特許第6988466号(P6988466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988466
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】発泡性耐火塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 171/02 20060101AFI20211220BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20211220BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20211220BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20211220BHJP
【FI】
   C09D171/02
   C09D5/18
   C09D7/61
   C09D7/63
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-250953(P2017-250953)
(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公開番号】特開2019-116551(P2019-116551A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】砂山 佳孝
【審査官】 宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−520658(JP,A)
【文献】 特開2000−336301(JP,A)
【文献】 特開2012−31412(JP,A)
【文献】 特開平10−007947(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149505(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第110982485(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K 21/00〜 21/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式1で表される反応性ケイ素基を1分子中に平均して1.0個超有し、数平均分子量が15,000超30,000未満である、ポリオキシアルキレン鎖を有するポリオキシアルキレン重合体を、発泡性耐火塗料に対して1〜25質量%含む発泡性耐火塗料。
−SiX3−a 式1
[式中、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基または加水分解性基を示す。aは1〜3の整数である。aが1の場合、Rは互いに同一でも異なっていてもよい。aが2以上の場合、Xは互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン重合体は、重合体1分子中に2個の主鎖末端基を有する、請求項1に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項3】
さらに、1分子中に2個の主鎖末端基を有し、前記反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個以下有し、数平均分子量が5,000〜10,000であるポリオキシアルキレン重合体を含む、請求項1または2に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項4】
前記発泡性耐火塗料は、前記反応性ケイ素基を有する重合体、発泡剤および難燃剤を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項5】
前記発泡性耐火塗料は、前記反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、発泡剤の60〜400質量部および難燃剤の240〜1,500質量部を含む、請求項に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項6】
前記難燃剤が、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートまたはトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートの縮合物のいずれか一方または両方である、請求項またはに記載の発泡性耐火塗料。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の発泡性耐火塗料からなる硬化物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の発泡性耐火塗料を塗布した構造物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の発泡性耐火塗料を施工する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液だれしにくく、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができ、十分な耐火性能を発現することができる、発泡性耐火塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨、コンクリート、木材および合成樹脂等の被塗物に塗布して、火災等の温度の上昇により被塗物上で発泡膨張して、多孔質の発泡層を形成する発泡性耐火塗料が知られている(例えば、特許文献1)。発泡性耐火塗料は、上記発泡層が熱を吸収し、被塗物に熱を伝えにくくすることで、熱により被塗物の機械的強度が急激に低下することを防止する機能をもった塗料である。発泡性耐火塗料は、成分中に、温度上昇により分解して、不燃性のガスを発生する成分と、炭素化して多孔質の炭化層(発泡層)を形成する炭素化成分を含有し、不燃性のガスの発生により火災を消火し、発泡層の形成により断熱効果を発揮するものである。上記炭素化成分としては、アクリル樹脂、アクリル/スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂などが知られている(例えば、特許文献2または特許文献3)。
このような発泡性耐火塗料において、所望の耐火性能を得るためには、所定の塗膜厚になるように被塗物に塗布することが重要である。
従来の発泡性耐火塗料は、特許文献2において、樹脂を100としたときに、160の希釈剤(溶剤)を配合した例に示されるように、樹脂成分を溶剤で充分に希釈する必要があり、発泡性耐火塗料の粘度が低く、液だれしやすい問題があった。また、1回の塗装で得られる塗膜厚が非常に薄いため、目的の耐火性能を得るためには、複数回重ね塗りする必要があり、作業が煩雑であった。重ね塗りに際しては、雨水などにより汚染されないように養生し、十分に乾燥するまで換気しておく必要があるため、重ね塗りをする回数が多いほど相当の工期を費やさなければならなかった。
特許文献4には、加水分解性シリコン官能基を分子鎖末端に有するポリアルキレンエーテル重合体を構造物の内外壁の目地部に適用し、水密性、気密性、耐候性等の機能をもつ防火性のシーラントとして用いることが記載されている。火災によるシーラントの劣化により外装壁パネルや内装パネルが剥がれ落ちるのを防止するための付着性を確保するため、上記重合体は防火性シーラント組成物中に質量比で3割程度配合されているが、発泡倍率は8〜10倍と低いため、高い発泡倍率が求められる発泡性耐火塗料として十分な耐火性能を発揮できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−110121号公報
【特許文献2】特開平10−7947号公報
【特許文献3】特開2005−314693号公報
【特許文献4】特開平3−31379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の炭素化成分である樹脂(以下、「樹脂成分」という。)は硬化物の硬度が高く、高温時に発泡して多孔質の発泡層を形成した際、該発泡層の強度が低く脆いため、形状が維持できず、十分な耐火性能が発現できない場合があった。そのため、上記発泡層の形状が維持され、十分な耐火性を発現する発泡性耐火塗料が求められていた。また、作業性の面からも、液だれしにくく、重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができる発泡性耐火塗料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、樹脂成分として反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個超有する重合体を発泡性耐火塗料に対して1〜25質量%含む発泡性耐火塗料に関し、該発泡性耐火塗料が、液だれしにくく、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができる作業性を備え、多孔質の発泡層の形状を維持しやすく、十分な耐火性能を発現することができる、ということを見出したものである。
【0006】
本発明は、[1]〜[]である。
[1] 下式1で表される反応性ケイ素基を1分子中に平均して1.0個超有し、数平均分子量が15,000超30,000未満である、ポリオキシアルキレン鎖を有するポリオキシアルキレン重合体を、発泡性耐火塗料に対して1〜25質量%含む発泡性耐火塗料。
−SiX3−a 式1
[式中、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基または加水分解性基を示す。aは1〜3の整数である。aが1の場合、Rは互いに同一でも異なっていてもよい。aが2以上の場合、Xは互いに同一でも異なっていてもよい。]
] 上記ポリオキシアルキレン重合体は、重合体1分子中に2個の主鎖末端基を有する、[]の発泡性耐火塗料。
] さらに、1分子中に2個の主鎖末端基を有し、上記反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個以下有し、数平均分子量が5,000〜10,000であるポリオキシアルキレン重合体を含む、[1]または[2]の発泡性耐火塗料。
] 上記発泡性耐火塗料は、上記反応性ケイ素基を有する重合体、発泡剤および難燃剤を含む、[1]〜[]の発泡性耐火塗料。
] 上記発泡性耐火塗料は、上記反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、発泡剤の60〜400質量部および難燃剤の240〜1,500質量部を含む、[]の発泡性耐火塗料。
] 上記難燃剤が、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートまたはトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートの縮合物のいずれか一方または両方である、[]または[]の発泡性耐火塗料。
] [1]〜[]の発泡性耐火塗料からなる硬化物。
] [1]〜[]の発泡性耐火塗料を塗布した構造物。
] [1]〜[]の発泡性耐火塗料を施工する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発泡性耐火塗料は、樹脂成分として反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個超有する重合体を発泡性耐火塗料に対して1〜25質量%含むことにより、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができ、多孔質の発泡層の形状を維持しやすく、十分な耐火性能を発現することができる。
本発明の塗工方法によれば、樹脂成分として反応性ケイ素基を有する重合体を含み、発泡性耐火塗料に対して水や有機溶媒が一定量以下である発泡性耐火塗料を用いることにより、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚の塗膜を得ることができ、多孔質の発泡層の形状を維持しやすく、十分な耐火性能を発現することができる塗膜を被塗物上に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書および特許請求の範囲における用語の定義および記載の仕方は、以下の通りである。
「主鎖」とは、2以上の単量体の連結により形成された重合鎖をいう。
「主鎖末端基」とは、各主鎖の末端に結合する基のことであり、反応性ケイ素基、活性水素を有する基、および不飽和基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基のことである。
「活性水素」とは、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、第二級アミノ基、第一級アミド基、第二級アミド基、ヒドラジド基およびスルファニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基に基づく水素である。
「不飽和基」とは、不飽和性の二重結合を含む1価の基であり、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基のことである。
【0009】
「主鎖末端基の数」は、例えば、ポリオキシアルキレン重合体の前駆重合体に不飽和基を導入した後、JIS K 0070に規定されたよう素価の測定方法の原理に基づいた滴定分析により、直接的に不飽和基濃度を測定する方法などで算出してもよい。ポリオキシアルキレン重合体における、開始剤の活性水素の数と重合体の主鎖末端基の数とは同じである。
【0010】
「水酸基換算分子量」とは、アルキレンオキシド単量体に基づく繰り返し単位を含む重合体において、後述の開始剤や反応性ケイ素基を導入する前の主鎖末端に水酸基を有する重合体について、水酸基価をJIS K 1557に基づいて算出し、「56100/(水酸基価)×(開始剤の活性水素の数、または、前駆重合体の主鎖末端基の数)」の式に当てはめて算出される値である。
【0011】
数平均分子量(以下、「Mn」という。)および重量平均分子量(以下、「Mw」という)とは、テトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)を展開溶液とするゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」という。)測定によるポリスチレン換算分子量のことである。分子量分布とは、MwとMnより算出した値であり、Mnに対するMwの比率(Mw/Mn)である。
「〜」で表される数値範囲は、「〜」の前後の数値を下限値および上限値とする数値範囲を示す。
<反応性ケイ素基を有する重合体>
本発明の発泡性耐火塗料は、下式1で表される反応性ケイ素基を有する重合体を含み、発泡性耐火塗料に対して1〜25質量%含有する。
本発明の発泡性耐火塗料は、後述の反応性ケイ素基を有する重合体を含む。該反応性ケイ素基を有する重合体は、耐火塗料が硬化して形成された硬化物(被膜)において、火災時の温度上昇により、発泡して炭化する樹脂成分として作用する。
(反応性ケイ素基)
反応性ケイ素基は、下記式1で表わされる基である。反応性ケイ素基は、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を有し、硬化触媒によって促進される反応によりシロキサン結合を形成して架橋しうる基である。反応性ケイ素基は、主鎖末端基として、重合体の主鎖の末端に導入されることが好ましい。
【0012】
−SiX3−a 式1
[式中、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であって、加水分解性基以外の有機基を示し、Xは水酸基または加水分解性基を示す。aは1〜3の整数である。aが1の場合、Rは互いに同一でも異なっていてもよい。aが2以上の場合、Xは互いに同一でも異なっていてもよい。]
得られた硬化物が柔軟で接着性が良好であるため、上記aは1または2であることが好ましく、aが2であることがより好ましい。
【0013】
上記Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基およびトリオルガノシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、トリメチルシロキシ基およびトリエチルシロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。反応性ケイ素基を有する重合体の硬化性と安定性のバランスが良いため、メチル基またはエチル基がさらに好ましく、容易に入手できるためメチル基が特に好ましい。
【0014】
上記Xの加水分解性基は、具体例としては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、スルファニル基、アルケニルオキシ基が挙げられる。アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、スルファニル基およびアルケニルオキシ基が好ましく、加水分解性が穏やかで取扱いやすいためアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。上記Xがメトキシ基またはエトキシ基であると、シロキサン結合を速やかに形成し硬化物中に架橋構造を形成することが容易であり、硬化物の物性値が良好となりやすい。
aは反応性が良好である点から、2または3がより好ましい。
【0015】
反応性ケイ素基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジイソプロポキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基が挙げられる。活性が高く良好な硬化性が得られるため、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基がより好ましい。ジメトキシメチルシリル基は保存安定性が良好となりやすく、トリエトキシシリル基は反応性ケイ素基の加水分解反応に伴って生成するアルコールがエタノールであり、安全性が高い傾向がある。
【0016】
水酸基や加水分解性基は、1つのケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、2個以上結合する場合には、それらは同じであっても、異なってもよい。
反応性ケイ素基において、ケイ素原子に結合している加水分解性基の数が多くなるほど、反応性が大きくなるため、発泡性耐火塗料の硬化速度が大きくなり、硬化物の伸び物性は低下しやすい。特に同一のケイ素原子に結合している加水分解性基の数が多くなるほどその傾向は顕著になりやすい。
1分子の重合体に異なる種類の反応性ケイ素基を導入することもできる。導入する反応性ケイ素基の種類や導入割合は、硬化物において所望の伸び物性や硬化速度が得られるように適宜定めることができる。
【0017】
(反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体)
本発明における反応性ケイ素基を有する重合体は、上記反応性ケイ素基を有し、かつ主鎖骨格がアルキレンオキシド単量体に基づく単位からなるポリオキシアルキレン鎖を有するポリオキシアルキレン重合体であることが好ましい。
【0018】
上記ポリオキシアルキレン重合体は、アルキレンオキシド単量体が反応しうる活性水素を含有する化合物を開始剤として触媒の存在下、アルキレンオキシド単量体を反応させて得られるものが好ましい。活性水素は水酸基に基づく水素であることが好ましい。
開始剤としては、下記に例示される化合物またはそれらの化合物に後述のアルキレンオキシド単量体とを反応させて合成したものが挙げられる。合成された開始剤は、水酸基換算分子量が160〜20,000であるものが好ましい。開始剤は1種類を単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
開始剤としては、モノオールまたは多価アルコールが好ましく、硬化物の伸び物性が良好である点で、多価アルコールがより好ましい。
モノオールとしては、炭素数1〜6のアルコールまたはアルカノールアミンが好ましく、発泡性耐火塗料の粘度を下げることができる点で、メタノール、エタノール、プロパール、ブタノール、モノエタノールアミンがより好ましく、メタノールまたはブタノールがさらに好ましい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、テトラメチロールシクロヘキサン、ソルビトール、マンニトール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミンが挙げられる。硬化物の伸び物性が良好である点で、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールまたはソルビトールが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンがより好ましい。
【0019】
アルキレンオキシド単量体としては、環内に1個の酸素原子を有する3〜6員環の環状エーテル化合物が好ましい。エチレンオキシド(以下、「EO」という。)、プロピレンオキシド(以下、「PO」という。)またはブチレンオキシドがより好ましく、発泡性耐火塗料に使用される場合には、高分子量であっても常温で液状であることから、POを含むものが好ましい。
アルキレンオキシド単量体は1種でもよく、2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合には、それらを混合して反応させても、順次反応させてもよい。
【0020】
上記ポリオキシアルキレン重合体を製造する方法としては、例えば、KOHのようなアルカリ触媒を用いる重合法、有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる錯体のような遷移金属化合物−ポルフィリン錯体触媒を用いる重合法、複合金属シアン化物錯体触媒を用いる重合法、ポリホスファゼン塩からなる触媒を用いる重合法、ホスファゼン化合物からなる触媒を用いる重合法が挙げられる。
複合金属シアン化物錯体触媒を用いた場合、得られる重合体の分子量分布を狭くすることができ、粘度の低い発泡性耐火塗料が得られやすいため好ましい。複合金属シアン化物錯体触媒は、ハロゲン化金属塩とアルカリ金属シアノメタレートとを反応させて得られる反応生成物に有機配位子を配位させたものが好ましい。有機配位子としては、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、アミンおよびアミドからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が好ましい。分子量分布をより狭くできる点で、有機配位子としてはt−ブチルアルコールを含むものが好ましく、分子量分布が狭くなりやすいため、t−ブチルアルコールであるものがより好ましい。t−ブチルアルコールが配位した複合金属シアン化物錯体触媒を用いた場合には、分子量分布が1.01〜1.4の重合体が得られる傾向がある。該分子量分布であるポリオキシアルキレン重合体の末端の水酸基に上記式1で表される反応性ケイ素基を導入して得られたポリオキシアルキレン重合体の分子量分布もまた、上記分子量分布に制御されやすい。
【0021】
反応性ケイ素基を導入する方法は、例えば、特公昭45−36319号公報、特開昭50−156599号公報、特開昭61−197631号公報、特開平3−72527号公報、特開平8−231707号公報、米国特許3632557号明細書、米国特許4960844号明細書等の各公報に提案されている従来公知の方法を用いることができる。例えば、分子中に水酸基を有する重合体に、上記水酸基に対して反応性を示す基および不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有する重合体を得て、次いで、該不飽和基と反応しうる基と反応性ケイ素基とを有する化合物を作用させて、反応性ケイ素基を導入する方法が挙げられる。
【0022】
上記ポリオキシアルキレン重合体の1分子あたりに導入された反応性ケイ素基の数は、1.0個超であり、1.1個以上であることが好ましく、1.2個以上であることがより好ましい。上記反応性ケイ素基の数が多いほど、硬化性が良好となり、発泡層の強度が得られやすい。
上記ポリオキシアルキレン重合体におけるシリル化率は、上記ポリオキシアルキレン重合体の全主鎖末端基の数に対する、上記反応性ケイ素基が導入された主鎖末端基の数の割合(以下、「シリル化率」という。)であり、NMR分析によっても測定できる。上記ポリオキシアルキレン重合体におけるシリル化率は、50モル%超90モル%以下が好ましく、60〜80モル%がより好ましい。上記範囲内であると、伸び物性が良好となりやすく、発泡層の強度が得られやすい。
【0023】
上記ポリオキシアルキレン重合体のMnは、5,000〜50,000が好ましく、6,000〜40,000がより好ましく、9,000〜35,000がさらに好ましく、15,000超30,000未満が特に好ましい。上記範囲内であると、常温での作業性が良好であり、硬化性が良好となりやすく、得られる硬化物の伸び物性が良好となりやすい。
上記ポリオキシアルキレン重合体のMw/Mnは、1.00〜1.80が好ましく、1.01〜1.60がより好ましく、1.02〜1.40がさらに好ましい。上記範囲内であると、高分子量であっても常温で液状であり、硬化物における硬化性が良好となりやすく、得られる硬化物の伸び物性が良好となりやすい。
上記ポリオキシアルキレン重合体は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。2種類以上の反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体を用いる場合には、上記反応性ケイ素基の数、MnおよびMw/Mnは、用いられるすべての反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体の合計を平均した値、または用いられる全ての反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体を混合して、測定して得られた値が上記範囲内であることが好ましい。
反応性ケイ素基を有する重合体に対する、上記ポリオキシアルキレン重合体の含有割合は、10〜100質量%が好ましく、20〜100質量%がより好ましく、40〜100質量%がさらに好ましい。
(重合体A)
本発明におけるポリオキシアルキレン重合体は、1分子中に2個の主鎖末端基を有し、かつ、上記反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個超有するポリオキシアルキレン重合体(以下、「重合体A」という。)を含むことが好ましい。上記重合体Aを含有すると、発泡性耐火塗料の硬化物が発泡したときに均一な発泡層を形成しやすい。また、分子量が同じであれば、1分子中に2個よりも多く主鎖末端基を有するポリオキシアルキレン重合体と比較して硬化物の伸び物性が大きくなりやすい。
【0024】
重合体Aは、開始剤として上記多価アルコールのうち、活性水素を2個有する化合物を用いる他は、上記ポリオキシアルキレン重合体と同様に製造することができ、好ましい態様も同様である。
重合体Aの1分子中における上記反応性ケイ素基の平均の数は、1.2〜8個であるものが好ましく、1.5〜4個であるものがより好ましい。上記範囲内であれば、硬化性が良好となりやすく、強度の高い発泡体が得られやすい。
【0025】
重合体AのMnは、5,000〜50,000が好ましく、6,000〜40,000がより好ましく、9,000〜35,000がさらに好ましく、15,000超30,000未満が特に好ましい。上記範囲内であると、得られる重合体Aの硬化物の伸び物性が良好となりやすく、発泡性耐火塗料の硬化物の発泡倍率が大きくなりやすい。
【0026】
重合体AのMw/Mnは、1.00〜1.80が好ましく、1.01〜1.60がより好ましく、1.02〜1.40がさらに好ましい。上記範囲内であると、分子量が大きくても常温で液状であり作業性に優れ、硬化物が柔らかくなり、発泡後の発泡層の形状を維持しやすくなる。発泡性耐火塗料は、重合体Aを1種類のみ含有しても良く、2種類以上を含有しても良い。
重合体Aの粘度は、4〜45Pa・sが好ましく、5〜35Pa・sがより好ましく、8〜30Pa・sがさらに好ましく、14〜24Pa・sが特に好ましい。上記範囲内であると、その他の成分の混合が容易で、かつ均一な混合物を得られやすく、作業性に優れた発泡性耐火塗料が得られやすい。
上記ポリオキシアルキレン重合体に対する重合体Aの含有割合は、40〜100質量%が好ましく、45〜100質量%がより好ましく、50〜100質量%がさらに好ましい。重合体Aの含有割合が上記範囲内であると、硬化物の伸び物性が良好となりやすい。
(化合物G)
本発明の発泡性耐火塗料は、さらに、1分子中に2個の主鎖末端基を有し、上記反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個以下有するポリオキシアルキレン重合体(以下、「化合物G」という。)を含有することが好ましい。化合物Gは、1分子中に2個の主鎖末端基を有し、上記反応性ケイ素基を1分子中に平均して1個以下有することから、反応性希釈剤として作用する。このため、化合物Gを含有すると、硬化物のモジュラスが下がり、伸び物性が大きくなりやすいため好ましい。本発明の発泡性耐火塗料により形成される塗膜を保護するために、必要に応じて上塗り層を積層することができるが、後述の可塑剤と化合物Gを併用することにより、上記可塑剤の塗膜表面への移行を抑制して、塗膜表面が汚れにくくなったり、上塗り層を重ね塗りしやすくなる。
【0027】
化合物Gは、上記モノオールを開始剤とする他は、重合体Aと同様に製造することができ、好ましい態様も同様である。
化合物Gの1分子中における上記反応性ケイ素基の平均の数は、0.1〜0.9個であるものが好ましく、0.2〜0.8個であるものがより好ましい。上記範囲内であれば、硬化物のモジュラスが下がり、伸び物性が大きくなりやすい。
化合物GのMnは、5,000〜10,000が好ましく、6,000〜9,000がより好ましい。上記範囲内であると、得られる硬化物の伸び物性が良好となりやすく、発泡性耐火塗料の硬化物の発泡倍率が大きくなりやすい。
【0028】
化合物GのMw/Mnは、1.00〜1.60が好ましく、1.01〜1.40がより好ましく、1.02〜1.20がさらに好ましい。上記範囲内であると、硬化物が柔らかくなり、発泡後の発泡層の形状を維持しやすくなる。発泡性耐火塗料は、化合物Gを1種類のみ含有しても良く、2種類以上を含有しても良い。
化合物Gを含有する場合、上記ポリオキシアルキレン重合体の100質量部に対する化合物Gの含有量は、5〜70質量部が好ましく、10〜60質量部がより好ましく、15〜55質量部が特に好ましい。化合物Gの含有量が上記範囲内であると、硬化物のモジュラスが下がり、伸び物性が大きくなりやすい。
【0029】
<発泡性耐火塗料>
本発明の発泡性耐火塗料は、上記反応性ケイ素基を有する重合体、発泡剤および難燃剤を含むことが好ましい。さらに炭化剤、充填剤や可塑剤等の添加剤を含んでもよい。また、必要に応じて、補強用繊維、着色用顔料、可塑剤、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合してもよい。
発泡剤は、一般に、火災時に不燃性ガスを発生させて、樹脂成分および後述の炭化剤を発泡させ、多孔質の発泡層を形成させる役割を果たす。発泡剤としては、公知の発泡性耐火塗料で採用されているものを使用できる。例えば、メラミンおよびその誘導体、ジシアンジアミドおよびその誘導体、アゾビステトラゾームおよびその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、グアニジン、チオ尿素、ポリリン酸アンモニウムなどのリン酸塩、塩素化パラフィン、ジニトロペンタメチレンテトラミン、バリウムアゾジカルボキシレートが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用できる。このうち、ポリリン酸アンモニウムなどのリン酸塩、メラミン、および塩素化パラフィンを併用するのが、発泡倍率と発泡層の強度等のバランスの点から好適である。
発泡剤の合計の含有量は、反応性ケイ素基を有する重合体を100質量部としたときに、55〜600質量部が好ましく、60〜500質量部がより好ましく、65〜400質量部がさらに好ましい。上記範囲内であれば、塗膜が形成された構造物において十分な耐火性能を発揮しうる。
【0030】
難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物;その他ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ等の無機質化合物、含臭素リン酸エステルおよび/またはこの縮合物等が挙げられる。該含臭素リン酸エステルとしては、例えば炭素数5以上の分岐アルキル基を有するトリス(トリブロモアルキル)ホスフェートおよびこれらの縮合物等が挙げられ、このうちトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートまたはトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートの縮合物のいずれか一方または両方が好適である。
難燃剤の合計の含有量は、反応性ケイ素基を有する重合体を100質量部としたときに、210〜3,000質量部が好ましく、220〜2,000質量部がより好ましく、240〜1,500質量部がさらに好ましい。上記範囲内であれば、被膜が形成された構造物において十分な耐火性能を発揮しうる。
【0031】
炭化剤は、一般に、火災による樹脂成分の炭化とともにそれ自体も脱水炭化することにより、断熱性に優れた厚みのある発泡層を形成させる役割を果たす。炭化剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の発泡性耐火塗料において採用されているものを使用できる。例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールの他、デンプン、カゼインが挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。ジペンタエリスリトールが脱水冷却効果と発泡層形成作用に優れている点で好ましい。
【0032】
充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、マイカ、珪砂、珪石粉、石英粉、アルミナ、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム等が挙げられる。
可塑剤としては、汎用の可塑剤が用いられ、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル;アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシルなどの脂肪酸第二塩基性脂肪酸エステル;ジエチレングリコールベンゾエート、ペンタエリスリトールエステルなどのグリコールエステル;キシレン樹脂、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、アクリルオリゴマーなどのMnが100〜10,000程度の液状樹脂が挙げられる。
本発明の発泡性耐火塗料は、上記ポリオキシアルキレン重合体以外のその他の樹脂成分を含んでもよい。その他の樹脂成分としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、特開2000-230287号公報、特開2004−92256号公報または特開2008−274253号公報に記載の樹脂成分を用いることができる。
【0033】
本発明の発泡性耐火塗料における上記反応性ケイ素基を有する重合体の含有割合は、発泡性耐火塗料全量に対して、1〜25質量%であり、2〜24質量%がより好ましく、3〜23質量%がさらに好ましい。上記範囲内であれば、被塗物である構造物の表面に所望の膜厚の塗膜を得ることができ、耐火性能を発揮する十分な発泡倍率の発泡層を形成できるため、十分な耐火性能が得られやすい。上記反応性ケイ素基を有する重合体の含有割合が上限値よりも多すぎる場合には、十分な発泡倍率の発泡層が得られにくく耐火性能が低くなりやすい。
上記各成分の配合比率は、発泡性耐火塗料として良好に発泡し、耐火性能を発揮しやすいため、固形分換算で、上記反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、発泡剤55〜600質量部、難燃剤210〜3,000質量部とするのが好ましく、上記反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、発泡剤60〜500質量部、難燃剤220〜2,000質量部とすることがより好ましく、固形分換算で、上記反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、発泡剤65〜400質量部、難燃剤240〜1,500質量部、とすることがさらに好ましい。
上記各成分の配合比率は、火災発生時の温度上昇によって発泡が可能である限り、特に限定はされないが、通常、固形分換算で、反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、化合物G5〜70重量部、発泡剤55〜600質量部、炭化剤20〜600質量部、難燃剤210〜3,000質量部、充填剤20〜500質量部、可塑剤5〜500質量部とすることが好ましく、固形分換算で、反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、化合物G10〜60重量部、発泡剤60〜500質量部、炭化剤25〜500質量部、難燃剤220〜2,000質量部、充填剤25〜400質量部、可塑剤10〜300質量部とすることがより好ましく、固形分換算で、反応性ケイ素基を有する重合体100質量部に対して、化合物G15〜55重量部、発泡剤65〜400質量部、炭化剤30〜400質量部、難燃剤240〜1,500質量部、充填剤30〜300質量部、可塑剤15〜300質量部とすることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の発泡性耐火塗料の粘度は、100〜5,000Pa・sが好ましく、150〜3,000Pa・sがより好ましく、200〜1,500Pa・sがさらに好ましく、250〜800Pa・sが特に好ましくい。上記範囲内であると、1回の塗布で所望の厚みの均質な塗膜が得られやすく、液だれすることもなく、作業性に優れた発泡性耐火塗料が得られやすい。
【0035】
本発明の発泡性耐火塗料は、耐火性を付与すべき被塗物に塗布して乾燥することにより、発泡性耐火塗料からなる硬化物を被塗物上に形成することによって、その効果を発揮することができる。被塗物としては、例えば、壁、柱、床、梁、屋根、階段の各部位が挙げられる。このような被塗物は、コンクリート、鋼材等の基材で形成されており、防錆処理等が施されていてもよい。本発明の発泡性耐火塗料は、角柱状や丸柱状の鋼材やH鋼などの複雑な形状を有する被塗物に対しても、1回または少ない回数で目的とする塗膜厚に塗布でき、発泡性耐火塗料を塗布した構造物を得ることができる。また、本発明の発泡性耐火塗料は、コンクリート、鋼材だけでなく、木質部材、樹脂系部材等への基材に適用することも可能である。
本発明の発泡性耐火塗料により被塗物上に形成された塗膜の、火災時における発泡倍率は10超100倍以下が好ましく、25〜80倍がより好ましく、30〜60倍がさらに好ましい。上記範囲内であれば、塗膜が形成された構造物において十分な耐火性能を発揮しうる。
【0036】
本発明の発泡性耐火塗料の施工方法としては、上記各成分を均一に混合し、上記被塗物に対し、塗布、積層して、被塗物に施工する方法が好ましい。各成分の混合順序等は特に制限されないが、予め混合しておいても、塗装直前に混合してもよい。上記混合に際しては、ミキサー、ニーダー等の公知の装置を使用できる。
【0037】
発泡性耐火塗料を被塗物に塗布する際には、スプレー、ローラー、刷毛、こて、へら等の塗装器具を使用して、一回ないし数回塗り重ねて塗装すればよい。最終的に形成される発泡性耐火塗料の塗膜厚は、所望の耐火性能、適用部位等により適宜設定すればよいが、通常は0.2〜5mm程度である。本発明における発泡性耐火塗料においては、1回または少ない回数の塗装で厚膜化が可能である。本発明の発泡性耐火塗料は、塗装現場で、反応性ケイ素基を有する重合体、発泡剤、炭化剤、難燃剤、充填剤、水または有機溶媒のいずれか一方または両方、その他上記各種成分を適宜調整して、塗装する直前に調合して用いることが好ましい。
【0038】
発泡性耐火塗料により形成される塗膜を保護するために、必要に応じて上塗層を積層することもできる。このような上塗層は、公知の水性型あるいは溶剤型の塗料を塗布することによって形成することができる。上塗層としては、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の塗料を用いることができる。これらの塗装は、公知の塗装方法によればよく、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【0039】
本発明の発泡性耐火塗料の詳細な反応機構は明確ではないが、反応性ケイ素基を有する重合体を用いることにより、多量の有機溶剤等で稀釈する必要がなく、樹脂成分の濃度を高くできるため、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができる。さらに、反応性ケイ素基を有する重合体がポリオキシアルキレン重合体である場合には、柔らかい樹脂特性を持つことから、発泡時に応力を吸収しやすく発泡層の強度が高くなりやすく、また発泡後の多孔質の発泡層の形状を維持しやすいため、十分な耐火性能を発現できるものと考えられる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例、比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。ただし、本発明はこれらに限定されない。例1〜4及び7は実施例であり、例5、6及び8〜10は比較例である。
【0041】
(合成例1:重合体A1)
プロピレングリコールを開始剤とし、配位子がt−ブチルアルコールの亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体(以下、「TBA−DMC触媒」という。)の存在下に、プロピレンオキシドの重合を行い、水酸基換算分子量が12,100の前駆重合体a1を得た。次いで、前駆重合体a1の水酸基に対して1.05倍当量のNaOCHのメタノール溶液を添加して前駆重合体a1の水酸基をアルコラート化した。次いで、加熱減圧によりメタノールを留去し、前駆重合体a1の水酸基量に対して過剰量の塩化アリルを添加して主鎖末端基をアリル基に変換した。次いで、塩化白金酸六水和物の存在下、主鎖末端基がアリル基に変換された前駆重合体a1のアリル基に対して0.65倍モルのジメトキシメチルシランをシリル化剤として添加し、70℃にて5時間反応させた。これにより、Mnが17,000、Mw/Mnが1.07であるジメトキシメチルシリル基を有する直鎖構造のポリオキシプロピレン重合体(以下、「重合体A1」という。)を得た。重合体A1のシリル化率は65モル%であった。シリル化率は、以下同様に水酸基がオキシアリル基に変換された前駆重合体a1のオキシアリル基の数に対するシリル化剤のシリル基の数の割合と同じである。
【0042】
(合成例2:重合体A2)
合成例1と同様に、プロピレングリコールを開始剤とし、重合させるプロピレンオキシドの量を調整して、水酸基換算分子量が9,800の前駆重合体a2を得た。合成例1と同様にして、該前駆重合体a2の主鎖末端基をアリル基に変換して、次いで該アリル基とシリル化剤を反応させて、Mnが14,000、Mw/Mnが1.07であるジメトキシメチルシリル基を有する直鎖構造のポリオキシプロピレン重合体(以下、「重合体A2」という。)を得た。重合体A2のシリル化率は65モル%であった。
【0043】
(合成例3:重合体A3)
合成例1と同様に、プロピレングリコールを開始剤とし、重合させるプロピレンオキシドの量を調整して、水酸基換算分子量が28,000の前駆重合体a3を得た。合成例1と同様にして、該前駆重合体a3の主鎖末端基をアリル基に変換して、次いで該アリル基とシリル化剤を反応させて、Mnが35,000、Mw/Mnが1.07であるポリオキシプロピレン重合体(以下、「重合体A3」という。)を得た。重合体A3のシリル化率は65モル%であった。
【0044】
(合成例4:重合体A4)
グリセリンを開始剤とし、TBA−DMC触媒の存在下に、プロピレンオキシドを重合させて、水酸基換算分子量が13,000の前駆重合体a4を得た。該前駆重合体a4の主鎖末端基をアリル基に変換して、該アリル基に対して0.77倍モルのジメトキシメチルシランを反応させる以外は、合成例1と同様の手順で、Mnが18,000、Mw/Mnが1.10であるジメトキシメチルシリル基を有する分岐構造のポリオキシプロピレン重合体(以下、「重合体A4」という。)を得た。重合体A4のシリル化率は77モル%であった。
【0045】
(合成例5:化合物G)
t−ブタノールを開始剤とし、TBA−DMC触媒の存在下に、プロピレンオキシドを重合させて、水酸基換算分子量が5,300の前駆重合体gを得た。該前駆重合体gの水酸基に対して1.05倍当量のNaOCHのメタノール溶液を添加して前駆重合体gの水酸基をアルコラート化した。次いで、加熱減圧によりメタノールを留去し、前駆重合体gの水酸基量に対して過剰量の塩化アリルを添加して主鎖末端基をアリル基に変換した。次いで、塩化白金酸六水和物の存在下、該アリル基に対して0.65倍モルのジメトキシメチルシランをシリル化剤として添加し、70℃にて5時間反応させた。これにより、Mnが8,000、Mw/Mnが1.10であるジメトキシメチルシリル基を有する直鎖構造のポリオキシプロピレン重合体(以下、「化合物G」という。)を得た。
【0046】
(例1〜10)
表1の通りに各原料を配合し、全体が均一になるように攪拌混合して、発泡性耐火塗料1〜10を得た。下記のように機械物性試験および耐火性能を評価し、結果を表3に示した。
【0047】
(原料)
用いた原料は以下の通りである。
重合体B:ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体
重合体C:スチレンアクリル樹脂(OMNOVAsolutions社製品名、Pliolite)
化合物F:トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート
触媒:ジブチル錫ビス(アセチルアセトネート)
【0048】
(粘度測定)
発泡性耐火塗料の粘度をJIS K 7117−1に記載の方法に準拠し、回転数10rpmで測定を行った。
【0049】
(機械物性試験)
上記発泡性耐火塗料1〜10を用いて厚さ2mmのシートを作成した後、温度23℃、相対湿度50%の条件下で1週間、さらに温度50℃、相対湿度65%の条件下で1週間養生した。得られたシートからJIS K6301に準拠して3号型ダンベル試験片を打ち抜き、引張速度200mm/分で引張試験を行った。50%引張応力(M50)、最大引張応力(Tmax)および最大応力時の伸び(伸び)の結果を表3に示す。
【0050】
(耐火性能)
熱間圧延鋼板(縦:300mm×横:300mm×厚さ:9mm)を基材とし、該基材の上に、上記耐火発泡塗料1〜10を厚さ3mmとなるように塗布し、温度20℃、相対湿度65%の条件下で1週間養生して、試験体とした。
この間に、厚さ3mmの塗膜を得るための塗布回数、塗布作業開始から乾燥塗膜を得るまでの時間(JIS K 5600−3−3:1999の3.2に準拠した硬化乾燥時間。以下、「乾燥時間」という。)、乾燥後の耐火発泡塗料塗膜の膜厚(以下、「乾燥膜厚」という。)を評価した。結果を表3に示す。
上記試験体を、さらに、温度20℃、相対湿度65%の条件下で1週間乾燥させて、得られた試験体の基材を熱電対で測定しながら、ISO834の標準加熱曲線に準じて1時間加熱し、基材上に発泡層を形成させた。室温に冷却した後、該発泡層の厚さを測定し、発泡倍率を算出した。発泡倍率は、「発泡後の発泡層の厚さ÷乾燥膜厚」で算出される値である。
各発泡性耐火塗料の作業性(3mmの膜厚を得るために必要な発泡性耐火塗料の塗布回数)、加熱1時間後の基材の表面温度、上記発泡層の発泡倍率、発泡層の均一性、発泡層の脆さ、基材と発泡層の付着状態、基材と発泡層の界面における空洞の有無について表2のような基準にて評価した。発泡層の均一性、基材と発泡層の付着状態、基材と発泡層の界面における空洞の有無については、発泡層の縦断面を観察して評価した。評価した結果を表3に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
本発明の発泡性耐火塗料は、反応性ケイ素基を有する重合体を樹脂成分として含有しているため、被塗物に対し重ね塗りの回数が少なくても所望の塗膜厚を得ることができる。また、火災時の温度上昇により形成される多孔質の発泡層の形状を維持しやすく、十分な耐火性能を発現することができる。