(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本発明の第一態様の金属二次電池用多孔質セパレータは、多孔質ポリイミドフィルムの少なくとも一方の主表面の表層に、ポリマー電解質層が形成されていることを特徴とする。
【0014】
[多孔質ポリイミドフィルム]
本発明において用いられる多孔質ポリイミドフィルムは、ポリイミドを主成分とするフィルムであって、両主表面に開口した孔を有し、フィルム内部で個々の細孔が連通したものが特に限定されることなく使用できる。
【0015】
金属二次電池の負極表面の電場を均一化して、デンドライトの発生を効果的に防止する観点から、多孔質ポリイミドフィルム中の連続微細孔は、三次元規則配列されたものであることが好ましい。三次元規則配列とは、多孔質ポリイミドフィルム全体に三次元的に隣接する空孔が連通して配列されている構造を意味する。そのため、球状の孔が規則的に隣り合う形で連続した孔が形成された3DOM(3−dimensional ordered macroporous)構造を有する多孔質ポリイミドフィルムを用いるとよい。
【0016】
上記3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルムは、例えば、単分散球状無機微粒子を鋳型として用いる方法により作製することができる。この場合、六方最密充填構造を有する上記3DOM構造を形成することができる。また、鋳型となる単分散球状無機微粒子の粒径を選択することにより、多孔質ポリイミドフィルムの空孔サイズをマイクロオーダーからナノオーダーまで容易に制御することができる。さらに、単分散球状無機微粒子堆積体の焼成温度、焼成時間を制御することによって、連通孔の大きさの制御を容易に行え、所望の特性を有するセパレータ用多孔質ポリイミドフィルムを簡単に作製することができる。
【0017】
<3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルム>
上記の3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルムは、例えば、次のような方法によって製造することができる。
【0018】
まず、単分散の球状無機微粒子を溶媒に分散させ、この分散液をフィルターで濾過することによって、フィルター上に単分散の球状無機微粒子を堆積し、鋳型となる単分散球状無機微粒子の細密充填規則配列体を作製する。
【0019】
このとき、溶媒としては、無機微粒子およびフィルターを溶解しないものであればどのようなものであってもよいが、例えば、蒸留水の使用が簡便で好ましい。また、濾過する無機微粒子のフィルター単位面積当たりの濾過量を変えることにより、堆積する粒子の厚み、すなわち多孔質ポリイミドフィルムの膜厚を制御できる。また、無機微粒子のサイズを変えることで最終的にセパレータの細孔径を制御することもできる。鋳型である無機微粒子を溶出させた後の空孔径は、樹脂の収縮等により無機微粒子の粒径より幾分小さくなることが一般的である。そのため、最終的に要求される膜の空孔率、樹脂の収縮率、必要とされる空孔径を勘案して、使用する無機微粒子の径を選択すればよい。
【0020】
つづいて、上記で得られた堆積体を焼成して、無機微粒子の焼結体(細密充填規則配列体)を形成する。その際、必要であれば、上記堆積体をフィルターから剥離して、焼成、焼結してもよい。この焼成処理は、無機微粒子焼結体の強度を高めるために行われる。すなわち、焼成処理により、無機微粒子が焼結され、無機微粒子間の溶融接続がなされて、無機微粒子焼結体の強度が高められる。また、これにより、連通孔の形成を確実にすることができる。このときの焼成温度や時間を変えることで、無機微粒子の焼結度合を制御し、これにより3DOM構造を持つ多孔質ポリイミドフィルムの連通孔サイズを制御することができる。焼成温度は、使用される無機微粒子の焼結を行うことができる温度以上の温度であればよく、また焼成時間も、要求される連通孔サイズに応じ適宜の時間とすればよい。例えば、無機微粒子として、シリカ微粒子を採用する場合、1000〜1100℃で、30分〜12時間の熱処理を行うことが好ましい。
【0021】
無機微粒子の上記焼結体の間隙に、ポリアミド酸またはポリイミドを含有するワニスを充填した後、乾燥して溶剤をとりのぞき、さらに焼成してポリイミドと焼結体との複合体とする。ワニスの上記焼結体への含浸は、特に限定されずどのような方法によって行ってもよいが、真空含浸充填法により含浸させることが好ましい。このとき、含浸させるワニスの量が、乾燥後のポリイミドの膜厚が焼結体の膜厚以下となるような量とされることが好ましい。含浸させる樹脂の量を制御することにより、無機微粒子焼結体を含有するポリイミドフィルムの膜厚を制御することができる。
【0022】
ポリイミドの焼成条件は、特に限定されない。例えば、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることができる。
【0023】
つづいて、上記無機微粒子焼結体を含有するポリイミドフィルムを、無機微粒子は溶解するが樹脂は溶解しない溶液に浸漬して、無機微粒子焼結体を含有するポリイミドフィルムから無機微粒子焼結体を溶解除去し、3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルムが最終的に形成される。その後、必要に応じ、多孔質ポリイミドフィルムを洗浄、乾燥してもよい。
【0024】
無機微粒子等を除去するために、例えば、無機微粒子としてシリカが採用される場合は、低濃度のフッ化水素水等により、炭酸カルシウムの場合は塩酸により、上記無機微粒子焼結体を含有するポリイミドフィルムを処理して、当該無機微粒子を溶解除去することが可能である。
【0025】
使用ワニス
上記のとおり、多孔質ポリイミドフィルムを形成するに際し、予めポリアミド酸またはポリイミドを有機溶媒中に均一に溶解し、ワニス化して無機微粒子の焼結体への含浸を行う。ワニスの製造は、例えば、下記のとおりに行うことができる。
【0026】
まず、ポリアミド酸またはポリイミドおよび有機溶剤を含有するワニスを準備する。
ワニスの調製は、有機溶剤とポリアミド酸またはポリイミドを任意の比率で混合するか、有機溶剤中でポリアミド酸を重合して行われる。
【0027】
用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0030】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミンおよびその誘導体、ジアミノビフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノジフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノナフタレンおよびその誘導体、アミノフェニルアミノインダンおよびその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物およびその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物およびその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0031】
本発明で用いられるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0034】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0035】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸の有機溶剤溶液の固有粘度は、好ましくは1000〜10万cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000〜7万cPの範囲である。
【0036】
本発明に用いるポリイミドは、本発明のワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基または焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0037】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。さらに、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0038】
<3DOM構造を有さない多孔質ポリイミドフィルム>
本発明の多孔質ポリイミドフィルムは、上記3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルム以外にも、ポリアミド酸またはポリイミドと無機微粒子とを含有するワニスを準備し、一旦成膜したのち焼成して、得られたポリイミド−無機微粒子複合フィルムから、無機微粒子を適切な方法を選択して除去することにより製造してもかまわない。その際、上記微粒子を除去する工程の前に、ポリイミド−無機微粒子複合フィルム表面のポリイミド部分の少なくとも一部を除去するか、または、微粒子除去工程後に、多孔質ポリイミドフィルム表面の少なくとも一部を除去する工程を設けてもよい。
【0039】
ポリイミドの焼成条件は、特に限定されない。例えば、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。
【0040】
上記で得たポリイミド−無機微粒子複合フィルムから、材質によって適切な方法を選択して、無機微粒子を除去することにより、本発明の多孔質ポリイミドフィルムを再現性よく製造することができる。例えば、上記3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルムの説明において記載した方法が、特に制限なく使用できる。
【0041】
使用ワニス
上記のワニスは、予め微粒子が分散した有機溶剤とポリアミド酸またはポリイミドを任意の比率で混合するか、無機微粒子を予め分散した有機溶剤中でテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを重合してポリアミド酸とするか、さらにイミド化してポリイミドとすることで製造でき、最終的に、その粘度を300〜1500cPとすることが好ましく、400〜700cPの範囲がより好ましい。ワニスの粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0042】
用いるポリアミド酸、ポリイミド、および無機微粒子は、上記3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルムの説明において記載したものが、特に制限なく使用できる。上記無機微粒子は、ワニスに使用する有機溶剤に不溶であり、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されること無く使用することができる。
【0043】
上記ワニスには、微粒子を、焼成してポリイミド−無機微粒子複合フィルムとした際に無機微粒子/ポリイミドの比率が2〜6(質量比)となるように無機微粒子とポリアミド酸またはポリイミドとを混合でき、3〜5(質量比)であることが好ましい。ポリイミド−無機微粒子複合フィルムとした際に微粒子/ポリイミドの体積比率が1.5〜4.5となるように、微粒子とポリアミド酸またはポリイミドとを混合するとよい。1.8〜3(体積比)とすることがさらに好ましい。ポリイミド−無機微粒子複合フィルムとした際に微粒子/ポリイミドの質量比が2以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、6以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜することができる。
【0044】
本発明で用いられる微粒子は、真球率が高く、また、粒径分布指数の小さいものが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、100〜2000nmのものを用いることができる。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができるため、印加される電場を均一化でき好ましい。
【0045】
無機微粒子を含むワニス(以下、「スラリー」という。)を調製する際、無機微粒子を均一に分散することを目的に、ポリアミド酸またはポリイミドと溶媒の混合物に、無機微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸またはポリイミドと無機微粒子とを一層均一に混合でき、さらには、上記成膜したフィルム中の無機微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質フィルムの主表面に稠密な開口を設け、かつ、両主表面(表裏面)を効率よく連通させることが可能となり、また、セパレータとして使用した場合に、負極表面の電場の均一度を向上できるため好ましい。
【0046】
上記の分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテルまたはポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0047】
[ポリマー電解質層]
本発明のポリマー電解質層の形成に用いられるポリマー電解質は、真性のポリマー電解質であってもよく、あるいは有機ポリマーと液体電解質との混合物であってもよい。
【0048】
上記真性のポリマー電解質としては、電解液中の金属イオンを相互作用できる電解質であれば、特に限定されることなく使用することができる。例えば、ポリエーテル(PEO);パーフルオロアルキレンを主骨格とし、パーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基、またはカルボン酸基等のイオン交換基を有するフッ素系ポリマー;ポリアクリル酸(PAA)やポリスチレンスルホン酸(PSS);ポリ(アリルアミン塩酸塩);4級化ポリ(ビニルピリジン)等およびこれらの共重合体を挙げることができる。
【0049】
これら真性のポリマー電解質のうち、パーフルオロスルホン酸ポリマーに代表されるフッ素系電解質ポリマーは、化学的安定性が非常に高いことから、電解質膜として適しており好ましい。このようなフッ素系電解質ポリマーとしては、Nafion膜(登録商標、Du Pont社)、Dow膜(Dow Chemical社)、Aciplex膜(登録商標、旭化成工業(株))、Flemion膜(登録商標、旭硝子(株))等が知られる。
【0050】
上記ポリマー電解質のひとつは、有機ポリマーと液体電解質とを混合した混合物である。有機ポリマーと液体電解液とを混合してゲル化した混合物は、通常ゲル電解質と呼ばれるもので、例えば、ポリオキシエチレン(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、フッ化ビニリデン(VdF)とテトラフルオロプロピレン(TFP)の共重合体、フッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびテトラフルオロプロピレン(TFP)の三元共重合体、PVdF共重合体やポリフッ化ビニリデン(PVdF)とポリオキシエチレン(PEO)等を混合したポリマー組成物(ポリマーアロイ)、PEOを側鎖にもつアクリレート系ポリマー、PEOやアクリレート等を側鎖にもつPVdF等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0051】
上記有機ポリマーに含浸させる液体電解液としては、金属塩を有機溶媒に溶解したものを、特に制限されることなく使用できる。上記有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒の1種もしくは2種以上を使用することができる。
【0052】
また、上記金属塩の具体例としては、例えばLiClO
4、LiAsF
6、LiBF
4、LiPF
6、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2等の金属塩が挙げられるがこれらに限定されない。これらのなかでも、サイクル特性の観点から、特にLiPF
6、LiBF
4、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、またはこれらの組合せが好ましい。
【0053】
上記した電解質ポリマーに、フィラー、他のポリマー、可塑剤等の添加剤をさらに添加して使用してもよい。
【0054】
ポリマー電解質に添加できる上記フィラーとしては、有機物粒子であっても無機物粒子であってもよい。耐熱性の観点からは、無機微粒子を用いることが好ましい。具体的な無機物粒子としては、例えば、ケイ素または金属の酸化物、セラミクス等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
上記の酸化物の例としては、例えば、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、CeO
2、ZnO、ZrO
2等が挙げられる。また、上記セラミクスとしては、イオン伝導性のないものでも、イオン伝導性のあるものであってもよいが、多孔質ポリイミドフィルムの孔内の電解質ポリマーのイオン伝導性を妨げないことから、イオン伝導性のセラミクスを用いることが好ましい。イオン伝導性のセラミクスとしては、Li
2S−P
2S
5系ガラス、Na
2O−11Al
2O
3、LTAP系ガラスセラミック電解質(Li
1+x+yTi
2−xAl
xP
3−ySi
yO
12(x=0.3、y=0.2))等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
上記のフィラーの径は、特に限定されるものではないが、多孔質ポリイミドフィルムの空孔内にポリマー電解質を充填してポリマー電解質層を形成する際には、多孔質ポリイミドフィルムの有する空孔の孔径よりも十分に小さいものを選択することが好ましい。
【0057】
上記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールジメチルエステルや高誘電率のプロピレンカーボネート等の金属塩溶解用の有機溶媒を用いることができる。
【0058】
金属二次電池の負極表面の電場を均一化するには、上記ポリマー電解質層が負極金属と多孔質ポリイミドフィルムの間に介在するように配置されればよい。そのため、負極金属上に直接ポリマー電解質層を設けることも一法であるが、ポリマー電解質層形成の容易性および電池の充放電特性の面からは、多孔質ポリイミドフィルムの表層にポリマー電解質層を設けることがより好ましい。
【0059】
多孔質セパレータがポリマー電解質層を有する場合、上記ポリマー電解質層は、多孔質ポリイミドフィルム主表面と接して担持され、主としてポリマー電解質のみを有する層、ポリマー電解質がポリイミドの空孔内に担持された層、あるいは上記した2層が連続して構成される複合層のいずれであってもよい。多孔質ポリイミドフィルムの主表面に担持されたポリマー電解質材料、および該主表面から連続する層状領域中の空孔内に担持されたポリマー電解質材料によって、ポリマー電解質層が構成されることが好ましい。
【0060】
本発明の電解質層の厚みに制限はないが、薄いほど抵抗が小さくなり、電池の容量維持率を高めるために好ましい。例えば、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。下限値は特にないが、少なくとも、多孔質ポリイミドフィルムの主表面に存在する開口部を形成する空孔がポリマー電解質により充填されて、フィルム表面が全体として平滑化されることが、これと接する負極表面の電場を均一化するうえで好ましい。
【0061】
なお、ポリマー電解質層を直接負極電極上に設ける場合は、その厚みを多孔質ポリイミド上に設ける場合よりも、さらに薄くする必要がある。例えば、5μm以下とすることが好ましい。この場合、ポリマー電解質層の膜厚の制御を、より厳格にする必要がある。
【0062】
上記ポリマー電解質からなる層を、多孔質ポリイミドフィルムの少なくとも一方の主表面の表層に形成する方法としては、例えば、ポリマー電解質を有機溶媒に溶解した溶液を製造し、多孔質ポリイミドフィルムにポリマー電解質溶液をロールコーティングする方法、多孔質ポリイミドフィルムをポリマー電解質溶液にディッピングする方法、ベースフィルムにポリマー電解質溶液を塗布した上に多孔質ポリイミドフィルムを重ねて、毛細管現象を利用して多孔質ポリイミドフィルム内にポリマー電解質溶液を充填する方法等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0063】
上記の毛細管現象を利用して多孔質ポリイミドフィルム内にポリマー電解質溶液を充填する方法を採用すると、より薄いポリマー電解質層を形成できるために好ましい。
【0064】
[金属二次電池]
本発明の第二の態様は、金属負極と正極との間に、電解液および本発明の第一の態様である金属二次電池用多孔質セパレータが配置された金属二次電池である。上記本発明の金属二次電池用多孔質セパレータのポリマー電解質層が形成された主表面を、上記金属負極側に配置して使用する。
【0065】
本発明の金属二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではない。正極とセパレータと負極が順に上記条件を満たすように積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、公知の金属二次電池を特に限定されることなく使用することができる。本発明の金属二次電池は、正極活物質として大気中の酸素を利用する金属空気電池であってもよい。
【0066】
本発明における二次電池の負極は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)およびそれらと他の金属の合金が使用できる。
【0067】
例えば、二次電池がリチウム金属二次電池の場合、負極には、リチウム(金属リチウム)のほか、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−ビスマス、リチウム−インジウム、リチウム−ガリウム、リチウム−インジウム−ガリウム等のリチウム合金で構成されたものを用いてもよい。具体的には、これらのリチウムまたはリチウム合金を、集電体に圧着して負極とすることができる。リチウム合金の場合、リチウムの含有量が約90質量%以上であることが好ましい。
【0068】
負極の厚さは、特に限定されることなく、公知の範囲で設定して使用できる。本発明のセパレータを使用した場合、負極表面が安定となるため、負極の薄膜化を行うことができ、また、正極に対する負極金属の容量利用率を増加させることが容易となる。例えば、集電体を除いた厚さとして、15〜700μmとするとよい。好ましくは、600μm以下、さらに好ましくは、100μ以下である。
【0069】
また、正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、二酸化マンガンを活物質とする正極を使用することができる。具体的には、活物質である二酸化マンガンと、導電助剤と、バインダーとを含有する正極合剤層を、正極集電体の片面または両面に形成した構成の正極等を使用することができる。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、鱗片状黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、繊維状炭素等が用いられ、バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバー等が用いられる。
【0070】
本発明における二次電池がリチウム金属二次電池の場合、例えば、正極活物質として、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物、リチウム含有遷移金属酸化物等を使用してもよい。具体的には、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
0.5Ni
0.5O
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiCo
0.5Ni
0.5O
2、LiAl
0.25Ni
0.75O
2等を挙げることができる。
【0071】
リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0072】
本発明における二次電池が金属空気電池である場合、用いられる正極は、空気中から酸素を吸収し、これを水酸化物イオンに変換する役目をする触媒層と集電体とからなる。触媒層は、その内部に集電体を含有する。集電体は触媒層の中央にあってもよいし、触媒層の片面に層状に存在してもよい。
【0073】
正極の集電体としては、カーボンペーパー、金属メッシュ等の多孔質構造、網目状構造、繊維、不織布等、従来から集電体として用いられる形態の材料を、特に限定されず用いることができる。例えば、SUS、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン等から形成した金属メッシュを用いることができる。その他の正極集電体として、酸素供給孔を有する金属箔を用いることもできる。
【0074】
上記触媒層には、空気極触媒材料が含有される。空気極触媒材料としては、負極で生成した電子を受け取り、酸素を還元する物質であれば、種々の触媒を何れも用いることができる。例えば、La
(1−x)A
xMnO
3(0.05<x<0.95;A=Ca,Sr,Ba)で表されるランタンマンガナイト等のペロブスカイト型複合酸化物、Mn
2O
3、Mn
3O
4等のマンガン低級酸化物、あるいは活性炭、カーボン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料は、酸素還元能と導電性を兼ね備えており好ましい。
【0075】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の多孔質セパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【0076】
本発明における二次電池が金属空気電池である場合、電池ケースは、大気開放型であっても、密閉型であってもよい。大気開放型の電池ケースは、少なくとも空気極が十分に大気と接触可能な構造を有する。一方、密閉型の場合は、正極活物質である酸素(空気)の導入管および排気管を設けることが好ましい。
【実施例】
【0077】
(セパレータ製作)
<3DOMポリイミドセパレータの製造>
下記要領にて3DOM構造を有する多孔質ポリイミドフィルム(以下、「3DOMポリイミドセパレータ」という。)を製造した後、ポリマー電解質層を設けセパレータA〜Cを得た。
【0078】
ホモジナイザを用いて、球状シリカ(株式会社日本触媒社製のシーホスター(登録商標)KE−P30、メディアン平均粒径280nm)5gをジメチルアセトアミド(DMAc)溶剤5gに均一に分散させた。この分散液10gに、ポリイミド前駆体としてポリアミック酸液(PMDA(ピロメリット酸二水和物)/ODA(ジアミノジフェニルエーテル)、JFEケミカル)5.5gを添加し、脱泡撹拌装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)を用いて均一に混合して、シリカ/ポリイミド前駆体スラリーを得た。
【0079】
このスラリーを、リン酸エステル系の剥離剤をスピンコートしたガラス板に約25μmで製膜した。製膜はドクターブレードを用い自動製膜装置を用いて10cm×10cmの面積で製膜した。これを室温で5時間放置し、ガラス板から膜が自然に剥離するまで待ち、剥離後にメタノールで剥離剤を除去した後、SUS製の型枠に固定し、100℃→200℃→300℃→400℃と段階的に熱処理を施し、イミド化を完結させ、シリカ−ポリイミド複合膜を取得した。そのシリカ−ポリイミド複合膜を10質量%フッ化水素水に浸し、6時間かけてシリカを溶解除去した。除去後、念入りに水洗し、3DOMポリイミドセパレータを取得した。
【0080】
<セパレータA>
ポリマー電解質のポリマー成分として、メタクリル酸のPEOエステル(PEGMA)とポリステレン(PSt)とのプロック共重合体が中心から放射状に伸びたスター構造ポリマー(S−MESポリマー)(日本曹達株式会社)を使用した。1,2−ジメトキシエタン(DME)に30重量%のS−MESポリマーを溶解した溶液に、リチウム塩(LiPF
6)中のリチウム([Li])とS−MESポリマー中のエチレンオキシド([EO])の化学量論比が[Li]/[EO]=0.01となるよう、リチウム塩を添加しポリマー電解質溶液とした。
【0081】
ガラス基板上に上記のポリマー電解質溶液を滴下し、厚さ5μmとなるように塗工した。これに、3DOMポリイミドセパレータを上から静置することで、上記3DOMポリイミドセパレータの空孔中にポリマー電解質溶液を充填した。その後、真空乾燥により溶媒を除去して、ガラス基板上からセパレータを剥離することで、3DOMポリイミドセパレータの片面のみにポリマー電解質層が形成されたセパレータを作製した。上記セパレータの断面をSEMで観察したところ、その表面からおよそ8μmまで、ポリマー電解質が孔内を充填していることが確認できた。3DOMポリイミドセパレータ上のポリマー電解質層の厚みはおよそ3μmだった。
【0082】
<セパレータB>
ポリマー電解質のリチウム塩を、化学量論比が[Li]/[EO]=0.02となるよう調節したほかは、セパレータAと同様にしてセパレータを作製した。
【0083】
<セパレータC>
ポリマー電解質のリチウム塩を、化学量論比が[Li]/[EO]=0.03となるよう調節したほかは、セパレータAと同様にしてセパレータを作製した。
【0084】
(評価用負極の作製)
<参考例1>
アルゴン雰囲気ドライボックス内において、厚さ約10μmの銅箔の付いた厚さ20μmの金属リチウムをガラス基板上に、銅箔をガラス基板面に向けて静置した。前記金属リチウムに対し、上記のポリマー電解質溶液を、ドクターブレード法を用いて塗布した。その後、真空乾燥によりDME溶媒を除去し、ポリマー電解質層を設けた負極をガラス基板から剥離した。負極の金属リチウム上に形成されたポリマー電解質層の厚みは、およそ9μmであった。
【0085】
<参考例2>
アルゴン雰囲気ドライボックス内において、厚さ約6μmの銅箔の付いた厚さ20μmの金属リチウムをガラス基板上に、銅箔をガラス基板面に向けて静置した。前記金属リチウムに対し、上記のポリマー電解質溶液を、ドクターブレード法を用いて塗布した。その後、真空乾燥によりDME溶媒を除去し、ポリマー電解質層を設けた負極をガラス基板から剥離した。負極の金属リチウム上に形成されたポリマー電解質層の厚みは、およそ5〜6μmであった。なお、ポリマー電解質層の厚みは、ポリマー電解質溶液を負極である金属リチウム上に塗工する際のブレードのギャップ(塗工厚み)によって制御できることが確認されている。例えば、ガラス基板上に厚さ20μmのリチウム金属と厚さ6μmの銅箔とを静置し、その上からギャップ50μmでポリマー電解質液を塗工した際には、ポリマー電解質溶液の厚みは、24(50−20−6)μmとなる。その後、乾燥させガラス基板から剥離することにより、表面に厚み8〜10μmのポリマー電解質層が形成される負極が作製される。
【0086】
<参考例3>
ポリマー電解質溶液として、1,2−ジメトキシエタン(DME)中のS−MESポリマーの濃度を10重量%となるよう調節した以外は、参考例2と同様にして、ポリマー電解質層を設けた負極を作製した。
【0087】
<参考例4>
負極の金属リチウム上に形成されたポリマー電解質層の厚みを4〜5μmとなるように調節した以外は、参考例3と同様にして、ポリマー電解質層を設けた負極を作製した。なお、本参考例では、ギャップ40μmでポリマー電解質溶液を塗工したものである。
【0088】
<参考例5>
負極の金属リチウム上に形成されたポリマー電解質層の厚みを3〜4μmとなるように調節した以外は、参考例3と同様にして、ポリマー電解質層を設けた負極を作製した。なお、本参考例では、ギャップ30μmでポリマー電解質溶液を塗工したものである。
【0089】
<比較例1、2>
厚さ約10μmの銅箔の付いた厚さ20μmのリチウム金属のみを負極とした。
<比較例3>
厚さ約6μmの銅箔の付いた厚さ20μmのリチウム金属のみを負極とした。
【0090】
(評価用コインセルの製造)
正極活物質として、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、活物質LiCoO
2(LCO)、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてPVDFを92:4:4の重量比で混合してスラリーを調製した。このスラリーを、集電体Al箔上に塗布し、乾燥させて塗布電極を作製した。この塗布電極を、直径14mmの円形に打ち抜き、正極とした。また、負極には、厚さ10μmの銅箔の付いた厚さ20μmの金属リチウムを、円形に打ち抜いたものを使用した。
【0091】
電解液として、支持塩としてエチレンカーボネートに1.0moldm
−3のLiPF
6を溶解させたものを使用した。上記の正極、負極、電解液およびセパレータを2032型コインセルに組み込み、下記の評価セルを作製した。
【0092】
実施例1〜3のコインセルのセパレータには、それぞれ上記A〜Bのセパレータを使用し、負極側にポリマー電解質層が向くように配置した。比較例1、3のコインセルのセパレータには、未処理の3DOMセパレータをそのまま使用した。また、参考例1〜5のコインセルでは、負極を上記参考評価用の負極に置き換えるとともに、セパレータに未処理の3DOMセパレータをそのまま使用した。
【0093】
(定電流充放電測定)
電池充放電装置HJ1001SM8A(北斗電工株式会社製)および充放電試験装置TOSCAT−3000U(東洋システム株式会社製)を用い、上記した試作コインセルを使用して、初期サイクル試験は、カットオフ電圧を3.0〜4.2Vとして30℃の恒温槽内で充放電試験を行った。充電は、CC、0.2Cの条件で4.2Vまで行い、その後、CVの条件で0.02Cまで行った。初期サイクル試験後のサイクル特性試験の条件は、カットオフ電圧を3.0〜4.2Vとして30℃の恒温槽内で充放電試験を行った。充電は、CC、1.0Cの条件で4.2Vまで行い、その後、CVの条件で0.1Cまで行った。放電は、CC、1.0Cの条件で3.0Vまで行った。各試作コインセルの充放電クーロン効率と容量維持率の評価結果を、表1及び表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1の結果からわかるように、比較例1の容量維持率が35.2%であったのに対し、本発明のセパレータを用いた実施例1〜3の容量維持率は、45.6〜50.3%であって、比較例1の値と比較して格段に向上した。この結果は、負極表面に接したポリマー電解質層により、100サイクル後も負極の性能が維持されたことに起因するものと考えられる。
【0097】
他方、負極電極表面上に、直接、ポリマー電解質層を設けた参考例1の容量維持率は、ポリマー電解質層を有さない比較例1のそれに比べて向上した。また、参考例1の容量維持率よりも、ポリマー電解質層を、負極電極上でなく、多孔質ポリイミド上に設けた実施例1〜3の容量維持率のほうが高くなることを確認した。
【0098】
表2の結果からわかるように、ポリマー電解質溶液の1,2−ジメトキシエタン(DME)中のS−MESポリマーの濃度が小さくなるほど、負極に形成されるポリマー電解質層の厚みが薄くなり、容量維持率が向上した。この結果は、ポリマー電解質層が負極であるリチウム金属の表面の保護層となり、充放電時の電解質溶液の分解反応が抑制されたことに起因するものであり、且つ薄いものほど電池内のイオン伝導抵抗が小さくなるためと考えられる。
【0099】
(交流インピーダンス測定)
Solartron 1287型ポテンショ/ガルバノスタットおよび1255B型高周波応答アナライザを用い、30℃の恒温槽内で、実施例3および比較例1と参考例5および比較例3とのコインセルのサイクル特性試験前と、サイクル特性試験による、1サイクル、50サイクルおよび100サイクル後の電池の内部抵抗の測定を行った。測定条件は、入力交流振幅5mV、周波数範囲10mHz〜1.0MHzである。サイクル特性試験前(0サイクル)、50サイクルおよび100サイクル後の各試作コインセルのRfおよびRcの評価結果を、表3および表4に示す。
【0100】
交流インピーダンスは、高周波領域では、電極表面における固体電解質界面(SEI)の形成と成長による抵抗(Rf)に由来し、低周波領域では、電極、SEI、電解質層中の電荷移動抵抗(Rct)に由来する。1サイクル後、実施例3のコインセルのRfが減少することから、リチウム金属負極およびポリマー電解質層間に、なんらかのイオン電導経路が形成されることが示唆される。また、実施例3では、比較例1に比べて、充放電サイクル試験によるRctの増加が抑えられており、ポリマー電解質層によるリチウム金属負極表面の安定化が示唆される。
【0101】
ポリマー電解質層が設けられた負極を有する参考例5のコインセルでは、50サイクル後および100サイクル後のRfは30Ωから70Ωに増加した。これに対し、リチウム金属のみからなる比較例3のコインセルでは、50サイクル後および100サイクル後のRfは、17Ωから100Ωに増加した。参考例5は、比較例3に比べ、100サイクル後のRfの増加が軽減されている。
【0102】
これは、固体電解質界面(SEI)は電極と電解液との反応により形成されるところ、参考例5では、ポリマー電解質層が負極の保護膜となっているため、固体電解質界面の形成によるRf増大が緩和されたことに起因すると考えられる。また、参考例5では、比較例3に比べて充放電サイクル試験によるRctの増加が抑えられており、ポリマー電解質層によるリチウム金属負極表面の安定化も示唆されている。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
(負極表面の観察)
実施例3と比較例1のコインセルにLCO電極容量の100%に相当する充電量を充電した後、および、上記充放電試験100サイクル後の実施例3と比較例1のコインセルから、それぞれリチウム負極を取出し、走査型電子顕微鏡JSM−5310、SEM(日本電子(株)製)を用いてその表面を観察した。また、市販のポリプロピレンセパレータを使用したコインセル(比較例2)において、同条件に供したリチウム負極を取出し同様の観察を行った。さらに、参考例2〜5および比較例3のコインセルにおいて、同条件に供したリチウム負極を取出し同様の観察を行った。
【0106】
図1〜3に、LCO電極容量の100%に相当する充電量を充電した後のリチウム金属負極表面を、
図4〜11に、100サイクル後のリチウム金属負極表面をそれぞれ示す。
図1および
図4は、比較例1の対応するコインセルから取り出したリチウム金属負極によるものである。また、
図2および
図5は、実施例3の対応するコインセルから取り出したリチウム金属負極によるものであり、
図3および
図6は、比較例2に対応するコインセルから取り出したリチウム金属負極によるものである。
図7〜10は、参考例2〜5に対応するコインセルから取り出したリチウム金属負極によるものである。
図11は、比較例3に対応するコインセルから取り出したリチウム金属負極によるものである。
【0107】
図3において、比較例2のポリプロピレン製セパレータを使用したコインセルから得られたリチウム金属負極の表面には、リチウムデンドライトが観察された。これに対し、
図2および1に示される、本発明のセパレータである実施例3および3DOMセパレータを使用した比較例1のリチウム金属負極の表面には、リチウムの析出物が認められるものの、微小な粒子状のものであって針状のものではない。さらに、
図5に示されるように、実施例3のリチウム金属負極表面は、100サイクル後であっても比較的平滑な表面を保っていた。このことは、本発明のポリマー電解質層が形成された金属二次電池用多孔質セパレータの使用が、リチウム金属負極表面上に、リチウムを平滑に析出させることを示している。
【0108】
図11において、比較例3のリチウム金属のみからなる負極の表面には、ポリマー電解質層が設けられていないものの、セパレータに3DOMを使用しているため、リチウムデンドライトは確認されず、微小な粒子状のリチウムの析出が観察された。これに対し、
図7〜10において、参考例2〜参考例5のポリマー電解質層が設けられているリチウム金属負極の表面には、微小な粒子状のリチウムの析出も確認されず、平滑な表面を保っていた。このことは、本発明のポリマー電解質層が設けられたリチウム金属負極の使用が、リチウム金属表面上にリチウムを平滑に析出させることを示している。