(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年のリチウムイオン二次電池の高容量化に伴い、黒鉛活物質を含む負極の充填密度はより高くなっている。また、充填密度を高くすることで低下しやすい急速充放電特性(すなわち、高レートでの充放電特性)を改善するために、負極に含まれる黒鉛活物質の結晶構造をより厳密に制御することが検討されている。
【0007】
しかしながら、このように厳密に結晶構造が制御された黒鉛活物質と、上記の特許文献1〜3に記載されるような添加剤が負極表面に形成するSEI(Solid Electrolyte Interface)膜との相互作用については、従来、詳細な検討がされていなかった。そのため、負極に含まれる黒鉛活物質の結晶構造と、負極表面の状態とをより詳細に検討することにより、新たな知見を得られる可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高レートにおける充放電特性を向上させることが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、黒鉛活物質を含む負極を備え、前記負極のC(004)/C(110)で表される配向が20以下であり、かつ前記黒鉛活物質の粒子内空隙率は5%以上であり、前記負極の表面には、SO
4結合を構成する硫黄原子が存在する、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0010】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性を向上させることができる。
【0011】
前記黒鉛活物質を含む負極合剤の厚みは、50μm以上であってもよい。
【0012】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池をより高容量化することができる。
【0013】
前記黒鉛活物質を含む負極合剤の厚みは、60μm以上であってもよい。
【0014】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池をより高容量化することができる。
【0015】
前記負極のC(004)/C(110)で示される配向は8以下であってもよい。
【0016】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性をさらに向上させることができる。
【0017】
前記黒鉛活物質の粒子内空隙率は8%以上であってもよい。
【0018】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性をさらに向上させることができる。
【0019】
前記負極の表面における前記硫黄原子の存在割合は、1原子%以上であってもよい。
【0020】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性をさらに向上させることができる。
【0021】
前記黒鉛活物質を含む負極合剤の充填密度は、1.5g/cm
3以上であってもよい。
【0022】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池をより高容量化することができる。
【0023】
前記リチウムイオン二次電池は、1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシドを含有する電解液をさらに備えてもよい。
【0024】
本観点によれば、リチウムイオン二次電池において、高レートでの充放電特性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、高レートにおける充放電特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池の構成を概略的に示す側断面図である。
【0029】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ40と、電解液とを備える。なお、リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形又はボタン(button)形等のいずれの形態であってもよい。
【0030】
(正極20)
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良い。集電体21は、例えば、アルミニウム(aluminium)、ステンレス(stainless)鋼、又はニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成されてもよい。
【0031】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、バインダとをさらに含んでもよい。なお、正極活物質、導電剤及びバインダの含有量の比率は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池にて用いられる含有量の比率を使用することが可能である。
【0032】
正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物である。ただし、正極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、Li
aMn
xCo
yNi
zO
2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn
xCo
yNi
zO
2(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、又はLiMn
1.5Ni
0.5O
4などであってもよい。
【0033】
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)若しくはアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)若しくはカーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素、又はこれら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等を用いることができる。ただし、導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0034】
バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン(ethylene−propylene−diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene−butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile−butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、又はニトロセルロース(cellulose nitrate)等である。ただし、バインダは、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0035】
(負極30)
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良い。集電体31は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼等であってもよい。
【0036】
負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含み、導電剤と、バインダとをさらに含んでいてもよい。なお、負極活物質、導電剤及びバインダの含有量の比率は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池にて用いられる含有量の比率を使用することが可能である。
【0037】
負極活物質は、少なくとも黒鉛活物質を含む。黒鉛活物質は、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、又は人造黒鉛で被覆した天然黒鉛などであってもよい。また、負極活物質は、黒鉛活物質に加えて、ケイ素(Si)若しくはスズ(Sn)系活物質、又は酸化チタン(TiO
x)系活物質等を含んでもよい。ケイ素若しくはスズ系活物質は、例えば、ケイ素若しくはスズの微粒子、ケイ素若しくはスズの酸化物の微粒子、又はケイ素若しくはスズの合金などであり、酸化チタン系活物質は、例えば、Li
4Ti
5O
12等である。
【0038】
導電剤は、正極活物質層22で用いた導電剤と同様のものが使用可能である。
【0039】
バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(Styrene−Butadiene Rubber:SBR)などを用いることができる。ただし、バインダは、負極活物質及び導電剤を集電体31上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0040】
本実施形態に係る負極30は、負極活物質として黒鉛活物質を含み、黒鉛の(004)面のX線回折ピーク強度と、黒鉛の(110)面のX線回折ピーク強度との比C(004)/C(110)が20以下、好ましくは8以下となる。ここで、C(004)/C(110)で表されるX線回折ピーク強度の比は、黒鉛の結晶の配向の程度を示す。C(004)/C(110)の値が大きい程、黒鉛の層が測定面に対して、より平行に配向していることを示す。
【0041】
黒鉛の層の配向性が高い場合、黒鉛の層は、より規則的により隙間なく積層されることになるため、リチウムイオンが黒鉛の結晶構造の内部に挿入又は脱離されにくくなる。このため、C(004)/C(110)で表されるX線回折ピーク強度の比が大きくなる程、特に高レートにおける充放電特性が低下してしまう。したがって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10では、負極30のX線回折ピーク強度の比C(004)/C(110)を20以下に制限し、好ましくは8以下に制限する。なお、負極30のX線回折ピーク強度の比C(004)/C(110)の下限値は、特に限定されないが、黒鉛の結晶構造上、下限値は、例えば7としてもよい。
【0042】
なお、上述した負極30のX線回折ピーク強度の比C(004)/C(110)は、リチウムイオン二次電池10の初期充放電後の満充電時の測定値であり、負極30の作製時の測定値ではない。負極30に含まれる黒鉛活物質は、リチウムイオンの吸蔵又は放出によって結晶構造が変化し得る。そのため、上記の初期充放電後の満充電時に測定したC(004)/C(110)の値は、例えば、負極30の作製時に測定した値と直接比較はできないことに留意する必要がある。
【0043】
本実施形態に係る負極30では、含有される黒鉛活物質の粒子内空隙率が5%以上であり、好ましくは8%以上である。上述したように、本実施形態に係る負極30は、含有する黒鉛活物質の配向を低く制御することで、黒鉛活物質の内部にリチウムイオンを挿入容易な空隙を設けるものである。特に、本実施形態に係る負極30は、黒鉛活物質の粒子間の空隙ではなく、黒鉛活物質の粒子内の空隙をより多く設けることで、高レートでの充放電を繰り返した場合でもリチウムイオン二次電池10の容量低下を抑制することができる。これは、黒鉛活物質の粒子間の空隙は、充放電に伴う黒鉛活物質の膨張又は収縮に起因する粒子間の滑りによって潰れやすい一方で、粒子内の空隙は、潰れにくいためであると考えられる。したがって、黒鉛活物質の粒子内空隙率が5%未満である場合、高レートでの充放電特性が低下するため好ましくない。なお、黒鉛活物質の粒子内空隙率の上限値は、特に限定されないが、黒鉛活物質の結晶構造上、上限値は、例えば20%としてもよい。
【0044】
黒鉛活物質の粒子内空隙率は、例えば、初期充電後に満充電したリチウムイオン二次電池10を解体して負極30を取り出し、取り出した負極30の負極合剤の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)等で観察した画像を画像解析することで算出することができる。具体的には、黒鉛活物質の粒子内空隙率は、SEM画像にて観察される黒鉛活物質の粒子内の中空領域の断面積を、粒子内の中実領域の断面積で除算することで、算出することができる。
【0045】
負極30上の負極合剤の厚みは、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましい。負極合剤の厚みを上述した範囲とすることによって、リチウムイオン二次電池10は、さらなる高容量を実現することができる。
【0046】
ただし、負極合剤の厚みを増大させた場合、リチウムイオン二次電池10の容量を増大させることができるものの、一方で、正極20、負極30及びセパレータ40を積層及び巻回して電極構造体を形成することが困難になる可能性がある。そのため、負極30上の負極合剤の厚みの上限値は、例えば、150μmとしてもよい。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10では、負極合剤の厚みを電極構造体の形成が困難にならない程度にしつつ、黒鉛活物質の配向及び粒子内空隙率を上記範囲に制御することによって、高容量と、高レートでの充放電特性とを両立させることができる。なお、上述した負極合剤の厚みは、負極30の片面当たりの厚みである。すなわち、上述した負極合剤の厚みは、集電体31の両面に負極活物質層32が設けられる場合には両面の負極活物質層32の合計値であり、集電体31の片面のみに負極活物質層32が設けられる場合には片面の負極活物質層32のみの値である。
【0047】
負極30上の負極合剤の充填密度は、1.5g/cm
3以上が好ましい。黒鉛活物質を含む負極合剤の充填密度を上述した範囲とすることによって、リチウムイオン二次電池10は、さらなる高容量を実現することができる。ただし、負極合剤の充填密度を高めた場合、リチウムイオン二次電池10の容量を増大させることができるものの、一方で、リチウムイオン二次電池10の充放電特性が低下する可能性がある。しかしながら、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10では、黒鉛活物質の配向及び粒子内空隙率を制御することによって、高レートでの充放電特性を確保することができるため、負極合剤の充填密度を高めることが可能となる。これによれば、リチウムイオン二次電池10は、高容量と、高レートでの充放電特性とを両立させることができる。なお、黒鉛活物質の負極合剤の充填密度の上限値は、特に限定されないが、例えば、1.8g/cm
3としてもよい。
【0048】
さらに、本実施形態に係る負極30は、表面にSEI膜が形成され、SEI膜には、SO
4結合単位を構成する硫黄原子が含まれる。SEI膜は、初期充放電時に、負極30の表面で電解液が分解されることによって形成される極薄膜である。具体的には、SEI膜は、負極30を含浸する電解液及び該電解液の添加剤の分解物等によって形成される極薄膜である。SEI膜は、リチウムイオンが負極30中に挿入又は脱離することを支援する役割を果たしつつ、負極30上でのさらなる電解液の分解反応を抑制することができる。
【0049】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10では、負極30のSEI膜にSO
4結合単位を構成する硫黄原子が含まれることによって、SO
4とリチウムイオンとの静電気的相互作用によって、負極30の近傍のリチウムイオン濃度を高くすることができる。これにより、負極30からのリチウムイオンの挿入又は脱離を容易にすることができるため、リチウムイオン二次電池10の高レートでの充放電特性を向上させることができる。
【0050】
ただし、上述したSEI膜にSO
4結合単位を構成する硫黄原子を含有させることは、黒鉛活物質のC(004)/C(110)で示す配向が高い場合には、効果が低くなってしまう。これは、黒鉛活物質にリチウムイオンを挿入可能な空隙が少なければ、負極30の表面のリチウムイオン濃度を高めたとしても、黒鉛活物質へのリチウムイオンの挿入は促進されないためであると考えられる。一方で、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10のように、黒鉛活物質のC(004)/C(110)で示す配向が低い場合には、SEI膜にSO
4結合単位を構成する硫黄原子を含有させることは、より高い効果を発揮することが可能である。
【0051】
なお、SO
4結合単位を構成する硫黄原子のSEI膜における存在割合は、1原子%以上であることが好ましい。このような場合、負極表面のSEI膜に、リチウムイオンを引き寄せるSO
4をより多く存在させることができるため、リチウムイオン二次電池10の高レートでの充放電特性をさらに向上させることができる。SEI膜における硫黄原子の存在割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、10原子%であってもよい。
【0052】
(セパレータ40)
セパレータ40は、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず使用することが可能である。セパレータは、優れた高率放電性能を示す多孔膜又は不織布等を、単独若しくは併用して用いることが好ましい。セパレータを構成する樹脂は、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)−ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等であってもよい。
【0053】
(電解液)
電解液は、リチウムイオン二次電池の電解液として用いられるものであれば、特に限定されず使用することが可能である。電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。
【0054】
非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ−ブチロラクトン(butyrolactone)、γ−バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)又はその誘導体;1,3−ジオキサン(dioxane)、1,4−ジオキサン(dioxane)、1,2−ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4−ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)又はその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)又はその誘導体等を単独で若しくは2種以上混合して用いることができる。
【0055】
電解質塩は、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6,LiPF
6−x(C
nF
2n+1)
x(但し、1<x<6,n=1or2),LiSCN,LiBr,LiI,Li
2SO
4,Li
2B
10Cl
10,NaClO
4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO
4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF
3SO
3,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2),LiC(CF
3SO
2)
3,LiC(C
2F
5SO
2)
3,(CH
3)
4NBF
4,(CH
3)
4NBr,(C
2H
5)
4NClO
4,(C
2H
5)
4NI,(C
3H
7)
4NBr,(n−C
4H
9)
4NClO
4,(n−C
4H
9)
4NI,(C
2H
5)
4N−maleate,(C
2H
5)
4N−benzoate,(C
2H
5)
4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等であってもよい。電解質塩は、これらのイオン塩又はイオン性化合物を単独で若しくは2種以上混合して用いることができる。なお、電解質塩の濃度は、一般的なリチウムイオン二次電池で使用される濃度と同様の濃度(0.8mol/L〜2.0mol/L程度)を使用することができる。
【0056】
なお、電解液には、各種の添加剤が添加されてもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系添加剤、炭酸エステル系添加剤、硫酸エステル系添加剤、リン酸エステル系添加剤、ホウ酸エステル系添加剤、酸無水物系添加剤、又は電解質系添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種又は複数種類の添加剤が電解液に添加されてもよい。
【0057】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、電解液は、添加剤として、1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド(DTD)を含有することが好ましい。DTDは、環状の硫酸エステルであり、リチウムイオン二次電池10の初期充放電時に分解されて、負極30上にSEI膜を形成する。このとき、DTDは、主としてSO
4結合単位で分解されるため、DTDの分解物は、負極30の表面のSEI膜にSO
4結合単位として含有されることになる。したがって、電解液にDTDを含有させることによって、負極30の表面のSEI膜に、上述したSO
4結合単位を構成する硫黄原子を含有させることができる。特に、DTDは、SO
4結合単位で分解される可能性が高いため、負極30の表面のSEI膜にSO
4結合を構成する硫黄原子をより効率的に含有させることができる。
【0058】
なお、このような主としてSO
4結合単位で分解される添加剤としては、DTDの他にも、4−メチル−1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド、4−エチル−1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド、4−フルオロ−1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド、4−クロロ−1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド、及び4−フェニル−1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド等を例示することができる。
【0059】
<2.リチウムイオン二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。
【0060】
正極20は、以下の方法にて作製される。まず、正極活物質、導電剤及びバインダを所定の割合で混合したものを、溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリー(slurry)を形成する。次に、スラリーを集電体21上に塗布し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いることができる。続いて、プレス(press)機により正極活物質層22を所定の密度となるように圧縮する。これにより、正極20が作製される。
【0061】
負極30も、正極20と同様の方法にて作製される。まず、負極活物質、及びバインダを混合したものを、溶媒(例えば水)に分散させることでスラリーを形成する。次に、スラリーを集電体31上に塗布し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。続いて、プレス機により負極活物質層32を所定の密度となるように圧縮する。これにより、負極30が作製される。
【0062】
次に、セパレータ40を正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を作製する。続いて、作製した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形又はボタン形等)に加工し、該所望の形態の容器に挿入する。その後、容器内に電解液を注入することで、セパレータ40内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が作製される。
【実施例】
【0063】
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池の製造方法について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1に係るリチウムイオン二次電池の作製)
正極活物質としてLiNi
0.88Co
0.1Al
0.02O
2で表されるリチウムニッケルコバルト酸化物を用い、導電剤として炭素粉末を用い、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを用いた。正極活物質、導電剤、及びバインダを94:4:2の質量比になるように混合し、N−メチル−2−ピロリドンを加えて混練することで、正極スラリー(正極合剤)を調整した。
【0065】
次に、厚み12μm、長さ238mm及び幅29mmのアルミニウム箔からなる集電体に、上記の正極スラリーを集電体の一面に長さ222mm及び幅29mmで塗布し、集電体の一面と対向する他面に長さ172mm及び幅29mmで塗布した。正極スラリー塗布後の集電体を乾燥させた後、圧延し、正極極板を作製した。このとき、正極の厚みは、両面で125μmであり、集電体上の正極合剤の量は42.5mg/cm
2であり、正極合剤の充填密度は3.75g/cm
3であった。
【0066】
その後、上記の正極極板の正極合剤が塗布されていない部分に、厚み70μm、長さ40mm及び幅4mmのアルミニウム平板からなる集電タブを取り付けた。
【0067】
負極活物質として人造黒鉛及びシリコン含有炭素を用い、バインダとしてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを用いた。人造黒鉛、シリコン含有炭素、カルボキシメチルセルロース、及びスチレンブタジエンゴムを92.2:5.3:1.0:1.5の質量比になるように混合し、水を加えて混練することで、負極スラリー(負極合剤)を調整した。
【0068】
次に、厚み8μm、長さ271mm及び幅30mmのアルミニウム箔からなる集電体に、上記の負極スラリーを集電体の一面に長さ235mm及び幅30mmで塗布し、集電体の一面と対向する他面に長さ178mm及び幅30mmで塗布した。負極スラリー塗布後の集電体を乾燥させた後、圧延し、負極極板を作製した。このとき、負極の厚みは両面で148μmであり、集電体上の負極合剤の量は23.0mg/cm
2であり、負極合剤の充填密度は1.65g/cm
3であった。なお、圧延は、多段階にて行うことで、負極のC(004)/C(110)で表される配向の値が増加することを抑制した。さらに、上記の負極極板の負極合剤が塗布されていない部分に、厚み70μm、長さ40mm及び幅4mmのニッケル平板からなる集電タブを取り付けた。
【0069】
エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びジメチルカーボネートを20:40:40の体積比になるように混合することで、非水溶媒を作製した。作製した非水溶媒に、電解質塩としてLiPF
6を1.15mol/Lの濃度で溶解させ、電解液を作製した。さらに、作製した電解液に、ビニレンカーボネートを電解液の総質量に対して1.5質量%にて外添し、かつ1,3,2−ジオキサチオラン2,2−ジオキシド(DTD)を電解液の総質量に対して1.0質量%にて外添した。
【0070】
上記で作製した正極、負極及び電解液を用いてリチウム二次電池を作製した。正極及び負極はセパレータを介して対向するように配置し、これらを所定の位置で折り返して巻回した後、プレスすることで扁平型の電極組立体を作製した。なお、セパレータは、長さ350mm及び幅32mmのポリエチレン製多孔体からなるセパレータを2枚用いた。
【0071】
作製した電極組立体をアルミラミネートにて構成される電池容器に収納し、電池容器に電解液を注入した。このとき、正極及び負極の集電タブを外部に取り出せるように配置した。作製したリチウムイオン二次電池の設計容量は480mAhである。
【0072】
(リチウムイオン二次電池の評価)
続いて、上記で作製したリチウムイオン二次電池の初期充放電を行った。具体的には、25℃の環境下において、リチウムイオン二次電池を48mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した後、48mAの定電流で2.8Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を初期容量Q1とした。
【0073】
次に、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した。その後、充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、負極極板を取り出した。取り出した負極極板について、広角X線回折プロファイルを測定した。なお、X線源はCuKαとし、出力は、45kVかつ200mAとした。得られたX線回折プロファイルについて、2θが48°〜56°付近に観測される黒鉛の(004)面、及び2θが76°〜79°付近に観測される黒鉛の(110)面の各々のピーク強度を測定した。そして、黒鉛の(004)面のピーク強度と、黒鉛の(110)面のピーク強度との比C(004)/C(110)を算出した。結果を下記の表1に示す。なお、比C(004)/C(110)が高いほど、黒鉛の層が測定面に対して、より平行に配向していることを表す。
【0074】
また、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した。その後、充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、負極極板を取り出した。取り出した負極極板について、Arイオンミリング(Ar ion milling)加工(クロスセクションポリッシャー:cross section polisher)法により、負極合剤の断面を作製し、作製した断面のSEM画像を取得した。取得したSEM画像について、画像処理によって黒鉛活物質の粒子と、粒子内空隙とを判別し、各々の断面積比を算出することで、黒鉛活物質の粒子内空隙率を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0075】
また、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電し、さらに4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電した。その後、充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、負極極板を取り出した。取り出した負極極板の表面に形成されたSEI膜をX線光電子分光法にて解析した。なお、X線源は単色化AlKα(1486.6eV)とし、負極極板の解析領域は700μm×300μmとした。X線光電子分光法にて得られたスペクトルから、硫黄の組成率を原子%で算出した。結果を下記の表1に示す。
【0076】
さらに、X線光電子分光法にて得られたスペクトルから、SEI膜に含まれる硫黄原子の状態解析を行った。硫黄の状態解析には、F(1s)ピーク及びS(2p)ピークを用いた。
【0077】
例えば、非特許文献(Journal of the Electrochemical society,154(12)A1088−A1099(2007))によれば、F(1s)のピークは685.1eVに観測され、S(2p)のピークはSO
4及びSO
3の各々で168.4eV〜171.1eV、及び165.5eV〜167.5eVに観測される。したがって、F(1s)のピークと、S(2p)のピークとの差は、SO
4では516.7eV〜514.0eVとなり、SO
3では519.6eV〜517.6eVとなる。
【0078】
ここで、X線光電子分光法にて測定されたF(1s)の低B.E.側のピークトップの値をLiFと仮定し、S(2p)の各々のピークの観測位置をピークトップ付近と仮定し、F(1s)のピークを基準とするピークシフト量によって硫黄の状態を判定した。
【0079】
すなわち、実施例1に係る負極極板では、LiF(F(1s))ピークは681.7eVであり、S(2p)ピークは166.1eVであった。したがって、F(1s)ピーク及びS(2p)ピークの観測位置の差は515.6eVであった。これは、上記非特許文献によれば、F(1s)のピークと、SO
4のS(2p)のピークとの差に相当するため、実施例1に係る負極極板のSEI膜に含まれる硫黄原子の状態は、SO
4であることが確認された。
【0080】
続いて、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、240mAの定電流で4.3Vになるまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電し、さらに240mAの電流で2.8Vになるまで放電を行った。これを1サイクルとして、100サイクルの充放電を繰り返し行った。その後、初期容量Q1及び100サイクル目の放電容量Q[0.5C]から、以下の式を用いて、0.5Cサイクルにおける容量維持率を求めた。
0.5Cサイクルにおける容量維持率(%)=(Q[0.5C]/Q1)×100
【0081】
また、上記のように初期充放電を行ったリチウム二次電池について、25℃の環境下において、960mAの定電流で4.3Vになるまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流値が24mAになるまで充電し、さらに240mAの電流で2.8Vになるまで放電を行った。これを1サイクルとして、99サイクルの充放電を繰り返し行った。その後、100サイクル目に240mVの定電流で4.3Vになるまで充電し、4.3Vの定電圧で電流値が24mVになるまで充電した後、240mAの定電流で2.8Vになるまで放電を行った。初期容量Q1及び100サイクル目の放電容量Q[2C]から、以下の式を用いて、2.0Cサイクルにおける容量維持率を求めた。
2.0Cサイクルにおける容量維持率(%)=(Q[2C]/Q1)×100
【0082】
実施例及び比較例の各々の評価結果を下記の表1に示す。
【0083】
なお、実施例2及び3、並びに比較例1は、実施例1よりも負極作製時の多段階プレスの回数を減少させることで、負極合剤の配向を制御したものである。また、実施例4及び5、並びに比較例3は、実施例1よりもDTDの添加量を減少させる、又はDTDを添加しないことで、負極表面の硫黄原子の存在割合を制御したものである。さらに、比較例2は、実施例1に対して、DTDに替えて1,3−プロパンスルトン(PS)を添加することで、負極表面の硫黄原子の結合状態をSO
4からSO
3に制御したものである。これらの実施例及び比較例の各々において、集電体上の正極合剤及び負極合剤の量は、同じである。
【0084】
【表1】
【0085】
表1を参照すると、実施例1〜5は、本実施形態に係る構成を備えるため、比較例1〜3に対して、2.0Cサイクルの容量維持率が向上していることがわかる。一方、比較例1は、C(004)/C(110)で表される配向及び粒子内空隙率が本実施形態に係る範囲を外れるため、2.0Cサイクルの容量維持率が低下していることがわかる。また、比較例2は、負極の表面の硫黄原子がSO
4結合単位を構成するものではないため、2.0Cサイクルの容量維持率が低下していることがわかる。さらに、比較例3は、負極の表面に硫黄原子が存在しないため、2.0Cサイクルの容量維持率が低下していることがわかる。
【0086】
また、実施例1は、実施例2及び3に対して、C(004)/C(110)で表される配向及び粒子内空隙率が本実施形態に係る好ましい範囲に含まれるため、2.0Cサイクルの容量維持率がより高くなっていることがわかる。さらに、実施例1は、実施例4及び5に対して、負極の表面の硫黄原子の存在割合が本実施形態に係る好ましい範囲に含まれるため、2.0Cサイクルの容量維持率がより高くなっていることがわかる。
【0087】
ここで、上記の実施例1〜5及び比較例1〜3に係るリチウムイオン二次電池において、100サイクル後の電池膨れの程度を評価した。具体的には、初期充放電後のリチウムイオン二次電池の厚みと、2.0Cサイクルを100サイクル行った後のリチウムイオン二次電池の厚みとの変化割合を測定した。なお、リチウムイオン二次電池の厚みは、いずれも満充電状態で測定した。
【0088】
初期充放電後のリチウムイオン二次電池の厚みを基準とした場合の100サイクル後のリチウムイオン二次電池の厚みの増加割合を以下の表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2を参照すると、本実施形態に係る構成を備える実施例1〜5は、比較例1〜3に対して、電池膨れが抑制されていることがわかる。すなわち、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、高レートでの充放電による電池膨れを抑制することができることがわかる。また、実施例1は、実施例2〜5に対して、C(004)/C(110)で表される配向及び粒子内空隙率、又は負極の表面の硫黄原子の存在割合のいずれかが本実施形態に係る好ましい範囲に含まれるため、電池膨れがさらに抑制されていることがわかる。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。