5に示すように、中空突起31の壁面において、プラズマ電極34の輪郭の内側(プラズマ電極34の中央側)には圧縮応力Cが生じ、プラズマ電極34の外側(プラズマ電極34から離れる側)には引張応力Tが生じる。その結果、中空突起31の壁面において、プラズマ電極34の輪郭位置やその近傍において最大主応力が生じることになる。
【0039】
そこで、好ましくは、プラズマ電極34が装着される領域よりも若干広めの領域を第一領域33Aとし、第一領域33Aを合成石英にて形成することにより、プラズマ生成部30Aの損傷を抑制することができる。例えば、プラズマ電極34が装着される領域に対して、さらに5cm乃至20cm程度広めの範囲を第一領域33Aに設定することができる。
【0040】
<プラズマ処理方法>
次に、
図1乃至
図3に記載するプラズマ処理装置100を用いた、実施形態に係るプラズマ処理方法の一例について説明する。ここでは、ALD法を適用し、プラズマガスとしてNH
3ガス、原料ガスとしてDCSガスを使用して、ウエハW上にSiN膜を成膜するプロセスシーケンスを取り上げて説明する。
【0041】
まず、ウエハボート20に30枚乃至50枚程度のウエハWを搭載し、処理容器10内にロードする。そして、処理容器10内を所定のプロセス温度に温調し、処理容器10内を真空引きして所定のプロセス圧力に調整する。
【0042】
次に、プラズマ生成部30において、高周波電源35をオン制御して高周波電圧をプラズマ電極34間に印加し、プラズマガス供給管41よりNH
3ガスをプラズマ電極34間に供給する。NH
3ガスが供給されることにより、中空突起31の中空内には、プラズマ生成領域PAが形成される。プラズマ生成領域PAでは、NH
4*、NH
3*、NH
2*、NH
*、N
2*、H
2*、H
*(記号*はラジカルを示す)等のラジカル(活性種)が生成される。また、NH
4+、NH
3+、NH
2+、NH
+、N
2+、H
2+等のイオン(活性種)が生成される。
【0043】
アンモニアラジカル等の活性種を、処理容器10内に供給してウエハWの表面に化学吸着させると共に、処理容器10内をパージする。ここで、パージとは、窒素(N
2)ガス等の不活性ガスを処理容器10内に流すことや、真空排気系を作動して処理容器10内の残留ガスを除去することを意味する。例えば、数十秒乃至数分程度の間、アンモニアラジカルの供給とパージを行う。
【0044】
次に、原料ガス供給管51よりDCSガスを処理容器10内に供給して、ウエハWの表面に化学吸着させる。DCSガスの供給も、例えば数分程度行う。各ウエハW上には、既にアンモニアラジカルが付着しており、このアンモニアラジカルと供給されたDCSガスが反応することにより、各ウエハWの表面には一層のSiN膜が成膜される。尚、本実施形態に係るプラズマ処理方法におけるプロセス条件の一例を挙げると以下のようになる。すなわち、プロセス温度が300乃至600℃程度の範囲内、プロセス圧力が1333Pa(10Torr)以下、NH
3ガスの流量が3000sccm(sccm:standard cc/min)以下、DCSガスの流量が10乃至80sccm程度の範囲内である。
【0045】
ALD法を用いた成膜では、上記一連のシーケンスを所定回数繰り返し実行することにより、ウエハWの表面上に所定厚みのSiN膜を成膜する。
【0046】
<プラズマによるシリカガラス表面の損傷を検証する分析及び解析>
本発明者等は、プラズマにより、シリカガラス表面が損傷することを種々の方法を用いて検証した。
【0047】
(EPMA分析)
まず、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析とその結果について説明する。
図5を用いて既に概説しているように、プラズマを生成する成膜プロセスを長期間に亘り繰り返し実行すると、シリカガラス製の中空突起の内部において、プラズマ電極を設置した箇所のシリカガラス表面は、プラズマによるスパッタリングやエッチングにより損傷を受け得る。特に、酸素を含まず、水素を含む水素含有ガス(NH
3ガス、H
2ガス等)のプラズマを生成すると、プラズマ中に生成される水素を含むイオンやラジカルがシリカガラス中の酸素と選択的に反応する。その結果、酸素がシリカガラス表層から引き抜かれる。具体的には、シリカガラス表層より、シリカガラス中のOH基が引き抜かれ、H
2O、SiH
4等の副生成物が生成される。
【0048】
長期間使用した処理容器のうち、プラズマ生成部の中空突起のシリカガラスの一部を切り出し、板厚方向の断面に対してEPMA分析を実施した。EPMA分析の結果を
図6に示す。
【0049】
図6より、プラズマに接するシリカガラスの表層から500μmまでの範囲(特に200μmまでの範囲)にかけて、酸素濃度が減少していることが分かる。この分析結果より、プラズマに接するシリカガラス表面に近いほど、酸素濃度の低下が著しくなることが実証されている。
【0050】
このシリカガラス中の酸素濃度が低下した変質層付近のひずみ応力を、鋭敏色法で測定すると、変質層周辺部に応力が生じており、変質層両端部と正常部の境界に最大主応力が観測された(
図5参照)。この最大主応力は、シリカガラスの表層の100μm乃至200μm厚さ範囲に局在しており、この最大主応力の発生箇所が破損起点になる可能性がある。この応力は、酸素が還元されたことにより発生したE'センター(イープライムセンター)や、ODC(Oxygen deficient center)などの構造欠陥の再結合により、シリカガラスの微細構造が再構築されて体積収縮し、発生したものと推察される。尚、E'センターとは、ガラスネットワーク中の3つの酸素と結合したSiに1つの不対電子が存在する構造のことである。
【0051】
(ラマン分光分析)
次に、上記するシリカガラスの変質層の構造変化を確認するために行った、ラマン分光分析とその結果について説明する。まず、変質層の厚さ方向のシラノール基相対量を測定した。OH基の伸縮振動由来のラマンバンドが3680cm
−1付近に弱く観測された。
【0052】
そこで、800cm
−1のバンドに対する3680cm
−1のバンドの相対強度(I(3680)/I(800))を算出することにより、プラズマ生成部における中空突起の内部の表面から厚さ方向のシラノール基(OH基)の相対量変化を求めた。その結果を
図7に示す。
【0053】
図7より、中空突起の内部の表面側で、特に内部の表面から50μmの範囲に亘り、OH基濃度が減少していることが分かる。
【0054】
次に、シリカガラス中の三員環構造及び四員環構造に対応する610cm
−1、495cm
−1のバンドについて分析した。尚、シリカガラス中の三員環構造及び四員環構造を、
図8A及び
図8Bにそれぞれ示す。
【0055】
800cm
−1のバンドに対する610cm
−1のバンドの相対強度(I(610)/I(800))と、800cm
−1のバンドに対する495cm
−1のバンドの相対強度(I(495)/I(800))を算出した。そして、それらの算出結果に基づき、プラズマ生成部における中空突起表面から厚さ方向のシラノール基(OH基)の相対量変化を求めた。それらの結果を、
図9及び
図10にそれぞれ示す。
【0056】
図9及び
図10より、いずれも、中空突起の内部の表面側で、特に表面から50μmの範囲に亘り、OH基濃度が減少していることが分かる。I(610)/I(800)の値、I(495)/I(800)の値がいずれも小さい程、シリカガラスの三員環構造、及び四員環構造の比率が少ないことが示唆された。すなわち、中空突起表面から厚さ約50μmの範囲において、三員環構造及び四員環構造の比率が、中空突起の内部に比較して減少していることが推測された。
【0057】
また、I(610)/I(800)の値、I(495)/I(800)の値の低下、つまり、三員環および四員環構造の減少は、仮想温度(シリカガラスの構造が凍結されたと考えられる温度)が1500℃以下の場合、シリカガラスの密度の低下と相関があることが知られている。このことから、分析試料の表面から厚さ約50μmの範囲において、石英の密度が低下したと推察される。
【0058】
以上、EPMA分析とラマン分光分析の結果より、プラズマに接する面のシリカガラスの変質層に発生した応力は、以下の第1フェーズ乃至第3フェーズが連続して生じるメカニズムによるものと推察される。まず、第1フェーズは、水素を含むプラズマによる酸素還元にともなうシリカガラス表層の密度低下である。次に、第2フェーズは、シリカガラス中の酸素欠乏欠陥の再結合による体積収縮である。最後に、第3フェーズは、シリカガラス内部にひずみが発生し、蓄積することである。
【0059】
(構造解析)
次に、最大主応力が変質層両端部に発生する理由を検証するべく、擬似モデルを用いた構造解析を実施した。
図11に、本構造解析においてコンピュータ内に作成した擬似モデルMを示す。模擬モデルMにおいて、シリカガラスモデルM1に対し、シリカガラスの変質層の構造変化による収縮を金属の熱収縮に置き換えるべく、アルミニウム片による変質層モデルM2を温度変化による熱収縮モデルとして模擬した。
【0060】
プラズマ生成部の中空突起のシリカガラスと同じサイズの石英ガラス片を1mmの厚さとし、プラズマによる変質層を線膨張係数が大きいアルミニウムに置き換えた。
図11において、シリカガラスモデルM1の長さをt1、シリカガラスモデルM1におけるプラズマ電極の幅をt2、変質層の長さをt3とした。変質層を模擬するアルミニウムはA5052とし、厚みを0.3mmとした。また、シリカガラス、アルミニウムA5052の線膨張係数はそれぞれ、4.8×10
−7(K
−1)、2.38×10
−5(K
−1)とした。
【0061】
定常状態から100℃降温させ、その際にアルミニウムとシリカガラス中に発生する応力を算出した。その結果を
図12A及び
図12Bに示す。ここで、
図12Aは、熱応力解析結果を示す図であって、上図はモデル全体の応力図である。また、下図は上図の四角領域を拡大した応力図であり、
図12Bは、
図12Aの四角領域をさらに拡大した応力図である。
【0062】
図12A及び
図12Bより、変質層に見立てたアルミニウム層のエッジ部には、最大主応力が発生することが分かった。この結果は、実際の試料を鋭敏色法で観察した結果と一致している。本解析結果より、変質層の体積収縮により、変質層と正常層との内部境界端部に最大主応力σ1が生じることが再現された。
【0063】
(OH基濃度と最大主応力の相関に関する検証)
次に、OH基濃度と最大主応力の相関に関する検証を行った。既に述べた通り、シリカガラスが、酸素を含まず水素を含む水素含有ガスのプラズマによるスパッタリングやエッチングにより、プラズマに接するプラズマ電極直下の表層は損傷し得る。その結果、シリカガラスの表層は酸素が欠乏し、密度低下と構造の再構築によって体積収縮する。この体積収縮に起因して、変質層端部には大きな応力が発生し、シリカガラスの破損に至り得る。
【0064】
ここで、プラズマ電極直下のプラズマ生成エリアにおけるシリカガラスに対して、プラズマ生成に影響のない態様で薄いシリカガラスチップを設置し、実際の成膜温度と同じ温度で一定時間アンモニアプラズマに晒す加速実験を実施した。シリカガラスチップのエッチング量とシリカガラスチップ中に発生する最大主応力の関係を調べた。
図13に実験結果を示す。
【0065】
図13に示すように、シリカガラスチップのエッチング量とシリカガラスチップ中に発生する最大主応力の間には相関が認められた。評価したエッチング量の範囲では、エッチング量が増加すると発生する応力も増加することが分かった。尚、エッチング量は処理温度にも依存し、室温ではほとんどエッチングされないことも分かった。
【0066】
この現象、すなわち、プラズマによるシリカガラス表層の選択的な酸素還元及びエッチングを低減できれば、長期的に安定して利用可能なプラズマ生成部を有するプラズマ処理装置を提供できることになる。そのためには、アンモニアガスや水素ガスのプラズマによっても酸素が還元され難く、エッチングされ難いシリカガラスをプラズマ生成部に適用するのが好ましいことが分かった。
【0067】
これまでプラズマ生成部に適用されてきた天然石英よりも微細構造が緻密で、より高いエッチング耐性が期待される合成石英によりプラズマ生成部を形成することとした。さらに、光学系システムに利用されている合成石英の特性を左右する成分としてOH基濃度があり、シリカガラスチップを用いてOH基濃度をパラメータにしてアンモニアプラズマによるエッチング量を評価した。その結果を
図14に示す。
【0068】
図14より、観測度数が少ないものの、エッチング量はOH基濃度の増加とともにOH基濃度の冪関数で減少することが分かる。
【0069】
図13及び
図14より、OH基濃度は、シリカガラス中に発生する最大主応力にも相関があり、OH基濃度が大きい方が最大主応力が小さくなることが分かる。従って、OH基を少なくとも90ppm乃至100ppm以上で、好ましくは200ppm以上含む合成石英をプラズマ生成部に適用することとした。
【0070】
より具体的には、OH基濃度が10ppm程度の天然ガラスに発生した応力に対して、OH基濃度が90ppm乃至100ppmの合成石英の応力低減効果は40%程度であることが分かっている。また、OH基濃度が10ppm程度の天然ガラスに発生した応力に対して、OH基濃度が200ppmの合成石英の応力低減効果は60%程度であることが分かっている。これらの結果に基づき、上記数値範囲を好適な範囲として規定した。
【0071】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本開示はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0072】
図示例のプラズマ処理装置100は、バッチ式の縦型炉であるが、それ以外の形態のプラズマ処理装置であってもよい。例えば、処理容器が中空で円盤状の処理容器であり、処理容器内には、複数の基板を載置して回転する回転テーブルが収容され、回転テーブルの上面に対して、原料ガスを供給する原料ガス供給部と、反応ガスを供給する反応ガス供給部と、が配設される形態が挙げられる。
【0073】
このプラズマ処理装置では、処理容器の有する天板の一部がプラズマ生成部となり、この天板の一部が合成石英から形成される。そして、天板のプラズマ生成部において、誘導結合プラズマ(Inductive Coupled Plasma: ICP)発生器からなるプラズマ電極を配設することができる。このプラズマ処理装置は、一度に5枚程度のウエハWを成膜処理できることから、所謂セミバッチ式のプラズマ処理装置と称することができる。
【0074】
また、円盤状の処理容器内に1枚のウエハWを収容して成膜処理を行う、枚葉型のプラズマ処理装置であってもよい。このプラズマ処理装置では、処理容器の内側上方にアンテナ室を有し、アンテナ室の下方にサセプタを有するチャンバーが形成されている。処理容器のうち、アンテナ室を画成する壁面等を合成石英にて形成できる。
【0075】
このプラズマ処理装置にも誘導結合型のプラズマ処理装置が適用できるが、その他、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(Electron Cyclotron resonance Plasma; ECP)が適用されてもよい。また、ヘリコン波励起プラズマ(Helicon Wave Plasma; HWP)が適用されてもよい。さらに、マイクロ波励起表面波プラズマ(Surface Wave Plasma; SWP)が適用されてもよい。
【0076】
さらに、図示例は、プラズマ処理装置100を用いて、ALD法を適用したシリコン窒化膜の成膜方法を説明しているが、プラズマ処理装置100や本開示の特徴を有するセミバッチ式のプラズマ処理装置、枚葉型のプラズマ処理装置は、エッチングプロセスにも好適に用いられる。