特許第6989484号(P6989484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6989484
(24)【登録日】2021年12月6日
(45)【発行日】2022年1月5日
(54)【発明の名称】試料前処理装置及び分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20211220BHJP
   G01N 31/12 20060101ALI20211220BHJP
【FI】
   G01N31/00 Y
   G01N31/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-238804(P2018-238804)
(22)【出願日】2018年12月20日
(65)【公開番号】特開2020-101416(P2020-101416A)
(43)【公開日】2020年7月2日
【審査請求日】2020年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】池上 晃平
(72)【発明者】
【氏名】平田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】平野 彰弘
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−012393(JP,A)
【文献】 特許第4560058(JP,B2)
【文献】 特開2017−150847(JP,A)
【文献】 特開平11−316220(JP,A)
【文献】 特開2009−192233(JP,A)
【文献】 特開昭63−265165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00−31/22
G01N 1/00− 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱して発生させたガスを分析して当該試料中の元素を分析する分析装置に供される前記試料を加熱することにより前処理する試料前処理装置であって、
前記試料を加熱する加熱炉と、
前記加熱炉により加熱された前記試料を落下させて導出する導出ポートと、
前記導出ポートを通過する前記試料の姿勢を規制する姿勢規制部とを備え
前記姿勢規制部が、前記試料が所定の姿勢となった状態で収容する収容部と、前記収容部の底面に形成された開口部を開閉する開閉機構とを備え、前記開閉機構により前記収容部の開口部を開けて前記試料を落下させることにより、前記導出ポートを通過する前記試料の姿勢を規制するものである試料前処理装置。
【請求項2】
前記加熱炉で加熱された前記試料を保持して冷却する冷却部をさらに備え、
前記冷却部が、前記導出ポートの上方に設けられており、前記姿勢規制部として機能する、請求項1記載の試料前処理装置。
【請求項3】
前記試料を導入する導入ポートと、
前記試料を前記加熱炉の内部及び外部の間で移動させる移動機構をさらに備え、
前記移動機構は、前記導入ポートから前記試料を受け取る試料受け部と、前記試料受け部を移動させるアクチュエータと、前記試料受け部及び前記アクチュエータを連結する連結部とを有する、請求項1又は2に記載の試料前処理装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記試料の姿勢を維持したまま前記加熱炉の内部及び外部の間で移動させる、請求項記載の試料前処理装置。
【請求項5】
前記加熱炉は、側壁に形成された開口部から水平方向に延びる加熱空間を有するものであり、
前記アクチュエータは、前記試料受け部を水平方向に移動させるものであり、前記加熱炉に対して水平方向に直交する周囲側の設けられている、請求項3又は4記載の試料前処理装置。
【請求項6】
前記試料受け部は、黒鉛から構成されている、請求項3乃至5の何れか一項に記載の試料前処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の試料前処理装置と、
前記試料前処理装置により前処理された試料を分析する分析装置とを備える分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄鋼や非鉄金属、セラミックス等の試料を加熱して前処理する試料前処理装置、及び当該試料前処理装置を用いた分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼や非鉄金属、セラミックス等の試料中に含まれる酸素濃度を測定する方法としては、加熱炉内に試料を入れた黒鉛るつぼを配置し、不活性ガスを供給しながら試料を加熱融解し、そのとき発生する一酸化炭素または二酸化炭素を例えば赤外線ガス分析計において分析するものがある。
【0003】
ところで、試料中に含まれる酸素を精度よく検出するためには、試料の表面に付着している油分や汚れなど(以下、付着物という)や酸化膜を予め除去する必要がある。そして、試料の表面に付着している付着物を除去するためには、加熱するなどの手段によって前処理が行われている。
【0004】
ここで、試料を加熱して前処理する機能を有する酸素含有分析装置として、特許文献1に示すように、試料を収容する黒鉛るつぼを有する分析炉と、当該分析炉の上部に設けられて、試料をその融点以下の温度に加熱してその表面の酸化膜を予備還元する予備還元炉とを備えたものが考えられている。そして、この装置では、予備還元炉で前処理された試料を分析炉の内に落下させることによって、黒鉛るつぼに試料を供給するように構成されている。
【0005】
しかしながら、上記の構成は、予備還元炉から試料を単に落下させるだけであり、落下途中の試料の姿勢が定まらない。そうすると、試料が黒鉛るつぼに供給される前に、予備還元炉及び分析炉を繋ぐ連通路や分析炉の内部通路に引っ掛かってしまう場合がある。この問題は、板状の試料や柱状の試料の場合に特に顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4560058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、試料前処理装置から分析装置に試料を安定して供給できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る試料前処理装置は、分析装置により分析される試料を加熱することにより前処理する試料前処理装置であって、前記試料を加熱する加熱炉と、前記加熱炉により加熱された前記試料を落下させて導出する導出ポートと、前記導出ポートを通過する前記試料の姿勢を規制する姿勢規制部とを備えることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、導出ポートを通過する試料の姿勢を規制する姿勢規制部を有しているので、試料前処理装置から分析装置に供給される際に試料が引っ掛かりにくくなり、安定して供給できるようになる。
【0010】
加熱された試料をそのまま分析装置に供給すると、分析装置の試料導入ポートやその周辺部品が熱により破損する恐れがある。この問題を解決するためには、試料前処理装置は、前記加熱炉で加熱された前記試料を保持して冷却する冷却部をさらに備えることが望ましい。この構成であれば、加熱して前処理した試料を素早く冷却して分析装置に供給できる。このとき、前記冷却部が、前記導出ポートの上方に設けられており、前記姿勢規制部として機能するものであれば、装置構成を簡略化することができる。
【0011】
冷却部の具体的な実施の態様としては、前記冷却部は、前記試料が所定の姿勢となった状態で収容する収容部と、前記収容部の底面に形成された開口部を開閉する開閉機構とを備えている。そして、前記開閉機構により前記収容部の開口部を開けて前記試料を落下させることにより、前記試料は前記収容部に収容されている姿勢を保ちながら落下することになる。これにより、前記冷却部は、前記導出ポートを通過する前記試料の姿勢を規制することになる。
【0012】
さらに、試料前処理装置は、前記試料を導入する導入ポートと、前記試料を前記加熱炉の内部及び外部の間で移動させる移動機構をさらに備え、前記移動機構は、前記導入ポートから前記試料を受け取る試料受け部と、前記試料受け部を移動させるアクチュエータと、前記試料受け部及び前記アクチュエータを連結する連結部とを有することが望ましい。この構成であれば、試料を導入ポートから導入することにより、その後の試料の移動は、移動機構により自動的に行うことができる。また、アクチュエータを用いて移動機構を構成しているので、移動機構の構成を簡単にすることができる。
【0013】
移動機構の構成を簡単にするためには、前記移動機構は、前記試料の姿勢を維持したまま前記加熱炉の内部及び外部の間で移動させることが望ましい。この構成であれば、移動途中で試料の姿勢を変更するような複雑な機構を必要とせず、例えば、導出ポートを通過するときの姿勢で移動させるようにすることで装置構成を簡単にすることができる。ここで、導入ポートから試料を導入する段階で、導出ポートを通過するときの姿勢にしておくことで、導入ポートから導出ポートに至るまで試料の姿勢をほぼ同一にすることができる。
【0014】
加熱炉の具体的な実施の態様としては、前記加熱炉は、側壁に形成された開口部から水平方向に延びる加熱空間を有するものであることが考えられる。この場合、前記アクチュエータは、前記試料受け部を水平方向に移動させるものとなる。この構成において、試料前処理装置のフットプリントを小さくするためには、アクチュエータは、前記加熱炉に対して水平方向に直交する周囲側の設けられていることが望ましい。このとき、連結部は、試料受け部とアクチュエータとの間で概略コの字状に折れ曲がった形状となる。
【0015】
また、本発明に係る分析システムは、上述した試料前処理装置と、前記試料前処理装置により前処理された試料を分析する分析装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べた本発明によれば、導出ポートを通過する試料の姿勢を規制する姿勢規制部を有しているので、試料前処理装置から分析装置に試料を安定して供給できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の分析システムの構成を模式的に示す図である。
図2】同実施形態の試料受け部及び収容部の平面図である。
図3】同実施形態の導入工程を示す図である。
図4】同実施形態の加熱工程を示す図である。
図5】同実施形態の冷却工程を示す図である。
図6】同実施形態の導出工程を示す図である。
図7】変形実施形態の試料前処理装置の構成を示す模式図である。
図8】変形実施形態の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る分析システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<装置構成>
本実施形態の分析システム100は、例えば、鉄鋼や非鉄金属、セラミックス等の試料Wを加熱して還元させ、それによって生じたガスに含まれる当該試料W中のO、N、H等の元素を分析するものである。本実施形態の試料Wは、例えば、矩形平板等の板状又は円柱状等の柱状をなすものである。
【0020】
具体的に分析システム100は、図1に示すように、試料Wの表面に付着している付着物や酸化膜を予め除去する試料前処理装置2と、試料前処理装置2により前処理された試料Wを分析する分析装置3とを備えている。なお、試料前処理装置2は、分析装置3の上部に設けられており、分析装置3の上部に設けられた試料導入ポート3Pから前処理した試料Wを導入する。
【0021】
まず、分析装置3の構成について説明する。
【0022】
分析装置3は、図1に示すように、試料Wが収容される黒鉛るつぼCが配置される分析炉31と、分析炉31で加熱されて燃焼した試料Wから生じるガスを分析するガス分析計32とを備えている。
【0023】
分析炉31は、その内部で、試料Wが収容されていない黒鉛るつぼCを空焼きしたり、試料Wが収容された黒鉛るつぼCを加熱し、試料Wを加熱してガスを発生させるものである。
【0024】
具体的に分析炉31は、黒鉛るつぼCを通電加熱するための上部電極31aと下部電極31bとを備えている。この上部電極31a及び下部電極31bで黒鉛るつぼCを上下から挟み込んで保持し、上部電極31a及び下部電極31bに電圧を印加することによって、黒鉛るつぼCを通電加熱して、その中にある試料Wを加熱する。上部電極31aには、試料Wを導入するための試料導入路31c及び試料Wから発生するガスをガス分析計32に導出するためのガス導出路31dが形成されている。試料導入路31cは黒鉛るつぼCの上部開口に連通している。また、試料導入路31cは、分析炉31の上部に設けられた分析装置3の試料導入ポート3Pに接続されている。
【0025】
ガス分析計32は、分析炉31で生じたガスを分析して、試料Wに含まれる各成分の含有量を求めるものである。本実施形態では、例えば、非分散型赤外線吸収法(NDIR法)を用いて分析するものである。具体的にこのガス分析計32は、図示しない非分散型赤外線検出器を有しており、分析炉31から導出されたガスに含まれるCO、CO等を検出することで、試料Wに含まれる酸素(O)等の含有量を求めるものである。
【0026】
次に、試料前処理装置2について説明する。
【0027】
試料前処理装置2は、図1に示すように、試料Wが導入される導入ポート2P1と、導入ポート2P1から導入された試料Wを加熱する加熱炉4と、加熱炉4で加熱された試料Wを保持して冷却する冷却部5と、試料Wを加熱炉4の内部及び外部の間で移動させる移動機構6と、冷却部5で冷却された試料Wを導出する導出ポート2P2とを備えている。
【0028】
導入ポート2P1は、加熱炉4の開口部4H及び冷却部5を覆う筐体7に設けられている。当該筐体7内には、不活性ガス供給部71からヘリウムガスやアルゴンガス等の不活性ガスが供給されて、当該不活性ガスにより満たされる。
【0029】
加熱炉4は、側壁に形成された開口部4Hから水平方向に延びる加熱空間4Sを有し、当該加熱空間4Sで試料Wを加熱するものであり、試料Wが出し入れされる炉本体41と、当該炉本体41の周囲に設けられて炉本体41を加熱する電気抵抗体42と、当該電気抵抗体42に電力を供給して通電発熱させる電源回路(不図示)とを備えている。
【0030】
炉本体41は、例えば筒状のセラミック成形体であり、内部に試料Wを収容可能な加熱空間4Sを有するものである。ここでは、炉本体41は、石英管により構成されている。炉本体41の一方の端部は開口部4Hに連通している。また、炉本体41の他方の端部には、後述する移動機構6の連結部63(第1アーム部631)が差し込まれている。さらに、炉本体41の下壁部は、開口部4Hよりも前方に延び出ており、加熱炉4の前方に設けられた冷却部5まで延びている。
【0031】
冷却部5は、導出ポート2P2の上方に設けられており、導出ポート2P2を通過する試料Wの姿勢を規制する姿勢規制部PRとして機能するものである。
【0032】
具体的に冷却部5は、試料Wが所定の姿勢となった状態で収容する収容部51と、収容部51の底面に形成された開口部51Hを開閉する開閉機構52とを備えている。
【0033】
収容部51は、姿勢規制部PRとなるものであり、本実施形態では、矩形板状等の試料Wを想定していることから、当該試料Wの長手方向が上下方向を向くように起立した状態となるように保持する。この収容部51の収容空間51Sは、図2(a)に示すように、横方向断面において矩形状の空間であり、その短手方向の寸法が、試料Wの板厚よりも若干大きく、その長手方向の寸法が、試料Wの幅寸法よりも若干大きくなるように構成されている。なお、収容部51は、例えばステンレス鋼から構成されている。
【0034】
また、収容部51には、収容した試料Wを冷却し易くするために、その側壁に1又は複数の通気孔511が形成されている。このように収容部51に通気口511を形成することにより、試料Wまで確実に不活性ガスを行き渡らせることができる。その結果、試料Wを確実に不活性ガス雰囲気下にすることができるので、試料Wが再度酸化することを防止できる。
【0035】
また、開閉機構52は、収容部51の底面に形成された開口部51Hを開閉するものであるが、当該開口部51Hは、収容部51の収容空間51Sの横方向断面における断面形状と同一である。これにより、開閉機構52により開口部51Hを開けることによって、試料Wは、開口部51Hに引っかかること無く落下する。本実施形態の開閉機構52は、開口部51Hを閉塞するシャッタ部材521と、当該シャッタ部材521を移動させるアクチュエータ522とを有する。ここでアクチュエータ522は、モータ及びボールねじ機構を用いた構成又はシリンダ装置を用いた構成等とすることが考えられる。そして、このアクチュエータ522によって、シャッタ部材521は、開口部51Hを閉塞する閉塞位置X(図1参照)と、開口部51Hを開放する開放位置Y(図6参照)との間で移動する。
【0036】
このような冷却部5によって、開閉機構52が収容部51の開口部51Hを開放すると、試料Wが開口部51Hから下方に落下する。このとき、試料Wは、収容部51の収容空間51Sを形成する内面により姿勢が規制されており、導出ポート2P2を通過する試料Wの姿勢が規制されることになる。
【0037】
導出ポート2P2は、収容部51の開口部51Hの直下に形成したものであってもよいし、収容部51の開口部51Hを導出ポート2P2としてもよい。
【0038】
移動機構6は、導入ポート2P1から導入された試料Wを加熱炉4に移動させるとともに、その後、冷却部5に移動させるものである。
【0039】
具体的に移動機構6は、導入ポート2P1から試料Wを受け取る試料受け部61と、試料受け部61を移動させるアクチュエータ62と、試料受け部61及びアクチュエータ62を連結する連結部63とを有している。
【0040】
試料受け部61は、導入ポート2P1から導入された試料Wを受け取り、試料Wを移動させる際に当該試料Wを保持するものである。この試料受け部61は、試料Wを保持する保持空間61Sを有しており、その構成は、上記の収容部51と同様に、試料の長手方向が上下方向を向くように起立した状態となるように保持する。この保持空間61Sは、図2(b)に示すように、横方向断面において矩形状の空間であり、その短手方向の寸法が、試料Wの板厚よりも若干大きく、その長手方向の寸法が、試料Wの幅寸法よりも若干大きくなるように構成されている。この試料受け部61には、導入ポート2P1から導入された試料Wを受け取りやすくするために、その上面には、傾斜ガイド面611が形成されており、保持空間61Hの上部開口が拡開するようにしてある。
【0041】
本実施形態の試料受け部61は、黒鉛から構成されており、加熱炉4内における試料Wの還元反応を試料受け部61自体によって促進する構成としてある。なお、試料受け部61を黒鉛から構成しない場合には、加熱炉4内に還元反応を促進するための黒鉛を配置する、あるいは、試料受け部61に別途黒鉛を設けることが考えられる。
【0042】
アクチュエータ62は、試料受け部61を、(1)導入ポート2P1から試料Wを受け取る受け取り位置P(図3参照)と、(2)加熱炉4内に設定された加熱位置Q(図4参照)、(3)冷却部5に試料Wを受け渡す受け渡し位置R(図5参照)との間で直線的にスライド移動させるものである。アクチュエータ62は、モータ及びボールねじ機構を用いた構成又はシリンダ装置を用いた構成等とすることが考えられる。
【0043】
このアクチュエータ62は、図1に示すように、加熱炉4に対して水平方向に直交する周囲側に設けられている。本実施形態では、アクチュエータ62が加熱炉4の上に設けられた例を示しているが、加熱炉4の下に設けられてもよいし、加熱炉4の横に並設しても良い。
【0044】
そして、試料受け部61とアクチュエータ62とを連結する連結部63は、図1に示すように、加熱炉4内に挿入される試料受け部61側の第1アーム部631と、加熱炉4内に挿入されないアクチュエータ62側の第2アーム部632と、それらを接続する接続アーム633とを備えている。ここで、第1アーム部631は、加熱炉4内に挿入されるため例えば石英などの耐熱性部材により構成されている。また、第1アーム部631に対して試料受け部61は着脱可能とされており、これにより、試料受け部61が消耗した場合に交換することができるし、試料Wのサイズや形状に合った試料受け部61に取り換えることができる。
【0045】
次に、試料前処理装置2の動作について図3図6を参照して説明する。
【0046】
(1)導入工程(図3参照)
図示しない制御部により移動機構6を制御して、試料受け部61を受け取り位置Pに移動させる。この状態で、ユーザ又は搬送ハンドにより導入ポート2P1から試料Wを導入(投入)する。なお、この状態において、筐体7内には、不活性ガスが満たされている。
【0047】
(2)加熱工程(図4参照)
試料受け部61が試料Wを受け取った後に、移動機構6により試料受け部61を加熱位置Qに移動させる。これにより、試料Wが加熱位置Qで加熱されて、試料Wの表面の付着物や酸化膜が除去される。なお、加熱条件としては、例えば1000℃で1分間である。
【0048】
(3)冷却工程(図5参照)
試料を加熱した後に、移動機構6により試料受け部61を受け渡し位置Rに移動させる。試料受け部61を受け渡し位置Rに移動させると、試料受け部61と冷却部5の収容部51とが上下に同一直線上に並んだ状態となる。つまり、試料受け部61の保持空間と収容部51の収容空間とが上下に連通した状態となる。これにより、試料受け部61から試料Wが収容部51に向かってその姿勢が変わることなく落下する。これにより、冷却部5において試料Wが冷却される。このとき、筐体7内に供給される不活性ガスによっても試料Wの冷却が促進される。また、試料Wを受け渡した後の試料受け部61は加熱炉4の加熱位置Qに移動されて、次の導入工程まで加熱される。
【0049】
(4)導出工程(図6参照)
冷却開始から所定時間(例えば1分)経過後、制御部により冷却部5のアクチュエータ522を制御して、冷却部5のシャッタ部材521を閉塞位置Xから開放位置Yに移動させる。これにより、試料Wは、冷却部5の収容部51から導出ポート2P2に落下して、分析装置3の導入ポート2P1に導入される。このとき、試料Wは、収容部51の収容空間51Sを形成する内面により姿勢が規制されており、導出ポート2P2(分析装置3の試料導入ポート3P)を通過する試料Wの姿勢が規制されることになる。
【0050】
<本実施形態の効果>
本実施形態の分析システム100によれば、導出ポート2P2を通過する試料Wの姿勢を規制する姿勢規制部PRを有しているので、試料前処理装置2から分析装置3に供給される際に試料Wが引っ掛かりにくくなり、安定して供給できるようになる。
【0051】
また、冷却部5により加熱された試料Wを冷却しているので、前処理した試料Wを素早く冷却して分析装置3に供給できるようになる。これにより分析装置3の試料導入ポート3Pやその周辺部品が熱により破損することを防止できる。ここで、冷却部5が姿勢規制部PRとして機能しているので、装置構成を簡略化することができる。
【0052】
さらに、移動機構6が導入ポート2P1から試料を受け取る試料受け部61と、試料受け部61を移動させるアクチュエータ62と、試料受け部61及びアクチュエータ62を連結する連結部63とを有するので、試料Wを導入ポート2P1から導入することにより、その後の試料の移動は、移動機構6により自動的に行うことができる。また、アクチュエータ62を用いて移動機構6を構成しているので、移動機構6の構成を簡単にすることができる。
【0053】
その上、移動機構6は、試料Wの姿勢を維持したまま加熱炉4の内部及び外部の間で移動させるので、移動途中で試料Wの姿勢を変更するような複雑な機構を必要とせず、例えば、導出ポート2P2を通過するときの姿勢で移動させるようにすることで装置構成を簡単にすることができる。ここで、導入ポート2P1から試料Wを導入する段階で、導出ポート2P2を通過するときの姿勢にしておくことで、導入ポート2P1から導出ポート2P2に至るまで試料Wの姿勢をほぼ同一にすることができる。
【0054】
また、アクチュエータ62を加熱炉4の上方に設けているので、試料前処理装置2のフットプリントを小さくすることができ、更には、分析システム100のフットプリントを小さくすることができる。
【0055】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0056】
例えば、前記実施形態では冷却部5により姿勢規制部を構成していたが、冷却部5と導出ポート2P2との間に試料Wの姿勢を維持する通路を設けるなどにより姿勢規制部PRを構成してもよい。
【0057】
また、前記実施形態では加熱炉4の前方に冷却部5を設ける構成としたが、冷却部5を設けなくてもよい。この場合、加熱された試料Wを冷却する場合には、試料受け部61に保持された状態で加熱炉4の前に試料受け部61を位置させて所定時間待ってもよい。このとき、試料受け部61が姿勢規制部PRとして機能することになる。
【0058】
さらに、前記実施形態では、移動機構6は試料Wの姿勢を維持したまま移動させる構成であったが、移動の途中で試料Wの姿勢を変更するものであってもよい。この場合であっても、導出ポート2P2を通過する際には、例えば冷却部5等から構成される姿勢規制部PRにより姿勢が規制される。
【0059】
前記実施形態の冷却部5は、収容部51を固定して、シャッタ部材521を移動させることによって収容部51の開口部51Hが開閉する構成であったが、シャッタ部材521を固定して、収容部51を移動させることによって開口部51Hを開閉する構成であっても良い。
【0060】
加えて、試料前処理装置は、図7に示す構成であってもよい。
【0061】
図7に示す試料前処理装置2は、導入ポート2P1及び導出ポート2P2を有し、重力によって試料Wが移動する試料移動管8と、当該試料移動管8における導入ポート2P1及び導出ポート2P2の間の所定箇所を加熱する加熱機構9と、試料移動管8の前記所定箇所に自重により移動する試料Wを留めるストッパ機構10とを備えている。
【0062】
試料移動管8は、直管状をなす例えば石英管であり、傾斜して設けられている。そして、その上端開口が導入ポート2P1となり、下端開口が導出ポート2P2となる。また、導出ポート2P2からは導入ポート2P1に向かって不活性ガスが導入される。
【0063】
加熱機構9は、試料移動管8の所定箇所を取り囲むように設けられており、試料移動管8の周囲に設けられた電気抵抗体91と、当該電気抵抗体91に電力を供給して通電発熱させる電源回路(不図示)とを有する。これにより、加熱機構9により加熱される試料移動管の所定箇所が加熱炉4となる。なお、試料移動管8の所定箇所には、黒鉛が設けられている。ここでは、試料移動管8の一部を黒鉛管81により構成することにより、所定箇所に黒鉛を設ける構成としている。
【0064】
そして、ストッパ機構10は、試料移動管8の所定箇所に試料Wが留まるように試料移動管8の一部を仕切る第1ストッパ板101と、試料移動管を回転させることにより、第1ストッパ板101を上下反転させる回転部102とを有する。回転部102は、モータ及びベルトにより試料移動管8を回転させる構成としてある。
【0065】
第1ストッパ板101は、試料移動管8の内部に設けられており、試料Wが通過可能な空間を残しつつ試料移動管8の内部を仕切るものである。また、図7には、第1ストッパ板101の導入ポート2P1側に、加熱前の試料Wを待機させる第2ストッパ板103が設けられており、第1ストッパ板101の導出ポート2P2側に、加熱後の試料Wを冷却させるために留める第3ストッパ板104が設けられている。第2ストッパ板103及び第3ストッパ板104は、第1ストッパ板101とは反転した位置に設けられており、試料Wが通過可能な空間を残しつつ試料移動管8の内部を仕切るものである。なお、第2ストッパ板103及び第3ストッパ板104を設けない構成としてもよい。
【0066】
次に、試料前処理装置2の動作について図8を参照して説明する。
【0067】
(1)導入工程
図示しない制御部によりストッパ機構10の回転部102を制御して、第1ストッパ板101が上側に位置し、第2ストッパ板103が下側に位置するようにする。この状態において、試料移動管8の所定箇所(黒鉛管81)は加熱機構9により所定温度に加熱されている。そして、試料移動管8の導入ポート2P1から試料Wを導入する。そうすると、試料Wは試料移動管8を自重により滑り落ちて第2ストッパ板103に到達して留まり、待機した状態となる。
【0068】
(2)加熱工程
第2ストッパ板103により試料Wが待機している状態で、ストッパ機構10の回転部102により、試料移動管8を所定角度(例えば180°)回転させると、第2ストッパ板103が上側に位置し、第1ストッパ板101が下側に位置する。このとき、第2ストッパ板103にある試料Wの停止が解除され、試料Wは試料移動管8を自重により滑り落ちて第1ストッパ板101に到達して留まる。この第1ストッパ板101に留まった状態で試料Wが加熱され、試料Wの表面の付着物や酸化膜が除去される。
【0069】
(3)冷却工程
加熱工程が終了した後に、ストッパ機構10の回転部102により、試料移動管8を所定角度(例えば180°)回転させると、第1ストッパ板101が上側に位置し、第3ストッパ板104が下側に位置する。このとき、第1ストッパ板101にある試料Wの停止が解除され、試料Wは試料移動管8を自重により滑り落ちて第3ストッパ板104に到達して留まる。この第3ストッパ板104に留まった状態で試料Wが冷却される。
【0070】
(4)導出工程
冷却工程が終了した後に、ストッパ機構10の回転部102により、試料移動管8を所定角度(例えば180°)回転させると、第3ストッパ板104が上側に位置する。このとき、第3ストッパ板104にある試料Wの停止が解除され、試料Wは試料移動管8を自重により滑り落ちて導出ポート2P2から導出される。
【0071】
この試料前処理装置2によれば、前処理された試料Wが試料移動管8を滑りながら移動するので、導出ポート2P2を通過する際の試料Wの姿勢が試料移動管8により規制されることになる。その結果、試料前処理装置2から分析装置3に供給される際に試料Wが引っ掛かりにくくなり、安定して供給できるようになる。
【0072】
前記実施形態では、黒鉛るつぼに試料を収容して試料を加熱溶融するものであったが、その他の加熱方式であってもよい。
【0073】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0074】
100・・・分析システム
W ・・・試料
2 ・・・試料前処理装置
3 ・・・分析装置(元素分析装置)
2P1・・・導入ポート
2P2・・・導出ポート
4 ・・・加熱炉
4H ・・・開口部
PR ・・・姿勢規制部
5 ・・・冷却部
52 ・・・開閉機構
6 ・・・移動機構
61 ・・・試料受け部
62 ・・・アクチュエータ
63 ・・・連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8