特許第6988036号(P6988036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧 ▶ 東京窯業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6988036-傾注装置 図000002
  • 特許6988036-傾注装置 図000003
  • 特許6988036-傾注装置 図000004
  • 特許6988036-傾注装置 図000005
  • 特許6988036-傾注装置 図000006
  • 特許6988036-傾注装置 図000007
  • 特許6988036-傾注装置 図000008
  • 特許6988036-傾注装置 図000009
  • 特許6988036-傾注装置 図000010
  • 特許6988036-傾注装置 図000011
  • 特許6988036-傾注装置 図000012
  • 特許6988036-傾注装置 図000013
  • 特許6988036-傾注装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988036
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】傾注装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/06 20060101AFI20211220BHJP
【FI】
   B22D41/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-219909(P2019-219909)
(22)【出願日】2019年12月4日
(65)【公開番号】特開2021-87979(P2021-87979A)
(43)【公開日】2021年6月10日
【審査請求日】2020年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 勇信
(72)【発明者】
【氏名】城戸 孝文
(72)【発明者】
【氏名】庵下 高宏
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 義彦
(72)【発明者】
【氏名】松山 誠
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−167222(JP,A)
【文献】 特開平01−158328(JP,A)
【文献】 特開平07−120364(JP,A)
【文献】 特開昭59−167683(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102830007(CN,A)
【文献】 特開2000−097925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/06
B22D 37/00,39/00−39/06
G01N 1/00,31/00,33/20,35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内で幅方向に配列した複数のるつぼを取り出し、前記炉の外部の所定の位置で複数の前記るつぼを傾けて内容物を注ぐ傾注装置であって、
幅方向に配列した複数の前記るつぼの下部を支持するフォーク部と、前記フォーク部に支持された前記るつぼの上部で前記るつぼの変位を規制する規制状態と前記るつぼの変位を規制しない非規制状態との間で変位するるつぼ変位規制部と、前記フォーク部を傾斜させる傾斜部と、を有するアーム部と、
前記フォーク部が前記炉の内部と前記所定の位置との間で変位するように前記アーム部を移動するアーム移動部と、
を有し、
前記るつぼ変位規制部が前記規制状態のときに、前記傾斜部が前記フォーク部を傾斜して前記るつぼを傾けて前記内容物を注ぐことを特徴とする傾注装置。
【請求項2】
前記所定の位置の下方に、前記内容物が注入する複数の注入孔が幅方向に配列して開口したモールドを有する請求項1記載の傾注装置。
【請求項3】
前記モールドは、幅方向に配列した前記複数の注入孔が、前記炉の内部と外部を結ぶ内外方向で複数列をなして設けられている請求項2に記載の傾注装置。
【請求項4】
前記アーム移動部は、前記フォーク部が前記炉の内部に位置する挿入位置と、前記炉の外部に位置する取り出し位置と、の間で前記アーム部を移動させ、
前記アーム部は、前記フォーク部が前記取り出し位置にあるときに、前記所定の位置に前記るつぼを位置決めする位置決め手段を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の傾注装置。
【請求項5】
前記炉の内部と外部を結ぶ内外方向で前記モールドと異なる位置に設けられ、前記るつぼ変位規制部が前記非規制状態で前記フォーク部を傾斜したときに落下する前記るつぼを回収するるつぼ回収部を有する請求項2〜4のいずれか1項に記載の傾注装置。
【請求項6】
前記るつぼ回収部は、前記内外方向で前記モールドと前記炉との間に設けられる請求項5に記載の傾注装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内に配列した複数のるつぼを炉外に取り出し、るつぼを傾斜して内容物をモールドに注入する傾注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金、銀等の有価金属の定量分析は、特許文献1に記載のように、一般的に「JIS M8111」による方法が用いられている。この方法の概略は、試料を収納した粘土ルツボに、ソーダ灰、一酸化鉛、ホウ砂ガラス、小麦粉等を所定量加えて十分に混合し、その上から食塩を被覆して融解した後、鉛ボタンとスラグに分離する。次に鉛ボタンを灰吹炉内で灰吹きして得た金銀合粒を溶解処理して含金銀率を計算するというものである。
このような定量分析法では、るつぼで金属を溶融し、溶融した金属をるつぼからモールド(鋳型)に注ぐ作業が必要となっていた。
【0003】
従来、溶融した金属をるつぼからモールドに注ぐ作業は、トング等の治具を用いて手作業で行われている。1度の分析には大量のるつぼが用いられており、溶融した金属を手作業でモールドへ移す作業は、労力も時間もかかり、過度の負担となっていた。
【0004】
また、1度に複数のるつぼを担持して傾注する治具も開発されているが、手作業である点に変わりはなく、作業者の負担となっていた。さらに、この治具は、作業者が操作に未熟であると、るつぼを倒すおそれがあった。つまり、作業者が熟練者であることが求められており、誰でも簡単に作業できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−97925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、配列した複数のるつぼを炉外に取り出し、溶融した金属をモールド(鋳型)に注ぐことができる傾注装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する傾注装置は、炉内で幅方向に配列した複数のるつぼを取り出し、前記炉の外部の所定の位置で複数の前記るつぼを傾けて内容物を注ぐ傾注装置であって、幅方向に配列した複数の前記るつぼの下部を支持するフォーク部と、前記フォーク部に支持された前記るつぼの上部で前記るつぼの変位を規制する規制状態と前記るつぼの変位を規制しない非規制状態との間で変位するるつぼ変位規制部と、前記フォーク部を傾斜させる傾斜部と、を有するアーム部と、前記フォーク部が前記炉の内部と前記所定の位置との間で変位するように前記アーム部を移動するアーム移動部と、を有し、前記るつぼ変位規制部が前記規制状態のときに、前記傾斜部が前記フォーク部を傾斜して前記るつぼを傾けて前記内容物を注ぐことを特徴とする。
【0008】
本発明の傾注装置は、炉内で幅方向に配列した複数のるつぼを取り出し、複数のるつぼを傾けて内容物(溶融した金属)を注ぐ。すなわち、るつぼを傾けて内容物を注ぐ(傾注する)装置である。本発明によると、複数のるつぼを同時に傾注でき、作業者の負担を大きく減らすことができる。更に、作業者の熟練度によらず、安全に複数のるつぼの内容物(溶融した金属)を注ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の傾注装置の斜視図である。
図2】実施形態の傾注装置の構成を示す分解斜視図である。
図3】実施形態の傾注装置のアーム装置の斜視図である。
図4】実施形態の傾注装置のアーム装置の上面図である。
図5】実施形態の傾注装置のアーム移動装置の斜視図である。
図6】実施形態の傾注装置のアーム移動装置の側面図である。
図7】実施形態の傾注装置のアーム移動装置の後面図である。
図8】実施形態の傾注装置のモールド装置の斜視図である。
図9】実施形態の傾注装置のるつぼ回収装置の斜視図である。
図10】実施形態の傾注装置の移動量調整機構のハンドルプレートの切欠き近傍を示す部分拡大図である。
図11】実施形態の傾注装置で上部押さえ板がるつぼを押さえた状態のアーム装置の斜視図である。
図12】実施形態の傾注装置のアーム装置の傾注時の側面図である。
図13】実施形態の傾注装置のアーム装置のるつぼ回収時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を用いて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施形態において、炉の外部(の所定の位置)から炉の内部(のるつぼの配置された位置)に向かう方向を前方、炉の内部(のるつぼの配置された位置)から炉の外部(の所定の位置)に向かう方向を後方、前後方向に垂直かつ水平な方向を幅方向、前後方向に垂直かつ鉛直な方向を上下方向、とする。さらに、実施形態の傾注装置1を構成する各装置や部材の材質は、耐熱性や強度等から適宜選択できる。また、実施形態の傾注装置1を構成する各装置や部材は、同等の機能を発揮するものに置換してもよい。
【0011】
[実施形態]
本形態の傾注装置1は、図1図2に示すように、アーム装置2、アーム移動装置3、モールド部材4、るつぼ回収装置5、を有する。図1は、本形態の傾注装置1の斜視図である。図2は、本形態の傾注装置1の構成を示す分解斜視図である。
本形態の傾注装置1は、炉6内で幅方向に配列した複数のるつぼ7を取り出し、炉6の外部の所定の位置で複数のるつぼ7を傾けて内容物を注ぐ傾注装置である。
【0012】
アーム装置2は、図3図4に示すように、フォーク20(フォーク部に相当)、上部押さえ板21(るつぼ変位規制部に相当)、傾斜機構22(傾斜部に相当)、本体部23、移動量調整機構24を有する。アーム装置2は、請求項のアーム部に相当する。図3は、アーム装置2の斜視図である。図4は、アーム装置2の上面図である。
【0013】
フォーク20は、幅方向に配列した複数のるつぼ7を支持する部材である。フォーク20は、幅方向に沿って伸びる帯状の部材であり、前方側の端部には、るつぼ7の下部が挿入される空隙200が複数設けられている。空隙200は、るつぼ7の下部に対応した形状を有している。すなわち、空隙200は、前端の開口の長さが空隙200の内部の長さよりも短く形成されている。本形態において、空隙200は、その内周形状が、るつぼ7の下端からわずかに上方での外周形状と略一致する形状となっている。複数の空隙200は、幅方向に配列した複数のるつぼ7に対応した、数,位置に設けられている。例えば、炉6内で幅方向に配列したるつぼ7と同じ数,位置で設けられている。
隣接する2つの空隙200の間には歯部201が設けられている。すなわち、フォーク20は、前方側(前端)が長く、後方側が短くなるように変化した歯部201を有する略くし状の形状を備えている。
【0014】
フォーク20は、幅方向の両端に、上方に立設した支持板202を有している。支持板202は、フォーク20がるつぼ7を支持したときに、その上端がるつぼ7の上端より高く形成されている。支持板202には、フォーク20がるつぼ7を支持したときに、るつぼ7の上端に対応した高さに、後方側から前方側に向かって切り欠かれた切欠き203が形成されている。るつぼ7の上端に対応した高さとは、フォーク20が支持したるつぼ7の抜け落ち(変位)を規制できる高さであり、るつぼ7の上端の位置だけでなく、るつぼ7の上端の位置に更にすき間を設けた位置であってもよい。
支持板202は、後方側の端部でありかつ基端部を中心に揺動可能に設けられている。フォーク20及び一対の支持板202は、一体に設けられている。支持板202が揺動すると、フォーク20も連動して揺動する。
【0015】
上部押さえ板21は、フォーク20に支持されたるつぼ7の変位を規制する規制状態とるつぼ7の変位を規制しない非規制状態との間で変位可能な板状(帯状)の部材である。上部押さえ板21は、一対の支持板202の切欠き203に挿入、脱離可能に設けられている。上部押さえ板21が支持板202の切欠き203に挿入されると、上部押さえ板21がるつぼ7の上部に位置することとなり、るつぼ7がそれ以上に上方に変位することが規制された規制状態となる。このとき、上部押さえ板21の挿入量(後方から前方への切欠き203の深さ)は、るつぼ7からの内容物(例えば、溶融した金属)が、流れ出ることを規制しない量(切欠き203の深さ)であればよい。本形態では、上部押さえ板21が切欠き203に挿入された状態では、るつぼ7の上部の開口部の略中心から後方側を覆い、るつぼ7の上部の開口部の略中心から前方側は開口している。このとき、上部押さえ板21がるつぼ7の上下方向の変位を規制する。
上部押さえ板21が切欠き203に挿入されていない状態では、るつぼ7の上下方向の変位が規制されない非規制状態となる。
【0016】
上部押さえ板21は、幅方向の略中央部の後方側の端部にピン挿入孔210が形成されている。ピン挿入孔210には、ピン211が挿入・脱離される。ピン211は、下方から上方に向かって伸び、前後方向に往復動可能に設けられている。ピン211は、アーム装置2の後方から前方に向かって伸びる押さえレバー212の前方に設けられている。押さえレバー212は前後方向に往復動可能に設けられており、押さえレバー212の往復動に伴ってピン211も往復動する。
【0017】
上部押さえ板21は、ピン211がピン挿入孔210に挿入した状態で前方に移動すると、切欠き203に挿入される。ピン211がピン挿入孔210に挿入した状態で後方に移動すると、切欠き203から脱離する。ピン211及び押さえレバー212の往復動は、上部押え板21が切欠き203に挿入脱離可能な変位を行う。
傾斜機構22は、フォーク20を傾斜させる機構である。傾斜機構22は、傾斜レバー220、リンク221、を備える。
傾斜レバー220は、アーム装置2の後方から前方に向かって伸び、前後方向に往復動可能に設けられている。
リンク221は、傾斜レバー220の前方側の端部に、基端が揺動可能な状態で接続されている。リンク221の先端(前方側の端部)は、フォーク20の支持板202の上端部(後方側の端部)に、支持板202に対して揺動可能な状態で接続されている。
【0018】
傾斜機構22は、傾斜レバー220を前方に移動すると、リンク221も前方に移動し、支持板202の上端部を前方に押す。上端部を押された支持板202は、揺動中心を回転中心として回転する。支持板202と一体のフォーク20も追従してその前端が下方側に回転する。傾斜レバー220を後方に移動すると、リンク221も後方に移動し、支持板202の上端部を後方に引く。上端部を引かれた支持板202は、揺動中心を回転中心として回転し、フォーク20の前端が上方側に回転する。傾斜機構22は、フォーク20が水平方向に延在する位置と、フォーク20の前端が下がってるつぼ7を傾斜させる位置と、の間で変位するように、傾斜レバー220の前後方向の移動が設定されている。
【0019】
本体部23は、フォーク20、上部押さえ板21、傾斜機構22を備える部材である。本形態では、略はしご状の形状を有する。本体部23は、その前方側の端部に、フォーク20及び上部押さえ板21が設けられている。
【0020】
移動量調整機構24は、アーム移動装置3がアーム装置2を前後方向に往復動させたときに、その移動量(及び移動位置)を決定するための機構である。移動量調整機構24は、シャフト240、ハンドル部材241、第1ストッパ246、第2ストッパ247を有する。
【0021】
シャフト240は、本体部23に間接的に固定された部材であり、前後方向に延びる棒状の部材である。シャフト240は、一本以上(1本又は2本以上)が、配されている。シャフト240は、複数本(2本以上)の場合、互いに平行な状態で配される。
【0022】
ハンドル部材241は、前後方向に延びる板状(棒状)のハンドルプレート242を備える。本形態では、複数本(具体的には、2本)のハンドルプレート242が互いに平行な状態で配されている。ハンドル部材241は、1対のハンドルプレート242,242が、前端においてリニアブロック243を中心に揺動可能な状態で接続されている。1対のハンドルプレート242,242は、後端において棒状のハンドルにより1体に接合されている。ハンドル部材241は、前端のリニアブロック243を中心に揺動可能な状態で設けられている。
リニアブロック243は、シャフト240が貫通し、ハンドル部材241を本体部23に対して前後方向に往復動可能に設けられている。
【0023】
1対のハンドルプレート242,242は、下方側の端部に、複数の切欠き244が形成されている。複数の切欠き244は、るつぼ7の大きさ(前後方向で配列したるつぼ7の間隔)により決定する。本体部23には、切欠き244に挿入可能な突起(本形態では、左右方向に延びる棒状のシャフト245)が設けられている。
【0024】
ハンドルプレート242は、前端に第1ストッパ246が上方に立設して設けられている。ハンドルプレート242は、所定の位置に、第2ストッパ247が上方に立設して設けられている。第1ストッパ246と第2ストッパ247の間隔は、アーム装置2のプレート20の炉内への挿入量と、モールド部材4のモールド40との関係から決定できる。
【0025】
アーム移動装置3は、図5図7に示すように、アーム装置2を、前後方向(炉内外方向)及び上下方向に移動する装置である。アーム移動装置3は、請求項のアーム移動部に相当する。図5は、アーム移動装置3の斜視図である。図6は、アーム移動装置3の側面図である。図7は、アーム移動装置3の後面図(後方からの側面図)である。
アーム移動装置3は、本体部30、前後方向往復動機構31、位置決めストッパ32、上下方向往復動機構33を有する。
【0026】
本体部30は、アーム装置2を前後方向及び上下方向に往復動可能な状態で支持する部材である。本体部30は、それ自体が移動可能な車輪を備えている。この車輪により、アーム移動装置3は、前後方向,幅方向に移動可能となっている。
【0027】
前後方向往復動機構31は、本体部30に支持されたアーム装置2を前後方向に往復動する機構である。本形態では、その上をアーム装置2が前後方向に往復動可能なレールよりなり、アーム装置2を人力で移動させる。
位置決めストッパ32は、本体部30に固定され、アーム装置2が前後方向に移動したときに第1ストッパ246又は第2ストッパ247に当接し、アーム装置2がそれ以上の移動することを規制する。
【0028】
具体的には、アーム装置2が前方に移動していくと、後方側の第2ストッパ247が位置決めストッパ32に当たり、アーム装置2が更に前方に移動することを規制する。本形態では、この位置は、炉内に配列した複数のるつぼ7(本形態の傾注装置1で取り出するつぼ7)に対応する位置である。アーム装置2が後方に移動していくと、前方側の第1ストッパ246が位置決めストッパ32に当たり、アーム装置2が更に後方に移動することを規制する。この位置は、モールド部材4のモールド40にるつぼ7の内容物を注入可能な位置である。
上下方向往復動機構33は、アーム装置2を上下方向に往復動する機構である。本形態では、電動シリンダ及びその制御装置から形成される。
【0029】
モールド部材4は、図8に斜視図で示すように、るつぼ7の内容物が注入されるモールド40を有する部材である。モールド部材4は、複数の注入孔41が開口したモールド40を有する。モールド40の注入口41が開口する位置が、炉6の外部の所定の位置に相当する。複数の注入孔41は、幅方向及び前後方向に配列している。幅方向に配列する注入孔41は、フォーク20の空隙200に対応した間隔で設けられている。前後方向に配列する注入孔41は、移動量調整機構24のハンドルプレート242の切欠き244に対応した間隔で設けられている。モールド部材4のモールド40は、請求項のモールドに相当する。
モールド部材4は、それ自体が移動可能な車輪を備えている。この車輪により、モールド部材4は、前後方向,幅方向に移動可能となっている。
モールド部材4は、モールド40の前方側に、開口部42が開口している。開口部42は、上下方向に貫通する貫通孔43の上方側の開口である。モールド部材4の開口部42は、るつぼ回収装置5の開口部50の上方で開口し、るつぼ回収装置5の開口部50と連通する。
【0030】
るつぼ回収装置5は、モールド部材4と炉6との間に設けられ、図9に斜視図で示すように、上方に開口部50が形成された略槽状を有する部材である。開口部50は、上部押さえ板21が切欠き203に挿入されていない非規制状態で、その上方でフォーク20を傾斜したときに、落下したるつぼ7が入る位置及び形状に形成されている。るつぼ回収装置5は、請求項のるつぼ回収部に相当する。
るつぼ回収装置5は、それ自体が移動可能な車輪を備えている。この車輪により、るつぼ回収装置5は、前後方向,幅方向に移動可能となっている。
【0031】
炉6は、るつぼ7を加熱して、内容物を溶融する加熱炉である。炉6は、側面に方形状の開口部60が開口している。この開口部60は、フォーク2に支持された状態でるつぼ7の通過が可能な大きさで形成されている。炉6は、従来の加熱炉である。
るつぼ7は、従来のるつぼである。るつぼ7は、上面の全面が開口した略槽状の形状を有する。るつぼ7は、上方が拡径した円形の外周形状(すなわち、全体として下部が縮径した円筒形状)を有する。
【0032】
[動作]
本形態の傾注装置1は、以下のように動作する。
(炉からの取り出し及び内容物の傾注)
図1に示すように、炉6内には、幅方向及び前後方向に、複数のるつぼ7が配列している。複数のるつぼ7は、幅方向の間隔は、フォーク20の空隙200に対応した間隔で配列している。また、複数のるつぼ7の前後方向の間隔は、ハンドルプレート242の複数の切欠き244の間隔に対応した距離である。
本形態の傾注装置1を、炉6の開口部60の後方の所定の位置に、配置(設置)する。炉6は、内部が加熱され、複数のるつぼ7の内容物が溶融する(溶融した金属となっている)。
【0033】
このとき、移動量調整機構24の1対のハンドルプレート242,242は、図10に部分拡大図で示すように、複数の切欠き244のうち、最も後方側の切欠き244にシャフト245が係合している。上部押さえ板21は、切欠き203に挿入されていない。
【0034】
アーム移動装置3の前後方向往復動機構31は、前後方向で最後方にアーム装置2を位置させている。このとき、前方側の第1ストッパ246は、突出高さが高く、位置決めストッパ32に当接している。また、上下方向往復動機構33は、アーム装置2を、フォーク20が炉6の内底面に略一致する位置に配している。
そして、前後方向往復動機構31により、本体部30に支持されたアーム装置2を前方に移動する。アーム装置2が前方に移動すると、アーム装置2の前端部(例えば、フォーク20)が炉6の内部に挿入される。
【0035】
アーム装置2が更に前方に移動すると、位置決めストッパ32が後方側の第2ストッパ247に当たり、アーム装置2が更に前方に移動することが停止する。この位置では、フォーク20の空隙200のそれぞれの内部に、炉6内に配列したるつぼ7のうち最後方で幅方向に配列した複数のるつぼ7が位置した状態となる。
【0036】
次に、上下方向往復動機構33を動作して、アーム装置2を上方に移動する。アーム装置2が上方に移動すると、フォーク20も上方に移動する。そうすると、フォーク20の歯部201がるつぼ7の外周面に当接し、隣接する2つの歯部201,201がるつぼ7の外周面を両側から支持する。更に所定量上方に移動すると、るつぼ7が炉6の内底面から浮き上がる。上下方向往復動機構33は、アーム装置2をこの位置に保持する。
【0037】
その後、前後方向往復動機構31により、本体部30に支持されたアーム装置2を後方に移動する。アーム装置2が後方に移動すると、アーム装置2の前端部(例えば、フォーク20)が炉6の開口部60から外部に移動し、るつぼ7が取り出される。
【0038】
アーム装置2が更に後方に移動すると、るつぼ回収装置5及びモールド部材4の上方を移動する。そして、位置決めストッパ32が前方側の第1ストッパ246に当たり、アーム装置2が更に後方に移動することが停止する。この位置は、モールド部材4のモールド40のうち、最後方で幅方向に配列したモールド40の注入孔41に、るつぼ7の内容物を注入可能な位置である。
【0039】
それから、押さえレバー212を前方に押す。押さえレバー212とともにピン211が前方に移動する。そうすると、ピン211は、それが挿入しているピン挿入孔210を前方に押し、上部押さえ板21を前方に押し、移動させる。前方に移動した上部押さえ板21は、支持板202の切欠き203に挿入され、この状態で保持される。このとき、上部押さえ板21は、フォーク20に支持されたるつぼ7の上部に位置することとなり、るつぼ7がそれ以上に上方に変位することが規制された規制状態となる。
【0040】
そして、傾斜レバー220を前方に押し、フォーク20を揺動する。傾斜レバー220を前方に押すと、リンク221を介して支持板202の上端部を前方に押す。押された支持板202は、揺動中心を回転中心として回転し、フォーク20の前端が下方側に回転する。このとき、るつぼ7は、図11に斜視図で示すように、フォーク20と上部押さえ板21とで上下方向で挟持されており、フォーク20の回転に連動して回転する。この回転は、図12に側面図で示すように、るつぼ7の軸方向が水平方向を向くまで行う。この回転により、るつぼ7の内容物は、るつぼ7の上部の開口部から流れ落ちる。流れ落ちた内容物は、モールド部材4のモールド40の注入孔41に流入する。
以上により、本形態の傾注装置1は、るつぼ7の内容物をモールド40の注入孔41に傾注することができる。
【0041】
(るつぼの落下回収)
るつぼ7の内容物が流下したら、傾斜レバー220を後方に引く。傾斜レバー220を後方に引くと、リンク221を介して支持板202の上端部が後方に引かれる。引かれた支持板202は、揺動中心を回転中心として回転し、フォーク20の前端が上方側に向かって回転する。
【0042】
前後方向往復動機構31により、本体部30に支持されたアーム装置2を前方に移動する。このアーム装置2の移動は、アーム装置2の前端部のフォーク20が、モールド部材4の開口部42及びるつぼ回収装置5の開口部50の略上方に位置するまで行う。
【0043】
押さえレバー212を後方に引く。押さえレバー212とともにピン211が後方に移動する。そうすると、ピン211はそれが挿入しているピン挿入孔210を後方に引き、上部押さえ板21を後方に引いて移動させる。上部押さえ板21は、支持板202の切欠き203から抜き出され、この状態で保持される。このとき、上部押さえ板21は、フォーク20に支持されたるつぼ7の開口部を押さえておらず、るつぼ7の変位を規制しない非規制状態となっている。
【0044】
そして、傾斜レバー220を前方に押し、フォーク20を回転揺動する。このフォーク20の回転により、るつぼ7の軸方向が傾斜し、図13に側面図で示すように、傾斜角が大きくなると、るつぼ7はフォーク20から落下する。落下したるつぼ7は、モールド部材4の開口部42の内部に落下し、モールド部材4の貫通孔43を通ってるつぼ回収装置5の開口部50に落下する。そして、るつぼ回収装置5の内部に落下する。
以上により、使用済みのるつぼ7が回収される。
【0045】
(炉からの取り出し及び内容物の傾注)
次に、移動量調整機構24のハンドル部材241の後端のハンドルを持ち上げる。これにより、1対のハンドルプレート242,242が持ち上げられ(リニアブロック243を中心に1対のハンドルプレート242,242が持ち上げられ)、最も後方側の切欠き244がシャフト245に係合しなくなる。この状態で、ハンドル部材241を後方に移動する。移動量調整機構24は、シャフト240とリニアブロック243により、シャフト240の伸びる前後方向に沿って、後方に移動する。そして、所定量移動した後、移動量調整機構24のハンドル部材241を持ち上げた状態から下ろす。これにより、1対のハンドルプレート242,242は、複数の切欠き244のうち、最も後方側から1つ前方の切欠き244にシャフト245が係合する。この状態は、先の状態から、フォーク20が、るつぼ7の1つ分(前後方向で1列分)だけ前方に位置した状態である。
その後、上記と同様にるつぼ7の取り外しを行うことができる。
これらの操作を繰り返すと、炉6の内部に配列したるつぼ7の全ての取り出し、モールド40への傾注を行うことができる。
(るつぼの回収)
その後、モールド部材4及びるつぼ回収装置5を移動し、るつぼ回収装置5に落下したるつぼ7を回収し、再生し再利用する。
【0046】
[効果]
本形態の傾注装置1は、炉6内で幅方向に配列した複数のるつぼ7を取り出し、炉6の外部の所定の位置で複数のるつぼ7を傾けて内容物をモールド40の注入孔41に注ぐ傾注装置であって、幅方向に配列した複数のるつぼ7の下部を支持するフォーク20と、フォーク20に支持されたるつぼ7の上部でるつぼ7の変位を規制する規制状態とるつぼ7の変位を規制しない非規制状態との間で変位する上部押さえ板21(るつぼ変位規制部)と、フォーク20を傾斜させる傾斜機構22と、を有するアーム装置2と、フォーク20が炉6の内部と所定の位置との間で変位するようにアーム装置2を移動するアーム移動装置3と、を有する。そして、上部押さえ板21が規制状態のときに、傾斜機構22がフォーク20を傾斜してるつぼ7を傾けて内容物を注ぐものである。
【0047】
この構成によると、同時に複数の配列したるつぼ7を炉6の内部から取り出し、その状態で、るつぼ7を傾けることで、るつぼ7の内容物を注ぐことができる。本形態の傾注装置1によると、作業者の負担を大きく減らすことができるとともに、作業者の熟練度によらず、安全に複数のるつぼ7の内容物を注ぐことができる。
【0048】
本形態の傾注装置1は、所定の位置の下方に、内容物が注入する複数の注入孔41が幅方向に配列して開口したモールド40を有する。この構成によると、幅方向に配列した複数のるつぼ7の内容物を、モールド40への注入を一度に行うことができる。つまり、より多くのるつぼ7の処理(取り出し〜傾注)を行うことができる。
本形態の傾注装置1は、モールド40が、幅方向に配列した複数の注入孔41が、炉6の内部と外部を結ぶ内外方向で複数列をなして設けられている。この構成によると、幅方向に配列した複数のるつぼ7が、前後方向にも配列していても、内容物の取り出し(モールド40への注入)を行うことができる。つまり、より多くのるつぼ7の処理(取り出し〜傾注)を行うことができる。
【0049】
本形態の傾注装置1は、アーム移動装置3が、フォーク20が炉6の内部に位置する挿入位置と、炉6の外部に位置する取り出し位置と、の間でアーム装置2を移動させ、アーム装置2が、フォーク20が取り出し位置にあるときに、所定の位置にるつぼ7を位置決めする位置決め手段としてのハンドルプレート242の切欠き244とシャフト245とを有する。この構成によると、前後方向に配列したるつぼ7に対応した位置決めを確実に行うことができる。
【0050】
本形態の傾注装置1は、炉6の内部と外部を結ぶ内外方向でモールド部材4のモールド40と異なる位置に設けられ、上部押さえ板21が非規制状態でフォーク20を傾斜したときに落下するるつぼ7を回収するるつぼ回収装置5を有する。この構成によると、使用済みのるつぼを回収・再生できる。
本形態の傾注装置1は、るつぼ回収装置5の開口部50が、内外方向でモールド部材4と炉6との間に設けられる。この構成によると、るつぼ7を炉6の内部から取り出し、るつぼ7の内容物をモールド40に注入し、るつぼ7を回収・廃棄する一連の動作におけるアーム装置2(フォーク20)の移動量を最小限の移動量とすることができ、アーム装置2の操作(フォーク20の移動)のために要する作業者の負担を減らすことができる。
【0051】
本形態の傾注装置1は、同時に複数の配列したるつぼ7を炉6の内部から取り出し、複数のるつぼ7の内容物をモールド40に流入させることができる。また、内容物をモールド40に傾注した後のるつぼ7は、モールド部材4の開口部42を介してるつぼ回収装置5に落下させて回収することができる。すなわち、本形態の傾注装置1は、炉6内に配列したるつぼ7を取り出し、内容物をモールド40に注入し、るつぼ7の廃棄・回収を1つの装置で行うことができる。この結果、本形態の傾注装置1によると、作業者の負担を大きく減らすことができるとともに、作業者の熟練度によらず、安全に複数のるつぼ7の内容物をモールド40に傾注することができる。
【0052】
本発明の傾注装置1は、更に、モールド部材4が、モールド40を前後方向で複数有する。この構成によると、幅方向に配列した複数のるつぼ7が、前後方向にも配列していても、内容物の取り出し(モールド40への注入)を行うことができる。つまり、より多くのるつぼ7の処理(取り出し〜傾注)を行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1:傾注装置
2:アーム装置、20:フォーク、21:上部押さえ板、22:傾斜機構、23:本体部、24:移動量調整機構
3:アーム移動装置、30:本体部、31:前後方向往復動機構、32:ストッパ、33:上下方向往復動機構
4:モールド部材、40:モールド
5:るつぼ回収装置
6:炉
7:るつぼ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13