特許第6987651号(P6987651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6987651熱間加工性に優れ、サブゼロ処理を要しない高硬度析出硬化型ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6987651
(24)【登録日】2021年12月3日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】熱間加工性に優れ、サブゼロ処理を要しない高硬度析出硬化型ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20211220BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20211220BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20211220BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/50
   C22C38/60
   C21D6/00 102J
   C21D6/00 102R
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-8811(P2018-8811)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-127613(P2019-127613A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】渕上 太一
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−078195(JP,A)
【文献】 特開昭63−171857(JP,A)
【文献】 特開平05−255734(JP,A)
【文献】 特開平05−112850(JP,A)
【文献】 特開2002−161343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/50
C22C 38/60
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:0.30〜2.00%、Mn:0.01〜1.00%、Ni:4.00〜9.00%、Cr:8.00〜14.50%、Mo:0.10〜2.00%、Cu:0.50〜4.00%、Ti:0.50〜3.50%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り60%以上となる温度が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]で、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]でる。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【請求項2】
請求項1の化学成分に加えて、質量%で、Al:0.001〜0.150%、Nb:0.01〜2.00%、N:0.002〜0.050%、およびS:0.001〜0.100%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、ただし、請求項1の化学成分の中のCrについては、Cr:8.00〜13.00%未満とし、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り60%以上となる温度が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]で、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【請求項3】
請求項1の化学成分に加えて、質量%で、Ca:0.0001〜0.0250%、Mg:0.0001〜0.0250%、B:0.0001〜0.0250%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り60%以上となる温度が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]で、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【請求項4】
請求項1の化学成分に加えて、質量%で、Al:0.001〜0.150%、Nb:0.01〜2.00%、N:0.002〜0.050%、S:0.001〜0.100%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、さらに、Ca:0.0001〜0.0250%、Mg:0.0001〜0.0250%、B:0.0001〜0.0250%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記に記載の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り60%以上となる温度が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]で、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、プロペラシャフト、ドライブシャフト、軸受およびロールなどの高硬度、高耐食性が求められる部材として使用するためのステンレス鋼に関し、特に熱間加工性に優れ、サブゼロ処理を要しない高硬度析出硬化型ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
析出硬化型ステンレス鋼は、ステンレス鋼としての耐食性に加えて、析出硬化による強度を付与したものであり、基質組織によってマルテンサイト系、セミマルテンサイト系、オーステナイト系に分類される。オーステナイト系は非磁性用途に使用できる。マルテンサイト系、セミマルテンサイト系は、オーステナイトに固溶し、マルテンサイトにはほとんど溶解度をもたない金属または化合物をマルテンサイト変態後にマルテンサイト地より析出させるものである。マルテンサイト変態と析出硬化とを組み合わせて利用する点に特長がある。
【0003】
析出硬化型ステンレス鋼としては、C≦0.05mass%、0.5≦Si<2.0mass%、Mn≦1.50mass%、2.0≦Cu≦5.0mass%、2.0≦Ni<7.0mass%、10.0≦Cr≦15.0mass%、1.0≦Co≦5.0mass%、2.0<Mo≦5.0mass%、0.5<Ti≦3.0mass%、及び、N≦0.05mass%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si+Ti+Co≧4.5及びSi/Mo≦0.7を満たす析出硬化型ステンレス鋼が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1は、所定の元素を含む鋼中に、Cuを添加すると、固溶化熱処理および時効処理によりε−Cu相およびG相を析出させることにより硬度を増し、さらに質量比でSi/Mo比を最適化することにより熱間加工性を向上させようとしている。もっとも、この特許は、鋼の成分としてCoが必須元素とされている。またSi/Mo≦0.7を満足させることにより、熱間加工性を改善しようとしているが、さらに一層の熱間加工性の向上を図った析出硬化型ステンレス鋼の開発や、またCoやMoなどの高価な元素の使用をできるだけ減らすことが求められている。
【0004】
一方、本願の出願人は、質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:0.30〜2.00%、Mn:0.01〜1.00%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:4.0〜9.0%、Cr:13.0〜22.0%、Mo:0.20〜2.00%、Cu:0.60〜4.00%、Ti:0.50〜3.50%、Nb:0.01〜2.00%、N:0.050%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる、耐食性および製造性に優れた高硬度ステンレス鋼に関する特許出願をしている(特許文献2参照。)。この特許文献2には、高硬度および高耐食性を両立させ、かつ、高硬度が得られる熱処理範囲が広いことに着目した記載があり、耐食性を向上させるためにCrを13.0%以上必要としている。しかしながら、この特許文献2では、残留オーステナイトをマルテンサイト変態させるために、−20℃ないし−90℃に10分以上保持したサブゼロ処理を要しており、製造にコストが掛かるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5887896号公報
【特許文献2】特開2017−78195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高硬度材が必要とされる用途では、マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS420などが用いられている。ところがマルテンサイト系ステンレス鋼はC含有量が相対的に多く、耐食性が低い。それに比べて、SUS630などの析出硬化型ステンレス鋼は、耐食性に優れているものの、硬度が低いという問題がある。そこで、従来これを両立させるための調整が試みられてきたが十分ではなく、さらなる熱間加工性の向上や、またCoやMoなどの高価な元素をできるだけ減らすことが求められている。また、Ms点(マルテンサイト変態開始温度)が低いと残留オーステナイトが生成して硬さが低くなるため、それを回避するべくサブゼロ処理を用いることもある。しかし、サブゼロ処理ではドライアイスや液体窒素などの冷却剤を用いて冷却することから、非常にコストが掛かるという問題がある。
【0007】
そこで、本願が解決しようとする課題は、上記のようなサブゼロ処理を不要とし、かつ熱間加工性を向上させることで、製造性に優れた、高硬度析出硬化型のステンレス鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段の、第1の手段では、質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:0.30〜2.00%、Mn:0.01〜1.00%、Ni:4.00〜9.00%、Cr:8.00〜14.50%、Mo:0.10〜2.00%、Cu:0.50〜4.00%、Ti:0.50〜3.50%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り(RA)が60%以上となる温度の範囲が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼である。
5.00≦Nieq≦<9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【0009】
第2の手段では、第1の手段の化学成分に加えて、質量%で、Al:0.001〜0.150%、Nb:0.01〜2.00%、N:0.002〜0.050%、およびS:0.001〜0.100%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、ただし、第1の手段の化学成分の中のCrについては、Cr:8.00〜13.00%未満とし、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り(RA)が60%以上となる温度の範囲が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼である。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【0010】
第3の手段では、第1の手段の化学成分に加えて、質量%で、Ca:0.0001〜0.0250%、Mg:0.0001〜0.0250%、B:0.0001〜0.0250%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記に記載の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り(RA)が60%以上となる温度の範囲が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼である。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【0011】
第4の手段では、第1の手段の化学成分に加えて、質量%で、Al:0.001〜0.150%、Nb:0.01〜2.00%、N:0.002〜0.050%、S:0.001〜0.100%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、さらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0250%、Mg:0.0001〜0.0250%、B:0.0001〜0.0250%から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、下記に記載の式(1)および式(2)を満足し、硬さが55HRC以上、残留オーステナイト量が1%以下、熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り(RA)が60%以上となる温度の範囲が100℃以上であることを特徴とする製造性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼である。
5.00≦Nieq≦9.50・・・式(1)
Nieq≦−0.83×Creq+25.5・・・式(2)
ただし、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、上記の[%M]には、いずれも対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【発明の効果】
【0012】
本願の発明は、上記した手段とすることで、硬さが55HRC以上であり、耐候性があるので発銹し難く、残留オーステナイト量が1%以下であり、熱間引張試験の絞り(RA)が60%以上となる温度の範囲が100℃以上であり、熱間加工性に優れ、サブゼロ処理を要しない製造性に優れた、高硬度析出硬化型ステンレス鋼を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願の発明を実施するための形態について記載するに先立って、本願の上記の各手段におけるFeを除く化学成分の限定理由および式(1)および式(2)について以下に説明する。なお、化学成分の%は質量%である。
【0014】
C:0.01〜0.10%
Cは、鋼の強度および耐食性を維持するために必要な元素である。Cが0.01%より少ないと強度不足となる。一方、Cが0.10%より多いと耐食性が低下する。そこで、Cは0.01〜0.10%とする。
【0015】
Si:0.30〜2.00%
Siは、鋼の製錬時の脱酸材であり、かつ鋼の析出強化に寄与するために必要な元素である。Siが0.30%より少ないと製錬時に脱酸剤として不足し、かつ鋼の析出強化元素として不足となる。一方、Siが2.00%より多いと、鋼の熱間加工性が低下する。そこで、Siは0.30〜2.00%とする。
【0016】
Mn:0.01〜1.00%
Mnは、鋼の製錬時の脱酸材として必要な元素である。Mnが0.01%より少ないと製錬時に脱酸剤として不足する。一方、Mnが1.00%より多いと、鋼の熱間加工性が低下する。そこで、Mnは0.01〜1.00%とする。
【0017】
Ni:4.00〜9.00%
Niは、鋼の析出強化に寄与する元素である。Niが4.00%より少ないと鋼の析出強化元素として不足する。一方、Niは高価な元素であるので、9.00%より多いとコストの増加となる。そこで、Niは4.00〜9.00%とする。
【0018】
Cr:8.00〜14.50%
Crは、鋼の耐食性に寄与する元素である。Crが8.00%より少ないと耐食性が低下する。一方、Crが14.50%より多いと、熱間加工性が低下し、かつCrは高価な元素であるのでコストの増加となる。そこで、Crは8.00〜14.50%とし、好ましくは8.00〜13.00未満とする。
【0019】
Mo:0.10〜2.00%
Moは、鋼の耐食性に寄与する元素である。Moが0.10%より少ないと耐食性が低下する。一方、Moが2.00より多いと熱間加工性が低下しかつ高価な元素であるのでコストの増加となる。そこで、Moは0.10〜2.00%とする。
【0020】
Cu:0.50〜4.00%
Cuは、鋼の耐食性に寄与し、かつ析出強化に寄与する元素である。Cuが0.50%より少ないと鋼の耐食性が低下し、析出強化に寄与する元素として不足する。一方、Cuが4.00%より多いと熱間加工性が低下する。そこで、Cuは0.50〜4.00%とする。
【0021】
Ti:0.50〜3.50%
Tiは、鋼の析出強化に寄与する元素である。Tiが0.50%より少ないと鋼の析出強化元素として不足する。一方、Tiが3.50%より多いと熱間加工性が低下しかつコストの増加となる。そこで、Tiは0.50〜3.50%とする。
【0022】
次に、本発明に用いる選択的な化学成分の元素について以下に説明する。
【0023】
Al:0.001〜0.150%
Alは、鋼の耐食性を低下させ、また、熱間加工性も低下させる成分である。そこで、0.150%を上限とする。他方、Alを無理に低減しようとすると、かえってコスト高を招くため、経済的観点から0.001%以上としてもよい。
【0024】
Nb:0.01〜2.00%
Nbは、鋼の結晶粒粗大化を抑制する成分として添加しうる。もっとも、0.01%より少ないと、結晶粒粗大化抑制の効果が得られない。他方、2.00%を超えると、熱間加工性が低下し、コストが増加することとなる。そこで、Nbは、0.01〜2.00%とする。
【0025】
N:0.002〜0.050%
Nは、鋼の熱間加工性を低下させる成分である。また、0.050%を超えると、フェライトが不安定となる。そこで、0.050%を上限とする。他方、Nを無理に低減しようとすると、かえってコスト高を招くため、経済的観点から0.002%以上としてもよい。
【0026】
S:0.001〜0.100%
Sは、鋼の被削性向上のために添加しうる化学成分である。もっとも、0.001%未満であると、少なすぎてその効果が得られない。他方、0.100%を超えると、熱間加工性が低下する。そこで、Sは、0.001〜0.100%とする。
【0027】
なお、上記のAl、Nb、N、およびSの化学成分は、選択的に1種または2種以上が添加できる。
【0028】
さらに、本発明に用いる上記以外の選択的な化学成分について以下に説明する。
【0029】
Mg:0.0001〜0.0250%
Mgは、鋼の熱間加工性に寄与するために添加しうる化学成分である。もっとも、0.0001%未満では、熱間加工性への寄与がみられない。他方、0.0250%を超えて過剰であると、かえって熱間加工性が低下する。そこで、0.0001〜0.0250%とする。
【0030】
Ca:0.0001〜0.0250%
Caは、鋼の熱間加工性に寄与するために添加しうる化学成分である。もっとも、0.0001%未満では、熱間加工性への寄与がみられない。他方、0.0250%を超えて過剰であると、かえって熱間加工性が低下する。そこで、0.0001〜0.0250%とする。
【0031】
B:0.0001〜0.0250%
Bは、鋼の熱間加工性に寄与するために添加しうる化学成分である。もっとも、0.0001%未満では、熱間加工性への寄与がみられない。他方、0.0250%を超えて過剰であると、かえって熱間加工性が低下する。そこで、0.0001〜0.0250%とする。
【0032】
なお、上記のMg、Ca、およびBの化学成分は、選択的に1種または2種以上が添加できる。
【0033】
式(1):5.00≦Nieq≦9.50
式(1)のNieqの値は、5.00以上の大きさ、かつ9.50以下であることが必要である。式(1)が上記の条件を満足しないときは、鋼の熱間加工性が低下する。そこで、式(1)は、5.00≦Nieq≦9.50とする。
ただし、上記式(1)におけるNieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]である。
【0034】
式(2):Nieq≦−0.83×Creq+25.5
式(2)に示すように、Nieqの値は、−0.83×Creq+25.5の値以下であることが必要である。式(2)が上記の条件を満足しないときは、残留オーステナイト量が大きくなるからである。そこで、式(2)は、Nieq≦−0.83×Creq+25.5とする。
ただし、Nieqは、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、さらに、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
なお、(1)式および(2)式における[%M](「M」は化学成分を示す。)の値はいずれも、質量%の数値の大きさ、すなわち、対応する元素の含有量の数値(質量%)が代入される。
【0035】
次いで、本願の発明を実施するための形態について、実施例に基いて以下に説明する。
【実施例】
【0036】
表1に示す第1の手段の発明鋼の化学成分、表2に示す第2の手段の発明鋼の化学成分、表3に示す第3の手段の発明鋼および第4の手段の発明鋼の各化学成分の実施例鋼と、さらに、表4に示す比較鋼1(第1の手段に対する比較鋼)および比較鋼2(第2の手段に対する比較鋼)の各化学成分の比較例と、表5に示す比較鋼3(第3の手段に対する比較鋼)および比較鋼4(第4の手段に対する比較鋼)の各化学成分の比較例をそれぞれ有し、かつ、それぞれの残部であるFeおよび不可避不純物からなる実施例および比較例の各鋼を、それぞれ100kgVIM(真空誘導溶解炉)にて溶解して、インゴットに鋳造した。
これらのインゴットを1150℃で径20mmの棒鋼に鍛伸した。さらに、これらの棒鋼を900〜1200℃に1時間保持した後、水冷して固溶化熱処理を行った。さらに、これらの固溶化熱処理した棒鋼を300〜800℃で1時間保持した後、空冷して時効熱処理を行った。
【0037】
上記の時効熱処理後にそれぞれのサイズに調整した各素材から以下の試験を実施した。試験の結果は、それぞれの表1、表2、および表3の各請求鋼の発明鋼の化学成分と合せてそれら発明鋼の特性を示し、さらに、表4および表5に第1〜第4の手段の発明の比較例である比較鋼の化学成分と合わせてそれらの各特性を示す。
なお、各特性としては、(1)式、(2)式を満足するものは○、満足しないものは×とし、表1、表2、および表3、並びに表4および表5に表記した。また、耐候性試験では発銹したものを×、発銹しなかったものを○とし、表1、表2、および表3、並びに表4および表5に表記した。なお、表4および表5の下線部は本発明の範囲外であることを示している。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
評価項目は、各発明鋼および各比較鋼のNieqとCreq、並びに、時効のピーク硬さ(HRC)、耐候性(塩水噴霧試験で、50ppmNaClを35℃で16時間噴霧による発銹無しを○、発銹有りを×)、残留オーステナイト量(%)、および熱間加工性(グリーブル試験)の絞り(RA)が60%以上となる温度(℃)とした。
【0044】
評価方法は、Nieq(すなわちNi当量)、Creq(すなわちCr当量)、マルテンサイト開始温度であるMs点(℃)、式(1)および式(2)の各値の大きさと、これらの値に関連する、時効熱処理を行った時効硬さにおけるピーク硬さ、耐候性、残留オーステナイト量である残留γ量、および熱間加工性における絞りすなわちRA60%以上となる温度をそれぞれ以下に示す手段により測定した。
【0045】
すなわち、時効硬さにおけるピーク硬さでは、上記の種々の時効処理を施した丸棒を用い、鍛伸方向に垂直な断面の中周部におけるロックウェル硬さを測定し、得られた硬さのうち最も大きな値のものをピーク硬さとし、その値がHRC55以上であるものを良好であると判断した。
【0046】
耐候性(塩水噴霧試験で、50ppmNaClを35℃で16時間噴霧による)では、上記の種々の時効処理を施した丸棒を径12mm、長さ21mmのサイズに調整し、耐候性試験を実施した。具体的には、試験片の表面に所定の濃度および温度の塩水を所定の時間噴霧し続け、試験後に、洗浄した試験片の表面の発銹の有無を調査した。
【0047】
残留オーステナイト量すなわち残留γ量では、上記の種々の時効処理を施した丸棒を用い、鍛伸方向に垂直な断面の中周部における残留オーステナイト量を測定した。測定には、湾曲IPX線回折装置RINT RAPID II(株式会社リガク、日本)を用いた。
【0048】
熱間加工性(グリーブル試験)における絞りすなわちRA60%以上の得られる温度では、上記の種々の時効処理を施した丸棒を、径8mm、長さ100mmのサイズの試験片に調整し、通電加熱による熱間引張試験(グリーブル試験)を実施した。試験温度は800〜1350℃まで25℃毎とし、破断後の試験片の熱間加工性における絞りRAが60%以上である温度域を算出した。その温度域が100℃以上のものを良好であると判断した。
【0049】
表1、表2および表3に示すように、本願の第1〜第4の手段の各No.の発明鋼は、表中の式(1)の欄には、式(1)を満足する場合を○として評価した。
なお、式(1)とは、5.00≦Nieq≦9.50である。
さらに、表中の式(2)の列には、式(2)を満足する場合を○として評価した。
式(2)とは、Nieq≦−0.83×Creq+25.5である。
なお、Nieq=[%Ni]+30×([%C]+[%N])+0.5×[%Mn]+0.3×[%Cu]であり、Creq=[%Cr]+[%Mo]+1.5×[%Si]+0.5×[%Nb]である。
【0050】
本願の第1〜第4の手段の各No.の発明鋼の特性について
表1、表2、および表3における、Nieqの値はいずれも5.00以上9.50以下である。さらに、Creqの値は、Nieqの値に応じて変動し、9.4〜15.7である。
また、Ms点(マルテンサイト変態開始温度)は106〜262℃である。さらに、式(1)および、式(2)を満足するものは○と表示しているとおり、いずれも双方の式を満足する値となっている。
【0051】
そして、これらを満足する表1、表2、および表3の第1〜第4の手段の各発明鋼では、以下の様な特性を備えている。時効熱処理を行った時効硬さにおけるピーク硬さは55HRC以上であり、耐候性は塩水噴霧試験において発銹が無く、これらを○で示し、残留オーステナイト量すなわち残留γ量は1.0%以下であり、さらに熱間引張試験(グリーブル試験)における絞り(RA)が60%以上となる温度は100℃以上である。
【0052】
以上の表1、表2、および表3の第1〜第4の手段の各発明鋼に対して、表4および表5に示す、これらと同順で対応する比較鋼1、比較鋼2、比較鋼3、比較鋼4の各No.についての上記試験の評価として、第1〜第4の手段の各発明の有する特性の範囲から外れる特性について以下に順次記載する。
【0053】
先ず、第1の手段に対応する比較鋼1のNo.1〜15について、以下に説明する。
No.1は、マルテンサイト開始温度であるMs点が61℃と100℃未満の低さであるので、残留オーステナイト量(すなわち表1の残留γ量)が2.4%で、本願発明の規定の1.0%より多く、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度の下限値の100℃に満たず、25℃と極めて低い。
No.2は、Cの含有量が0.12%と本願発明の範囲より多く、Nieqが本願発明の9.50より高い10.58で、Ms点が69℃と100℃未満の低さで、式(1)を満たしていないので×で、耐候性も×で、残留オーステナイト量(残留γ量)が2.8%で本願発明に規定の1.0%より多く、熱間加工性の絞りRAが60%以上となる温度範囲が100℃未満の75℃と低い。
No.3は、Siの含有量が0.20%と本願発明の範囲より少なく、時効処理のピーク硬さが53.8HRCと本願発明の55HRCより低い。
No.4は、Siの含有量が2.16%と本願発明の範囲より多く、Nieqが本願発明の9.50より高い10.34で、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値の100℃に満たず50℃と低い。
No.5は、Mnの含有量が1.17%と本願発明の範囲より多く、Nieqが本願発明における9.50より高く9.80であり、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず50℃と低い。
No.6は、Niの含有量が3.61%と本願発明の範囲の4.00%より少なく、時効処理のピーク硬さが52.6HRCと本願発明における55HRCより低い。
No.7は、Niの含有量が9.52%と本願発明の範囲の9.00%より多く、Nieqが本願発明における9.50より高く、12.10で、Ms点が52℃と100℃未満の低さで、式(1)を満たして織らず×で、残留オーステナイト量(残留γ量)が5.2%で本願発明の規定の1.0%より多く、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値の100℃に満たず75℃と低い。
No.8は、Crの含有量が4.03%と本願発明の範囲の8.00%より少なく、耐候性が×である。
No.9は、Crの含有量が14.88%と本願発明の範囲の14.50%より多く、熱間加工性が低く、コスト増となる。
No.10は、Moの含有量が0.04%と本願発明の範囲の0.10%より少なく、Nieqが9.51と、本願発明の9.50よりやや高い値で式(1)を満たしておらず×で、耐候性も×で、熱間加工性の絞りRAが60%以上となる温度範囲が100℃未満で75℃と低い。
No.11は、Moの含有量が2.19%と本願発明の2.00%より多く、コスト高で、Nieqが11.01と本願発明の9.50より高く、式(1)を満たしていないので×であり、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、50℃と低い。
No.12は、Cuの含有量が0.32%と本願発明の0.50%より少なく、時効処理のピーク硬さが53.2HRCと本願発明における55HRCより低い。
No.13は、Cuの含有量が0.43%と本願発明の4.00%より多く、Nieqが9.85と本願発明の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.14は、Tiの含有量が0.12%と本願発明の下限値の0.50%より少なく、Nieqが10.31と本願発明の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、時効処理のピーク硬さが52.9HRCと本願発明における55HRCより低く、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず50℃と低い。
No.15は、Tiの含有量が3.80%と本願発明の上限値の3.50%より多く、Nieqが10.00と本願発明における9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
【0054】
次いで、第2の手段に対応する比較鋼2のNo.16〜21について以下に説明する。
No.16は、Alの含有量が0.186%と本願発明の上限値の0.150%より多い。しかしながら、Al以外の元素は規定の範囲内であるので、Nieq、Creq、Ms点、式(1)、式(2)、時効硬さ(ピーク硬さ)、耐候性、残留オ−ステナイト量(残留γ量)、および熱間加工性の絞りRAに格別に影響は見られない。
No.17は、Nbの含有量が2.09%と本願発明の上限値の2.00%より多い。そこで、Nieqが9.52で本願発明の9.50よりやや高い値であり、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.18は、Nの含有量が0.084%と本願発明の上限の0.050%より多い。そこで、Nieqが10.25と本願発明における9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.19は、Sの含有量が0.145%と本願の上限の0.100%より多い。そこで、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、25℃と極めて低い。
No.20は、Nbの含有量が2.14%と本願発明の上限値の2.00%より多い。一方、Nを含有しているが、その含有量は本願発明の上限の0.050%以下の範囲内である。そこで、Nieqが9.67と本願発明の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.21は、Sの含有量が0.122%と本願発明の上限の0.100%より多く、Nbを含有しているが、その含有量は1.69%と本願発明の0.01〜2.00%の範囲内で、さらにNを含有しているが、その含有量は本願の上限の0.050%より多い。そこで、Nieqは9.80と本願発明の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×であり、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、25℃と極めて低い。
【0055】
次いで、第3の手段に対応する比較鋼3のNo.22〜24について説明する。
No.22は、Caの含有量が0.0312%と本願発明の上限値の0.0250%より多く、Bの含有量が0.0340%と本願発明の上限の0.0250%より多い。そこで、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.23は、Mgの含有量が0.0289%と本願発明の上限値の0.0250%より多い。そこで、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.24は、Mgの含有量が0.0274%と本願発明の上限値の0.0250%より多く、さらにBの含有量が0.0340%と本願発明の上限値の0.0250%より多い。そこで、Nieqは11.39と本願発明の上限値の9.50より高く、Ms点が106℃よりも低い92℃の低さであり、式(1)を満たしておらず×であり、残留オーステナイト量(残留γ量)が2.7%で本願発明の規定の1.0%を超えており、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、50℃と低い。
【0056】
最後に、第4の手段に対応する比較鋼4のNo.25〜30について説明する。
No.25は、Alの含有量が0.099%と本願発明の上限値の0.150%以下の範囲内で、Nbの含有量が0.92%と本願発明の上限値の2.00%以下の範囲内で、Bの含有量が、0.0401%と本願発明の上限値の0.0250%を超えており、Nieqは12.12と本願発明の上限値の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.26は、Alを含有しておらず、Caは0.0052%と本願発明の0.0001〜0.0250%の範囲内であるが、Mgは0.0290%と本願発明の上限値の0.0250%より多く、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.27は、Alの含有量が0.083%と本願発明の上限値の0.150%の範囲内で、Nは0.041%と本願発明の0.002〜0.050%の範囲内であるが、Mgは0.0267%で本願発明の上限値の0.0250%より多いので、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、50℃と低い。
No.28は、S含有量は0.089%と本願発明の0.001〜0.100%の範囲内で、Alの含有量は0.041%と本願発明の0.001〜0.150%の範囲内であるが、Caは0.0361%と本願発明の上限値の0.0250%より多い。したがって、Nieqは11.21と本願発明の上限値の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、50℃と低い。
No.29は、S含有量は0.026%と本願発明の0.001〜0.100%の範囲内で、Alの含有量は無く、Nbの含有量は0.20%と本願発明の0.01〜2.00%の範囲内で、さらにMgは0.0213%と本願発明の0.01〜2.00%の範囲内で、Bは0.0274%で本願発明の上限値の0.0250%より多い。そこで、Nieqは11.90と本願発明の上限値の9.50より高く、式(1)を満たしておらず×で、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、75℃と低い。
No.30は、S含有量は0.047%と本願発明の0.001〜0.100%で、Alは0.186%と本願発明の0.001〜0.150%で、Caは0.0284%で本願発明の上限値の0.0250%より多く、さらに、Mgは0.0316%と本願発明の上限値の2.00%より多いが、Bは0.0034%と本願発明の0.0001〜0.0250%の範囲内である。そこで、熱間加工性の絞りRAは60%以上となる温度範囲の下限値である100℃に満たず、25℃と極めて低い。