特許第6988999号(P6988999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6988999
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】セラミックス基体およびサセプタ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20211220BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20211220BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   C04B35/117
   H01L21/68 N
   H01L21/302 101G
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-510993(P2020-510993)
(86)(22)【出願日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2019013652
(87)【国際公開番号】WO2019189600
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2018-66504(P2018-66504)
(32)【優先日】2018年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 守
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 直人
(72)【発明者】
【氏名】釘本 弘訓
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−206436(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/024605(WO,A1)
【文献】 特開2003−152065(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0140970(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/117
H01L 21/683
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素粒子を含む誘電体材料を形成材料とするセラミックス基体であって、
前記誘電体材料が、主相として絶縁性材料を有し、副相として炭化ケイ素粒子を有し、
前記絶縁性材料は、酸化アルミニウム粒子、及び酸化イットリウム粒子のいずれか一方または両方であり、
前記基体の表面における単位面積当たりの前記炭化ケイ素粒子の個数が、前記基体の断面における単位面積当たりの前記炭化ケイ素粒子の個数よりも少ないセラミックス基体。
【請求項2】
前記炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.2μm以下である請求項1に記載のセラミックス基体。
【請求項3】
前記誘電体材料が、
主相として、平均結晶粒径が5μm以下である、酸化アルミニウム粒子、または、酸化イットリウム粒子を有し、
副相として、平均粒子径が0.2μm以下の炭化ケイ素粒子を有する、
請求項1または2に記載のセラミックス基体。
【請求項4】
前記表面に複数の突起部を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミックス基体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のセラミックス基体を備え、
前記セラミックス基体の表面が板状試料を載置する載置面である、サセプタ。
【請求項6】
載置板としての請求項1から4のいずれか1項に記載のセラミックス基体と、支持板と、セラミックス基体と支持板との間に設けられた静電吸着用電極と、静電吸着用電極の周囲を絶縁する絶縁材層と、を含む静電チャック部と、
温度調節用ベース部と、
静電チャック部と温度調節用ベース部の間に設けられた接着剤層と、を含む、
静電チャック装置。
【請求項7】
主相として酸化アルミニウム粒子または酸化イットリウム粒子を有し、副相として炭化ケイ素粒子を有する複合焼結体からなる基材に、ブラスト加工を行い、複数の突起部を形成する、第一工程と、
前記第一工程の後に行われる、以下の(a)から(c)の少なくとも1つのサブ工程を含む第二工程と、
(a)前記基材を、処理用のチャンバー内で、900℃以上、1300℃以下で熱処理する工程、
(b)前記基材の突起部を有する表面に、レーザー光を照射して、熱処理する工程、
(c)前記基材の突起部を有する表面を、酸処理する工程、
を含むセラミックス基体の製造方法。
【請求項8】
前記第一工程の前に、前記基材に、基材の底部側を支持する支持板と、基材と支持板との間に設けられた静電吸着用電極、および静電吸着用電極の周囲を絶縁する絶縁材層とを加える工程を含む、
請求項7に記載のセラミックス基体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基体およびサセプタに関する。
本願は、2018年3月30日に、日本に出願された特願2018−066504号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマ工程を実施する半導体製造装置では、試料台に簡単に板状試料(ウエハ)を取付けて、固定することができるとともに、そのウエハを所望の温度に維持することができる、サセプタが用いられている。サセプタの一つである静電チャック装置は、一主面がウエハを載置する載置面である基体と、載置面に載置したウエハとの間に静電気力(クーロン力)を発生させる静電吸着用電極と、を備えている。通常、基体は誘電体材料を形成材料としている。
【0003】
このような静電チャック装置として、誘電体材料製の載置面を加工して複数の突起形状を設け、突起形状の頂面で板状試料を保持する構成の装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような装置では、突起部の間の空間に冷却用のガスを流動させることにより、板状試料を冷却し、板状試料の温度制御を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−27207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような静電チャック装置では、突起形状の頂面と板状試料とが接触し、突起形状が板状試料から摩擦を受けることにより、突起形状から誘電体材料の欠片が脱落することがある。このような欠片は、「パーティクル」と称されることがある。
パーティクルが板状試料に付着すると、プラズマ工程でのエッチングばらつきや、後の工程の汚染の原因となる。そのため、パーティクルの発生を抑制したセラミックス基体およびサセプタが求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体およびサセプタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、炭化ケイ素粒子を含む誘電体材料を形成材料とするセラミックス基体であって、基体の表面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数が、基体の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数よりも少ないセラミックス基体を提供する。
【0008】
炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.2μm以下である構成としてもよい。
【0009】
本発明の二の態様は、上記のセラミックス基体を備え、セラミックス基体の表面が板状試料を載置する載置面であるサセプタを提供する。
本発明の三の態様は、載置板としての上述のセラミック基体と、支持板と、セラミック基体と支持板との間に設けられた静電吸着用電極と、静電吸着用電極の周囲を絶縁する絶縁材層と、を含む静電チャック部と、温度調節用ベース部と、静電チャック部と温度調節用ベース部の間に設けられた接着剤層と、を含む、静電チャック装置を提供する。
上記態様に述べられるセラミックス基体は、主相として酸化アルミニウム粒子または酸化イットリウム粒子を有し、副相として炭化ケイ素粒子を有する複合焼結体からなる基材に、ブラスト加工を行い複数の突起部を形成する第一工程と、前記突起形成工程の後に行われる、以下の(a)から(c)の少なくとも1つのサブ工程を含む第二工程とを含む方法によって、形成されても良い。
(a)前記基材を、処理用のチャンバー内で、900℃以上、1300℃以下で熱処理する工程;(b)前記基材の突起部を有する表面に、レーザー光を照射して、熱処理する工程;(c)前記基材の突起部を有する表面を、酸処理する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体およびサセプタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】セラミックス基体(載置板)を適用した静電チャック装置を示す概略断面図である。
図2A】第1実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図2B】第1実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図2C】第1実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図2D】第1実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図2E】第1実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図3A】第2実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図3B】第2実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図3C】第2実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す概略工程図である。
図4】第3実施形態の静電チャック装置の製造方法における酸処理を示す概略工程図である。
図5図5は、実施例1の試験片の表面のSEM画像である。
図6図6は、比較例1の試験片の表面のSEM画像である。
図7図7は、実施例1および比較例1の各試験片の比誘電率を比較したグラフである。
図8図8は、実施例1および比較例1の各試験片の複素誘電率を比較したグラフである。
図9図9は、実施例1および比較例1の各試験片の漏れ電流を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、図を参照しながら、本実施形態に係るセラミックス基体およびサセプタの好ましい例について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは全て又は一部を適宜異ならせてある。本発明を逸脱しない範囲で、数や位置や大きさや数値や割合や量などの変更や省略や追加をする事ができる。以下の説明では、サセプタの一例として静電チャックを説明するが、本実施形態はこれに限定されない。サセプタの他の例としては、例えば真空吸着チャックや吸着式ピンセットや機械的な試料固定装置などを好ましく挙げることができる。
【0013】
[静電チャック装置(サセプタ)]
図1は、本実施形態のセラミックス基体を適用した静電チャック装置を示す断面図である。
【0014】
本実施形態の静電チャック装置1は、静電チャック部2と、温度調節用ベース部3と、を備えている。静電チャック部2は、一主面(上面)側を載置面とした平面視円板状である。温度調節用ベース部3は、前記静電チャック部2の下方に設けられて、静電チャック部2を所望の温度に調整する、厚みのある平面視円板状の部材である。また、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とは、静電チャック部2と温度調節用ベース部3の間に設けられた、接着剤層8を介して接着されている。
以下、順に説明する。
【0015】
(静電チャック部)
静電チャック部2は、載置板11(セラミックス基体)と、支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用電極13と、静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。載置板11は、その上面が、半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aである。支持板12は、前記載置板11と一体化され、該載置板11の底部側を支持する。載置板11は、本発明における「セラミックス基体」に該当する。
【0016】
載置板11および支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状の部材である。載置板11および支持板12は、機械的な強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するセラミックス焼結体(誘電体材料)からなる。
【0017】
載置板11および支持板12の形成材料である誘電体材料は、絶縁性材料中に導電性粒子を分散させた複合焼結体である。誘電体材料は、主相の絶縁性材料(粒子)として、酸化アルミニウム(Al)粒子、及び/又は酸化イットリウム(Y)粒子を有する。また、誘電体材料は、副相の導電性粒子として炭化ケイ素(SiC)粒子を有する。
【0018】
静電チャック装置1は、載置面11aにおける単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数が、載置板11の任意の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数よりも少ない。
上記特徴が満足されれば、個数の減少割合は任意に選択できる。例を挙げれば、(載置面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数)/(載置板の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数)の式で示される比が、必要に応じて、0.01〜0.99や、0.01〜0.85や、0.01〜0.70や、0.01〜0.50や、0.01〜0.40などから選択される、範囲に含まれても良い。その他、0.01〜0.10や、0.10〜0.20や、0.20〜0.30や、0.30〜0.60などの範囲であっても良い。
【0019】
載置面11aに存在する炭化ケイ素粒子は、パーティクル発生の原因の一つであると考えられる。従来の方法で製造された静電チャック装置では、載置板の表面と載置板の断面とで、単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数が略同一である。
【0020】
一方、本実施形態の静電チャック装置1は、後述の方法で製造することにより、載置板11の表面(載置面11a)における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数が、載置板11の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数よりも少なくなっている。このような静電チャック装置1は、パーティクルの発生が抑制されると考えられる。
【0021】
載置面11aおよび載置板11の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数は、載置板11から一部を切り出して得られた試験片を用い、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて、載置面11aおよび載置板の断面を観察することにより、測定することができる。載置面11aおよび載置板11の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数は、10個の試験片から得られる測定値の平均値を採用する。
【0022】
誘電体材料の主相である酸化アルミニウム粒子と、酸化イットリウム粒子の平均結晶粒径は、任意に選択できるが、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であるとより好ましい。また、酸化アルミニウム粒子、酸化イットリウム粒子の平均結晶粒径は、0.5μm以上であることが好ましい。ブラスト加工に伴うクラックは、粒子の境界に沿い進展する。そのため、主相の平均結晶粒径が上述のような値であれば、意図しないクラックが加工表面深部まで進展することを抑制できる。
【0023】
誘電体材料の副相である炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、任意に選択できるが、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であるとより好ましい。また、炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましい。副相の平均粒子径が上述の範囲内であれば、載置面11aにおける単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数を減少させやすい。
【0024】
主相の粒子の平均結晶粒径は、誘電体材料(基体)の一部を切り出して得られた試験片を用い、試験片の表面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで求めることができる。具体的には、得られた電子顕微鏡写真を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4)に取り込み、200個以上の結晶粒の長軸径を算出させた。得られた各結晶粒の長軸径の算術平均値を、求める「平均結晶粒径」とした。
【0025】
なお、上記ソフトウェアは、作業の簡略化のために使用しているものであり、電子顕微鏡写真から作業者がソフトウェアを用いることなく結晶粒の長軸径を読取り、平均結晶粒径を計算してもよい。その場合、TEMによる観察視野において確認できる結晶粒について2本の平行線を用いた接線径を求めたとき、当該結晶粒における最長の接線径を「長軸径」とする。
【0026】
なお、副相の粒子の平均粒子径についても、200個以上の炭化ケイ素粒子の長軸径を用いたこと以外は、上記と同様の方法により求められる。
主相を形成する酸化アルミニウム粒子及び/又は酸化イットリウム粒子と、副相を形成する炭化ケイ素粒子の比率は、任意に選択できるが、一般的には、体積%比で、99:1〜80:20であり、好ましくは97:3〜88:12である。ただしこれのみには限定されない。
【0027】
また、載置板11および支持板12は、形成材料である誘電体材料の理論密度に対する密度(相対密度)が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。当該相対密度の上限値は、理想的には100%である。
【0028】
載置板11の載置面11aには、直径が板状試料の厚みより小さい突起部11bが複数所定の間隔で形成され、これらの突起部11bが板状試料Wを支える。
【0029】
載置板11、支持板12、静電吸着用電極13および絶縁材層14を含めた全体の厚み、即ち、静電チャック部2の厚みは、任意に選択できるが、一例として0.7mm以上かつ5.0mm以下である。
【0030】
例えば、静電チャック部2の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部2の機械的強度を確保することが難しくなる場合がある。静電チャック部2の厚みが5.0mmを上回ると、静電チャック部2の熱容量が大きくなり、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化する場合がある。また、静電チャック部の横方向の熱伝達の増加により、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが難しくなる場合がある。なお、ここで説明した各部の厚さは一例であって、前記範囲に限るものではない。
【0031】
静電吸着用電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられる。その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
【0032】
静電吸着用電極13は、任意に選択される材料により形成される。前記電極は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al−Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体、酸化イットリウム−モリブデン(Y−Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により、形成されることが好ましい。
【0033】
静電吸着用電極13の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上かつ100μm以下の厚みを選択することができ、5μm以上かつ20μm以下の厚みがより好ましい。
【0034】
静電吸着用電極13の厚みが0.1μmを下回ると、充分な導電性を確保することが難しくなる場合がある。静電吸着用電極13の厚みが100μmを越えると、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との間の熱膨張率差に起因し、静電吸着用電極13と載置板11および支持板12との接合界面にクラックが入り易くなる。
【0035】
このような厚みの静電吸着用電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により、容易に形成することができる。
【0036】
絶縁材層14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護するとともに、載置板11と支持板12との境界部、すなわち静電吸着用電極13以外の外周部領域を接合一体化するものである。絶縁材層14は、載置板11および支持板12を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されている。
【0037】
(温度調節用ベース部)
温度調節用ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整するためのもので、厚みのある円板状のものである。この温度調節用ベース部3としては、例えば、その内部に冷媒を循環させる流路3Aが形成された液冷ベース等が好適である。
【0038】
この温度調節用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。この温度調節用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0039】
温度調節用ベース部3の上面側には、接着層6を介して絶縁板7が接着されている。接着層6はポリイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、および、絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂からなる。接着層は例えば厚み5〜100μm程度に形成される。絶縁板7はポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの耐熱性を有する樹脂の薄板、シートあるいはフィルムからなる。
【0040】
なお、絶縁板7は、樹脂シートに代え、絶縁性のセラミック板でもよく、またアルミナ等の絶縁性を有する溶射膜でもよい。
【0041】
(フォーカスリング)
フォーカスリング10は、温度調節用ベース部3の周縁部に載置される平面視円環状の部材である。フォーカスリング10は、例えば、載置面に載置されるウエハと同等の電気伝導性を有する材料を形成材料としている。このようなフォーカスリング10を配置することにより、ウエハの周縁部においては、プラズマに対する電気的な環境をウエハと略一致させることができ、ウエハの中央部と周縁部とでプラズマ処理の差や偏りを生じにくくすることができる。
【0042】
(その他の部材)
静電吸着用電極13には、静電吸着用電極13に直流電圧を印加するための給電用端子15が接続されている。給電用端子15は、温度調節用ベース部3、接着剤層8、支持板12を厚み方向に貫通する貫通孔16の内部に挿入されている。給電用端子15の外周側には、絶縁性を有する碍子15aが設けられ、この碍子15aにより金属製の温度調節用ベース部3に対し給電用端子15が絶縁されている。
【0043】
図では、給電用端子15を一体の部材として示しているが、複数の部材が電気的に接続して給電用端子15を構成していてもよい。給電用端子15は、熱膨張係数が互いに異なる温度調節用ベース部3および支持板12に挿入されている。このため、例えば、温度調節用ベース部3および支持板12に挿入されている部分について、それぞれ異なる材料で構成することとするとよい。
【0044】
給電用端子15のうち、静電吸着用電極13に接続され、支持板12に挿入されている部分(取出電極)の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではない。しかしながら、熱膨張係数が静電吸着用電極13および支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、Al−TaCなどの導電性セラミック材料からなることが好ましい。
【0045】
給電用端子15のうち、温度調節用ベース部3に挿入されている部分は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料からなる。
【0046】
これら2つの部材は、柔軟性と耐電性を有するシリコン系の導電性接着剤で接続するとよい。
【0047】
静電チャック部2の下面側には、ヒータエレメント5が設けられている。ヒータエレメント5は、一例として、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm程度の一定の厚みを有する非磁性金属薄板が挙げられ、形状も任意に選択できる。例えばチタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等を、フォトリソグラフィー法やレーザー加工により、所望のヒータ形状、例えば帯状の導電薄板を蛇行させた形状の全体輪郭を円環状に加工することで得られる。
【0048】
このようなヒータエレメント5は、静電チャック部2に非磁性金属薄板を接着した後に、静電チャック部2の表面で加工成型することで設けてもよい。あるいは、静電チャック部2とは異なる位置でヒータエレメント5を加工成形したものを、静電チャック部2の表面に転写印刷することで設けてもよい。
【0049】
ヒータエレメント5は、厚みの均一な耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状のシリコン樹脂またはアクリル樹脂からなる接着層4により支持板12の底面に接着・固定されている。
【0050】
ヒータエレメント5には、ヒータエレメント5に給電するための給電用端子17が接続されている。給電用端子17を構成する材料は先の給電用端子15を構成する材料と同等の材料を用いることができる。給電用端子17は、それぞれ温度調節用ベース部3に形成された貫通孔3bを貫通するように設けられている。給電用端子17の外周側には、絶縁性を有する筒状の碍子18が設けられる。
【0051】
また、ヒータエレメント5の下面側には温度センサー20が設けられている。本実施形態の静電チャック装置1では、温度調節用ベース部3と絶縁板7を厚さ方向に貫通するように設置孔21が形成され、これらの設置孔21の最上部に温度センサー20が設置されている。なお、温度センサー20はできるだけヒータエレメント5に近い位置に設置することが望ましい。このため、図に示す構造から更に接着剤層8側に突き出るように設置孔21を延在して形成し、温度センサー20とヒータエレメント5とを近づけることとしてもよい。
【0052】
温度センサー20は一例として石英ガラス等からなる直方体形状の透光体の上面側に蛍光体層が形成された蛍光発光型の温度センサーである。この温度センサー20が透光性および耐熱性を有するシリコン樹脂系接着剤等によりヒータエレメント5の下面に接着されている。
【0053】
蛍光体層は、ヒータエレメント5からの入熱に応じて蛍光を発生する材料からなる。蛍光体層の形成材料としては、発熱に応じて蛍光を発生する材料であれば多種多様の蛍光材料を選択できる。蛍光体層の形成材料は、一例として、発光に適したエネルギー順位を有する希土類元素が添加された蛍光材料、AlGaAs等の半導体材料、酸化マグネシウム等の金属酸化物、ルビーやサファイア等の鉱物を挙げることができる。前記形成材料は、これらの材料の中から適宜選択して用いることができる。
【0054】
ヒータエレメント5に対応する温度センサー20はそれぞれ給電用端子などと干渉しない位置であってヒータエレメント5の下面周方向の任意の位置にそれぞれ設けられている。
【0055】
これらの温度センサー20の蛍光からヒータエレメント5の温度を測定する温度計測部22は任意に選択できるが、一例として、以下の構成が挙げられる。温度計測部22は、温度調節用ベース部3の設置孔21の外側(下側)に前記蛍光体層に対し励起光を照射する励起部23と、蛍光体層から発せられた蛍光を検出する蛍光検出器24と、励起部23および蛍光検出器24を制御するとともに前記蛍光に基づき主ヒータの温度を算出する制御部25とから構成されることができる。
【0056】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられたガス穴28を有している。ガス穴28の内周部には筒状の碍子29が設けられている。
【0057】
このガス穴28には、ガス供給装置(冷却手段)(図示略)が接続される。ガス供給装置27からは、ガス穴28を介して板状試料Wを冷却するための冷却ガス(伝熱ガス)が供給される。冷却ガスは、ガス穴を介して載置板11の上面において複数の突起部11bの間に形成される溝19に供給され、板状試料Wを冷却する。
【0058】
さらに、静電チャック装置1は、温度調節用ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられた不図示のピン挿通孔を有している。ピン挿通孔は、例えばガス穴28と同様の構成を採用することができる。ピン挿通孔には、板状試料離脱用のリフトピンが挿通される。
静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0059】
[静電チャック装置の製造方法]
本実施形態の静電チャック装置の製造方法は、上述のような誘電体材料を形成材料とする基体の一主面(載置面)に、板状試料を静電吸着することが可能な、静電チャック装置の製造方法である。
詳しくは、本実施形態の静電チャック装置の製造方法は、誘電体材料を形成材料とする基材をブラスト加工した後に、少なくともブラスト加工した面を熱処理し、一主面に複数の突起部を有する基体を形成する工程を有する。
【0060】
静電チャック装置1が有する突起部11bは、基体の材料である誘電体基板にブラスト加工を行って形成することがある。ブラスト加工は、誘電体基板の表面に加工用の微粒子(セラミック砥粒)を高速で吹き付け、微粒子が誘電体基板に衝突する際のエネルギーで掘削する方法である。ブラスト加工を施した基体表面には、形成材料として用いた炭化ケイ素粒子が存在していることがある。また、ブラスト加工を施した基体は、微粒子が衝突したものの表面を掘削するには至らなかった部分において、内部に意図しないクラックが形成されていることがある。
【0061】
静電チャック装置1の載置面11aに板状試料Wを載置した際、突起部11bが板状試料Wから摩擦を受けることがある。また、静電チャック装置を有するプラズマエッチング装置では、載置板11は、プラズマにより励起されたエッチングガスや電子による腐食を受ける。これらにより、当該炭化ケイ素粒子やクラックが存在する載置板では、突起部11bから誘電体材料の欠片、いわゆるパーティクルが脱落するおそれがある。そこで、本実施形態の静電チャック装置の製造方法においては、ブラスト加工後に熱処理を行い、基体表面の炭化ケイ素粒子を減少させるとともにクラックを補修する。
【0062】
本実施形態の静電チャック装置の製造方法として、具体的には、以下の製造方法を採用することができる。
なお以下の例では、誘電体材料を形成材料とする基材が、以下に記載される支持板などの他の部材と一体化されて、加工される例を示した。しかしながら、誘電体材料を形成材料とする基材を、単独で加工しても良いし、あるいは、下記に記載される以外の他の部材と一体化して処理しても良い。
【0063】
(静電チャック装置の製造方法1)
図2A図2Dは、第1実施形態の静電チャック装置の製造方法の例を示す工程図である。
まず図2Aに示すように、原基板2Xをブラスト加工し、複数の仮突起部112を形成する(仮突起部を形成する工程)。
【0064】
原基板2Xは、誘電体材料を形成材料とする基材11Xと、基材11Xと一体化され基材11Xの底部側を支持する支持板12と、基材11Xと支持板12との間に設けられた静電吸着用電極13、および静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。ブラスト加工前に、前記基材に、前記支持板と前記静電吸着用電極と前記絶縁材層とを加えるという、原基板を用意する工程を含んでも良い。原基板2Xの基材11Xは、本工程の前には、平らな主面を有することが好ましい。本工程においては、基材11Xにブラスト加工を施し、基材11Xの一主面に複数の仮突起部112を形成し、仮静電チャック部2Yを得る。
【0065】
仮突起部112は、形成すべき突起部11bよりも基材11Xの厚み方向の高さが高い。以下、仮突起部112が形成された基材を、「仮基体111」と称する。
【0066】
本工程では、基材11Xの一主面にセラミック砥粒Aを所望の位置に吹き付け、仮突起部112を形成する。この時、所望の位置に開口を有するマスクが好ましく使用できる。
その際、基材11Xの表面11Xaでは、形成材料として用いた炭化ケイ素粒子が存在していることがある。また、仮突起部112の内部や基材11Xの一主面側の内部では、セラミック砥粒Aの衝突による衝撃で、微小なクラックが生じることがある。
【0067】
次いで、図2Bに示すように、仮静電チャック部2Yの全体を熱処理することで、仮基体111を熱処理する(熱処理する工程)。
【0068】
仮基体111の熱処理は、700℃以上、仮基体111を構成する誘電体材料の焼結温度未満の、温度範囲で行う。熱処理温度は、900℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましい。また熱処理温度は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下が更に好ましい。仮基体111の熱処理は、不活性ガスまたは真空中で行われることが好ましい。
【0069】
上記上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。例えば、熱処理温度は、900℃以上、1300℃以下で行うことが好ましい。
【0070】
本工程の熱処理は、例えば仮基体111を熱処理用のチャンバー1000に入れ、チャンバー1000内を所定の熱処理温度とすることで行う。仮基体111の熱処理の雰囲気は、任意に選択できる。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、または真空雰囲気で行うことが好ましい。熱処理の時間も任意に選択でき、例えば30分以上180分以下で行うことができる。ただしこれのみに限定されない。発明者らが検討した結果、仮基体111を熱処理することで、基材11Xの表面11Xaから炭化ケイ素粒子が減少することがわかった。表面11Xaから炭化ケイ素粒子が減少する理由は定かではないが、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が十分小さく、熱処理により炭化ケイ素粒子が昇華しやすいためであると考えられる。また、本工程の処理により、ブラスト加工で生じた微小なクラックが修復される。
【0071】
次いで、図2Cに示すように、温度調節用ベース部3に、接着剤層8を介して熱処理後の仮静電チャック部2Y、すなわち熱処理後の仮基体111を取り付ける(熱処理後の仮基体を取り付ける工程)。
【0072】
次いで、図2D,2Eに示すように、複数の仮突起部112の頂面112xを加工して、複数の突起部11bを形成する(突起部を形成する工程)。図2Eは、図2Dにおいて符号αで示す部分の拡大模式図である。
【0073】
上述したように、仮基体111は誘電体材料を形成材料としており、温度調節用ベース部3は誘電体材料よりも熱膨張率が大きい金属材料を形成材料としている。そのため、仮基体111を温度調節用ベース部3に取り付けると、温度調節用ベース部3の変形に伴って、仮基体111が、仮基体111の上面である仮突起部112側が温度調節用ベース部3側に凸となるように、湾曲することがある。仮基体111に歪みが生じると、複数の仮突起部112において、頂面112xの高さ位置が揃わないことがある。
【0074】
そこで、高さ位置が揃わない場合などは、本工程で仮突起部112を加工することが好ましい。例えば、仮突起部112の頂面112xを、片面ラップ盤1100等で研削・ラップ加工して、突起部11bを形成する。
【0075】
図2Eに示すように、仮突起部112は、頂面112xが研磨されて仮突起部112よりも低い突起部11bとなる。このように作製される複数の突起部11bは、各突起部11bの頂面の高さ位置が揃ったものとなる。
【0076】
これにより、複数の突起部11bの頂面の高さ位置を揃えることができ、板状試料Wを支えたときに、板状試料Wを湾曲させることなく支持可能な静電チャック装置1を製造することができる。
【0077】
以上のような構成によれば、パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体および静電チャック装置を提供することができる。
【0078】
[第2実施形態]
(静電チャック装置の製造方法2)
図3A図3Cは、第2実施形態の静電チャック装置の製造方法を示す工程図である。
まず図3Aに示すように、接着剤層8を介して温度調節用ベース部3にブラスト加工前の原基板2Xを取り付ける(基材を取り付ける工程)。
【0079】
原基板2Xは、誘電体材料の焼結体である基材11Xと、基材11Xと一体化され基材11Xの底部側を支持する支持板12と、基材11Xと支持板12との間に設けられた静電吸着用電極13、および静電吸着用電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、を有している。
【0080】
次いで、図3Bに示すように、基材11Xをブラスト加工し、複数の突起部11bを形成する(突起部を形成する工程)。
【0081】
本工程では、基材11Xの一主面にセラミック砥粒Aを吹き付け、突起部11bを形成する。その際、基材11Xの表面11Xaでは、形成材料として用いた炭化ケイ素粒子が存在していることがある。また、突起部11bの内部や基材11Xの一主面側の内部では、セラミック砥粒Aの衝突による衝撃で、微小なクラックが生じることがある。
【0082】
次いで、図3Cに示すように、複数の突起部11bにレーザー光Lを照射して熱処理する(レーザー光を照射する工程)。
基材11Xへのパルスレーザーの照射方法や照射装置は任意に選択できる。例えば、レーザー光として、KrFエキシマレーザを用いることもできる。また、レーザー光の照射条件は必要に応じて選択してよい。例えば、エネルギー密度30〜5500mJ/cm2、照射時間30〜60分としても良い。
【0083】
通常、基材11Xを温度調節用ベース部3に取り付けた後では、装置全体を加熱して基材11Xを熱処理することができない。しかし、本実施形態では、突起部11bや、突起部11bの間にある一主面の表面に、パルスレーザー(レーザー光L)を照射して、熱処理を行う。照射方法は任意に選択でき、例えば、基材の上面全体を同時に照射しても良く、あるいは、レーザーを任意に選択されるパターンで移動させて照射を行っても良い。これにより、温度調節用ベース部3を加熱することなく、突起部11bを含む基材11Xの表面を局所的に加熱して、熱処理することができる。発明者らが検討した結果、本工程の処理により、基材11Xの表面11Xaから炭化ケイ素粒子が減少することがわかった。表面11Xaから炭化ケイ素粒子が減少する理由は定かではないが、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が十分小さく、レーザーによる熱処理により炭化ケイ素粒子が昇華しやすいためであると考えられる。また、本工程の処理により、ブラスト加工で生じた微小なクラックが修復され、載置板11が得られる。
【0084】
このとき、基材11Xを構成する焼結体の平均結晶粒径が、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であるとより好ましい。焼結体を構成する結晶粒の結晶粒径が小さい方が、レーザー光Lにより基材11Xの表面11Xaから炭化ケイ素粒子を減少させやすい。また、レーザー光Lによりクラックを修復しやすく、本工程の効果が高い傾向にある。
【0085】
以上のような構成によれば、パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体および静電チャック装置を提供することができる。
【0086】
なお、本実施形態の静電チャック装置の製造方法においては、温度調節用ベース部3に突起部11bを含む基材11Xを取り付けた後に、レーザー光Lを照射して熱処理を行ったが、これに限らない。原基板2Xを加工して突起部11bを形成し、レーザー光Lを照射して熱処理を行った後に、得られた静電チャック部2を温度調節用ベース部3に取り付けることとしてもよい。
また、必要に応じて、レーザー光Lを基材11Xの表面11Xaを照射する前に、あるいは後に、突起部11bを含む表面11Xaに、研削・ラップ加工を施しても良い。
【0087】
[第3実施形態]
(静電チャック装置の製造方法3)
本実施形態の静電チャック装置の製造方法においては、ブラスト加工後に酸処理を行い、パーティクルを低減させる。
【0088】
図4は、第3実施形態の静電チャック装置の製造方法における、酸処理を示す工程図である。なお、酸処理は、第2実施形態の突起部を形成する工程の後に行われる、レーザー光を照射する工程の代わりに行われる。本実施形態における基材を取り付ける工程および突起部を形成する工程は、第1実施形態と同様である。
【0089】
図4に示すように、複数の突起部11bが形成された基材11Xを、酸Rを用いて酸処理する。これにより、基材11Xの表面11Xaから炭化ケイ素粒子を減少させた載置板11が得られる。
【0090】
酸Rは、主相の酸化アルミニウム粒子、酸化イットリウム粒子を溶解せず、副相の炭化ケイ素(SiC)粒子を溶解する。酸Rの種類としては、フッ酸、硝酸、塩酸、フッ硝酸などが挙げられる。酸Rの種類としては、フッ硝酸が特に好ましい。酸処理の時間は任意に選択できる。
また、必要に応じて、酸処理の前に、突起部11bを含む表面11Xaに、研削・ラップ加工を施しても良い。
【0091】
以上のような構成によれば、パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体および静電チャック装置を提供することができる。
【0092】
なお、以上の実施形態では、誘電体材料を形成材料とする基材をブラスト加工した後に、ブラスト加工した面を、熱処理(熱処理用チャンバーで熱処理する工程及び/又はレーザー光を照射する工程)、または、酸処理するとしている。しかしながら、ブラスト加工した面に熱処理と酸処理との両方を施してもよい。これにより、ブラスト加工した面から炭化ケイ素粒子がより減少しやすい。また、本工程の処理により、ブラスト加工で生じた微小なクラックがより修復されやすい。どちらの処理を最初に行っても良いが、酸処理が先に行われる方が好ましい。
また前記2つの熱処理を組み合わせても良いし、これら処理にさらに酸処理を組み合わせても良い。これら3種類の処理のうち、2つ又は3つ処理を組み合わせる場合、処理の順番は任意に選択できる。例えば、酸処理を最初に行うことが好ましい。熱処理を最後に行うことが好ましい。
【0093】
また、以上の実施形態では、載置板11の載置面11aに突起部11bが形成されているとしたが、突起部11bが形成されていなくてもよい。すなわち、上述した静電チャック装置の製造方法において、誘電体材料を形成材料とする基材をブラスト加工しなくてもよい。このような静電チャック装置においても、製造時に基材の表面から炭化ケイ素粒子を減少させることにより、パーティクルの発生を抑制することの効果が得られると考えられる。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0095】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
(単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数)
試験片の表面および試験片の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数は、試験片から一部を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)にて、試験片の表面および試験片の断面を観察することにより、測定した。試験片の表面および試験片の断面における単位面積当たりの炭化ケイ素粒子の個数は、10個の試験片について得られる測定値の平均値を採用する。
【0097】
(主相の平均結晶粒径)
本実施例において、焼結体を構成する結晶粒の平均結晶粒径は、以下の方法で求めた。
まず、焼結体の表面を3μmのダイヤモンドペーストで鏡面研磨した後、アルゴン雰囲気下、1400℃で30分サーマルエッチングを施した。
次いで、得られた焼結体の表面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー株式会社製、型番:S−4000)を用いて、拡大倍率10000倍で組織観察を行った。
【0098】
得られた電子顕微鏡写真を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View Version4)に取り込み、200個の結晶粒について長軸径を算出させた。得られた各結晶粒の長軸径の算術平均値を、求める「平均結晶粒径」とした。
【0099】
(副相の平均粒子径)
200個以上の炭化ケイ素粒子の長軸径を用いたこと以外は、上記と同様の方法により求めた。
【0100】
(相対密度)
焼結体から、直径48mm、厚み4mmの大きさの試験片を切り出し、この試験片の真密度(do)をアルキメデス法により測定した。また、焼結体の組成から、焼結体の理論密度(dr)を求め、理論密度に対する真密度の比(do/dr)を百分率で表して、相対密度(%)とした。
【0101】
(焼結体の製造)
出発原料として、平均粒子径が0.03μmであり熱プラズマCVDで合成されたβ−SiC型の炭化ケイ素(β−SiC)粒子と、平均粒子径が0.1μmである酸化アルミニウム(Al)粒子とを用いた。β−SiC粒子の金属不純物量は、50ppmであった。また、Al粒子の金属不純物量は、150ppmであった。
【0102】
β−SiC粒子とAl粒子との全体量に対し、β−SiC粒子が8体積%となるように秤量し、分散剤が入った蒸留水に投入した。β−SiC粒子とAl粒子とを投入した分散液について、超音波分散装置にて分散処理の後、2流粒子衝突型の粉砕混合装置を用いて粉砕混合した。
【0103】
得られた混合溶液をスプレードライ装置にて噴霧乾燥させ、β−SiCとAlとの混合粒子とした。
【0104】
混合粒子をプレス圧8MPaで一軸プレス成形し、直径320mm×15mm厚の成形体とした。
【0105】
次いで、成形体を窒素雰囲気下、プレス圧を加えることなく500℃まで昇温させ、水分および分散剤(夾雑物)を除去した。その後、夾雑物を除去した成形体を大気中400℃に加熱し、成形体に含まれるβ−SiC粒子の表面を酸化した。
【0106】
得られた成形体を黒鉛製のモールドにセットし、加圧焼結を行った。焼結条件は、1100℃までは、真空雰囲気下、プレス圧5MPaとした。その後、アルゴン雰囲気下、プレス圧40MPa、1800℃で焼結を行い、焼結体を得た。
【0107】
得られた焼結体は、平均結晶粒径が1.2μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.15μmであった。
また、得られた焼結体は、形成材料である誘電体材料の理論密度に対する密度(相対密度)が97%以上であった。得られた焼結体を、以下の実施例と比較例に用いた。
【0108】
(実施例1)
焼結体の表面を研削した後、800メッシュのダイヤモンド砥石を用い、精密平面研削盤(黒田精工株式会社製、型番JK−105ATD)にて研削加工した。
さらに、研削加工した表面に400メッシュのSiC砥粒を用いてブラスト加工を施して焼結体の表面に下記条件の複数の突起部を形成した。
(条件)
突起部形状:平面視直径0.5m×高さ40μm
平面視における突起部の面積比:15%
【0109】
次いで、焼結体のブラスト加工面に1300℃に設定した加熱炉内にて3時間アニール処理し、実施例1の各試験片を作製した。
得られた焼結体の表面では、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が1.1個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.06μmであった。
得られた焼結体の断面では、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が3.5個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.14μm、であった。また、焼結体の相対密度は98%であった。
(実施例2)
焼結体のブラスト加工面に加熱炉でアニール処理する替わりに、レーザーアニール装置(AOV株式会社製、LAEX−1000、KrFエキシマレーザアニーリングシステム)を用いて焼結体のブラスト加工面にパルスレーザーを照射し、実施例2の各試験片を作製した。
(条件)
エネルギー密度:200mJ/cm
照射時間:40分
上述したようにパルスレーザーを照射した以外は実施例1と同様にして、実施例2の各試験片を作製した。
得られた焼結体の表面は、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が1.9個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.08μmであった。
得られた焼結体の断面は、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が3.6個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.15μmであった。また、焼結体の相対密度は98%であった。
(実施例3)
焼結体のブラスト加工面に加熱炉でアニール処理する替わりに、フッ硝酸(フッ酸50%+硝酸50%)で酸処理した以外は実施例1と同様にして、実施例3の各試験片を作製した。
なお得られた焼結体の表面においては、炭化ケイ素粒子が非常に小さく測定できなかった。
得られた焼結体の断面は、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が3.6個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.15μmであった。また、焼結体の相対密度は98%であった。
【0110】
(比較例1)
焼結体のブラスト加工面に加熱炉でアニール処理しないこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の試験片を作製した。
得られた焼結体の表面は、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が3.6個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.16μmであった。
得られた焼結体の断面は、単位面積当たりの炭化ケイ素の個数の平均値が3.6個/μm、炭化ケイ素粒子の平均粒子径が0.15μmであった。また、焼結体の相対密度は98%であった。
【0111】
[評価]
実施例1および比較例1の各試験片について、下記評価を行った。
【0112】
(パーティクル評価)
実施例1および比較例1の各試験片の表面を、SEMを用いて撮像し、各試験片の表面状態を確認した。図5は、実施例1の試験片の表面のSEM画像である。図6は、比較例1の試験片の表面のSEM画像である。
【0113】
(試験片の比誘電率・誘電正接・漏れ電流)
本実施例においては、プレシジョン・インピーダンス・アナライザー(Agilent Technologies社製、型番:4294A)および誘電体テスト・フィクスチャ(Agilent Technologies社製、型番:16451B)を用い、平行平板法にて比誘電率・誘電正接を測定した。
【0114】
2つの電極間に、1kVから1kVずつ段階的に上昇させ、最大値20kVの電圧を印加し、各電圧における漏れ電流を測定した。
【0115】
図7は、実施例1および比較例1の各試験片の比誘電率を比較したグラフである。図8は、実施例1および比較例1の各試験片の複素誘電率を比較したグラフである。図9は、実施例1および比較例1の各試験片の漏れ電流を比較したグラフである。
【0116】
図5および図6に示すように、実施例1の試験片の表面は、比較例1の試験片の表面と比較して凹凸が見られた。このことから、実施例1の試験片から、パーティクル発生の原因の一つである、表面の炭化ケイ素粒子が脱離していると考えられる。この結果から、実施例1の試験片は、比較例1の試験片と比較して炭化ケイ素粒子を原因とするパーティクル発生が抑制されると考えられる。
【0117】
図7〜9に示すように、実施例1および比較例1の各試験片の電気的特性(比誘電率、複素誘電率、漏れ電流)は同等であることが分かった。
【0118】
したがって、本発明を適用した実施例1の試験片は、電気的特性を維持しつつ、パーティクル発生を抑制されると考えられる。
【0119】
以上の結果から、本発明が有用であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
パーティクルの発生が抑制されたセラミックス基体を提供する。
【符号の説明】
【0121】
1…静電チャック装置
2 静電チャック部
2X 原基板
2Y 仮静電チャック部
3…温度調節用ベース部
3A 流路
3b 貫通孔
4 接着層
5 ヒータエレメント
6 接着層
7 絶縁板
8 接着剤層
10 フォーカスリング
11 載置板
11a 載置面
11b…突起部
11X…基材
11Xa 基材の表面
12 支持板
13 静電吸着用電極
14 絶縁材層
15 給電用端子
15a 碍子
16 貫通孔
17 給電用端子
18 筒状の碍子
19 溝
20 温度センサー
21 設置孔
22 温度計測部
23 励起部
24 蛍光検出器
25 制御部
28 ガス穴
29 碍子
111…仮基体
112…仮突起部
112x…頂面
1000 チャンバー
1100 片面ラップ盤
A セラミック砥粒
R 酸 L…レーザー光
W…板状試料
α 部分
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9