(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、冷却水系では、冷却水系で用いられている金属部材の腐食防止及びスケール防止、また、冷却水系内での細菌や藻類等の微生物の発生防止等のために、防食剤やスケール防止剤、殺菌剤、殺藻剤等の薬剤効果を有する成分(以下、効能成分とも言う。)を含む種々の水処理剤が使用されている。
このような目的で使用される水処理剤が添加された冷却水系では、高い薬剤効果を発揮し、かつ当該効果を維持するために、冷却水の流通経路の要所において、継続的に水処理剤由来の効能成分の濃度管理が行われている。
【0003】
添加した水処理剤由来の効能成分の濃度管理は、効能成分そのものの濃度を測定するのが理想的であるが、効能成分の種類によっては、簡便かつ迅速な濃度測定が困難な場合がある。また、数種類の効能成分が併用されることもあり、その場合は個々の効能成分の濃度を正確に測定するのに困難を伴う。
【0004】
このような問題に対して、効能成分とともに、トレーサー物質を含む水処理剤を冷却水系に添加し、冷却水中のトレーサー物質を測定することで、冷却水中の効能成分の濃度を管理する方法が提案されている。
例えば、特許文献1では、濃度管理を安定に実施できる水処理剤として、薬剤効果を有するカルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体と、トレーサー物質としてスルホン化ピレン系化合物を含み、pHが2以下に調整された水処理剤が提案されている。また、特許文献2では、濃度管理を安定に実施できる水処理剤として、薬剤効果を有するカルボン酸やカルボン酸塩を単量体単位として有する水溶性重合体と、トレーサー物質としてスルホン化ピレン系化合物を含み、pHが12以上に調整された水処理剤が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記引用文献1及び2に記載の水処理剤に含まれるスルホン化ピレン系化合物は、蛍光物質であることから、蛍光光度計を用いることにより、スルホン化ピレン系化合物の濃度を測定することが可能である。したがって、冷却水系に添加する水処理剤が同化合物を含むと、冷却水の流通経路の要所に蛍光光度計を設置することで、冷却水中のスルホン化ピレン系化合物の濃度をその場で測定することが可能となり、その数値から冷却水中の水処理剤に由来する効能成分の濃度を算出することができる。
【0007】
しかしながら、スルホン化ピレン系化合物は、日光、特に紫外線の照射下において分解し、また、薬剤効果を有するポリマー等と共に水に溶解すると、さらに分解が加速される。また、建物の屋外や屋上などの日光に晒される環境に設置して使用されるのが一般的な冷却塔設備等においては、スルホン化ピレン系化合物の貯蔵部や冷却水への供給経路を高度に遮光しない限り、スルホン化ピレン系化合物の測定結果から得られた効能成分の濃度は信頼性を欠くものになる。このような問題に対して、日光の照射下においてもスルホン化ピレン系化合物が分解せず、かつ薬剤効果を有するポリマー等と共に水に溶解しても分解が加速しないよう、水処理剤をpH2以下の酸性溶液や、12以上のアルカリ性溶液に調整する必要があり、水処理剤のpHの自由度が低いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、スルホン化ピレン系化合物の分解が抑制され、かつpHの自由度が高い水処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーと、スルホン化ピレン系化合物とを併用することで、スルホン化ピレン系化合物の分解が抑制され、かつpHの自由度が高い水処理剤を提供することができることを見出したことに基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1](メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーと、
スルホン化ピレン系化合物とを含み、
pHが2超12未満である、水処理剤。
[2]前記スルホン化ピレン系化合物が、ピレンテトラスルホン酸及びピレンテトラスルホン酸塩から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載の水処理剤。
[3]前記スルホン化ピレン系化合物が、1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩である、上記[1]又は[2]に記載の水処理剤。
[4]前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、スルホン酸基含有化合物に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の水処理剤。
[5]前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の水処理剤。
[6]前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、アリルエーテル化合物に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の水処理剤。
[7]前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の水処理剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スルホン化ピレン系化合物の分解が抑制され、かつpHの自由度が高い水処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味するものであり、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリロイル」との表記についても同様である。
【0014】
[水処理剤]
本発明の水処理剤は、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む(メタ)アクリル酸系ポリマーと、スルホン化ピレン系化合物とを含む。また、本発明の水処理剤は、pHが2超12未満であり、pHの自由度が高いことを特徴とする。
また、本発明の水処理剤は、冷却水系において、該水処理剤由来の効能成分の濃度管理を目的として、また、冷却水系で用いられている金属部材の腐食防止及びスケール防止、冷却水系内での細菌や藻類等の微生物の発生防止から選ばれる少なくとも1種を目的として、冷却水として用いられる工業用水や水道水またはこれらを脱気処理、軟水化処理もしくはろ過処理等した処理水に、添加されるものである。本発明の水処理剤は、本発明の水処理剤とは異なる水処理剤と併用して用いてもよい。
【0015】
本発明の水処理剤は、pH調整の容易さの観点から、pH3〜10であることが好ましく、より好ましくはpH4〜9、さらに好ましくはpH5〜8である。
【0016】
<(メタ)アクリル酸系ポリマー>
本発明において、(メタ)アクリル酸系ポリマーは、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含むポリマーである。
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーを水処理剤に含むことで、水処理剤のpHが2超12未満と広い範囲で、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制することが可能となる。すなわち、水処理剤のpHの自由度を高めることができる。
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制し、かつ冷却水系で用いられている金属部材の腐食防止及びスケール防止等の効果を有する効能成分であれば、特に限定されるものではないが、よりスルホン化ピレン系化合物の分解を抑制する観点から、下記(A)〜(C)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
(A)(メタ)アクリル酸に由来する構造単位のみからなるポリマー及びその塩
(B)(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、スルホン酸基含有化合物に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩
(C)(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、アリルエーテル化合物に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩
(D)(メタ)アクリル酸に由来する構造単位と、スルホン酸基含有化合物に由来する構造単位と、置換アクリルアミド化合物に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩
【0017】
(A)〜(D)における(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びその塩が挙げられる。前記(メタ)アクリル酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、スルホン化ピレン系化合物の分解をより抑制する観点から、アクリル酸(AA)が好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
(B)及び(D)におけるスルホン酸基含有化合物としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びその塩、2−スルホエチルメタクリレート等が挙げられる。(B)及び(D)における前記スルホン酸基含有化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、腐食防止及びスケール防止等の観点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩、並びにスチレンスルホン酸及びその塩が好ましく、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)及びその塩がより好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(C)におけるアリルエーテル化合物としては、例えば、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩、3−(メタ)アリルオキシ−1−ヒドロキシ−2−プロパンスルホン酸及びその塩が挙げられる。(C)におけるアリルエーテル化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、腐食防止及びスケール防止等の観点から、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩が好ましく、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)及びその塩がより好ましく、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウムがさらに好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(D)におけるアクリルアミド化合物としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、tert−ブチルアクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、腐食防止及びスケール防止等の観点から、tert−ブチルアクリルアミドが好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
(A)としては、スルホン化ピレン系化合物の分解をより抑制する観点から、アクリル酸及びその塩から選ばれる1種に由来するポリマー及びその塩であることが好ましい。
【0022】
(B)としては、腐食防止及びスケール防止等の観点から、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩、並びにアクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、スチレンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることが好ましく、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩、並びにアクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、スチレンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることがより好ましく、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩がさらに好ましい。
【0023】
(C)としては、腐食防止及びスケール防止等の観点から、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることが好ましく、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることがより好ましい。
【0024】
(D)としては、腐食防止及びスケール防止等の観点から、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、tert−ブチルアクリルアミドに由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることが好ましく、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、tert−ブチルアクリルアミドに由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩であることがより好ましい。
【0025】
前記(A)〜(D)における構造単位の配列は、特に限定されるものではなく、ランダム共重合体、交互重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、前記(A)〜(D)は、1種単独であっても、2種以上であってもよい。
【0026】
前記(B)〜(D)におけるポリマー及びその塩は、それぞれの構造単位とは異なるその他のモノマーに由来する構造単位を有してもよい。その含有量は、それぞれの構造単位を含むポリマー及びその塩の合計質量に基づいて、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。
前記その他のモノマーとしては、カルボン酸化合物、モノエチレン性不飽和炭化水素化合物、モノエチレン性不飽和酸のアルキルエステル、モノエチレン性不飽和酸のビニルエステル、置換アクリルアミド化合物、N−ビニル単量体化合物、水酸基含有不飽和単量体化合物、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族不飽和単量体化合物、及びスルホン酸化合物の1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
前記(A)〜(D)において、ポリマーの塩は、例えば、それぞれの構造単位を含むポリマーを製造した後、ポリマーを中和することによって得ることができる。また、ポリマーの構造単位に由来する成分として、モノマーの塩(例えば、アクリル酸塩等)を用いて重合することにより得ることもできる。このようにして得られるポリマーの塩は、ポリマーの完全中和物に限られるものではなく、部分中和物であってもよい。
前記(A)〜(D)におけるポリマーの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これらの塩は、希望する薬剤効果や、冷却水系に応じて、適したものを適宜選択して使用することができる。
【0028】
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。すなわち、前記(メタ)アクリル酸系ポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマー(A)〜(C)を、それぞれ1種単独で用いてもよく、例えば(メタ)アクリル酸系ポリマー(A)と(B)とを併用する等、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記(A)〜(D)の中でも、スルホン化ピレン系化合物の分解をより抑制する観点から、(B)及び(C)が好ましく、アクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩、並びにアクリル酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを含むポリマー及びその塩がより好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸系ポリマーの及びその塩の重量平均分子量は、1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜50,000であることがより好ましく、5,000〜30,000であることがさらに好ましく、8,000〜20,000であることがよりさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であれば、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制することが可能となる。
なお、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0031】
水処理剤中の(メタ)アクリル酸系ポリマーの含有量は、特に限定されるものではないが、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上であり、取り扱い易さや粘性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
水処理剤の有効成分中における(メタ)アクリル酸系ポリマーの含有量は、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制する観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、よりさらに好ましくは99質量%以上である。
なお、本発明において、有効成分とは水処理剤から水等の溶媒を除いた成分を意味する
【0032】
冷却水系に本発明の水処理剤を添加する際、スルホン化ピレン系化合物の分解を抑制する観点、並びに腐食防止及びスケール防止から選ばれる少なくとも1種の効果を発揮する観点から、冷却水系における(メタ)アクリル酸系ポリマーの濃度が、0.1mg/L以上100mg/L以下となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.5mg/L以上50mg/L以下、さらに好ましくは1mg/L以上10mg/L以下である。
【0033】
<スルホン化ピレン系化合物>
スルホン化ピレン系化合物は、蛍光物質であり、本発明の水処理剤を添加した冷却水に含まれる、当該水処理剤に由来の(メタ)アクリル酸系ポリマーや、その他効能成分の濃度を蛍光光度法により間接的に測定するためのトレーサー物質である。
スルホン化ピレン系化合物としては、水処理剤に含まれる(メタ)アクリル酸系ポリマー及びその他効能成分のトレーサー物質として機能し得るものであれば各種のものを用いることができ、例えば、ピレンスルホン酸またはその塩を用いるのが好ましい。ピレンスルホン酸塩は、通常、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩である。ピレンスルホン酸とその塩とは適宜併用することもできる。
【0034】
ピレンスルホン酸またはその塩は、それぞれスルホ基またはスルホン酸塩基の置換数が化学的に許容されるものであれば特に限定されるものではないが、入手容易性の観点から、スルホ基またはスルホン酸塩基が四つ置換したもの、すなわち、ピレンテトラスルホン酸またはその塩が好ましく、1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸またはその塩(例えば、四ナトリウム塩)がより好ましい。ピレンテトラスルホン酸とその塩とは適宜併用することもできる。
【0035】
水処理剤中のスルホン化ピレン系化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、濃度管理を安定に実施する観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上であり、コスト抑制の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
水処理剤の有効成分中におけるスルホン化ピレン系化合物の含有量は、濃度管理を安定に実施する観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上であり、コスト抑制の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
冷却水系に本発明の水処理剤を添加する際、濃度管理を安定に実施する観点から、冷却水系におけるスルホン化ピレン系化合物の濃度が、0.01mg/L以上10mg/L以下となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.02mg/L以上5mg/L以下、さらに好ましくは0.05mg/L以上3mg/L以下である。
【0037】
本発明の水処理剤のpHは、通常、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸水溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液等を添加することで調整することができる。
【0038】
本発明の水処理剤は、その使用目的に応じて、また本発明の効果を妨げない範囲内において、(メタ)アクリル酸系ポリマー及びスルホン化ピレン系化合物以外の効能成分を含んでいてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸系ポリマー以外の防食剤やスケール防止剤、殺菌剤、殺藻剤、分散剤、スライムコントロール剤、剥離剤、消泡剤等の他の添加剤を併用してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【0040】
[(メタ)アクリル酸系ポリマー]
下記実施例において、(メタ)アクリル酸系ポリマーとして用いたポリマーの詳細を下記に示す。
なお、下記におけるポリマーの構成単位は、由来の成分名(モノマー)で表している。AAはアクリル酸、AMPSは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、HAPSは3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウムを表す。
・(メタ)アクリル酸系ポリマー(i):「アキュゾール587」(AA/AMPS共重合体、ダウケミカル社製、モノマー比AA:AMPS=79:21、重量平均分子量:11,000)
・(メタ)アクリル酸系ポリマー(ii):「GL386」(AA/HAPS共重合体、株式会社日本触媒製、モノマー比AA:HAPS=80:20、重量平均分子量:9,310)
【0041】
[スルホン化ピレン系化合物]
下記実施例及び比較例において、スルホン化ピレン系化合物として用いた化合物を下記に示す。
・1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩(Spectra Colors Corporation製)
【0042】
<実施例1>
純水に、(メタ)アクリル酸系ポリマー(i)を濃度が20質量%となるように、また1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩の濃度が0.01質量%となるように、(メタ)アクリル酸系ポリマー(i)と1,3,6,8−ピレンテトラスルホン酸四ナトリウム塩を添加、混合し、水溶液を調製した。その水溶液に、硫酸または水酸化ナトリウムを添加して、pHが4.0、6.4、及び11.1である水処理剤を得た。
製造直後のそれぞれのpHを有する水処理剤について、分光蛍光光度計「opti−check」(TURNER DESIGN社製)を用いて、365nmの光でスルホン化ピレン系化合物を励起させた後、400nmの蛍光波長の蛍光強度(以下、「基準蛍光強度」と言う。)を測定した。
【0043】
続いて、それぞれのpHを有する水処理剤を、それぞれ別々の100mL容量のポリエチレン容器に100mL入れ、水処理剤が入ったポリエチレン容器を、晴天時の屋外に放置することで直射日光に曝露させた。曝露開始から1時間後に、曝露後のそれぞれのpHを有する水処理剤について、前記と同様に、前記分光蛍光光度計を用いて、385nmの蛍光波長の蛍光強度を測定し、基準蛍光強度に対する蛍光強度の残存率(1時間曝露後の水処理剤の蛍光強度/基準蛍光強度×100:単位%)を求めた。なお、本発明において、基準蛍光強度に対する蛍光強度の残存率が100%に近い値である程、スルホン化ピレン系化合物の分解が進んでいないことを意味する。
上記と同様に、それぞれのpHを有する水処理剤を、それぞれ別々のポリエチレン容器に100mL入れ、水処理剤が入ったポリエチレン容器を、晴天時の屋外に3時間放置することで直射日光に曝露させた水処理剤についても、基準蛍光強度に対する蛍光強度の残存率(3時間曝露後の水処理剤の蛍光強度/基準蛍光強度×100:単位%)を求めた。
その結果を表1に、また蛍光強度残存率(%)の経時変化を
図1に示す。
【0044】
<実施例2>
実施例1において、(メタ)アクリル酸系ポリマー(i)の代わりに(メタ)アクリル酸系ポリマー(ii)を用い、水処理剤のpHを4.1及び10.8にしたこと以外は同様にして、それぞれのpHを有する水処理剤の基準蛍光強度、1時間曝露後の水処理剤の蛍光強度、及び3時間曝露後の水処理剤の蛍光強度を測定し、蛍光強度残存率を求めた。
その結果を表1に、また蛍光強度残存率(%)の経時変化を
図2に示す。
【0045】
<比較例1>
実施例1において、(メタ)アクリル酸系ポリマー(i)の代わりにポリマレイン酸「Belclene272」(BWA社製、重量平均分子量:1,304)を用い、水処理剤のpHを6.2及び11.1としたこと以外は同様にして、それぞれのpHを有する水処理剤の基準蛍光強度、1時間曝露後の水処理剤の蛍光強度、及び3時間曝露後の水処理剤の蛍光強度を測定し、蛍光強度残存率を求めた。
その結果を表1に、また蛍光強度残存率(%)の経時変化を
図3に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1及び
図1〜3から明らかなように、スルホン化ピレン系化合物と(メタ)アクリル酸系ポリマーを含み、pH2超12未満である水処理剤は、スルホン化ピレン系化合物の分解が抑制されていることが分かる。