【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
6ナイロン(Ny)50質量部(島成分)と高流動性低密度ポリエチレン(海成分)50質量部をチップブレンドし、混合溶融紡糸することにより海島型複合繊維を製造した。そして、海島型複合繊維を70℃の熱水中で2.5倍に延伸し、延伸された海島型複合繊維に繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけ、さらに乾燥した後、51mmにカットして4dtexのステープル繊維を得た。このステープル繊維を用いて目付600g/m
2のウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約500パンチ/cm
2のニードルパンチングを行い、さらに120℃に加熱し、カレンダーロールでプレスすることで表面の平滑な絡合不織布を作成した。この絡合不織布に、ポリテトラメチレンエーテル系ポリウレタンジメチルホルムアミド溶液(濃度13%)を含浸し、DMF/水=15/85の混合液の中に浸してポリウレタンを多孔質状に湿式凝固した後、熱トルエン中で海島型複合繊維中の海成分を溶出除去することにより、繊度0.004dtexの極細繊維を発生させた。このようにして、厚さ1.4mmの人工皮革基体を得た。
【0047】
厚さ1.4mmの人工皮革基体を半裁し、スライス面をバフィングすることにより厚み調整し、さらに反スライス面をバフィングしてスエード調の起毛面を形成することにより、ポリウレタン含有率40質量%、目付221g/m
2、見掛け密度0.368g/cm
3、厚さ0.60mmのスエード調人工皮革を得た。
【0048】
そして、スエード調人工皮革のスエード調の起毛面に対する裏面に、表1に示すような共重合比及び特性の塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体のエマルジョンをグラビアコーティングし、乾燥することにより、樹脂目付99g/m
2の塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成した。このようにして平均繊度0.004dtexの極細繊維を含む不織布と、40質量%のポリウレタンとを含むスエード調人工皮革と、起毛面に対する裏面に形成された塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体を含む樹脂層と、を備える加飾成形用シートが得られた。得られた加飾成形用シートは、目付320g/m
2、見掛け密度0.516g/cm
3、厚さ0.62mmであった。
【0049】
そして、加飾成形用シートを型温100℃、プレス圧力100kg/cm
2で、後述する射出成形金型に対応する形状に賦形するためのプレス金型を用いて熱プレス成形を行うことにより、プリフォーム成形体を成形した。そして、プリフォーム成形体の形態安定性を以下の基準に沿って判定した。
【0050】
(形態安定性)
得られたプリフォーム成形体の高さ保持率を算出し、また、外観を目視し、以下の基準で判定した。
A:高さ保持率が95%以上であり、角の賦形も良好であった。
B:高さ保持率が90〜95%であり、角の賦形も良好であった。
C:高さ保持率が80〜90%であり、角の賦形がやや不明確であった。
D:高さ保持率が50〜80%であり、角の賦形が不明確であった。
E:高さ保持率が0〜50%であり、角の賦形の痕が残っただけであった。
【0051】
次に、得られたプリフォーム成形体を用いてインモールド成形を行った。具体的には、電動式射出成形機(住友重機械工業(株)製のSE−100)に搭載された、射出成形金型の可動側型と固定側型とを型開きした状態で、可動側型のキャビティを形成する凹部にプリフォーム成形体を配置した。そして、可動側型と固定側型とを型締めした。なお、射出成形金型は、キャビティ形状が、厚さ1.6mm、縦100mm、横150mm、高さ5.0mmの一面が開放された箱状であり、2点ゲートで中央部にウェルドラインが形成される金型であった。
【0052】
そして、樹脂温度230℃、金型温度40℃の条件で、ABS樹脂を射出してキャビティ内に充填した。そして、充填後、冷却した後、型開きした。このようにして、ABS樹脂の樹脂成形体の表面にプリフォーム成形体が一体化された加飾成形体を得た。
【0053】
そして、得られた加飾成形体について、樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の位置精度、プリフォーム成形体表面のウェルドライン付近の平滑性、及び樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の接着性を以下の基準に沿って評価した。
【0054】
(樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の位置精度)
加飾成形体のプリフォーム成形体と樹脂成形体との位置ずれを目視により観察し、以下の基準で判定した。
A:樹脂成形体の目的とする領域に対してプリフォーム成形体が0.2mm以内のずれで正確に配されていた。
B:樹脂成形体の目的とする領域に対してプリフォーム成形体が0.2〜0.5mmで位置ずれして配されていた。
C:樹脂成形体の目的とする領域に対してプリフォーム成形体が0.5mm超の位置ずれして配されていた。
【0055】
(ウェルドライン付近の平滑性)
加飾成形体のプリフォーム成形体表面の樹脂成形体のウェルドラインが形成される付近を目視し、以下の基準で判定した。
A:プリフォーム成形体の表面が平滑であり、ウェルドライン痕は全くなかった。
B:プリフォーム成形体の表面が平滑であったが、ウェルドライン痕が1cm以下であることが確認された。
C:プリフォーム成形体の表面が平滑でなく、ウェルドライン痕が1cm以上であることが確認された。
【0056】
(樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の接着性)
加飾成形体における樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の接着強力を引張試験機(テンシロン オリエンテック(株))を用いて次のように評価した。具体的には、幅25mm×長さ100mmに加飾成形体を切り出した試験片を作成した。そして、試験片の加飾成形体の樹脂成形体とプリフォーム成形体とを端部から長さ40mm程度を層間剥離のようにして剥離した。そして、それぞれの端部を、初期間隔50mmに設定した引張試験機の上下それぞれのチャックに挟んで、引張速度100mm/分で引張試験を行って引張時間−剥離強力の曲線を得た。そして、得られた曲線から最大値と最小値の各5点を抽出して平均値を接着強力とした。3本のサンプルの平均値を求め、次のようにしてクラス分けした。
【0057】
A:4Kg/cm以上
B:3〜4Kg/cm
C:2〜3Kg/cm
D:1〜2Kg/cm
E:0〜1Kg/cm
【0058】
結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例2〜4]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層における、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の共重合比、または樹脂目付を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例5]
実施例1で得られた人工皮革基体を半裁し、スライス面をバフィングし厚み調整したのち、反スライス面をバフィングして起毛した面に乾式造面法によりポリウレタンの銀面調の樹脂層を接着することにより積層して銀付調人工皮革を得た。実施例1において、スエード調人工皮革の代わりに銀付調人工皮革を用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例6]
ナイロン6・12(Ny6・12)60質量部(島成分)と高流動性低密度ポリエチレン(海成分)40質量部からなる海島型複合繊維を溶融紡糸法により調製した。そして、海島型複合繊維を70℃の熱水中で2.5倍に延伸し、延伸された海島型複合繊維に繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけ、さらに乾燥した後、51mmにカットすることにより4dtexのステープル繊維を得た。このステープル繊維を用いて目付600g/m
2のウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約1500パンチ/cm
2のニードルパンチングを行い、面積収縮率を20%にし、さらに120℃に加熱し、カレンダーロールでプレスすることにより表面の平滑な絡合不織布を作成した。この絡合不織布に、ポリテトラメチレンエーテル系ポリウレタンジメチルホルムアミド溶液(濃度13%)を含浸し、熱トルエン中で海島型複合複合繊維中の海成分を溶出除去して繊度0.004dtexの極細繊維を発生させた。このようにして、厚さ1.4mmの人工皮革基体を得た。実施例1において、上記人工皮革基体を用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例7〜10]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層における、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の共重合比、または樹脂目付を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層の代わりに、酢酸ビニル単独重合体の樹脂層を形成した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成しなかった以外は実施例5と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例4]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層の代わりに、塩化ビニル単独重合体の樹脂層を形成した以外は実施例5と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例5]
実施例6の人工皮革基体の製造において、ポリウレタンを含浸付与する工程を省略した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0069】
表1に示すように、実施例1〜10のナイロンの極細繊維の不織布を含む人工皮革基体を加飾成形用シートとして用いた場合、プリフォーム成形体の形態安定性が何れもC以上であった。一方、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成しなかった比較例1及び比較例3の場合、プリフォーム成形体の形態安定性がEであった。また、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層の代わりに酢酸ビニル単独重合体の樹脂層を形成した比較例2の場合は、形態安定性がDであった。また、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層の代わりに塩化ビニル単独重合体の樹脂層を形成した比較例4の場合は、形態安定性はCであったが、接着性がDであった。また、不織布にポリウレタンを含浸しなかった加飾成形用シートを用いた比較例5の場合も、形態安定性はCであったが、ウェルドライン付近の平滑性及び接着性がCであった。
【0070】
[実施例11]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール、島成分の熱可塑性樹脂として変性PET(イソフタル酸単位の含有割合6.0モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート)を含む、海島型複合繊維の絡合不織布を製造した。そして、海島型複合繊維の絡合不織布にポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンのエマルジョンを含浸させた後、加熱乾燥することによりポリウレタンが含浸付与された海島型複合繊維の絡合不織布を得た。
【0071】
そして、ポリウレタンが含浸付与された海島型複合繊維の絡合不織布を90℃の熱水中に20分間浸漬して海成分を抽出除去し、乾燥することにより12質量%のポリウレタンと平均繊度0.08dtexの極細繊維の不織布とを含む、1.4mmの人工皮革基体が得られた。厚さ1.4mmの人工皮革基体を半裁し、スライス面をバフィングすることにより厚み調整し、さらに反スライス面をバフィングすることによりスエード調の起毛面を有する、ポリウレタン含有率12質量%、目付253g/m
2、見掛け密度0.496g/cm
3、厚さ0.51mmのスエード調人工皮革を得た。
【0072】
そして、スエード調人工皮革のスエード調の起毛面に対する裏面に、表2に示すような共重合比及び特性の塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体のエマルジョンをグラビアコーティングし、乾燥することにより、樹脂目付50g/m
2の塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成した。このようにして平均繊度0.08dtexの変性PETの極細繊維を含む不織布と、12質量%のポリウレタンとを含むスエード調人工皮革と、起毛面に対する裏面に形成された塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体を含む樹脂層と、を備える加飾成形用シートが得られた。得られた加飾成形用シートは、目付303g/m
2、見掛け密度0.541g/cm
3、厚さ0.56mmであった。
【0073】
そして、加飾成形用シートを型温100℃、プレス圧力100kg/cm
2で、実施例1と同様の射出成形金型に対応する形状に賦形するためのプレス金型を用いて熱プレス成形を行うことにより、プリフォーム成形体を成形し、実施例1と同様に形態安定性を評価した。
【0074】
そして、得られたプリフォーム成形体を用いて実施例1と同様にインモールド成形を行ってABS樹脂の樹脂成形体の表面にプリフォーム成形体が一体化された加飾成形体を得た。
【0075】
そして、得られた加飾成形体について、実施例1と同様にして評価した。結果を下記表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
[実施例12]
実施例11で得られた人工皮革基体を半裁し、スライス面をバフィングして厚み調整したのち、反スライス面をバフィングしてスエード調に起毛した面に乾式造面法によりポリウレタンの銀面調の樹脂層を接着して積層することにより銀付調人工皮革を得た。実施例11において、スエード調人工皮革の代わりに銀付調人工皮革を用いた以外は実施例11と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0078】
[実施例13〜16]
塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層における、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の共重合比、または樹脂目付を表2に示したように変更した以外は実施例11と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0079】
[比較例6]
実施例11の人工皮革基体の製造において、ポリウレタンを含浸付与する工程を省略し、また、厚さを変更した以外は実施例11と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0080】
[比較例7]
実施例11の人工皮革基体の製造において、ポリウレタンを含浸付与する工程を省略し、また、厚さを変更し、さらに、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成しなかった以外は実施例11と同様にして加飾成形用シート及び加飾成形体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0081】
表2に示すように、実施例11〜16の変性PETの極細繊維の不織布を含む人工皮革基体を加飾成形用シートとして用いた場合、プリフォーム成形体の形態安定性がC以上であり樹脂成形体に対するプリフォーム成形体の接着性もC以上であった。一方、不織布にポリウレタンを含浸しなかった加飾成形用シートを用いた比較例6の場合、形態安定性、位置精度、平滑性の何れも実施例11よりも劣っていた。また、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体の樹脂層を形成しなかった比較例7の場合、とくに接着性評価項目がEであり、実施例11に比べて著しく劣っていた。