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特許6989099周波数不感帯を抑制する周波数応答解析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989099
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】周波数不感帯を抑制する周波数応答解析システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20211220BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G05B11/36 501C
   G05B23/02 P
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-40246(P2017-40246)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-147149(P2018-147149A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】立花 弘貴
【審査官】 影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−214711(JP,A)
【文献】 特開2016−090670(JP,A)
【文献】 特開2000−278990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/36
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント(3)の周波数特性を算出するFRAシステム(2)において、
前記プラント(3)の力次元の入力(U)に対して、
第1差分器(14)を介して現在のサンプル時刻と1サンプル前における入力の差分値U’を算出し、
続いて第1DFT演算部(16)介して周波数応答U’(ω)を算出し、
前記プラント(3)の位置次元の出力(Y)対して、
第2差分器(15)を介して現在のサンプル時刻と1サンプル前における出力の差分値Y’を算出し、
続いて第2DFT演算部(17)介して周波数応答Y’(ω)を算出し、
乗除算器(18)において、前記周波数応答U’(ω)及び前記周波数応答Y’(ω)より前記プラント(3)の周波数特性を算出することを特徴とするFRAシステム(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの周波数特性を同定するFRA(周波数応答解析)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常サーボシステムは共振モードを有しており、「稼働中」のプラント入出力信号を用いてプラントの周波数応答解析の結果を得て作動状況を確認し制御することは、サーボシステムを位置決め性能等を確保して運用するために重要である。
【0003】
サーボシステムに対する、線形ダイナミクスの周波数特性を同定する周波数応答解析のアルゴリズムに関する従来技術は主に2つある。
【0004】
従来技術1は、例えば特許文献1のようにサーボアナライザなどの周波数応答解析(以下、FRAと記す)を行うアルゴリズムを備えた機器を用いて、プラントを含む制御系に正弦波信号を掃引し、その際のプラント入出力信号を離散フーリエ変換(以下、DFT)することで周波数応答解析結果を得るものである。本技術は、掃引周波数に対して高いS/N比の入出力信号を得るために、サーボシステムが稼働していない状態で正弦波掃引試験を実施することを前提とした技術である。従って、仮に稼働中に正弦波信号を掃引した場合、それに起因する位置決め応答劣化などの問題が生じる。
【0005】
一方、例えば非特許文献2のように離散フーリエ変換(以下、DFTと記す)によって、稼働中の入出力信号からFRAを行う従来技術2においては、単純にDFTを実施するだけでは入出力信号のDFT結果に表れる周期的な周波数不感帯(周期的不感帯)によって、FRA結果において実際には存在しない周期的なスパイク状の誤差(FRA誤差)が生じる。これにより、プラントモデルパラメータの同定精度が劣化する、モデルベース制御による位置決め性能が劣化する、という問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−094690
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】電気学会論文誌C, 「閉ループステップ応答データを用いた機械系の周波数応答推定」, Vol.131, No.4, pp.751-757, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、「稼働中」の入出力信号を用いたFRA技術を前提として、DFTにより生じるスパイク状のFRA誤差を発生させない、プラントの周波数特性を同定するFRAシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために本発明は、プラント(3)の周波数特性を同定するFRAシステム(2)において、プラント(3)の力次元の入力(U)に対して、第1差分器(14)を介して差分値U’を算出し、続いて第1DFT演算部(16)介して周波数応答U’(ω)を算出し、プラント(3)の位置次元の出力(Y)対して、第2差分器(15)を介して差分値Y’を算出し、続いて第2DFT演算部(17)介して周波数応答Y’(ω)を算出し、乗除算器(18)において、周波数応答U’(ω)及び周波数応答Y’(ω)よりプラント(3)の周波数特性を算出することを特徴とするFRAシステム(2)である。
なお、上記及び特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載されて当該用語の例となる具体物等との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0010】
発明によると、サーボシステムが「稼働中」の状態でもFRAを行えるので、FRAのためにサーボシステムを停止する必要がなく、サーボシステムの稼働率を低下させることはない。また、稼働中のプラント周波数特性をリアルタイムに観測し、また、FRA精度を飛躍的に向上させてFRAを同定できるため、プラント特性変動に起因する位置決め性能劣化を抑制できる。更に、故障が生じる前に異常診断でき制御器更新ができる等の付加価値機能の追加が可能となる。また、従来技術2に対して差分器2個の追加で実現でき、低実装・低演算コストでFRA精度を飛躍的に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のFRAシステム構成を示すブロック線図。
図2】本実施形態の入力の時間応答シミュレーション結果。
図3】本実施形態の入力差分値の時間応答シミュレーション結果。
図4】本実施形態の出力の時間応答シミュレーション結果。
図5】本実施形態の出力差分値の時間応答シミュレーション結果。
図6】本実施形態の入力差分値の周波数応答シミュレーション結果。
図7】本実施形態の出力差分値の周波数応答シミュレーション結果。
図8】本実施形態の推定プラント周波数応答シミュレーション結果。
図9】従来技術2の推定プラント周波数応答シミュレーション結果。
図10】本実施形態のプラントモデル同定シミュレーション結果。
図11】従来技術2のプラントモデル同定シミュレーション結果。
図12】本実施形態のFRA結果から同定したプラントモデルを制御器設計モデルに用いた位置決め応答シミュレーション結果(比較:従来技術2)。
図13】従来技術1のFRAシステム構成を示すブロック線図。
図14】従来技術2のFRAシステム構成を示すブロック線図。
図15】従来技術2の入力の周波数応答シミュレーション結果。
図16】従来技術2の出力の周波数応答シミュレーション結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
また、図8から図12において、データ線に符号(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)、(オ)、(カ)、(キ)を表示しているが、同一符号は同一データ線を示す。
【0013】
(従来技術の課題1)
図13は、従来技術1のFRAシステム(200)の構成を示すブロック線図である。位置指令を零(R=0)としたサーボシステムに対し、FRAシステムから加算器201を介して加振信号として正弦波Usin(202)を制御系に入力し、プラントの入力U、出力YからDFTによって入力の周波数応答U(ω)(203)、出力の周波数応答Y(ω)(204)を算出する。そして、U(ω)とY(ω)を用いて推定プラント周波数特性Pe(ω)を求める。DFT演算部の前段における差分器は有しない。原理的に、FRAのために加振信号を掃引するため、稼働中に実行すると位置決め性能劣化を招く。
【0014】
加振信号usinは、単一周波数の正弦波を用いたが、これに限らずM系列や合成正弦波等の複数の周波数成分から構成される信号でもよい。
【0015】
(従来技術の課題2)
図14は、従来技術2のFRAシステム300の構成を示すブロック線図である。本発明と同様に、稼働中のプラントの入力U、出力YからDFTによって入力の周波数応答U(ω)(301)、出力の周波数応答Y(ω)(302)を算出する。そして、U(ω)とY(ω)を用いて推定プラント周波数特性Pe(ω)を求める。DFT演算部の前段における差分器は有しない。
【0016】
従来技術2において、DFT演算に用いる入力Uと出力Yは、繰返し信号(初期値と最終値が一致した時系列信号)とするため、実施形態に示す数式(2)で定義される過渡応答時系列信号を用いてN+1サンプル以降で折り返した信号(データ数2N)をU、Yとして用いる。UとYは、それぞれ数式(9)、(10)として定義される。
【数9】

【数10】
【0017】
図15に従来技術2における入力の周波数応答U(ω)、図16に従来技術2における出力の周波数応答Y(ω)を示す。両図において、周期的不感帯(一定の周波数間隔でゲインが急峻に減少する)が見られる。これが入出力信号のDFT結果に表れる周期的な周波数不感帯(周期的不感帯)であり、これによりFRA結果において実際には存在しないスパイク状の誤差(FRA誤差)として生じる。
【0018】
ここで、数式(9)に対するDFT変換は数式(11)で表せる。
【数11】

数式(3)と同様に、入力Uの差分値U’をデータ長2Nに対して定義するとき、数式(11)は数式(9)の関係を考慮して、数式(12)のように変形できる。
【数12】

ここで、数式(12)の1つめの指数関数の和の部分を、正弦関数を用いて表すと数式(13)となる。
【数13】

分子の項に着目すると、U(ω)はω=p/NT(p=0,1,・・・)の周期で零となり、これが図15における周期的不感帯の要因である。なお、出力の周波数応答Y(ω)についても同様である。
【0019】
U(ω)とY(ω)を用いて、推定プラント周波数特性は数式(14)で求められる。
【数14】

分子と分母の1つめの指数関数の和の部分は、理論的には相殺されるが、実際のDFTを行う計算機は有限の演算精度となる。これによって、理想的に相殺されなかった影響として、図9の太破線(ウ)に見られるスパイク状のFRA誤差が生じる。
【0020】
数式(14)に着目すると、分子と分母の1つめの指数関数の和の部分が理想的に相殺される場合、分子分母共に2つめの指数関数の和の部分のみが残る。それらは、入力、出力のそれぞれの差分値のDFT結果を示しおり、数式(6)、(7)、(8)で表される本発明と等価の式となる。すなわち、本発明における差分値に対するDFTは、スパイク状のFRA誤差を招く数値演算を根本的に排除している。
【0021】
(実施形態)
サーボシステムは、プラント部(可動部を備える揺動あるいは直動機械、可動部に対する推力を発生するアクチュエータ、アクチュエータを駆動するためのサーボアンプ及び可動部位置を検出するセンサ等)と、コントローラ部(制御演算を行う補償器)と、周波数応答解析(以下、FRA)部と、によって構成される。
本実施形態は、このようなメカトロニクス機器のプラント線形ダイナミクスに対する、稼働中の入出力信号を用いた周波数応答解析アルゴリズムに関するものである。
【0022】
図1は、FRAシステムの実施形態のブロック線図である。サーボシステム1のFRAシステム2は、DFT演算部16、17と、差分器14、15と、乗除算器18を有する。プラント部とコントローラ部は、プラント3と、制御演算を行うフィードバック(FB)補償器C(z)4と、フィードフォワード(FF)補償器FFcomp5と、を有する。プラント3には、機器部のサーボアンプやセンサに起因する入出力の遅れ要素、機械系における共振モードなどの線形ダイナミクスが含まれる。
サーボシステム1に対して、位置指令R(8)が入力されると、FF補償器5は制御アルゴリズムに基づいてFF位置指令軌道Rff(9)とFF入力Uff(10)を算出する。FF位置指令軌道Rffは、第一加算器12に入力され、センサによって検出される位置出力Y(7)との差分が計算されてFB補償器C(z)に入力される。FB補償器C(z)は、制御アルゴリズムに基づき位置の次元から力の次元に変換し、算出されるFB入力Ufb(11)は、第二加算器13に入力され、FF入力Uffとの加算によってプラント3への入力U(6)が計算される。プラント3は、入力Uによって位置出力Yを生じる。入力Uは、第一差分器14へ入力され、入力差分値U’ (19)を出力し、第一DFT演算部(16)を介して入力差分値U’の周波数応答U’(ω)を算出する。同様に、出力Yは、第二差分器(15)へ入力され、出力差分値Y’ (21)を出力し、第二DFT演算部17を介して出力差分値Y’の周波数応答Y’(ω)を算出する。乗除算器18を用いて、Y’(ω)に対するU’(ω)の除算値を計算し、推定プラント特性Pe(ω)(23)となる。
本実施形態は、FRAシステム2において、入力Uと位置Yから差分値U’とY’が出力され、DFT演算部によってそれぞれのDFTであるU’(ω)とY’(ω)を出力する。U’(ω)とY’(ω)は、後述の原理によってFRA誤差を招くスパイク状の周期的誤差は除去されており、U’(ω)とY’(ω)を用いて推定プラント周波数特性Pe(ω)を計算することで、線形プラント特性に対する高精度なFRAアルゴリズムとなる。
【0023】
プラント特性P(z)は、共振モードを有する離散時間伝達関数であり、例えば連続時間伝達関数表現で数式(1)のように示される。
【数1】
【0024】
FRAシステム120にて、力次元の入力Uの各サンプル時刻(サンプル周期T)における値を数式(2)のように表すとき(データ長N)、Uと第一差分器111との積として、差分値U’は数式(3)のように算出される。
図2に入力Uの、図3に入力差分値U’の時間応答シミュレーション結果を示す。
【数2】

【数3】
【0025】
同様に、位置次元の出力Yの各サンプル時刻における値を数式(4)のように表すとき、Yと第二差分器111との積として、差分値Y’は数式(5)のように算出される。
図4に出力Yの、図5に出力差分値Y’の時間応答シミュレーション結果を示す。
【数4】

【数5】
【0026】
その後、第一DFT演算部16と第二DFT演算部17において、U’の周波数応答U’(ω)とY’の周波数応答Y’(ω)を、数式(6)と(7)に従ってそれぞれ算出する。
【数6】

【数7】

図6にU’(ω)の、図7にY’(ω)の周波数応答シミュレーション結果を示す。
従来技術2である図15に示すU(ω)、図16に示すY(ω)と比較すると、周期的不感帯(一定の周波数間隔でゲインが急峻に減少する)が発生していないことが分かる。
【0027】
乗除算器113によりY’(ω)に対するU’(ω)の除算として推定プラント周波数応答Pe(ω)を求める。この関係を数式(8)に示す。
【数8】
【0028】
図8は、本実施形態の推定プラント周波数特性のシミュレーション結果(Pe(ω)のゲイン)を示す。(ア)の太破線は、同定すべきプラント特性P(ω)であり、目標値に相当する。本実施形態の結果を、(イ)の細実線で示す。(ア)及び(イ)は、ゲイン、位相共に良く一致しており、一本の線のように見える。すわなち、稼働中の入出力信号を用いて高精度なFRA結果を得ている。
【0029】
一方、稼働時におけるFRA法の図8の比較として、図9に従来技術2による推定プラント周波数特性のシミュレーション結果(Pe(ω)のゲイン)を示す。(ア)の太破線の同定すべきプラント特性P(ω)に対して、(ウ)の細実線で示すFRA結果は周期的なスパイク状のFRA誤差が生じ、(ア)と(ウ)は広い周波数範囲に渡って一致していない。
【0030】
以上、本実施形態によれば、稼働中の入出力信号を用いたFRAにおいて、周期的なスパイク状誤差が発生しない。よって、プラント周波数特性を高精度に同定するFRAシステムを提供することができる。また、FRAのためにサーボシステムを停止する必要がなく、サーボシステムの稼働率を低下させることはない。更に、故障が生じる前に異常診断でき制御器更新ができる等の付加価値機能の追加が可能となる。また、従来技術2に対して差分器2個の追加で実現でき、低実装・低演算コストでFRA精度を飛躍的に向上できる。
【0031】
図10は、本実施形態のFRA結果に対して、偏分反復法などの最適化アルゴリズムを用いて同定した、数式(1)のプラントモデル伝達関数の周波数特性シミュレーション結果を示している。(イ)の太破線は本実施形態によるプラントのFRA結果Pe(ω)、(エ)の細実線は同定したプラントモデルである。(イ)及び(エ)はよく一致し、一本の線のように見える。これは、図で示されるように、Pe(ω)において周期的なFRA誤差が抑制されているからである。
【0032】
一方、稼働時におけるFRA法の図10と比較として、図11に従来技術2のFRA結果に対して同定した数式(1)のプラントモデル伝達関数の周波数特性シミュレーション結果を示す。(ウ)の太破線は本実施形態によるプラントのFRA結果Pe(ω)、(オ)の細実線は同定したプラントモデルである。(ウ)における周期的なFRA誤差により(オ)は共振モードに対して明確な誤差を生じている。これは、(ウ)における共振モード付近のスパイク状のFRA結果に対して、モデルパラメータ同定アルゴリズムが局所解に陥りやすくなるためである。
【0033】
図12は、本実施形態のFRA結果に対して同定したプラントモデルを、図1のFF制御器の設計モデルに用いた、位置決め応答シミュレーション結果を示す。比較として、従来技術2の場合を示す。(カ)の本実施形態では、共振モードに起因する残留振動を抑制し、水平破線で示される目標整定精度内に収束している。これは、図10で示されるように、同定すべきプラント周波数特性P(ω)を、本実施形態が良く同定できるためである。
一方、(キ)の従来技術2では、残留振動を伴うオ−バーシュート及びアンダーシュートが発生している。これは、同定すべきプラント周波数特性P(ω)を、従来技術2は精度良く同定できないからである。このような同定誤差が生じた場合、サーボシステムの位置決め精度は劣化する。よって、プラント周波数特性P(ω)に対して高精度なモデルを獲得するために、数値シミュレーションや実験による試行錯誤的なモデルパラメータの調整・更新に多大な労力を必要とし、その人的労力や時間も多大となる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
周波数応答解析機器を扱うメーカにとって、精密サーボシステム等で問題視されている正弦波掃引時と稼働中のプラントダイナミクス変化に対し、稼働中の入出力信号を用いたオンラインFRA技術として有望である。
【0035】
精密サーボシステムを扱うメーカにとって、サーボシミュレーションや有効な制御器設計に用いるプラントモデルの高精度同定手法として、合わせ込みのための試行錯誤的なシミュレーション及び実験に係る工数削減と、サーボ性能の向上技術として有望である。
【符号の説明】
【0036】
1 サーボシステム
2 FRAシステム
3 プラントP(z)
4 FB補償器C(z)
5 FF補償器FFcomp
11 第1加算器
13 第2加算器
14 第1差分器:(z−1)/z
15 第2差分器:(z−1)/z
16 第1DFT演算部
17 第2DFT演算部
18 乗除算器



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16