特許第6989232号(P6989232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989232
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】部分放電測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20211220BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G01R31/12 A
   G01R19/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-168843(P2017-168843)
(22)【出願日】2017年9月1日
(65)【公開番号】特開2019-45315(P2019-45315A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電気学会 電力・エネルギー部門、平成29年電気学会 電力・エネルギー部門大会 論文集、第273頁−第274頁、平成29年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達希
(72)【発明者】
【氏名】八島 政史
【審査官】 島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−080112(JP,A)
【文献】 特開平08−285899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象設備の電力機器に接続された導線に流れる電流により磁束が発生する鉄心と、
前記鉄心を巻回する二次コイル、及びキャンセリングコイルと、
前記二次コイルに流れる特定周波数の電流とは逆位相のキャンセル電流を前記キャンセリングコイルに供給するキャンセル手段と、を備え
前記キャンセル手段は、
前記二次コイルに流れる特定周波数の電流を抽出するローパスフィルターと、
前記ローパスフィルターからの交流信号を直流信号に変換し、前記直流信号のレベルに基づいて、前記ローパスフィルターから出力された交流信号がゼロとなるような信号を前記キャンセル電流として生成する逆位相生成部と、を備える
ことを特徴とする部分放電測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載する部分放電測定装置において、
前記特定周波数は商用周波数である
ことを特徴とする部分放電測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象設備の接地線などを対象とする部分放電測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送配電設備などは、高い信頼性を維持し続けるため、その状態を精度よく監視することが求められている。そのために、送配電設備などで発生する部分放電(導体間の絶縁部の一部で限定的に生じる放電)を測定することが行われている。
【0003】
そのような部分放電を測定する部分放電測定装置の一例としては、接地線に流れる高周波電流を高周波変流器で検出するものが知られている。このような部分放電測定装置では、接地線に入り込むノイズに対して様々な対策がとられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に係る部分放電測定装置は、鉄心にフィルタ巻線を巻回し、そのフィルタ巻線に特定周波数範囲の電流の通過を阻止するフィルタを備えている。このような構成により、鉄心に発生する磁束のうち、特定周波数範囲以外の電流による磁束成分を打ち消すような電流がフィルタ巻線に流れる。この結果、鉄心に巻回された二次巻線には、特定周波数範囲の電流のみが流れ、部分放電を感度よく検出することができる。
【0005】
一方、部分放電測定を実施する箇所によっては、三相不平衡などにより接地線に大きな商用周波電流が流れることがある。この場合、部分放電測定装置の出力には、商用周波電流による信号が重畳する。しかしながら、商用周波電流がさらに大きくなると、部分放電測定装置が磁気飽和し、ダイナミックレンジが確保できなくなり、測定感度が低下するという問題がある。
【0006】
特許文献1に係る部分放電測定装置は、そのような問題に対し有効なものではなかった。商用周波電流による信号をノイズとしてこれを除去しようとすると、商用周波帯域(例えば、50Hz又は60Hz)についてはほぼゼロに近い減衰特性を有し、それ以外の周波数帯域ではほとんど減衰しない減衰特性を有するフィルタを製作することは困難だからである。また、商用周波帯域が含まれるような特定周波数範囲を設定した場合、商用周波電流を低減できるが、部分放電による信号も低減してしまい、部分放電の検出感度が低下してしまう。
【0007】
なお、このような問題は、接地線に商用周波電流が流れる場合に限らず、特定周波数の電流が流れる場合についても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−15293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、特定周波数の電流が流れ込むことによるダイナミックレンジの低下を低減し、測定感度を向上することができる部分放電測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための第1の態様は、測定対象設備の電力機器に接続された導線に流れる電流により磁束が発生する鉄心と、前記鉄心を巻回する二次コイル、及びキャンセリングコイルと、前記二次コイルに流れる特定周波数の電流とは逆位相のキャンセル電流を前記キャンセリングコイルに供給するキャンセル手段と、を備え、前記キャンセル手段は、前記二次コイルに流れる特定周波数の電流を抽出するローパスフィルターと、前記ローパスフィルターからの交流信号を直流信号に変換し、前記直流信号のレベルに基づいて、前記ローパスフィルターから出力された交流信号がゼロとなるような信号を前記キャンセル電流として生成する逆位相生成部と、を備えることを特徴とする部分放電測定装置にある。
【0011】
第1の態様では、二次コイルから出力される電流のうち、特定周波数のみを検出し、これを打ち消すキャンセル電流をキャンセリングコイルに供給する。すなわち、広範囲に亘る周波数でノイズをキャンセルするものではないので、従来技術のように部分放電による信号が低減することを回避でき、部分放電の検出感度を向上することができる。さらに好適にキャンセル電流を生成することができる。
【0014】
本発明の第の態様は、第1の態様に記載する部分放電測定装置において、前記特定周波数は商用周波数であることを特徴とする部分放電測定装置にある。
【0015】
の態様では、商用周波数による影響を低減し、部分放電を感度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定周波数の電流が流れ込むことによるダイナミックレンジの低下を低減し、測定感度を向上することができる部分放電測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】部分放電測定装置の概略図である
図2】部分放電測定装置のブロック図である。
図3】キャンセル電流を供給しない場合における、接地線、キャンセリングコイル及び二次コイルに流れる電流を時系列で示すグラフである。
図4】キャンセル電流を供給する場合における、接地線、キャンセリングコイル、及び二次コイルに流れる電流を時系列で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〈実施形態1〉
図1は、本実施形態に係る部分放電測定装置の概略図であり、図2は、本実施形態に係る部分放電測定装置のブロック図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、部分放電測定装置1は、測定対象の接地線2に周回した鉄心3と、二次コイル4と、キャンセリングコイル5と、商用周波電流によるノイズを除去するキャンセル手段10と、を備えている。
【0020】
接地線2は、測定対象設備の電力機器に電気的に接続された導線の一例である。電力機器としては、例えば、変圧器、リアクトル、コンデンサ、整流器、遮断器、開閉装置、配電盤、電力ケーブル等を挙げることができる。
【0021】
鉄心3は、高周波変流器で用いられる一般的な鉄心であり、本実施形態では環状に形成されている。もちろん、鉄心3は環状に限定されず、例えば、クランプ状であってもよい。
【0022】
また、鉄心3の環の中に接地線2が挿通されているが、このような態様に限定されない。例えば、接地線2が鉄心3に巻回されていてもよい。いずれにしても、鉄心3は、接地線2に流れる電流により磁束が発生する構成・材料であればよい。
【0023】
二次コイル4は、鉄心3に巻回されたコイルである。二次コイル4の巻き数には特に限定はない。二次コイル4は分配器13に接続されており、二次コイル4から出力された電流は、分配器13で出力部14とキャンセル手段10とに分配される。
【0024】
分配器13は一般的な信号の分配器であり、出力部14は、二次コイル4から出力された電流を表示するためのオシロスコープなどであるが、特に限定はない。
【0025】
キャンセリングコイル5は、鉄心3に巻回されたコイルである。また、キャンセリングコイル5は、キャンセル手段10からキャンセル電流が供給される。キャンセル電流とは、二次コイル4に流れる特定周波数の電流とは逆位相の電流である。ここでは、特定周波数として、商用周波数(50Hz又は60Hz)とする。キャンセル電流の生成については後述する。
【0026】
キャンセル手段10は、上述したキャンセル電流を生成し、キャンセリングコイル5に供給させる電気回路である。具体的には、キャンセル手段10は、ローパスフィルター11と、逆位相生成部12とから構成されている。
【0027】
ローパスフィルター11は、二次コイル4から出力された電流を入力とし、商用周波数の電流のみを抽出する。このようなローパスフィルターは公知の回路構成により実現できる。ローパスフィルター11から出力された商用周波数の交流信号は、逆位相生成部12に入力される。
【0028】
逆位相生成部12は、ローパスフィルター11で抽出された交流信号に基づいて、その逆位相の信号を生成する電気回路である。このような電気回路の一例としては、交直変換部、比較部、信号生成部を備えたものが挙げられる。
【0029】
交直変換部は、ローパスフィルター11からの交流信号を直流信号に変換する。比較部は、ゼロ電位を基準として、交直変換部が出力した直流信号のレベル(電位)を出力する。信号生成部は、比較部から出力される直流信号のレベルに基づいて、ローパスフィルター11から出力された交流信号がゼロとなるような信号を生成する。そして、この信号はキャンセリングコイル5にキャンセル電流として供給される。
【0030】
このようにキャンセル手段10は、二次コイル4から出力された電流から商用周波数成分を抽出し、その商用周波数成分を打ち消すようなキャンセル電流をキャンセリングコイル5に供給する。
【0031】
このようなキャンセル電流がキャンセリングコイル5に供給されることで、キャンセリングコイル5から生じた磁束によって、鉄心3に発生する磁束のうち、商用周波数成分の電流による磁束が打ち消される。この結果、二次コイル4から出力される電流は、商用周波数の電流が除去又は低減されたものとなる。
【0032】
二次コイル4から出力される電流から、商用周波数の電流が除去又は低減されているので、部分放電測定におけるダイナミックレンジの低下を低減することができ、部分放電の測定感度を向上することができる。
【0033】
従来技術では、フィルタが設けられたフィルタ巻線には、ローパスフィルターによって遮断周波数f1より低い周波数成分、ハイパスフィルタによって遮断周波数f2より高い周波数のノイズによる電流が流れる。これにより、鉄心に発生する磁束のうち、当該ノイズによる磁束成分が打ち消され、そのノイズを二次巻線が拾うことがなくなり、部分放電の検出感度を向上させている。
【0034】
しかしながら、部分放電の周波数は広範囲にわたるので、上記のように広い周波数範囲でノイズを除去する結果、部分放電による信号も低減してしまう。
【0035】
一方、本実施形態の部分放電測定装置1は、二次コイル4から出力される電流のうち、特定周波数である商用周波数のみを検出し、これを打ち消すキャンセル電流をキャンセリングコイル5に供給するものである。すなわち、広範囲に亘る周波数でノイズをキャンセルするものではないので、従来技術のように部分放電による信号が低減することを回避でき、部分放電の検出感度を向上することができる。
【0036】
図3及び図4を用いて、二次コイル4から出力される電流を、キャンセル電流を適用する前後のそれぞれについて説明する。
【0037】
図3は、キャンセル電流を供給しない場合における、接地線2、キャンセリングコイル5及び二次コイル4に流れる電流を時系列で示すグラフである。符号30は接地線2の電流、符号31はキャンセリングコイル5の電流、符号32は二次コイル4に流れる電流を示している。符号30、31の縦軸は電流値であり、符号32の縦軸は電圧値であり、横軸は時間である。
【0038】
接地線2には、商用周波数の電流(符号30)が流れている。キャンセリングコイル5には、キャンセル電流(符号31)が供給されていないので、電流値はゼロとなっている。このような場合、二次コイル4の電流(符号32)は、部分放電電流に商用周波数の電流が重畳していることが分かる。
【0039】
図4は、キャンセル電流を供給する場合における、接地線2、キャンセリングコイル5、及び二次コイル4に流れる電流を時系列で示すグラフである。符号40は接地線2の電流、符号41はキャンセリングコイル5の電流、符号42は二次コイル4に流れる電流を示している。縦軸横軸は図3と同様である。
【0040】
接地線2には、図3と同様に、商用周波数の電流(符号40)が流れている。一方、キャンセリングコイル5には、商用周波数の電流と逆位相のキャンセル電流(符号41)が供給されている。このような場合、二次コイル4の電流(符号42)は、商用周波数の電流が重畳することなく、部分放電の電流のみが現われていることが分かる。
【符号の説明】
【0041】
1…部分放電測定装置、2…接地線、3…鉄心、4…二次コイル、5…キャンセリングコイル、10…キャンセル手段、11…ローパスフィルター、12…逆位相生成部、13…分配器、14…出力部
図1
図2
図3
図4