特許第6989261号(P6989261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6989261包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989261
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/09 20060101AFI20211220BHJP
   A23C 19/076 20060101ALI20211220BHJP
   A01J 25/00 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   A23C19/09
   A23C19/076
   A01J25/00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-548963(P2016-548963)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2015076675
(87)【国際公開番号】WO2016043311
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-191970(P2014-191970)
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】羽生 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】奈良 浩太
(72)【発明者】
【氏名】松永 典明
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−231531(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0008750(US,A1)
【文献】 特開平10−052224(JP,A)
【文献】 米国特許第04626439(US,A)
【文献】 現代チーズ学,株式会社食品資材研究会,2008年,p. 159-163
【文献】 "Appetizer Production Robot Cornucopia KN400"、[online],[2020年09月30日検索]、インターネット< URL :https://img.sigmaequipment.com/equipment-docs/9119/kn-400%20Spec%20Sheet%20Brochure%20a.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性があるナチュラルチーズを外層として内容物を包餡してなる包餡型ナチュラルチーズを、包餡機を使用して定量的かつ連続的に大量生産する方法であって、前記外層で内容物を包餡する工程を含み、該工程を35℃〜60℃の温度範囲内で行い、外層となる弾力性があるナチュラルチーズを、内容物に対して定量的かつ連続的に供給して、包餡機で包餡し、外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、85℃での加熱時に下記弾力性評価において弾力性が4以上であるパスタフィラータチーズである、前記方法。
<弾力性評価>
50gのチーズまたはチーズカードの中心付近を2つの把持手段で把持し、2つの把持手段を左右に5cm/secで引き伸ばし、チーズまたはチーズカードが切断された時点での2つの把持手段の間の距離を計測する。同様の計測を3回以上行い、平均距離から弾力性を評価する。
弾力性1: 10cm未満
弾力性2: 10cm以上20cm未満
弾力性3: 20cm以上50cm未満
弾力性4: 50cm以上100cm未満
弾力性5: 100cm以上。
【請求項2】
外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、原料乳を凝乳酵素により凝固させたチーズカードから調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、チーズカードを50〜100℃の水中で混練させて調製される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、チーズカードのpHを4〜7に調整して調製される、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
パスタフィラータチーズが、モッツァレラチーズ、カチョカバロチーズ、スカモルツァチーズ、プロバローネチーズまたはストリングチーズである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
パスタフィラータチーズが、フレッシュチーズである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
包餡された内容物が、食品または医薬品である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
包餡された内容物が、外層となる弾力性があるナチュラルチーズと異なるチーズである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の市場において、ナチュラルチーズが定着しつつある。ナチュラルチーズには、熟成の程度により、乳成分の熟成の風味を楽しめる、いわゆる熟成型ナチュラルチーズ、および新鮮な乳風味を味わえる、いわゆる非熟成型ナチュラルチーズに分類することができる。また、ナチュラルチーズには、その硬さから、特別硬質ナチュラルチーズ、硬質ナチュラルチーズ、半硬質ナチュラルチーズ、軟質ナチュラルチーズに分類することができる。このように、ナチュラルチーズには、熟成の程度(有無)や物性(食感)の違いなどにより、多くの種類が存在する。
【0003】
ナチュラルチーズでは、その食シーンとして、そのまま食べる場合が多い。この場面において、様々な風味や食感を楽しみながら、単一の風味や食感による飽きが来ないようにするために、レストランなどの外食産業では、様々なチーズを少しずつ切り分けて、皿に盛りつける、いわゆるチーズの盛り合わせの形態にして提供することが主流である。一方、一般家庭では、様々な風味や食感を楽しむためには、様々なチーズを購入し、それぞれを少しずつ切り分けながら、それぞれを少しずつ消費しなければならず、そのための費用の負担や管理の手間は少なくない。
【0004】
このとき、以下の文献には、複数のチーズを同時に食することができる製品の事例が紹介されている。実用新案登録3091221号(特許文献1)では、二種類の異なるチーズ類を芯部および芯部を包み込む外層部からなる二重構造とし、鶏卵状に形成してなる鶏卵状チーズが開示されている。具体的には、芯部には低脂肪ゴータチーズを原料とするプロセスチーズ、外層部にはナチュラルチーズであるクリームチーズを用いた鶏卵状のチーズ(実施例1および2)や、外層部として水分を少なめにした保形性および加熱耐性のあるプロセスチーズ、芯部チーズ類としてチェダーチーズ・ゴーダチーズ等の黄色の硬質系チーズを用いた鶏卵状のチーズ(実施例3)が開示されており、市販の包餡機を使用して、鶏卵の形状に打ち出すことも開示されている。
【0005】
特許第2858809号(特許文献2)では、外層と芯とを2つのチーズカードで構成し、熱的処理も熟成処理も施さない水切りしたチーズカードを室温以下の温度で同時押出しすることを特徴とする複合チーズの製造方法が記載されている(請求項1)。特許第3706806号(特許文献3)では、押し出し成形装置を用い、熱によって流動化する包皮材料(段落[0046])の温度を調整しながら、充填物を包む固い包皮を有する食料製品が記載されており(段落[0011]および[0046]など)、包皮としてナチュラルチーズを用いたことが記載されている(例3)。
【0006】
特表2002−515227号公報(特許文献4)では、プロセスチーズのゾル状態からゲル状態への移行を可能にするクリーム化の能力を利用し、プロセスチーズを外殻とする複合チーズ製品が記載されている(段落[0024])
実開平5−76292号公報(特許文献5)では、チーズを一口大の球状に成形し、チーズの表面に白カビを生育させ、ディンプル模様を形成してなる一口大のゴルフボール状白カビチーズが開示されている。当該ゴルフボール状の白カビチーズの中に芯として、他の種類のチーズや餡などを入れてもよいことが記載されている(段落[0008])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録3091221号
【特許文献2】特許第2858809号
【特許文献3】特許第3706806号
【特許文献4】特表2002−515227号公報
【特許文献5】実開平5−76292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、複数種のチーズや他の食材との組み合わせを楽しむことのできる包餡型チーズの作製を検討する中で、特許文献1において外層部に用いられているプロセスチーズやクリームチーズは、その特性から、それらを容易に包餡することができるのに対し、モッツァレラなどの弾力性(ストレッチ性)があるナチュラルチーズでは、結着状態を良好に維持しながら、包餡機などで包餡する(外層で内部を完全に覆い尽くすように包む)ことが困難であるとの新たな知見を得るに至った。
【0009】
一方、ナチュラルチーズには、風味や食感が異なる様々な種類が存在することから、とくに、食感では、独特の噛み応えがあり、弾力性があるナチュラルチーズを外層に用い、別のナチュラルチーズなどを内部(芯)に包餡することで、外層に噛み応えのある独特の食感が得られるとの期待から、上記の問題が解決できれば、従来にはない、独特の包餡型チーズを開発できると確信し、さらに研究を重ねた。すなわち、本発明の課題は、弾力性があるナチュラルチーズを外層に用いて包餡した、包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべくさらに研究を重ねる中で、弾力性があるナチュラルチーズを加温された状態で包餡させることにより、弾力性があるナチュラルチーズを外層に用いながら、包餡型ナチュラルチーズを製造できることを見出し、さらに鋭意研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0011】
また、本発明の包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法において、弾力性があるナチュラルチーズを外層に用いることができたため、これまでに実現が困難であった、外層に噛み応えがある、包餡型ナチュラルチーズを汎用の包餡機などを使用して、定量的かつ連続的に大量生産することができることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、以下に関する。
[1]弾力性があるナチュラルチーズを外層として内容物を包餡してなる包餡型ナチュラルチーズを製造する方法であって、前記外層を20℃〜100℃の温度で包餡する工程を含む、前記方法。
[2]外層となる弾力性があるナチュラルチーズを、内容物に対して定量的かつ連続的に供給して包餡する、前記[1]に記載の方法。
[3]外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、原料乳を凝乳酵素により凝固させたチーズカードから調製される、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、チーズカードを50〜100℃の水中で混練させて調製される、前記[3]に記載の方法。
[5]外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、チーズカードのpHを4〜7に調整して調製される、前記[3]または[4]に記載の方法。
[6]外層となる弾力性があるナチュラルチーズが、パスタフィラータチーズである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]パスタフィラータチーズが、フレッシュチーズである、前記[6]に記載の方法。
[8]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法で製造した包餡型ナチュラルチーズ。
[9]包餡された内容物が、食品または医薬品である、前記[8]に記載の包餡型ナチュラルチーズ。
[10]包餡された内容物が、外層となるナチュラルチーズと異なるチーズである、前記[8]に記載の包餡型ナチュラルチーズ。
【0013】
また、本発明は、次の通りの態様であってもよい。
[11]弾力性があるナチュラルチーズを加温された状態で包餡させることを特徴とする、弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[12]加温が20〜100℃への加温であることを特徴とする、前記[11]に記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[13]加温が20〜100℃への加温であることを特徴とし、包餡が定量的かつ連続的に供給しながら包餡することを特徴とする、前記[11]に記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[14]包餡を包餡機で包餡することを特徴とする、前記[11]〜[13]のいずれかに記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[15]弾力性があるナチュラルチーズが、原料乳を凝乳酵素により凝固させて、原料ナチュラルチーズを調製することを特徴とする、前記[11]〜[14]のいずれかに記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[16]弾力性があるナチュラルチーズが、原料ナチュラルチーズを50〜100℃の水中で混練させて調製することを特徴とする、前記[15]に記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[17]弾力性があるナチュラルチーズが、原料ナチュラルチーズのpHを4〜7に調整することを特徴とする、前記[16]に記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[18]弾力性があるナチュラルチーズが、パスタフィラータチーズであることを特徴とする、前記[11]〜[14]のいずれかに記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法。
[19]前記[11]〜[18]のいずれかに記載の弾力性があるナチュラルチーズを外層とする包餡型ナチュラルチーズの製造方法で製造した包餡型ナチュラルチーズ。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、弾力性があるナチュラルチーズを所定の温度で包餡させることを特徴とする、弾力性があるナチュラルチーズを外層とする、これまでに実現が困難であった、外層に噛み応えがある、包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明を詳細に説明するが、本発明は、個々の形態には限定されない。
【0016】
本発明の弾力性があるナチュラルチーズとは、引っ張ることで、餅の如く伸長する性質があり、噛み応えがあるナチュラルチーズのことをいい、クリームチーズよりも弾力性のあるナチュラルチーズのことを意味し、例えば、パスタフィラータチーズ(モッツァレラチーズ、カチョカバロチーズ、スカモルツァチーズ、プロバローネチーズ、ストリングチーズなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の弾力性があるナチュラルチーズとは、その製造中において、風味(例えば、熟成の風味など)や食感(例えば、クリーミーで、滑らかな食感など)を調節するために、弾力性がないナチュラルチーズを添加するチーズでもあり、これも含めて、本発明の弾力性があるナチュラルチーズという。なお、パスタフィラータチーズとは、その製造中において、パスタフィラータ(pasta filata)プロセスを必要とするチーズであり、パスタフィラータプロセスとは、適切なpHで、チーズカードを加熱しながら、大きな塊がなくなるまで捏ね上げて、物性が滑らかになるまで混練や展延することである。
【0017】
本発明の弾力性があるナチュラルチーズは、例えば、以下の方法で製造(調製)される。すなわち、原料乳をレンネットなどの凝乳酵素などで凝固させ、乳酸菌や酸味料(乳酸など)などを添加して、pHを所定値の4〜7に調整してから、ホエイを排出して、チーズカードを得る。そして、この得られたチーズカードを、原料ナチュラルチーズとして用い、この原料ナチュラルチーズを50〜100℃の水中で混練して、弾力性(ストレッチ性)を持たせる。
【0018】
本発明の原料乳とは、未殺菌の生乳のことをいい、牛乳、羊乳、水牛乳、山羊乳などの獣乳であればよい。そして、本発明の原料乳では、その組成を調整することができる。例えば、クリームセパレーターなどを用いて、未殺菌の生乳から脱脂乳およびクリームを分離し、これら脱脂乳およびクリームを様々な混合比率で配合して、乳脂肪の含量を調整することができる。また、公知の分離膜などを用いて、ミネラル、ビタミン、乳糖、乳タンパク質、乳脂肪などを分離し、これらの成分を混合比率で配合して、これらの成分の含量を調整することもできる。
【0019】
本発明において、原料乳を凝乳する方法では、公知の方法を使用することができる。例えば、原料乳にレンネットなどの凝乳酵素を添加(配合)する方法、原料乳のpHを調整してから加熱する方法、原料乳に乳酸菌を添加し、乳酸菌により発酵して、原料乳のpHを低下させ、原料乳を凝集させる方法などを使用することができる。そして、本発明において、原料乳にレンネットなどの凝乳酵素を添加(配合)する方法、原料乳のpHを調整してから加熱する方法、原料乳に乳酸菌を添加し、乳酸菌により発酵して、原料乳のpHを低下させ、原料乳を凝集させる方法では、これらを単独で使用してもよいし、これらを併用してもよい。なお、本発明において、原料乳を凝乳する方法に使用する乳酸菌は、ナチュラルチーズで使用する乳酸菌であれば、その属および種は任意であり、例えば、ラクチス菌、クレモリス菌、ブルガリア菌、サーモフィラス菌などの公知の乳酸菌を挙げることができる。
【0020】
本発明において、乳酸菌により発酵する方法では、原料ナチュラルチーズのpHを調整することができる。ここで、本発明の乳酸菌では、ナチュラルチーズで使用することができる乳酸菌であればよく、その属および種は任意であり、例えば、ラクチス菌、クレモリス菌、ブルガリア菌、サーモフィラス菌などの公知の乳酸菌を挙げることができる。また、乳酸菌により発酵する方法以外では、原料乳に酸味料(乳酸など)などを直接添加して、原料ナチュラルチーズのpHを調整することができる。そして、本発明において、原料ナチュラルチーズでは、例えば、pHが4〜7、pHが4.2〜6.8、pHが4.4〜6.7、pHが4.6〜6.4、pHが4.8〜6.2、pHが5〜6である。このとき、好ましくは、pHが4〜7、より好ましくは、pHが4.4〜6.7、さらに好ましくは、pHが4.8〜6.2、さらに好ましくは、pHが5〜6である。なお、本発明において、原料ナチュラルチーズでは、とくに、pHを5〜6程度に調整すると、包餡機を用いて、外層となるナチュラルチーズを切り分ける際に、加工調理特性が良好となり、包餡型ナチュラルチーズを定量的かつ連続的に製造する観点から好ましい。
【0021】
本発明において、原料ナチュラルチーズを加熱して混練することにより、弾力性があるナチュラルチーズを製造(調製)することができる。本発明において、原料ナチュラルチーズを加熱して混練する方法では、公知の方法を使用することができる。例えば、チーズカードを温水中または熱水中で混練する方法、チーズカードを水蒸気の雰囲気中で混練する方法などを使用することができる。そして、本発明において、チーズカードなどを混練する温度は、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、80℃および84℃のいずれか1つを下限値とし、120℃、110℃、100℃、95℃、90℃、86℃および85℃のいずれか1つを上限値とする温度範囲であればよく、例えば、50〜100℃、55〜100℃、60〜100℃、65〜100℃、70〜100℃、70〜95℃、70〜85℃などである。このとき、好ましくは、50〜100℃、より好ましくは、60〜95℃、さらに好ましくは、70〜90℃であり、さらに好ましくは、80〜90℃、さらに好ましくは、84〜86℃である。
【0022】
本発明において、チーズカードなどを混練することにより、弾力性がある食感となり、本発明でいう弾力性があるナチュラルチーズになる。本発明において、ナチュラルチーズは、実際に包餡されるときに、所定の条件で加温されていればよく、必要に応じて、チーズカードなどを混練した直後に、所定の条件で冷却してもよい。つまり、チーズカードなどを加温しながら混練して一旦10℃以下に冷却してから、実際に包餡するときに再度、所定の条件で加温することもできる。
【0023】
本発明において、風味(例えば、熟成の風味など)や食感(例えば、クリーミーで、滑らかな食感など)を調整するために、弾力性がないナチュラルチーズ(弾力性がないナチュラルチーズを製造するためのチーズカードを含む)を添加(配合)することができる。例えば、チーズカード(弾力性があるナチュラルチーズを製造するためのチーズカード)などを混練する前に、弾力性がないナチュラルチーズを添加して、チーズカードなどとともに混練する方法、チーズカードなどを混練した後に、弾力性がないナチュラルチーズを添加する方法などがある。
【0024】
本発明の原料乳では、その乳脂肪の含量を調整することができる。原料乳の乳脂肪分の含量は、原料乳の全固形分中の乳脂肪分の割合で表すことができる。例えば、原料乳の全固形分中の乳脂肪分の割合が低ければ、いわゆる低脂肪タイプのナチュラルチーズとなり、原料乳の全固形分中の乳脂肪分の割合が高ければ、いわゆる高脂肪タイプのナチュラルチーズとなる。本発明の原料乳の全固形分中の乳脂肪分の割合は、特に制限されないが、例えば、0〜80重量%、0〜70重量%、0.5〜65重量%、0.5〜60重量%、1〜55重量%、2〜55重量%、5〜55重量%、10〜55重量%、15〜55重量%、20〜55重量%、25〜55重量%、30〜55重量%、35〜55重量%である。このとき、好ましくは、20〜50重量%であり、さらに好ましくは、25〜45重量%であり、最も好ましくは、30〜40重量%である。
【0025】
本発明の弾力性があるナチュラルチーズには、前記の通りに調製して得たものを使用すること以外に、弾力性がある市販のパスタフィラータチーズ(モッツァレラチーズ、カチョカバロチーズ、スカモルツァチーズ、プロバローネチーズ、ストリングチーズなど)などをそのまま使用してもよい。また、本発明の弾力性があるナチュラルチーズには、弾力性がない市販のフレッシュチーズを、前記の通りに加熱して混練して得たものを使用することができる。さらに、弾力性がない熟成型ナチュラルチーズの未熟成な状態にあるナチュラルチーズを、前記の通りに加熱して混練して得たものを使用することができる。なお、本発明の弾力性があるナチュラルチーズは、フレッシュチーズおよび熟成させたチーズのいずれでもよいが、好ましくは、フレッシュチーズである。
【0026】
本発明の弾力性があるナチュラルチーズでは、包餡型ナチュラルチーズの外層として使用するときに、原料ナチュラルチーズなどを加温して包餡することができる。このとき、パスタフィラータチーズ(モッツァレラチーズ、カチョカバロチーズ、スカモルツァチーズ、プロバローネチーズ、ストリングチーズなど)などの弾力性があるナチュラルチーズでは従来、カゼインのネットワークが不溶性であるため、ナチュラルチーズの結着状態が維持されてしまい、包餡機などを使用して定量的かつ連続的に包餡することが困難であると言う問題点(課題)があった。本発明では、弾力性があるナチュラルチーズを加温させた後に包餡させることにより、前記の課題が解消され、従来にはない、外層に弾力性がある食感を持つ包餡型チーズを実現することができた。かかる包餡型チーズには、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、チーズフード(一種以上のナチュラルチーズまたはプロセスチーズを粉砕し、混合し、加熱溶融し、乳化して製造されるものであり、実際の製品中において、チーズの重量比が51%以上のもの)などを包含することができる。
【0027】
本発明において、弾力性があるナチュラルチーズを外層として包餡する温度では、実際に包餡できる状態であれば、特に限定されないが、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃および57℃のいずれか1つを下限値とし、100℃、95℃、90℃、85℃、80℃、75℃、70℃、65℃および60℃のいずれか1つを上限値とする温度範囲であればよく、例えば、20〜100℃、20〜90℃、20〜80℃、20〜70℃、20〜60℃、25〜100℃、25〜90℃、25〜80℃、25〜70℃、25〜60℃、30〜100℃、30〜90℃、30〜80℃、30〜70℃、30〜60℃、35〜100℃、35〜90℃、35〜80℃、35〜70℃、35〜60℃、40〜100℃、40〜90℃、40〜80℃、40〜70℃、40〜60℃、45〜100℃、45〜90℃、45〜80℃、45〜70℃、45〜60℃、50〜100℃、50〜90℃、50〜80℃、50〜70℃、50〜60℃の温度下である。このとき、好ましくは、45〜65℃、より好ましくは、50〜65℃、さらに好ましくは、55〜65℃、さらに好ましくは、57℃〜63℃、さらに好ましくは、57℃〜60℃である。
【0028】
本発明において、弾力性があるナチュラルチーズを包餡する装置では、実際に包餡できる状態であれば、特に限定されないが、弾力性があるナチュラルチーズを加温して、定量的かつ連続的で機械的に包餡する装置を使用することができる。ここで、弾力性があるナチュラルチーズを加温して、定量的かつ連続的に包餡する装置とは、一個または二個以上の装置で構成され、例えば、包餡型ナチュラルチーズの外層を構成する弾力性があるナチュラルチーズを供給する装置、包餡型ナチュラルチーズの内部を構成する食品または医薬品を供給する装置、および、これら外層で内部を包餡する装置が独立していてもよいし、一部の装置が一体化していてもよいし、全部の装置が一体化していてもよい。なお、全部の装置が一体化した、定量的かつ連続的に包餡する装置として、例えば、汎用の包餡機がある。
【0029】
本発明において、弾力性があるナチュラルチーズを包餡する方法では、実際に包餡できる状態であれば、特に限定されないが、弾力性があるナチュラルチーズを加温して、定量的かつ連続的で機械的に包餡する装置に供給することができる。弾力性があるナチュラルチーズを加温して、定量的かつ連続的で機械的に供給する装置には、公知の定量ポンプを使用することができる。例えば、モーノポンプ、サインポンプ、2軸のスクリューポンプ、ロータリーポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプ、ギアポンプなどを使用することができる。もちろん、弾力性があるナチュラルチーズが同様な特性を持ったままで、弾力性があるナチュラルチーズを加温して、定量的かつ連続的で機械的に供給できれば、定量ポンプに限定されない。
【0030】
本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、実際に包餡できる状態であれば、この内容物(内部)に、全部の物質および/または組成物を対象とすることができる。例えば、この内部も喫食(摂取)することを考えれば、食品や医薬品などがある。具体的には、この内部に、外層とは別のチーズを使用することにより、外層(外側)の食感に特徴があり、複数の食感を楽しめる、チーズ(ナチュラルチーズ)を提供することができる。ここで、この内部に使用するチーズには、外層と食感が異なるものがあり、例えば、クリームチーズ、フレッシュチーズ、硬質ナチュラルチーズ、半硬質ナチュラルチーズ、軟質ナチュラルチーズ、カビ熟成型ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、チーズフードがある。また、この内部に、例えば、ヨーグルトなどの発酵乳、クリーム、バター、マーガリン、畜肉類、肉加工品、野菜、魚介類、水産加工品、果実、香辛料、糖蜜、ジャム、ソース、プレパレーション、フィリング、卵加工品、大豆加工品、調味料、スープ、プリン、ゼリー、栄養食品、サプリメントを使用することにより、外層(外側)の食感に特徴があり、複数の食感を楽しめる、チーズ(ナチュラルチーズ)を提供することができる。なお、代表的な弾力性があるナチュラルチーズであるモッツァレラチーズでは、トマトと合わせたカプレーゼという料理があるが、本発明を応用すれば、モッツァレラチーズでトマトを包餡して、カプレーゼを手軽に供給することができる。さらに、この内部に、医薬品を使用することにより、風味や食感を楽しみながら、投薬治療を続けることができる。
【0031】
本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、実際に包餡できる状態であれば、この重量は、特に限定されないが、製品の食べやすさなどの観点から、10g、11g、12g、13g、14g、15g、16g、17g、18g、19g、20g、25g、30g、35gおよび40gのいずれか1つを下限値とし、製造装置の能力などの観点から、1000g、900g、800g、700g、600g、500g、400g、300g、200g、150g、125g、100g、80g、75g、70g、65gおよび60gのいずれか1つを上限値とする重量範囲であればよく、例えば、10〜1000g、11〜800g、12〜700g、13〜600g、14〜500g、15〜400g、16〜300g、17〜200g、18〜150g、19〜125g、20〜100g、20〜80g、25〜75g、30〜70g、35〜65g、40〜60gである。
【0032】
本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、一口サイズで個人用に提供する場合、この重量は、例えば、20〜100g、20〜80g、25〜75g、30〜70g、35〜65g、40〜60gである。また、本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、複数個に切り分けて初めて包餡(積層)されていることを見せるようにして、いわゆる「サプライズ効果」を演出して、複数人用に提供する場合、この重量は、例えば、100〜1000g、100〜900g、100〜800g、100〜700g、100〜600g、100〜500g、100〜400g、100〜300g、100〜200gである。
【0033】
本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、実際に包餡できる状態であれば、外層となる弾力性があるナチュラルチーズと内部となる食品の重量比は、特に限定されないが、(外層):(内部)は、例えば、100:1、50:1、25:1、10:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:10、1:25、1:50、1:100である。すなわち、(外層):(内部)は、例えば、100〜1:1〜100の範囲に入っていれば、設計上で任意に決めることができる。ここで、本発明によれば、外層となるナチュラルチーズを特定の温度で扱うことにより、外層となるナチュラルチーズの加工調理特性が良好となることから、内部の重量に対して、外層の重量が過度に大きくなることがなく、内部の重量と外層の重量のバランスがよくなるように設計できる。このとき、(外層):(内部)は、好ましくは、1:2〜4:1、より好ましくは、1:1〜4:1、さらに好ましくは、1:1〜3:1であり、さらに好ましくは、1:1〜2:1である。
【0034】
本発明の包餡型ナチュラルチーズでは、実際に包餡できる状態であれば、任意の食品原料および/または食品添加物を設計上で任意に添加することができる。ここで、本発明によれば、外層となるナチュラルチーズを特定の温度で扱うことにより、外層となるナチュラルチーズの加工調理特性が良好となることから、包餡機を用いても、個々に供給されるナチュラルチーズの重量が大きく変化することなく、定量的かつ連続的に包餡型ナチュラルチーズを製造することができる。さらに、本発明によれば、外層となるナチュラルチーズの加工調理特性が良好となることから、包餡機を用いても、品質を均一に制御や管理して、包餡型ナチュラルチーズを定量的かつ連続的に大量生産することができる。
【0035】
実施例
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。
【0036】
[実施例1]
一般的なナチュラルチーズの製造方法に準じて、原料乳にレンネットと乳酸菌を添加して、pHが5.2になるまで発酵しながら凝乳させた後に、ホエイを排出して、チーズカードを得た。この加熱前のチーズカードの弾力性は1であった。そして、このチーズカードを85℃の温水で混練し、餅のような食感である、弾力性があるナチュラルチーズを得た。この加熱時のチーズ(外層)の弾力性は4であった。ここで得られた弾力性があるナチュラルチーズの温度は57℃であり、これを保温(57℃)しながら、包餡機(レオン社製(日本)、「火星人(登録商標)CN500」)の外層用ホッパーに投入した。一方、同時に、クリームチーズを保温(40℃)しながら、包餡機の内部用ホッパーに投入した。ここで、外層用ホッパーから包餡機には、モーノポンプを用いて、弾力性があるナチュラルチーズを供給し、内部用ホッパーから包餡機には、ベーンポンプを用いて、クリームチーズを供給した。このとき、外層と内部の重量比を、(外層):(内部)が2:1となるように供給し、合計で50gが供給されたところで、包餡型ナチュラルチーズの1個となるように、包餡機の操作条件を設定した。これらの操作条件で、包餡機を用いて、包餡型ナチュラルチーズを製造した。そして、内部をクリームチーズとし、外層を弾力性があるナチュラルチーズとした、内部と外層で食感が異なる、二層のチーズで構成された包餡物を得た。この包餡物の製造(完成)の直後に、外層の温度は35℃であった。
【0037】
[実施例2]
弾力性があるナチュラルチーズとして、モッツァレラチーズを使用した以外は、実施例1と同様にして、包餡型ナチュラルチーズを製造した。この加熱時のチーズ(外層)の弾力性は4であった。そして、内部をクリームチーズとし、外層を弾力性があるナチュラルチーズとした、内部と外層で食感が異なる、二層のチーズで構成された包餡物を得た。この包餡物の製造(完成)の直後に、外層の温度は35℃であった。
【0038】
[実施例3]
一般的なナチュラルチーズの製造方法に準じて、原料乳にレンネットと乳酸菌を添加して、pHが5.2になるまで発酵しながら凝乳させた後に、ホエイを排出して、チーズカードを得た。この加熱前のチーズカードの弾力性は1であった。そして、このチーズカードを85℃の温水で混練し、餅のような食感である、弾力性があるナチュラルチーズを得た。この加熱時のチーズ(外層)の弾力性は4であった。ここで得られた弾力性があるナチュラルチーズの温度は60℃であり、これを保温(60℃)しながら、包餡機(レオン社製(日本)、「火星人(登録商標)CN500」)の外層用ホッパーに投入した。一方、同時に、クリームチーズを保温(40℃)しながら、包餡機の内部用ホッパーに投入した。ここで、外層用ホッパーから包餡機には、ベーンポンプを用いて、弾力性があるナチュラルチーズを供給し、内部用ホッパーから包餡機には、ベーンポンプを用いて、クリームチーズを供給した。このとき、外層と内部の重量比を、(外層):(内部)が2:1となるように供給し、合計で50gが供給されたところで、包餡型ナチュラルチーズの1個となるように、包餡機の操作条件を設定した。これらの操作条件で、包餡機を用いて、包餡型ナチュラルチーズを製造した。そして、内部をクリームチーズとし、外層を弾力性があるナチュラルチーズとした、内部と外層で食感が異なる、二層のチーズで構成された包餡物を得た。この包餡物の製造(完成)の直後に、外層の温度は55℃であった。
【0039】
[比較例1]
一般的なナチュラルチーズの製造方法に準じて、原料乳にレンネットと乳酸菌を添加して、pHが5.2になるまで発酵しながら凝乳させた後に、ホエイを排出して、チーズカードを得た。この加熱前のチーズカードの弾力性は1であった。そして、このチーズカードを85℃の温水で混練し、餅のような食感である、弾力性があるナチュラルチーズを得た。この加熱時のチーズ(外層)の弾力性は4であった。ここで得られた弾力性があるナチュラルチーズを10℃に冷却した後に、これを冷却された状態のままで、包餡機(レオン社製(日本)、「火星人(登録商標)CN500」)の外層用ホッパーに投入した。この冷却時のチーズ(外層)の弾力性は1であった。一方、同時に、クリームチーズを保温(40℃)しながら、包餡機の内部用ホッパーに投入した。ここで、外層用ホッパーから包餡機には、ベーンポンプを用いて、弾力性があるナチュラルチーズを供給し、内部用ホッパーから包餡機には、ベーンポンプを用いて、クリームチーズを供給した。このとき、外層と内部の重量比を、(外層):(内部)が2:1となるように供給し、合計で50gが供給されたところで、包餡型ナチュラルチーズの1個となるように、包餡機の操作条件を設定した。これらの操作条件で、包餡機を用いて、包餡型ナチュラルチーズを製造しようと試みた。しかし、外層となる弾力性があるナチュラルチーズを包餡しようとしている最中に、これらのチーズが切れてしまい、これらのチーズを上手く包餡できなかった。この外層の温度は10℃であった。
【0040】
<弾力性評価>
本発明において、チーズおよびチーズカードの弾力性については、以下の基準に従って評価した。
50gのチーズまたはチーズカードの中心付近を2つの把持手段で把持し、2つの把持手段を左右に5cm/secで引き伸ばし、チーズまたはチーズカードが切断された時点での2つの把持手段の間の距離を計測する。同様の計測を3回以上行い、平均距離から弾力性を評価した。
弾力性1: 10cm未満
弾力性2: 10cm以上20cm未満
弾力性3: 20cm以上50cm未満
弾力性4: 50cm以上100cm未満
弾力性5: 100cm以上
包餡を目的とする場合、チーズおよびチーズカードの弾力性は、好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上、最も好ましいのは5である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の包餡型ナチュラルチーズおよびその製造方法において、弾力性があるナチュラルチーズを外層に用いることができたため、これまでに実現が困難であった、外層に噛み応えがある、包餡型ナチュラルチーズを汎用の包餡機などを使用して、定量的かつ連続的に大量生産することができる。