特許第6988977号(P6988977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6988977樹脂成形体のエッチング方法及び樹脂成形体のエッチング処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6988977
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】樹脂成形体のエッチング方法及び樹脂成形体のエッチング処理システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/24 20060101AFI20211220BHJP
   C09K 13/04 20060101ALI20211220BHJP
   C25B 1/30 20060101ALI20211220BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20211220BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20211220BHJP
   C25B 11/083 20210101ALI20211220BHJP
【FI】
   C23C18/24
   C09K13/04 102
   C25B1/30
   C25B15/08 304
   C25B11/052
   C25B11/083
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2020-169897(P2020-169897)
(22)【出願日】2020年10月7日
【審査請求日】2021年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】井芹 一
(72)【発明者】
【氏名】山川 晴義
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕都喜
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−167560(JP,A)
【文献】 特開2017−028101(JP,A)
【文献】 特開2008−164504(JP,A)
【文献】 特開2018−160517(JP,A)
【文献】 特開2006−114880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/24
C09K 13/04
C25B 1/28
C25B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤成分として過硫酸成分を含む60重量%以上の硫酸溶液からなるエッチング液による樹脂成形体のエッチング方法であって、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を連続的又は間欠的に測定し、
この測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度に基づき前記エッチング液を前記樹脂成形体のエッチングに適切な酸化剤濃度及び硫酸濃度にそれぞれ調整する樹脂成形体のエッチング方法において、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整を、該エッチング液を電解することにより過硫酸成分を生成する手段と、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の調整及び硫酸濃度の調整を行う手段とを併用することにより行い、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整が、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の測定結果に基づき、前記エッチング液中の酸化剤濃度及び硫酸濃度が所定の値となるように、前記電解における通電電流量を調整して過硫酸成分の生成量を調整するとともに、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御し、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整が、前記エッチング液中の酸化剤濃度の設定値に対して、前記電解による操作単独では、該酸化剤濃度の設定値を超えない条件で過硫酸成分を生成させて該エッチング液において減少した酸化剤濃度を補うとともに、前記エッチング液中の硫酸濃度が所定の値となるように硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御する、樹脂成形体のエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチング液への硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を補充する操作が、
補充する液量を算出し液補充前のエッチング液中の酸化剤濃度の計測値と決定した補充する液量とに基づいて補充後のエッチング液が所定の酸化剤濃度となるように、過酸化水素水の必要添加量を演算するプロセスと、
液補充前のエッチング液中の硫酸濃度の計測値と決定した補充液量とに基づき液補充後のエッチング液が所定の硫酸濃度となるように硫酸及び水分の必要添加量を演算するプロセスと、
演算して得られた水分の必要添加量と過酸化水素水の必要添加量とから添加する水の必要添加量を演算するプロセスと、
各演算結果に応じて硫酸、過酸化水素水及び水の1以上をエッチング液に添加するプロセスと
を有する、請求項1に記載の樹脂成形体のエッチング方法。
【請求項3】
酸化剤成分として過硫酸成分を含む60重量%以上の硫酸溶液からなるエッチング液による樹脂成形体のエッチング方法であって、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を連続的又は間欠的に測定し、
この測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度に基づき前記エッチング液を前記樹脂成形体のエッチングに適切な酸化剤濃度及び硫酸濃度にそれぞれ調整する樹脂成形体のエッチング方法において、
前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整を、該エッチング液を電解することにより過硫酸成分を生成する手段と、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の調整及び硫酸濃度の調整を行う手段とを併用することにより行い、
前記エッチング液への硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を補充する操作が、
補充する液量を算出し液補充前のエッチング液中の酸化剤濃度の計測値と決定した補充する液量とに基づいて補充後のエッチング液が所定の酸化剤濃度となるように、過酸化水素水の必要添加量を演算するプロセスと、
液補充前のエッチング液中の硫酸濃度の計測値と決定した補充液量とに基づき液補充後のエッチング液が所定の硫酸濃度となるように硫酸及び水分の必要添加量を演算するプロセスと、
演算して得られた水分の必要添加量と過酸化水素水の必要添加量とから添加する水の必要添加量を演算するプロセスと、
各演算結果に応じて硫酸、過酸化水素水及び水の1以上をエッチング液に添加するプロセスと
を有する、樹脂成形体のエッチング方法。
【請求項4】
過硫酸成分を生成する電解に用いる電極として、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極を用いる、請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂成形体のエッチング方法。
【請求項5】
酸化剤成分として過硫酸成分を含む60重量%以上の硫酸溶液からなるエッチング液により樹脂成形体をエッチングするシステムであって、
前記エッチング液の酸化剤濃度測定手段及び硫酸濃度測定手段と、
この測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度に基づき前記エッチング液を前記樹脂成形体のエッチングに適切な酸化剤濃度及び硫酸濃度にそれぞれ調整する調整機構と、を備え、
前記調整機構が、
前記エッチング液を電解する電解装置と、
硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加する添加手段と、を有し、
前記酸化剤濃度測定手段及び前記硫酸濃度測定手段の測定結果に基づき、前記電解装置の運転条件、及び前記添加手段による硫酸、水及び過酸化水素水のそれぞれの添加量の操作を行う制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記酸化剤濃度測定手段及び前記硫酸濃度測定手段の測定結果に基づき、前記エッチング液中の酸化剤濃度及び硫酸濃度が所定の値となるように、前記電解装置における通電電流量を調整して過硫酸成分の生成量を調整するとともに、前記添加手段による硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御し、
前記エッチング液中の酸化剤濃度の設定値に対して、前記電解装置による操作単独では、該酸化剤濃度の設定値を超えない条件で過硫酸成分を生成させて該エッチング液において減少した酸化剤濃度を補うとともに、前記エッチング液中の硫酸濃度が所定の値となるように前記添加手段による硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御する、樹脂成形体のエッチング処理システム。
【請求項6】
前記電解装置が、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極を有する、請求項に記載の樹脂成形体のエッチング処理システム。
【請求項7】
前記制御手段が、前記電解装置の運転条件及び前記添加手段による添加量の調整の一部又は全部を自動制御可能である、請求項5又は6に記載の樹脂成形体のエッチング処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材料表面の洗浄や改質、特に樹脂材料表面へのめっき処理に先立って行われる樹脂成形体のエッチングにおいて、6価クロム酸と過マンガン酸を添加・含有しない溶液を用いた樹脂成形体のエッチング方法及びそれを実現するためのエッチング処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体表面に金属めっきを施す場合は、樹脂成形体表面とめっき皮膜との密着性を高めるために、めっき処理前に樹脂成形体表面を6価クロム酸が含まれる溶液で粗化するエッチング工程が必要であることが知られている。しかしながら、6価クロムは発がん性物質として指定されており、その使用及び排出に関する規制があることから、人体及び環境への負荷が小さい代替技術が求められている。その代替技術として、過マンガン酸を用いた樹脂成形体のエッチング液が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3など)が、過マンガン酸も人の健康や生態系に有害な恐れのある化学物質としてPRTR制度の第一種指定化学物質として指定されており、過マンガン酸を用いずに環境負荷をより低減できるエッチング技術が求められている。
【0003】
このような人体及び環境への負荷がある重金属を含まずに樹脂成形体表面をエッチングする技術として、過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いる方法が提案されている。例えば、特許文献4には、硫酸を電気分解して生成した過硫酸成分を含む電解液を循環供給する処理システムが提案されており、この溶液を用いてエッチングを行ったABS樹脂材料に密着性のあるめっき皮膜が形成されることが開示されている。この処理システムであれば、人体及び環境への負荷がより少なく、長時間安定した処理効果を得ることが可能となる。さらに、この特許文献4には、比較例2として、濃硫酸と過酸化水素水を混合して生成した過硫酸含む硫酸溶液により樹脂成形体表面をエッチングする方法も記載されており、この溶液を用いてエッチングしたABS樹脂材料にめっきを形成することが示されている。
【0004】
また、特許文献5には、過硫酸成分として過硫酸塩を溶解した硫酸溶液で樹脂成形体をエッチングする方法が提案されている。この方法であれば、エッチング溶液中の過硫酸を適切な濃度に維持することが可能であり、長期間安定した処理が可能となる。
【0005】
ところで、従来から硫酸と過酸化水素とを混合して過硫酸成分を生成してその薬液を用いる技術は、半導体などの電子部品における洗浄技術として古くから利用されており、薬液の安定性を改善するための技術が提案されている(特許文献6、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6482049号公報
【特許文献2】特許第6622712号公報
【特許文献3】特開2017−101304号公報
【特許文献4】特開2019−44229号公報
【特許文献5】特許第6288213号公報
【特許文献6】特開2007−123330号公報
【特許文献7】特開2007−260516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、6価クロム酸や過マンガン酸といった健康や環境に対し多大な影響を及ぼす規制対象物質を使用することなく、各種材料表面の洗浄や改質、特に樹脂材料表面へのめっき処理に先立って行われる樹脂成形体のエッチングを実施し、目的とする表面状態を得ることが求められている。しかしながら、前述した従来技術に示した人体及び環境への負荷がある重金属を含まずに樹脂成形体表面をエッチングする技術である、特許文献4〜7の過硫酸成分を含む硫酸溶液を用いる方法には、いずれも以下のような課題がある。
【0008】
特許文献4で提案されている硫酸を電気分解して生成した過硫酸成分を含む電解液を循環供給する処理システムの場合、硫酸を電気分解するため多大な電力を消費するという課題や、過硫酸成分の生成能力を高めるために装置の大型化が必要で多大なコストを要するという課題がある。また、特許文献4の比較例2に記載されている、濃硫酸と過酸化水素水を混合して生成した過硫酸を含む硫酸溶液により樹脂成形体表面をエッチングする方法については、処理液の成分が消費されることによって処理液の性状が変化し、処理の長期安定性に欠けるという課題がある。
【0009】
また、特許文献5に提案されている、過硫酸成分として過硫酸塩を溶解した硫酸溶液で樹脂成形体をエッチングする方法については、過硫酸塩として添加する、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の固形物を溶解する操作あるいは設備が必要となる。加えて、添加する過硫酸塩に起因する水素イオン以外のカチオン成分が混入することを避けられず、添加を繰り返してそのカチオン成分濃度が高くなると、エッチング槽内で硫酸塩として析出・堆積するといった不具合が発生するという課題がある。
【0010】
さらに、特許文献6,7に記載された技術は、硫酸濃度を所定の濃度以上に維持したり、過硫酸濃度を所定の範囲内に維持したりする技術であり、硫酸濃度と酸化剤濃度を同時に所定濃度に維持する薬液の使用方法及び処理システムは検討されておらず、一定条件下で処理を行うめっき処理に先立って行われる樹脂成形体のエッチングへの適用には不向きであり、この従来技術をそのまま適用した場合には、安定した樹脂エッチングが行えず、めっき不良の発生につながる懸念がある。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、6価クロム酸や過マンガン酸といった健康や環境に対し多大な影響を及ぼす規制対象物質を使用することなく、各種材料表面の洗浄や改質、特に樹脂材料表面へのめっき処理に先立って行われる樹脂成形体のエッチングを実施し、目的とする表面状態を得ることが可能な樹脂成形体のエッチング方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この樹脂成形体のエッチング方法を実施するためのエッチング処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は第一に、酸化剤成分として過硫酸成分を含む60重量%以上の硫酸溶液からなるエッチング液による樹脂成形体のエッチング方法であって、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を連続的又は間欠的に測定し、この測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度に基づき前記エッチング液を前記樹脂成形体のエッチングに適切な酸化剤濃度及び硫酸濃度にそれぞれ調整する樹脂成形体のエッチング方法において、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整を、該エッチング液を電解する方法により過硫酸成分を生成する手段と、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の調整及び硫酸濃度の調整を行う手段とを併用することにより行う、樹脂成形体のエッチング方法を提供する(発明1)。
【0013】
かかる発明(発明1)によれば、樹脂成形体のエッチング工程においては、時間とともにエッチング液の酸化剤の濃度が低下するとともに硫酸濃度も変動し、これにより樹脂成形体の表面の粗面化の状態が異なってしまう。そこで、エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を測定し、これらの測定された酸化剤及び硫酸の濃度に応じて、該エッチング液を電解して過硫酸成分を生成し、これをエッチング液に補充するとともに、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の補充や硫酸濃度の調整を行うことにより、常に安定した条件で樹脂成形体をエッチングすることができる。これにより、6価クロム酸や過マンガン酸など人体及び環境への負荷がある重金属を含まず、樹脂成形体のエッチング等の表面処理を長時間安定して行うことが可能となる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整が、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の測定結果に基づき、前記エッチング液中の酸化剤濃度及び硫酸濃度が所定の値となるように、前記電解における通電電流量を調整して過硫酸成分の生成量を調整するとともに、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御することが好ましい(発明2)。特に上記発明(発明2)においては、前記エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の調整が、前記エッチング液中の酸化剤濃度の設定値に対して、前記電解による操作単独では、該酸化剤濃度の設定値を超えない条件で過硫酸成分を生成させて該エッチング液において減少した酸化剤濃度を補うとともに、前記エッチング液中の硫酸濃度が所定の値となるように硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上の添加量を制御することが好ましい(発明3)。
【0015】
かかる発明(発明2,3)によれば、あらかじめエッチング処理に好適な酸化剤濃度及び硫酸濃度を設定しておき、エッチング液がこの設定された酸化剤濃度及び硫酸濃度となるように、エッチング液を電解する条件と、硫酸、水及び過酸化水素水の添加量の制御とを組み合わせることで、エッチング液の性状を樹脂成形体のエッチング等の表面処理に好適なものに維持することができる。
【0016】
上記発明(発明1〜3)においては、過硫酸成分を生成する電解に用いる電極として、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極を用いることが好ましい(発明4)。
【0017】
かかる発明(発明4)によれば、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極は、硫酸を電解処理した際の過硫酸成分の生成効率が高く、電極の耐久性にも優れていることから、樹脂成形体のエッチングの用途に好適である。
【0018】
上記発明(発明1〜4)においては、前記エッチング液への硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を補充する操作が、補充する液量を算出し液補充前のエッチング液中の酸化剤濃度の計測値と決定した補充する液量とに基づいて補充後のエッチング液が所定の酸化剤濃度となるように、過酸化水素水の必要添加量を演算するプロセスと、液補充前のエッチング液中の硫酸濃度の計測値と決定した補充液量とに基づき液補充後のエッチング液が所定の硫酸濃度となるように硫酸及び水分の必要添加量を演算するプロセスと、 演算して得られた水分の必要添加量と過酸化水素水の必要添加量とから添加する水の必要添加量を演算するプロセスと、各演算結果に応じて硫酸、過酸化水素水及び水の1以上をエッチング液に添加するプロセスと、を有することが好ましい(発明5)。
【0019】
かかる発明(発明5)によれば、測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度と、エッチング液の総量と、硫酸の濃度と、添加する硫酸の濃度及び過酸化水素水の濃度に基づいて、エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を最適とするために必要な過硫酸成分の量を算定して電解処理を制御するとともに、添加すべき過酸化水素水、硫酸及び水の量を算定して、それぞれを適宜添加することにより、エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の両方を適切とすることができる。
【0020】
また、本発明は第二に、酸化剤成分として過硫酸成分を含む60重量%以上の硫酸溶液からなるエッチング液により樹脂成形体をエッチング処理するシステムであって、前記エッチング液の酸化剤濃度測定手段及び硫酸濃度測定手段と、この測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度に基づき前記エッチング液を前記樹脂成形体のエッチングに適切な酸化剤濃度及び硫酸濃度にそれぞれ調整する調整機構とを備え、前記調整機構が、前記エッチング液を電解する電解装置と、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加する添加手段と、を有する、樹脂成形体のエッチング処理システムを提供する(発明6)。
【0021】
かかる発明(発明6)によれば、樹脂成形体のエッチング工程においては、時間とともにエッチング液の酸化剤の濃度が低下するとともに硫酸濃度も変動し、これにより樹脂成形体の表面の粗面化の状態が異なってしまう。そこで、酸化剤濃度測定手段及び硫酸濃度測定手段によりエッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を測定し、これらの測定された酸化剤及び硫酸の濃度に応じて、電解装置によりエッチング液の電解処理を行い酸化剤としての過硫酸成分を補充するとともに、添加手段で硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の補充や硫酸濃度の調整を行うことにより、常に安定した条件で樹脂成形体をエッチング可能なシステムとなっている。
【0022】
上記発明(発明6)においては、前記電解装置が、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極を有することが好ましい(発明7)。
【0023】
かかる発明(発明7)によれば、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極は、硫酸を電解処理した際の過硫酸成分の生成効率が高く、電極の耐久性にも優れていることから、樹脂成形体のエッチングの用途に好適である。
【0024】
上記発明(発明6,7)においては、前記酸化剤濃度測定手段及び前記硫酸濃度測定手段の測定結果に基づき、前記電解装置の運転条件、及び前記添加手段による硫酸、水及び過酸化水素水のそれぞれの添加量の操作を行う制御手段を備えることが好ましい(発明8)。
【0025】
かかる発明(発明8)によれば、測定された酸化剤濃度及び硫酸濃度と、エッチング液の総量と、硫酸の濃度と、添加する硫酸の濃度及び過酸化水素水の濃度に基づいて、制御手段により電解装置の運転条件の制御と、過酸化水素水、硫酸及び水の添加量の制御とを行うことにより、エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度の両方を樹脂成形体のエッチングに適切なものとすることができる。
【0026】
上記発明(発明8)においては、前記制御手段が、前記電解装置の運転条件及び前記添加手段による添加量の調整の一部又は全部を自動制御可能であることが好ましい(発明9)。
【0027】
かかる発明(発明9)によれば、前記制御手段により電解装置の電源装置や過酸化水素水、硫酸及び水の添加量を自動制御することにより、システムを安定運転することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の樹脂成形体のエッチング方法によれば、エッチング液の酸化剤濃度及び硫酸濃度を測定し、これらの測定された酸化剤及び硫酸の濃度に応じて、該エッチング液を電解する方法により過硫酸成分を生成してこれを補充するとともに、硫酸、水及び過酸化水素水のいずれか1以上を添加することにより過硫酸成分の補充と硫酸濃度の調整を行うものであるので、常に安定した条件で樹脂成形体をエッチングすることができる。このような本発明により、6価クロム酸や過マンガン酸など人体及び環境への負荷がある重金属を含まず、樹脂成形体のエッチング等の表面処理を長時間安定して行うことが可能となる。また、エッチング液として硫酸を電気分解して生成した過硫酸成分を含む電解液を循環供給する処理システムの省電力化を図れるとともに、装置の小型化が可能となる。さらに、エッチング液の廃棄量が削減でき、消費する薬液の削減も可能となるため、環境負荷の低減にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の樹脂成形体のエッチング方法の第一の実施形態による電解硫酸溶液製造システムを示す概略図である。
図2】本発明の樹脂成形体のエッチング方法の第二の実施形態による電解硫酸溶液製造システムを示す概略図である。
図3】実施例1におけるエッチング後のABS樹脂成形体の表面を示す拡大SEM写真である。
図4】実施例1比較例1及び比較例2における無電解ニッケルめっき後の樹脂成形体を示す写真である。
図5】比較例2におけるエッチング後のABS樹脂成形体の表面を示す拡大SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の本発明の樹脂成形体のエッチング方法及び樹脂成形体のエッチング処理システムについて添付図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
<第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態について、以下説明する。
[樹脂成形体]
本実施形態において、処理対象となる樹脂成形体としては、樹脂材料表面へのめっき皮膜の形成が可能な表面状態に改質可能なものであれば特に制限はなく、ABS、PC/ABS、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂からなる成形体が好適である。なお、PC/ABSは、ABS樹脂とPC樹脂との混合樹脂である。これらのうち、ABSとPPSに関しては過硫酸成分を含む硫酸溶液で前処理を行った樹脂表面にめっき可能なことが既往の文献(橋本 他;表面技術協会第136回講演大会要旨集,15B−18(2017)、石黒 他;表面技術協会第141回講演大会要旨集,03A−29(2020))にも報告されており、特に好適な対象樹脂である。
【0032】
[エッチング液]
過硫酸成分を含む硫酸溶液で樹脂成形体をエッチングするためのエッチング液は、酸化剤成分としてペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸といった強い酸化性を有する過硫酸成分を含有する必要がある。このような過硫酸成分を含む硫酸溶液を調製する手段(調整機構)として以下に示すような二つの手段が例示される。
【0033】
(第一手段)
過硫酸成分を含む硫酸溶液(エッチング液)を調製する一つ目の手段(第一手段)としては、硫酸溶液を電解する方法があげられる。このような過硫酸成分を生成する製造設備として、例えばエッチング液を貯留する槽、電解セル、及び槽と電解セルの間でエッチング液を循環させるための循環ポンプを備えた配管、及びエッチング液を貯留する槽内の温度を制御する機構、及び電解セルに供給する溶液の温度を制御する機構から構成される溶液循環系を有するものを用いることができ、例えば、図1に示すような装置を好適に用いることができる。
【0034】
図1において、過硫酸成分を含む硫酸溶液の製造装置1は、エッチング液3を受けるエッチング槽(貯留槽)2と、このエッチング槽2内に配置された温度制御機構としての加熱器4とを備える。このエッチング槽2には、該エッチング槽2の底部を出て再度エッチング槽2に還流する循環配管5が設けられている。この循環配管5には、エッチング槽2の出口側(基端側)から順に循環ポンプ6と電解セルに供給する溶液の温度を制御する熱交換器7とアノード極8Aとカソード極8Bとを有する電解セル8とが設けられている。電解セル8には、直流電源装置9が接続されている。電解セル8に設置するアノード極8Aとカソード極8Bとしては、電解対象の溶液中で過硫酸成分を生成可能なものであれば制限はないが、生成効率や電極の耐久性の観点から、導電性ダイヤモンドで接液面が被覆された電極を用いることが好ましい。そして、本実施形態においては、循環配管5の電解セル8の手前には、酸化剤濃度測定手段としての酸化剤濃度計(図示せず)と、硫酸濃度測定手段としての硫酸濃度計(図示せず)とが設けられている。
【0035】
(酸化剤濃度測定手段)
酸化剤濃度測定手段としては、酸化還元滴定法や吸光光度法、熱分解して発生する酸素ガス量を計測する方法、電気化学的手法など、酸化剤濃度を正確に測定できる方法を利用する手段であれば、特に限定されない。また、高い硫酸濃度中の酸化剤濃度を計測する手段は、特許第5499602号公報、特許第5773132号公報、特許第5710345号公報、特許第6024936号公報、特許第6265289号公報などに記載の技術が提案されており、これらを適用することができる。
【0036】
(硫酸濃度測定手段)
硫酸濃度測定手段としては、中和滴定法や、比重計測法、電磁誘導法、液中超音波伝播速度計測法など、硫酸濃度を正確に測定できる方法を利用する手段であれば、特に限定されないが、液中超音波伝播速度計測による濃度計や電磁誘導式硫酸濃度計などは、リアルタイムで硫酸濃度を計測できることから、エッチング液3の硫酸濃度を制御する上でより好適である。
【0037】
このような過硫酸成分を含む硫酸溶液の製造装置1において、初期状態においてはエッチング槽2には硫酸が充填されており、循環ポンプ6を駆動することにより、硫酸をエッチング槽2の底部から循環配管5を経由して、電解セル8に供給する。そして、アノード極8Aとカソード極8Bに電流を供給して硫酸を電解することで(1)式のような反応によりペルオキソ二硫酸が生成する。また、生成したペルオキソ二硫酸は、(2)式のように水と反応し、ペルオキソ一硫酸が生成する。このような硫酸溶液の電解により、硫酸濃度が10重量%といった低濃度から濃硫酸までの広い硫酸濃度範囲において過硫酸成分を生成することができる。なお、電解に用いる電極の耐久性の観点から、電解する硫酸溶液の温度は30℃以上であることが望ましい。
2HSO ⇒ H + H↑ ・・・・・(1)
+ HO ⇒ HSO + HSO ・・・・・(2)
【0038】
(第二手段)
過硫酸成分を含む硫酸溶液(エッチング液3)を調製する別の手段(第二手段)としては、硫酸と過酸化水素を混合する方法がある。この方法では(3)式のようにペルオキソ一硫酸が生成する。(3)式の反応式に示す硫酸は分子状硫酸であるため、この反応が生じるためには分子状硫酸が存在する硫酸濃度でなければならず、具体的には硫酸濃度60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である必要がある。また、98重量%以上の硫酸は亜硫酸ガスの発生量が著しく多くなり、取扱いが難しい。したがって、(3)式に示す反応を効率よく行うためには、硫酸濃度が70重量%から98重量%の範囲となるよう、硫酸、過酸化水素水、及び/又は水の量を適宜調整して混合することが好ましい。この操作において、過酸化水素水と水の比率を調整することにより、生成する酸化剤成分としての過硫酸成分(ペルオキソ一硫酸)の濃度を制御することが可能となる。
SO + H ⇔ HSO + HO ・・・・・(3)
【0039】
[樹脂成形体のエッチング方法]
(酸化剤濃度の調整方法)
本実施形態は、前述した第一手段と第二手段とを併用して調製した過硫酸成分を含む硫酸溶液をエッチング液3として用いる樹脂成形体のエッチング方法であり、両手段を併用することで、各種材料表面の洗浄や改質、特に樹脂材料表面へのめっき処理に先立って目的とする表面状態を得ることが可能となる。
【0040】
このような方法において、前記第二手段の硫酸、過酸化水素水、及び/又は水をエッチング液3に添加混合する方法としては、目的とする過硫酸成分が生成する方法であれば特に制限はないが、例えば、図1に示す過硫酸成分を含む硫酸溶液の製造装置1をそのまま樹脂成形体のエッチング処理システムとして使用する場合には、添加手段により硫酸、過酸化水素水、及び/又は水をエッチング槽2に直接添加する方法、エッチング槽2と電解セル8の間の循環配管5に注入する方法が例示される。また、濃度調整槽を別途設けて濃度調整槽に前記各成分を添加し、エッチング槽2と濃度調整槽を循環する方法でもよい。
【0041】
過硫酸成分を含む硫酸溶液からなるエッチング液3を調製するためには、前記第一手段及び第二手段により効率よく過硫酸成分が生成する硫酸濃度条件に設定する必要があり、第二手段による過硫酸成分の生成を行うことが可能な硫酸濃度70重量%から98重量%の範囲にすることが適切である。なお、エッチング対象の樹脂材料の種類に応じ、有効なエッチング処理効果が得られる硫酸濃度は異なるため、前記硫酸濃度の範囲内で適切な条件設定をすることが好ましい。
【0042】
樹脂成形体をエッチングする処理においては、樹脂材料の種類に応じて有効なエッチング条件、すなわち酸化剤濃度、硫酸濃度あるいは温度などが異なっており、対象とする樹脂材料を有効にエッチングできる範囲内にエッチング液3の性状を保つことが重要となる。そのためには、エッチング液3の性状を監視し、適宜エッチングに有効な液性となるよう有効成分の濃度や温度などを調整することが必要となる。
【0043】
このエッチング液3の有効成分である過硫酸成分を含む酸化剤は、時間の経過や樹脂成形体のエッチングにともない分解して減衰することが知られている。よって、エッチング液3中の酸化剤濃度を常時又は間欠的に酸化剤濃度測定手段により測定し、その測定結果に基づきエッチング液3中の酸化剤濃度が所定濃度となるように調整することが必要であり、それらを実現する計測・制御システムを設置することが望ましい。
【0044】
本実施形態においては、前記第一手段におけるエッチング液3を電解する操作において、アノード極8A及びカソード極8B に対し通電する電流値を調整することにより過硫酸成分の生成量を調整することで、エッチング液3中の酸化剤濃度を調整することができる。また、エッチング液3中に硫酸、過酸化水素水、及び/又は水を添加混合して過硫酸成分を生成する前記第二手段の方法において、各成分の添加量を調整することで過硫酸成分の生成量を調整するとともに、エッチング液3中の酸化剤濃度を調整することができる。
【0045】
これら第一手段と第二手段とを用いた酸化剤濃度の調整方法に特に制限はなく、例えば第一手段による電解を一定条件で行うことで過硫酸成分をエッチング3液中に供給し、目的とする酸化剤濃度との差を第二手段により調整する方法や、第二手段による硫酸、過酸化水素水、及び/又は水のエッチング液3中への添加量を一定に固定して過硫酸成分を生成させ、目的とする酸化剤濃度との差を第一手段により調整する方法を例示することができる。その際、一定条件で過硫酸成分を生成する最初の操作(第一手段あるいは第二手段)においては、その操作単独では所定の酸化剤濃度を超えることがない範囲の過硫酸成分生成量となるようにあらかじめ設定する必要がある。
【0046】
この他、あらかじめ設定したロジックに基づきエッチング液3中の酸化剤濃度に応じて第一手段及び第二手段による過硫酸成分の生成を制御することで酸化剤濃度を目的とする値に調整する方法など、さまざまな方法を適用することが可能である。このような前記第一手段と第二手段とを用いた酸化剤濃度の調整は、常時又は間欠的に測定される酸化剤濃度の計測値を用いた演算の結果に基づき実施することが好ましい。
【0047】
なお、電解セル8を長期間安定に使用する長寿命化の観点からは、一定条件で電解操作を行うことが望ましく、上述した方法の中では、第一手段による電解を一定条件で行う方法で過硫酸成分をエッチング液3中に供給しながら目的とする酸化剤濃度との差を第二手段により調整する方法が特に好適である。
【0048】
このような酸化剤濃度の調整過程において、酸化剤濃度が設定値を超えた場合には、第一手段の電解を停止し、エッチング液3の一部を排出するとともに、前記第二手段の調整方法において、過酸化水素以外の硫酸や水を必要量添加することにより、エッチング液3中の硫酸濃度を維持した状態で酸化剤濃度を低下させる措置を取ることが可能である。
【0049】
(硫酸濃度の調整方法)
エッチング液3の有効成分である硫酸濃度は、エッチング液3への水分の混入によって低下する。このような硫酸濃度の低下は、例えばエッチング処理の前工程の水洗等でエッチング対象物である樹脂成形体やそれを固定する治具に付着した水分が、それらに随伴してエッチング液3に持ち込まれることにより生じる。よって、エッチング液3中の硫酸濃度を常時又は間欠的に測定する装置を具備し、その結果に基づきエッチング液3中の硫酸濃度が所定濃度となるように調整することが必要であり、それらを実現する計測・制御システムを設置することが好ましい。
【0050】
本実施形態においては、第二手段によりエッチング液3中への硫酸及び水分の添加量を調整することで、エッチング液3中の硫酸濃度を調整することができる。その際、硫酸と水のみでエッチング液3中の硫酸濃度を調整するとエッチング液3中の酸化剤濃度の低下を招くため、硫酸濃度の調整時に添加する水分は、水と必要に応じ添加される過酸化水素水との合計となる。これにより。硫酸濃度の調整のみならず、エッチング液3中の酸化剤濃度の調整も同時に行うことができる。このような操作を行うためには、酸化剤濃度調整方法やそれを実現するための計測・制御システムと、硫酸濃度調整方法やそれを実現するための計測・制御システムとを連携させて制御することが好適である。すなわち、酸化剤濃度測定手段及び硫酸濃度測定手段により計測されたエッチング液3の酸化剤濃度及び硫酸濃度の計測値を用いた演算結果に基づき、エッチング液3中の酸化剤濃度及び硫酸濃度が所定の値となるように、電解による過硫酸成分を生成しつつ、硫酸、水、及び/又は過酸化水素水の添加量を制御することが好適である。
【0051】
エッチング液3中の硫酸濃度の調整操作において、硫酸、水、及び/又は過酸化水素水をエッチング液3に添加混合する方法としては、目的とする硫酸濃度に調整できれば特に制限はないが、例えば図1に示す前記酸化剤濃度調整法の第一手段を実現する過硫酸成分を含む硫酸溶液の製造装置1(樹脂成形体のエッチング処理システム)に対して適用する場合には、エッチング槽2に直接添加する方法、エッチング槽2と電解セルの間を循環する配管系統に注入する方法が例示される。また、濃度調整槽を別途設けて濃度調整槽に前記成分を添加し、エッチング槽2と濃度調整槽を循環する方法なども挙げられる。
【0052】
エッチング液3中の硫酸濃度の調整に使用する硫酸は、エッチング液3の硫酸濃度より高ければ、特に限定されないが、一般的な工業薬品として使用される97重量%硫酸等、高濃度の硫酸であれば、設定するエッチング液3中の硫酸濃度にするための添加量も少なくなることからより好ましい。硫酸濃度の調整に使用する水分のうち、水については目的とする溶液を調製できれば制限はないが、不純物の混入を避けるため純水がより好ましい。また、過酸化水素については一般的な工業薬品として使用される35重量%過酸化水素水などを用いることができ、さらに高濃度の過酸化水素水であれば、少量の添加で目的とする過硫酸成分濃度に調整することが可能となるためより好ましい。
【0053】
(エッチング液3の補充方法)
初期のエッチング槽2への建浴や、エッチングされた樹脂成形体あるいはそれらの固定治具に付着して持ち出された液量分の補充など、一定量のエッチング液3を補充する必要が生じる。この場合には、補充する液量を決定するプロセスと、液補充前のエッチング液3中の酸化剤濃度計測値と決定した補充液量とを基に液補充後のエッチング液3全体が所定の酸化剤濃度となるように過酸化水素水の必要添加量を演算するプロセスと、液補充前のエッチング液3中の硫酸濃度の計測値と決定した補充液量とを基に液補充後のエッチング液3が所定の硫酸濃度となるように硫酸及び水分の必要添加量を演算するプロセスと、演算して得られた水分の必要添加量と過酸化水素水の必要添加量から添加する水の必要添加量を演算するプロセスと、これら各演算結果に応じて硫酸、過酸化水素水、及び/又は水をエッチング液3に添加するプロセスを行うことで、目的とする液性のエッチング液3を必要量補充することが可能となる。
【0054】
ここで、補充する液量の決定は、例えばエッチング液3を貯留するエッチング槽(貯留槽)2内に液面計を設置し、その計測結果に基づき行うことができる。エッチング液3中の酸化剤濃度や、硫酸濃度は、前記した種々の方法により計測することができる。
【0055】
例えば、エッチング液3の所定酸化剤濃度をA[mmol/L]、所定硫酸濃度をB[重量%]、計測された酸化剤濃度をa[mmol/L]、計測された硫酸濃度をb[重量%]、エッチング槽2を含むシステム全体の保有液量をV[L]、補充すべき液量をv[L]とすると、演算は(4)、(5)、(6)式に示される関数によって、過酸化水素水m[重量%]の添加量X[L]、硫酸n[重量%]の添加量Y[L]、水の添加量Z[L]を決定することができる。
【0056】
X = function(A,a,V,v,m) ・・・・・(4)
Y = function(B,b,V,v,n) ・・・・・(5)
Z = function(V,v,X,Y) ・・・・・(6)
【0057】
上記の演算に際して、より正確には温度条件を含むことが好ましいが、添加量を求める演算手法はこれらに限定される必要はなく、エッチング液3の酸化剤濃度と硫酸濃度が同時に所定濃度に維持されればよい。なお、エッチング槽2内のエッチング液3の温度は、加熱器4などの温度制御機構を用いて所定温度に加温制御すればよい。具体的には液温度が低すぎるとエッチング反応が進行せず、逆に液温度が高すぎると、樹脂の軟化等の形状変形を起こすため、40〜80℃程度が好ましいが、適切なエッチング作用が得られればこれに限定されるものではない。
【0058】
上述したような本実施形態の樹脂成形体用エッチング方法及びエッチング処理システムにおいて、エッチング液3中の酸化剤濃度や硫酸濃度の計測、電解セル8による過硫酸成分生成、補充するエッチング液量の決定、各種演算、各種成分(硫酸、過酸化水素水、水)の添加の決定、各種成分(硫酸、過酸化水素水、水)の添加に関わる操作あるいは制御については、手動操作で行うことも自動操作で行うことも可能であるが、作業の効率化や安全性の観点から、上述した各操作の一部あるいは全部を自動的に行うことがより好ましい。
【0059】
<第二の実施形態>
次に本発明の第二の実施形態について、以下説明する。
[樹脂成形体]
本実施形態において、処理対象となる樹脂成形体としては、前述した第一の実施形態と同じである。
【0060】
[エッチング液]
過硫酸成分を含む硫酸溶液で樹脂成形体をエッチングするためのエッチング液としては、前述した第一の実施形態と同じく、硫酸溶液を電解する方法による第一手段と、硫酸と過酸化水素を混合する第二手段とにより、調製した酸化剤成分としてペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸といった強い酸化性を有する過硫酸成分を含有する硫酸溶液である。
【0061】
[エッチング処理システム]
本実施形態の樹脂成形体のエッチング処理システムは、基本的には前述した第一の実施形態をより具体的に表したものであるので、同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。図2において、エッチング処理システム11は、エッチング液3を受けるエッチング槽2と、このエッチング槽2内に配置された温度制御機構としての加熱器4とを備える。このエッチング槽2には、該エッチング槽2の底部を出て循環ポンプ6からエッチング槽2に還流する循環配管5が設けられていて、この循環配管5はアノード極8A及びカソード極8Bを有する電解セル8に連通している。この電解セル8には、直流電源装置9が接続されている。そして、この電解セル8の手前には、硫酸濃度計12と酸化剤濃度計13と熱交換器7とがそれぞれ設置されている。これら硫酸濃度計12と酸化剤濃度計13での計測結果は、制御手段としての演算・制御装置14に信号線を介して送信される。なお、19は、開閉弁19Aを備えたエッチング槽2の廃液ラインである。
【0062】
また、エッチング槽2には、エッチング液3の液面を監視する液面計15が設けられているとともに、添加手段としての硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18がエッチング槽2に注液可能に近設されている。そして、液面計15は、演算・制御装置14に情報伝達可能となっているとともに、演算・制御装置14は、これら硫酸濃度計12、酸化剤濃度計13及び液面計15の情報に基づいて、直流電源装置9、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18、さらには廃液ライン19の開閉弁19Aを制御可能となっている。
【0063】
このようなシステム11において、演算・制御装置14では、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13により計測された硫酸濃度及び酸化剤濃度の計測結果に基づき演算が行われ、制御信号が信号線を介して直流電源装置9、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18に送信される。直流電源装置9では受信した信号に応じて電解セル8に通電する電流量を制御して過硫酸成分(酸化剤)の生成量を調整する。また、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18では、受信した信号に応じて各成分を必要量添加する操作が行われる。この各成分の供給制御機器は、例えば、入力信号に応じた量の液体を供給することが可能な薬液ポンプを用いればよい。また、演算・制御装置14は、エッチング液3の液面を監視する液面計15の情報に基づいて、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18を制御し液位の調整が可能となっている。
【0064】
なお、硫酸濃度計12による酸化剤濃度測定手段としては、前述した第一の実施形態と同じ方法を適用することができる。また、酸化剤濃度計13としては、前述した第一の実施形態と同じ方法を適用することができる。
【0065】
[樹脂成形体のエッチング方法]
(酸化剤濃度の調整方法)
エッチング処理システム11は、初期状態においてはエッチング槽2には硫酸が充填されており、循環ポンプ6を駆動することにより、硫酸をエッチング槽2の底部から循環配管5を経由して、電解セル8に供給する。そして、アノード極8Aとカソード極8Bに電流を供給して硫酸を電解することで過硫酸成分を生成することができる(第一手段)。
【0066】
一方、添加手段である硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18から、硫酸、過酸化水素水、及び/又は水をエッチング槽2に直接添加することによっても、過硫酸成分を含む硫酸溶液からなるエッチング液3を調製する(第二手段)。
【0067】
そして、エッチング液3の酸化剤濃度及び硫酸濃度をあらかじめ設定しておき、第一手段及び第二手段により効率よく、この設定値に過硫酸濃度及び硫酸濃度に到達させることが好ましい。このため、第二手段による過硫酸成分の生成を行うことが可能な硫酸濃度70重量%から98重量%の範囲にすることが適切である。なお、エッチング対象の樹脂材料の種類に応じ、有効なエッチング処理効果が得られる硫酸濃度は異なるため、前記硫酸濃度の範囲内で適切な条件設定をすることが好ましい。
【0068】
続いて、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13の計測値により、エッチング液3の酸化剤濃度及び硫酸濃度が設定値になったことを確認したら、エッチング対象の樹脂材料の成形体をエッチング槽2に浸漬してエッチング処理を行う。エッチング処理においては、樹脂材料の種類に応じて有効なエッチング条件、すなわち最適な酸化剤濃度、硫酸濃度あるいは温度などが異なっており、対象とする樹脂材料を有効にエッチングできる範囲内にエッチング液3の性状を保つことが重要となる。そのためには、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13によりエッチング液3の性状を監視し、適宜エッチングに有効な液性となるよう有効成分の濃度や温度などを調整することが必要となる。
【0069】
このエッチング液3の有効成分である過硫酸成分を含む酸化剤成分は、時間の経過や樹脂成形体のエッチングにともない分解して減衰することが知られている。よって、エッチング液3中の酸化剤濃度を常時又は間欠的に酸化剤濃度計13により測定し、その結果に基づきエッチング液3中の酸化剤濃度が所定濃度となるように調整する。
【0070】
具体的には、電解セル8のアノード極8A及びカソード極8B に対し通電する電流値を調整して、過硫酸成分の生成量を調整することで、エッチング液3中の酸化剤濃度を調整することができる。また、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18からエッチング液3中に硫酸、過酸化水素水、及び/又は水を添加混合して過硫酸成分を生成する第二手段の方法において、各成分の添加量を調整することで過硫酸成分の生成量を調整し、エッチング液3中の酸化剤濃度を調整することもできる。
【0071】
これら第一手段と第二手段とを用いた酸化剤濃度の調整方法には特に制限はなく、前述した第一の実施形態と同様の方法を適用することができる。
【0072】
(硫酸濃度の調整方法)
また、本実施形態においては、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18からエッチング液3中に硫酸、過酸化水素水、及び/又は水を添加する量を調整することで、エッチング液3中の硫酸濃度を調整することができる。その際、硫酸と水のみでエッチング液3中の硫酸濃度を調整するとエッチング液3中の酸化剤濃度の低下を招くため、硫酸濃度の調整時に添加する水分としては、水とともに適宜過酸化水素水を添加し、硫酸濃度の調整のみならず、エッチング液3中の酸化剤濃度の調整も同時に行うことが好ましい。このような操作は、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13の計測値に基づき演算・制御装置14で、硫酸、過酸化水素水、及び/又は水の最適な添加量を算出して、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18を制御すればよい。
【0073】
(エッチング液3の補充方法)
初期のエッチング槽2への建浴や、エッチングされた樹脂成形体あるいはそれらの固定治具に付着して持ち出された液量分の補充など、一定量のエッチング液3を補充する必要が生じる。この場合には、液面計15の測定値に基づき演算・制御装置14により補充する液量を決定する。そして、補充前のエッチング液3の硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13の計測値にとから、補充後のエッチング液3の全体が所定の酸化剤濃度となるように過酸化水素水の必要添加量を演算し、液補充前のエッチング液3中の硫酸濃度の計測値と決定した補充液量とを基に液補充後のエッチング液3が所定の硫酸濃度となるように硫酸及び水分の必要添加量を演算し、さらに演算して得られた水分の必要添加量と過酸化水素水の必要添加量から添加する水の必要添加量を演算し、これら各演算結果に応じて硫酸、過酸化水素水、及び/又は水をエッチング液3に添加することで、あらかじめ設定した酸化剤濃度及び硫酸濃度のエッチング液3で必要量を補充することが可能となる。
【0074】
ここで、補充する各液量の決定は、前述した第一の実施形態で説明したのと同じ演算式により決定すればよい。上述したような第二の実施形態によれば、補充するエッチング液量の決定、硫酸、過酸化水素水、水の添加の決定、電解処理条件の設定について、自動化するに好適であり、作業の効率化や安全性を向上することができる。
【0075】
上述したような第一の実施形態及び第二の実施形態で説明した本発明の樹脂成形体のエッチング方法により、6価クロム酸や過マンガン酸など人体及び環境への負荷がある重金属を含まず、樹脂成形体のエッチング等の表面処理を長時間安定して行うことが可能となる。また、エッチング液3としての過硫酸成分を含む電解液を効率よく循環供給することができるので、装置のコンパクト化が図れるとともに、消費する電力量や薬品の低減を図ることが可能となる。さらに、エッチング液3に固形物を添加する必要がないため、固形物を溶解する操作あるいは設備が不要であり、水素イオン以外のカチオン成分をエッチング液3に積極的に添加する操作を行わないため、エッチング槽2内でカチオン成分と硫酸塩との析出物が生じる課題も回避できる。
【0076】
以上、前記各実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、本実施形態のようなバッチ処理でなく連続処理にも適用可能である。また、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13は、エッチング槽2に設けてもよい。さらに、エッチング液3の硫酸濃度、過硫酸濃度(酸化剤濃度)及び温度は処理対象に応じて種々変更可能である。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0078】
[実施例1]
図2に示した構成のエッチング処理システム11を用いて検討を行った。このシステム11において、エッチング槽2の容量は10Lであり、加熱器4として投込みヒータをエッチング槽2に投入した。エッチング液3は、循環ポンプ6により送出され、循環配管5、熱交換器7を通過し、電解セル8に送液される。ここで、電解セル8には、アノード極8A及びカソード極8Bとして、それぞれの電極面積が5.6dmとなるようシリコンウエハ表面に導電性ダイヤモンドを成膜した電極が具備されている。この電解セル8の手前に設置された硫酸濃度計12としては超音波伝播速度から硫酸濃度に換算する計測器を、酸化剤濃度計13としてはUV吸光度から全酸化剤濃度に換算する計測器をそれぞれ使用した。また、添加手段としての硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18の各成分の供給制御機器として、入力信号に応じた量の液体を供給することが可能な薬液ポンプを使用した。
【0079】
このようなシステム11において、97重量%硫酸約7.5Lに純水約3Lを添加して、硫酸濃度80重量%の溶液を調製した。そして、循環ポンプ6を稼働してエッチング液3を2L/分の流量で循環させ、熱交換器7による冷却と加熱器(投込みヒータ)4による加熱によってエッチング槽2内のエッチング液3の液温を60℃に制御した。次に、35重量%過酸化水素水を過酸化水素供給機構17から約46mL添加して、酸化剤濃度を50mmol/L as Oとなるように調整した。この添加による硫酸濃度変化はΔ0.1重量%以下であった。
【0080】
エッチング液3の硫酸濃度、酸化剤濃度、液温が所定の値になったら、エッチング液3中に酸化剤濃度低下を引き起こす銅イオンの濃度が50mg/Lとなるように硫酸銅・5水和物を添加した。
【0081】
このようなエッチング液3を用い、樹脂試験片のエッチングを実施した。本エッチング処理を行っている間、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13の計測結果に基づき、硫酸濃度80重量%、酸化剤濃度50mmol/Las Oを維持するように演算・制御装置14で演算を行い、その結果に基づき電解セル8に通電する電流を電極面の電流密度が0〜15A/dmの範囲で制御するとともに、硫酸供給制御機器16、過酸化水素供給制御機器17及び純水供給制御機器18を制御して、硫酸、過酸化水素、純水の添加量を制御した。
【0082】
試験片としてはABS樹脂製試験片(UMG ABS3001M:25mm×105mm×t2mm)を使用した。この樹脂試験片20枚を固定治具に取り付けたものを、エッチング槽2に10分間浸漬してエッチング処理を実施した後、エッチング槽2から引き上げた。次に未使用の試験片を取り付けた新たな固定治具をエッチング槽2へ浸漬し、引き上げる操作を15分毎に繰り返した。
【0083】
このとき、エッチング液3の一部が樹脂サンプルに付着して、エッチング槽2から持ち出され、エッチング液3の液位が低下した。そこで、実施例1では、エッチング液3の液位が満杯の状態から10mm低下したときに、液面計15からの信号に基づき演算・制御装置14で演算を行い、97重量%硫酸、35重量%過酸化水素水、純水をそれぞれ必要量添加し、エッチング液3の量を維持する制御を実施した。液位調整のために添加する硫酸、過酸化水素水、及び/又は純水の必要添加量については、液位を戻すために補充する液量と、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13によるエッチング液3の液性の計測結果とに基づき、演算・制御装置14で演算を行った結果により決定し、自動制御により添加した。
【0084】
このようなエッチング処理を5時間継続し、合計420枚の樹脂試験片をエッチングした。この間、実施例1の樹脂成形体のエッチング方法及びエッチング処理システムを適用したことで、エッチング液3中の硫酸濃度、酸化剤濃度は、設定値の±1%以内に維持することができた。
【0085】
5時間継続した前記エッチング処理操作のうち、最後にエッチング処理を行った20枚の樹脂試験片の1枚の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図3に示すとおりABS樹脂成分のブタジエンが選択的にエッチングされた点状の痕跡が多数確認された。一方 最後にエッチング処理を行った20枚の樹脂試験片のうち別の1枚を用い、無電解ニッケルめっき処理を行ったところ、図4に示すように治具と試験片の接触部以外に均一なめっき皮膜が形成された。なお、ここでの無電解ニッケルめっき処理は、以下のような方法で行った。
【0086】
エッチング処理後の試験片を50℃の温水に10分間浸漬した後、水洗し、さらに中和液(濃塩酸50mL/L,35℃)に1分間浸漬した。次に、試験片をパラジウム−スズコロイド触媒液(パラジウム濃度0.11g/L,スズ濃度10.7g/L,濃塩酸180mL/L,40℃)に2分間浸漬し、水洗した後に活性化液(濃塩酸100mL/L,40℃)へ10分間浸漬して活性化処理を行った。この試験片を水洗した後、無電解ニッケルめっき液(ニッケル濃度8.0g/L,pH9.0,40℃)に15分浸漬した。このような操作により無電解ニッケルめっき皮膜を形成させた。
【0087】
[実施例2]
実施例1と同様に銅イオンを添加したエッチング液3を調製し、実施例1と以下に示す条件以外は同様の方法で樹脂試験片のエッチングを実施した。すなわち、この実施例2においては、電解セル8に通電する電流を電極面の電流密度が12A/dmとなるよう一定条件で電解を行い、電解のみでは不足する酸化剤成分を演算・制御装置14により硫酸、過酸化水素水、及び/又は純水の添加量を制御する方法で供給した。これらを合計して演算・制御装置14によりエッチング液3中の硫酸濃度が一定となるよう硫酸、過酸化水素水、及び/又は純水の添加量を制御した。
【0088】
この実施例2では、実施例1と異なり、エッチングに供する樹脂試験片及び治具をあらかじめ純水に浸漬し、それらに水分が付着した状態でエッチング液3に浸漬する操作を行う方法で処理を実施した。この方法により、エッチング処理の前工程からの水分混入により、エッチング液3の成分が薄まることを模擬した検討とした。
【0089】
エッチング処理を進める過程で、エッチング液3の一部が樹脂サンプルに付着して、エッチング槽2から持ち出されることによる、エッチング液3の液位低下に対する制御は、実施例1と同様に行った。なお、本実施例2において、エッチング槽2内に持ち込まれる水量は、エッチング後の試験片や治具とともにエッチング槽2から持ち出される液量の約1/3であった。
【0090】
このようなエッチング処理を5時間継続し、合計420枚の樹脂試験片をエッチングした。この間、実施例2の樹脂成形体用エッチング方法、及びエッチング処理システムを適用することで、エッチング液3中の硫酸濃度、酸化剤濃度は、設定値の±1%以内に維持され、実施例1と同等のエッチング液3の液性を保つことができた。
【0091】
[比較例1]
実施例1と同様に銅イオンを添加したエッチング液3を調製し、実施例1と同様の方法で樹脂試験片のエッチングを実施した。ただし、この比較例1においては、エッチング処理を行っている間、酸化剤濃度計13の計測結果に基づき、酸化剤濃度50mmol/Las Oを維持するように演算・制御装置14で演算を行い、その結果に基づき電解セル8に通電する電流を0〜15Aの範囲で制御する操作を行ったが、硫酸、過酸化水素、純水等を添加する方法による酸化剤の生成操作は行わなかった。
【0092】
エッチング処理を進める過程で、エッチング液3の一部が樹脂サンプルに付着して、エッチング槽2から持ち出され、エッチング液3の液位が低下した。この比較例1では、エッチング液3の液位が満杯の状態から10mm低下したときに、液面計15からの信号に基づき演算・制御装置14で演算を行い、エッチング液3に補充する液が80重量%の硫酸溶液となるように97重量%硫酸及び純水の必要添加量を決定し、エッチング槽2内に自動的に添加した。そして、エッチング液3の液位が低下した際の液補充操作に過酸化水素水を使用せず、液位調整操作により過硫酸成分が生成することがない条件での検討とした。
【0093】
このようなエッチング処理を5時間継続し、合計420枚の樹脂試験片をエッチングした。この間、エッチング液3中の硫酸濃度は維持されたものの、酸化剤濃度が低下し、7mmol/Lとなった。
【0094】
5時間継続した前記エッチング処理操作のうち、最後にエッチング処理を行った20枚の樹脂試験片の1枚を用い、実施例1と同様の方法で無電解ニッケルめっき処理を行ったところ、図4に示すように一部にめっき皮膜が形成されない不均一な表面状態となった。
【0095】
この比較例1では、電解セル8に通電する電流値を上限まで高めた運転を継続したが、樹脂エッチングに必要な酸化剤濃度を維持できない結果となった。比較例1のような方法により良好なエッチング効果を得るためには、電解セル8の台数を増やす必要があり、電解セル8の増設のコストや電解のためのエネルギーの消費量が多大となることが明らかである。
【0096】
[比較例2]
実施例1と同様に銅イオンを添加したエッチング液3を調製し、実施例1と同様の方法で樹脂試験片のエッチングを実施した。ただし、比較例2においては、エッチング処理を行っている間、硫酸濃度計12及び酸化剤濃度計13の計測結果に基づき、硫酸濃度80重量%、酸化剤濃度50mmol/Las Oを維持するように演算・制御装置14で演算を行い、その結果に基づき硫酸、過酸化水素、純水の添加量を制御する操作を行ったが、電解セル8を用いた酸化剤生成操作は行わなかった。
【0097】
エッチング処理を進める過程で、エッチング液3の一部が樹脂サンプルに付着して、エッチング槽2から持ち出されることによる、エッチング液3の液位低下に対する制御は、実施例1と同様に行った。なお、比較例2においては、硫酸濃度計12で計測された硫酸濃度を所定の値に制御する操作を、酸化剤濃度計13で計測された酸化剤濃度を所定の値に制御する操作よりも優先するロジックで制御を行った。
【0098】
このようなエッチング処理を5時間継続し、合計420枚の樹脂試験片をエッチングした。この間、エッチング液3中の硫酸濃度は維持されたものの、酸化剤濃度が低下し0.5mmol/Lとなった。
【0099】
5時間継続した前記エッチング処理操作のうち、最後にエッチング処理を行った20枚の樹脂試験片の1枚を用い、実施例1と同様の方法でSEM観察を行った結果を図5に示す。図5から明らかなとおり、比較例2のABS樹脂試験片では実施例1の処理を行ったABS樹脂試験片に見られたようなブタジエンが選択的にエッチングされたような痕跡は認められず、エッチングの状態が不十分であることが確認された。
【0100】
また、最後にエッチング処理を行った20枚の樹脂試験片のうち別の1枚を用い、実施例1と同様の方法で無電解ニッケルめっき処理を行ったところ、図4に示すようにまだらな表面に変化し、均一なめっき皮膜は形成されない結果となった。
【0101】
本比較例2の条件では、電解セル8を用いた酸化剤生成操作なしでは、樹脂エッチングに必要な酸化剤濃度を維持できないことが明らかとなった。比較例2の方法では、エッチング液3を多量に入れ替えない限り、良好なエッチング効果を得ることができないことが明らかである。本比較例において、良好なエッチング効果を得るためには、例えば図2のシステムに例示した排液ライン19よりエッチング液3を多量に排出しながらエッチングを行う必要があり、各種薬液の使用量が多大となり不経済である。
【0102】
[比較例3]
酸化剤濃度計13で計測された酸化剤濃度を所定の値に制御する操作を、硫酸濃度計12で計測された硫酸濃度を所定の値に制御する操作よりも優先するロジックで制御を行ったこと以外は、比較例2と同様の方法によりエッチング処理を行った。
【0103】
しかしながら、この比較例3においては、エッチング処理開始後まもなく、エッチング液3中の酸化剤濃度、硫酸濃度ともに濃度低下を抑えられず、制御不能となったため処理を中止した。
【0104】
これらのことから比較例3の条件では、樹脂エッチングに必要な硫酸濃度、酸化剤濃度のいずれも維持できないことが明らかとなった。本比較例において、良好なエッチング効果を得るためには、エッチング液3を多量に入れ替えない限り、良好なエッチング効果を得ることができないことが明らかである。
【符号の説明】
【0105】
1,11 エッチング液の製造装置(樹脂成形体のエッチング処理システム)
2 エッチング槽
3 エッチング液
4 加熱器(温度制御機構)
5 循環配管
6 循環ポンプ
7 熱交換器
8 電解セル
8A アノード極
8B カソード極
9 直流電源装置
12 硫酸濃度計(硫酸濃度測定手段)
13 酸化剤濃度計(酸化剤濃度測定手段)
14 演算・制御装置
15 液面計
16 硫酸供給制御機器
17 過酸化水素供給制御機器
18 純水供給制御機器
19 廃液ライン
19A 開閉弁
【要約】
【課題】 6価クロム酸や過マンガン酸といった健康や環境に対し多大な影響を及ぼす規制対象物質を使用することなく、各種材料表面の洗浄や改質、特に樹脂材料表面へのめっき処理に先立って行われる樹脂成形体のエッチングを実施し、目的とする表面状態を得ることが可能な樹脂成形体のエッチング方法を提供する。
【解決手段】 エッチング処理システム1は、エッチング液3を受けるエッチング槽2と、このエッチング槽2内に配置された加熱器4とを備える。このエッチング槽2には、エッチング槽2の底部を出て再度エッチング槽2に還流する循環配管5が設けられている。この循環配管5には、循環ポンプ6と熱交換器7とアノード極8Aとカソード極8Bとを有する電解セル8とが設けられている。そして、循環配管5の電解セル8の手前には、酸化剤濃度計と、硫酸濃度計とが設けられている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5