(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988165
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】ガス吸収性フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20211220BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20211220BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20211220BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20211220BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20211220BHJP
C01B 39/02 20060101ALI20211220BHJP
C01B 39/14 20060101ALI20211220BHJP
C01B 39/22 20060101ALI20211220BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20211220BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20211220BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20211220BHJP
H01M 50/10 20210101ALN20211220BHJP
【FI】
C08J5/18
B01J20/18 A
B01J20/18 B
B01J20/18 D
B01J20/28 Z
B01J20/34 H
B65D65/02 E
C01B39/02
C01B39/14
C01B39/22
C08K3/01
H01M10/052
H01M10/058
!H01M50/10
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-101844(P2017-101844)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-100389(P2018-100389A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2020年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-105554(P2016-105554)
(32)【優先日】2016年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-247189(P2016-247189)
(32)【優先日】2016年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】野末 満
【審査官】
河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−116488(JP,A)
【文献】
特開2001−155790(JP,A)
【文献】
特開2014−232666(JP,A)
【文献】
特開2014−193454(JP,A)
【文献】
特表2016−513748(JP,A)
【文献】
特開2015−005496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02
5/12− 5/22
B32B 1/00− 43/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B65D65/00− 65/46
B01J20/00− 20/28
20/30− 20/34
H01M10/05− 10/0587
10/36− 10/39
50/00− 50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂及び無機系ガス吸収材を含む樹脂混合物から形成され、
前記無機系ガス吸収材のガス吸収能が加熱処理により再生可能であり、
前記耐熱性樹脂のガラス転移温度が200℃以上であり、
前記無機系ガス吸収材の加熱処理温度が前記耐熱性樹脂の耐熱温度以下である、ガス吸収性フィルム。
【請求項2】
前記無機系ガス吸収材の混合割合が0.5〜70重量%である、請求項1に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項3】
前記無機系ガス吸収材の粒径が10μm以下である、請求項1又は2に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項4】
前記無機系ガス吸収材が無機多孔質材料である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス吸収性フィルム。
【請求項5】
前記無機系ガス吸収材がゼオライトである、請求項4に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項6】
前記無機系ガス吸収材が100〜3000m2/gの比表面積を有する、請求項4又は5に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項7】
前記無機系ガス吸収材が3Å〜10Åの細孔径を有する、請求項4〜6のいずれかに記載のガス吸収性フィルム。
【請求項8】
前記無機系ガス吸収材がSi/Al比が1〜5の範囲の元素構成比を有するゼオライトである、請求項5に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項9】
前記無機系ガス吸収材がA型、X型あるいはLSX型のゼオライトである、請求項5又は8に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項10】
前記無機系ガス吸収材がLiでイオン交換されたLSX型のゼオライトである、請求項5、8又は9に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項11】
前記無機系ガス吸収材がCaでイオン交換されたA型のゼオライトである、請求項5、8又は9に記載のガス吸収性フィルム。
【請求項12】
前記ガス吸収性フィルムがリチウムイオン電池又は蓄電デバイス内設用である、請求項1〜11のいずれかに記載のガス吸収性フィルム。
【請求項13】
前記ガス吸収性フィルムが食品包装用である、請求項1〜11のいずれかに記載のガス吸収性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス吸収性フィルムに関し、特に炭酸ガス等の吸収性に優れたガス吸収性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量、高出力タイプのリチウムイオン電池が実用化されている。このリチウムイオン電池は、大容量、高出力であるがゆえに従来の二次電池よりも高い安全性が求められる。
【0003】
このリチウムイオン電池は、正極体及び負極体が電解液とともに気密容器内に封入され、電解液中のリチウムイオンが電気伝導を担うものであり、電極シートとセパレータとの積層体を、角型の場合にはサンドイッチ状に、円筒型の場合にはロール状にそれぞれ形成し、集電体としての正極体及び負極体のリード部を各々の端子に接続する。そして、上述したような各種形態の積層体をそれぞれの対応する形状の気密容器に収容した後、気密容器の開口部から電解液を注入して積層体に電解液を含浸し、正極体及び負極体の先端を外部に露出した状態で電池容器を封入した構造を有するのが一般的である。
【0004】
上記リチウムイオン電池に用いられる電解液としては、炭酸エチレンなどを含有する非水系電解液が用いられるが、リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させるためには使用可能電圧を高めることが有効であることから、特に高い電圧で充放電可能な炭酸エステル系電解液が広く用いられている。
【0005】
このような非水系電解液を使用したリチウムイオン電池では、非水系電解液中に含まれる炭酸エステルが長期間の使用における充放電の繰り返し、過充電、あるいは短絡等の異常時の電池内部の温度上昇に起因して、劣化や電気分解をおこす。これにより電池内部でCO
2などのガスが発生し、内圧が上昇して気密容器が変形し、内部抵抗が増大する等の不具合を生じる虞があった。そこで、これらのガスを吸収あるいは抑制するための技術が種々提案されている。
【0006】
このようなガスを吸収したり抑制したりするためのものとして、特許文献1には、水酸化リチウムなどの水酸化物を主成分とする吸収材によりCO
2を吸収させる構造を有する電気二重層キャパシタが提案されている。また、特許文献2には、ゼオライトをガス吸収材として用いたリチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−197487号公報
【特許文献2】特開2015−5496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載されたガス吸収材は、ペレット状又は粉末状で電池内部に配置するものであるので、以下のような問題点がある。ペレット状のガス吸収材は、電池内部の配置位置に制限あり、また、ペレットの破砕により粉塵が発生するという問題点がある。粉末状のガス吸収材は、電池容器内を自由に移動してしまわぬように、別途袋体やケーシングに収容する必要があり、やはり電池内部の配置位置に制限あるという問題点がある。また、正確な計量が難しく充填量に差異が生じやすいという問題点もある。
【0009】
さらに、特許文献1、2に記載されたガス吸収材は、CO
2だけでなく大気中の水分なども吸着するため、長期間保管すると水分を吸収してしまうのでCO
2などの吸収能が大幅に低下してしまうという問題点もある。
【0010】
ところで、食品包装分野においては、保存過程や輸送過程において、食品自体から炭酸ガスが放出されることがあり、これらの包装用フィルムとしてポリエチレンやポリプロピレンなどの延伸性に富む樹脂を基材とし、これにガス吸収材を混合したものが用いられている。このようなフィルム状の形態であれば、折り畳んだり、丸めたり、あるいはそのまま包装するなどして電池容器内の任意のスペースに収容することが可能となり、取扱い性を大幅に向上させることができることから、かかる食品包装用のフィルムの技術を適用することが考えられる。
【0011】
しかしながら、上述したようなポリエチレンやポリプロピレンからなる食品包装用のフィルムでも、水分を吸収しCO
2などの吸収能が低下してしまうという課題は依然残る。この対策として、ポリエチレンやポリプロピレンからなるガス吸収性フィルムでは、全製造工程で露点管理を行い水分を忌避しているが、それでも長期間保管すると大気中の水分を吸収しCO
2などの吸収能が低下してしまうという問題点がある。このような水分の吸収による性能の低下に対応可能なガス吸収性フィルムを提供できれば、リチウムイオン電池や蓄電キャパシタなどの分野に限らず、食品包装フィルムにも好適に適用することができる。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、取り扱い性が良好で長期保管後の炭酸ガス等の吸収性に優れたガス吸収性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、耐熱性樹脂及び無機系ガス吸収材を含む樹脂混合物から形成される、ガス吸収性フィルムを提供する(発明1)。
【0014】
上記発明(発明1)によれば、このガス吸収体はフィルム状であるので形状の自由度が大きく、折り畳んだり、丸めたりすることで所望のスペースに配置することができる。あるいはそのまま包装することもできる。そして、ガス吸収性フィルムは、フィルム中の無機系ガス吸収材がCO
2などのガス成分を吸収するものであるが、保管時などに無機系ガス吸収材が大気中の水分などを吸着することでガス吸収性能が低下する。そこでフィルムの基材として耐熱性樹脂を用いることにより、加熱により無機系ガス吸収材から水分を飛ばしてガス吸収能を再現することができ、しかも熱によりフィルムがシュリンクしたりすることがない。
【0015】
上記発明(発明1)においては、前記無機系ガス吸収材の混合割合が0.5〜70重量%であることが好ましい(発明2)。
【0016】
上記発明(発明2)によれば、無機系ガス吸収材によるガス吸収能を発揮しつつ好適にフィルム形状とすることができる。
【0017】
上記発明(発明1、2)おいては、前記無機系ガス吸収材の粒径が10μm以下であることが好ましい(発明3)。
【0018】
上記発明(発明3)によれば、無機系ガス吸収材によるガス吸収能を発揮しつつ好適にフィルム形状とすることができる。
【0019】
上記発明(発明1〜3)おいては、前記無機系ガス吸収材のガス吸収能が加熱処理により再生可能であることが好ましい(発明4)。
【0020】
上記発明(発明4)によれば、ガス吸収性フィルムを使用前に加熱処理することにより、ガス吸収能が高い状態に再生して使用することができる。
【0021】
上記発明(発明4)おいては、前記無機系ガス吸収材の加熱処理温度が前記耐熱性樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい(発明5)。
【0022】
上記発明(発明5)によれば、加熱処理によりフィルムが熱の影響でシュリンクしたりすることがなく、無機系ガス吸収材から水分を飛ばしてガス吸収能を再現することができる。
【0023】
上記発明(発明1〜5)おいては、前記無機系ガス吸収材が無機多孔質材料であることが好ましい(発明6)。特に前記無機系ガス吸収材が、ゼオライトであることが好ましい(発明7)。
【0024】
上記発明(発明6,7)によれば、これらの無機系ガス吸収材はCO
2や炭化水素系のガスなどを迅速かつ高い吸収率で吸収することができる。
【0025】
上記発明(発明6,7)おいては、前記無機系ガス吸収材が100〜3000m2/gの比表面積を有することが好ましい(発明8)。
【0026】
上記発明(発明8)によれば、無機系ガス吸収材とCO
2や炭化水素系のガスなどとの接触面積を十分に確保することができるので、高い吸収率を維持することができる。
【0027】
上記発明(発明6〜8)おいては、前記無機系ガス吸収材が3Å〜10Åの細孔径を有することが好ましい(発明9)。
【0028】
上記発明(発明9)によれば、無機系ガス吸収材がCO
2や炭化水素系のガスなどを細孔内に捕捉してより迅速にこれらのガスを吸収することができる。
【0029】
上記発明(発明7)おいては、前記無機系ガス吸収材がSi/Al比が1〜5の範囲の元素構成比を有するゼオライトであることが好ましい(発明10)。また、前記無機系ガス吸収材がA型、X型あるいはLSX型のゼオライトであることが好ましい(発明11)。また前記無機系ガス吸収材がLiでイオン交換されたLSX型のゼオライトであることが好ましい(発明12)。
【0030】
上記発明(発明10〜12)によれば、無機系ガス吸収材がCO
2や炭化水素系のガスなどをより迅速に、かつ高い吸収率で吸収することができる。
【0031】
上記発明(発明7,10,11)おいては、前記無機系ガス吸収材がCaでイオン交換されたA型のゼオライトであることが好ましい(発明13)。
【0032】
上記発明(発明13)によれば、ゼオライトは水分を吸収すると、CO
2や炭化水素系のガスなど吸収性能が大幅に低減するが、Ca交換されたA型ゼオライトは、加熱乾燥が容易であるので、これらのガス吸収性能が大幅に回復し、耐久性を向上することができる。
【0033】
上記発明(発明1〜13)おいては、前記ガス吸収性フィルムが、リチウムイオン電池又は蓄電デバイス内設用であることが好ましい(発明14)。
【0034】
上記発明(発明14)によれば、ガス吸収材をフィルム状としているので、これを折り畳む、あるいは丸めるなどしてリチウムイオン電池や蓄電デバイス内に配置したり、あるいはそのまま包装したりすることにより、これらから発生するCO
2や炭化水素系のガスなどを吸収することができるので、この用途に好適である。
【0035】
上記発明(発明1〜13)おいては、前記ガス吸収性フィルムが食品包装用であることが好ましい(発明15)。
【0036】
上記発明(発明15)によれば、このガス吸収性フィルムで食品を包装することにより、食品から発生するCO
2や炭化水素系のガスなどを吸収することができるので、この用途に好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、耐熱性樹脂と無機系ガス吸収材とを混合した樹脂混合物をガス吸収性フィルムとしているので、折り畳む、あるいは丸めるなどしてリチウムイオン電池や蓄電デバイス内に配置したり、あるいはそのまま包装したりすることができる。そして、ガス吸収性フィルムを使用前に加熱処理することにより、ガス吸収能が高い状態で使用することができる。さらに無機系ガス吸収材の計量はシートを裁断するだけでよく、フィルムとした後熱処理を施すことでフィルム製造工程における露点管理も不要となる、という利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、この実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
本実施形態のガス吸収性フィルムは、耐熱性樹脂及び無機系ガス吸収材を含む樹脂混合物から形成される。ここで、耐熱性樹脂としては、非結晶樹脂の場合、ガラス転移温度が200℃以上、特に300℃以上のものをいう。また、結晶性樹脂の場合は、ガラス転移温度が200℃以上であり、融点を持たないか融点250℃以上の樹脂のことをいう。このような樹脂としては、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、アラミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどを用いることができる。
【0040】
また、無機系ガス吸収材としては、CO
2やCH
4、C
2H
6などの炭化水素系ガスの吸収性に優れることから無機多孔質材料を用いることが好ましい。この無機多孔質材料としては、多孔質シリカ、金属ポーラス構造体、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ゼオライト、活性アルミナ、酸化チタン、アパタイト、多孔質ガラス、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等が好適である。さらには活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンモレキュラーシーブ、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素系(カーボン系)素材等も好適に用いることができる。
【0041】
これらの無機系ガス吸収材は単独で用いてもよいし、2種類以上の素材を併用してもよいが、ゼオライトが特に有効である。
【0042】
上述したような無機系ガス吸収材は、100〜3000m
2/gの比表面積を有することが好ましい。比表面積が100m
2/g未満では、CO
2や炭化水素系ガスなどのガス成分との接触面積が小さく、十分な吸着性能を発揮することができない。一方、比表面積が3000m
2/gを超えてもCO
2や炭化水素系ガスなどの吸着性能の向上効果が得られないばかりか、無機系ガス吸収材の機械的強度が低下するため好ましくない。
【0043】
また、無機系ガス吸収材は、3Å以上10Å以下の細孔径を有することが好ましい。細孔容積が3Å未満の場合、細孔内へのCO
2や炭化水素系ガスなどのガス成分の侵入が困難となる。一方、細孔容積が10Åを超えると、CO
2や炭化水素系ガスなどの吸着力が弱くなってしまい、細孔内で最密に吸着できず、結果として吸着量が低下してしまうため好ましくない。
【0044】
さらに、無機系ガス吸収材がゼオライトの場合、Si/Al比が1〜5の範囲の元素構成比を有するものを使用するのが好ましい。Si/Al比が1未満のゼオライトは構造上不安定である一方、Si/Al比が5を超えるゼオライトはカチオン含有率が低くCO
2や炭化水素系ガスなどのガス成分の吸着量が低下するため好ましくない。
【0045】
なお、ゼオライトとしては、A型、X型あるいはLSX型のゼオライトを用いるのが好ましい。特にゼオライトのカチオン部分がLiでイオン交換されたLSX型あるいはA型のゼオライトやゼオライトのカチオン部分がCaでイオン交換されたA型のゼオライトが好ましく、より好ましくはCaでイオン交換されたA型のゼオライトである。
【0046】
このような無機系ガス吸収材は、雰囲気中の湿度を吸収することがある。そして、無機系ガス吸収材は、水分を吸収するとCO
2やCH
4、C
2H
6などの炭化水素系ガス成分の吸収性能が大幅に低減する。しかしながら、各種ゼオライト、特にCaでイオン交換されたA型のゼオライトは、加熱により水分を追い出すことによりガス吸収性能を再生させることが可能である。
【0047】
また、CO
2を主に吸収させたい場合には、無機系ガス吸収材としてCO
2を中和的に吸収する機能を有する塩基性の素材を用いることもできる。この塩基系の素材としては、具体的には、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウムなどの金属炭酸水素塩、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性水酸化物、その他アルカリ性の鉱物、有機物、多孔質材料などを挙げることができる。
【0048】
上述したような本実施形態においては、無機系ガス吸収材はフィルム状とすることから粉末状とするのが好ましく、具体的には平均粒径を10μm以下とするのが好ましい。粒径が10μmを超えると得られるガス吸収性フィルムの機械的強度が低下する。なお、平均粒径の下限については0.5μm未満では取扱い性が低下するばかりか、かえってガス吸収性能が低下するため0.5μm以上とするのが好ましい。
【0049】
この無機系ガス吸収材を耐熱性樹脂と混合してフィルム化するが、無機系ガス吸収材の配合割合は、耐熱性樹脂と無機系ガス吸収材との合計100重量%に対して0.5〜70重量%であることが好ましい。無機系ガス吸収材の配合割合が0.5%未満では、得られるガス吸収性フィルムのガス吸収性能が十分でない一方、70重量%を超えるとフィルム状に成形するのが困難となるか、フィルム状に成形できたとしても得られるガス吸収性フィルムの機械的強度が低くなるため好ましくない。この無機系ガス吸収材の配合量は、ガス吸収性フィルムの用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、リチウムイオン電池や蓄電デバイス内に設置用など可変性がありさえすれば、ガス吸収能が高い方がよい用途の場合には、30〜70重量%と無機系ガス吸収材の含有率を高く設定すればよい一方、食品包装用などガス吸収能だけでなく透明性・柔軟性も要求される用途の場合には、0.5〜30重量%と無機系ガス吸収材の含有率を低く設定すればよい。
【0050】
上述したような耐熱性樹脂と無機系ガス吸収材とからなる本実施形態のガス吸収性フィルムは、耐熱性樹脂が熱可塑性の場合には溶融状態の耐熱性樹脂に無機系ガス吸収材を配合して両者をニーダ、バンバリミキサ、二軸混錬機などの汎用の混錬装置を用いて加熱しながら混練して樹脂組成物を調製し、ダイから押し出した後一軸あるいは二軸方向に延伸する延伸成形やインフレ−ション成形、あるいはブロー成形などの汎用のフィルム成形法によりフィルム状に成形することができる。また、耐熱性樹脂が熱硬化性あるいは溶融混錬が困難な場合には、耐熱性樹脂を所定の粘度となるように溶解した溶液に無機系ガス吸収材を分散させた混合溶液から乾式法または湿式法にて製膜してもよい。さらには、基材フィルム上に耐熱性樹脂と無機系ガス吸収材とからなる樹脂混合物あるいは混合溶液を塗布して積層フィルムとしてもよい。
【0051】
ガス吸収性フィルムの厚さは、基材となる耐熱性樹脂にもよるが、20〜200μmとすることができる。例えば、リチウムイオン電池や蓄電デバイス内に設置用などの場合には、ある程度変形可能であればガス吸収量が多い方がよいことからフィルムの厚さを大きく設定すればよい一方、食品包装用などガス吸収能だけでなく透明性・柔軟性も要求される場合には、フィルムの厚さを小さく設定すればよい。
【0052】
上述した構成を有する本実施形態のガス吸収性フィルムは、CO
2やCH
4、C
2H
6などの炭化水素系ガス成分の吸収性能に優れる一方、雰囲気中の水分も吸湿しやすい。そして、無機系ガス吸収材は、前述したとおり水分を吸収するとCO
2やCH
4、C
2H
6などのガス成分の吸収性能が大幅に低減する。そこで、本実施形態においては、ガス吸収性フィルムに対し熱処理を施すことにより、無機系ガス吸収材から水分を放出してガス吸収性能を再生する。この加熱処理の温度は耐熱性樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。加熱処理の温度が耐熱温度を超えると、フィルムがシュリンクしたりしてフィルム形状を保持できなくなる。しかしながら、耐熱性樹脂によっては、無機系ガス吸収材からの水分の放出温度が耐熱性樹脂の耐熱温度よりも高い場合がある。その場合には、ガス吸収性フィルムを減圧下に置くことにより吸湿した水分を放出しやすくして耐熱性樹脂の耐熱温度よりも低い温度で処理すればよい。
【0053】
以上、本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、本発明は耐熱性樹脂及び無機系ガス吸収材を含む樹脂混合物によりガス吸収性フィルムを構成してさえいればよく、フィルム状に成形する方法などは前述した実施形態に限定されない。
【実施例】
【0054】
以下の具体的実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
無機系ガス吸収材として、Caイオン交換したA型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により、25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は80mL/gであった。
【0056】
(実施例2)
実施例1で用いたCaイオン交換したA型のゼオライトを粒径10μm以下に粉砕したものを減圧(10hPa減圧条件、以下同じ)下で200℃にて乾燥した後、シリコン樹脂に70重量%添加し、Tダイを備えた二軸混錬機で混錬した後Tダイより吐出し、続いて2軸方向に延伸して厚さ50μmのガス吸収性フィルムを作製した。得られたガス吸収性フィルムの初期状態におけるCO
2ガス吸収量は約56mL/gであった。
【0057】
このガス吸収性フィルムを大気中に24時間放置したところ、CO
2ガス吸収量は約2mL/gであり、ほとんど失われていた。そこで、減圧下で200℃にて15時間熱処理を行い、処理後のガス吸収性フィルムのCO
2ガス吸収量を測定した。結果を再生率(初期CO
2ガス吸収量に対する熱処理後のCO
2ガス吸収量の割合)とともに表1に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1で用いたCaイオン交換したA型のゼオライトを粒径10μm以下に粉砕したものを減圧下で150℃にて乾燥した後、ポリイミド樹脂前駆体溶液に50重量%(ポリイミド樹脂換算)添加し、この混合溶液を基材上に塗布した後加熱して液分の揮発・乾燥を行い、基材より剥離したら2軸方向に延伸して厚さ50μmのガス吸収性フィルムを作製した。このガス吸収性フィルムの初期状態におけるCO
2ガス吸収量は約40mL/gであった。
【0059】
このガス吸収性フィルムを大気中に24時間放置したところ、CO
2ガス吸収量は約2mL/gであり、ほとんど失われていた。そこで、減圧下で150℃にて24時間熱処理を行い、処理後のガス吸収性フィルムのCO
2ガス吸収量を測定した。結果を再生率とともに表1に示す。
【0060】
(比較例1)
実施例1で用いたCaイオン交換したA型のゼオライトを粒径10μm以下に粉砕したものを減圧下で200℃にて乾燥した後、ポリエチレン樹脂に30重量%添加し、Tダイを備えた二軸混錬機で混錬した後Tダイより吐出し、続いて2軸方向に延伸して厚さ50μmのガス吸収性フィルムを作製した。このガス吸収性フィルムの初期状態におけるCO
2ガス吸収量は約24mL/gであった。
【0061】
得られたこのガス吸収性フィルムを大気中に24時間放置したところ、CO
2ガス吸収量は約2mL/gであり、ほとんど失われていた。そこで減圧下で150℃にて熱処理を行ったところ、フィルムがシュリンクしてしまい、フィルム形状が損なわれた。このため、減圧下でポリエチレンの耐熱温度以下である70℃で24時間熱処理を行い、処理後のガス吸収性フィルムのCO
2ガス吸収量を測定した。結果を再生率とともに表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から明らかな通り、耐熱性樹脂であるシリコン樹脂及びポリイミドを用いた実施例2及び実施例3では、加熱によりCO
2ガス吸収量を再生することができ、熱処理によるフィルムに対する影響もなかった。これに対し、ポリエチレン樹脂を用いた比較例1では70℃の熱処理には耐えられたものの、CO
2ガス吸収量の再現率は極めて低く、ガス吸収性フィルムとしての実用性に乏しかった。
【0064】
(実施例4)
無機系ガス吸収材として、Liイオン交換したLSX型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は130mL/gであった。
【0065】
(実施例5)
無機系ガス吸収材として、Naイオン交換したX型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は132mL/gであった。
【0066】
(実施例6)
無機系ガス吸収材として、Caイオン交換したX型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は130mL/gであった。
【0067】
(実施例7)
無機系ガス吸収材として、Naイオン交換したA型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は70mL/gであった。
【0068】
(実施例8)
無機系ガス吸収材として、Hイオン交換したY型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は15mL/gであった。
【0069】
(実施例9)
無機系ガス吸収材として、Caイオン交換したZSM−5型のゼオライトを用いて、ガス吸着法により25℃、760mmHgにおけるCO
2の平衡吸着量を測定したところ、CO
2吸着量は56mL/gであった。
【0070】
これら実施例4〜9の無機系ガス吸収材も前述した実施例1と同様に耐熱性樹脂とともにフィルムとすることができ、加熱によりCO
2吸着能を再生することができる。
【0071】
(実施例10)
無機系ガス吸収材として、細孔を有するカーボン素材(CO
2吸着量50mL/g)を使用し、これをシリコン樹脂30重量%に対して70重量%添加し、Tダイを備えた二軸混練機で混練した後Tダイより吐出し、続いて2軸方向に延伸して厚さ50μmのガス吸収フィムを製作した。得られたガス吸収性フィルムの初期状態におけるCO
2ガス吸収量は30mL/gであった。
【0072】
得られたガス吸収フィルムを大気中に24時間放置していたところCO
2ガス吸収量は約15mL/gとなり、初期の約半分となった。そこで大気下で乾燥機により110℃で3時間の熱処理を行い、処理後のガス吸収性フィルムのCO
2ガス吸収量を測定したところ30mL/gであり、再生率は100%となった。カーボン素材を用いたガス吸収フィルムの方がガス吸収量は少ないが低い熱処理温度で高い再生率を得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
上述したような本発明のガス吸収性フィルムは、CO
2や炭化水素系のガス成分の吸収性を有しており、長期保管後でもガス吸収性を再現して、使用時において優れた性能を発揮することができるので、その産業上の利用可能性は極めて大きい。このようなガス吸収性フィルムは、リチウムイオン電池又は蓄電デバイスの内設用や食品包装用として好適である。