特許第6987039号(P6987039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987039抗菌剤と組み合わせた中極性油の細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987039
(24)【登録日】2021年12月2日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】抗菌剤と組み合わせた中極性油の細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/38 20060101AFI20211213BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 29/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   A61K33/38
   A61K31/23
   A61P31/04
   A61P17/00
   A61P17/02
   A61P43/00 121
   A61K9/06
   A61K9/08
   A61K9/107
   A61K9/10
   A61K9/12
   A61L29/02
   A61L29/16
   A61L29/10
   A61L31/02
   A61L31/08
   A61L31/16
   A61L17/00 100
   A61L27/54
   A61L27/30
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-510413(P2018-510413)
(86)(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公表番号】特表2018-528947(P2018-528947A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】US2016048110
(87)【国際公開番号】WO2017035107
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】62/209,181
(32)【優先日】2015年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502032219
【氏名又は名称】スミス アンド ネフュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクサ・ジョヴァノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】レイ・シ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ロッシェ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・レニック
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−245187(JP,A)
【文献】 特表2006−514944(JP,A)
【文献】 特開2012−056854(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/035158(WO,A2)
【文献】 日本形成外科学会基礎学術集会抄録,2013年,Vol.22,p.85, O-2
【文献】 Antibacterial Synergy of Glycerol Monolaurate and Aminoglycosides in Staphylococcus aureus Biofilms,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2014年,58 (11),6970-6973
【文献】 Assessment of cadexomer iodine against Staphylococcus aureus biofilm in vivo and in vivo using confocal laser scanning microscopy,Journal of Dermatology,2004年,31 (7),529-534
【文献】 Antimicrobial Agents Chemotherapy,2014年,Vol.58, No.8,p.4353-4361
【文献】 Int Wound J,2014年,Vol.11, No.6,p.730-734
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む局所処置組成物であって、前記組成物中の前記少なくとも1種の中極性油と前記少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、生体表面及び非生体表面上の細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量であり、前記中極性油がグリセリルエステルであり
記少なくとも1種の抗菌剤が、銀化合物であ
前記グリセリルエステルが、カプリル酸/カプリン酸グリセリルであり、ならびに、
前記銀化合物が、硝酸銀、又は塩化銀である、
組成物。
【請求項2】
前記組成物が、薬学的担体を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が担体を含み、及び、前記担体がリンギングゲルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記銀化合物が、0.1〜5%w/wの濃度である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜40%w/wの濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記生体表面が、慢性創傷である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、又は熱傷である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記生体表面が、皮膚病変又は粘膜病変である、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記皮膚病変又は粘膜病変が、疱疹、潰瘍症、擦過傷、疣贅、擦り傷、又は感染症である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物でコーティングされた表面を備える製造品であって、前記製造品が医療装置である、製造品。
【請求項11】
前記医療装置が、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用の留置カテーテル、化学療法剤投与用の留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助装置、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、又は人工呼吸器チューブである、請求項10に記載の製造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年8月24日に出願された米国仮特許出願第62/209,181号の利益を主張するものである。参照される出願の内容は、参照により本出願に援用される。
【0002】
本発明は、一般に、細菌性バイオフィルムに対する抗菌活性を有する組成物、並びに、生体表面及び非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌の減少及び/又は細菌性バイオフィルムの排除のためのかかる組成物の使用に関する。特に、本組成物は、中極性油と抗菌剤との組合せを含むことができ、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、皮膚病変、粘膜病変、及び他の生体表面を処置するために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
細菌性バイオフィルムは、表面に結合した細菌の集団である。バイオフィルム中の細菌は、細胞外高分子物質(extracellular polymeric substance、EPS)の自己産生した基質内に包埋されていることが多く、この基質は、細菌をまとめて塊状に保ち、細菌塊を下層表面にしっかりと結合させるものである。スライムと称されることの多い細菌性バイオフィルムのEPSは、細胞外DNA、タンパク質、多糖類、及び様々な生体高分子から概して構成された高分子集塊である。バイオフィルムは、生体表面上に生じることも非生体表面上に生じることもあり、工業及び臨床の両方の場で蔓延する場合がある。
【0004】
バイオフィルムがヒトの健康への著しい脅威の構成要素になることの証拠が示されている。バイオフィルムは、体内の微生物感染の80%超の原因である(「Research on Microbial Biofilms」、National Institutes of Health、PA番号:PA-03-047、2002年12月20日)。バイオフィルムは、尿路感染症、膀胱炎、肺感染症、皮膚感染症、粘膜感染症、副鼻腔感染症、耳感染症、ざ瘡、う歯、歯周炎、院内感染症、開放創、及び慢性創傷等の健康状態に関与している。更に、バイオフィルムは、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用及び化学療法剤の慢性投与用の留置カテーテル(ヒックマンカテーテル)、心臓インプラント、例えばペースメーカー、人工心臓弁、心室補助装置、並びに合成血管移植片及びステント、人工器官、経皮縫合糸、並びに気管チューブ及び人工呼吸器チューブ等の医療装置に生じる。
【0005】
バイオフィルム中で増殖する細菌は、抗生物質及び抗菌剤に対する耐容性の増加を呈し、実質的に減少させる又は排除することが極めて困難である。同じ細菌は浮遊条件下で増殖した場合にこれらの薬剤に対して感受性があるが、バイオフィルム中の細菌は、抗菌化合物に対して、バイオフィルム外に存在する細菌よりも増加した(最大で1000倍高い)耐容性を有する(「Research on Microbial Biofilms」、National Institutes of Health、PA番号:PA-03-047、2002年12月20日)。また、バイオフィルム中で増殖した細菌は、浮遊条件下で増殖した同じ細菌とは生理学的に異なる。バイオフィルム中の細菌は、バイオフィルム中のどこに細菌が常在するかに応じて異なる代謝状態に層別化され、したがって、対応する自由生息の細菌と比較して異なる表現型を提示する。バイオフィルム中の細菌の抗微生物薬耐容性の背後にある別の理論は、EPSの防御的役割である。EPSは、異物(すなわち、抗菌剤)が細菌に達することを物理的に防止することができる「メッシュ」、すなわちネットワークとして可視化することができる。こうしたEPS、代謝状態の変化、及び獲得耐性因子のため、バイオフィルムは、抗菌剤及び抗生物質に対して多元的な耐容性を有する。更に、抗菌製剤のほとんどは水系調製物であることから、水分子の高い表面張力に起因して、抗菌活性物質がバイオフィルムネットワークを貫通することがより難しいものとなっている。
【0006】
創傷、粘膜病変、及び皮膚病変は、細菌感染症の影響をとりわけ受けやすい。微生物学的観点からすると、正常な無傷の皮膚の主要な機能は、皮膚表面に生存する微生物集団を制御すること、及び潜在的な病原体が下層組織にコロニーを形成し侵入するのを防止することである。創傷、粘膜病変、又は皮膚病変等の皮下組織の露出は、微生物のコロニー形成及び増殖の助けとなる湿潤しており温かく栄養のある環境をもたらす。創傷のコロニー形成は主に、病原性の可能性がある多数の微生物が関与する多微生物性であることから、いかなる創傷、粘膜病変、又は皮膚病変も、感染するリスクが多少ある。
【0007】
創傷は、多くの場合治癒まで複数の障害を有する。創傷の治癒及び感染は、創傷環境内で安定した豊かな群集を生成する細菌の能力と、細菌の群集を制御する宿主の能力との間の関係に影響される。細菌は、表面に結合した後、独自の防御的微小環境、すなわちバイオフィルムを迅速に形成することができるため、これらの生命体を制御する宿主の能力は、バイオフィルムの群集が成熟するにつれて低下し、最終的には、創傷が治癒する能力に影響を及ぼす可能性が高い。治癒が遅延されている創傷、すなわち慢性創傷は、バイオフィルム形成に関して特に懸念される。一部の人々は、バイオフィルムを慢性創傷に関連付けてきた(Mertz、2003、Wounds、15:1〜9)。糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷等の創傷は、慢性創傷となりうる創傷の例である。慢性創傷における細菌性バイオフィルムは、一般に、宿主の免疫系によって分解されず、これらのバイオフィルムは、全身的及び局所的な抗菌剤/抗生剤に対して増加した耐容性を有する。したがって、慢性創傷における細菌性バイオフィルム感染は、実質的に減少させる又は排除することが極めて困難である。
【0008】
創傷、粘膜病変、及び皮膚病変において特に病原性のある生命体は、ブドウ球菌種(staphylococcus spp.)、連鎖球菌種(streptococcus spp.)、及び腸球菌種(enterococci spp.)等のグラム陽性細菌である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant staphylococcus aureus、MRSA)等の耐性株を含む黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のバイオフィルムは、創傷、皮膚病変、及び粘膜病変においてますます問題となっている。これらの生命体、とりわけMRSAは、前鼻孔内に常在して鼻部の病変を引き起こす場合があり、鼻部の病変は、身体の他の部分にも広がり、それらの部位で皮膚病変及び粘膜病変を引き起こす場合もある。グラム陰性細菌であるシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)も、創傷において特に病原性のある生命体である(Bjarnsholt、2008、Wound Repair and Regeneration、及びJacobsen、2011、International Wound Journal)。
【0009】
近年では、粘膜病変、皮膚病変、及び慢性創傷の処置のために、様々な抗生物質及び抗菌剤を使用する数々の取り組みがなされている。粘膜病変、皮膚病変、及び慢性創傷の多くは、細菌性バイオフィルムに感染しているか又はそれで汚染されている。これらの薬剤は、様々な化学化合物からなり、とりわけ、バンコマイシン等のペプチド類、並びにムピロシン、ヨウ素化合物、及び銀/銀イオン等の抗菌剤を含む。しかしながら、多くの細菌が次第にこれらの化合物への耐性をもつようになっている。
【0010】
したがって、創傷、粘膜病変、及び皮膚病変、並びに他の生体表面及び非生体表面における細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか、又は細菌性バイオフィルムを排除することのできる、安全かつ効果的な組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国仮特許出願第62/209,181号
【特許文献2】米国特許第6399092号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Research on Microbial Biofilms」、National Institutes of Health、PA番号:PA-03-047、2002年12月20日
【非特許文献2】Mertz、2003、Wounds、15:1〜9
【非特許文献3】Bjarnsholt、2008、Wound Repair and Regeneration
【非特許文献4】Jacobsen、2011、International Wound Journal
【非特許文献5】液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法(ASTM Standard Test Method for Partition Coefficient (N-Octanol/Water) Estimation by Liquid Chromatography)、名称E 1147-92
【非特許文献6】McCutcheon's、第1巻、Emulsifiers & Detergents、及び第2巻、Functional Materials、2001
【非特許文献7】Exploring QSAR、第1巻、Fundamentals and Applications in Chemistry and Biology、及び第2巻、Hydrophobic, Electronic, and Steric Constants、Corwin Hansch、ACS Professional Reference Book、1995
【非特許文献8】A Versatile In Vitro Biofilm Model Using Two Wound Pathogens to Screen Formulations、Van der Karら、Poster BRC09
【非特許文献9】Penetration of Rifampin through Staphylococcus epidermidis Biofilms、Zhengら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2002年3月、900〜903頁
【非特許文献10】Oxygen Limitation Contributes to Antibiotic Tolerance of Pseudomonas aeruginosa in Biofilms、Borrielloら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2004年7月、2659〜2664頁
【非特許文献11】Heterogeneity in Pseudomonas aeruginosa Biofilms Includes Expression of Ribosome Hibernation Factors in the Antibiotic-Tolerant Subpopulation and Hypoxia-Induced Stress Response in the Metabolically Active Population、Williamsonら、Journal of Bacteriology、2012年2月、2062〜2073頁
【非特許文献12】「Description of Skin Lesions」、MacNeal、Robert J.、オンラインのMerck Manual Professional Version、2013年3月、http://www.merckmanuals.com/professional/dermatologic-disorders/approach-to-the-dermatologic-patient/description-of-skin-lesions
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、細菌性バイオフィルムに関する技術分野における前述の制限及び欠点に対する解決策を提供する。特に、この解決策は、組成物中の、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを前提とする。驚くべきことに、この組合せは、細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌作用をもたらす。別の言い方をすると、相乗作用とは、2つの成分、すなわち中極性油と抗菌剤を組み合わせた全体の細菌性バイオフィルムに対する抗菌活性が、別々に測定したときの各成分のバイオフィルムに対する抗菌活性の合計を上回ることを意味する。理論に束縛されることを望むものではないが、中極性油は、油及び水性媒体の両方に分散可能であることで、バイオフィルムの細菌によって産生される細胞外高分子物質(EPS)への浸透性を向上させ、抗菌剤の標的を絞った送達を増加させると仮定されている。この少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せは、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、粘膜病変、皮膚病変、及び/又は他の生体表面を処置すること、生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させること、及び/又は細菌性バイオフィルムを排除すること、並びに/或いは、医療装置等の非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させること、及び/又は細菌性バイオフィルムを排除することのできる組成物を生成するために、使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様では、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、粘膜病変、又は皮膚病変を処置する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を、創傷、粘膜病変、又は皮膚病変に局所投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法が開示される。
【0015】
本発明の別の態様では、生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか又は細菌性バイオフィルムを排除する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を、生体表面に投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法が開示される。
【0016】
本発明の更に別の態様では、非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか又は細菌性バイオフィルムを排除する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を、非生体表面に投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法が開示される。
【0017】
本発明の別の態様では、細菌性バイオフィルムを有する生体表面及び非生体表面への適用に好適な組成物であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含み、組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、生体表面及び非生体表面上の細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である、組成物が開示される。
【0018】
本発明の更に別の態様では、本発明の組成物でコーティングされた表面を備える製造品が開示される。
【0019】
また、本発明の文脈において、実施形態1から126が開示される。
実施形態1:細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、粘膜病変、又は皮膚病変を処置する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を、創傷、粘膜病変、又は皮膚病変に局所投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法。
実施形態2:組成物が、局所処置に好適な担体を更に含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3:抗菌剤が、銀化合物、ヨウ素化合物、又は抗生物質である、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態4:抗菌剤が、C9〜C12脂肪族アルコールではない、実施形態1又は2に記載の方法。いくつかの態様では、実施形態4の組成物は、C9〜C12脂肪族アルコール不含である、すなわちそれを含まない。
実施形態5:抗菌剤が、銀化合物である、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態6:組成物が局所処置に好適な担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態5に記載の方法。
実施形態7:銀化合物が、スルファジアジン銀、硝酸銀、又は塩化銀である、実施形態5又は6に記載の方法。
実施形態8:抗菌剤が、ヨウ素化合物である、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態9:ヨウ素化合物が、ヨードホールである、実施形態8に記載の方法。
実施形態10:ヨードホールが、カデキソマーヨウ素である、実施形態9に記載の方法。
実施形態11:ヨードホールが、ポビドンヨウ素である、実施形態9に記載の方法。
実施形態12:抗菌剤が、抗生物質である、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態13:組成物が局所処置に好適な担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態12に記載の方法。
実施形態14:抗生物質が、アミノグリコシド系抗生物質である、実施形態12又は13に記載の方法。
実施形態15:アミノグリコシド系抗生物質が、ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンである、実施形態14に記載の方法。
実施形態16:抗生物質が、ポリペプチド系抗生物質である、実施形態12又は13に記載の方法。
実施形態17:ポリペプチド系抗生物質が、コリスチン又は硫酸コリスチンである、実施形態16に記載の方法。
実施形態18:中極性油がエステルである、実施形態1から17のいずれか1つに記載の方法。
実施形態19:中極性油が脂肪酸エステルである、実施形態1から18のいずれか1つに記載の方法。
実施形態20:中極性油がグリセリルエステルである、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法。
実施形態21:グリセリルエステルが、カプリル酸/カプリン酸グリセリルである、実施形態20に記載の方法。
実施形態22:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜40%w/wの濃度である、実施形態21に記載の方法。
実施形態23:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜15%w/wの濃度である、実施形態21に記載の方法。
実施形態24:細菌性バイオフィルムが、グラム陽性細菌性バイオフィルムである、実施形態1から23のいずれか1つに記載の方法。
実施形態25:グラム陽性細菌性バイオフィルムが、ブドウ球菌種である、実施形態24に記載の方法。
実施形態26:ブドウ球菌種が、黄色ブドウ球菌である、実施形態25に記載の方法。
実施形態27:ブドウ球菌種が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である、実施形態26に記載の方法。
実施形態28:細菌性バイオフィルムが、グラム陰性細菌性バイオフィルムである、実施形態1から23のいずれか1つに記載の方法。
実施形態29:グラム陰性細菌性バイオフィルムが、シュードモナス菌種である、実施形態28に記載の方法。
実施形態30:シュードモナス菌種が、シュードモナス・エルジノーサである、実施形態29に記載の方法。
実施形態31:創傷が、慢性創傷である、実施形態1から30のいずれか1つに記載の方法。
実施形態32:慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、又は熱傷である、実施形態31に記載の方法。
実施形態33:皮膚病変又は粘膜病変が、疱疹、潰瘍症、擦過傷、疣贅、擦り傷、又は感染症である、実施形態1から30のいずれか1つに記載の方法。
実施形態34:組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である、実施形態1から33のいずれか1つに記載の方法。
実施形態35:オクタノール-水分配係数(log P)が、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法(ASTM Standard Test Method for Partition Coefficient (N-Octanol/Water) Estimation by Liquid Chromatography)、名称E 1147-92によって実験的に決定される、実施形態1から34のいずれか1つに記載の方法。
実施形態36:生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか又は細菌性バイオフィルムを排除する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を、生体表面に投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法。
実施形態37:組成物が、担体を更に含む、実施形態36に記載の方法。
実施形態38:抗菌剤が、銀化合物、ヨウ素化合物、又は抗生物質である、実施形態36又は37に記載の方法。
実施形態39:抗菌剤が、C9〜C12脂肪族アルコールではない、実施形態36又は37に記載の方法。いくつかの態様では、実施形態39の組成物は、C9〜C12脂肪族アルコール不含である、すなわちそれを含まない。
実施形態40:抗菌剤が、銀化合物である、実施形態36又は37に記載の方法。
実施形態41:組成物が担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態40に記載の方法。
実施形態42:銀化合物が、スルファジアジン銀、硝酸銀、又は塩化銀である、実施形態40又は41に記載の方法。
実施形態43:抗菌剤が、ヨウ素化合物である、実施形態36又は37に記載の方法。
実施形態44:ヨウ素化合物が、ヨードホールである、実施形態43に記載の方法。
実施形態45:ヨードホールが、カデキソマーヨウ素である、実施形態44に記載の方法。
実施形態46:ヨードホールが、ポビドンヨウ素である、実施形態44に記載の方法。
実施形態47:抗菌剤が、抗生物質である、実施形態36又は37に記載の方法。
実施形態48:組成物が担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態47に記載の方法。
実施形態49:抗生物質が、アミノグリコシド系抗生物質である、実施形態47又は48に記載の方法。
実施形態50:アミノグリコシド系抗生物質が、ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンである、実施形態49に記載の方法。
実施形態51:抗生物質が、ポリペプチド系抗生物質である、実施形態47又は48に記載の方法。
実施形態52:ポリペプチド系抗生物質が、コリスチン又は硫酸コリスチンである、実施形態51に記載の方法。
実施形態53:中極性油がエステルである、実施形態36から52のいずれか1つに記載の方法。
実施形態54:中極性油が脂肪酸エステルである、実施形態36から53のいずれか1つに記載の方法。
実施形態55:中極性油がグリセリルエステルである、実施形態36から54のいずれか1つに記載の方法。
実施形態56:グリセリルエステルが、カプリル酸/カプリン酸グリセリルである、実施形態55に記載の方法。
実施形態57:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜40%w/wの濃度で存在する、実施形態56に記載の方法。
実施形態58:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜15%w/wの濃度で存在する、実施形態56に記載の方法。
実施形態59:細菌性バイオフィルムが、グラム陽性細菌性バイオフィルムである、実施形態36から58のいずれか1つに記載の方法。
実施形態60:グラム陽性細菌性バイオフィルムが、ブドウ球菌種である、実施形態59に記載の方法。
実施形態61:ブドウ球菌種が、黄色ブドウ球菌である、実施形態60に記載の方法。
実施形態62:ブドウ球菌種が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である、実施形態61に記載の方法。
実施形態63:細菌性バイオフィルムが、グラム陰性細菌性バイオフィルムである、実施形態36から58のいずれか1つに記載の方法。
実施形態64:グラム陰性細菌性バイオフィルムが、シュードモナス菌種である、実施形態63に記載の方法。
実施形態65:シュードモナス菌種が、シュードモナス・エルジノーサである、実施形態64に記載の方法。
実施形態66:生体表面が、慢性創傷である、実施形態36から65のいずれか1つに記載の方法。
実施形態67:慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、又は熱傷である、実施形態66に記載の方法。
実施形態68:生体表面が、皮膚病変又は粘膜病変である、実施形態36から65のいずれか1つに記載の方法。
実施形態69:皮膚病変又は粘膜病変が、疱疹、潰瘍症、擦過傷、疣贅、擦り傷、又は感染症である、実施形態68に記載の方法。
実施形態70:組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である、実施形態36から69のいずれか1つに記載の方法。
実施形態71:オクタノール-水分配係数(log P)が、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92によって実験的に決定される、実施形態36から70のいずれか1つに記載の方法。
実施形態72:非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか又は細菌性バイオフィルムを排除する方法であって、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物を非生体表面に投与する工程を含み、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せが、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する、方法。
実施形態73:組成物が、非生体表面への適用に好適な担体を更に含む、実施形態72に記載の方法。
実施形態74:非生体表面が、医療装置である、実施形態72又は73に記載の方法。
実施形態75:医療装置が、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用の留置カテーテル、化学療法剤投与用の留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助装置、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、又は人工呼吸器チューブである、実施形態74に記載の方法。
実施形態76:組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である、実施形態72から75のいずれか1つに記載の方法。
実施形態77:オクタノール-水分配係数(log P)が、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92によって実験的に決定される、実施形態72から76のいずれか1つに記載の方法。
実施形態78:0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せを含む組成物であって、組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度が、生体表面及び非生体表面上の細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である、組成物。
実施形態79:組成物が、担体を更に含む、実施形態78に記載の組成物。
実施形態80:担体が、非生体表面への適用に好適な担体である、実施形態79に記載の組成物。
実施形態81:担体が、薬学的担体である、実施形態79に記載の組成物。
実施形態82:薬学的担体が、ローション、溶液、懸濁液、液体、エマルション、クリーム、ゲル、リンギングゲル、軟膏、ペースト、エアロゾルスプレー、エアロゾルフォーム、非エアロゾルスプレー、非エアロゾルフォーム、フィルム、又はシートである、実施形態81に記載の組成物。
実施形態83:抗菌剤が、銀化合物、ヨウ素化合物、又は抗生物質である、実施形態78から82のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態84:抗菌剤が、C9〜C12脂肪族アルコールではない、実施形態78から82のいずれか1つに記載の組成物。いくつかの態様では、実施形態84の組成物は、C9〜C12脂肪族アルコール不含である、すなわちそれを含まない。
実施形態85:抗菌剤が、銀化合物である、実施形態78から82のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態86:組成物が担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態85に記載の組成物。
実施形態87:銀化合物が、スルファジアジン銀、硝酸銀、又は塩化銀である、実施形態85又は86に記載の組成物。
実施形態88:銀化合物が、0.1〜5%w/wの濃度である、実施形態85から87のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態89:抗菌剤が、ヨウ素化合物である、実施形態78から82のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態90:ヨウ素化合物が、ヨードホールである、実施形態89に記載の組成物。
実施形態91:ヨードホールが、カデキソマーヨウ素である、実施形態90に記載の組成物。
実施形態92:カデキソマーヨウ素が、40〜60%w/wの濃度である、実施形態91に記載の組成物。
実施形態93:ヨードホールが、ポビドンヨウ素である、実施形態90に記載の組成物。
実施形態94:ポビドンヨウ素が、1〜20%w/wの濃度である、実施形態93に記載の組成物。
実施形態95:抗菌剤が、抗生物質である、実施形態78から82のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態96:組成物が担体を含み、この担体がリンギングゲルである、実施形態95に記載の組成物。
実施形態97:抗生物質が、アミノグリコシド系抗生物質である、実施形態95又は96に記載の組成物。
実施形態98:アミノグリコシド系抗生物質が、ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンである、実施形態97に記載の組成物。
実施形態99:ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンが、0.1〜5%w/wの濃度である、実施形態98に記載の組成物。
実施形態100:抗生物質が、ポリペプチド系抗生物質である、実施形態95又は96に記載の組成物。
実施形態101:ポリペプチド系抗生物質が、コリスチン又は硫酸コリスチンである、実施形態100に記載の組成物。
実施形態102:コリスチン又は硫酸コリスチンの濃度が0.01〜2%w/wである、実施形態101に記載の組成物。
実施形態103:中極性油がエステルである、実施形態78から102のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態104:中極性油が脂肪酸エステルである、実施形態78から103のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態105:中極性油がグリセリルエステルである、実施形態78から104のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態106:グリセリルエステルが、カプリル酸/カプリン酸グリセリルである、実施形態105に記載の組成物。
実施形態107:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜40%w/wの濃度である、実施形態106に記載の組成物。
実施形態108:カプリル酸/カプリン酸グリセリルが、7〜15%w/wの濃度である、実施形態106に記載の組成物。
実施形態109:細菌性バイオフィルムが、グラム陽性細菌性バイオフィルムである、実施形態78から108のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態110:グラム陽性細菌性バイオフィルムが、ブドウ球菌種である、実施形態109に記載の組成物。
実施形態111:ブドウ球菌種が、黄色ブドウ球菌である、実施形態110に記載の組成物。
実施形態112:ブドウ球菌種が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である、実施形態111に記載の組成物。
実施形態113:細菌性バイオフィルムが、グラム陰性細菌性バイオフィルムである、実施形態78から108のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態114:グラム陰性細菌性バイオフィルムが、シュードモナス菌種である、実施形態113に記載の組成物。
実施形態115:シュードモナス菌種が、シュードモナス・エルジノーサである、実施形態114に記載の組成物。
実施形態116:生体表面が、慢性創傷である、実施形態78から115のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態117:慢性創傷が、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、又は熱傷である、実施形態116に記載の組成物。
実施形態118:生体表面が、皮膚病変又は粘膜病変である、実施形態78から115のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態119:皮膚病変又は粘膜病変が、疱疹、潰瘍症、擦過傷、疣贅、擦り傷、又は感染症である、実施形態118に記載の組成物。
実施形態120:オクタノール-水分配係数(log P)が、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92によって実験的に決定される、実施形態78から119のいずれか1つに記載の組成物。
実施形態121:実施形態78から115のいずれか1つに規定の組成物でコーティングされた表面を備える製造品。
実施形態122:製造品が医療装置である、実施形態121に記載の製造品。
実施形態123:医療装置が、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用の留置カテーテル、化学療法剤投与用の留置カテーテル、心臓インプラント、ペースメーカー、人工心臓弁、心室補助装置、合成血管移植片、合成血管ステント、人工器官、経皮縫合糸、気管チューブ、又は人工呼吸器チューブである、実施形態121に記載の製造品。
実施形態124:コーティングされた表面上にバイオフィルムが存在しない、実施形態121から123のいずれか1つに記載の製造品。
実施形態125:コーティングされた表面上にバイオフィルムが存在する、実施形態121から123のいずれか1つに記載の製造品。
実施形態126:オクタノール-水分配係数(log P)が、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92によって実験的に決定される、実施形態121から125のいずれか1つに記載の製造品。
【0020】
特に指定がない限り、本明細書において表現されるパーセント値は質量比(weight by weight)により、全組成物の質量に関するものである。例として、10グラムの成分を含む100グラムの組成物中の10グラムの成分は、組成物中10質量%の成分である。
【0021】
細菌性バイオフィルムの文脈における「減少させる」、「減少した」、「減少させること」、又は「減少」という用語は、バイオフィルム中に存在する細菌数の減少を意味する。
【0022】
生体表面上の細菌性バイオフィルムの処置、又は粘膜病変、創傷、若しくは皮膚病変の処置の文脈における「処置する」、「処置した」、又は「処置すること」という用語は、細菌性バイオフィルムのあらゆる測定可能な減少若しくは全体的な排除、及び/又は粘膜病変、創傷、若しくは皮膚病変の治療的改善を意味する。
【0023】
細菌性バイオフィルムの処置、又は創傷、粘膜病変、若しくは皮膚病変の処置の文脈における「効果的な」という用語は、治療的改善を含め、所望、期待、若しくは意図される結果を達成するのに十分であることを意味する。
【0024】
細菌性バイオフィルムの文脈における「排除する」、「排除した」、「排除すること」、又は「排除」という用語は、バイオフィルム中に存在する細菌の完全な根絶を意味する。
【0025】
本明細書で使用される「創傷」という用語は、皮膚又は粘膜の外傷を意味し、慢性創傷及び急性創傷を含む。
【0026】
「約」又は「およそ」という用語は、当業者には理解されているように、近似していることとして定義され、非限定的な一実施形態では、これらの用語は、10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、最も好ましくは0.5%以内であるものと定義される。
【0027】
「含む(comprising)」(及び「comprising」のあらゆる形態、例えば「comprise」及び「comprises」)、「有する(having)」(及び「having」のあらゆる形態、例えば「have」及び「has」)、「含む(including)」(及び「including」のあらゆる形態、例えば「includes」及び「include」)、又は「含有する(containing)」(及び「containing」のあらゆる形態、例えば「contains」及び「contain」)という語は、包括的、すなわち無制限であり、列挙されていない更なる要素又は方法工程を除外しない。
【0028】
「1つの(a)」又は「1つの(an)」という語の使用は、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、又は「含有する(containing)」という用語(又はこれらの語のあらゆる変形形態)と併せて使用される場合、「1つの(one)」を意味しうるが、「1つ又は複数の」、「少なくとも1つの」、及び「1つ又は2つ以上」の意味とも一致する。
【0029】
組成物及びその使用方法は、本明細書全体を通して開示される成分又は工程のうちのいずれかを「含む(comprise)」か、「から本質的になる(consist essentially of)」か、又は「からなる(consist of)」ことができる。
【0030】
本明細書に詳解される任意の実施形態は、任意の本発明の方法又は組成物に関して実施することができ、その逆も同様であることが想定される。更に、本発明の方法を実現するために、本発明の組成物を使用してもよい。
【0031】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明から本発明の趣旨及び範囲内にある様々な変更及び改変形態が当業者に明らかになるであろうことから、この詳細な説明及び具体例は、本発明の具体的な実施形態を示唆するとはいえ、例示として提示されるに過ぎないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】様々な極性の様々な油で処置した後の生体外の黄色ブドウ球菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図2】ASTM法の通りにCAPMUL MCMのlog P値を算出するための、参照標準の保持時間のCAPMUL MCMの保持時間に対する比較を示す。
図3】実施例2の処置製剤(カデキソマーヨウ素系製剤)で処置した後の緑膿菌(P. aeruginosa)バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図4】実施例2の処置製剤(塩化銀系製剤)で処置した後の緑膿菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図5】実施例2の処置製剤(他の銀系製剤)で処置した後の緑膿菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図6】実施例2の処置製剤(ポビドンヨウ素系製剤)で処置した後の緑膿菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図7】実施例2の処置製剤(ゲンタマイシン系製剤)で処置した後の緑膿菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
図8】実施例2の処置製剤(コリスチン系製剤)で処置した後の緑膿菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌の減少及び/又は細菌性バイオフィルムの排除に有用な方法及び組成物に関する。特に、本発明は、細菌性バイオフィルムに対する活性を呈する組成物、並びに、細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるか又は細菌性バイオフィルムを排除することによって細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された生体表面及び非生体表面を処置するための該組成物の使用方法を提供する。一態様において、本発明は、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、皮膚病変、粘膜病変、及び他の生体表面の処置に有用な方法及び組成物に関する。別の態様において、本発明は、医療装置等の非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌の減少及び/又は細菌性バイオフィルムの排除に有用な方法及び組成物に関する。
【0034】
本発明の組成物は、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤とを含む。驚くべきことに、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤との組合せは、細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌作用をもたらす。別の言い方をすると、2つの成分、すなわち中極性油と抗菌剤を組み合わせた全体の細菌性バイオフィルムに対する抗菌活性が、別々に測定したときの各成分のバイオフィルムに対する抗菌活性の合計を上回る。
【0035】
I. 組成物
本発明の組成物は、少なくとも1種の中極性油と少なくとも1種の抗菌剤とを含み、これらの両方は、以下に非限定的な様式で記載される。本組成物中の少なくとも1種の中極性油及び少なくとも1種の抗菌剤の濃度は、細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である。
【0036】
本発明の組成物は、許容される担体、例えば、局所用製品に好適な担体、又は医療装置等の非生体表面への適用に好適な担体を含むこともできる。この担体は、局所表面を含む生体表面への適用に好適な薬学的担体であってもよい。本発明の組成物は、皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に好適な担体を含んでもよい。担体の非限定的な例としては、ローション、溶液、懸濁液、液体、エマルション、クリーム、ゲル、リンギングゲル、軟膏、ペースト、エアロゾルスプレー、エアロゾルフォーム、非エアロゾルスプレー、非エアロゾルフォーム、フィルム、粉末、及びシートが挙げられる。本組成物は、ガーゼ、包帯、又は他の創傷被覆材に浸透させてもよい。皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に好適な担体の非限定的な例としては、参照により本明細書に援用される米国特許第6399092号に開示されているものが挙げられる。皮膚、粘膜、及び創傷の局所処置に好適な担体の他の例としては、ポリエチレングリコール軟膏が挙げられる。とりわけ好適な担体としては、一般に透明であり、機械的振動に励起されるとリンギング現象を呈する粘性のマイクロエマルションである、リンギングゲルが挙げられる。リンギングゲルは、O/WであってもW/Oであってもよい。リンギングゲルは本質的に粘性であり、粘性の組成物を用意するために増粘剤の添加を必要としない。リンギングゲルの製剤は当該技術分野において公知である。リンギングゲル担体の製剤の一例は、水、グリセリルエステル、例えばCAPMUL(登録商標)MCM、及びポロクサマー、例えばポロクサマー407を含む。リンギングゲルは、粘性の組成物が適用時に創傷から流れ出たり皮膚から流れ落ちたりしないという点で、創傷又は皮膚等への局所適用にとりわけ好適である。本発明でリンギングゲル担体を使用することの更なる利益は、増粘剤が必要とされないために、成分が本組成物の相乗的活性に干渉する確率が低く、皮膚又は創傷等の生体表面への適用時に刺激が生じる確率が低いことである。本発明のリンギングゲル担体の粘度値は、小型試料アダプタ、スピンドル14番、6Rチャンバを備えたBrookfield社の粘度計を用いて、室温(22℃〜25℃)で10rpmにて1分間にわたり測定したときに、少なくとも6250cps、又は少なくとも12,500cps、又は少なくとも25,000cps、又
は少なくとも50,000cps、又は少なくとも60,000cps、又は少なくとも75,000cps、又は6250cps〜125,000cps、又は12,500cps〜125,000cps、又は25,000cps〜125,000cps、又は50,000cps〜125,000cps、又は60,000cps〜125,000cps、又は75,000cps〜125,000cpsでありうる。
【0037】
本発明の組成物は、生体表面又は非生体表面に適用するための組成物での使用に好適な機能性成分を更に含んでもよい。非限定的な例としては、吸収剤、超吸収剤、抗菌剤、抗酸化剤、結合剤、緩衝剤、嵩高剤、キレート剤、着色剤、殺生物剤、脱臭剤、エマルション安定剤、成膜剤、香料成分、湿潤剤、溶解剤、酵素剤、不透明剤、酸化剤、pH調節剤、可塑剤、保存剤、還元剤、皮膚軟化性皮膚調整剤、湿潤性皮膚調整剤、保湿剤、界面活性剤、乳化剤、清浄剤、発泡剤、ヒドロトロープ、溶媒、懸濁剤、粘度制御剤(レオロジー改質剤)、粘度増加剤(増粘剤)、及び推進剤が挙げられる。好適な機能性成分の一覧及びモノグラフは、参照により本明細書に援用される、McCutcheon's、第1巻、Emulsifiers & Detergents、及び第2巻、Functional Materials、2001に開示されている。
【0038】
本発明の組成物は、薬学的に活性な成分、美容的に活性な成分、及び局所的用途に好適な創傷治癒剤を更に含んでもよい。本組成物は、無菌であってもよく、又は保存剤を用いて保存されてもよい。いくつかの実施形態では、本組成物は、C9〜C12脂肪族アルコールを含まない。いくつかの実施形態では、本組成物は、有機酸を含まない。いくつかの実施形態では、本組成物は、モノラウリン酸グリセリルを含まない。
【0039】
本発明の組成物は、任意の好適なパッケージ構成でパッケージングされてよい。非限定的な例としては、ボトル、ローションポンプ、トドル(toddle)、チューブ、ジャー、非エアロゾルポンプ噴霧器、エアロゾル容器、パウチ、及び小包が挙げられる。パッケージは、単回使用又は複数回使用の投与のために構成されていてよい。
【0040】
A. 中極性油
本発明の組成物は、0.5〜2.0のオクタノール-水分配係数(log P)を有する少なくとも1種の中極性油を含む。いくつかの実施形態では、オクタノール-水分配係数(log P)は0.7〜1.9である。他の実施形態では、オクタノール-水分配係数(log P)は0.7〜1.8.である。オクタノール-水分配係数「Kow」は、「P」とも表され、所与の温度における希釈溶液中での、n-オクタノール中の化学物質及び水の平衡モル濃度の比率である。この値は通常、「log Kow」と表され、「log P」とも表される、この係数の10を底とする対数として表現される。オクタノール-水分配係数は、物質の疎水性及び親水性の尺度である。非極性(疎水性)化合物は高いlog Pを有し、極性(親水性)化合物は低いlog Pを有する。中極性化合物は、非極性化合物と極性化合物との間のlog Pを有する。本発明の目的では、中極性化合物は、0.5〜2.0、又は0.7〜1.9、又は0.7〜1.8のlog Pを有する。本発明の目的では、「中極性油」という用語は、「中極性化合物」という用語と互換的に使用され、0.5〜2.0、又は0.7〜1.9、又は0.7〜1.8のlog Pを有する室温で液体又は固体の化合物を意味する。
【0041】
物質のオクタノール-水分配係数を決定するための多くの方法が存在する。しかしながら、本発明の目的では、オクタノール-水分配係数値の実験的決定は、逆相(reverse phase、RP)HPLC法を利用する。そのような方法の1つは、参照により本明細書に援用される、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92(2005年再認可)に記載されている。このASTM法の方法論は次の通りである。市販の長鎖炭化水素(例えばC8又はC18)を結合させた固相支持体を含有する液体クロマトグラフカラムに、試験物質(溶質)を注入する。そのようなカラムに注入された化学物質は、移動相と固定炭化水素相とに分配することにより、カラムに沿って移動する。メタノール/水溶媒系を一般的に使用して溶質を溶離し、これをその後、紫外/可視光吸収検出器、屈折率検出器、電気化学検出器、又は他の適切な検出器を使用して分析する。試験物質が利用可能なLC検出器による検出に適さない場合、分析者は、カラム溶出液の画分を収集し、ガスクロマトグラフィー、液体シンチレーション、又は他の適切な技法を使用して試験物質分析してもよい。クロマトグラフに参照化学物質の混合物を注入することを含む較正工程において決定されたデータを使用し、log(tR-t0)対log Kowのプロットから求められた線形回帰方程式から、試験化合物のKowを推定する。log(tR-t0)対log Kowの較正グラフを、試験化学物質と構造的に類似している参照化合物の数(一般的には5から10の間)について展開する。多くの化学物質に関するlog Kow測定値の一覧が入手可能である。構造的に関連した化合物の分配係数に関するデータが入手可能でない場合は、他の参照化合物を使用してより一般的な較正グラフを展開することができる。参照化合物又は試験化学物質の保持時間(tR)は、試料注入から溶出した参照化合物又は試験化学物質の最大濃度(ピーク高さ)までの時間である。内部標準の保持時間(t0)は、試料注入から溶出した内部標準の最大濃度(ピーク高さ)までの時間である。それぞれの未知物質について正規化された保持時間がtR-t0である。その結果は、次のように算出及び報告される。参照化合物に関するlog(tR-t0)対log Kowのプロットを使用し、log Kow=a log(tR-t0)+bの形態の線形回帰方程式(式中、a及びbはそれぞれ、傾き及び切片である)を計算する。標準曲線又は回帰方程式から、log(tR-t0)測定値に対応する試験化合物のlog Kow推定値を算出する。緩衝溶離液若しくは非緩衝溶離液それぞれに関するlog(tR-t0)対log Kowの標準曲線を報告するか、又はlog Kow=a log(tR-t0)+bの形態の回帰方程式を報告する。いくつかの実施形態では、オクタノール-水分配係数(log P)は、液体クロマトグラフィーによる分配係数(N-オクタノール/水)の推定のためのASTM規格試験法、名称E 1147-92によって実験的に決定される。
【0042】
代替的に、本発明の目的では、オクタノール-水分配係数値(log P)は、参照により本明細書に援用される、Exploring QSAR、第1巻、Fundamentals and Applications in Chemistry and Biology、及び第2巻、Hydrophobic, Electronic, and Steric Constants、Corwin Hansch、ACS Professional Reference Book、1995に定義及び列記されている「好ましい」又は「良好な」値から得てもよい。
【0043】
本発明者らは、非極性及び極性の油が概してバイオフィルムに対する抗菌活性をあまり呈さなかった一方で、中極性油、すなわち0.5〜2.0のlog Pを有する油は、バイオフィルムに対していくらかの抗菌活性を呈したことを実験的に決定した。図1には、様々な極性の様々な油で処置した後の生体外の黄色ブドウ球菌バイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少値が示されている。図1に見ることができるように、0.5〜2.0の範囲外のlog Pを有する化合物は、0.5〜2.0の範囲内のlog Pを有する化合物と比較して、バイオフィルムに対する抗微生物活性をあまり呈さなかった。0.5〜2.0の範囲外のlog Pを有する化合物は、グリセリルトリアセテート、安息香酸メチル、酢酸ジエチル、MONOMULS(登録商標)(モノラウリン酸グリセリル)、ミリスチン酸イソプロピル、及びオレイン酸を含む。0.5〜2.0の範囲内のlog Pを有する化合物は、レゾルシノール、アニシルアルコール、安息香酸、ベンジルアルコール、酢酸エチル、没食子酸エチル、フェノキシエタノール、フェニルエタノール、没食子酸プロピル、及びカプリル酸/カプリン酸グリセリルを含み、以下のTable 1(表1)に示されている。
【0044】
いくつかの実施形態では、中極性油はエステルである。エステルは、酸とアルコールとの間に形成される共有結合化合物である。他の実施形態では、中極性油は、脂肪酸とアルコールとの間に形成される化合物である脂肪酸エステルである。更に他の実施形態では、中極性油はグリセリルエステルである。グリセリルエステルは、主として脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド、及び/又はトリグリセリドである。そのようなグリセリルエステルの1つは、カプリル酸/カプリン酸グリセリルである。カプリル酸/カプリン酸グリセリルは、Abitec Company社からCAPMUL(登録商標)MCM,NFの商品名で、またSasol Olefins & Surfactants GmbH社からIMWITOR 742の商品名で入手可能である。カプリル酸/カプリン酸グリセリルは、その同義語:カプリル酸/カプリン酸グリセリド(INCI名)、モノグリセリド及びジグリセリド(NF名)、グリセロールモノカプリロカプレート、中鎖モノ&ジグリセリド、グリセリドC8〜10モノ-ジ-トリ-、並びにグリセリルモノ及びジカプリロ/カプレートとしても公知である。カプリル酸/カプリン酸グリセリルは、上述のASTM法によって実験的に決定した場合に1.21のオクタノール-水分配係数値を有する。カプリル酸/カプリン酸グリセリルは、中鎖脂肪酸のモノ-ジグリセリド(主にカプリル酸及びカプリン酸)である。これは、可変量のジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールを含有する、主にモノ-O-オクタノイルグリセロール及びモノ-O-デカノイルグリセロールの、モノアシルグリセロールの混合物である。これは、カプリル(オクタン)酸及びカプリン(デカン)酸とグリセロールの直接エステル化から得られる。CAPMUL MCM,NF及びIMWITOR 742は、「モノ及びジグリセリド」に関するNFモノグラフのUSP/NF要件を満たす。
【0045】
【表1】
【0046】
本組成物中の中極性油及び抗菌剤成分の濃度は、細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である。本組成物中の中極性油の濃度は、様々な油によって異なりうるが、概して、1〜50%w/w、又は1〜40%w/w、又は1〜30%w/w、又は1〜25%w/w、又は1〜20%w/w、又は1〜10%w/w、又は5〜10%w/w、又は5〜11%w/w、又は5〜12%w/w、又は5〜15%w/w、又は5〜25%w/w、又は5〜30%w/w、又は5〜40%w/w、又は5〜50%w/w、又は6〜50%w/w、又は6〜40%w/w、又は6〜30%w/w、又は6〜25%w/w、又は6〜20%w/w、又は6〜15%w/w、又は6〜12%w/w、又は6〜11%w/w、又は6〜10%w/w、又は7〜50%w/w、又は7〜40%w/w、又は7〜30%w/w、又は7〜25%w/w、又は7〜20%w/w、又は7〜15%w/w、又は7〜12%w/w、又は7〜11%w/w、又は7〜10%w/w、又は8〜50%w/w、又は8〜40%w/w、又は8〜30%w/w、又は8〜25%w/w、又は8〜20%w/w、又は8〜15%w/w、又は8〜12%w/w、又は8〜11%w/w、又は8〜10%w/w、又は9〜50%w/w、又は9〜40%w/w、又は9〜30%w/w、又は9〜25%w/w、又は9〜20%w/w、又は9〜15%w/w、又は9〜12%w/w、又は9〜11%w/w、又は9〜10%w/w、又は少なくとも5%w/w、又は少なくとも6%w/w、又は少なくとも7%w/w、又は少なくとも8%w/w、又は少なくとも9%w/w、又は少なくとも10%w/wでありうる。いくつかの実施形態では、中極性油はエステル、脂肪酸エステル、又はグリセリルエステルであり、本組成物中の濃度は、6〜50%w/w、又は6〜40%w/w、又は6〜30%w/w、又は6〜25%w/w、又は6〜20%w/w、又は6〜15%w/w、又は6〜12%w/w、又は6〜11%w/w、又は6〜10%w/w、又は7〜50%w/w、又は7〜40%w/w、又は7〜30%w/w、又は7〜25%w/w、又は7〜20%w/w、又は7〜15%w/w、又は7〜12%w/w、又は7〜11%w/w、又は7〜10%w/w、又は8〜50%w/w、又は8〜40%w/w、又は8〜30%w/w、又は8〜25%w/w、又は8〜20%w/w、又は8〜15%w/w、又は8〜12%w/w、又は8〜11%w/w、又は8〜10%w/w、又は9〜50%w/w、又は9〜40%w/w、又は9〜30%w/w、又は9〜25%w/w、又は9〜20%w/w、又は9〜15%w/w、又は9〜12%w/w、又は9〜11%w/w、又は9〜10%w/w、又は少なくとも6%w/w、又は少なくとも7%w/w、又は少なくとも8%w/w、又は少なくとも9%w/w、又は少なくとも10%w/wである。いくつかの実施形態では、中極性油はカプリル酸/カプリン酸グリセリルであり、本組成物中の濃度は、6〜50%w/w、又は6〜40%w/w、又は6〜30%w/w、又は6〜25%w/w、又は6〜20%w/w、又は6〜15%w/w、又は6〜12%w/w、又は6〜11%w/w、又は6〜10%w/w、又は7〜50%w/w、又は7〜40%w/w、又は7〜30%w/w、又は7〜25%w/w、又は7〜20%w/w、又は7〜15%w/w、又は7〜12%w/w、又は7〜11%w/w、又は7〜10%w/w、又は8〜50%w/w、又は8〜40%w/w、又は8〜30%w/w、又は8〜25%w/w、又は8〜20%w/w、又は8〜15%w/w、又は8〜12%w/w、又は8〜11%w/w、又は8〜10%w/w、又は9〜50%w/w、又は9〜40%w/w、又は9〜30%w/w、又は9〜25%w/w、又は9〜20%w/w、又は9〜15%w/w、又は9〜12%w/w、又は9〜11%w/w、又は9〜10%w/w、又は少なくとも6%w/w、又は少なくとも7%w/w、又は少なくとも8%w/w、又は少なくとも9%w/w、又は少なくとも10%w/wである。
【0047】
B. 抗菌剤
本発明の組成物は、少なくとも1種の抗菌剤を含む。様々な抗菌剤が、本発明で使用するのに好適である。好適な抗菌剤としては、次の非限定的な例:銀元素、銀ナノ粒子、銀ゼオライト、スルファジアジン銀、イオン化銀、並びに塩化銀及び硝酸銀等の銀塩といった銀化合物が挙げられる。他の好適な抗菌剤としては、次の非限定的な例:ヨウ素、ヨウ素チンキ、ルゴールヨウ素液、ヨウ化物、ヨウ素局所用溶液、アルキルアリールオキシポリエチレンのリン酸エステルと錯体を形成したヨウ素、ヨードキノール、塩化ウンデコイリウム-ヨウ素、ノニルフェノキシポリエタノール-ヨウ素錯体、及びヨードホール、例えばポビドンヨウ素(PVP-ヨウ素)、ポリビニルアルコール-ヨウ素、ポリビニルオキサゾリドン-ヨウ素、ポリビニルイミダゾール-ヨウ素、ポリビニルモルホロン-ヨウ素、及びポリビニルカプロラクタム-ヨウ素、ノニルフェノールエトキシレート-ヨウ素、可溶性デンプン-ヨウ素、ベータシクロデキストリン-ヨウ素、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物-ヨウ素、エトキシル化直鎖状アルコール-ヨウ素、及びカデキソマーヨウ素といったヨウ素化合物が挙げられる。好適な抗菌剤の更なる非限定的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セタルコニウム、塩化セチルピリジニウム、セトリモニウム、セトリミド、塩化ドファニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及び臭化ドミフェン等の第四級アンモニウム化合物、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び二酸化塩素等の塩素含有化合物、過酸化水素、安息香酸及びその塩、過酸化ベンゾイル、ベンジルアルコール、ビスピリチオン塩、ホウ酸、樟脳メタクレゾール、樟脳フェノール、クロロブタノール、クロフルカルバン、ダプソン、デヒドロ酢酸及びその塩、エチルアルコール、ヘキサクロロフェン、ヘキセチジン、ヘキシルレゾルシノール、ヒドロキシ安息香酸及びその塩、イソプロピルアルコール、酢酸マフェニド、マグネシウムピリチオン、メルブロミン、塩化メルクフェノール、メチルパラベン、メトロニダゾール及びその誘導体、ムピロシン及びその塩、ニトロフラゾン、n-プロパノール、有機過酸化物、p-クロロ-m-キシレノール、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルアルコール、フェニルエチルアルコール、硫化セレン、オキシクロロセンナトリウム、スルファセタミドナトリウム、ソルビン酸及びその塩、硫黄、テトラクロロサリチルアニリド、チモール、トリブロンサラン、トリクロカルバン、トリクロサン、及び亜鉛ピリチオンが挙げられる。
【0048】
抗生物質及び抗菌ペプチドも好適な抗菌剤である。好適な抗生物質としては、ポリペプチド系抗生物質が挙げられ、その例は、コリスチン(ポリミキシンE)、コリスチンA(ポリミキシンE1)、コリスチンB(ポリミキシンE2)、硫酸コリスチン、コリスチンメタナトリウム、アクチノマイシン、バシトラシン、及びポリミキシンBである。他の好適な抗生物質としては、アミノグリコシド系抗生物質が挙げられ、その例は、ゲンタマイシン、硫酸ゲンタマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、及びトブラマイシンである。他の好適な抗生物質としては、グリコペプチド系抗生物質が挙げられ、その例は、バンコマイシン、テイコプラニン、テラバンシン、ラモプラニン、デカプラニン、及びブレオマイシンである。他の好適な抗生物質としては、マクロライド系抗生物質が挙げられ、その例は、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、フィダキソマイシン、テリスロマイシン、スピラマイシン、及びトロレアンドマイシンである。他の好適な抗生物質としては、ムピロシン、ムピロシンカルシウム、及びレタパムリンが挙げられる。
【0049】
いくつかの実施形態では、抗菌剤は、ヨウ素化合物である。他の実施形態では、ヨウ素化合物は、ヨードホールである。更に他の実施形態では、ヨードホールは、カデキソマーヨウ素又はポビドンヨウ素である。いくつかの実施形態では、カデキソマーヨウ素は、本組成物中、40〜60%w/w、又は40〜50%w/w、又は45〜55%w/w、又は50〜60%w/w、又は約50%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、ポビドンヨウ素は、本組成物中、1〜25%w/w、又は1〜20%w/w、又は1〜15%w/w、又は3〜15%w/w、又は5〜10%w/w、又は約5%w/w、又は約10%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、銀化合物である。他の実施形態では、銀化合物は、スルファジアジン銀、硝酸銀、又は塩化銀である。いくつかの実施形態では、スルファジアジン銀は、本組成物中、0.1〜10%w/w、又は0.1〜5%w/w、又は0.1〜2%w/w、又は0.1〜1.5%、又は0.5〜5%w/w、又は0.5〜2%w/w、又は0.5〜1.5%w/w、又は0.5〜1%w/w、又は0.1〜1%w/w、又は1〜5%w/w、又は約0.5%w/w、又は約1%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、硝酸銀は、本組成物中、0.1〜10%w/w、又は0.1〜5%w/w、又は0.1〜2%w/w、又は0.1〜1.5%、又は0.5〜1%w/w、又は0.5〜5%w/w、又は0.5〜2%w/w、又は0.5〜1.5%w/w、又は0.1〜1%w/w、又は1〜5%w/w、又は約0.5%w/w、又は約1%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、塩化銀は、本組成物中、0.1〜10%w/w、又は0.1〜5%w/w、又は0.1〜2%w/w、又は0.1〜1.5%、又は0.5〜1%w/w、又は0.5〜5%w/w、又は0.5〜2%w/w、又は0.5〜1.5%w/w、又は0.1〜1%w/w、又は1〜5%w/w、又は約0.5%w/w、又は約1%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、抗生物質である。他の実施形態では、抗生物質は、アミノグリコシド系抗生物質である。更に他の実施形態では、アミノグリコシド系抗生物質は、ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンである。いくつかの実施形態では、ゲンタマイシン又は硫酸ゲンタマイシンは、本組成物中、0.1〜10%w/w、又は0.1〜5%w/w、又は0.1〜2%w/w、又は0.1〜1%w/w、又は0.5〜5%w/w、又は0.5〜2%w/w、又は0.5〜1%w/w、又は0.5〜0.7%w/w、又は0.7〜1%w/w、又は約0.7%w/wの濃度である。他の実施形態では、抗生物質は、ポリペプチド系抗生物質である。更に他の実施形態では、ポリペプチド系抗生物質は、コリスチン又は硫酸コリスチンである。いくつかの実施形態では、コリスチン又は硫酸コリスチンは、本組成物中、0.01〜5%w/w、又は0.01〜2%w/w、又は0.01〜1%w/w、又は0.01〜0.5%w/w、又は0.01〜0.2%w/w、又は0.05〜1%w/w、又は0.05〜0.5%w/w、又は0.05〜0.2%w/w、又は0.05〜0.15%w/w又は約0.1%w/wの濃度である。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、グルコン酸クロルヘキシジンではない。
【0050】
本組成物中の中極性油及び抗菌剤成分の濃度は、細菌性バイオフィルムに対する相乗的抗菌活性を呈する量での濃度である。本組成物中の抗菌剤の濃度は、様々な抗菌剤によって異なりうるが、概して、0.01〜75%w/w、又は0.01〜60%w/w、又は0.01〜50%w/w、又はその中の任意の範囲若しくは数(例えば、少なくとも0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、及び最大75質量%)でありうる。
【0051】
C. 製造
本発明の組成物は、局所用製品及び医療装置等の非生体表面への適用のために設計された製品の製造のための、当該技術分野で公知の方法及び機器によって製造することができる。そのような方法としては、LIGHTNIN社のプロペラミキサーを含む機械的ミキサー、COWLES社の溶解機、SILVERSON社の分散機、二重反転式側面掻き取りミキサー、インライン若しくはインタンクの回転子-固定子ホモジナイザを含むホモジナイザ及び分散機、並びに3ロールミル、軟膏ミル、又は回転子-固定子ミルを含むミルの使用が挙げられるが、これに限定されない。回転式側面掻き取りミキサーに加えてインタンクホモジナイザを有する「オールインワン」の真空混合システムを使用することもできる。そのようなミキサーとしては、OLSA社のミキサー、FRYMA-KORUMA社のミキサー、及びLEE社のTRI-MIX TURBO-SHEARケトルが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の組成物は、小さな研究室規模のバッチから大規模な生産バッチまで製造することができる。
【0052】
II. 細菌性バイオフィルム
本発明の組成物は、グラム陽性及びグラム陰性の両方の細菌性バイオフィルム中の細菌の減少、及び/又はこれらの細菌性バイオフィルムの排除に好適である。グラム陽性細菌の非限定的な例としては、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、及び表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)等のブドウ球菌種、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumonia)等の連鎖球菌種、バチルス菌種(Bacillus spp.)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、腸球菌種、並びにラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)及びラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等の乳酸菌が挙げられる。グラム陰性細菌の非限定的な例としては、シュードモナス・エルジノーサ等のシュードモナス菌種、及び大腸菌(Escherichia coli)が挙げられる。
【0053】
A. 生体外バイオフィルムモデル
生体外バイオフィルムモデルを使用して、細菌性バイオフィルムに対する本発明の製剤のバイオフィルム効力を評価した。血液寒天プレート上のフィルタに乗ったコラーゲン基質に細菌をスポッティングし、インキュベートしてバイオフィルムを形成させた。このモデルは、上方の空気界面で局所処置が適用される間、バイオフィルムの下から栄養素が供給されるという点で、生体内の創傷バイオフィルムを模倣する。この生体外モデル及び方法論は、フロリダ州オーランドで2010年4月18日に2010年創傷治癒学会年次総会(Wound Healing Society Annual Meeting)において行われたポスター発表、A Versatile In Vitro Biofilm Model Using Two Wound Pathogens to Screen Formulations、Van der Karら、Poster BRC09に開示されており、参照により本明細書に援用される。更なる生体外バイオフィルムモデル及び方法論は、全て参照により本明細書に援用される次の公開文献に開示されている。Penetration of Rifampin through Staphylococcus epidermidis Biofilms、Zhengら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2002年3月、900〜903頁;Oxygen Limitation Contributes to Antibiotic Tolerance of Pseudomonas aeruginosa in Biofilms、Borrielloら、Antimicrobial Agents and Chemotherapy、2004年7月、2659〜2664頁;及びHeterogeneity in Pseudomonas aeruginosa Biofilms Includes Expression of Ribosome Hibernation Factors in the Antibiotic-Tolerant Subpopulation and Hypoxia-Induced Stress Response in the Metabolically Active Population、Williamsonら、Journal of Bacteriology、2012年2月、2062〜2073頁。
【0054】
III. 使用方法及び処置方法
本発明の組成物は、生体表面及び非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌の減少及び/又は細菌性バイオフィルムの排除に有用であり、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された創傷、皮膚病変、粘膜病変、及び他の生体表面の処置にも有用である。
【0055】
A. 生体表面
本発明の組成物は、本組成物を生体表面に投与することによって生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させること及び/又は細菌性バイオフィルムを排除することに有用である。生体表面の非限定的な例としては、創傷(慢性創傷及び急性創傷を含む)、皮膚病変、皮膚、粘膜、粘膜病変、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺及び気管組織、洞組織、耳組織、歯系組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮、及び上皮病変、並びに腹膜組織が挙げられる。慢性創傷の非限定的な例としては、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷が挙げられる。急性創傷の非限定的な例としては、切り傷及び外科的創傷が挙げられる。皮膚病変及び粘膜病変の非限定的な例としては、疱疹、潰瘍、擦過傷、疣贅、擦り傷、並びに皮膚及び粘膜の感染症、例えばブドウ球菌(staph)感染症又はMRSA感染症が挙げられる。皮膚病変及び粘膜病変の例は、参照により本明細書に援用される、「Description of Skin Lesions」、MacNeal、Robert J.、オンラインのMerck Manual Professional Version、2013年3月、http://www.merckmanuals.com/professional/dermatologic-disorders/approach-to-the-dermatologic-patient/description-of-skin-lesionsに開示されている。皮膚病変は、表皮、唇、外耳道、頭皮、キューティクル、爪床、又は生殖器に現れる場合がある。粘膜病変は、口腔粘膜、鼻粘膜、陰茎及び膣の粘膜、又は肛門に現れる場合がある。
【0056】
B. 創傷の局所処置
本発明の組成物は、本組成物を創傷に局所投与することによる、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された慢性創傷及び急性創傷を含む創傷の処置に有用である。慢性創傷の非限定的な例としては、糖尿病性足部潰瘍、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、褥瘡性潰瘍、うっ血性潰瘍、圧迫潰瘍、及び熱傷が挙げられる。急性創傷の非限定的な例としては、切り傷及び外科的創傷が挙げられる。
【0057】
C. 皮膚病変及び粘膜病変の局所処置
本発明の組成物は、本組成物を皮膚病変又は粘膜病変に局所投与することによる、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された皮膚病変又は粘膜病変の処置に有用である。皮膚病変及び粘膜病変の非限定的な例としては、疱疹、潰瘍症、擦過傷、疣贅、擦り傷、並びに皮膚及び粘膜の感染症、例えばブドウ球菌感染症又はMRSA感染症が挙げられる。皮膚病変は、表皮、唇、外耳道、頭皮、キューティクル、爪床、又は生殖器に現れる場合がある。粘膜病変は、口腔粘膜、鼻粘膜、陰茎及び膣の粘膜、又は肛門に現れる場合がある。
【0058】
D. 他の生体表面の処置
本発明の組成物は、本組成物を生体表面に投与することによる、細菌性バイオフィルムに感染した又はそれで汚染された他の生体表面の処置に有用である。他の生体表面の非限定的な例としては、内臓、体腔、口腔、骨組織、筋組織、神経組織、眼組織、尿路組織、肺及び気管組織、洞組織、耳組織、歯系組織、歯肉組織、鼻組織、血管組織、心臓組織、上皮、及び上皮病変、並びに腹膜組織が挙げられる。
【0059】
E. 非生体表面
本発明の組成物は、本組成物を非生体表面に投与することによって医療装置等の非生体表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させること及び/又は細菌性バイオフィルムを排除することに有用である。医療装置の非限定的な例としては、人工尿路、尿路カテーテル、腹膜カテーテル、腹膜透析カテーテル、血液透析用及び化学療法剤の慢性投与用の留置カテーテル(ヒックマンカテーテル)、心臓インプラント、例えばペースメーカー、人工心臓弁、心室補助装置、並びに合成血管移植片及びステント、人工器官、経皮縫合糸、並びに気管チューブ及び人工呼吸器チューブが挙げられる。医療装置を含む製造品の表面は、細菌性バイオフィルムの形成を防止するために、細菌性バイオフィルムの存在前に本発明の組成物でコーティングしてもよく、又は、表面上の細菌性バイオフィルム中の細菌を減少させるため及び/又は細菌性バイオフィルムを排除するために、表面上の細菌性バイオフィルムの存在後にコーティングしてもよい。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
ASTM法によるCAPMUL MCMのオクタノール-水分配係数の決定
1. Table 2(表2)に示される公知のlog P値を有する化合物の参照標準試料を、メタノール中およそ200mg/Lの濃度で調製した。
【0061】
2. CAPMUL MCMの試験試料を、メタノール中およそ200mg/mLの濃度で調製した。
【0062】
3. Table 3(表3)に示されるパラメータを使用し、参照試料及び試験試料をHPLCにかけた。
【0063】
4. ASTM法の通り、参照標準の保持時間をCAPMUL MCMの保持時間と比較して、CAPMUL MCMのlog P値を算出した。
【0064】
参照物質の保持時間は、Table 2(表2)に示され、図2にプロットされている。CAPMUL MCMの保持時間は3.011であり、CAPMUL MCMに関して1.21のlog Pが与えられる。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
(実施例2)
製剤
様々な製剤を調製した。これらを以下のTable 4〜Table 9(表4〜表9)に示す。
【0068】
Table 4(表4)には、カデキソマーヨウ素系製剤を示す。
【0069】
【表4】
【0070】
手順(各成分の濃度については、Table 4(表4)を参照されたい):カデキソマーヨウ素及び/又はカデキソマー基剤以外の全ての成分を、均一になるまで70℃で混合した。カデキソマーヨウ素又はカデキソマー基剤を添加し、均一になるまで混合した。混合しながら室温(room temperature、RT)に冷ました。
【0071】
Table 5(表5)には、塩化銀系製剤を示す。
【0072】
【表5】
【0073】
手順(各成分の濃度については、Table 5(表5)を参照されたい):Silverson社のホモジナイザを使用し、PEG 600、PEG 400、PEG 3350、グリセリン、ARISTOFLEX AVC、CAPMUL MCM(存在する場合)、及び塩化銀(存在する場合)を、8000rpmで1分間にわたり高温でホモジナイズした。この混合物を50℃に冷まし、混合しながらHEC 250 HXを添加した。温度が35℃未満になるまで混合を継続した。
【0074】
Table 6(表6)には、他の銀系製剤を示す。
【0075】
【表6】
【0076】
手順(各成分の濃度については、Table 6(表6)を参照されたい):ポロクサマー407、グリセリン、及び水を溶解するまでRTで混合し、水相を形成した。ステアリルアルコール、ポリソルベート60、ミリスチン酸イソプロピル、PHOSPHOLIPON G、及びCAPMUL MCM(存在する場合)が透明になるまで70℃で混合し、油相を形成した。水相及び油相を合わせ、70℃で2時間混合し、次に、混合しながらRTに冷ました。水(10%w/w)及び硝酸銀又は塩化銀又はスルファジアジン銀(SSD)を用いて活性相を作製した。次に、活性相(プラセボ以外)をバッチに加え、均一になるまで混合した。
【0077】
Table 7(表7)には、ポビドンヨウ素系製剤を示す。
【0078】
【表7】
【0079】
手順(各成分の濃度については、Table 7(表7)を参照されたい):ポロクサマー407及びプロピレングリコールを水に溶解させた。ポビドンヨウ素及び/又はCAPMUL MCMを混合しながら添加し、均質になるまで混合した。ポビドンヨウ素を含有する製剤は、茶色の溶液であった。
【0080】
Table 8(表8)には、ゲンタマイシン系製剤を示す。
【0081】
【表8】
【0082】
手順(各成分の濃度については、Table 8(表8)を参照されたい):ポロクサマー407及びプロピレングリコールを水に溶解させた。硫酸ゲンタマイシン及び/又はCAPMUL MCMを混合しながら添加し、均質になるまで混合した。CAPMUL MCMを含有する製剤は、濃いリンギングゲルであった。リンギングゲル製剤「0.7%ゲンタマイシン+10%油」の粘度は、小型試料アダプタ、スピンドル14番を備えたBrookfield社のRV粘度計を使用し、室温(22℃〜25℃)で10rpmにて1分間にわたり測定したときに、89,000cpsであった。
【0083】
Table 9(表9)には、コリスチン系製剤を示す。
【0084】
【表9】
【0085】
手順(各成分の濃度については、Table 9(表9)を参照されたい):ポロクサマー407及びプロピレングリコールを水に溶解させた。硫酸コリスチン及び/又はCAPMUL MCMを混合しながら添加し、均質になるまで混合した。CAPMUL MCMを含有する製剤は、濃いリンギングゲルであった。
【0086】
(実施例3)
様々な処置製剤を用いた生体外緑膿菌バイオフィルムモデル
緑膿菌ATCC 27312を、37℃のトリプシン大豆寒天(tryptic soy agar、TSA)で一晩増殖させた。翌日、単一のコロニーを選び、トリプシン大豆ブロス(tryptic soy broth、TSB)に移し、次に、振盪(150rpm)しながら37℃で一晩増殖させた。この一晩培養物を、PBS(接種菌液)中で約1.5×108cfu/mLに希釈した。13mmで黒色の0.2ミクロンTEFLON(登録商標)フィルタを6つ備えた、5%のヒツジ血液を含むトリプシン大豆寒天(tryptic soy agar with 5% sheep blood、TSAB)プレートを調製した。各13mmフィルタは、中央に配置された単一の4mmコラーゲンプラグを有した。次にこれに、プラグの中央に置いた3μLの接種菌液を接種した(13mmフィルタに加えて接種したプラグ=コロニーバイオフィルムアセンブリ(colony biofilm assembly)、すなわちCBFA)。このCBFAプレートを37℃のインキュベータに移し、24時間インキュベートした。インキュベーションの終わりに、増殖をサンプリングし、実施例2の試験製剤を用いた処置を開始した。カデキソマーヨウ素系製剤(Table 4(表4))の試験製剤は、PBSと50/50(質量/体積)で混合し、PBS(200μL)で湿らせた13mm四方のTELFA非粘着性被覆材に適用した(200μL)。他の試験製剤(Table 5〜Table 9(表5〜表9)のゲル及び液体製剤)は、PBSで湿らせたTEFLAの四角片に直接適用した(液体製剤は、適用前に10秒間混合した)。これらの処置は、製剤がバイオフィルムに直接接触するように(TELFAが上になるように)適用し、静かに押さえて確実にバイオフィルムと接触させた(湿潤対照はTELFAのみであった)。処置したCBFAプレートを37℃のインキュベータに移し、24時間インキュベートした。インキュベーションの終わりに、処置したCBFAを5mLのDEブロスPBS中に回収し、2500rpmで2分間ボルテックスして処置を落とし(knock off)、生存している細菌があればそれを再懸濁した。この回収物を段階希釈し(PBSブロス中1:10の8点段階希釈)、10μL容量をチャコール寒天プレート上にスポッティングした(チャコール寒天プレートは、あらゆる活性処置を中和する働きをする)。このプレートを放置乾燥し、37℃で一晩インキュベートし、翌日、コロニー計数を決定した。この計数をミリリットル当たりのコロニー形成単位に換算し、log値に変換した。処置のlog cfu/mL値を湿潤対照から減算し、回収されたlog cfu/mLの直接比較に加えてlog減少値を生成することによって、効力を決定した。
【0087】
図3には、実施例2の処置製剤(カデキソマーヨウ素系製剤、Table 4(表4))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。図4には、実施例2の処置製剤(塩化銀系製剤、Table 5(表5))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。図5には、実施例2の処置製剤(他の銀系製剤、Table 6(表6))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。図6には、実施例2の処置製剤(ポビドンヨウ素系製剤、Table 7(表7))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。図7には、実施例2の処置製剤(ゲンタマイシン系製剤、Table 8(表8))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。図8には、実施例2の処置製剤(コリスチン系製剤、Table 9(表9))で処置した後のバイオフィルムモデルにおける、湿潤対照に対する細菌のlog減少結果が示されている。
【0088】
図5の結果は、「1% AgCl」製剤に加えた「プラセボ」製剤の累積的なlog減少効果が、「1%AgCl/9%油」製剤のlog減少効果を下回ったこと、「1% AgNO」製剤に加えた「プラセボ」製剤の累積的なlog減少効果が、「1% AgNO/9%油」製剤のlog減少効果を下回ったこと、及び、「1% SSD」製剤に加えた「プラセボ」製剤の累積的なlog減少効果が、「1% SSD/9%油」製剤のlog減少効果を下回ったことを示す。これらの結果は、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆する。
【0089】
図4の結果は、「Ag単独」製剤に加えた「油単独」製剤の累積的なlog減少効果が、24時間時点で「Ag+油」製剤のlog減少効果を下回ることを示し、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆している。
【0090】
図3の結果は、「カデキソマー10%油対照」製剤に加えた「カデキソマーヨウ素対照」製剤の累積的なlog減少効果が、「カデキソマーヨウ素10%油」製剤のlog減少効果を下回ることを示し、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆している。
【0091】
図6の結果は、「プラセボと油」製剤に加えた「5% PVI」製剤の累積的なlog減少効果が、「5%PVI+10%油」製剤のlog減少効果を下回ることを示し、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆している。
【0092】
図7の結果は、「プラセボと油」製剤に加えた「0.7%ゲンタマイシン」製剤の累積的なlog減少効果が、「0.7%ゲンタマイシン+10%油」製剤のlog減少効果を下回ることを示し、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆している。
【0093】
図8の結果は、「プラセボと油」製剤に加えた「0.1%硫酸コリスチン」製剤の累積的なlog減少効果が、「0.1%硫酸コリスチン+10%油」製剤のlog減少効果を下回ることを示し、抗菌剤と中極性油との組合せによる相乗的抗菌活性を示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8