特許第6987381号(P6987381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987381
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】腸内エクオール生成促進飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20211213BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20211213BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20211213BHJP
   A61K 35/08 20150101ALI20211213BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   A23L2/00 F
   A23L33/16
   A23L2/38 B
   A61K35/08
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P15/00
   A61P35/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-167185(P2017-167185)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-41652(P2019-41652A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名 Journal of Food Processing & Technology 配布日 平成29年 3月 2日 集会名 16th Euro Global Summit on Food & Beverages 開催日 平成29年 3月 3日 集会名 高知海洋深層水企業クラブ第1回総会 開催日 平成29年 5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓晃
(72)【発明者】
【氏名】石塚 悟史
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−027658(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102697807(CN,A)
【文献】 特開2006−143623(JP,A)
【文献】 竹内啓晃, 松村敬久,調製海洋深層水飲用による生体効果,Deep Ocean Water Research,2016年,vol.17, No.1, p.17-22
【文献】 金子俊之ほか, イソマルトオリゴ糖摂取が健常人の便通と腸内環境に及ぼす影響,日本家政学会誌,1993年,Vol.44, No.4,p.245-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/52
A23L 33/16
A23L 2/38
A61K 35/08
A61P 3/04
A61P 3/10
A61P 15/00
A61P 35/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度300以上3000以下であ腸内細菌活性化飲料からなることを特徴とする腸内エクオール生成促進飲料
【請求項2】
海洋深層水由来であることを特徴とする請求項1に記載の腸内エクオール生成促進飲料
【請求項3】
マグネシウムとカルシウムの重量比(Mg:Ca)が80:20〜25:75の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の腸内エクオール生成促進飲料
【請求項4】
硬度300以上3000以下の腸内細菌活性化飲料からなる腸内エクオール生成促進飲料を摂取することを特徴とする腸内エクオール生成促進方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
海洋深層水は、1989年に日本で初めて高知県室戸岬で陸上型の深層水取水施設において汲み上げが開始されて以降、富山県、沖縄県をはじめ、日本各地で取水されている。海洋深層水は、富栄養性、清浄性、低温安定性等の特性を有しており、近年、海洋深層水を利用した製品開発が盛んに行われている。中でも、飲料水、水産加工品及び発酵品等の食品分野において海洋深層水は利用されており、数多くの商品が市場に流通している。
海洋深層水を原料に用いた飲料水は、ミネラルが豊富であり、人体への好影響が期待される。海洋深層水を原料に用いた飲料水の生体に対する作用機序は、医科学的にも徐々に解明されてきており、例えば、特許文献1には血流改善効果、特許文献2にはHelicobacter Pylori菌の増殖・運動を抑制する効果が記載されている。一方、海洋深層水を原料に用いたミネラルを多く含む飲料水が、大腸に及ぼす影響については、これまでに報告されていない。
【0002】
摂食した植物に含まれる食物繊維やオリゴ糖は、消化されにくいため大腸に達し、大腸内で腸内細菌により発酵され、短鎖脂肪酸を生成する。短鎖脂肪酸が生成すると、腸内のpHが低下して弱酸性となり、ウェルシュ菌などのいわゆる悪玉菌と総称される菌の増殖が抑制される。また、腸内で生成された短鎖脂肪酸は、蠕動運動を促進して排便を促し、便秘を予防することが知られている。さらに、短鎖脂肪酸は、腸管内分泌細胞上に存在するGタンパク質共役受容体(GPR41、GPR43)を介して肥満や糖尿病に関連することが近年報告されている(非特許文献1)。
このように、大腸内での短鎖脂肪酸の生成は、腸内環境の改善のみならず、肥満や糖尿病等への好影響が期待されている。
【0003】
また、豆腐や納豆などの大豆製品を摂取すると、大豆製品に多く含まれるダイゼイン、ゲニステイン等のイソフラボン類が体内に吸収される。ここで、イソフラボン類には糖鎖を有するグリコシド型イソフラボンと糖鎖を有さないアグリコン型イソフラボンとが存在する。イソフラボンは、腸内細菌によりグリコシド型イソフラボンの糖鎖が切断されてアグリコン型イソフラボンに変換され、アグリコン型イソフラボンとして体内に吸収される。また、イソフラボン類は、腸内のエクオール産生菌により代謝されてエクオールとなり、体内に吸収される。イソフラボン類は、その分子構造が女性ホルモン(エストロゲン)に類似していることから、女性の健康や美容に寄与することが知られている。また、エクオールは、抗癌作用、更年期障害の緩和、肥満予防等の効果が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4754806号公報
【特許文献2】特許第5035865号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中野雄二郎ら、「シリーズ 腸内細菌叢5 糖尿病と腸内細菌」、モダンメディア 2016、62巻、5号、p159−165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腸内細菌を活性化する腸内細菌活性化飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.硬度300以上3000以下であることを特徴とする腸内細菌活性化飲料。
2.海洋深層水由来であることを特徴とする1.に記載の腸内細菌活性化飲料。
3.マグネシウムとカルシウムの重量比(Mg:Ca)が80:20〜25:75の範囲内であることを特徴とする1.または2.に記載の腸内細菌活性化飲料。
4.1.〜3.のいずれかに記載の腸内細菌活性化飲料からなることを特徴とする腸内短鎖脂肪酸生成促進飲料。
5.1.〜3.のいずれかに記載の腸内細菌活性化飲料からなることを特徴とする腸内エクオール生成促進飲料。
6.硬度300以上3000以下の腸内細菌活性化飲料を摂取することを特徴とする腸内細菌活性化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の腸内細菌活性化飲料は、飲用するだけで腸内細菌の活動を活性化することができる。海洋深層水は、マグネシウムやカルシウム等の主要ミネラルのみならず、微量ミネラルをバランス良く含み、また、清浄で低コストなため、腸内細菌活性化飲料の原料水として好適である。本発明の腸内細菌活性化飲料により、腸内細菌の活動が活性化されるため、腸内細菌の代謝に由来する短鎖脂肪酸、エクオールの生成を促進することができ、これらによる健康促進効果が期待できる。また、腸内細菌により、グリコシド型イソフラボンから吸収性に優れたアグリコン型イソフラボンの転換が促進されるため、イソフラボン類(ダイゼイン、ゲニステイン)の吸収が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験1におけるアンケート調査の結果を示す図。
図2】実験1における糞便の成分分析の免疫グロブリンA量を示す図。
図3】実験1における糞便の成分分析の腐敗産物量を示す図。
図4】実験1における糞便の成分分析の短鎖脂肪酸量を示す図。
図5】実験1における糞便の成分分析で分析した個々の短鎖脂肪酸における増加した人数の割合を示す図。
図6】実験1における尿中のイソフラボン類(クレアチニン補正)の変化を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、硬度300以上3000以下である腸内細菌活性化飲料(以下、「本飲料」ともいう)に関する。
本飲料を飲用することにより、腸内に生息する腸内細菌の活動を活性化することができる。腸内細菌が活性化することにより、腸内における短鎖脂肪酸とエクオールの生成を促進することができる。ここで、短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が生成する炭素数6以下の脂肪酸を意味し、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、乳酸、コハク酸、ギ酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸などが挙げられる。
【0011】
硬度は、EDTA法による値であり、本飲料の硬度は、300以上3000以下である。硬度が300未満では、マグネシウムやカルシウムの主要ミネラルや微量ミネラルの含有量が少なく、腸内細菌を活性化する効果が期待できない。硬度が3000を越えると、味が硬くなりすぎて飲みにくくなってしまう。硬度は、400以上2700以下が好ましく、500以上2500以下がより好ましく、1000以上1500以下がさらに好ましい。
【0012】
本飲料の原料水としては特に制限されず、水道水、山や川の水、鉱泉水、海水等を単独、または2種以上を混合して用いることができる。これらの中で、清浄で、主要ミネラル、微量ミネラルがバランスよく含まれていることから、水深が200m以深から採取した海洋深層水が特に好ましい。なお、海洋深層水等の海水は、そのままでは塩が多すぎて飲用に適さないため、例えば、逆浸透膜装置(RO)、電気透析装置(ED)、イオン交換膜、濾過、蒸留等により、主に過剰の塩化ナトリウムを除去して使用する。ここで、ROによる脱塩処理は、水溶性イオンを種類を問わず取り除くため、淡水と濃縮海水とに分離できるのに対し、EDによる脱塩処理は、塩化ナトリウムのみを選択的に取り除くため、高ミネラル水と塩水とに分離することができる。そのため、EDで製造した高ミネラル水を、水道水、ROで製造した淡水や鉱泉水等の硬度の低い水と混合して、上記硬度の範囲となるように調整することが好ましい。
【0013】
本飲料において、マグネシウムとカルシウムの重量比(Mg:Ca)が80:20〜25:75の範囲内であることが好ましい。この範囲よりもマグネシウムが増えると、苦みが生じて飲みにくくなり、カルシウムが増えると、味が硬くなり飲みにくくなる。また、マグネシウムの摂取状況は1日300mgの必要量に対して200mg、カルシウム摂取状況は1日600mgの必要量に対して570mgとなっている(厚生省データ)。この不足分を補うため、および、味覚の点から、本飲料のマグネシウムとカルシウムの重量比は、80:20〜33:67であることが好ましく、80:20〜50:50であることがより好ましく、80:20〜70:30であることがさら好ましく、75:25であることが最も好ましい。
【0014】
本飲料は、飲み物としての美味しさや飲みやすさを高めるために、糖分、酸味料、呈味剤、果汁エキス類、野菜エキス類、フレーバー、色素、酸化防止剤、pH調整剤等の添加剤の配合や、炭酸の付与を行うことができる。また、スポーツ飲料、果汁飲料、野菜飲料、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料等にすることもできる。本飲料を、飲み物として美味しく、飲みやすくすることにより、飲用者が本飲料の飲用を長期間に亘って継続しやすくなるため、健康への寄与がより期待できる。
【実施例】
【0015】
「実験1」
参加者を約50人ずつの2つのグループに分け、それぞれのグループに、以下に示す本発明の腸内細菌活性化飲料である高ミネラル水、コントロールである低ミネラル水を、1日に1Lずつ12週間飲用させた。
高ミネラル水:硬度1000、Mg:Ca=74:26(赤穂化成株式会社製、
商品名:天海の水 硬度1000)
低ミネラル水:硬度20、Mg:Ca=67:33(市販の鉱泉水)
【0016】
飲用期間前後に、便秘症状のなどのアンケート調査(高ミネラル水群49人、低ミネラル水群49人)、と糞便の成分分析(高ミネラル水群49人、低ミネラル水群46人)、尿中のイソフラボン類の分析を行った。糞便の成分分析は、免疫グロブリンA(IgA)、腐敗産物(5種類:スカトール、インドール、4−エチルフェノール、p−クレゾール、フェノール)、短鎖脂肪酸(9種類:こはく酸、乳酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸)を行った。イソフラボン類は、エクオール、ダイゼイン、ゲニステインの分析を行った。なお、各分析において、χ2乗検定、T検定を行い評価した。
【0017】
「アンケート調査」
飲用前に便秘の自覚症状があった人のうち、試験前後で便秘が改善した人数の割合を図1に示す。
高ミネラル水群では17名のうち16名(94%)が便秘が改善し、低ミネラル水群では15名のうち9名(60%)が便秘が改善した。双方でχ2乗検定を行ったところ、有意水準0.05で有意差が見られた。
【0018】
「成分分析」
免疫グロブリンA(IgA)はELISA法により、腐敗産物はガスクロマトグラフィ(GC−MS)により、短鎖脂肪酸はガスクロマトグラフィ(GC−FID)により、イソフラボン類はHPLC法により分析を行った。
図2に免疫グロブリンA(IgA)、図3に糞便1g中の腐敗産物の含有量、図4に糞便1g中の短鎖脂肪酸の含有量、図5に分析した個々の短鎖脂肪酸における増加した人数の割合を、図6に尿中のイソフラボン類の変化量(クレアチニン補正)を示す。
【0019】
・免疫グロブリンA(IgA)
免疫グロブリンAは、腸管免疫の指標であるが、試験前後、及び、2つのグループ間で、免疫グロブリンA量に有意差はなく、本飲料は腸管免疫にほとんど影響を与えないことが確かめられた。
【0020】
・腐敗産物
腐敗産物量は、腸内環境の悪化を示す指標であり、また、生成した腐敗産物は血液により運ばれ、肌荒れを起こす要因となる。試験前後、及び、2つのグループ間で、腐敗産物量に有意差はなかった。
【0021】
・短鎖脂肪酸
低ミネラル水群では短鎖脂肪酸の総量が有意水準0.05で有意に減少しているのに対し、高ミネラル水群では有意差はないが増加傾向であることが確かめられた(図4)。また、分析した9種類の短鎖脂肪酸のうち、ギ酸を除く8種の短鎖脂肪酸において高ミネラル水群の増加人数が、低ミネラル水群を上回っていることが確かめられた(図5)。特に、酢酸の増加人数に関してχ2乗検定、有意水準0.05で有意差が認められた。
【0022】
・イソフラボン類
高ミネラル水群は、低ミネラル水群に比べて尿中のエクオール、ダイゼイン、ゲニステインが増加した。これは、腸内細菌が活性化したことにより、エクオールの生成と、吸収性に優れたアグリコン型イソフラボンへの転換が促進されたためである。
【0023】
本飲料を飲用することにより、短鎖脂肪酸とエクオールの生成が促進されたことが確かめられた。短鎖脂肪酸とエクオールは、腸内細菌により生成されるため、本飲料により腸内細菌が活性化されたことが確かめられた。また、イソフラボン類(ダイゼイン、ゲニステイン)の吸収が増加することが確かめられた。
【0024】
「実験2」
10人の参加者に、異なる硬度、マグネシウムとカルシウムの重量比(Mg:Ca)の水を、1日に1Lずつ12週間飲用させ、飲用期間前後に、実験1と同様にして糞便の成分分析と尿中のイソフラボン類の分析を行った。表1に各水の飲用者数を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
・免疫グロブリンA(IgA)、腐敗産物
免疫グロブリンA、腐敗産物については、すべてのミネラル比、硬度において飲用前後で差はなかった。
・短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸の飲用期間前の値に対する、飲用期間後の値の割合(飲用後の値/飲用前の値)を表2に示す。
【0027】
【表2】
硬度250、マグネシウムとカルシウムの重量比75:25において飲用前後で差はなかった。それ以外の飲料を飲んだ場合は、飲用後の9種類の短鎖脂肪酸の合計量は飲用前に比べ、飲用後は105%〜163%に増加していた。
【0028】
・イソフラボン類
イソフラボン類(エクオール、ダイゼイン、ゲニステイン)の飲用期間前の値に対する、飲用期間後の値の割合(飲用後の値/飲用前の値)を、表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
硬度250、マグネシウムとカルシウムの重量比75:25において飲用前後でエクオール、ダイゼイン、ゲニステインに差はなかった。
それ以外の飲料を飲んだ場合は、飲用前と比べ、飲用後はエクオールは105%〜125%、ダイゼインは102%〜122%、ゲニステインは103%〜120%に増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6