【文献】
浅田匡彦ら,ガス吸着測定による顔料の凝集構造の解析 −顔料の凝集度と分散性−,色材,2001, Vol.74, No.10,p.483-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
一実施形態のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を用意する第1の工程と、当該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を顔料化する第2の工程(顔料化工程)と、を有する。第2の工程は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、液体状態の有機溶剤及びドライアイスと共に混練することで磨砕する工程(微細化工程)を含む。
【0019】
第1の工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を用意する。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、例えば、合成直後のハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させて得られたもの(例えばハロゲン化亜鉛フタロシアニンの凝集体)であり、1種又はハロゲン原子数の異なる複数種のハロゲン化亜鉛フタロシアニンを含有する。
【0020】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、下記式(1)で表される構造を有する化合物である。
【化1】
[式(1)中、X
1〜X
16は、各々独立に、水素原子又はハロゲン原子を表す。]
【0021】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、ハロゲン原子として、臭素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有することが好ましく、臭素原子を有することが好ましい。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、ハロゲン原子として、塩素原子及び臭素原子の一方又は両方のみを有していてもよい。すなわち、上記式(1)中のX
1〜X
16は、塩素原子又は臭素原子であってよい。
【0022】
一態様において、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の臭素原子の数の平均は、13個未満である。臭素原子の数の平均は、12個以下又は11個以下であってよい。臭素原子の数の平均は、0.1個以上、6個以上又は8個以上であってよい。上述の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、臭素原子の数の平均は、0.1個以上13個未満、8〜12個又は8〜11個であってよい。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0023】
臭素原子の数の平均が13個未満である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中のハロゲン原子の数の平均は、14個以下、13個以下、13個未満又は12個以下であってよい。ハロゲン原子の数の平均は、0.1個以上であり、8個以上又は10個以上であってもよい。
【0024】
臭素原子の数の平均が13個未満である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の塩素原子の数の平均は、5個以下、3個以下、2.5個以下又は2個未満であってよい。塩素原子の数の平均は、0.1個以上、0.3個以上、0.6個以上、0.8個以上、1個以上、1.3個以上又は2個以上であってよい。
【0025】
他の一態様において、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の臭素原子の数の平均は、13個以上である。臭素原子の数の平均は、14個以上であってよい。臭素原子の数の平均は、15個以下であってよい。
【0026】
臭素原子の数の平均が13個以上である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中のハロゲン原子の数の平均は、13個以上、14個以上又は15個以上であってよい。ハロゲン原子の数の平均は、16個以下であり、15個以下であってもよい。
【0027】
臭素原子の数の平均が13個以上である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の塩素原子の数の平均は、0.1個以上又は1個以上であってよい。塩素原子の数の平均は、3個以下又は2個未満であってよい。
【0028】
上記ハロゲン原子の数(例えば、臭素原子の数及び塩素原子の数)は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(日本電子株式会社製のJMS−S3000等)を用いたハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の質量分析により特定することができる。具体的には、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、亜鉛原子と各ハロゲン原子の質量比から、亜鉛原子1個あたりの相対値として、各ハロゲン原子の数を算出することができる。
【0029】
第1の工程は、例えば、クロロスルホン酸法、ハロゲン化フタロニトリル法、溶融法等の公知の製造方法によりハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する工程と、合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させてハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を得る工程とを含む。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する工程は、例えば、水と反応して酸を発生する化合物を用いてハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する工程であってもよい。水と反応して酸を発生する化合物を用いてハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する方法としては、例えば、クロロスルホン酸法、溶融法等が挙げられる。
【0030】
クロロスルホン酸法としては、亜鉛フタロシアニンを、クロロスルホン酸等の硫黄酸化物系の溶媒に溶解し、これに塩素ガス、臭素を仕込みハロゲン化する方法が挙げられる。この際の反応は、例えば、温度20〜120℃かつ3〜20時間の範囲で行われる。クロロスルホン酸法では、上記クロロスルホン酸等の硫黄酸化物系の溶媒が水と反応して酸を発生する化合物である。例えば、クロロスルホン酸は、水と反応して塩酸と硫酸を発生する。
【0031】
ハロゲン化フタロニトリル法としては、例えば、芳香環の水素原子の一部又は全部が臭素の他、塩素等のハロゲン原子で置換されたフタル酸又はフタロジニトリルと、亜鉛の金属又は金属塩を適宜出発原料として使用して、対応するハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する方法が挙げられる。この場合、必要に応じてモリブデン酸アンモニウム等の触媒を用いてもよい。この際の反応は、例えば、温度100〜300℃かつ7〜35時間の範囲で行われる。
【0032】
溶融法としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム、四塩化チタン等のハロゲン化チタン、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物(以下、「アルカリ(土類)金属ハロゲン化物」という)、塩化チオニルなど、各種のハロゲン化の際に溶媒となる化合物の一種又は二種以上の混合物からなる10〜170℃程度の溶融物中で、亜鉛フタロシアニンをハロゲン化剤にてハロゲン化する方法が挙げられる。溶融法では、上記ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化チタン、アルカリ(土類)金属ハロゲン化物、塩化チオニル等のハロゲン化の際に溶媒となる化合物が水と反応して酸を発生する化合物である。例えば、塩化アルミニウムは、水と反応して塩酸を発生する。
【0033】
好適なハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムである。ハロゲン化アルミニウムを用いる上記方法における、ハロゲン化アルミニウムの添加量は、亜鉛フタロシアニンに対して、通常は、3倍モル以上であり、好ましくは10〜20倍モルである。
【0034】
ハロゲン化アルミニウムは単独で用いてもよいが、アルカリ(土類)金属ハロゲン化物をハロゲン化アルミニウムに併用すると溶融温度をより下げることができ、操作上有利になる。好適なアルカリ(土類)金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウムである。加えるアルカリ(土類)金属ハロゲン化物の量は溶融塩を生成する範囲内でハロゲン化アルミニウム10質量部に対してアルカリ(土類)金属ハロゲン化物が1〜15質量部が好ましい。
【0035】
ハロゲン化剤としては、塩素ガス、塩化スルフリル、臭素等が挙げられる。
【0036】
ハロゲン化の温度は10〜170℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。さらに、反応速度を速くするため、加圧することも可能である。反応時間は、5〜100時間であってよく、好ましくは30〜45時間である。
【0037】
前記化合物の二種以上を併用する溶融法は、溶融塩中の塩化物と臭化物とヨウ化物の比率を調節したり、塩素ガス、臭素、ヨウ素等の導入量及び反応時間を変化させたりすることによって、生成するハロゲン化亜鉛フタロシアニン中における特定ハロゲン原子組成のハロゲン化亜鉛フタロシアニンの含有比率を任意にコントロールすることができるため好ましい。また、溶融法によれば、反応中の原料の分解が少なく原料からの収率がより優れ、強酸を用いず安価な装置にて反応を行うことができる。
【0038】
本実施形態では、原料仕込み方法、触媒種及びその使用量、反応温度並びに反応時間の最適化により、既存のハロゲン化亜鉛フタロシアニンとは異なるハロゲン原子組成のハロゲン化亜鉛フタロシアニンを得ることができる。
【0039】
上記いずれの方法であっても、反応終了後、得られた混合物を水、塩酸等の酸性水溶液、又は、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液中に投入し、生成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを沈殿(析出)させる。この際、上記水と反応して酸を発生する化合物を用いた場合は、塩酸、硫酸等の酸が発生するが、塩基性水溶液を用いる場合には、酸の発生がより抑制される。これにより、沈殿物中に酸が内包することを抑制することができ、粗顔料中に酸が残留することを抑制することができる。粗顔料が酸を内包すると、顔料化の際に酸による粒子の凝集が促進され、顔料粒子の微細化が阻害されると考えられるが、上記方法で粗顔料に内包される酸を低減することで、より微細な顔料粒子を得ることができる。
【0040】
第1の工程は、析出工程後に、上記沈殿物を、後処理する後処理工程をさらに含むことが好ましい。
【0041】
第1の工程は、例えば、上記沈殿物を濾過する工程(第1の後処理工程)をさらに含んでいてもよい。第1の後処理工程は、上記沈殿物をろ過し、洗浄する工程であってよく、上記沈殿物をろ過し、洗浄し、乾燥する工程であってよい。洗浄は、例えば、水、硫酸水素ナトリウム水、炭酸水素ナトリウム水、水酸化ナトリウム水等の水性溶剤を用いて行ってよい。洗浄では、必要に応じて、アセトン、トルエン、メチルアルコール、エチルアルコール、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤を用いてもよい。例えば、水性溶剤での洗浄後、有機溶剤での洗浄を行ってよい。洗浄は、複数回(例えば2〜5回)繰り返し行ってもよい。具体的には、ろ液のpHが洗浄に用いられる水のpHと同等(例えば、両者の差が0.2以下)になるまで洗浄を行うことが好ましい。
【0042】
第1の工程は、例えば、上記沈殿物を乾式磨砕する工程(第2の後処理工程)をさらに含んでいてもよい。乾式磨砕は、例えば、アトライター、ボールミル、振動ミル、振動ボールミル等の粉砕機内で行ってよい。乾式粉砕は、加熱しながら(例えば粉砕機内部の温度が40℃〜200℃となるように加熱しながら)行ってもよい。乾式磨砕後は水での洗浄を行ってもよい。乾式磨砕後(特にアトライターによる乾式磨砕後)に水での洗浄を行うことで、粗顔料に内包される酸の量をより一層低減することができる。洗浄は、水洗(40℃未満の水による洗浄)、湯洗(40℃以上の水による洗浄)のいずれであってもよい。洗浄は、第1の後処理工程と同様にろ液のpHが洗浄に用いられる水のpHと同等(例えば、両者の差が0.2以下)になるまで行うことが好ましい。なお、水での洗浄の際又はその前には、沈殿物の濡れ性を向上させる処理(例えば沈殿物をメタノール等の水溶性有機溶剤と接触させる処理)を行ってもよい。乾式磨砕と洗浄は複数回繰り返し行ってもよい。
【0043】
第1の工程は、例えば、上記沈殿物を水と共に混練する工程(第3の後処理工程)をさらに含んでいてもよい。第3の後処理工程を行うことで、粗顔料に内包される酸の量をより一層低減することができる。混練は、例えばニーダー、ミックスマーラー等を用いて行うことができる。混練は、加熱しながら行ってもよい。例えば、水の温度を40℃以上としてもよい。水には、無機塩を添加してもよい。この際、少なくとも一部の無機塩を固体状で存在させることで、混練時に加わる力を向上させることができる。混練時には有機溶剤(例えば、後述する第2の工程で用い得る有機溶剤)を使用してもよいが、有機溶剤の使用量は水の使用量よりも少ないことが好ましく、有機溶剤を使用しないことがより好ましい。混練後は、第1の後処理工程と同様にして洗浄を行ってもよい。混練及び洗浄は複数回繰り返し行ってもよい。
【0044】
第1の工程は、例えば、沈殿物を水中で加熱(例えば煮沸)する工程(第4の後処理工程)をさらに含んでいてもよい。第4の後処理工程を行うことで、粗顔料に内包される酸の量をより一層低減することができる。水中での加熱温度は、例えば、40℃以上沸点以下であってよく、加熱時間は、例えば、1〜300分間であってよい。水中には、有機溶剤(例えば、後述する第2の工程で用い得る有機溶剤)を混在させてもよいが、有機溶剤の混在量は、水100質量部に対して、好ましくは20質量部以下である。第4の後処理工程では、より一層酸を除去する観点から、沈殿物を水中で加熱した後に洗浄を行ってよく、沈殿物を水中で加熱した後に洗浄を行い、さらに水中での加熱及び洗浄を1回以上(好ましくは2回以上)繰り返し行ってもよい。洗浄は、第1の後処理工程と同様にして行ってよい。
【0045】
本実施形態では、上述した第1〜第4の後処理工程のうちの2以上の工程を実施してもよい。第1〜第4の後処理工程のうちの2以上の工程を実施する場合、その順序は特に限定されない。
【0046】
上記第1の工程により、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が得られるが、上述したとおり、本実施形態では、第1の工程で得られた上記沈殿物をそのままハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料としてよく、上記沈殿物に対して上記後処理工程(第1〜第4の後処理工程のうちの少なくとも一の工程)を行ったものをハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料としてもよい。
【0047】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、例えば、15nm以上である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、例えば、1500nm以下である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差がこのような範囲であると、より微細な顔料粒子が得られやすくなる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、動的光散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができ、具体的には以下の方法、条件で測定することができる。
<方法>
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料2.48gを、ビックケミー社製BYK−LPN6919 1.24g、DIC株式会社製ユニディックZL−295 1.86g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.92gと共に0.3〜0.4mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散して分散体を得る。ジルコンビーズをナイロンメッシュで取り除いた後の分散体0.02gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20gで希釈して粒度分布測定用分散体を得る。
<条件>
・測定機器:動的光散乱式粒子径分布測定装置LB−550(株式会社堀場製作所製)
・測定温度:25℃
・測定試料:粒度分布測定用分散体
・データ解析条件:粒子径基準 散乱光強度、分散媒屈折率 1.402
【0048】
第2の工程は、第1の工程で得られたハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、液体状態の有機溶剤及びドライアイスと共に混練することで磨砕する工程(微細化工程)を含む。
【0049】
本実施形態の製造方法では、上記微細化工程においてドライアイスを使用するため、得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の、トルエン吸着法によるBET比表面積(以下、Tol. BET比表面積」ともいう。)と窒素吸着法によるBET比表面積(以下、「N
2 BET比面積」ともいう。)との比(Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積)を大きくすることができる。
【0050】
ここで、顔料のTol. BET比表面積/N
2 BET比表面積が大きいことは、顔料の凝集領域への溶剤浸透性に優れることを意味する。平均一次粒子径が30nm以下となるような非常に微細な顔料では、顔料粒子が特に強く凝集しており、カラーフィルタ中に凝集性粗大粒子が残りやすくなるが、顔料の凝集領域への溶剤浸透性を向上させることで、凝集性粗大粒子が残り難くすることができる。
【0051】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料をドライアイスと共に混練して磨砕することでTol. BET比表面積/N
2 BET比表面積を大きくすることができる理由は、明らかではないが、磨砕時に局所的に発生する磨砕熱によりドライアイスが気化する際に、顔料粒子表面とドライアイスが気化熱の授受を行うことで、粒子の表面がわずかに凹凸に加工され、有機溶剤が浸透しやすい表面状態となる(例えば、窒素吸着法による全細孔深さが大きくなる)ことが理由の一つとして考えられる。
【0052】
また、本実施形態の製造方法では、上記微細化工程においてドライアイスを使用するため、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が冷却された状態で磨砕されることとなる。そのため、本実施形態の製造方法では、微細なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が得られる。この効果は、例えば、第1の工程で水と反応して酸を発生する化合物を用いることでハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が酸を内包する場合(例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料のpHが4.0以下である場合)に顕著となる傾向がある。この理由は次のように推察される。まず、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、酸の共存化で凝集するところ、微細化工程におけるハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の温度が高いと、当該粗顔料中に内包されていた酸が有機溶剤中に放出されるため、この酸によって凝集状態での磨砕が続くことになり、顔料の微細化が妨げられる。一方で、本実施形態の製造方法では、ドライアイスによってハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が冷却された状態で磨砕されるため、上記酸の放出及びこれによる顔料の凝集が起こり難く、従来の方法と比較してより微細な顔料粒子が得られやすいと考えられる。なお、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料のpHは、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料 5gをメタノール 5gと混合した後、さらにイオン交換水 100mlと混合し、得られた混合物を5分間加熱して煮沸状態とし、さらに5分間加熱して煮沸状態を維持し、加熱後の混合物を30℃以下に放冷した後、イオン交換水で混合物の全量を100mlに調整してからろ過し、得られたろ液の25℃でのpHを測定することにより確認できる。
【0053】
ドライアイスは、固体状の二酸化炭素である。ドライアイスの形状は、特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、塊状等であってよい。ドライアイスは磨砕時に発生する磨砕熱等によって気化するため、複数回に分けて投入してよい。これにより、混練装置内にドライアイスが存在する状態を維持することができる。
【0054】
ドライアイスの使用量及び投入のタイミングは、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の温度を指標として適宜調整してよい。具体的には、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の温度が−80〜10℃に維持されるように、ドライアイスを使用することが好ましい。これにより、より微細で、より溶剤浸透性が良好なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることができる。微細化工程におけるハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の温度は、より微細な顔料粒子が得られる観点から、好ましくは−10℃以下であり、より好ましくは−20℃以下である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の温度は、高粘度化により磨砕装置への負荷が大きくなることを防ぐ観点から、−50℃以上であってもよい。
【0055】
ドライアイスの総使用量は、特に限定されるものではないが、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して10〜150000質量部が好ましい。ドライアイスの総使用量は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して、100質量部以上、1000質量部以上又は2000質量部以上であってもよく、100000質量部以下、40000質量部以下又は30000質量部以下であってもよい。
【0056】
有機溶剤には、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料及び後述する無機塩を溶解しないものを用いることが好ましい。有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得る有機溶剤を使用することが好ましい。このような有機溶剤としては水溶性有機溶剤が好適に使用できる。有機溶剤としては、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、液体ポリエチレングリコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリメチルフォスフェート、4−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、エチレンシアノヒドリン等を用いることができる。有機溶剤は1種を単独で、又は複数種を組み合わせ使用することができる。
【0057】
有機溶剤の融点は、冷却による凝固を防止する観点から、好ましくは−10℃以下であり、より好ましくは−15℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。有機溶剤の融点は、−60℃以上であってよい。有機溶剤が複数種の有機溶剤を含む場合、少なくとも一種の有機溶剤の融点が上記範囲であることが好ましく、有機溶剤全体としての融点が上記範囲であることがより好ましい。
【0058】
有機溶剤は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が溶解し難くなり、より微細な顔料粒子が得られやすくなる観点から、亜鉛フタロシアニンとのRa値が5以上である有機溶剤を含むことが好ましい。Ra値は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP:Hansen Solubility Parameters)における分散力項(δd)と極性項(δp)と水素結合項(δh)とから求められる、2つの物質のHSP間距離を示す。亜鉛フタロシアニンの分散力項(δd)、極性項(δp)及び水素結合項(δh)は、それぞれ16.0、7.7及び9.5であることから、有機溶剤の分散力項をδd1とし、極性項をδp1とし、水素結合項をδh1とすると、有機溶剤のHSPと亜鉛フタロシアニンのHSPとの距離(Ra値)は、下記式(I)より求められる。
(Ra)
2=4(δd1−16.0)
2+(δp1−7.7)
2+(δh1―9.5)
2 ・・・(I)
【0059】
各種の有機溶剤についてのハンセン溶解度パラメータ値は、例えば、Charles M. Hansenによる「Hansen Solubility Parameters:A Users Handbook」等に記載されており、記載のない有機溶剤についてのハンセン溶解度パラメータ値は、コンピュータソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice)を用いて推算することができる。
【0060】
有機溶剤は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料をより溶解させにくくする観点から、亜鉛フタロシアニンとのRa値が10以上であることがより好ましい。有機溶剤は、顔料が濡れやすくなる観点から、亜鉛フタロシアニンとのRa値が40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることがさらに好ましい。
【0061】
有機溶剤が複数種の有機溶剤を含む場合、各有機溶剤の分散力項、極性項及び水素結合項と各有機溶剤の混合比率とから算出される有機溶剤全体のHSPと、亜鉛フタロシアニンのHSPとの距離(Ra値)が上記範囲内であることが好ましい。
【0062】
上記観点から、本実施形態では、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリメチルフォスフェート、4−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール及びエチレンシアノヒドリンからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を用いることが好ましく、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリメチルフォスフェート、4−ブチロラクトン及びプロピレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を用いることがより好ましく、1,3−ブタンジオール、4−ブチロラクトン及びプロピレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種の有機溶剤を用いることがさらに好ましい。
【0063】
有機溶剤(例えば水溶性有機溶剤)の使用量は、特に限定されるものではないが、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して1〜500質量部が好ましい。有機溶剤(例えば水溶性有機溶剤)の使用量は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して、30質量部以上又は50質量部以上であってもよく、400質量部以下又は200質量部以下であってもよい。
【0064】
微細化工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を無機塩と共に混練することで磨砕してよい。すなわち、微細化工程は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、液体状態の有機溶剤、ドライアイス及び無機塩と共に混練することで磨砕する工程であってもよい。微細化工程で無機塩を使用することで、混練時にハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に加わる力を向上させることができ、より微細な顔料粒子を得やすくなる。
【0065】
無機塩としては、水及び/又はメタノールに対する溶解性を有する無機塩が好ましく、メタノールに対する溶解性を有する無機塩がより好ましい。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸ナトリウム等の無機塩が好ましく用いられ、塩化リチウムがより好ましく用いられる。メタノールに対する溶解性を有する無機塩は、後述する洗浄において水を使用せずに表面張力の小さい有機溶剤(例えばメタノール)で洗浄・除去することができるため、メタノールに対する溶解性を有する無機塩を用いることで洗浄による乾燥凝集を抑制することができ、より比表面積が大きいハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることができる。無機塩の平均粒子径は、好ましくは0.5〜50μmである。このような無機塩は、通常の無機塩を微粉砕することにより容易に得られる。
【0066】
微細化工程では、水を使用しないことが好ましい。水の使用量は、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して、20質量部以下であり、10質量部以下又は5質量部以下であってもよい。
【0067】
微細化工程における磨砕は、例えばニーダー、ミックスマーラー等を用いて行うことができる。磨砕時間(例えば混練時間)は、1〜60時間であってよい。
【0068】
微細化工程において、無機塩及び有機溶剤を用いる場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料と、無機塩と、有機溶剤とを含む混合物が得られるが、この混合物から有機溶剤と無機塩を除去し、必要に応じてハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を主体とする固形物に対して洗浄、濾過、乾燥、粉砕等の操作を行ってもよい。
【0069】
洗浄としては、無機塩の種類に応じて、水洗、湯洗、有機溶剤(例えば、メタノール等の表面張力が小さい有機溶剤)での洗浄及びこれらの組み合わせを採用できる。洗浄は、1〜5回の範囲で繰り返し行ってよい。水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を用いた場合は、水洗することで容易に有機溶剤と無機塩を除去することができる。必要であれば、酸洗浄、アルカリ洗浄を行ってもよい。
【0070】
上記洗浄及び濾過後の乾燥としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80〜120℃の加熱等により、顔料の脱水及び/又は脱溶剤をする回分式或いは連続式の乾燥等が挙げられる。乾燥機としては、一般に、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等が挙げられる。特に、スプレードライヤーを用いるスプレードライ乾燥はペースト作製時に易分散であるため好ましい。洗浄に有機溶剤を用いる場合は、0〜60℃で真空乾燥することが好ましい。
【0071】
乾燥後の粉砕は、比表面積を大きくしたり、一次粒子の平均粒子径を小さくしたりするための操作ではなく、例えば箱型乾燥機、バンド乾燥機を用いた乾燥の場合のように顔料がランプ状等となった際に顔料を解して粉末化するために行うものである。例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕などが挙げられる。
【0072】
上記製造方法によれば、カラーフィルタ中で凝集し難い微細なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が得られる。具体的には、例えば、窒素吸着法によるBET比表面積が40〜70m
2/gであり、トルエン吸着法によるBET比表面積が、窒素吸着法によるBET比表面積の1.2倍以上であり、平均一次粒子径が30nm以下である、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が得られる。このようなハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料によれば、緑色カラーフィルタのコントラストを向上させることができる。また、緑色カラーフィルタの輝度も向上させることもできる傾向がある。したがって、上記製造方法で得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、カラーフィルタ用の緑色顔料として好適に用いられる。
【0073】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の窒素吸着法によるBET比表面積(N
2 BET比表面積)は、日本工業規格JIS Z 8830−1990の付属書2に規定される「1点法による気体吸着量の測定方法」に従って測定したときの乾燥した顔料の比表面積を意味し、実施例に記載の方法で測定される。N
2 BET比表面積が大きいほど凝集が抑制されているということができるが、N
2 BET比表面積が大きすぎると、分散後に顔料粒子の再凝集が起こりやすくなり、輝度やコントラストが低下してしまう傾向がある。また、N
2 BET比表面積が大きすぎると、分散安定化に必要な樹脂型分散剤が多量に必要となるが、樹脂型分散剤は現像液に不溶であるため、解像性、現像性が低下しやすくなる。
【0074】
本実施形態の製造方法によれば、例えば、微細化工程で用いる有機溶剤及び無機塩の種類、磨砕時の温度、磨砕時間等を調整することにより、N
2 BET比表面積を45m
2/g以上又は50m
2/g以上とすることもでき、65m
2/g以下又は60m
2/g以下とすることもできる。
【0075】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料のトルエン吸着法によるBET比表面積(Tol. BET比表面積)は、日本工業規格JIS Z 8830−1990の付属書2に規定される「1点法による気体吸着量の測定方法」に従って測定したときの乾燥した顔料の比表面積を意味し、実施例に記載の方法で測定される。上述したとおり、Tol. BET比表面積とN
2 BET比表面積との比(Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積)が大きいほど凝集領域への溶剤浸透性が良いといえる。Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積が大きいほど溶剤の顔料への濡れが進みやすいので、凝集性粗大粒子が残りにくくなり、輝度やコントラストが高くなる。
【0076】
本実施形態の製造方法によれば、例えば、微細化工程で用いる有機溶剤及び無機塩の種類、磨砕時の温度、磨砕時間等を調整することにより、Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積を、1.25以上、1.3以上、1.35以上又は1.4以上とすることもできる。Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積は、例えば、1.6以下である。
【0077】
上記製造方法により得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の窒素吸着法による全細孔深さは、例えば、520m/μg以上であり、窒素吸着法による平均細孔直径は、例えば、10nm以上である。窒素吸着法による全細孔深さは、N
2 BET比表面積と同様にして測定される全細孔容積と平均細孔直径とを用いて下記式により求められる値であり、全細孔で一つの円柱型細孔を構成すると仮定した場合の当該円柱型細孔の深さに相当する。
[全細孔深さ]=4×[全細孔容積]/([円周率]×[平均細孔直径]
2)
【0078】
窒素吸着法による全細孔深さが深いほど有機溶剤が凝集性粗大粒子の奥深くまで浸透することができるため、凝集領域への溶剤浸透性に優れる傾向がある。また、窒素吸着法による平均細孔直径が10nm以上であれば、一般的な溶剤の分子サイズに対して充分に大きく、有機溶剤が凝集性粗大粒子の奥深くまで浸透しやすいといえる。したがって、窒素吸着法による全細孔深さが520m/μg以上であり、窒素吸着法による平均細孔直径が10nm以上であるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料では、特に凝集領域への溶剤浸透性が良好であり、凝集性粗大粒子を効率的に一次粒子付近まで分散させることができ、その結果として高い輝度及びコントラストが得られる傾向がある。
【0079】
本実施形態の製造方法によれば、例えば、微細化工程で用いる有機溶剤及び無機塩の種類、磨砕時の温度、磨砕時間等を調整することにより、窒素吸着法による全細孔深さを、610m/μg以上、700m/μg以上又は750m/μg以上とすることもできる。窒素吸着法による全細孔深さは、例えば、850m/μg以下であり、窒素吸着法による平均細孔直径は、例えば、30nm以下である。
【0080】
上記製造方法によれば、例えば、25nm以下の平均一次粒子径を有するハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることもできる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の平均一次粒子径が小さいほど輝度やコントラストが高くなる傾向がある。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の平均一次粒子径は、10nm以上であってよい。ここで、平均一次粒子径は、一次粒子の長径の平均値であり、後述する平均アスペクト比の測定と同様にして一次粒子の長径を測定することにより求めることができる。
【0081】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の一次粒子の平均アスペクト比は、例えば、1.2以上、1.3以上、1.4以上又は1.5以上である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の一次粒子の平均アスペクト比は、例えば、2.0未満、1.8以下、1.6以下又は1.4以下である。このような平均アスペクト比を有するハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料によれば、より優れたコントラストが得られる。
【0082】
一次粒子の平均アスペクト比が1.0〜3.0の範囲にあるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、アスペクト比が5以上の一次粒子を含まないことが好ましく、アスペクト比が4以上の一次粒子を含まないことがより好ましく、アスペクト比が3を超える一次粒子を含まないことがさらに好ましい。
【0083】
一次粒子のアスペクト比及び平均アスペクト比は、以下の方法で測定することができる。まず、透過型電子顕微鏡(例えば日本電子株式会社製のJEM−2010)で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上に存在する一次粒子の長い方の径(長径)と、短い方の径(短径)とを測定し、短径に対する長径の比を一次粒子のアスペクト比とする。また、一次粒子40個につき長径と、短径の平均値を求め、これらの値を用いて短径に対する長径の比を算出し、これを平均アスペクト比とする。この際、試料であるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、これを溶媒(例えばシクロヘキサン)に超音波分散させてから顕微鏡で撮影する。また、透過型電子顕微鏡の代わりに走査型電子顕微鏡を使用してもよい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<粗顔料の合成>
(粗顔料A1の合成)
300mlフラスコに、塩化スルフリル(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 91g、塩化アルミニウム(関東化学株式会社製) 109g、塩化ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 15g、亜鉛フタロシアニン(DIC株式会社製) 30g、臭素(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 230gを仕込んだ。130℃まで昇温し、130℃で40時間保持した。反応混合物を水に取り出した後、ろ過し、水洗し、乾燥することによりハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料(粗顔料A1)を得た。なお、水洗は、ろ液のpHと洗浄に用いられる水のpHの差が±0.2になるまで行った。
【0086】
粗顔料A1について日本電子株式会社製JMS−S3000による質量分析を行い、平均塩素数が1.8個、平均臭素数が13.2個のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであることを確認した。なお、質量分析時のDelay Timeは500ns、Laser Intensityは44%、m/z=1820以上1860以下のピークのResolvingPower Valueは31804であった。
【0087】
<実施例1>
粗顔料A1 40g、粉砕した塩化リチウム 400g及びジエチレングリコール(融点:−6℃、亜鉛フタロシアニンとのRa値:12.1) 63gを双腕型ニーダーに仕込み、ドライアイス 175gを30分毎に投入することで、粗顔料A1の温度を0℃付近に制御しながら20時間混練した。混練後の混合物を20℃のメタノール 2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、メタノールで洗浄し、50℃で真空乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G1を得た。
【0088】
(平均一次粒子径の測定)
緑色顔料G1をシクロヘキサンに超音波分散させてから顕微鏡で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子40個の平均値から、一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を算出した。一次粒子の平均粒子径は23nmであった。
【0089】
(ガス吸着パラメータ測定)
以下の方法及び条件で、緑色顔料G1の、窒素吸着法によるBET比表面積(N
2 BET比表面積)、全細孔容積(N
2 BET全細孔容積)及び平均細孔直径(N
2 BET平均細孔直径)、並びに、トルエン吸着法によるBET比表面積(Tol. BET比表面積)を測定し、得られた測定結果に基づき、Tol. BET比表面積とN
2 BET比表面積との比(表面積比[Tol. BET比表面積/N
2 BET比表面積])及び全細孔深さ(N
2 BET全細孔深さ)を求めた。結果を表2に示す。
[測定方法]
試料(緑色顔料G1)を測定セルに入れ、BELPREP−vac II(マイクロトラック・ベル社製)にて下記条件で前処理を実施した。次いで、測定セルを、窒素吸着法ではBELSORP−mini II(マイクロトラック・ベル社製)に、トルエン吸着法ではBELSORP−max(マイクロトラック・ベル社製)に取り付け、相対圧力を変えながら吸着質(窒素ガス又はトルエン蒸気)を下記条件で試料へ吸脱着させた。
[条件]
・前処理:減圧(10
−2kPa以下)、100℃、2時間
・窒素吸着法:窒素ガス吸着温度 −196℃、飽和蒸気圧 101.325kPa(標準大気圧)
・トルエン吸着法:トルエン蒸気吸着温度 25℃、飽和蒸気圧 3.822kPa
【0090】
(コントラスト及び輝度の評価)
ピグメントイエロー138(大日精化社製クロモファインイエロー6206EC) 1.65gを、DISPERBYK−161(ビックケミー社製) 3.85g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 11.00gと共に0.3〜0.4 mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散して分散体を得た。
【0091】
上記分散体 4.0g、ユニディックZL−295 0.98g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 0.22gを加えて、ペイントシェーカーで混合することで調色用黄色組成物(TY1)を得た。
【0092】
実施例1で得られた緑色顔料G1 2.48gを、ビックケミー社製BYK−LPN6919 1.24g、DIC株式会社製 ユニディックZL−295 1.86g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.92gと共に0.3〜0.4mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散してカラーフィルタ用顔料分散体(MG1)を得た。
【0093】
上記カラーフィルタ用顔料分散体(MG1) 4.0g、DIC株式会社製 ユニディックZL−295 0.98g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート0.22gを加えて、ペイントシェーカーで混合することでカラーフィルタ用緑色画素部を形成するための評価用組成物(CG1)を得た。
【0094】
評価用組成物(CG1)を、ソーダガラス基板上にスピンコートし、90℃で3分乾燥した後に、230℃で1時間加熱した。これにより、着色膜をソーダガラス基板上に有する、コントラスト評価用ガラス基板を作製した。なお、スピンコートする際にスピン回転速度を調整することにより、230℃で1時間加熱して得られる着色膜の厚さを1.8μmとした。
【0095】
さらに、上記で作製した調色用黄色組成物(TY1)と評価用組成物(CG1)を混合して得られる塗液を、ソーダガラス基板上にスピンコートし、90℃で3分乾燥した後に、230℃で1時間加熱した。これにより、着色膜をソーダガラス基板上に有する、輝度評価用ガラス基板を作製した。なお、調色用黄色組成物(TY1)と評価用組成物(CG1)の混合比と、スピンコートする際のスピン回転速度を調整することにより、230℃で1時間加熱して得られる着色膜のC光源における色度(x,y)が(0.275,0.570)となる着色膜を作製した。
【0096】
コントラスト評価用ガラス基板における着色膜のコントラストを壺坂電機株式会社製のコントラストテスターCT−1で測定し、輝度評価用ガラス基板における着色膜の輝度を日立ハイテクサイエンス社製U−3900で測定した。結果を表2に示す。なお、表2に示すコントラスト及び輝度は、比較例1のコントラスト及び輝度を基準とする値である。
【0097】
<実施例2>
粗顔料A1 40g、粉砕した塩化リチウム 400g及びプロピレンカーボネート(融点:−55℃、亜鉛フタロシアニンとのRa値:14.1) 63gを双腕型ニーダーに仕込み、ドライアイス 260gを30分毎に投入することで、粗顔料A1の温度を−20℃付近に制御しながら20時間混練した。混練後の混合物を20℃のメタノール 2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、メタノールで洗浄し、50℃で真空乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G2を得た。次いで、実施例1と同様にして、緑色顔料G2の平均一次粒子径及びガス吸着パラメータを測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
<実施例3>
粗顔料A1 40g、粉砕した塩化ナトリウム 400g及びジエチレングリコール 63gを双腕型ニーダーに仕込み、ドライアイス 175gを30分毎に投入することで、粗顔料A1の温度を0℃付近に制御しながら20時間混練した。混練後の混合物を80℃の水 2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、湯洗し、乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G3を得た。次いで、実施例1と同様にして、緑色顔料G3の平均一次粒子径及びガス吸着パラメータを測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0099】
<比較例1>
粗顔料A1 40g、粉砕した塩化ナトリウム 400g及びジエチレングリコール 63gを双腕型ニーダーに仕込み、80℃で8時間混練した。混練後の混合物を80℃の水 2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、湯洗し、乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G4を得た。次いで、実施例1と同様にして、緑色顔料G4の平均一次粒子径及びガス吸着パラメータを測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0100】
<比較例2>
粗顔料A1 40g、粉砕した塩化リチウム 400g及びジエチレングリコール 63gを双腕型ニーダーに仕込み、80℃で8時間混練した。混練後の混合物を20℃のメタノール 2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、メタノールで洗浄し、50℃で真空乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G5を得た。次いで、実施例1と同様にして、緑色顔料G5の平均一次粒子径及びガス吸着パラメータを測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、液体状態の有機溶剤及びドライアイスと共に混練することで磨砕する工程を有する、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法。