特許第6987636号(P6987636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987636
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】ケーキドーナツの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/04 20060101AFI20211220BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20211220BHJP
【FI】
   A21D8/04
   A21D13/60
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-250739(P2017-250739)
(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公開番号】特開2019-115288(P2019-115288A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2020年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 詩織
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 周平
【審査官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−152226(JP,A)
【文献】 特開2006−262781(JP,A)
【文献】 特開平11−196758(JP,A)
【文献】 特開2013−138663(JP,A)
【文献】 特開平04−207148(JP,A)
【文献】 特開昭64−020049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉、糖及びパン酵母を含む液種用粉原料に、液体原料を添加混合して粘度400〜1500dPa・s(25℃)とした液種生地を、4〜18℃で4〜19時間発酵させる工程及び、発酵させた液種生地に、膨張剤を含む本捏ね用粉原料を添加する工程を含むケーキドーナツの製造方法(但し、発酵させた液種生地と本捏ね用粉原料とを混捏して得られた生地をホイロ(焙炉)する工程を含む場合を除く)
【請求項2】
パン酵母の量が液種用粉原料の全量に対し乾燥重量で0.5〜1.1質量%である、請求項1に記載のケーキドーナツの製造方法。
【請求項3】
本捏ね用粉原料を、液種生地:本捏ね用粉原料=99.5〜45:0.5〜55の質量比で添加する、請求項1または2に記載のケーキドーナツの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキドーナツの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキドーナツとは、基本的にパン酵母の発酵力に頼らず、膨張剤を使用して作製したドーナツをいう。一般的にケーキドーナツは、膨張剤を配合してあるケーキドーナツ用ミックス粉と水や卵を加えて生地をつくり、フライしてドーナツを製造する。一般的な製造方法で作製したケーキドーナツは、ふんわりした食感が特徴であるが、風味や口溶けについては、イーストドーナツ等から比べ風味が乏しく食感や口溶けがわるい。また、イーストドーナツでは、風味はあるものの、食感がパン様で軽い。ケーキドーナツで、風味が良好でふんわりとした食感を有し、口溶けがよいものが求められている。
ケーキドーナツの食感改良法としては、特許文献1には、キサンタンガム/グアーガム及びビタミンCを所定量含むケーキドーナツ用吸油抑制剤を使用することで、油っぽさがあり食感が重たくなる傾向にあるケーキドーナツの食感を軽い食感にすることができることが開示されているが、同文献では、ケーキドーナツ生地の風味や口溶けについてはふれられていない。また、イーストドーナツの風味を改良する方法として、特許文献2では、イーストドーナツ生地を所定の条件下で過発酵をさせた後、新たに計量したイーストドーナツ各原料とを混合することで、深みのある優れた風味を付けることが出来ることが開示されているが、同文献の方法で得られたイーストドーナツは、食感がパン様で軽く、ケーキドーナツのような独特のふんわり感とは一線を画すものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−214230
【特許文献2】特開2001−231437
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風味が良好でふんわりした食感を有し、口溶けがよいケーキドーナツを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、小麦粉、糖及びパン酵母を含む液種用粉原料に液体原料を添加、混合して粘度200〜1800dPa・s(25℃)とした液種生地を4〜18℃で4〜19時間発酵させる工程及び、発酵させた液種生地に、膨張剤を含む本捏ね用粉原料を添加する工程を含むケーキドーナツの製造方法により風味が良好でふんわりした食感を有し、口溶けがよいケーキドーナツを提供することが出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]小麦粉、糖及びパン酵母を含む液種用粉原料に液体原料を添加、混合して粘度200〜1800dPa・s(25℃)とした液種生地を4〜18℃で4〜19時間発酵させる工程及び、発酵させた液種生地に、膨張剤を含む本捏ね用粉原料を添加する工程を含むケーキドーナツの製造方法。
[2]パン酵母の量が液種用粉原料の全量に対し乾燥重量で0.5〜1.1質量%である、前記[1]に記載のケーキドーナツの製造方法。
[3]本捏ね用粉原料を、液種生地:本捏ね用粉原料=99.5〜45:0.5〜55の質量比で添加する、前記[1]又は[2]に記載のケーキドーナツの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、風味が良好でふんわりした食感を有し、口溶けがよいケーキドーナツを提供することが出来る。これはドーナツ生地に液種生地を配合することで液種発酵中に発生する炭酸ガスが液種生地中から空気中へと拡散し、生地のグルテン形成を促進するpHとなることでドーナツの良好な骨格形成に寄与することや、液種発酵中に生成される風味成分(アルコールやエステル等)が生地に程よく残存し、ドーナツ生地に豊かな風味を付与することによるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、ケーキドーナツとは、基本的にパン酵母の発酵力に頼らず、膨張剤を使用して作製したドーナツをいう。但し、食感が変わらない程度にパン酵母を用いたもの(パン酵母の量が生地用粉原料の全量に対し乾燥質量で約0.1質量%未満使用されたもの)は含まれる。
【0009】
本発明のケーキドーナツの製造方法は、小麦粉、糖及びパン酵母を含む液種用粉原料に液体原料を添加、混合して粘度200〜1800dPa・s(25℃)とした液種生地を4〜18℃で4〜19時間発酵させる工程を含む。
【0010】
本発明において、液種用粉原料は小麦粉、糖及びパン酵母を含む。
本発明における小麦粉は、ケーキドーナツに通常用いられるものであればいずれでもよい。薄力粉、中力粉、強力粉のいずれも使用することができるが、好ましくは強力粉である。液種用粉原料の全量に対する小麦粉の量は好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜85質量%、さらに好ましくは75〜85質量%である。
【0011】
本発明における糖は、ケーキドーナツに通常用いられるものであれば特に限定無く使用でき、例としてグルコースやフルクトース等の単糖類、ショ糖(グラニュー糖等の分蜜糖、三温糖等の含蜜糖)やラクトース等の2糖類など食用に供される甘味性の粉末糖であれば何れも使用することが出来るが、好ましくはショ糖であり、最も好ましくはグラニュー糖である。液種用粉原料の全量に対する糖の量は好ましくは乾燥質量で5〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、さらに好ましくは15〜20質量%である。
【0012】
本発明におけるパン酵母は、パン発酵に用いられるものであれば特に限定無く使用でき、例としてインスタントドライイースト、ドライイースト、セミドライイースト、生イースト等を挙げることが出来るが、好ましくはインスタントドライイーストである。本発明において、パン酵母の量は液種用粉原料の全量に対し乾燥重量で好ましくは0.5〜1.1質量%、より好ましくは0.7〜1.1質量%、さらに好ましくは0.7〜0.9質量%である。パン酵母の量が液種用粉原料の全量に対し乾燥重量で0.5質量〜1.1質量%であれば本発明の効果がより充分に得られる傾向にある。
【0013】
本発明の液種生地には、小麦粉やパン酵母の他に、ベーキングパウダーなどの膨張剤、小麦以外の穀粉類、グラニュー糖等の甘味性糖類、脱脂粉乳等の乳類、ショートニングや液体食用油等の油脂類、卵又は卵黄等の卵類、食塩、香料、着色料、増粘多糖類、変性澱粉などの公知のドーナツ用原料を何れも使用することができる。液種生地に使用されるドーナツ原料のうち、粉状の物を液種用粉原料、液体状の原料を液体原料という。
【0014】
本発明の液種用粉原料には、小麦粉及びパン酵母に加えて、小麦粉以外の穀粉類、グラニュー糖などの粉糖類、脱脂粉乳、食塩などの粉状の調味料、固形状の油脂、香料、着色料、増粘多糖類、変性澱粉、膨張剤などの粉状の添加剤などを含むことが出来る。液種用粉原料は、好ましくは膨張剤を含まない。
また本発明の液体原料には、水や液卵、牛乳、液体状の油等を含むことが出来る。
【0015】
本発明の液種生地の粘度は25℃で200〜1800dPa・sであり、好ましくは400〜1800dPa・s、さらに好ましくは400〜1500dPa・sである。液種生地の粘度が200dPa・s以上であれば成形した生地が形状を保持しやすい傾向にあり、1800dPa・s以下であると得られたドーナツの食感がふんわりと良好になる傾向にある。
液種生地の粘度は、液種用粉原料及び液体原料の組成や量によって適宜調整することが出来る。例えば、液種用粉原料中の小麦粉の量が多くなると粘度が上がる傾向、液種用粉原料中の糖の量が多くなると粘度が下がる傾向にあり、また液種中の液卵の量が多くなると粘度が上がる傾向にある。
【0016】
本発明の製造方法において、上述のような液種生地を4〜18℃で4〜19時間発酵させる。発酵温度が4〜18℃であれば風味が良好でふんわりした食感を有し、口溶けが良好になる傾向にある。発酵温度は好ましくは7〜19℃であり、さらに好ましくは7〜12℃である。発酵時間が4〜19時間であれば、風味が良好でふんわりした食感を有し、口溶けが良好になる傾向にある。発酵時間は好ましく8〜19時間であり、さらに好ましくは8〜15時間である。
【0017】
本発明のケーキドーナツの製造方法は、発酵させた液種生地に、膨張剤を含む本捏ね用粉原料を添加する工程を含む。
本発明において、本捏ね用粉原料は膨張剤を含む。本発明における膨張剤は、ケーキドーナツに通常用いられるものであればいずれでもよく、重曹、ふくらし粉、ベーキングパウダー、イスパタなどが挙げられるが、好ましくはベーキングパウダーである。
本発明において本捏ね用粉原料には、膨張剤の他に、小麦及びそれ以外の穀粉類、グラニュー糖等の甘味性糖類、脱脂粉乳等の乳類、ショートニング等の固形油脂類、卵粉、卵黄粉等の卵類、食塩、香料、着色料、増粘多糖類、変性澱粉などの公知のドーナツ用粉原料を何れも使用することができる。
本発明において、液種生地に対する本捏ね用粉原料の使用量の質量比は、好ましくは液種生地:本捏ね用粉原料=99.5〜45:0.5〜55、さらに好ましくは95〜45:5〜55、より好ましくは95〜65:5〜35である。液種生地に対する本捏ね用粉原料の使用量の質量比が99.5〜45:0.5〜55であれば、風味がより良好でふんわりした食感を有し、口溶けがより良好になる傾向に有る。
【0018】
本発明のドーナツ用生地の製造方法は、上述のような液種生地を所定の条件で発酵し、所定量の本捏ね用粉原料を添加する工程を含む以外は常法により行うことができる。例えば得られたドーナツ生地を成形し、そのまま又は発酵させた後に油ちょうすることによりドーナツを製造することができる。
油ちょう方法は、例えば160〜200℃の温度の油の中で片面10〜120秒ずつ加熱することにより行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
製造例1:液種を使用したケーキドーナツの製造
表1に記載した液種用粉原料をミキサー(KitchenAid社製KSM5)に投入し、液体原料を少量ずつ添加して捏ね上げ温度24℃で混捏し、液種生地を得た。得られた液種生地の粘度は900dPa・s(25℃)であった。液種生地をステンレス容器に投入して密栓し、冷蔵庫内にて10℃で12時間発酵させた。
発酵させた液種生地90質量部と表2に記載した本捏ね用粉原料10質量部をミキサーに投入し、中速1分間、書き落とし後更に中速1分間混捏した。捏ね上げ温度は20℃であった。フロアタイムを15分間取った後、ドーナツカッター(ベルショー社製Fカッター)を使用して40gのリング状ケーキドーナツ生地を得た。得られた生地を190℃に熱したフライヤーに投入し、片面1分間フライしてケーキドーナツを得た。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
製造例2:標準的なケーキドーナツの製造
表3に記載した配合のケーキドーナツミックス100質量部と水43質量部をミキサーに投入し、低速で1分30秒間混捏した。捏ね上げ温度は22℃であった。フロアタイムを10分間取った後、製造例1と同様にして標準的なケーキドーナツを得た。
【0024】
【表3】
【0025】
製造例3:イーストケーキドーナツの製造(従来技術:特開2001−231437)
表4に記載した配合の原料をミキサーに投入し、低速で3分間、中速で10分間混捏してイーストドーナツ用生地を得た。捏ね上げ温度は20℃であった。得られた生地を密封容器に入れ、20℃に保持した保温機で3時間発酵させて発酵生地を得た。得られた発酵生地100質量部と配合表の原料100質量部をミキサーに投入し、低速で3分間、中速で10分間混捏した。捏ね上げ温度は25℃であった。フロアタイム10分間の後、分割してベンチターム15分間とり、成形後、38℃で40分間ホイロした。180℃に熱したフライヤーに投入し、片面につき50秒間フライしてイーストドーナツを得た。
【0026】
【表4】
【0027】
試験1 従来技術との比較
製造例1に従って実施例1のドーナツを得た。製造例2及び製造例3に従って比較例1及び2のドーナツを得た。製造したドーナツの粗熱がとれたら、パネラー10名により、比較例1の標準的なケーキドーナツを3点として表5に記載した評価基準に従って評価した。なお、本発明のケーキドーナツ用液種および比較例2の発酵生地の粘度は、ビスコテスタ粘度計(25℃)を用いて測定した。結果を表6に示す。
【0028】
【表5】
【0029】
【表6】
【0030】
本発明の実施例1では、風味及び口溶けとも良好であった。ケーキドーナツの比較例1では、風味及び口溶けとも普通であった。イーストケーキドーナツの比較例2では、風味は良好であったが、食感はパン様でややヒキがありケーキドーナツとは一線を画すものであった。
【0031】
試験2 液種の粘度の検討
表7に記載の加水量として液種の粘度を調節した以外は製造例1に従ってケーキドーナツを製造し、表5に記載した評価基準に従って評価した。結果を表7に示す。
液種生地の粘度が本発明の範囲である実施例1〜3では、風味及び食感とも良好であった。液種生地の粘度が本発明の範囲より高い比較例3は、風味はやや弱く感じられ、食感は硬く感じ口溶けも不適であった。液種の粘度が本発明の範囲よりも低い比較例4は、粘度が低いために成形した生地が扁平になり、フライすることができなかったため評価しなかった。
【0032】
【表7】
【0033】
試験3 液種発酵条件の検討
発酵条件(発酵温度・発酵時間・パン酵母の量)を表3のように変更した以外は製造例1に従ってケーキドーナツを製造し、表5に記載した評価基準に従って評価した。結果を表8に示す。なお、パン酵母として使用したインスタントドライイーストを増減させる場合、小麦粉との置換により液種用粉原料の全量が100質量部になるよう調節した。
発酵温度を5℃、15℃で製造した実施例4、5では、風味及び食感とも良好であった。発酵温度を3℃、20℃で製造した比較例5、7では、風味はやや弱く感じられ食感はややふんわり感を感じず口溶けも不適であった。発酵時間を6時間、18時間で製造した実施例6、7では、風味及び食感とも良好であった。発酵温度を3時間で製造した比較例5、発酵温度を20時間で製造した比較例6では、風味はやや弱く感じられ食感はややふんわり感を感じず口溶けも不適であった。パン酵母を0.6%、1.0%を配合した実施例4、5では、風味及び食感とも良好であった。
【0034】
【表8】

*液種用粉原料の全量に対する質量%
【0035】
試験4 液種生地と本捏ね用粉原料の割合の検討
液種生地と本捏ね資材の割合を表9に記載のように変更した以外は製造例1に従ってケーキドーナツを製造し、表5に記載した評価基準に従って評価した。結果を表9に示す。
【0036】
【表9】
液種と本捏ね用粉原料とを本発明の範囲で配合した実施例1、8〜10では、風味及び食感とも良好であった。液種の配合割合が本発明の範囲より多い比較例8では、風味はやや弱く感じられ、食感はややふんわり感を感じず口溶けも不適であった。