特許第6989438号(P6989438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989438
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】端子付き電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20211220BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20211220BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20211220BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20211220BHJP
   H01B 13/32 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   H01B7/00 306
   H01B7/28 F
   H01R4/70 K
   H01B13/00 521
   H01B13/32
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-91532(P2018-91532)
(22)【出願日】2018年5月10日
(65)【公開番号】特開2019-197676(P2019-197676A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2021年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】竹下 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘哲
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−103220(JP,A)
【文献】 特開2018−045852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 7/28
H01R 4/70
H01B 13/00
H01B 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する複数の素線からなる導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記導線圧着部の先端部および後端部の前記素線間に防食材が浸透して硬化しており、前記バレル間部において、前記導線の少なくとも一部が露出していることを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記防食材は、前記導線圧着部の先端部から後方に1mm以上の範囲で前記素線間に浸透しており、かつ、前記導線圧着部の後端部から先端方向に1mm以上の範囲で前記素線間に浸透していることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記導線圧着部の先端部から露出している前記導線の全体が、前記防食材で覆われていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
前記バレル間部の少なくとも一部において、前記導線の表面における前記防食材の厚みが0.1mm以下である部位があることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項5】
前記導線圧着部の圧縮率が50%以上70%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項6】
前記防食材は、湿気硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項7】
20℃における前記防食材の粘度が200mPa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項8】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出し、複数の素線からなる導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記導線圧着部の後端部近傍に防食材を塗布し、前記防食材を前記導線圧着部の後端部近傍の前記導線に浸透させるとともに、前記導線圧着部の先端方向に流して、前記導線圧着部の先端部近傍の前記導線に浸透させて、前記防食材を硬化することを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項9】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出し、複数の素線からなる導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記導線圧着部の先端部近傍に防食材を塗布し、前記防食材を前記導線圧着部の先端部近傍の前記導線に浸透させるとともに、前記導線圧着部の後端部方向に流して、前記導線圧着部の後端部近傍の前記導線に浸透させて、前記防食材を硬化することを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子付き電線およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を樹脂部材で被覆する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−153721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の樹脂部材塗布工程では、被覆部から露出する導線の全体を覆うように樹脂部材を塗布するため、樹脂部材の塗布に時間を要する。このため、製造のタクトタイムが長く、生産性が低いという課題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、防食材の塗布時間を短縮し、製造性に優れた端子付き電線等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する複数の素線からなる導線と、を具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記導線圧着部の先端部および後端部の前記素線間に防食材が浸透して硬化しており、前記バレル間部において、前記導線の少なくとも一部が露出していることを特徴とする端子付き電線である。
【0011】
前記防食材は、前記導線圧着部の先端部から後方に1mm以上の範囲で前記素線間に浸透しており、かつ、前記導線圧着部の後端部から先端方向に1mm以上の範囲で前記素線間に浸透していることが望ましい。
【0012】
前記導線圧着部の先端部から露出している前記導線の全体が、前記防食材で覆われていることが望ましい。
【0013】
前記バレル間部の少なくとも一部において、前記導線の表面における前記防食材の厚みが0.1mm以下である部位があってもよい。
【0014】
前記導線圧着部の圧縮率が50%以上70%以下であることが望ましい。
【0015】
前記防食材は、湿気硬化性樹脂からなることが望ましい。
【0016】
20℃における前記防食材の粘度が200mPa・s以下であることが望ましい。
【0017】
第1の発明によれば、少なくとも、導線圧着部の先端部および後端部の素線間に防食材が浸透して硬化しているため、最低限の防食性能を確保することができる。また、バレル間部において、導線の少なくとも一部が露出しているため、当該部位における防食材の塗布が不要であり、タクトタイムを削減することができる。
【0018】
なお、このような防食材としては、塗布時に粘度が極めて低いことが望ましい。このように極めて低粘度の防食材を塗布することで、導線圧着部の先端部から後方に1mm以上の範囲で素線間に防食材を浸透させ、かつ、導線圧着部の後端部から先端方向に1mm以上の範囲で素線間に防食材を浸透させることができる。このため、導線圧着部の先後端から、導線圧着部における導線との接触部を効率よく防食することができ、効率よく防食性能を確保することができる。
【0019】
なお、導線圧着部の先端部から露出している導線の全体が、防食材で覆われていれば、より高い防食性を確保することができる。
【0020】
また、バレル間部における、防食材で被覆されている部位の導線の少なくとも一部の表面において、防食材の厚みが0.1mm以下でよければ、防食材の塗布量を少なくすることができる。
【0021】
また、導線圧着部の圧縮率が50%以上70%以下であれば、各素線間に防食材を効率よく浸透させることができる。
【0022】
また、防食材が湿気硬化性樹脂からなれば、気中の水分で即座に硬化させることができ、紫外線照射等の硬化工程が不要である。また、導線の裏側などの紫外線の照射しにくい部位も確実に硬化させることができる。
【0023】
また、20℃における防食材の粘度が200mPa・s以下であれば、効率良く防食材を導線の隙間等に浸透させることができるとともに、塗布した部位から、塗布の必要な他の部位に、防食材を流して塗布することができる。
【0024】
第2の発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出し、複数の素線からなる導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記導線圧着部の後端部近傍に防食材を塗布し、前記防食材を前記導線圧着部の後端部近傍の前記導線に浸透させるとともに、前記導線圧着部の先端方向に流して、前記導線圧着部の先端部近傍の前記導線に浸透させて、前記防食材を硬化することを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0025】
また、第2の発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出し、複数の素線からなる導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記導線圧着部の先端部近傍に防食材を塗布し、前記防食材を前記導線圧着部の先端部近傍の前記導線に浸透させるとともに、前記導線圧着部の後端部方向に流して、前記導線圧着部の後端部近傍の前記導線に浸透させて、前記防食材を硬化することを特徴とする端子付き電線の製造方法であってもよい。
【0026】
第2の発明によれば、防食材を塗布した後、防食材を他の部位に流して防食材で所定の部位を被覆するため、防食材を一か所に塗布するのみでよい。このため、防食材の塗布時間を削減することができ、製造性が良好である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、防食材の塗布時間を短縮し、製造性に優れた端子付き電線等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10を示す断面図。
図3図2のX部拡大図。
図4】防食材の塗布工程を示す図。
図5】防食材の他の塗布工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は断面図である。なお、図1は、防食材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0030】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0031】
端子1は、オープンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0032】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0033】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0034】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0035】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0036】
導線圧着部7の近傍における導線13は、防食材17で被覆される。図3は、図2のX部拡大図である。本発明では、少なくとも、導線圧着部7の先端部および後端部に防食材17が設けられる。すなわち、導線圧着部7の先後端近傍における導線13が防食材17で被覆され、防食材17は、導線13の素線間に浸透して硬化している。
【0037】
より具体的には、防食材17は、導線圧着部7の先端部から後方に1mm以上の範囲(図中B)で素線間に浸透して硬化しており、かつ、導線圧着部7の後端部から先端方向に1mm以上の範囲(図中A)で素線間に浸透して硬化していることが望ましい。また、導線圧着部7の上部における凹部(バレルの突合せ部であって、長手方向に連続する溝状部)にも防食材17が塗布される。このようにすることで、導線13と導線圧着部7との接触部(導線圧着部の内部)に水が浸入することを抑制することができる。
【0038】
なお、少なくとも導線圧着部7の先後端のそれぞれにおける所定の範囲(例えば図中C、D)に防食材17が塗布(浸透)されれば、導線圧着部7と導線13との接触部に水が浸入することを抑制することができる。すなわち、防食材17は、被覆部15から露出する導線13の全体を被覆するのではなく、導線圧着部7との接触部が防食材17で覆われる。このため、導線圧着部7の先端部の全体が防食材17で覆われている必要はないが、導線圧着部7の先端部から露出している導線13の全体が防食材17で覆われていることがより望ましい。
【0039】
また、バレル間部8においても、導線13の全体が防食材17で覆われる必要はなく、その少なくとも一部が防食材17で覆われずに露出している。この際、バレル間部8の少なくとも一部において、導線13の表面における防食材17の厚みが0.1mm以下である部位があってもよい。すなわち、防食材17の塗布厚さはごく薄いものであってもよい。
【0040】
なお、防食材17は、紫外線硬化樹脂であってもよいが、湿気硬化性樹脂であることが望ましく、例えば、シアノアクリレート系樹脂が適用可能である。この場合、湿気硬化が可能であれば、紫外線硬化とのハイブリッド硬化タイプの樹脂を適用することもできる。
【0041】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、被覆導線11と端子1とを圧着により接続する。この際、導線圧着部7の圧縮率は50%以上70%以下であることが望ましい。圧縮率が小さいと、導線13の素線間に防食材17を浸透させにくくなる。また、圧縮率が大きいと、導線13と導線圧着部7との密着が十分でなく、水分の浸入によって腐食が進行するおそれがある。ここで、導線圧着部7における導線13の圧縮率とは、(圧縮後の導線13の断面積)/(圧縮前の導線13断面積)で算出される。
【0042】
次に、図4(a)に示すように、少なくとも、導線圧着部7の後端部近傍(いわゆるベルマウス近傍)の1ヵ所に防食材17を塗布する(図中E)。この際、端子本体3側(導線圧着部7の先端側)を少し下方に傾けてもよい。なお、防食材17の塗布は、短時間に塗布を行うため、ジェットディスペンサ等が用いられる。
【0043】
ここで、防食材17は、20℃(室温)における粘度が200mPa・s以下であることが望ましい。防食材17の粘度が200mPa・s以下であれば、導線13の隙間や裏側へも容易に樹脂が回り込み、隙間なく防食材17で各素線を被覆することができる。なお、防食材17が必要以上に流れ出すことを抑制するため、粘度は1mPa・s以上とする。
【0044】
図4(b)に示すように、防食材17の粘度が低いため、導線圧着部7の後端部近傍に塗布した防食材17の一部を、容易に導線圧着部7の後端部近傍の導線13に浸透させることができる(図中矢印F)。また、塗布した防食材17の他の一部は、導線圧着部7上をその先端部方向に流れて、導線圧着部7の先端部近傍の導線13に浸透させることができる(図中矢印G)。なお、各素線間に浸透した防食材17は、素線間を毛細管現象によって、長手方向の所定範囲に浸透させることができる。
【0045】
ここで、防食材17は粘度が低いため、得られる膜厚は薄くなる。例えば、防食材17は、数十μm程度である。ここで、防食材17を湿気硬化性の樹脂で構成すれば、塗布した防食材17を、大気中や端子等に付着しているわずかな水分によって迅速に硬化させることができる。特に、膜厚が薄いため、短時間で内部まで硬化を進行させることができる。このように、湿気硬化性の樹脂を用いることで、別途紫外線を照射する工程などが不要であるためより望ましい。
【0046】
このように、端子付き電線10に防食材17を塗布することで、生産工程での樹脂の塗布と硬化工程タクトを最小にすることができる。
【0047】
ここで、発明者らは、防食材17によって、導線13の全体を被覆しなくても、導線圧着部7との接触する導線13を確実に防食することができれば、所定以上の防食性能を確保できることを見出した。なお、このような効果は、径の細い端子付き電線において顕著であり、例えば、5sq以下の電線において適用可能であり、特に、3sq以下の電線において効果が大きい。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態によれば、防食材17が低粘度の樹脂であるため、導線圧着部7の先後端における導線13に防食材17を浸透させて迅速に硬化させることができる。この際、防食材17を隙間に行きわたらせるために、別途端子を加熱する必要もない。また、防食材17がシアノアクリレート樹脂などの湿気硬化性の樹脂であれば、大気中の水分と瞬時に反応して硬化させることができる。このため、紫外線が届かなかった端子内部の樹脂硬化を確実に行うことができ、端子横や裏からの水分の浸入を確実に防ぐことができる。
【0049】
また、本発明では、防食材17の塗布位置を、特に腐食のおそれの大きな導線圧着部7と導線13との接触部に特化させているため、導線13の全体を被覆する場合と比較して、防食材17の塗布量と塗布時間を削減することができる。
【0050】
なお、この場合でも、導線圧着部7の先後端から所定の範囲の導線13に防食材17が浸透しているため、導線13の一部が露出していても、必要最低限の防食性能を確保することができる。例えば、バレル間部8においては、導線13の全体を防食材17で覆う必要がないため、防食材17の塗布時間を削減することができ、また、バレル間部8においては、防食材17の塗布厚さが0.1mm以下と薄い部分があっても、必要最低限の防食性能を確保することができるため、防食材17の塗布量や硬化時間を削減することができる。
【0051】
また、防食材17を導線圧着部7の後端部近傍の1ヵ所にのみ塗布して、防食材17を導線圧着部7の先端側に流すことで導線圧着部7の先後端の所定範囲に防食材17を浸透させるため、防食材17を導線圧着部7の先後端のそれぞれに塗布する必要がない。このため、防食材17の塗布時間を短縮し、製造性に優れた端子付き電線10を得ることができる。
【0052】
なお、防食材17の塗布位置は、導線圧着部7の後端部近傍でなくてもよく、図5(a)に示すように、少なくとも、導線圧着部7の先端部近傍に防食材17を塗布してもよい(図中H)。この際、被覆導線11側(導線圧着部7の後端側)を少し下方に傾けてもよい。
【0053】
この場合でも、図5(b)に示すように、防食材17の粘度が低いため、導線圧着部7の先端部近傍の1ヵ所に塗布した防食材17の一部を導線圧着部7の先端部近傍の導線13に浸透させることができる(図中矢印I)。また、塗布した防食材17の他の一部は、導線圧着部7上をその後端部方向に流れて、導線圧着部7の後端部近傍の導線13に浸透させることができる(図中矢印J)。この場合には、流れた防食材17が端子本体3の内部に流れることも抑制することができる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明に従う端子付き電線及び比較としての端子付き電線を試作し、各試料ついて試験を行ったので以下に説明する。
【0055】
前述したように、端子に導線を圧着し、圧着部に防食材を塗布して硬化させた。この際、塗布する防食材を変えて、種々の端子付き電線を得た。なお、防食材の塗布時の粘度は、防食材の樹脂温度や種類を変えることで、10〜500mPa・sの範囲で調整した。また、導線のサイズは、0.75sqとし、圧縮率は全て60%とした。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表中の「樹脂温度」は、防食材の塗布時の温度であり、25℃は室温である。樹脂温度を上げた際には、合わせて、端子も「端子温度」に加熱した。表中の「昇温時間」は、この端子の加熱に要した時間を示す。
【0058】
防食材は、導線圧着部の後端部に塗布し、導線圧着部の先端側に流して導線圧着部の先後端近傍の導線に浸透させた。ここで、表中の「先端部塗布時間」は、導線圧着部の後端部に塗布した防食材を導線圧着部の先端部まで流すことができず、別途導線圧着部の先端部にも防食材の塗布が必要であった際における塗布時間である。すなわち、「先端部塗布時間」が0であるとは、導線圧着部の後端部に塗布した防食材を導線圧着部の先端部まで流すことができたため、導線圧着部の先端部への防食材の別途の塗布が不要であったことを示す。
【0059】
表中の「バレル間部塗布状態」は、バレル間部における防食材による導線の被覆状態を示すもので、「不完全」とは、バレル間部において導線の一部が露出していることを示す。すなわち、バレル間部においては、導線圧着部の後端部近傍のみに防食材が塗布され、例えば被覆部の先端部近傍に露出する導線の一部には防食材が塗布されていない状態である。
【0060】
表中の「腐食試験」は、6%濃度の塩水に各端子付き電線を1分浸漬し、その後60℃で乾燥した。さらに、80℃・95%湿熱条件で72時間保持した。試験前後で端子と導線との抵抗値を計測し、試験後の抵抗値が2.5mΩ以下のものを「○」とし、2.5mΩを超えるものを「×」とした。
【0061】
表1に示すように、実施例1〜実施例3は、室温における塗布時の粘度が200mPa・s以下であるため、加熱が不要であり、昇温時間は0であった。なお、実施例1〜3は、室温25℃における結果であるが、室温が20℃でも同様の結果であった。
【0062】
また、導線圧着部の後端部に塗布した後、容易に導線圧着部の先端部まで防食材を流すことができるため、先端部塗布時間も0であった。また、防食材は、導線圧着部の先後端部近傍において、導線圧着部の先端部から後方に1mm以上の範囲で素線間に浸透しており、かつ、導線圧着部の後端部から先端方向に1mm以上の範囲で素線間に浸透していた。このため、バレル間部の全体を防食材で被覆していないが、腐食試験では合格となった。なお、湿気硬化性樹脂であるシアノアクレリレートを用いた実施例1、2は、紫外線硬化樹脂であるウレタンアクリレートを用いた実施例3に対して、紫外線照射時間も削減できた。
【0063】
一方、比較例1は、粘度が高いため、防食材を十分に導線圧着部の先端側に流すことができず、別途の塗布が必要であった。このため、防食材の先端部塗布時間を要した。また、粘度が高いため、素線間に十分に防食材を浸透させることができず、腐食試験が不合格となった。
【0064】
比較例2は、樹脂を加熱したため、加熱時間を要した。また、実施例1と同様に、粘度が高いため、防食材を十分に導線圧着部の先端側に流すことができず、別途の塗布が必要であった。このため、防食材の先端部塗布時間を要した。なお、比較例2では、バレル間部を全て防食材によって0.1mm超の厚みで被覆した。このため、粘度が高く、素線間に十分に防食材を浸透させることはできなかったが、腐食試験が合格となった。
【0065】
比較例3は、比較例2と同様に、樹脂を加熱したため、加熱時間を要した。また、実施例2と同様に、粘度が高いため、防食材を十分に導線圧着部の先端側に流すことができず、別途の塗布が必要であった。このため、防食材の先端部塗布時間を要した。なお、比較例3では、素線間への防食材の浸透が不十分であるにもかかわらず、バレル間部の導線の一部を露出させたため、腐食試験が不合格となった。
【0066】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0067】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10………端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………防食材
図1
図2
図3
図4
図5